「提督が何故か皆に無視される。」
提督が突如、艦娘たちに無視される(相手にされない)ようになり・・・
理由は後半で分かります、ちょっと切ない結末です。
いつからだろう・・・
皆がオレの事を無視するようになった。
特別嫌われているわけでもない。
皆と普通に接していたし、楽しく会話をしていたのに・・・
「おはよう、皆!」
廊下でも食堂でもオレは元気よく挨拶するが・・・誰も返してくれない。
「榛名、今日の日程だけど・・・」
秘書艦は榛名、今日行う資料と出撃と遠征の編成内容を伝えようとするが、
「榛名? 聞いているのか榛名?」
彼女はオレの話を聞こうとしない。
「榛名、こっちを見てくれ! ・・・聞いているのか榛名!」
少し声を荒げて話すが、最後まで榛名はオレの話を聞こうとしない。
「・・・?」
気になったのは、何故か榛名は泣いていた事だ。
「どうした、何かあったの?」
心配になって声を掛けるも・・・
「・・・・・・」
やはり提督を無視する榛名、
「分かった、もう勝手にしてくれ。」
そう言って、1人で書類整理を始める提督。
・・・・・・
その後も、食堂や工廠場で艦娘たちと会うが・・・誰1人提督に話す艦娘はいない。
「はぁ~・・・オレは何かしたのかな? 急にオレの事を無視するようになって。」
提督は考えるが、全く心当たりがない。
「命令に不満があるとか? それならどうして直接言ってくれないんだ?」
もし、命令に不満があるなら遠慮なく言って欲しいと事前に伝えている提督だが、
「誰も言わないし、誰も異議申し立てをしない・・・会話が無いとオレも動けないし・・・」
コミュニケーションが取れない以上は対策が取れない提督。
「ふぁ~、眠い・・・今日も朝から書類をまとめないと。」
提督の朝は早い、早朝4,5時の起床から執務室に向かって大量の書類を整理するのがいつもの日課。
「・・・最後に休んだのはいつだっけ?」
提督は廊下を歩きながら思い出すが、
「・・・全く覚えてない、先月の中旬以降休んでいたっけ?」
今はその来月の末、提督が言っていることが確かなら、丸1,5カ月休んでいないことになる。
「榛名や皆に手伝ってもらいたいけど・・・」
彼女たちは海を護る重要な任務がある。そんな彼女たちに更に仕事をさせると言うのは、
提督自身抵抗があり、彼女たちに頼めなかった。
「榛名たちも、「1人では無茶です、もっと私たちに頼って下さい!」って言ってくれていたが・・・」
それでも、一度決めたからには1人で頑張ろうとした提督。
「・・・もしかして、その事で皆はオレを無視するのかなぁ。」
手伝ってもらうのは悪いと思って、気遣った行為が逆に「私たちは必要ないのでは?」と思ってしまったのか?
「もしそうなら、会ったら謝らないと。」
そう思いつつ、執務室に向かう提督。
・・・・・・
朝6時、
榛名が執務室に入ってくる。
「榛名、ちょっといいかな?」
提督が話しかけるが、
「・・・・・・」
やはり榛名は提督の事を無視する。
「・・・榛名、聞いていなくてもいい。でも、これだけは言わせてくれ。」
提督は榛名に向かって話し始める、
「榛名や皆はいつも頑張ってくれている、それなのに鎮守府に戻った後も仕事をさせるなんてオレには
申し訳なくて頼めなかった。 それでも、榛名たちが「私たちは必要とされてないのでは?」と思っていたなら、
それは誤解だし、そう思わせてしまったオレにも原因がある・・・ごめんな。」
提督は榛名に謝るが、
「・・・・・・」
榛名は提督を無視する、いや、まるで提督がその場にいないように扱う。
やがて、榛名が執務室から出て行き、
「榛名。」
提督は名前を呼んで、深いため息をつく。
・・・・・・
「書類整理もある程度終わったし、気分転換に外に出ようか。」
提督は伸びをして鎮守府外に出た。
・・・気分転換とは嘘、実際は重苦しい空気での職務と誰にも相手にされない事でその場から脱出したかったのだ。
「あまり遠出しないようにその辺をぶらぶらするか。」
「確か、少し歩けば公園があったよな?」と思い、ゆっくりと歩いて行く提督。
・・・・・・
ある程度歩いて行った所で、
「提督! 提督!」
誰かが提督を呼ぶ声がして、
「・・・・・・」
振り向くとそこには、1人の女性がいた。
「やっと振り向いた! 何度も呼んでるんだからいい加減に気づいて下さいよ!」
女性は提督を見て呆れる。
「・・・君は? 艦娘ではないよね?」
提督の言葉に、
「はい、その辺りを自由気ままに歩いていたら、この先の鎮守府に所属の提督を見かけたの!」
「・・・・・・」
提督はその女性と面識が全くない、もちろん女性も提督とは今日が初対面だ・・・それなのに、私服姿の提督を
どうして「提督」と気づいたのか?
「実は、これから暇なんですよね・・・もし、良かったら私と付き合って欲しいんですが~♪」
「・・・それは、「デートしよう」って言う意味かい?」
「まぁ、提督がそう思うならそれでもいいですよ。」
「・・・・・・」
提督は悩む、でも、鎮守府に戻っても誰も相手にしてくれない・・・提督自身誰かと会話した気持ちもあったのか、
「分かった、どこへ行く?」
「いいの、やったぁ~! じゃあ、まずはアイスでも奢って貰っちゃおう~♪」
「・・・・・・」
「計画的だな」と呆れつつも彼女と一緒に街中へと歩いて行く。
・・・・・・
「ここのアイスはとっても人気なんだよ!」
そう言いつつ、提督に奢ってもらう。
「・・・・・・」
提督は言うなれば「仕事人間」、趣味はなく執務室で常に書類と睨めっこするのが毎日の生活だ。
「提督、聞いてる?」
「!? あ、うん。 聞いてるよ。」
街に来る機会がほとんどなかったため、彼女とのデートに抵抗気味の提督。
「そんな堅い表情にならないで・・・そうだ!」
彼女は何か閃き、提督の腕を引っ張ってある場所に連れて行く。
「次は、2人でこれを撮ろう!」
彼女が指差した物は・・・「プリクラ」。
「・・・何だい、これは?」
当然提督はプリクラと言う物を使った事が無い。
「いいからいいから、私の言う通りにして♪」
彼女の言うがままに動く提督。
「そうそう、そのまま~・・・フラッシュ! これでいいよ!」
そう言って、彼女は外の写真取り出し口まで行き、
「うんうん、上手く撮れてる~!」
彼女は上機嫌だ。
「成程、これは写真を撮る装置か。」
初めてプリクラを使用した提督、
「久しぶりかな。こんなにのんびり出来るのは・・・」
提督は伸びをしながら思う。
「いつも仕事、いつも任務に終わりは毎日深夜・・・久々にゆっくり出来たなぁ~。」
本人は気づいているだろうか、先ほどまで表情が堅かったのが穏やかになっていることに。
「提督、今度はカラオケに行こうよ!」
彼女が「早く! 早く!」と叫びながら待っていた。
「ははは、しょうがないなぁ~。」
提督は「やれやれ」と思いつつ、彼女と一緒に歩いて行く。
それから、提督は彼女と一緒にカラオケに行き・・・
昼食に喫茶店へと入り、食事をしながら彼女との会話を楽しみ、
その後もデパートに行ったり、映画館に行ったりと提督は久しぶりであろう休日を満喫していた。
・・・・・・
・・・
・
「いやぁ~、今日は楽しかった!」
満足したのだろうか、提督の表情は笑顔だ。
「仕事から抜け出して、久々にゆっくり出来たなぁ・・・」
提督は女性に礼を言う。
「ありがとう、久しぶりに休日を過ごせて楽しかったよ。」
「良かったね・・・でも、ほとんど提督に奢って貰ってたけどね・・・」
「いいよ、気にしないでくれ・・・よし、鎮守府戻って仕事に戻るか。」
提督はもう一度彼女に礼を言って鎮守府に戻る。
「・・・提督。」
彼女は何故か悲しい表情で提督を見つめていた。
・・・・・・
鎮守府に戻った提督だが、
「おや? 何やら騒がしいな。」
外で何かやっている? 提督は確認をしに行く。
「・・・・・・」
提督が見た物、それは・・・葬式会場。
「どう言う事? この鎮守府で死者が出たって事!?」
艦娘が轟沈したのか、もしくは憲兵が作業中に事故に遭ったのか?
「いや、それならオレの所へ真っ先に報告に来るはず、それなのにどうして葬儀なんか?」
提督は訳が分からなく、辺りを見回すと・・・
「あれは・・・元帥と大将殿!?」
何と葬儀会場には本営からやって来た上官たちが複数来ており、
「おかしい、上官まで来ているのに肝心のオレに何の報告も無いなんて・・・」
いくら艦娘たちから無視されているとはいえ、上司と部下である以上は最低限の報告は義務付けられているはず、
「榛名・・・榛名に会って話を聞こう!」
提督は急いで鎮守府に入って行く。
・・・・・・
「榛名、いるのか榛名!」
執務室を勢いよく開けると、
「榛名・・・」
そこには、葬儀用に着替え、今にも泣きそうな榛名の姿があった。
「榛名、どう言う事だ? 説明してくれ! 何故オレに何も言わず勝手に葬儀を?」
提督は榛名に向かって問うが、
「榛名、聞いているのか・・・榛名!」
何度呼んでも榛名は振り向きもしない。
「おい、榛名・・・オレの事を嫌っているならそれでも構わない、でも、最初に報告をするなら、
上官たちにではなくまずはオレにだろう、榛名!」
提督は榛名に叫ぶが・・・榛名は何も言わない、それどころか急に泣き始める。
「榛名、どうした?」
提督は近寄り、
「何故そんなに悲しんでる? 榛名の仲間が轟沈したのか? どうなんだ榛名?」
提督は榛名を慰めようとするが、
「・・・・・・」
榛名は提督に顔を合わせない。
「そうか・・・分かったよ。」
提督は苛立っていた、こんなにも心配になって気遣っているのにも関わらず榛名は振り向かず、顔を上げようとしない。
こんな状況でさえ、自分の事をないがしろにする事が許せなくなり、
「聞いているだろ榛名! いい加減にこっちを向いてくれ榛名!!」
苛立ちが頂点に達し榛名に対して平手打ちをする・・・が、
「!? あれ?」
確かに今、榛名に平手打ちをした・・・はず?
「・・・・・・」
今度は榛名に触れようとするが、
「な、何だこれ?」
触れたつもりなのに、提督の腕が榛名の顔を貫通した。
「何だ? 一体これはどうなっているんだ!?」
提督が混乱している中、
「提督・・・提督・・・」
榛名は泣きながら提督を呼ぶ。
「提督・・・提督・・・ううっ。」
その場に泣き崩れる榛名。
「・・・・・・」
提督は訳が分からず、榛名を置いて執務室から出て行く。
・・・・・・
「!? き、君は・・・」
鎮守府外に昼間一緒にデートをした女性が立っていた。
「どうしてここに? 一般人はこの施設に来ることを禁じられているはずだ。」
「・・・・・・」
「早くこの場所から去るんだ、憲兵たちに尋問されるぞ。」
提督の言葉に彼女は、
「ごめんなさい提督。」
何故か謝る女性。
「??? 何だ、どうして謝るんだ?」
提督は状況を把握できていない。
「回りくどい事をして・・・本当にごめんなさい。」
再び彼女は謝り、
「これを覚えていますか? 一緒にプリクラで写真を撮りましたよね?」
そう言って、彼女は提督に写真を渡す。
「・・・・・・」
そこに映っているのは・・・選択したパーツと髪型だけで、他は何も映っていない?
「・・・・・・」
それを見た提督は、静かに理解する。
「そ、そうか、オレは・・・「死んでいた」のか?」
「はい、半月前に過労死で・・・」
「・・・・・・」
悟った提督は腰を下ろす、
「あなたは、毎日執務と任務に追われて休みも満足に取れなくて、それでも部下のために必死で頑張って・・・
半月前も、疲労で倒れそうでもずっと仕事をこなして・・・」
「・・・・・・」
「秘書の方が席を外した僅かな時間に・・・あなたは過労で倒れ、息を引き取りました。」
「・・・・・・」
「死んでからも提督は「皆のため」の信念から、死んだことすら気づかずにずっと仕事をしていました。」
「そうか、そうだったのか・・・」
榛名や皆はオレを無視していたわけでは無く、「死んだオレの姿が見えなかった」だけなんだ。
「何だ、オレって死んでたんだ・・・ははは、死んだことにも気づかないなんて・・・」
「提督・・・」
「バカだな、オレは・・・ははは。」
そう言って、提督の瞳から涙が溢れる。
「・・・秘書艦の榛名さんでしたっけ? 彼女は泣いていましたよ。」
「・・・・・・」
「「どうしてもっと早く気づけなかったの?」とずっと悔やんで泣いていました。」
「・・・・・・」
「それからずっと・・・榛名さんは自責の念で今もずっと苦しんでいますよ。」
「そうか・・・あの子には申し訳ない事をしてしまったな。」
元はと言えば、「手伝って欲しい」と頼まなかった自分に原因があると感じた提督、それなのに
こんな結果になってしまって、提督は悔やむ。
「・・・そろそろ時間です、申し訳ありません提督。」
そう言って、彼女は隠していた大鎌を出し、
「私は死神、彷徨う魂を本来の場所に連れて行くために貴方の元に来ました。」
「そうか。」
提督は立ち上がり、
「もし、出来るならあの子に伝えて欲しいんだけど・・・」
「・・・・・・」
「「君との生活は楽しかった、ありがとう。」と。」
「・・・分かりました、直接言葉で伝えることは出来ませんが、何かしらの方法で
提督の気持ちを彼女に伝えましょう。」
「ありがとう。」
提督は死神の前に立ち、
「じゃあ、頼むよ。」
「はい。」
死神が腕を挙げて唱える・・・その瞬間、提督は光に包まれ、天に召された。
「さようなら・・・榛名。」
・・・・・・
・・・
・
その後、提督の葬儀は終わるが、榛名はずっと落ち込んだままだ。
「榛名さん、そんなに落ち込まないで。」
「そうだよ、榛名さんが悪いんじゃない! 私たちだってもっと早く気づけば・・・」
皆が気遣うも、
「榛名は大丈夫です・・・お気遣い、ありがとうございます・・・」
言葉を返すが、それはいつもの笑顔で元気な声では無く、暗く悲しく低い声だった。
「・・・・・・」
服を着替え、執務室に戻る榛名。
「・・・・・・」
榛名は提督の机に立ち、
「・・・申し訳ありません、本当に・・・申し訳ありません。」
何度も謝っては泣きだす榛名。
「私が・・・もっと早く気づいていれば、こんなことには・・・」
何度も悔やみ、何度も謝る・・・提督が死んでからずっとそうしていた榛名。
「・・・あれは?」
異変に気付いた榛名は泣き止み、自分の机に向かう。
「手紙? 私が出る前には何も置いていなかったはず・・・」
そう思いつつ、手紙を開いて内容を読む榛名。
「・・・・・・」
そこには、
”榛名との鎮守府生活は楽しかった。 君は何も悪くない、だからもう悲しまないでくれ。”・・・と。
「提督・・・」
榛名の瞳にまた涙が溢れて、
「提督・・・提督・・・ううっ。」
手紙を握りしめながら号泣する榛名。
「・・・提督、これでいいですか?」
榛名の隣に死神が立ちすくんでいる、もちろん榛名には彼女の姿は見えない。
「榛名さん。」
死神は榛名の顔に手をやり、
「乗り越えてください、それが貴方のためであり、提督の願いでもあります!」
そう伝えて、死神はその場から消え去った。
「提督が何故か皆に無視される。」 終
なんか…いいな、これ。
艦娘が仕掛けるどっきり系かと思ってたからびっくりさせられました…
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かなりいい話
ブルース提督かあ。
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