「村雨と春雨」
村雨の事が好きな春雨。 ある日を境に村雨と会えなくなり・・・
「村雨姉さん・・・」
そう呟くのは、村雨の妹である春雨・・・
2人の鎮守府は別で、月に1,2回村雨が春雨に会いに来るのである。
村雨も春雨を可愛がっていて、会うときには必ずお小遣いを渡すほど。
会って2人で行く場所は公園や喫茶店位で遠くへは行かない。
それでも、春雨は気にしていなく、むしろ春雨にとって場所が問題なのではなく村雨姉さんといられる時間が一番幸せなのだ。
話はほぼ春雨に関しての内容・・・遠征で失敗したとか出撃で大破して皆に迷惑を掛けたとか・・・
村雨はそれを聞くたびに「うんうん、春雨は頑張ってる」と励まし、よしよしと頭を撫でてあげる。
春雨はそんな村雨の事が大好きである。
ある月に入った頃・・・
月に1度は必ず会いに来る村雨が今月は1度も来なかった。
春雨は「仕事で忙しいのかな?」と本当は寂しいけど我慢していたが、翌月も半分が過ぎても来てくれず
鎮守府の外でずっと待ち続けていた。
「村雨姉さん・・」
その日は大雨で、春雨はずぶ濡れになった。
「今日も・・・来ない・・・」
朝から夕方までずっと待っている春雨・・・彼女は人見知りではないが、いつもおどおどしており、
人と話すのが苦手である。 困ったときは必ず村雨に相談していたため周りに溶け込めていないのも問題の一つである。
「村雨姉さん・・・」
空に向かって呟くが、その願いは儚く届くことはなかった。
心配になった駆逐艦の仲間が春雨に話しかけてようやく鎮守府内に入る春雨・・・毎日そんな生活だった。
翌日の朝から・・・
遠征任務が終わってからすぐに外で待っていることも・・・
春雨は待ち続けた・・・でも、村雨は・・・来なかった。
「村雨姉さん・・・」
最初は仕事で忙しいと思っていたが、ずっと会えない期間が続くと春雨もよからぬ想像をし始める。
「もしかして、村雨姉さんは・・・負傷して意識不明になったとか・・・」
あくまで春雨の思い込みだが・・・否定はできない。
実は、春雨がいる鎮守府でも、度々被弾して意識不明になった艦娘や最悪の場合、沈んだ艦娘も少なからずいた。
別の鎮守府の情報は艦娘には教えてもらえないため、春雨は余計に不安になったのである。
「村雨姉さん・・・大丈夫だよね? 沈んで・・・ないよね?」
身体を震わせながら村雨の安否を気遣う春雨、でももし沈んでいたら・・・もし意識不明だったら・・・
「嫌だよ・・・そんなの嫌・・・」
堪えきれなくなり泣いてしまう・・・思い込みであるが・・・それだけ村雨の事を心配していた。
「村雨姉さん・・・」
ただ春雨にできることは・・・無事であるのを祈るだけ・・・本当にそれだけである。
・・・・・・
・・・
・
しかし、残念なことにその心配は杞憂であった。
今月の終わりになった頃、村雨が会いに来た・・・春雨は嬉しくて飛びついた。
「会いたかったよぉ・・・寂しくて・・・悲しくて・・・辛かったです。」
「ごめんごめん・・・ちょっと鎮守府で色々あってね・・・」
村雨はよしよしと頭を撫でてあげる。
「? 何かあったのですか?」
いつもは春雨の話から始めるのだが、今回は春雨が村雨に質問した。
「う~ん・・・実はね・・・」
村雨は少しずつ説明した。
「司令官が鎮守府を追い出された?」
「うん・・・戦績が悪くて上から退去命令を出されてね・・・」
「・・・・・・」
「実際は戦果は取っていたんだけど、全て上に持って行かれちゃって・・・要は横取りされたってこと。
でも、提督は全く気にもしていなく退去命令されたときも、文句ひとつ言わず去ってしまったの。」
「・・・・・・」
「私は提督に何度も助けられたから・・・せめて提督の身の回りのお世話をしたくて提督の側にお仕えしていたの。」
「・・・・・・」
ああ・・・村雨姉さんが来れなかったのは、司令官のために尽くしていたからなんだ。
「それで、司令官はどうなったんです?」
「しばらくしてまた鎮守府に戻ったわ・・・提督の力がまた必要だとか言って上が許可したの。」
「そうなんですか~。」
「それで、その時に提督から・・・これを渡されて・・・」
村雨の指に光るもの・・・指輪だった。
「村雨姉さん・・・それって。」
「うん・・・提督は私に「これからもオレと鎮守府を支えてほしい」と言ってこれを渡してくれたの。
嬉しくて私も「頑張ります!」って張り切っちゃった。」
「・・・・・・」
村雨の笑顔を見て春雨は嬉しかった・・・こんなにも笑顔の村雨を見るのは初めてだったから・・・
「幸せになって下さいね。」
春雨はお祝いの言葉を言った。
「ありがとう、春雨。」
そう言って村雨は頭を撫でてあげる。
「じゃあ今日は・・・どこへ行く?」
村雨が行き先を尋ねると・・・
「村雨姉さんが行く場所ならどこへでも。」
「そう・・・わかった。」
村雨は春雨の手を掴むと、一緒に歩いて行った。
・・・・・・
それ以降は、いつものように月に1,2回の再会に戻った。
春雨は「ケッコンしたのにいいんですか?」と心配になって聞くが、
「提督は提督、春雨は春雨よ・・・それに月に数回しか会えないんだから、私へのご褒美として大目に見てもらってもいいでしょ。」
村雨が笑顔で答える。
「・・・・・・」
村雨姉さん・・・とても・・・幸せそう。
「さぁ、行きましょう。 せっかくの2人の時間なんだし。」
「・・・はい、村雨姉さん。」
2人はまた、決めていない行き先へと歩いて行った。
「村雨と春雨」 終
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