「なりすまし」
いつもと変わらぬ提督と村雨の1日のはずが・・・
「提督、夕食が出来ましたよ~♪」
村雨が夕食の準備をし、
「それでは、いただきます~♪」
2人手を合わせて、夕食を摂る・・・普段と変わらぬ夫婦の食卓である。
「うん、美味しい。 今日は普段と違って味付けも変わっていていいね。」
「本当ですか? ありがとうございます~♪」
村雨は喜ぶも、気のせいか少し焦った表情をしている。
「さてと、オレは風呂でも洗って来るかな。」
提督は立ち上がると、風呂場へと向かう。
「・・・・・・」
提督が去ったのを確認すると、村雨は部屋へと向かう。
「ここには無い・・・じゃあここは? ・・・ここも無い。」
部屋に入るなり、棚や押し入れを物色し始める村雨。
「全然見つからない・・・どこに蓄えを隠しているのよ?」
村雨は何故か怒り心頭である。
「上手くすり替わって、店に侵入出来たまでは良かったのに・・・こんな事なら、本人に直接お金の在処を聞いとけばよかったわ。」
村雨は「はぁ~」っとため息をつく。
・・・・・・
「今日は久々の休日ね~♪」
堤防をステップしながら歩いて行く村雨。
「白露たちも休日が合って、久しぶりの姉妹での女子会。 どんな話が聞けるかしら~♪」
どうやら村雨は白露たちとどこかで待ち合わせをしているようだ。
「時間は・・・まだ余裕ね♪ 少し寄り道してクッキーやチョコレートでも差し入れしようかしら。」
そう言って、脇道に入り駄菓子屋へと向かって行く村雨。
「・・・・・・」
村雨を影で見つめる1人の女性がいた。
「おばちゃん、これとこれを下さい!」
籠に沢山のお菓子を詰め、勘定を済ませる村雨。
「よし、時間もいい頃ね。 後はそのまま白露たちが待つ喫茶店へ直行すれば・・・」
そう思い、駄菓子屋から出た人気のない細い道に入った時である。
「!?」
背後から誰かに口を塞がれる。
「んんっ・・・」
塗れたガーゼに薬品を仕込まれていたのか、抵抗も出来ずに意識を失う。
「・・・・・・」
女性は倒れた村雨を担いでその場から去る。
「これでよし、っと。」
村雨を何かの箱に入れて蓋を閉じる。
「私の目的が終わるまで、しばらく大人しくしていてね。」
鍵を掛けると、女性は元来た道を戻る。
・・・・・・
「村雨~、風呂が沸いたぞ。」
部屋に提督が入って来た。
「て、提督!?」
偽村雨は提督を見て驚く。
「? どうした村雨? そんなに驚いて?」
提督は不思議そうに首を傾げ、
「・・・と言うか、何で棚をそんなに開けているんだ? 探し物か?」
「・・・そ、そうなんです! 欲しい物があってどこに片づけて置いたかな~って。」
焦りつつも、何とかごまかそうとする。
「そうか、取り込み中のようだからオレが先に入るね。」
そう言って、提督は部屋から出て行く。
「・・・ふぅ~。」
安心したのか深呼吸をする偽村雨。
「びっくりした・・・このタイミングで提督に見られるなんて。」
偽村雨は棚を整理しつつ、
「でも、私の事を全く疑っていない・・・この店の村雨は余程愛されているのね。」
急にぼそぼそと呟き始める偽村雨。
入浴を終え、就寝になり、
「それじゃあ消すよ・・・おやすみ。」
「おやすみなさい~♪」
1つの布団に2人が入って就寝する。
「はぁ~。」
偽村雨はまたもため息をつく。
「寝る時も一緒なわけ? どれだけ一緒なのよ、この店の村雨は!」
偽村雨は提督を起こさないように、ゆっくりと布団から出る。
「しかも、提督が「今日は一緒に入ら(入浴し)ないの?」って・・・”何で一緒に入らないと行けないわけ?” よね~。」
不満を漏らしながら店内を捜索する。
「棚には無かったからどこかに金庫があるとか?」
今度は店内を見回す偽村雨。
「早くお金を見つけないと! 長居は無用よ。」
そう言って、深夜だと言うのに捜索する偽村雨。
結局どこを探しても金庫など見つからなく、疲れ果てた偽村雨は渋々提督の入る布団に戻って行った。
・・・・・・
翌朝になり、
「おい、起きろ村雨! 朝だぞ!」
「う、う~ん。」
提督に言われて目が覚める偽村雨。
「・・・まだ朝の5時じゃないですか? どうしたんですか、こんな早くに?」
寝るのが遅かったせいか、大欠伸をする偽村雨に、
「どうしたのも何も今から仕込みだろ? オレは裏口で調理・・・村雨は店内の掃除と暖簾を掛けないと。」
「・・・・・・」
「何だ? 昨日の久々の休みでまだ休日ボケが抜けてないのか?」
「! い、いえ! すぐに行います!」
素性がバレるのを恐れたのか、すぐに起き上がり店内の掃除を始める。
「はぁ~、何で私がこんな事を・・・」
店内の掃除をしながら深いため息をつく。
「本当ならすぐにお金を見つけて奪った後、拠点に戻る手筈だったのに・・・」
それでも、文句を言えず渋々掃除を続ける偽村雨。
「それ以上に提督に私が偽物とバレたら、それどころじゃなくなる・・・ここは上手く演技をして機会を伺わないと。」
以降、提督の態度を気にしつつも作業に従事する偽村雨。
いつもと変わらぬ1日の作業だが、ただ店の資金を盗むためだけに入った偽村雨にとってはある意味地獄だったようで、
「やっと今日の仕事が終わったぁ~!!」
余程疲れたのか、大きく伸びをする偽村雨。
「・・・と言うか、いつもこんな重労働してるの、ここの村雨は!?」
店の女将としての役割が大変な事に気付きつつ、
「は、早くお金を見つけないと! このままじゃ、ずっとこんな重労働をさせられる! 私はもう嫌よ!」
そう言って、ただ機会を伺う偽村雨。
しかし、本人の願いとは裏腹に次の日も、その次の日も作業に追われて・・・1日の作業が終わる頃には沈んでいた。
「私、選んだ場所を間違えたかしら・・・」
あまりの多忙さに「ここから逃げよう」とも思っていたが、
「でも、目的を終えていない私に・・・帰る場所なんてない。」
偽村雨は過去を振り返る。
・・・・・・
・・・
・
私がいる鎮守府の提督は・・・とても怖い人である。
任務失敗で拷問に近い体罰を受け、食事も休憩も満足に摂らせてくれない。
任務に成功しても「当たりだろ!」と意見した仲間を叱責したり殴ったり・・・誰も逆らえない。
任務を失敗しても、提督は解体と言う処罰はしない・・・
「解体して戻って来る資源は微々たるもの、それならお前たちから永遠に搾り取った方がいいだろう?」
提督はあざ笑いながら大破した仲間たちに言い寄っていたっけ?
それなら、解体の方が遥かにいい・・・と皆思っている。
改装練度に達しても、すぐには改装してくれない。
”各員に特別な任務を与えられ、それが達成出来て初めて改装の権利を与えられる。”
特別な任務と言っても、ほとんどが法的に反する内容。
”あいつを殺せ”とか、”他の鎮守府から装備品を奪ってこい”や”金品を盗んで来い”等、はっきり言って人のする事じゃない!
失敗しても全責任は艦娘に押し付け、提督は雲隠れする・・・本当に最悪な人間よ。
そんな特別任務を終え、改装した仲間のほとんどが、未改装の仲間に目もくれず主力として活躍している。
それはそうよね・・・任務を失敗しようものなら、改装前より酷い仕打ちを受けるんだから。
そう、”自分の事だけで精一杯”よね・・・
・・・・・・
・・・
・
「そして私も、更なる改装の練度に達したけど・・・」
当然、偽村雨にも特別任務を与えられていて、
「”今鎮守府は経済が悪化している、金がありそうな所へ侵入して金品を強奪して来い”・・・これが私の
更なる改装を与えられる条件。」
正直、彼女はやりたくなかったが、
「でも、これを達成出来ないと改装案は取り消し。 役立たずの烙印を押されて地下牢へ幽閉される・・・」
特別任務の失敗は通常の任務の失敗よりも過酷のようだ。
「盗みがバレたら掴まって処罰、失敗したら地下牢へ幽閉・・・私に残された道は、任務達成しか無いのよ!」
そう言い聞かせ、資金の在処と盗む機会をジッと伺う偽村雨。
・・・・・・
しかし、意外な理由で計画が進む事になる。
それは、提督が急遽店を臨時休業した時の事、
「提督、何をしているんですか?」
突然の臨時休業の上に、提督が何やら大きめの袋に何かをたくさん詰め込んでいる。
「・・・・・・」
偽村雨は気づく、大きな袋に入れている物・・・それは札束である。
「そ、そんなにたくさんのお札をどうするのですか?」
盗むのに絶好の機会と判断した偽村雨、まずは悟られないように慎重に行動する。
「どうするって、今日は特別な日・・・だから大金が必要なんだ。」
「・・・・・・」
この時、偽村雨は「愛人に貢ぎに行くのかしら?」 「何か高価な物を買うのかしら?」程度な気持ちだった。
「さてと、金は準備出来た、と。 そろそろ出ようかな。」
そう言って、提督は立ち上がり店を出ようとして、
「私も一緒に行ってもよろしいでしょうか?」
偽村雨は同行したいと願い出る。
「村雨も? 珍しいな・・・まぁ、別にいいけど。」
村雨は普段は店に残っている、提督は不思議に思いつつも同行を許可する。
「ありがとうございます!」
すぐに着替えて外に出る。
「後は、隙を見てあの袋を奪って・・・鎮守府に戻れば。」
そう言い聞かせ、提督の後ろについて行く。
・・・・・・
着いた場所は、割烹亭。
「・・・同業者の店? まさかここに愛人が?」
偽村雨が不思議に思っている内に、提督は店内に入る。
「いらっしゃいませ・・・あら、提督とそれに、村雨ちゃんではありませんか。」
割烹亭の女将である、翔鶴が席に案内する。
「久しぶり、少し話をしていいかな?」
「話、ですか? ・・・そうですね、お昼の休憩がもう少しですので待っていただけませんか?」
翔鶴の指示に従い、客席で待たせてもらう2人。
「お待たせしました、それでご用件は何でしょう?」
翔鶴が椅子に座ると、提督が口を開く。
「相変わらずこの店は見事な人気店ぶりだ。 朝から晩まで行列が止まないな!」
翔鶴の店は主に和定食、料理店ランキングTop5に入っており、連日客の長蛇の列が絶え間なく続いている。
「はい、それも提督が私が店を開くために資金援助をしてくれたおかげですよ。」
提督と翔鶴は元々上官と部下の関係、翔鶴が艦娘を辞める際にも相談に応じ、店を開くための資金まで援助したのだ。
「それで提督、わざわざここに来たのは一体・・・」
翔鶴の質問に、
「うん、今日は特別で大事な日だからな。」
「? 特別な日、ですか?」
翔鶴は首を傾げる。
「単刀直入に言おう・・・今月の時点でいくら赤字が続いている?」
「・・・・・・」
翔鶴は急に無言になる。
「物価の急騰、農作物の不作に干ばつ続き・・・本当なら、値段を上げざるを得ない状況なのに、
足を運んでくれるお客さんのため、値段を変えずに営業を続けている。そうなれば赤字になるのは分かり切っているだろ?」
提督の言葉に、
「・・・相変わらず読みが早いですね、提督は。」
翔鶴は静かに口を開く、
「もう一度聞くけど、今月の時点でいくら赤字なんだ?」
「・・・6か月連続の赤字続きで、約500万円の損失です。」
翔鶴は渋々答える。
「そうか、ならオレが翔鶴に1000万出す、この金で今後の生活に役立ててくれ。」
何と提督は翔鶴の前に1000万円を直に出す。
「!? 提督、そんな! 私、こんな大金は頂けません!!」
普通ならそうであろう、いくら経営不振だからと言って、目の前にいきなり大金を積まれて”嬉しい”と思う人間はそうはいない。
しかも、相手が元上官ともなれば尚更である。
「だから、今日は特別な日だって。 オレの鎮守府に着任する際にある契約書を書いて貰った事を忘れたか?」
「? ある契約書ですか?」
翔鶴は思い出す。
「・・・確かに、何かの契約書を提出した記憶はあります。」
「うん、因みにこれね。」
提督が翔鶴に書いて貰った契約書を見せる。
「ここを見ろ・・・”オレの鎮守府に着任した艦娘は、生活が困惑する状況になれば上官からの援助を受ける権利を得られる”と。」
「・・・・・・」
「翔鶴は鎮守府から去って割烹亭を開いたけど、解体はしていない。 つまりまだ艦娘のままだ。
よって、この契約書に従い生活が困惑していると認定し、オレが援助をする。」
そう言って、1000万円の上に契約書を置き、
「店を続けろ、翔鶴の料理が食べたくて待ち望んでいるお客さんがたくさんいる。 また生活に支障をきたすなら
迷わずオレの店に来い、分かったな?」
そう言って、提督は店から出る。
「提督・・・ありがとうございます!」
翔鶴は後姿を見ながら深く礼をする。
・・・・・・
「あのぅ、提督?」
偽村雨は尋ねる。
「まさかこの大金全部・・・」
予想はしていたが、その通りに、
「うん、援助資金だが?」
提督はきっぱりと答える。
「いや、何か勿体なくないですか?」
偽村雨が反論して、
「自分のために使えばいいじゃないですか、元部下だからってそんな援助なんかしなくったって!
それに翔鶴さんだって、提督にわざわざ頼んだわけでは無いのに。」
金は自分のために使う、偽村雨のいた鎮守府ではまさにそれが方針だ。
他人を気遣う余裕なんてない、僅かに与えられる資金でどう生活して行くか、自分の生活の事で精一杯だった。
「オレは生活して行くには困らない資金があれば十分だし、余っても天国には持って行けないからな。」
「・・・・・・」
「それだったら、オレと関係があった仲間や部下に支援するのも悪くないと思ってね。」
そう言って、提督は次の場所へと進んでいく。
コンコン、
どこかの寮であろう扉を叩く提督、
「あっ、アドミラールさん。 コホコホッ。」
中から出てきたのは、ドイツ艦のプリンツ。 ビスマルク・Z1・Z3と一緒に寮生活をしていたが、
プリンツを除く全員は鎮守府で活躍中である。
「ほら、半年分の生活費。」
そう言って、溢れる程札束が入った中袋をプリンツに手渡す。
「あ、アドミラールさん!? だ、ダンケ・・・」
申し訳なさそうに受け取るも、素直に礼を言う。
「また半年後に来るから、じゃあね。」
提督はそのまま寮から出て行く。
「提督って物好きなんですね・・・」
偽村雨はぼそっと呟く。
「他人に躊躇せずにお金を支給して・・・自分のために使えばいいのに、バカみたい。」
機会を見て盗もうと考えていた物の、せめて使い道だけでも確認したかった偽村雨。
それが、予想と大幅に違い他人への援助だった事に呆れる偽村雨。
「プリンツは働けない体なんだ。」
提督は口を開く。
「前にZ1達と一緒に寮生活をしていた時に、戦力外通告をされたようでね・・・プリンツはZ1達の生活のために、
夜の仕事に通っていたそうだ。」
「? 夜の仕事って?」
「分かるだろう、”体を売っていたんだ”。」
「・・・・・・」
「それが元で、原因不明の病に掛かってしまって・・・今では、ほとんど寝たきりでビスマルクたちは業務終了後は
毎日のように寮へ行ってプリンツの世話をしているんだって。」
「・・・・・・」
「プリンツはオレの鎮守府に着任していなかったけど、ビスマルクがいたからオレも彼女のために
援助をしてやろうと思ってな。」
事情を説明し、提督は次の目的地へと向かう。
その後も、提督にとって関係があった鎮守府や艦娘に会い、資金を渡して次の目的地に向かうの繰り返し。
最初は盗む事しか考えていなかった偽村雨の考えが徐々に変わって来たのか、
「私にもお手伝いさせてください!」
と、自らも手伝う・・・下手をすれば、素性がバレてしまうかもしれないのに。
・・・・・・
「よし、これで全部かな。」
空になった袋を畳むと、
「じゃあ帰るか村雨。」
提督は元来た道を進んでいく。
「・・・・・・」
偽村雨の心境は複雑だ。
本当なら隙を見て資金を盗み、鎮守府へ帰還する手筈だった・・・
しかし、提督の部下や仲間に対しての思いやりに、最初は”バカみたい”と思っていたのが、
「この提督は本当に皆を大切にしている・・・それに躊躇なく資金を渡して提督には欲が無いの?」
と感じ、
「それなのに私は・・・人様の資金を盗もうと思っていた、いくら自分のためだとは言え・・・」
悩んだ末に、
「やっぱり無理、私にはそんなこと出来ない・・・こんな思いやりのある人から資金を盗み出すなんて。」
いつの間にか、偽村雨は改心していた。
・・・・・・
店に戻り、
「提督、相談したいことがあります。」
偽村雨の突然の相談、
「? どうした村雨?」
提督は相談に応じる。
「・・・・・・」
これ以上提督に私が偽物だって嘘を付けない、それに本人をあそこに閉じ込めて数日は経っている。
早く出してあげないと手遅れになる。 任務は未達成で、改装案は取り消しの上に地下牢に幽閉・・・でも私はそれ相応の
悪事を働こうとしたんだから、当然の報いよね?
偽村雨は覚悟を決めていた、全てを話して楽になりたかったのだろう。
しかし、提督の口から発せられた驚くべき一言が、
「もしかして、君が偽物だって事かな?」
「!? 知っていたのですか!? いつからです!?」
偽村雨は驚きを隠せない。
「数日前から。 いくら姿が一緒でも毎日一緒にいるんだから、しぐさの違いですぐに気づくよ。」
「・・・・・・」
偽村雨は拍子抜ける。
「嫁さんなら今頃、海風と一緒に小旅行を満喫している頃だよ。」
提督は笑いながら答える。
「・・・それで、なりすました理由は? 何か訳がありそうだけど?」
提督の質問に、
「・・・・・・」
もう後には引けない・・・自供して罪を軽くしてもらうか、素直に処罰を受けるかの両方の気持ちを持っていた偽村雨。
「本当に申し訳ありません、私は・・・」
偽村雨は事情を話す。
・・・・・・
「そうだったのか・・・それは酷い提督だね。」
偽村雨を激したり、怒鳴ったりするわけでも無い・・・ただ納得する提督。
「・・・・・・」
当然、偽村雨も提督の態度に驚いている。
「そんな鎮守府、出て行けばいいんじゃない?」
提督の言葉に、
「それは出来ません・・・大した戦果を取れていない私を、一体どこの鎮守府が引き取ってくれると言うのですか?」
偽村雨の言い分に、
「さぁね、でも今いる鎮守府から出て行った方が気持ち的に楽なはずだと思うけど?」
「・・・・・・」
「まぁ、オレもあまり無責任な事を言うのもなぁ・・・少し待ってろ。」
そう言って、提督は電話を取り、
「もしもし・・・ああ蒼龍? ちょっと調べて欲しいんだけど・・・」
・・・10分後、
「本当か? それは助かる、店に来たらご馳走するよ。 それじゃあ!」
提督が電話を切る。
「調べたらちょうど1つ、オレの同期の鎮守府が空いていたけど・・・そこに着任する?」
「えっ?」
「どうする? 前いた暴力提督がいる鎮守府に戻るか、新たな生活を目指して別の鎮守府に異動するかはお前次第だ。」
「・・・・・・」
偽村雨は考えるも、
「異動、したいです。 でも、あの提督が異動を許可してくれるとは到底思えません。」
顔を俯き、沈黙する。
「う~ん・・・あまり昔の肩書きを使いたくないんだけどなぁ~。」
提督は悩むも、
「でも、オレの嫁さんの瓜二つの女の子が困っているんだ・・・約束が守れるなら、オレが少し助けてやってもいいけど?」
「約束・・・何を守ればいいのですか?」
偽村雨は顔を上げる。
「絶対に約束を守ります!」の言葉を信じ、提督は偽村雨にある言葉を伝えた。
・・・・・・
・・・
・
偽村雨は貰った異動申請書を持って、鎮守府に戻る。
当然ながら渡された提督は驚き、激怒する。
「任務を達成出来ずにのこのこ帰って来たお前が異動申請だと!? ふざけるのもいい加減にしろ!!」
「・・・・・・」
偽村雨は内心は怖くて仕方がなかった、抗議しようものなら仲間の様に拷問に近い暴力を受けると思ったからだ。
「当然却下だ! お前の改装案は取り消し、そして地下牢で一生いろ!!」
予想した通り、異動を却下され、任務を失敗した事で改装案の取り消し・地下牢行きとなる。
「・・・・・・」
偽村雨は悩んでいる・・・それは、店にいた提督から伝えられた”ある言葉”である。
”もし、異動を却下されたらこの言葉を言って見ろ。”
「・・・・・・」
「本当に通用するのかな?」と不安な偽村雨・・・でも、自分の新たな生活のため、今更引けない。
偽村雨は勇気を振り絞って提督に一言叫ぶ。
「煉獄・・・」
「はっ? 今何て言ったんだ?」
提督は偽村雨が何を言ったのか理解出来なかったが、
「”煉獄が貴方によろしく”・・・と言っていました。」
当然、偽村雨にもその言葉の意味は分かっていないが、
「お、お前・・・会ったのか、あいつに!?」
何故か提督が震えだし、
「じゃあお前が盗みに入った家は、あいつの!? じょ、冗談じゃない!!」
提督は慌てふためき、
「今すぐ出て行け! お前はもうここの鎮守府の艦娘じゃない! 荷物をまとめてさっさと消えろ!!」
先程まで拒否していたのが急に異動を許可した提督。
・・・・・・
「ただいま戻りました~♪」
数日ぶりに村雨と海風が帰宅する。
「村雨おかえり~、そして海風・・・助かったよ。」
提督は海風に礼を言う。
「いえ・・・海風は提督の指示で動いただけです。 でも、宿泊旅行はとても楽しかったですよ♪」
そう言って、旅行先で買ったであろうお土産を提督に渡す海風。
実は村雨が閉じ込められてから時間を置かず(半日以内)に、海風が救助をしており、
そのまま旅行先に移動していた2人、村雨が目覚めた時には既に旅行先で記憶も曖昧だったため、
何の疑問も感じず、旅行を満喫していた村雨だった。
・・・それ以上に、何故提督は村雨が閉じ込められた場所を瞬時に把握出来たのかは今でも謎である。
・・・・・・
・・・
・
1か月後、
ここは鬼提督がいる鎮守府、
「久しぶりだな、無能提督!」
同期である鬼提督と元提督の久々の再会、
「今回は食堂の大型冷蔵庫と大浴場の風呂場を修復して欲しい!」
鬼提督に鎮守府内の雑用(修復)を頼まれた元提督。
「了解しました、すぐに作業に移ります。」
そう言って、先に食堂へと向かう元提督。
「あれ? 君とは初対面かな?」
廊下で見慣れない艦娘と出会い、「おはよう!」と声を掛ける。
「・・・(照)」
彼女は何も言わず、何故か恥ずかしそうに会釈をしてすぐに立ち去る。
「う~ん、誰だったかな・・・もしかして最近着任した新艦娘かな?」
悩んでいると今度は蒼龍と会い、
「お疲れ様です、提督!」
「ああ、お疲れ様。」
「どうしたんです? 廊下のど真ん中で何か考え事ですか?」
蒼龍の質問に、
「ああ・・・さっき初対面らしき艦娘に出会ってね。」
そう言って、先ほど会った艦娘の特徴を言うと、
「あらぁ、まぁ・・・提督は知らなかったのですね~(笑)」
蒼龍が何故かクスクスっと笑う。
「? 何だ、何がおかしい?」
「うふふっ、何でもありませんよ~っと。」
蒼龍は微笑みながらその場から去る。
後に、廊下で会った彼女が、嫁になりすましていた村雨だという事を知る。
更なる改装で姿が別人の様に変わっており、提督は気づかなかったようだ。
彼女はあの後、鬼提督の鎮守府に無事着任。
今では幸せに生活が出来ていると蒼龍からの報告で分かった。
「なりすまし」 終
冷静に考えると幽閉して村雨を2日くらい放っておくって地味にヤバイな。
おトイレ的な意味で。
ここの村雨は随分と
波乱万丈な生活してますなぁ
旦那がトラブルメーカーだから
ナリすましwwwwwカラサワタカヒロ(ボソッ