「提督と海風」
ブラック鎮守府に所属していた海風と江風。
嫌気がさした江風が脱走を計画、海風がそれに協力するが・・・
サブストーリーです。
メインストーリー内で起きた出来事です。
「江風・・・元気でやっているかな・・・」
海風は空を見上げながらそう呟いた。
・・・・・・
(ここから回想)
ここはとある鎮守府、
そこで私、海風と妹の江風が所属していました。
この鎮守府は俗に言う”ブラック鎮守府”と言うものでした。
少しのミスや出撃・演習で敗北した際は特に酷く、提督が暴力を振るってきました。
しかも、一番弱い立場の私たち”駆逐艦”が必ず感情の捌け口にされました。
毎日暴力を振るわれているのに、戦艦・空母の艦娘さんたちは見て見ぬふりをします。
止めれば間違いなく自分がやられる・・・そう思っているのでしょう。
でも・・・やっぱり助けて欲しかったです。
私自身は我慢できた。
でも、妹に手を出すことはどうしても許せなかった。
「やめてくれよ! 悪かったよ! 次は絶対失敗しねぇから!」
江風が泣きながら叫ぶ姿は今でも脳裏に焼き付いている・・・
ある日のこと、
「もう我慢できねぇ! あたしはここから出ていく!」
江風は脱走を考えていた、もちろん行く当てなんてない・・・
「こんなクソ鎮守府から出られるなら後は適当に探して身を置くよ。」
計画性のない江風の考えは正直賛成できなかったけど、このままずっとこんな生活が続くと考えると、
私は「だめですよ」なんて言うこともできませんでした。
そして、ある寝静まった夜の事・・・
「警備も薄い、逃げるなら今しかない!」
江風はそのまま鎮守府から出ようとした。
「姉貴も一緒に行こう!」
江風は手を差し伸べてきたが・・・
「私はここに残っているわ」
その言葉に、
「何でだよ! こんなところにいても仕方ないだろう! 早く出ようぜ、姉貴!」
「・・・・・・」
江風の言うことはもっともだった、本当なら私も江風と一緒に・・・
でも、2人一緒に逃げればすぐに捜索されて捕まってしまう、その後の提督の処罰を考えたら・・・想像もしたくない。
「・・・・・・」
それなら、江風が逃げている間に私が時間を稼いだ方がいいかな・・・と。
その旨を江風に打ち明けた。
「・・・・・・」
江風も心が折れ、
「わかったよ。 あたしは先に行っているから・・・必ず来てくれよ!」
「うん、絶対行くから・・・それまで元気でね。」
江風はそのまま前を向いて鎮守府を後にした。
・・・・・・
朝になって、江風がいないことに気付いた提督は私を尋問した。
「あいつはどこへ行った! あいつはどうした!」
もちろん私は口を閉ざしました。
「言え! この恩知らず!」
殴られて、蹴られて・・・それでも私は口を開きませんでした・・・
それからは毎日、提督からの暴力が始まりました。
味方であったはずの駆逐艦たちも私から離れていき、何かあるごとに私が暴力を受けた。
「役立たずが」
提督は立ち去る間際に必ずこう言う。
「そうか・・・私は・・・役立たずなんだ・・・」
毎日ずっと同じ言葉を浴びせられ続けていたら、最初は心で否定していても今では
そう思ってしまう・・・私は・・・役立たず・・・
最近になって鎮守府地下の鉄格子に入れられ、皆とは完全に隔離されてしまった。
出撃は当然ながらできず、ただ提督の尋問と暴力だけの繰り返し・・・
次第に精神と体がボロボロになっていき、私は生きているかどうかもわからない位追い詰められていました。
それから、しばらくして・・・
鎮守府の資金が悪化したようです。
原因は提督が無駄に浪費していたこと。どうも上から預かっていた資金にまで手を出していたようで、
当然上層部は激怒、以降支援はしないという電報まで送られたそうです。
そして提督はその責任を私に押し付け、私は「売られる」事になりました。
提督からは、「最後に売られて鎮守府の役に立て」と・・・
両手に枷を掛けられ、足元には値札を張られ・・・まるで奴隷ですね。
どれだけ時が経ったんだろう・・・
道行く人の視線がとても痛々しかったです。
でも、精神的に崩れていた私にとって、周りの視線はさほど気にはなりませんでしたが・・・
時間は思ったより長くは感じませんでした。
すぐに私は「売られた」から・・・
新しい提督・・・いいえ、私は「売られた」艦娘・・・
これからはこの提督の奴隷として生きなければならないのですね・・・
「・・・・・・」
後、悲しい顔をしてはダメですよね? また殴られてしまいますよね?
無理にでも明るく振るわないと行けませんよね?
鎮守府に到着・・・前の鎮守府より少し小さめかな・・・
執務室へと案内され、目の前には提督と秘書艦の霧島さんがいました。
霧島さんが枷を外してくれました・・・戦艦の霧島さん・・・
「・・・・・・」
多分言っても助けてくれませんよね・・・いつもそうだったから。
肝心の提督は・・・落ち着いた感じの人だった。
でも、どの提督も同じですよね?
私は提督の機嫌を損ねないようにまずは服を脱いだ。
確か女の奴隷って、犯されることですよね?
ううん、犯されるなんてそんな・・・提督に気に入られるための行為。
まずは笑顔を繕って、
「どうぞ、好きになさってください提督」
でも、何故か提督は私に服を着させた。
あ、私何か機嫌を損ねるようなことをしてしまいましたか?
提督は何も言わず、霧島さんに部屋に案内するようにと指示をした。
あ、私・・・怒らせちゃったのかな?
霧島さんに案内され、一人にしては大きめの部屋の前で止まり、
「今日からここが海風さんの部屋です。明日に備えて今日はゆっくり休んでください」
そう言って霧島さんはその場から立ち去った。
「・・・・・・」
この日は提督からの暴力はありませんでした。
でも、明日はどうでしょう? 何かミスしたら? 遠征で失敗したら?
考えれば考えるほど不安になった。
でも、そんな不安とはよそに普通の時間が過ぎていく・・・
翌日も・・・
明後日も・・・
その次の日も・・・
今日は姉妹艦の村雨さんに会った。
「あら、海風じゃない? どうしたの、着任したばかり?」
明るく話しかけてきました。
「ここの提督は少し過保護なところもあるけど、とても優しい人だからどんどん甘えればいいわ。」
「・・・・・・」
あ、そうなんですか・・・
「今から出撃だから、話はまた後でね♪」
そう言って村雨さんはその場から走り去っていきました。
「・・・・・・」
その次の日も・・・普通の生活でした。
私もいつの間にか不安を感じなくなり、鎮守府の皆と仲良くなっていました。
ああ、そうか・・・
私は・・・もう、大丈夫なんだ。
演習に参加、結果は・・・敗北でした。
旗艦だった私は、提督の前で結果報告をしました。
「・・・・・・」
正直怖かったですが、提督の口からは、
「失敗は誰でもある、次は頑張れ!」
その一言で終わりました。
秘書艦として仕事をミスした際も、
「焦るな、海風のペースでやってくれればいい」
出撃で私が大破したことが原因で撤退した時も、
「戦果なんて二の次! 早く入梁してゆっくり休め」
うれしかった・・・私・・・ここにいていいんですね・・・
・・・・・・
(ここから現実)
「・・・・・・」
うたた寝していたようで、隣で提督が静かに資料を整頓していました。
「ふぁ・・・」
欠伸をしているのを見て提督が笑っていました。
昔の事を思い出していたら、いつの間にか眠ってしまっていたようです。
「あ、提督。 すいません、少し寝てしまいました。」
今日の仕事は深夜までの時報担当で、慣れないせいか少しうたた寝してしまったようです。
「ご苦労様、今日は部屋に戻っていいよ。 また今夜も頼む。」
「ありがとうございます、では、深夜の時報この海風が承ります。それまでおやすみなさい。」
そう言って私は執務室から出て行った。
・・・・・・
時報担当まで後少し・・・
「さぁ、今夜も頑張りましょうか・・・」
自分で意気込みして部屋から出ようとしたその時、
「姉貴! 姉貴!」
聞き覚えのする声が聞こえ、私は窓を見た。
「!? 江風!?」
そこには、妹の江風がいました。
「姉貴! こっちだ!」
「待ってて、今行くから!」
私はすぐに江風の元へ向かった。
「江風! 元気だった?」
「ああ、姉貴こそ・・・無事でよかった。」
「本当に心配したんだよ・・・」
うれしくて、私は涙を流した。
「あたしだって姉貴に会いたいと何度思ったことか・・・」
江風は私の腕を掴んだ。
「? 江風?」
「こんな鎮守府さっさと出よう! これからは姉妹2人で幸せに暮らそう!」
予想外の言葉に、
「江風・・・何を言っているの?」
「そのままの通りだよ、鎮守府生活なんてもうたくさんだ・・・あたしは姉貴がいればいい!」
江風は半ば強制的に海風を引っ張って鎮守府から出た。
「・・・・・・」
2人の姿をたまたま提督と霧島が見ていた。
「霧島、頼む。」
「はい、司令!」
霧島が2人の後を追った。
「江風、離して! 離してって!」
海風は江風の手をほどく。
「何だよ姉貴!」
江風が困惑する。
「・・・・・・」
2人の間に沈黙が続き・・・
「何かあったの?」
先に口を開いたのは海風だった。
「どうしてそんなに怒っているの? あの後何かあったの?」
海風の言葉に・・・
「何もだよ・・・」
江風が口を開く。
「鎮守府から出た後に、別の鎮守府に中途着任したんだけど・・・扱いがひどくてすぐに飛び出して・・・」
「・・・・・・」
「違う場所に行ったら今度は、着任拒否されて路頭に迷って・・・もうたくさんなんだよ!」
「江風・・・」
「結局どこの鎮守府も同じだってことだよ! いい場所なんてひとつもない! 自分たちの都合のいいようにしか考えてない!」
「・・・・・・」
「だからせめて、海風の姉貴だけでも・・・救ってやりたいと思っただけだよ・・・」
「・・・・・・」
「行こう姉貴、今は良くたって結局はあたしたちを裏切る、そんな鎮守府さっさと出よう!」
「・・・江風」
ああ・・・江風・・・
あなただけでも、幸せになってと思ってやったことだけど・・・
結局江風は苦労してばかりだったのね・・・
「・・・・・・」
海風は何も言わず、江風についていった。
「この海を越えれば、もう誰も追ってこれない!」
江風は艤装を装着し、海を進んでいく。
「・・・・・・」
海風も江風の後を追う。
「もう少しだよ、もう少しだ、姉貴!」
江風が海風を振り向いた直後、
どおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!
突然の爆音に江風は驚く。
「!? 何だ! 何が起きた!?」
見ると、そこには複数の深海棲艦が・・・
「なっ!? 何でこんなところに敵が!?」
驚く江風だったが、今はそれどころではない。武器は所持していない、どこかへ避難して逃げるしかない。
「姉貴! どこだ、どこにいるんだぁ!」
先ほど爆発があった方向を見た、するとそこには・・・
「あ、姉貴!!」
敵の砲撃を受けて、負傷した海風がいた。
「姉貴! しっかりしろぉ!」
「・・・・・・」
損傷はひどく、胸から大量の出血があった。
「くっ・・・」
すぐ目の前には、深海棲艦・・・逃げるにも姉貴が負傷して・・・無理だ・・・
「・・・・・・」
江風は覚悟した、その時、
「砲撃、始め!」
二人を追っていた霧島が反撃を開始。 数体撃破した後、敵はそのまま撤退した。
「海風さん、大丈夫ですか!?」
霧島が手を差し伸べた時には既に虫の息だった。
「・・・司令、聞こえますか?」
霧島は無線を取る。
「海風さんが負傷、損傷甚大。 すぐに治療が必要です。」
「そうか・・・」
2人のやり取りに江風はただずっと見つめていた。
「すぐに応援をよこしてください、私は海風さんを運びますので・・・」
「いや、そのままにしておけ。」
提督の言葉に江風と霧島は驚く。
「司令! 何を言っているんです!? 早くしないと海風さんが・・・」
「海風はオレの命令もなく勝手に鎮守府を出た・・・これは命令違反となる。」
「・・・・・・」
「傍にいるのは海風の妹の江風だろ? 着任していない艦娘が鎮守内に入ることは原則禁止されている。」
「・・・・・・」
「以上から2人の安否を気にかける必要はない、と判断する。」
「! そんな・・・」
「霧島、お前はすぐに撤退しろ! 2人のことなど気にする必要はない。」
「・・・・・・」
2人の無線を聞いていた江風は・・・
「やっぱりそうだよなぁ。」
「?」
「結局どこの鎮守府も都合のいいことしか考えていなくて・・・」
「・・・・・・」
「姉貴がこんなに苦しんでいるのに、誰も助けてくれない・・・結局あんたらもあいつらと同じだよ!!」
江風が泣きながら叫んだ。
「・・・・・・」
「それは違うな。」
提督が江風に反応する。
「その海風に対してお前は一体何をした?」
「え?」
「自分が逃げることしか考えず、お姉さんの意見も聞きもせず、自分がいいと思ってやったことがこの結果だ・・・」
「・・・・・・」
「お前は一度でも、海風のために体を張って守った事なんてあったのか?」
「・・・・・・」
「お前のやったことはただの自己満足だよ。」
「・・・・・・」
「そんなお前のためにオレたちが何をどうしろと言うんだ?」
「・・・・・・」
「話すだけ無駄だ・・・霧島、撤退しろ!」
「・・・はい、司令!」
無線を切ると、
「ごめんなさい・・・私にはどうすることもできないわ。」
霧島が立ち去ろうとする。
「・・・待てよ。」
かすかに聞こえる声、当然霧島の耳には届かない。
「待てよ・・・待ってくれよ!」
江風が叫ぶ。
「・・・・・・」
その声に霧島が足を止める。
「姉貴を・・・助けてくれよ・・・頼むよ・・・」
「・・・・・・」
「あたしはどうなってもいい・・・治療費が掛かるってんなら、あたしが一生かけて払うから・・・」
「・・・・・・」
「頼むよ・・・姉貴を・・・姉貴を助けてくれよぉ!!」
「・・・江風さん」
霧島が再び無線を取り出して、
「司令、私からもお願いです。 海風さんを助けてくれませんか?」
「・・・全く。」
提督はやれやれと思いながら、
「なら江風に代われ。」
霧島が江風に無線機を渡す。
「今どのくらいの出血量だ? どのくらいの時間が経っている?」
「・・・・・・」
江風は大体の経過時間と出血量を報告した。
「今から指示する、その通りにお前がやれ。」
「そんな、あたしやったこともないのに・・・」
「・・・先に言っておくぞ。」
「?」
「それができなければ海風は間違いなく死ぬ。」
「・・・・・・」
「それが嫌なら指示したようにやれ!」
「・・・・・・」
「まずは服をめくって負傷箇所を出す。」
・・・・・・
・・・
・
「次に布で患部を抑えて止血する。」
「・・・布なんかないよ。」
「お前の服でいい、ちぎって早く抑えろ」
「・・・・・・」
・・・・・・
・・・
・
「どうなった?」
「・・・なんとか血は止まった・・・」
「よし、よくやった・・・やればできるじゃないか。」
「・・・・・・」
「もうすぐそちらに応援が行くはずだ、後の治療は鎮守府で行う。」
そう言って無線は切れた。
「・・・・・・」
数分後、村雨たちが応援に駆け付け、海風は鎮守府へと連れ帰った。
・・・・・・
応急措置のおかげで、海風は奇跡的に回復した。
海風の隣で江風がずっと見守っていた。
「姉貴・・・」
江風は海風の手を握ると、
「姉貴・・・ごめんよ・・・ごめんよ。」
江風はずっと謝っていた。
・・・・・・
海風は無事復帰できるまで回復した。
当然のことながら、海風と江風は執務室に呼ばれた。
「・・・・・・」
江風は言葉が出ない。
「提督、申し訳ありません!」
海風が先に口を開く。
「江風は・・・私のためにやったことなんです・・・ですからお願いします。江風を許していただけませんか?」
「・・・姉貴・・・」
「私に掛かった治療費は一生かけて払いますから・・・江風は許してください!」
「姉貴! それはあたしが・・・」
「江風は黙っていなさい!」
「・・・・・・」
「え~っと・・・そろそろ喋ってもいいかな?」
提督が口を開く。
「!? あ、はい! すいません・・・」
海風は口を閉ざした。
「まぁ確かに治療費はかなりかかったかな・・・海風が思っている以上の額だが。」
「・・・は、はい。」
「一人では大変だろう? 2人で働けば半分で済むぞ?」
「え?」
「どうだろう、ここで働くことを許すぞ。 もちろん衣食住は約束する。」
「いいんですか? 私たち2人とも、ここにいて?」
「構わん。だが、この鎮守府にいる以上はきちんとルールを守ること。」
「あ、ありがとうございます!」
海風は喜んだ。
「・・・・・・」
江風は無言だったが、おそらく嬉しい・・・多分。
・・・・・・
「今日からはこの部屋で一緒だね。」
海風の部屋に江風が加わる。
「・・・・・・」
江風は無言のままだ。
「? どうしたの?」
海風が首を傾げると、
「姉貴・・・」
江風が近づいて、
「ほんとに・・・ごめん。」
江風の言葉に、
「いいのよ、もう。」
海風は笑顔だ。
「ここは、大丈夫なんだな?」
「・・・うん、大丈夫・・・ここは昔みたいにひどくはないよ。」
「・・・・・・」
「だからもう一度信じて? また一緒に暮らしましょう。」
「・・・・・・」
江風は涙をぬぐって、
「わかったよ。姉貴。」
江風に笑顔が戻った。
「提督と海風」 終
事情を抱えた艦娘たちがやってくる、ワケあり鎮守府です。
一部の艦娘からは”最果て鎮守府”とまで言われているらしい。
※霧島たちは理想の鎮守府と称している。
(中々)いいゾ~これ、続き読むの(全裸正座して)楽しみにしてるぜよ