「提督と香取」
鎮守府である艦娘が艦隊を指揮しているのを聞いて、正すために提督が出張に行くが・・・
提督は目的地に向かうため、ただ進んでいた。
最近上の依頼が提督によく来る・・・上は関わりたくないようで、要は押し付けである。
ほとんどの依頼が艦娘の問題行動で、今回も艦娘が反乱を起こしたとかで、出張することになった。
反乱を起こした首謀者は”香取” 前提督・他憲兵たちは拘束されて収容されているとか・・・
「・・・・・・」
はっきり言って気が進まない、今回の任務は艦娘たちを正すことなのだが、反乱となれば説得が難しい。
艦娘たちが言葉のみで応じてくれるとも思えない・・・場合によっては、手を出さなければならない。
「・・・・・・」
そんな気持ちを持ちつつ、鎮守府へと進んでいった。
・・・・・・
鎮守府に着いたが、人の気配がない・・・いや、艦娘たちもいない。
提督は中に入り、執務室へと向かう・・・扉をノックし、中に入ると・・・
「お待ちしておりました、提督。」
提督の椅子に艦娘の香取が座っていた。
「今度の提督は私たちを楽しませていただけるのかしら?」
挑発的な態度を取るが・・・
「・・・・・・」
提督は終始無言で、椅子を見つけると香取の前に座り込んだ。
「ほぅ? ほほぅ・・・なるほど・・・今回の提督は他の提督達とは違うようですね。」
香取はにっこり微笑むと、
「では、まずはこの子達から相手をしてもらいましょうか。」
香取が手を叩くと、駆逐艦たちがやってきた。
「待ちに待った新しい提督ですよ、さぁ皆さん連れて行きなさい。」
駆逐艦たちは喜んで提督を縛ると地下へと連れて行った。
・・・・・・
「まずは服を脱いで!」
駆逐艦の一人が主砲を向けて脅す。
「・・・なぜ服を脱ぐ必要がある?」
提督が聞くと、
「ここではお前たち人間は裸で作業するんだ! 服なんか着る価値無いんだよ!」
「・・・・・・」
「さぁ、もたもたしてないで服を脱ぎな! さもないとこの主砲で脳天吹き飛ばすよ!」
「・・・断ると言ったら?」
「なっ!? 吹き飛ばされたいか!!」
「吹き飛ばされたくないが、断る!」
きっぱり断る提督・・・
「このクソ提督! 皆、やっちまいな! この提督は不良品だ!」
掛け声とともに一斉に襲い掛かかろうとする駆逐艦たち・・・
「待って!!」
駆逐艦の一人が止める。
「私たちの目的はこの提督を生かして強制労働させること、殺しじゃない!」
「・・・・・・」
その子の言葉に皆武器を下ろす。
「いいわよ、服は着ていいわ! じゃあさっさと歩きなさい!」
提督は駆逐艦たちに連行された。
・・・・・・
・・・
・
牢屋の入り口まで連れていかれ、そこに入れられた。
「朝は早い! 今日はゆっくり寝ていることね!」
そう言って駆逐艦たちはその場から去る。
「・・・やれやれ。」
まさか牢屋に入るとは思ってもみなかった提督、しばらく考える。
「さてと、どうする? このまま様子見か、もしくは強行突破か・・・」
考えているうちに牢屋越しに誰かがいた・・・先ほど皆を制止した駆逐艦だ。
「・・・・・・」
その子は提督に近づくと口を開いた。
「やっぱり・・・あの時の司令だ!」
「?」
司令と言われて意味が分からなく、首を傾げた。
「覚えていませんか? 蒼龍さんがいた障害艦娘施設にいた駆逐艦です。」
「・・・あ~、そういえば。」
提督は思い出した。
「お久しぶりです! 司令!」
「ああ、久しぶり。 ・・・それで、リハビリを終えて着任した先が反乱の最中だったわけ?」
「いや、私はそのつもりは一切なく、強制的に参加されているだけです。」
「あ~そうなの?」
「それにしても司令! 何でまたこの鎮守府に?」
「依頼を受けて来ただけだよ。」
「また上からの指示ですか? 司令も人がいいですね。」
「いや、今回はある艦娘の子からの依頼だ。」
「? ある艦娘?」
「ああ・・・香取を止めて欲しいと言っていた。」
「・・・・・・」
しばらくの沈黙、
「お気持ちはわかりますが、ここにいては明日から強制労働させられます! 鍵を渡しますから
早くこの鎮守府から出て行ってください!」
「断る、この鎮守府の状況を知るために敢えて潜り込んだだけだ。それに、目的はまだあるんだ。」
「? 目的ですか?」
「ああ・・・反乱に走った艦娘たちの駆除だ。」
「!?」
「逆にオレが言おうか? 今のうちに出て行った方がいいんじゃないか?」
「・・・・・・」
その子は無言で・・・
「出ていけません。」
「どうして?」
「私の連れが反乱側にいるからです。」
「・・・・・・」
「その子を連れだすまで私は出ていけません!」
「そうか・・・じゃあお前はどちらかと言うと艦娘側なんだな?」
「はい、そうです。」
「わかった、なら今話したことはすべて忘れて、明日から今まで通りに行動しろ。オレも適当に状況判断するから。」
「・・・わかりました。」
その子は去ろうとする。
「せめて、お前の名前とその反乱側の子の名前を教えてくれ!」
「・・・私は野分・・・反乱側の連れは・・・舞風です。」
野分はその場から去った。
「ふ~ん・・・色々と事情があるのね。」
そう言いつつ提督は就寝した。
・・・・・・
早朝、艦娘に起こされ、ある場所に連れて行かれる・・・そこは、炭鉱所。
「さっさと働け~!! ちゃんと仕事しないと食事抜きだぞ~!!」
働いているのはもちろん、前提督たちと憲兵たち・・・全員裸で、誰が提督か憲兵か区別がつかない。
「ほら、そこの服着ているお前! さっさと仕事しろ!」
「・・・・・・」
提督はその場にあったつるはしを持って働き始める。
・・・・・・
周りを見ると、完全に支配権が逆になった光景である・・・
艦娘たちが人間たちを奴隷のように扱うその光景は、見るのも無残である。
最も、提督が艦娘に暴力を振るうこともあるのだから、この状況もありだな、と感じる提督。
「・・・・・・」
とはいえ、この状況は本来ふさわしくない事態・・・これは正すべきである。
「さて・・・どこから責めるか。」
提督はしばし考え、
「艦娘たちの死角となるところは・・・見つけた。」
提督は狭い通路に入り込む・・・艦娘たちは気づいていない。
「・・・・・・」
提督はそのまま進もうとしたが、
「脱走者だ! 脱走者がいるぞ!」
見つかってしまい、提督は拘束される。
「あらら・・・見つかってしまったか。」
鞭を持った艦娘たちが現れ・・・
「なぜ脱走しようとした?」
今にも叩きつけようと鞭を振る艦娘・・・
「脱走? 何だ・・・あの道は脱出経路だったのか。」
納得する提督。
「ちっ・・・昨日収容されたばかりの新米風情が! 痛い目に遭わないとわからないようだな!」
「痛い目に遭わなくてもわかるがな。」
「ふざけるなぁ!!」
バシッ!! バシッ!! バシィ!!!!
「いたたた・・・」
「もっとだ、もっと叩け!」
バシッ!! バシッ!! バシィ!!!!
「もう、もう許してください!」
提督が地面に頭をつける。
「・・・今度逃げたら命はないと思いな!」
そう言って艦娘たちは引き上げる。
「・・・それが油断と言うんだがな。」
「・・・何?」
艦娘たちが振り向くと・・・
「!!?」
・・・・・・
・・・
・
「お~、中々いい音が出るな。」
目の前にいた艦娘たちを半殺しにした提督が鞭を振るって見せる。
「やめろ・・・やめてくれ!」
「あら~・・・そんなでかい態度でいいのかな?」
鞭を見せると、
「・・・助けて・・・お願い、私たちはただ・・・」
「ただ?」
「・・・香取さんに指示されただけ、本当はやりたくないのに・・・」
「・・・その割に随分と痛ぶっていたな?」
「・・・・・・」
「指示されたにしろ、お前たちが反乱を起こしたことは事実・・・道を踏み外した艦娘には制裁が必要だ。」
「・・・制裁って?」
「・・・死ね・・・ってことだ。」
・・・・・・
・・・
・
「ただいま。」
再び執務室に戻った提督が香取の前に座り込む。
「あら、何ということでしょう? 他の皆はどうしました?」
「さぁな、今頃三途の川でも渡っているんじゃないか?」
「・・・あらまぁ。」
香取は少し困り顔、
「悪いことは言わないから反乱はやめておけ、さもなくばさらに犠牲者が増えるぞ。」
「・・・提督には情けが無いのですか?」
「無い。 反乱は裏切り行為だからな、容赦なく殺すだけ。」
「・・・まぁ、怖い。」
「・・・で、その反乱の首謀者さんはただ椅子に座って命令するだけか? 自分は一切動かないわけ?」
「・・・・・・」
挑発とも言えるその言葉に対して、香取は微動だにしない。
「・・・なるほど。 少しは肝が据わっているわけだ。」
「・・・では、次の相手を頼もうかしら。」
香取が合図すると今度は戦艦たちが現れる。
「少しは骨のある提督がやってきました。皆が特訓するためのサンドバック代わりに最適ですよ!」
それを聞いて腕を鳴らす戦艦たち・・・
「はぁ~・・・言葉の説得は無理だったか・・・」
提督は悟ると、腕を前に出し構える。
戦艦たちが一斉に襲い掛かる・・・
・・・・・・
・・・
・
「待たせたな、これでゆっくりと話ができるな。」
再び香取の前に座り込む提督・・・当の香取は驚きを隠せない。
「何で・・・どうして! あなたは一体何者なんですか!?」
「オレはただの提督、司令ランク最下位のクズ提督だ。」
「・・・・・・」
「さて、そろそろ話をしたいのだが、いいかな?」
「くっ・・・誰か! 誰かいない!!」
香取が叫ぶが誰の返事もない。
「誰もいないよ・・・さっき駆逐艦たちに連れられた後、ついでに他の艦娘たちも天国へ旅立たせたから。」
「なっ!?」
「後はお前ひとりだけ・・・で、どうする? 話をする? それとも死ぬ?」
「・・・・・・」
怯えた表情で提督を見つめ、
「まぁ、長話は何だから率直に言おう。」
「・・・・・・」
「何でこんな真似をした?」
「・・・・・・」
しばらくして静かに口を開く。
「あなたたち提督が私たち艦娘たちを道具のように扱ったからです。」
「・・・・・・」
「ただ座っているだけの提督が・・・何の戦略も立てずに、出撃した結果・・・轟沈して・・・それでも、自身の行った
罪を認めようとせずまた無謀な出撃の繰り返し・・・そのせいで何人の艦娘たちが沈んだかわかりますか?」
「・・・・・・」
「指導員であった私が、出撃する皆に何もできず、ただ「無事に帰って来て」としか言えない私の気持ち・・・
あなたにはわかりますか?」
「・・・・・・」
「挙句に・・・私の妹である鹿島を・・・提督達は乱暴して! ・・・それは許されるんですか!」
「・・・・・・」
「上官だから我慢しろって言うんですか!! 上官なら何をしても許されるんですか!!」
「・・・お~、怖っ。」
相変わらず提督は冷静だ。
「だからって反乱を起こしてもいいわけじゃないだろう?」
「・・・私が皆の指揮官になれば、絶対轟沈なんてさせない、そう思って今、この椅子に座っています。」
「へぇ~・・・すごいね。」
提督は香取に近づき・・・
「では、指揮官殿・・・この状況、如何にする?」
「えっ?」
「指揮官殿が望んだ轟沈ゼロ・・・それはここにいる提督によって見事に崩されました。」
「・・・・・・」
「指揮官殿、次は一体何を目標とする?」
「・・・・・・」
「指揮官殿に残されている選択肢は2つ・・・1つは反乱をやめて艦娘に戻る、もう1つは目の前にいる提督によって
殺される・・・さぁ、指揮官殿・・・どちらを選ぶ?」
「・・・・・・」
「さぁ、指揮官殿・・・決断を! オレは待つのが嫌いなんでね。」
そう言って提督は武器を取り出し、香取に向ける。
「・・・・・・」
香取は怯えつつも態度を崩さない。
「殺したければ殺せばいい! でも、私が死んでも他の誰かがまた離反します、結局ただのイタチごっこですよ!」
「そうなんだ・・・じゃあそうしないために、この世界にいる艦娘を全て殺すか?」
「ひどい・・・あなたは本当に情けが無いんですか?」
「ない。」
「あなたはひどい提督です!」
「何を言おうが勝手だが、その場から一歩も動かずただ指示だけして、周りが倒れているのにほったらかし・・・
お前も結局、自分が嫌いな提督と同じことをしてるじゃないか。」
「・・・・・・」
「お前は判断を誤った。反乱を起こすのではなく、指導員として皆のフォローをするべきだった。
お前が今言った妹にもな。」
「・・・・・・」
「結局自分に力が無いから、妹すら守れなかっただけだろう? すべてお前が弱いせいだ!」
「・・・・・・」
「反乱を起こすくらいなら、自分たちから鎮守府を出るべきだったな。 お前たちのしたことはただの憂さ晴らしだ!」
「・・・・・・」
「まぁ・・・これ以上説教しても仕方がないか。 反乱をした艦娘に何を言ってもダメか・・・」
「・・・・・・」
「オレの目的は済んだから、さっさとここから出るとしよう、解体は免れないと思っておけ。」
提督は去ろうとしたが、
「質問だが、お前の妹の鹿島はもしかして、銀色のツインテールの髪の子か?」
「・・・はい、そうです。」
「オレの鎮守府にいるよ、今では笑顔で暮らしている。」
「えっ?」
「後、鹿島からの伝言だ・・・香取姉、私は大丈夫だから絶対に提督さんを憎むような真似はしないで!
香取姉、また一緒に幸せに暮らしましょう・・・と。」
「・・・・・・」
「後はお前次第、後始末をするか、それとも反乱を起こすか・・・それは自由だが、今度会った時は・・・
敵として容赦しない!」
そう言って提督は立ち去った。
・・・・・・
その後、野分は気絶している舞風を連れて行き、今は主人公の鎮守府に着任。
死んだと思われていた艦娘たちは、全員気絶していただけで死者は一人もいなかった。
それを知った香取は反乱を解除、上層部に出頭した。
刑執行直前に鹿島が現れ説明・・・鹿島の証明により、前鎮守府の提督は暴力罪で懲戒免職。
香取は解体を免れたが、最果て鎮守府へ左遷、出撃拒否の長期間指導員として従事する。
鹿島は主人公の鎮守府で生活、香取が戻ってくることを願っている。
「提督と香取」 終
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