「提督?と夕雲」
新しく着任した提督と秘書艦として提督を支えようと取り組む夕雲であるが・・・
キャラ紹介、
提督:鎮守府に着任している提督、その割に知識が皆無であり何か理由があるようで・・・
夕雲:新米提督の秘書艦を受け持つ夕雲型の長女だが、何故か作業効率が悪い?
元帥:ある鎮守府の最高階級である提督、秘書艦に海風を控えている。
海風:元帥提督の秘書艦を受け持つ改白露型の女の子。
憲兵:鎮守府で働く若者、不幸にも自身の働く鎮守府で深海棲艦の奇襲を受け壊滅的被害に遭う。
「提督、書類を置いておきますね。」
秘書艦である夕雲が今日の分の書類を机に置く。
「・・・」
提督は何故か返事をしない、それどころか苛立っている様でずっと指を噛んでいる。
「提督どうしました? 何か困った事でも?」
夕雲の質問に、
「! い、いや。 別に何でもないよ。」
すぐに表情を和らげて笑顔に戻る提督。
「それならいいのですが。」
夕雲はそれ以上の詮索をせず、執務室から去る。
「・・・くそっ!」
夕雲が去るなり、机に置いてあるペンを壁に投げつける。
「こんなはずじゃ・・・こんなはずじゃなかった!!」
提督は拳をわなわなと震わせ、ただ「ふざけんなぁ!」と言い放つ。
・・・
遡る事数カ月前、
ある鎮守府で1人の若者が憲兵として働いていた。
「いいよなぁ~提督って身分はよぉ~。」
毎日作業をしながら提督を見る若い憲兵、
「夜になったら好きな女の子とイチャイチャ出来るし、それに比べオレみたいな一端の憲兵には
何の待遇も無いしなぁ。」
不満を漏らしつつも、作業を続ける若い憲兵。
憲兵の主な作業は、鎮守府内の見張りを始め艦娘たちが海に出る時の艤装の装着の手助け等、
多種多様な作業をこなしている。
鎮守府に長く在住している先輩の憲兵たちの輪の中にその若い憲兵がいた。
元々勉学に自信が無く、事務より現場が合っていた彼は憲兵としてこの鎮守府に就任したのだが、
思っていた以上に仕事量が多く、その割に給料が安くて毎日のように不満を漏らしていた。
「提督は艦娘って言うんだっけ? 女の子達とイチャイチャしていいのに、憲兵にはその権利は無いんだって?
何と不公平な待遇だよなぁ。」
いつものように、作業をしつつ提督が廊下を歩いて行く姿を見る若い憲兵。
「提督って、椅子に座ってただ艦娘たちの指揮を執って書類整理をするだけだろ?
しかも、その程度の仕事量でオレより数倍給料が高いって・・・本当いいよなぁ~。」
愚痴をこぼしているように見えるが、実際は提督と言う職が羨ましくて仕方がない若い憲兵。
「でも仕方ない。オレはバカだしこの頭ではもっと割のいい職場なんて見つからない。
こうして現場作業位の仕事しか無いが・・・可愛い女の子達を見れるだけ良しとするか。」
そう思いつつ、再び作業に戻る若い憲兵。
しかし、それから数日後に事件が起こる。
・・・
その日は鎮守府提督と別の鎮守府の提督が会議だろうか、お互いに顔を合わせていた。
「見た感じお偉い上官様だな、階級は・・・大将!? ここの提督より遥かに上じゃん!」
確かに、階級が下であろう自分の提督は、まるで媚びを売るかのような言動で大将に言い寄っている。
「大将となると、給料も断然高いし・・・ほんといいよなぁ~提督と言う身分はなぁ。」
2人を見てまたも愚痴をこぼす若い憲兵・・・その直後、
報告! 深海棲艦が近海に出現! 繰り返す、深海棲艦が出現!!
突然の警報音、深海棲艦が奇襲して来たとの情報、すぐに迎撃のため艦娘たちが準備に取り掛かる。
「やばい! 作業を止めてどこか安全な場所に!」
若い憲兵は工具を捨てて、安全な場所へ移動しようとした瞬間、
「!? うわあぁぁぁぁっ!!!!」
深海棲艦の攻撃だろうか、天井が突然爆発し崩れた残骸が若い憲兵に降り注いだ。
・・・
・・
・
「う、う~ん・・・」
瓦礫の中で1人、若い憲兵が目を覚ます。
「・・・」
辺りを見回すと、あるはずの鎮守府が無い。
「そうか・・・敵の奇襲で鎮守府は壊滅してしまったのか。」
周りを見ると、元は鎮守府であろう建物の残骸が、佇んでいる。
「先輩らはどうしてる? 無事だといいんだけど。」
奇跡的に軽傷で済んだ若い憲兵は足を引きずりながら辺りを捜索する。
「!? て、提督殿!?」
若い憲兵が真っ先に見た光景、それは自分の提督と別の鎮守府の提督が瓦礫に押しつぶされた姿。
「しっかりしてください、提督殿! しっかり・・・」
何度も2人を揺すって見るも、既に息は無かった。
「くっ・・・」
2人の近くには大きめのケースと中には、大量の札束が入っている・・・何かの賄賂なのだろうか?
「オレの所の提督が大将に金で媚び売っていたって所か? そんな金があるならもっとオレたちに払ってくれても・・・」
そう思いつつ、もう一度2人を見直す若い憲兵。
「・・・」
自分の提督はそのまま息絶えているが、大将の提督の方は・・・遺体の損傷はかなり酷く、
特に酷いのは顔で、誰なのか判別出来ない程に瓦礫で潰れている。
「・・・」
若い憲兵は周囲を見渡す、この場にいるのは2人の提督の死体と自分だけ。
「・・・」
若い憲兵は何を思ったのか、大将の司令服を死体から剥ぎ取り、側にあったケースを取り出す。
「あんたらには何の恨みも無いが、オレにも生活があるんでね・・・」
それだけ言って、司令服に着替えケースを持ってそそくさとその場を去る。
・・・
「よし、ここまでは順調。 後は艦娘たちに気付かれなければ・・・」
大将のいた鎮守府に佇む人間、それはあの時の若い憲兵だった。
「すぅー、はぁー。 よし、行くぞ!」
深呼吸をして鎮守府に入って行く。
あの後、若い憲兵はケースを持ってある病院へと足を踏み入れる、そこは”大金さえ払えば秘密も手術も文句なしで受けられる”
闇病院である。
「ほれ、あんたの希望通りの顔に整形出来たぞ!」
手術は無事に成功、約1週間顔を包帯で巻き、遂に外す許可が得られる。
「・・・おお、完璧だ! 流石闇医者だ、言う事無いよ!」
鏡を覗いて顔を見回して満足する。
若い憲兵が整形した顔は・・・あの時、自分の鎮守府に赴いた大将の顔である。
「約束通り、金は貰うからな。」
若い憲兵の望みを叶え、一生の秘密を約束する条件としてケース内の大金を全て持って行く。
「よし、ここまで来たからには実行しないと!」
そう言って、闇病院を後にする若い憲兵。
・・・
若い憲兵が計画した事、
それは、”死んだ大将に成りすまして、鎮守府で生活して行く”と言う計画だ。
鎮守府が奇襲を受けた事は軍事新聞に既に公表されているが、”大将の安否は不明”と書かれたままで、
死んだと発表されていない・・・それに若い憲兵は目を付けたのだ。
「鎮守府に入ったのはいいけど・・・誰もいないのか?」
そう思いつつ、廊下を歩いて行くと、
「!? 提督、ご無事だったのですね!」
1人の艦娘らしき女の子が近づいてくる。
「あ、ああ・・・オレも死ぬかとマジで思ったよ。」
思わずいつもの口調で話してしまい、
「まずい、成りすました事がバレたか!?」
と、すぐに口を閉じるも、
「本当に! 心配したんですよ提督!」
気付いていない・・・艦娘はただ自分が無事だった事に喜んでいた。
「・・・心配を掛けたな、この通りオレは無事に戻って来たから問題ないよ。」
と、言葉を返す。
「良かった・・・長旅でしょうからお腹が空いていますよね? い、今から食事の用意をしますね。」
そう言って、艦娘は食堂へと歩いて行く。
「ふぅ、何とかオレが別人だって事は気づいていないようだ。」
若い憲兵(以降提督)はほっとしたと同時に、
「ケース内にあれだけ大金を仕込んでいたんだ・・・さぞかし最優遇で給料も高いし、楽な仕事なんだろうなぁ。」
偶然とはいえ、大将に成りすませた事に「運が良かった」と解釈する提督。
「よし、これで肉体作業も徹夜もサービス残業からもおさらばだ! これからは楽して金を稼ぐぞ!」
提督はこれからの生活に胸を躍らせる。
しかし、提督の考えた計画が翌日、見事に崩れ去る事はこの時本人には知る由も無かった。
・・・
「何だって!? 艦娘たちが全員いない!?」
艦娘から聞かされた思わぬ報告。
「はい・・・大将が別の鎮守府に向かった直後の奇襲です、たくさんの人と艦娘たちが犠牲になったと聞いています。
恐らく大将も駄目だと・・・皆は諦めて別の鎮守府へと異動になりました。」
「・・・」
「私だけ、私だけが提督の帰りを待っていて・・・待ち続けた甲斐があってやっと、やっと帰って来てくれました。」
そう言って、嬉しさのあまり涙を流す艦娘。
「おいおい、オレは無事だって言ってるだろ? 君は本当に泣き虫だなぁ。」
提督は彼女の事を「君」と呼ぶ、当然であるが憲兵の彼には艦娘の名前など分かるはずがない。
「もうっ、きちんと名前で言ってください! 私は夕雲です、夕雲型1番艦の夕雲ですよ!」
幸運にも彼女の方から名乗ってくれて提督は安心する。
「そうか、ではこれから頼むよ、夕雲!」
そう言って、夕雲に挨拶をする提督。
「まずは艦娘たちを集めないと行けないのかぁ~・・・」
てっきり艦娘たちに指示をするだけで楽な作業と思っていた提督にとって、「面倒くさい」と愚痴をこぼすが、
更に夕雲の口から放たれた残酷な一言が、
「何だって・・・鎮守府の資金が底を尽いてる!?」
本来の目的である、大将としての給料及び資金が底を尽いている事を知った提督。
「何を驚いているのですか? 別の鎮守府へ行って、他の提督から資金の援助を求めに行ったはずですよね?」
「・・・」
夕雲の意見を聞いて提督ははっとする。
”じゃ、じゃああの時のケースに入っていた大金は・・・ここの大将殿が生活するためにオレの提督に
金の無心をしていたって事か!?”
夕雲に聞こえない程の小声で確信する提督。
「それと、本営からの報告が届いています。」
そう言って、夕雲は送られてきた報告書を読み上げる。
「大将殿・・・貴君の数々の虚偽の戦果報告、そして多数の資金の踏み倒し! 最早言い逃れは出来ない物とする!
よって厳重処分とし、今日付で”大将から大佐”に降格とする! と。」
提督は知らなかったが、実はここの大将・・・金遣いが荒く毎日のようにギャンブルを行い、艦娘たちへ支払うはずの給料、
鎮守府を維持するための資金を使い込んでいたことが発覚、金が無くなる度に階級が下の複数の提督から金を無心しては、
何度も踏み倒していた様で、その結果艦娘たちの大半が愛想を尽かして辞職し、焦った大将は本営に虚偽の戦果を報告するものの、
すぐに発覚し、挙句に金を踏み倒された複数の提督からの訴えで本営は降格処分に踏み切ったのだ。
「じゃ、じゃあオレがあの金を全部使って大将に成りすましたのは全て・・・無駄に終わったって事!?」
結果を言えばそうなるが、
「ふ、ふざけんな! オレはただ大将の肩書きと金が欲しかっただけだ! こんな借金まみれと人間失格の烙印を
押されてたまるかぁ!!」
提督は何度も悔やむが、そもそも楽に稼ぐために別人に成りすました彼にも問題はあると思われるが・・・
結果論を言えば、”大将が死んだ”で終わられておけば良かったのかもしれない。
「いや、大将の事だ・・・どこかに金を隠しているかもしれない、それを見つけてオレはここから出て行く!」
そう言って、提督は鎮守府内をくまなく探し回る。
・・・
しかし、提督にとって1つの障害がある・・・それは、この鎮守府にいる夕雲の存在だ。
提督が各部屋を物色しようとする度に、
「提督、この部屋は艦娘が使う部屋よ、紳士なる者、そう行った行為は望ましくないですよ?」
鎮守府に残り、秘書艦を受け持つ夕雲に毎度止められてしまう提督。
「いや、探し物があってだな。」
咄嗟に言い訳をするものの、
「・・・恐らく提督の探している物はこの部屋には無いと思いますよ?」
と、夕雲に制止させられてしまう始末の提督。
食事も質素で、
「出来ましたよ提督。」
夕雲が食堂で調理して出す食事は・・・ごはんとみそ汁にそして添いつけに漬物だけだ。
「本当はもっと豪華な物を出したかったけど・・・理由は分かっていますよね?」
「・・・」
もちろん分かっている、ここの提督は金遣いが荒くて鎮守府の資金にまで手を出していたんだから。
「そうだな・・・では、頂こう。」
文句すら言えずに夕雲と2人で寂しい食事を摂る提督。
「提督の仕事は楽な作業だと思っていたけど・・・」
机の上に乗せられた分厚い書類、これを1枚1枚確認して整理して行かないと行けない。
「これじゃあ、現場作業の方が断然良かったよ・・・」
今更ながらに後悔する提督。
最も、大将から大佐に降格された上に複数の提督からの訴え、そして艦娘たちが去った事で戦果を取れずに
給料はおろか手当すらつかない・・・全くの無一文だという事だ。
「くそっ! オレはどこまでも不幸だな! いっその事夜逃げしてやろうか!」
最早提督にとって、この場から逃げ出す事しか考えていなかった。
・・・
何度も逃げようと考えていた提督、
しかし、その度に夕雲に見つかり阻止され、挙句に本営からはブラックとして登録されているのだから、
人前に出られない問題もあり、鎮守府に留まり続けるしか無かった。
鎮守府に着任して1週間が経った頃、提督にはある疑問が残る。
「夕雲はどこから食料を仕入れているんだ? 鎮守府が借金だらけで資金もロクに無いと言うのに・・・」
あれから夕雲がいない時を見計らって部屋内をくまなく探して見た物の、期待していた物は見つからなかった。
「それにあの子だって・・・仕事中は同じ服装なのは仕方がないとして、休日でも同じ服装で・・・」
そう思っている内に夕雲が帰って来る。
「ただいま戻りました・・・提督? もしかしてまたサボっていましたか?」
夕雲がムッとして提督に言い寄る。
「ち、違うんだよ夕雲! ちょっと気になった事があって調べていたんだ。」
咄嗟に誤魔化す提督。
「本当に? まぁ、それならいいですけど。」
余計な詮索をせずに買い物袋を持って食堂に向かう夕雲。
翌日、
「提督、サボらないできちんと仕事してくださいね?」
いつもの様に書類を用意した後、すぐに鎮守府を空ける夕雲。
「・・・夕雲はどこに行くんだろう? 買い物だけにしては帰りはいつも遅いし。」
気になった提督は仕事を後にして、夕雲の後を追う。
「・・・」
夕雲の後を追った提督、その先には・・・
「? 喫茶店に入った?」
夕雲は何の躊躇いも無く、喫茶店に入る。
「・・・」
「誰かと待ち合わせしているのか?」と思った提督だが、
「! なっ、夕雲が店員と同じ格好をしている?」
提督の目に映ったのは、喫茶店の店員と同じ服装に着替えた夕雲、
「いらっしゃいませ~、こちらへどうぞ~♪」
慣れているのか、そのまま接客を始める夕雲。
「・・・」
提督はその光景をただ見ている。
数時間後、
「お疲れ様です、では明日もまたお願いします♪」
店長らしき責任者に礼をすると、夕雲は喫茶店から去る。
「あ、あの・・・すいません。」
夕雲がいなくなったのを見計らい、責任者に夕雲の事を尋ねると、
「あの子? ああ、1週間前からここに働きに来ているよ。」
店長の口から聞かされた思いもよらない言葉、
「何でも”働かないと生活出来ない”と言って来た上に、日払いを要求して来て・・・話を聞いてると本当に困っていたようでね、
特別に許可して日給払いで数時間の勤務を頼んでいるよ。」
「・・・」
「それにあの子、他の所でも働いていると聞いたけど?」
「!?」
夕雲が食料や物資を買う金があるのは、前の提督から少なからず受け取っていたのでは? と、その程度の考えしか無かったが、
今、提督は初めて知った・・・鎮守府で自分に出す食事や服、消耗品は、全て夕雲が日給を得て賄っていた事を。
「・・・」
提督は言葉を失い、鎮守府へと戻る。
「ただいま戻りました~、提督? サボっていたりしていませんよね?」
片手に買い物袋を持って提督に言い寄る夕雲、
「ああ、見て分かるだろ? ちゃんと書類整理をしているよ。」
「そう、ならいいですよ♪」
仕事をしているのが分かると、夕雲はいつもの様に食堂へと向かう。
「・・・」
この鎮守府から逃げる事しか考えていなかった提督・・・しかし、夕雲の行動を知った提督はある決意を持つ。
・・・
「そこを何とか・・・お願いします! 必ずお返ししますので!」
毎日のように電話をする提督。
「うっ! ・・・また切られたか。」
提督は「ふぅ~」と何度もため息をつく。
何度電話しただろう、
当てのありそうな場所に提督は何度も電話をするも、話すら聞いてくれなく断られる。
「・・・」
それでも提督は諦めずに何度も何度も電話を繰り返す。
ここの提督は金に無頓着だ・・・何度も階級が下の提督から金を無心し、踏み倒した事で完全に信頼を失っている。
当然提督は元大将に成りすましただけであり、身に覚えのない罪であるが、この鎮守府に来たからには前の元大将として、
やって行こうと心に決めていた。
「お願いします! 過去の事は重く受け止めております! ですが、資金が無ければ出撃すら出来ず・・・うっ。」
また電話を切られる。
提督が電話している理由、それは鎮守府稼働のために資金援助をして欲しいとの要請だ。
当然ながら、資金が底を尽いた鎮守府は一切設備は稼働しておらす、入渠場も工廠場も動いていない。
出撃しようにも出来ない状態なのだ。
今の現状は夕雲が提督に隠れて日雇いを行っており、辛うじて最低限の衣食住が出来ている状態である。
それを知った提督は、自身の無力さと、知らずに彼女に養って貰っている事実を知った上で、
”もう一度彼女(夕雲)に艦娘としての生活をさせてあげたい”、と心に決め、必死に資金繰りをしているのだ。
「お願いします! そこを何とか・・・あっ!」
またも電話を切られる。
「ふぅ、信頼を失うってのはこんな辛い事なんだなぁ。」
提督は自分で性格は良くないと自覚しているが、悪い人間では無い。
今まで憲兵として仲間と一緒に働いていたのだから、仲間想いではある。
そんな彼が、誰からも見捨てられた現実に立つことになろうとは。
「駄目だ・・・何度電話しても一方的に切られる、こうなったら!」
提督は半ばヤケクソである場所に電話を掛ける。
「・・・もしもし? 元帥殿ですか? 私は〇〇鎮守府の提督です!」
提督が掛けた相手・・・事も有ろうに元帥提督がいる鎮守府。
「早速ですが資金援助を申し立てたいのです・・・もちろん、こんな事をお願いするのは失礼千万なのは承知の上です!」
確かに失礼な事である、いくら資金繰りが困難と言えど上官に頼む行為など、
でも、資金が無ければ出撃できないのもまた事実、恥を忍んで必死に上官にすがる提督、
「!? 本当ですか? こんな私に援助して下さるのですか!?」
意外な答えだった・・・最高階級である元帥閣下が汚職をした事で、大佐まで降格した提督に援助をすると言うのだ。
「助かります! 資金は必ずお返しします、鎮守府を建て直すまでどうか私を信じてくれませんか?」
提督は必死でこれからの鎮守府生活を話して行き、資金は夕方の内に援助する約束まで整った。
「夕雲! 聞いてくれ!」
提督は食堂で調理している夕雲に近付く。
「提督? そんなに喜んでどうしたの?」
夕雲は状況を飲み込めていない。
「聞いてくれ夕雲! 明日から・・・明日から出撃が出来るんだ!」
「えっ?」
夕雲は驚き、
「でも・・・出撃するためには工廠場や入渠場が動いていないと行けないし、
それ以上に鎮守府を動かすための資金はありませんよ?」
「大丈夫! 今日、朝から必死に資金援助をしてくれそうな場所に電話して・・・そしてやっと、援助してくれる
人間が現れたんだ。」
流石に”元帥閣下が援助してくれた”とは言えずに、ただ”明日から出撃が出来る”旨を伝える提督。
「本当に? 本当に明日から普通の生活が出来るの?」
夕雲は信じられなく、何度も提督に聞く。
「ああ・・・それと夕雲、今日まで本当に済まなかった!」
提督は急に夕雲の前で頭を下げる。
「副業をしていたのは知ってる・・・一文無しでの鎮守府生活、オレに何も言わずここに来てからずっと、
オレを支えてくれていたんだね? それを全く知らずに今日まで自分の事しか考えていなかった。本当に済まなかった!」
「・・・」
夕雲は無言のままだ。
「もし、まだオレの事を提督として見てくれているなら、明日からオレと一緒に鎮守府を建て直す手伝いをしてくれないか?
初心に戻って1からやり直したいんだ、頼む夕雲!!」
本当なら、夕雲は提督の事を嫌っているはずである・・・提督が不甲斐ないために、秘書艦自ら副業をして
最低限の生活を維持して来た、そしてまた鎮守府を建て直すと言っているが、昔と同じ様にまた資金を使い込んで
駄目にするのではないか、と思っているはずである。
「はい、提督。明日から2人で頑張って行きましょう!」
夕雲は躊躇う事も無く、提督の意見を受け入れる。
「夕雲・・・」
彼女の声に提督は顔を上げる。
「私は艦娘、提督を支えるが私の役目。それに私はどんな状況であっても提督を信じていますよ!」
夕雲の前向きな言葉に、
「あ、ありがとう・・・ありがとう、夕雲!!」
提督は夕雲に心から感謝をする。
・・・
・・
・
「提督、今日の書類をお持ちしました。」
ここは元帥提督がいる鎮守府、秘書艦である海風が今日の書類を机に置く。
「うん、ありがとう・・・そう言えば、この前の提督の事だけど。」
提督は書類を片手に、
「あれからどうなっている? その後の様子をまだ確認していなかったな。」
提督の質問に、
「はいっ、提督でしたら秘書艦の夕雲さんと一緒に頑張っていて、戦果を徐々に取って行き、
鎮守府に仲間が徐々に増えて行ってますよ!」
海風は提督の指示であの鎮守府に視察に行っているため、状況は誰よりも詳しかった。
「そうか、ならもう心配する必要は無いね。」
元帥は安心する。
「はいっ・・・ただ1つ気になる事がありまして。」
海風が提督に何かの資料を渡す。
「? 艦娘着任記録?」
意味が分からず資料を開いて行く提督。
「・・・おや?」
ある一部分のページに提督の目が止まる。
・・・
「任務完了! これより帰還します!!」
「ご苦労、皆よくやってくれた!」
艦娘との無線を終えると、大佐提督は次の作戦準備を始める。
無事に援助を受けた提督は、夕雲と一緒に1からのスタートを切る。
近海への出撃から少しずつ仲間を増やして行き、最近になって進める海域も増えたのだ。
出撃に関しての知識が皆無だった提督は秘書艦の夕雲に提督としてのノウハウを教わり、
演習と実践を駆使して、損害の無い指示を出来るまでに上達した。
「今回も無事に勝利を収めたわ! 流石です、提督。」
夕雲も喜んでくれて、
「いや、オレ1人では到底出来なかった事だよ、それも全て皆と夕雲・・・君のおかげだよ!」
「うふふ、提督ったら~♪」
その後も良好な関係を保ったまま、今後の作戦を練って行った提督と夕雲。
・・・
鎮守府生活も軌道に乗り出し、次の作戦内容を終えた後の事だ。
「司令! 棚からこんな資料が出てきましたよ!」
雪風から渡された資料・・・それは、元大将がいた時の”艦娘着任記録”であった。
「ふ~ん、大将殿がいた時の艦娘記録かぁ。」
おもむろに開いて、1ページずつめくって行く提督。
「・・・ん?」
資料を読んで、提督が何か違和感を持った。
「・・・」
提督は何度も資料を読み直す。
「・・・おかしい、どうして?」
謎が解けないまま、その後も資料を見るも解決に至らなかった提督。
・・・
その夜、提督は夕雲を呼ぶ。
「夕雲、どうして君の名前が・・・」
提督は艦娘着任記録を見せて、
「どうして君の名前が載っていないんだ? ずっとこの鎮守府に着任していたんだろ? それなのに何で?」
提督の質問に、
「・・・」
夕雲は無言のまま顔を下に俯く。
「夕雲・・・」
提督は夕雲に手をやろうとしたその時、
「ごめんなさい・・・ごめんなさい提督!!」
夕雲は叫ぶと、そのまま執務室から出て行く。
「夕雲・・・おい、夕雲!!」
提督は叫ぶが、彼女はそのまま走り去って行ってしまう。
夕雲は鎮守府から去った。
提督と仲間が必死に周辺を捜索するも、彼女が見つかる事は無かった。
・・・
夕雲がいなくなって数日後、
「夕雲・・・」
提督は1人執務室で書類の整理をしていた。
「夕雲、一体どこに行ったんだ? 一体何を隠している?」
艦娘着任記録を見せた時の夕雲のあの一変した表情・・・もしかしたら、
着任扱いされずに元大将にぞんざいな扱いを受けていたのだろうか?
「・・・分からない、こればかりは本人に聞いて見ないと。」
夕雲がいない執務室での作業、正直落ち着かない提督だったが、
「・・・戻って来るのを信じよう、だって夕雲にとってこの鎮守府が居場所だからな。」
彼女が帰ってくる事を信じ、再び執務に取り組もうとした矢先、1本の電話が鳴る。
「はい・・・こ、これは元帥殿! その節は本当に助かりました!!」
電話の主は、提督に資金援助をした元帥提督。
「それで、どうかされましたか? 元帥殿から援助された資金は、決められた額を月毎に支払っておりますが?」
提督はてっきり援助された資金の返済問題かと思っていたが、
「・・・夕雲がそちらに!? 分かりました、今すぐに向かいます!!」
夕雲が元帥提督の鎮守府にいる事を知った提督、すぐに準備をして鎮守府から出る。
・・・
・・
・
「失礼します、元帥閣下!!」
ドアのノックして、執務室に入る提督。
「・・・ゆ、夕雲!!」
執務室には机に座っている元帥閣下と側で報告する秘書艦海風、そして・・・壁際に夕雲が立ちすくんでいた。
「夕雲、どうして・・・どうしてここにいるんだ?」
すぐに夕雲に近寄る提督。
「・・・」
夕雲は無言のままでいる。
「元帥閣下に呼ばれたのか? それならそうとオレに一言言ってくれればいいのに!
オレも皆も心配したんだぞ!!」
提督の言葉に、
「・・・ごめんなさい提督。」
夕雲はただ謝るばかりだ。
「・・・彼女は自分からここに来たんだ。 オレとお前にも隠していた秘密を打ち明ける覚悟で。」
「えっ? 秘密って?」
提督は夕雲を見る。
「・・・本当にごめんなさい。 提督、私は・・・私は実は。」
夕雲は意を決して口を開く。
「私は、あの鎮守府の艦娘では無いの!!」
夕雲から発せられた驚くべき一言。
「えっ? ゆ、夕雲。 お前何を言って・・・」
提督は信じられなく、もう一度訪ねるも、
「私は・・・本当は〇〇鎮守府の艦娘よ!」
夕雲の言葉に、
「〇〇鎮守府・・・知ってる、確かあそこは過去に何度も艦娘に対して
虐待を行っていた場所だったな?」
「・・・」
元帥提督の言葉に、夕雲は静かに頷く。
「私も・・・提督から何度も暴力を受け、過重労働をさせられ体も精神も
限界だった。」
夕雲は重い口を開く。
「意を決した私は、提督の目を盗んで鎮守府から飛び出した・・・
当ても無く歩き続けて、辿り着いた場所があの鎮守府だったの。」
「・・・」
「幸いにも、その時は提督も艦娘たちも誰もいなく、運よく鎮守府に忍び込む
事が出来たわ。」
「・・・」
「ここにいれば、前の鎮守府よりも普通の生活が出来る・・・そう思って、
提督と仲間を待ち、着任許可を求めようと思ったのに・・・」
「・・・」
「ここの提督は前の提督と同じくらい酷い人間で、それが理由で全艦娘たちは
この鎮守府を去り、設備がすべて停止していることを後に知ったわ。」
「・・・」
「他に行く当ても無く、頼れる仲間もいない・・・ただ無人の施設。
私はただ孤独で誰かが帰って来るのをずっと待っていたの。」
「・・・」
「ずっと待ち続けて遂に、提督・・・貴方が戻って来た。」
夕雲は提督を見る。
「ずっと一人で寂しくて辛かった私にとって、目の前の提督が酷い人だという認識よりも、
「帰って来てくれた」事に心から喜んだわ。」
「・・・」
「それで私は決めた・・・”悪い人間でも正せば治る” それを信じて、
私が提督を支え、変えて行こうと思ったの。」
話を終える夕雲、
「提督、本当にごめんなさい。私はあの鎮守府の艦娘ではありません。
騙していて本当にごめんなさい!」
夕雲は謝る、それに対して提督は、
「何を言ってるんだ・・・別の鎮守府でも夕雲は夕雲だろ? それに君のおかげでオレは立ち直れたし、
君がいてくれたからこそオレは新たに”頑張ろう”と思ったんだよ。」
「提督・・・」
「だから、謝らなくていい。 オレにとって君はとても大切な艦娘なんだ。
それでいいだろう?」
提督の言葉に、
「そうか、ならば・・・」
元帥提督が口を開き、
「お前も夕雲に言うべきことがあるのではないか?」
「・・・」
提督は無言になる。
「夕雲はお前の事を信じて本当の事を打ち明けたんだ・・・ならばお前も、
信頼している夕雲に本当の事を言うべきではないか?」
「? 本当の事、って?」
夕雲は首を傾げ、
「夕雲・・・実は、オレはな・・・」
提督は意を決して打ち明ける。
「オレは・・・本当は提督じゃない。 鎮守府で働いていた、ただの一端の憲兵なんだ!」
「・・・」
夕雲は驚く。
「ただ楽な生活をしたかっただけなんだ・・・提督になれば、給料も高くて
有意義な生活が出来る、そう思って。」
「・・・」
「でも、大将の素性を知った途端オレの計画は無駄に終わった。 すぐにここから出ようとも思っていたけど・・・
君が、夕雲がオレのために副業をして養ってくれている事を知って・・・」
「・・・」
「だからオレは、君を艦娘として生活させたいと思った、こんな設備の止まった施設で
貧乏暮らしをするより、本来の鎮守府生活に戻したいと本気で思ったんだ。」
「・・・」
「元帥閣下から援助をして貰って、オレは大将の代わりに本気でやり直そうと思った。
そして徐々に鎮守府生活に兆しが見えてきて、オレは皆のためにこの生活を維持して行こうと心に決めたんだ!」
「・・・」
「でも、夕雲を騙していた事には違いないね・・・本当はすぐに打ち明けたかったけど、
中々言い出せなかった・・・ずっと黙っていてごめんな。」
提督の言葉に、
「・・・知ってました、貴方が別人だって事は。」
「えっ?」
提督は驚く、
「女の勘・・・それに話をしてみて、とても噂に聞いた酷い人間には思えなかったので。」
どうやら夕雲は鎮守府に戻って来たすぐ後に、別人に気づいていたようだ。
「そ、そうか・・・」
それを知って提督は安心する。
「何だ、お互い素性に気付いていたのか。」
「ふふ・・・そのようですね。」
それが分かると、互いに笑い出し、
「オレは今でも夕雲の事を信じてるよ。」
「私も、提督の事はいつだって信じているわ。」
2人の絆は深かった。
「でも・・・まずはオレたちにはやるべき事があるな。」
「・・・」
夕雲も静かに頷き、2人は元帥の前で跪く、
「オレと夕雲は・・・罰を受ける覚悟は出来ています! 元帥閣下!!
オレたちに厳正な処分をお与えください!!」
提督は顔を上げると、
「ちょっと提督! 顔を動かさないでください!」
「ああ・・・ごめんごめん。」
元帥が秘書艦の海風に耳かきをして貰っている姿が。
「あ、あの・・・元帥閣下?」
その光景に提督は困惑する。
「ああ、ごめん。 全然聞いてなかった・・・えっと、何だっけ?」
「・・・は、はいっ。 オレと夕雲は・・・」
「ああ、分かった。2人で力を合わせてこれからも鎮守府を続けて行くんだったな?
まぁ頑張れ! 何かあればまた連絡するといい。」
「えっ!? げ、元帥殿!?」
「聞こえなかったか? これからも2人で鎮守府で頑張るんだぞ!」
元帥の一方的な意見に、
「・・・は、はい。それでは失礼します。」
元帥に敬礼し、2人は執務室から出る。
「・・・なぁ、海風。」
2人が去ったのを確認すると、
「海風・・・あの2人は頑張れると思う?」
元帥提督の質問に、
「はいっ、2人なら大丈夫だと思いますよ♪」
海風は明るく返す。
・・・
「どう言う事だろう? 元帥閣下はオレたちを処罰しないのか?」
提督が思っていると、
「・・・恐らくですが。」
夕雲が口を開き、
「私たちは”チャンスを与えられた”のではないでしょうか?」
「・・・そうか、そうなんだな。」
提督は納得し、夕雲の顔を見つめ、
「オレは元憲兵、だけどこれからは提督として絶対に鎮守府を守って行く。
オレについて来てくれないか、夕雲?」
提督の意見に夕雲も顔を合わせ、
「もちろんですよ、提督♪」
夕雲も受け入れてくれて、
「では鎮守府に帰ろう、まだまだやる事は山積みだ!」
そう言って、2人一緒に鎮守府に戻って行く。
・・・
・・
・
それから1年が経った頃、
提督から2つの書類が届けられる。
1つは毎月返済している資金の最後の振込証明書と、
もう1枚の方は元帥宛ての手紙で、
あれから戦果を取り続け、遂にイベント海域への出撃許可を貰う事が出来た事、
夕雲の姉妹艦たちを鎮守府に無事迎え入れられた事・・・そして、
夕雲と姉妹艦、仲間たちと共に鎮守府で幸せに生活している、
との報告が書かれていた。
「提督?と夕雲」 終
なりすまし提督ですか。
新しい路線で来ましたね。
貴方様の小説待ってました。
自分としてはこの二人に明るい未来が
あると信じてます
後、貴方様の小説でアズレン系に食事ネタが
多いのですが自分も先月からアズレンを
やり始めて始めて
意味が分かりました。
宿舎は経験値&好感度アップには
かかせませんね。
暇さえあればメガステージで
踊らせてます。
これからも貴方様の小説をお待ちしてます。
1さん、
コメントありがとうございます♪
新型コロナの影響で、休日もなるべく家に籠り、
書く時間が少しずつ出来たので、再び書き始めました。
また要望等何かあれば言ってください♪
後、コロナには十分にお気をつけください(礼)
「オレと夕雲は・・・罰を受ける覚悟は出来ています! 元帥閣下!!
オレたちに寛大なる処罰をお与えください!!」
甘えるなwww
厳正な処分ということかなぁ…?
面白いけど違いません?w
時節柄、ご自愛ください。
3さん、
確かに、厳正な処分ですね・・・誤字を教えてくれて
ありがとうございます!