「提督と響(ヴェールヌイ)」
響が買い物帰りに昔の提督に会って・・・
「今日も雪・・・」
彼女は窓から外を見て呟く。
「このままずっと止むことはないかな・・・」
・・・・・・
・・・
・
司令官の執務を手伝っていた時の事、
「司令官、残りの資料・・・ここに置いておくね。」
「ああ、ありがとう。」
「じゃあ私は、失礼するね。」
そのまま執務室から出ようとした響は机に置いてあったある記事に目をやる。
「・・・・・・」
その記事は・・・相次ぐ艦娘の轟沈、突如艦娘が行方不明等・・・いい内容の記事ではなかった。
「全く・・・各鎮守府は一体何を考えているのか・・・」
提督はため息をつく。
「大破進軍して何の得があるんだろうな? 一度撤退させて皆を回復させてからまた出撃させればいいし、
行方不明だって・・・提督がきちんと周りを確認していれば、そんな事態にはならないだろうに!」
「・・・・・・」
それを聞いて響は、
「司令官・・・もし。」
「ん?」
「もし、鎮守府にいる艦娘の誰かがいなくなったりしたら、司令官はどうする?」
「もちろん・・・見つかるまで探す!」
「本当に? どこに行っても?・・・極端な話だけど、私が拉致されて海外まで行ってしまっても?」
「ああ、当然だ。」
「・・・・・・」
「全ての艦娘を助けることは無理だろう、今この時でも轟沈したり、行方不明になった艦娘はいるはずだから。
だがオレは、この鎮守府にいる艦娘たちは何があっても必ず、見つけ、助ける・・・絶対に!」
「・・・・・・」
司令官は時々そんな言葉を発する、その言葉に救われた艦娘も多くいるだろう・・・
「ああ、そうだ・・・さっき明石から頼まれごとがあってさ。」
「?」
「食堂と入渠場の電球が切れてたから買ってきて欲しいと頼まれていたんだ・・・予定が無いなら、買ってきてくれると嬉しいんだが?」
「・・・電球だね? いいよ、すぐに行けるよ。」
「悪いな・・・じゃあこれが電球代金・・・そしてこれがお駄賃、暁たちと一緒に後でアイスでも買いなさい。」
「スパシーバ、司令官。」
そう言って響は買い物に行った。
・・・・・・
「・・・・・・」
ホームセンターで買い物をしている響・・・
「食堂用の電球と・・・入渠場の電球・・・あった。」
目的の物を見つけると、すぐにレジに走った。
「電球を司令官に渡して、残りのお金で皆の分のアイスを買って・・・」
残金を計算している時だった、
「響、久しぶり?」
「? ・・・司令官。」
昔いた鎮守府の・・・失踪したはずの司令官が目の前にいた。
「ちょっと話せるか?」
「・・・・・・」
気が乗らなかったが・・・話だけならと元司令官についていった。
・・・・・・
「もう一度、オレについてきて欲しい。」
「・・・・・・」
司令官が言うには、鎮守府でまた働くという事で艦娘を募集しているという事だ。
「どうだ響・・・来てくれるか?」
「悪いけど司令官・・・私はもう居場所があるから・・・」
響は元提督の頼みを断った。
「響! 頼むよ! もう一度だけ! オレにチャンスを!」
半ば強引で響きを強く掴み、
「いい加減にしてくれないか! 私はもう、新しい鎮守府で生活していて・・・!?」
突然スプレーのようなものを掛けられ、響は気を失う。
「全く・・・世話焼かせやがって!」
元提督が響を担ぐとそのままある場所へと歩いて行った。
・・・・・・
・・・
・
「・・・ここは?」
見慣れない場所で、響は目覚める。
「・・・・・・」
見回すと・・・ここは・・・どこ?
「!」
人の気配がして、響は寝たふりをする。
「・・・・・・」
相手は2人、徐々に近づいてきて・・・
「ぐっすり眠っているな。」
「まだこんなに子供なのに・・・明日から工場で強制労働とは、可哀そうに。」
「・・・・・・」
工場で強制労働!? 彼らは一体何を言っているんだ?
「・・・・・・」
しばらく話した後、2人はその場から去って行き・・・
響は気づかれないように開いた扉から部屋を出る。
・・・・・・
全く知らない場所・・・ここは一体・・・
「・・・誰かの話声がする・・・」
響は壁越しに内容を聞き取る。
「そう言えば、昨日買った銀髪の女の子はまだ眠っているか?」
「はい、奥の部屋でぐっすり眠っております。」
「高い値で引き取ったからな・・・明日から休みなく働いてもらおうか!」
「・・・・・・」
しばらく聞いた後、自分が今置かれている状況が少しずつ分かってきた。
「私は・・・買われた?」
信じられない・・・しかも、昨日に?
「・・・・・・」
もしかして・・・昨日会った昔の司令官が?
「・・・・・・」
とにかく、ここを早く出ないと!
響は気づかれないように窓から外に出た。
・・・・・・
気づかれた!? 施設のサイレンが鳴って、人がたくさん出てきた。
「脱走者がいるぞ! 見つけ次第捕縛しろ!」
「見つけたら、二度と逃げられないように足を折っとけ!」
それを聞いて響はぞっとした。
・・・・・・
足音を立てずに・・・茂みに隠れつつ・・・人が目を離しているうちに、その場から去る・・・
結局見つからずに外に出られたが・・・当然ここがどこかわからず路頭に迷う。
「・・・あれは?」
目の前に小屋のような建物を見つけて響は走る。
・・・・・・
小屋の扉は空いていて、中には誰もいない・・・
電気は通っていないようで、水道の水は・・・出る。 何とか水は確保できた。
奥には・・・昔、寝室だったのかボロボロの布切れと厚めのマットが投げ出されていた。
「不便だけど・・・無いよりはマシかな・・・ここで、助けを待とう。」
幸いにも、この小屋には誰も近づかないようで、隠れるにはうってつけだった。
・・・・・・
・・・
・
「どれくらい経ったかな・・・」
1週間? いや・・・1か月は経ったはず。
今も響はあの小屋で隠れている。
食料を調達するため、木の実や果物を取っていた時の事、
「・・・雪だ。」
空を見ると、あれだけ青かった空が急に暗くなり、急に雪が降ってきた。
「・・・すぐに戻ろう。」
響は食べ物を持てるだけ持つと、小屋に戻った。
「・・・寒い。」
部屋にはボロボロの布と古ぼけたマットしかなかったため、奥の部屋で扉を閉めつつボロ布をかぶって凌ぐほかなかった。
「皆がいてくれたら・・・」
昔、司令官が失踪してから暁たちと一緒に貧しいながらも頑張って生活していたことを思い出す。
あの時は「皆がいた」から辛くても我慢できた・・・でも、今は・・・
「私1人だけ・・・」
どんなに辛くても誰も助けてくれない、誰も心配してくれない、誰も・・・誰も・・・
・・・・・・
雪は止むどころか、何日も何日も降り続けた。
「・・・・・・」
雪が積もったせいで、食糧の調達も出来ず響はお腹が空いていた。
「・・・・・・」
それでも、誰かが助けに来てくれるわけではない・・・
次第に小屋内の気温も氷点下となり、奥で布をかぶりながら凌いでいた響にも限界が来始めた。
「もう・・・ダメかな?」
身体は衰弱していき、食べ物もなく、寒いせいで体が冷たくなっていく。
「司令官・・・」
最後に司令官の言葉だけ発して響は意識を失った。
・・・・・・
助けが望めないことは最初からわかっていた、司令官の言葉に嘘はないだろうけど
最初に言っていた通り「全ての艦娘を助けることはできない」は本当だと思う。
これだけは本当に仕方のないことだ・・・でも、司令官は私に「絶対助ける!」って・・・
これも嘘じゃないだろう・・・その言葉のおかげで救われたことは何度もある、でも・・・今回は、ちょっと
無理かな・・・司令官を恨んでいるわけじゃなくて・・・今回ばかりは、運が悪かったんだよね? 司令官・・・
・・・・・・
ドンッ!! ドンッ!!
「? 何だろう? 扉を叩く音?」
ドンッ!! ドンッ!!
「・・・誰かが扉を叩いている?」
扉を叩く音で徐々に意識が戻っていく。
「まだ雪が降り続いているよね・・・じゃあ早く入れてあげないと・・・」
冷え切った体を堪えつつ、響は扉に向かった。
「待ってて・・・今すぐ開けるから・・・」
寒いせいで感覚もなく、何も食べていないせいでふらふらの響・・・それでも、扉まで近づく。
「・・・・・・」
辛うじて扉まで来ると、
「う~ん・・・」
扉を開けて誰かが入ってきた・・・それは、
「し、司令官!?」
「やっと見つけた・・・響!」
扉を開けて入ってきたのは、司令官だった。
「司令官・・・」
響はまた意識を失った。
「おい! 響! しっかりしろ!」
提督は響を支える。
「くっ・・・何て冷たいんだ・・・まずは体を温めないと・・・」
響を背負いながら提督は奥の部屋へと入っていった。
・・・・・・
「・・・うう。」
響は意識を取り戻した。
「気が付いたか?」
提督が声を掛ける。
「・・・司令官。」
「ほら、スープだ・・・これを飲んで体を温めろ。」
「・・・・・・」
提督から貰うと、響はゆっくりと口に運ぶ。
「・・・温かい。」
響は久しぶりの温かい食事を食べた。
・・・・・・
「どうして私がここにいると?」
「・・・買い物から帰ってくるのが遅くて、心配になり店に行ったら買った電球が近くに落ちていてな・・・」
「・・・・・・」
「それから周りの目撃情報と足取りをたどったら、お前がこの国に売られたと言う情報を入手したんだ。」
「そう・・・やっぱり私はあの男に・・・」
「? あの男?」
「・・・・・・」
響は元司令官の話をした。
「なるほど・・・その元司令官にスプレーのようなものを吹きかけられて気を失ったと。」
「・・・・・・」
「それは災難だったな・・・鎮守府に戻ったと言うのは建前で本当は金に困っていてお前を奴隷商人に
売り払った・・・ってことだな。」
「・・・・・・」
「まぁ、響が無事でよかったよ・・・見つけるのに時間が掛かってしまって悪かったな。」
「そんな・・・私を探してくれていたのがわかってそれで十分だよ。」
「そうか・・・今日は遅い、明日の朝にはこの小屋を出る予定だから、今はゆっくり寝な。」
「・・・うん。」
「一応即席暖炉は作っておいたから・・・温まりながら眠るといい。」
「わかった・・・司令官・・・スパシーバ。」
そう言って即席暖炉の隣に横たわると響はそのまま寝た。
・・・・・・
翌朝、2人は準備をして小屋から出る。
「雪がまだ降り続けている・・・これを着ろ、響!」
響に一回り大きいコートを渡すとそれを着る。
「オレから離れるなよ。」
2人は吹雪の中歩いて行った。
・・・・・・
「・・・着いたぞ。」
着いた場所は・・・国境?
「今から言う事をよく聞け、響。」
そう言って提督は響に何かの書類と方位磁針を渡した。
「・・・・・・」
「あそこに兵士がいるのがわかるな? あの兵士にまずこの書類を見せる。 質問が来るだろうけど、
「私は1人しかない。」等適当に答えて入る許可をもらう・・・まずは最初にやることだ。」
「・・・・・・」
「次にこの方位磁針の北を目指して歩いていく・・・そうしたら海に出る。 そこでオレの迎えが待っている、
響はそれに乗って脱出するんだ。」
「待って・・・司令官は?」
「オレはここに残る・・・まだやり残したことがあるから。」
「嫌だ・・・司令官と一緒に帰りたい! 私1人だけなんてもう嫌だ!」
「・・・・・・」
「それなら私も司令官についていく・・・もう、1人なんて嫌なんだ!」
「響、よく聞け。」
「・・・・・・」
「あの国境を超えるには2人一緒ではダメなんだ。 許可証は1枚しかない、だからお前が行くんだ!」
「そんな!」
「これは命令だ響・・・それとも司令官の命令を聞けないのか?」
「・・・・・・」
許可証をぐっと握りしめて、
「わかった・・・」
響は向きを変えて国境に歩いて行った。
・・・・・・
「お嬢ちゃん1人だけ? 親はいないのかい?」
「・・・私1人だけ・・・」
「そうか・・・ほら、通っていいよ。」
難なく通れた、響は礼をして進んでいく。
途中、「戦時中だから仕方がない。」 「あの子がこの先幸せになることを祈ろう。」と聞こえ、胸が痛んだ。
「・・・・・・」
国境を超えると提督から渡された方位磁針の北を目指して進んでいった。
・・・・・・
「はぁ・・・はぁ・・・」
しばらく歩き続け・・・海に出た。
「響さん! こっちです!」
迎えの船がいて響がそれに乗る。
「すぐに出ます・・・しっかり掴まって!」
そのままエンジンを起動してその国から出た。
「・・・司令官。」
方位磁針を強く握りしめて脱出した響だった。
・・・・・・
それから、響は無事に鎮守府に戻ったが、
「響さん、元気出して。」
皆が励ましすが・・・
「すまない・・・私は大丈夫だから・・・」
と、皆を避けて籠るようになった。
「・・・・・・」
あれから提督の安否がわからない・・・もしかして、軍に拘束されてしまったのか・・・
「・・・・・・」
もし、そうなら・・・私が・・・私が悪いのに、どうして私だけ逃げ帰ったんだ。
「・・・司令官。」
自分の部屋で1人寂しく呟く響だった。
・・・・・・
1か月経っても提督は戻ってこない。
事前に皆に提督がいなくなっても遠征に行くようにと命令をしていたようで、皆は毎日のように遠征に出かけていった。
「・・・・・・」
響は相変わらず部屋に閉じこもったまま・・・暁たちも慰めるが、心を閉ざしたままだ。
ある日の事、
響は執務室に呼ばれて、
「響さんに改装のお知らせがあります。」
「改装?」
「はい、更なる改装が出来ますが・・・お受けになりますか?」
「・・・・・・」
司令官だったら何て言うだろう・・・「改装しろ」って言うだろうね。
「うん、お願い。」
「わかりました・・・では、工廠へ行って明石さんに話してください。」
「・・・了解。」
響はそのまま工廠場へ向かった。
・・・・・・
・・・
・
「響さん・・・いえ、ヴェールヌイさん、改装お疲れ様です!」
「スパシーバ・・・今日からヴェールヌイとして着任する、これからもよろしく。」
姿は昔と比べて大分変わったかな・・・でも、中身は相変わらず閉じこもったまま・・・
でも、いつまでもそんなことではダメだよね? 司令官が怒るかもね・・・
いつ帰ってくるかわからないけど・・・帰ってくるその時まで私はやるべきことをすべきだよね・・・
「改装後で悪いですが・・・早速出撃に行ってもらいます。」
「了解・・・ヴェールヌイ、出撃する!」
ヴェールヌイは準備のため、執務室から出る。
「・・・あら、急にやる気になって・・・どうしたのかしら?」
霧島は首を傾げた。
・・・・・・
「作戦終了、ヴェールヌイ・・・帰還する!」
今回の出撃も何の問題もなく終わった。
「ヴェールヌイさん、帰還したら執務室に寄って下さい。」
霧島が無線で指示をした。
「? 執務室に?」
いつもは入渠場へ真っ先に行くはずなんだけど、何か用事があるのかな?
「了解、帰還後そのまま執務室へ向かう。」
それだけ告げて、皆と共に鎮守府へ帰還した。
・・・・・・
「ヴェールヌイ、無事帰還した。」
帰還後、すぐに執務室に入り、
「霧島・・・何か用? ・・・!?」
「ヴェールヌイ(信頼)か・・・オレとしては響の方が呼びやすかったけどな~。」
そこには霧島ではなく、
「し、司令官!!」
思わずヴェールヌイは提督に飛びついていた。
「よかった司令官・・・本当に・・・良かった。」
「ああ、悪かった・・・心配かけて・・・それにしても・・・」
提督はヴェールヌイを見つめ、
「大分変わったな・・・まだ響としての部分は残っているか?」
「・・・姿だけだよ・・・中身はそのままさ。」
「そうか・・・なら安心した。」
そう言って、提督はヴェールヌイの頭を撫でた。
・・・・・・
「司令官、今日の書類を持ってきた。」
「ああ、ありがとう・・・そこに置いてくれ。」
提督が差す方向に書類をまとめて置いた。
「・・・・・・」
「? どうした?」
「またその記事を見てる・・・司令官は人の不幸が好きなのか?」
「おいおい、オレをそんな邪険に扱わないでくれよ。」
持っていた、新聞記事を机に投げて反論する。
「ふふ・・・冗談だよ。 司令官は本当に真に受けるんだな。」
「何だよ・・・冗談もほどほどにしてくれ。」
提督は頭をかいた。
「さてと、少し離れるかな。 ヴェールヌイは書類をある程度まとめてくれ。」
「了解・・・司令官は相変わらず人使いが荒いなぁ。」
「文句言ってる暇があるならさっさとやってくれ、さもないと徹夜になるぞ?」
「・・・急いでまとめる。」
「・・・頼むぞ。」
提督は執務室から出て行った。
「・・・・・・」
机に乗った記事を見た。
「・・・・・・」
内容は・・・この前と同じ相次ぐ艦娘の轟沈と行方不明だった。
決して他人ごとではないと言うのを改めて実感した上での行動なのかな?
「・・・・・・」
その下には、「秘密裏に行っていた奴隷売買の施設が突如壊滅、関わっていた主要人物全員、無残な死に方をした」と。
「・・・・・・」
何でも、その顔はまるで・・・恐ろしい物を見たかのような表情だったらしい。
「・・・・・・」
咄嗟に「もしかして司令官が?」と思ったけど・・・今さらそんなこと、どうでもいいよね。
私はこの鎮守府に戻ってきたし・・・恨みとか怒りなんてないし・・・
それに・・・こんなことを考えるのも無駄な事。
「・・・書類を整理しなきゃ。」
ヴェールヌイは新聞を置いて書類整理を始めた。
・・・・・・
響のようにさらわれる事態になることを防ぐため、対策として買い物に行く際は2人以上で行くことになった。
当然ながら戦艦・空母も例外ではなく必ず2人以上と言う設定になった・・・一部の艦娘からは「過保護だ」との
苦情が出たが・・・
この日はヴェールヌイと・・・提督の2人で行くことになった。
「ヴェールヌイ、このメモに書いてある食品を持ってきてくれ。」
「・・・わかった。」
メモを渡され、ヴェールヌイは食品売り場へ向かった。
「これとこれ・・・これで野菜は全部と。」
次に肉、次に調味料と・・・順番に入れていった。
「・・・司令官、メモに書いてあるもの全部持ってきた。」
「ありがとう、さっさと支払って帰るとするか。」
提督はすぐにレジへと向かい、清算する。
・・・・・・
買い物帰りに・・・
「お、駄菓子屋がある・・・ほら、暁たちとお前の分を買っておいで。」
今日の買い物のお駄賃としてヴェールヌイは受け取る。
「・・・司令官は?」
「ここで待ってる。」
「・・・うん、すぐに買ってくるから。」
そう言って駄菓子屋へと入っていった。
「これとこれ・・・皆一緒の方がいいよね。」
お菓子を選び終えて、清算する。
「司令官の元に戻らなきゃ・・・」
駄菓子屋から出て・・・
「・・・?」
ヴェールヌイが目にしたものは・・・
「何だ・・・君か・・・」
目の前にいたのは・・・あの時、会った司令官・・・いや、元司令官。
とは言っても、服は破れて体調も悪そうで、地面には段ボールが敷いてあって・・・乞食になったのか・・・
「・・・・・・」
元司令官はヴェールヌイを見て急に顔をそらした、当然ながら売ったはずの本人が目の前にいるのだから、
恐怖以外の何物でもない。
「・・・無様だね・・・司令官としての肩書きはなくなったのかな。」
「お~い、ヴェールヌイ!」
提督に呼ばれ、反応した。
「店から急に姿を消したから探していたが・・・こんなところにいたか。」
「ごめん・・・心配かけたようだね。」
「全く・・・ほら、さっさと帰るぞ。」
「・・・うん。」
提督が歩いていき、
「・・・・・・」
ヴェールヌイが元司令官の顔をもう一度見て言った、
「さようなら、元司令官・・・もう会うこともないだろうね。」
それだけ言うと、提督と一緒に歩き去った。
あの後、乞食と化した元司令官がどうなったのかはわからないけど・・・話では、私と出会う前から生活が火の車だったらしい。
多額の借金を返済するために私を売りに出したと思われる。
でも、結局借金がかさみ司令官の肩書をはく奪されて路上へ転落したようだ。
もちろんそのことを知っているのは私と司令官だけで、他の暁たちは全く知らない・・・
昔住んでいた鎮守府にいたときは、失踪した司令官がいつ戻ってくるのかを皆で待ち望んでいた。
でも、結局戻らず私たちは今の司令官に引き取られた・・・もちろん今の生活の方が楽である。
でも、私は多分・・・元司令官の口から「戻ってきて欲しい」の言葉にわずかながらの期待を持っていたんだね。
その結果が・・・もう忘れよう・・・このことは暁たちには言わないでおこう・・・その方がいい・・・絶対に。
「・・・・・・」
「何空を見上げているんだ?」
「・・・ごめん。」
「別に謝らなくても・・・何か昔の事でも思い出していたのか?」
「・・・・・・」
「元提督が乞食になっていたことが気がかりか?」
「・・・知っていたの?」
「いや、お前の態度を見て確信しただけ。」
「・・・・・・」
「自分を売った恨みでもあるのか?」
「・・・いや。」
「それとも・・・助けたい気持ちがあるのか?」
「・・・いや。」
「じゃあ何だ?」
「・・・・・・」
しばらく沈黙して、
「元司令官にお別れを言った。」
「・・・そうか。」
「これでよかったんだ・・・うん、これで・・・よかった。」
「・・・・・・」
提督が近づき・・・
「ああ、お前は間違ってない・・・お前は正しいことをした。」
そう言って、彼女の頭を撫でてあげた。
執務室から出ると、
「響~!」
振り向くとそこには、暁たちがいた。
「どこに行ってたのよ、響! ほら、買ってきたお菓子、皆で食べよう!」
暁たちは彼女の事をヴェールヌイと呼ばない・・・昔のままの、「響」と呼ぶ。
「・・・うん。」
彼女は姉妹たちの前でほほ笑むと一緒に部屋へと戻っていった。
・・・・・・
翌日から暁たち4人でまた行動するようになった。
その時の表情は豊かで、満面の笑みでいたヴェールヌイだった。
「提督と響(ヴェールヌイ)」 終
人間の塵がコノヤロウ。
やはり一度にげた奴には逃げる癖が有るんだろうな。
伝説の傭兵。
スネークかいw