「提督と春雨」
鎮守府で避けられている艦娘がいた。
名は春雨、なぜ皆は相手にしないのか?
メインでもサブでもない物語です。
最近皆から避けられている気がする、村雨姉さんにも・・・
遠征でしか役に立てないからかな・・・
出撃で戦果を挙げられないからかな・・・
春雨の頭で必死に考えたけど、わからない・・・
ただ、春雨を避けるのはやめてほしいな・・・
話しかけても・・・挨拶しても・・・
誰も振り向いてくれない・・・
誰でもいいから・・・誰か返事して・・・
・・・・・・
誰か・・・
パシャっ!!
えっ?
目の前にフラッシュが見え、顔を上げると、
そこには一人の男の人が立っていた。
「・・・・・・」
憲兵さんかな? と私は思った。
「何してるんですか?」 と聞くと、
「無防備だったから」と私の写真を撮っていた。
「暇なのか?」
憲兵さんの問いに、
「誰も相手にしてくれないんです。」
私はまたうつむいた。
「ならオレが構ってあげようか?」
「・・・・・・」
本来ならば断わるはずなのだが、寂しさを紛らわせたい気持ちがあったのだろう・・・
「はい・・・お願いします。」
春雨は憲兵さんについていった。
憲兵さんは優しい人だった。
お腹が空いたと言えば、売店でご飯を買ってくれたり、遊びたいとお願いすれば、
公園へ連れて行ってくれたり・・・むしろ私は楽しかった。
後は色々お話をして・・・
遠征で失敗して落ち込んだことや、村雨姉さんにこの前褒められたこと等、身の回りの事ばかり・・・
でも、憲兵さんは「そうか、そうか」と言いつつ私の頭を撫でてくれた。
懐かしい温もりを感じた・・・
「そろそろお姉さんのいるところへ帰りなさい。」
憲兵さんに言われるが、
「私、まだここにいたいです。」
と帰ることを拒んだ。
「どうして?」
憲兵さんに聞かれ、
「・・・・・・」
最近皆に、そして村雨姉さんに避けられていることを打ち明けた。
「それは違うよ。」
「えっ・・・」
一瞬憲兵さんの言葉に首を傾げた。
「・・・おいで。」
憲兵さんは私をある場所へ連れて行った。
私が見た光景、それは・・・
「えっ!?」
目の前に何故かもう一人の私がいました。
「どうして・・・なんで私がもう一人・・・」
戸惑っていると、
「実は・・・」
憲兵さんはポケットから、
「さっき撮った写真だよ。」
春雨に渡す・・・そこには・・・
「・・・・・・」
何も映っていない・・・
「・・・・・・」
あ・・・
ああ・・・
そうだったんだ・・・
私・・・沈んでいたんだ・・・
そう思ったとき、記憶が蘇った。
出撃で戦果を挙げられず提督から叱られ、遠征でもミスをして皆に怒られたりで、
気持ちのやり場がなかった私は単艦で海に飛び出し・・・そこで、敵の砲撃を受けて・・・沈んだ・・・
「そう。」
憲兵は口を開く。
「皆が避けていたのはただ春雨が見えていなかっただけ。」
「・・・・・・」
「皆が暗かったのは、春雨が倒れて悲しんでいたから。」
「・・・・・・」
「ほら、見てみろ。」
憲兵さんが指をさす。
そこには、ドッグで目を閉じている春雨に皆が涙している光景、その中には・・・村雨姉さんもいた。
「確かに皆から叱られてやけになった気持ちはわかる。」
「・・・・・・」
「でも、それは皆が春雨を心配していたから。見てみろ、皆泣いているだろう?
本当に春雨が嫌いだったら涙なんか流さないだろう?」
「・・・・・・」
春雨の瞳から涙が溢れた。
「わかってほしい、春雨。お前は皆から頼りにされているんだ。失敗しても怒られてもいいじゃないか、
皆のために頑張ればそれでいいじゃないか。」
「・・・はい。」
「わかったなら早く体に戻りな。」
「ふぇっ?」
「何だ? 死んだと思っていたのか?」
憲兵さんによると私は沈んだのではなく、砲撃を受け、意識不明で運ばれ幽体離脱した状態だという。
「私、まだ生きているんですか?」
春雨が震える。
「ああ、お前はまだ生きてる。」
「憲兵さん・・・じゃないですよね? あなたは誰?」
「オレは・・・」
後ろに隠し持っていた大鎌を出す。
「・・・死神だ。」
「死神・・・」
死神ってもっと怖いイメージがあったけど・・・
「それで・・・」
「?」
「お前はまだ、生きたいか?」
「・・・はい! まだ生きたいです!」
「・・・よし!」
死神は春雨に手をやる。
「生きていれば必ずいいことがある・・・決して諦めるな・・・頑張れよ。」
・・・・・・
・・・
・
「春雨!」
目が覚めると、目の前に村雨姉さんがいた。
「・・・村雨姉さん?」
「目が覚めた? よかった~!」
村雨は抱き寄せる。
「心配かけて・・・」
「・・・ごめんなさい。」
死神さんの時と同じように感じた温もり・・・私は改めて感じた・・・
私は・・・一人じゃない・・・と。
「提督と春雨」 終
春雨が村雨のいる鎮守府にやってくる話も考え中~。
死神様は寿命が来た命を正しく天国に導いてくれる神様。皆が想像するような神様じゃないんだよね。