「2人のサラトガ」
料亭にサラトガ(改装した黒い服装)がやって来て・・・
のんびり更新していきます。
参考までにキャラ紹介。
提督:提督業を辞め、料亭の大将に転職した元提督。 辞めた後も皆から「提督・司令」と呼ばれ、慕われている。
サラトガ(白い服装):提督の料亭で働く従業員、自分が「2人目の艦娘」だと知って鎮守府から逃亡しようとした
経緯があり、今の提督に引き取られた。哀しい以外(喜怒哀楽の哀以外)はほとんど笑顔のため、
感情がわかりづらく、何も知らずに話しかけると手痛い目に遭うこともある?
サラトガ(黒い服装):料亭に突然現れた「1人目」のサラトガ、目的は不明。
「もう1人の自分に会いに来た」と言っているが・・・
霧島:提督の元秘書艦で料亭の従業員。何故かサラトガとは仲が悪く、村雨とは仲がいい。
村雨:提督の事が好きな料亭の従業員。サラトガに何故か好かれている。
海風:料亭の従業員、密かに提督の事を想っている・・・とか。
「いらっしゃいませ~。」
今日はサラトガがカウンターで挨拶をしていた。
「こちらの席になります♪ 次の方どうぞ~♪」
彼女はいつも明るく笑顔が絶えない、周りの客や霧島たちもその笑顔に癒される。
「ごめんなさ~い、サラ特製シチューは完売してしまいました~。」
1日10食限定で作っている特製料理も朝の時点で売り切れてしまう程人気も高く、サラのシチュー目当てに来店する客も多くいた。
「ありがとうございました~! またのご来店をお待ちしております~♪」
元気な声と明るい笑顔・・・彼女のおかげで料亭も人気になっている。
・・・・・・
「本日はお疲れ様でした! 提督、今日の集計をお願いします!」
今日の手当てはサラ、集計結果にわくわくさせていた。
「今日の注文数は・・・1000食! そして艦娘メニューは・・・105食! 目標達成だ!」
「本当ですか!? 良かったです!」
「じゃあこれ・・・艦娘メニュー100食達成したから今日の給料は10万円ね。」
「ありがとうございます! サラ、大事に使いますね!」
1日に注文した数に応じて給料が支払われる。 カレンダーには1週間の日数に各艦娘の名前が書かれていて、その日に書いてある
艦娘が給料を貰える(つまり今日はサラトガ)。
注文数✕100円なのだが、別条件として艦娘たちが出している艦娘メニューが100食を達成しなければ、
艦娘メニュー注文数✕100円しか給料がもらえない・・・皆必死である。
サラトガの1日限定10食メニューは朝と同時に売り切れてしまうため、目標達成の1割は彼女がいるからこそ保たれている。
「と言うか・・・サラトガさんの10食を20食に変えればいいのではないですか?」
霧島の言う通り、この料亭で働く艦娘は全部で5人(村雨・海風・霧島・サラトガ・翔鶴)であるが、
単純割合で行けば1人20食でやる方が効率がいいのだが・・・
「霧島たちは知らないと思うけど、翔鶴の売り上げが一番多いからな。」
提督の話によると、サラトガは10食完売は間違いないが、あまり表に姿を見せない翔鶴のメニューは残り90食の内の半分を補っていた。
「つまりサラトガと翔鶴で1日55食達成してるわけだ・・・後の45食が残りの3人が補わなければいけないんだけどなぁ~。」
「・・・・・・」
霧島たちは何も言い返せない。
霧島たちが出しているメニューは人気があるが、あくまで「一部の艦娘」に対してである。
全体的にみると、サラと翔鶴を除いて3人の売れ行きは上下していた。
「わかりました・・・霧島たちがもっと頑張って提供しますよ!」
急にすねる霧島に「まぁまぁ」と慰める村雨と海風。
「よし、霧島・・・明日の仕込みをやるか・・・残りの皆は明日に備えて体を休めろ!」
「了解!」
提督と霧島を残して、各皆はそれぞれの部屋に戻った。
・・・・・・
数日後の事である。
「いらっしゃいま・・・」
接客に対応しようとしたサラトガの表情が一変する。
「久しぶりね・・・サラ。」
そこにいたのは・・・
「サラトガさん・・・私の休憩が終わりましたので次どうぞ・・・!?」
海風は驚く。
「サラトガさんが・・・2人!?」
カウンターで接客をしていたサラトガ(白)と、客として来店したサラトガ(黒)がいた。
「えっと・・・一体どう言う状況なのでしょうか・・・」
海風は困惑する。
「サラトガ~・・・休憩行っていいぞ・・・」
その場に居合わせた提督も・・・
「サラトガ・・・サラトガ!」
「!? はい、提督!」
カウンターにいたサラトガ(白)は慌てて振り向き、
「休憩だ・・・早く行ってこい。」
「は、はい・・・わかりました。」
サラは下を向いてカウンターから離れた。
・・・・・・
「さてと・・・ご注文は?」
代わりに提督が注文を受けた。
「あら・・・意外と冷静なんですね?」
挑発じみた口調で言ってきて、
「来店したからには客として扱うもので・・・それで注文は? 何もなければおかえり願おう。」
「・・・そうですね~・・・このステーキ定食を頂けるかしら?」
「了解・・・少しお待ちを。」
提督は調理を始める。
「驚きましたか? サラが2人いることに?」
「別に・・・知っていたし、今更って感じだな。」
「あら・・・」
提督の言葉に驚きつつも、
「私がどうしてここに来たのかわかりますか?」
急に話題を変えた、
「わからない・・・興味もないし、知りたいとも思わない。」
「・・・・・・」
あまりに率直な態度に少し怒り気味のサラトガ(黒)。
「まぁ、いいわ・・・別にあなたに言っても仕方のない事なので・・・」
「つまり、目的はここのサラトガってわけだな。」
「ふふ・・・察しがいいですね、提督。」
「・・・何を考えているのかわからないが、変な気は起こすなよ?」
「・・・そうですね・・・あなたを怒らせたら厄介です・・・言う通りにしましょう。」
そう言って、料理を待つサラトガ(黒)。
・・・・・・
「はい、お待ちどお!」
サラの前に注文したステーキ定食が出され、
「OH MY GOD! これはおいしそうですね!」
ステーキ定食を見て驚くサラ。
「では、いただきます。 ・・・おいしいです! 本当にこれで100円なのですか!?」
どうやら一律100円は他の艦娘から聞いたようだ。
「ああ・・・その代わり残したら、10倍の1000円罰金だ。」
「1000円罰金・・・いや、この味なら2,3000円くらい出してもいいはずですよ! ・・・ああ、おいしい!」
その後、黙々と食べ続け・・・
「ご馳走様です! では、100円ここに置いておきますね。」
机にお金を置いて店から出ようとしたサラ。
「では・・・また来ますね♪」
そう言ってサラトガ(黒)は帰って行った。
・・・・・・
「サラトガ、入るぞ~。」
提督がサラトガの部屋に入ると・・・彼女は静かに本を読んでいた。
「あら、提督・・・休憩時間はまだありますけど・・・」
本を閉じ、提督の顔を見るサラ・・・
「ああ、まだだけど・・・大丈夫か?」
「・・・・・・」
どうやら、提督は先ほどの事を気に掛けていたようだ。
「大丈夫です・・・心配かけてすいません。」
相変わらずサラトガは笑顔で振る舞う。
2人との間に特別確執があったわけではないが(そもそも2人が会う事がない)、自身が「2人目」と知り解体されるのが嫌で
鎮守府から何度も逃亡を計ったサラトガ、今はこの料亭で新たな生活を過ごしているが彼女からすれば「1人目」がいたせいで
自分が辛い目に遭っていた事実があり、復讐をしないか心配をしていた提督だった。
「大丈夫です・・・提督が何を考えているかわかります・・・私が「1人目」に復讐するか心配なんでしょう?」
「・・・・・・」
「私はそこまで心の狭い艦娘ではありません。 「1人目」でも「2人目」でも、この世界に生を受けた以上は同じだと・・・
それを教えてくれたのは提督じゃないですか。」
「ああ、そうだな。」
「だから私は何も思っていません・・・安心して、サラを信じてください!」
「わかった・・・深く考えすぎたな、すまない。」
サラに謝り、提督は部屋から出て行った。
・・・・・・
「休憩時間は終わり! 皆さん! 昼からも頑張って行きましょう!」
サラトガの掛け声で皆が「おーっ!!」と答える。
「いらっしゃいませ! 席へご案内します!」
いつでも彼女は笑顔を絶やさない・・・周りは彼女の笑顔に癒される。
「ご注文承ります・・・わかりました、提督! 親子丼と塩ラーメンお願いします!」
この日は何の問題もなく仕事が終わった。
・・・・・・
翌日、
「どうしました、霧島さん?」
霧島が冷蔵庫に貼ってあるメモを見て頭を抱えていた、
「しまった・・・この食材を買い忘れていました。」
どうやら食材の買い忘れのようだ、
「どうしましょう・・・今日は私がカウンターで迎える役割なのに・・・」
霧島が悩んでいると・・・
「私がすぐに購入してきます・・・何が足りないんですか?」
・・・・・・
「これでよし・・・と。」
霧島に渡されたメモを持って、店で買い物を済ませたサラトガ・・・料亭に帰る途中だ。
「これで食材不足の心配はなくなりますね。」
彼女は安心して、料亭に戻っていた最中、
「?」
何かの気配がして、サラは振り向く。
「・・・・・・」
誰もいない・・・
「・・・気のせいかしら。」
そう思って、歩き始めたその時、
「!?」
何かが飛んでくる音がしてサラは避けた。
「・・・・・・」
飛んできた物は・・・ナイフ・・・誰かが後ろから投げたようだ。
サラは辺りを見回すが・・・
「・・・いない、逃げたわね。」
それから帰路は警戒しつつ、帰って行った。
・・・・・・
「遅くなってすいません・・・はい、霧島さんのメモに書いてあった物を購入してきました。」
「ありがとうございます、冷蔵庫に入れて貰えますか?」
「はい、わかりました。」
サラは購入したものを冷蔵庫に手際よく入れて行く。
「さて・・・サラもお手伝いしますか・・・」
そう言って、霧島の横に立って接客を始めたサラトガだった。
・・・・・・
「今日もお疲れ様です!」
サラが皆に挨拶をして、
「今日は早く部屋に戻りますね・・・それでは、皆さん・・・おやすみなさい!」
サラはいち早く部屋に戻った。
「・・・・・・」
いつもなら毎日集計を見ているはずだが、今日は珍しく先に部屋に戻った光景を見て、皆違和感を感じつつも・・・
「今日は疲れたんだろう・・・よし、じゃあ集計を始める! 今日は村雨だな・・・では・・・」
提督が今日の売り上げの集計を始めた。
・・・・・・
「・・・・・・」
サラは悩んでいた、理由はもちろん買い物帰りに後ろからナイフを投げつけられた事である。
「・・・少し耳に当たってしまったわね。」
かすった程度で重症ではないが、僅かに血が出ていた。
「誰がこんなことを・・・」
サラは考えるが・・・当然ながら思い当たるはずがなく・・・
「考えても仕方がないわね・・・でも・・・なるべく私自身で解決しないと・・・提督や他の皆に迷惑は掛けられません!」
サラは決心して就寝をした。
・・・・・・
翌日、
「いらっしゃいま・・・」
サラトガ(黒)がやって来た。
「はぁ~い、サラ♪」
「・・・・・・」
サラは無言である。
「もうっ! 私はあなたと話がしたいだけよ・・・そんな怖い顔しなくたって・・・」
「・・・・・・」
「ちょっと・・・聞いてる?」
「・・・ご注文は何でしょう? なければお帰り下さい。」
「・・・このサラ特製シチューを・・・いただけるかしら?」
「・・・申し訳ありませんが、1時間前に完売しました。」
「え~っ、そうなの? とても人気なんですね!」
「・・・・・・」
「では・・・この霧島特製カレーを下さい。」
「・・・わかりました・・・提督、霧島特製カレーをお願いします!」
「はいよっ!」
提督は既に気づいていたが、敢えて何もしなかった。
・・・・・・
「おいしいですね・・・これはこれでいけるかも・・・」
「・・・・・・」
「何をそんな不満げな顔をしているんですか?」
「・・・・・・」
「少し話を変えましょうか・・・昨日あなた・・・誰かに襲われましたよね?」
「!? どうしてそれを?」
「たまたま通りかかった時に見たんですよ・・・あなたとあなたにナイフを投げた人間を。」
「誰だったんですか?」
「知りたいですか? ・・・教えてあげてもいいですけど・・・私から少しお願いがあるのですが・・・」
「・・・・・・」
サラは少し考え、
「わかりました、あなたのお願いを聞かせてください。」
「あら、素直でいいですね。」
そう言ってサラトガ(黒)はひそひそと語り始めた。
「・・・・・・」
サラトガ(黒)が言ったお願いは、
「私とあなたで少しお話がしたい、どこか静かな所で待ち合わせてそこで落ち合いましょう。」との事。
「・・・・・・」
提督や霧島たちを巻き込みたくない気持ちがあった彼女にとって、サラトガ(黒)の願いはある意味好都合に思えた。
「わかりました・・・それで、場所はどこですか?」
「うふっ、それはですね・・・」
サラトガ(黒)は笑顔で・・・
「・・・・・・」
場所を知らされ、
「わかりました・・・明日の昼に〇〇の所ですね? では、また明日・・・」
「は~い、お待ちしていますね♪」
そう言って、サラトガ(黒)は料亭から出て行った。
・・・・・・
翌日、サラはその日休暇を取った。
サラトガ(黒)に指定された場所に1人で向かった。
「・・・・・・」
そこは、人通りが全くない堤防沿いの場所だった。
「お待ちしていましたわ、サラ。」
後ろからサラトガ(黒)が声を掛け、振り向く。
「・・・・・・」
「まさか本当に来てくれるなんて・・・サラは素直で好きよ♪」
「・・・それで、何の話をしたいのでしょうか?」
「もうっ! いきなり本題・・・もう少しお互いを尊重しあいましょうよ。」
「私はこれでも忙しいんです・・・無ければ失礼します。」
サラは帰ろうとして、
「仕方がありませんね・・・では、誰があなたを襲ったか教えてあげましょう。」
サラトガ(黒)が「こっちを向いて」と言い、振り向いたその時、
ブシュ―ッッ!!!!
「!!?」
サラは一瞬何をされたのかわからず・・・
「・・・・・・」
催眠スプレーだったのか、サラはその場で眠ってしまった。
「全く・・・少しは私の話を聞いて欲しかったのですが・・・」
サラトガ(黒)は彼女を担ぐと、
「これで私の望みが叶うわね・・・あなたには悪いけど・・・死んでもらいます。」
そう言って、サラをある場所へと連れて行った。
・・・・・・
「提督ぅ~。」
村雨に呼ばれ、
「サラトガさん、帰って来ませんね~。」
村雨によると、帰りは昼頃と聞いていたらしいのだが、15時になっても帰ってこないので心配をしていた。
「・・・・・・」
提督は思った・・・もしかしたら、何かの事件に巻き込まれたのか・・・と。
「霧島、少し開けるぞ・・・村雨、お前もオレと一緒に来い!」
「ちょっ! 提督! もうっ! 何が何だかわからないじゃない!」
村雨はエプロンを脱ぐと、提督の後について行った。
・・・・・・
「・・・う~ん・・・!」
サラが目を覚ますと・・・
「・・・・・・」
体を拘束具で固定され、身動きが取れないでいた。
「・・・・・・」
口にもテープで塞がれ、話すこともできない。
「気がついた?」
声がして、横を振り向くとサラトガ(黒)がいた・・・手には何故か丸鋸を持って・・・
「・・・・・・」
サラトガ(黒)の表情は笑顔だ・・・手には何かを切断するための丸鋸を持っているのだが、それを持ちつつあの笑顔・・・
彼女はとても恐怖に感じた。
「ごめんなさい・・・本当はあなたに打ち明けたかったのだけど・・・聞いてくれなくてね・・・無理やりここに連れてきちゃった♪」
サラトガ(黒)は少しずつ事情を話していった。
「私はね、この世界に生を受けた時から・・・心臓を患っていてね。」
「・・・・・・」
「医者からも「不治の病」と宣告されて・・・諦めていたちょうどその時に、提督が規律違反である建造をしてその結果・・・
あなたが生まれたのよ。」
「・・・・・・」
「提督は、「これでお前の病を治せる」と言って、あなたを地下に閉じ込めていたけど・・・」
「・・・・・・」
「あなたは何度も逃亡を計り、挙句にあの提督に引き取られてしまった。 おかげで私の病は酷くなるばかりで
余命半年とまで言われたわ。」
「・・・・・・」
「そこであなたをおびき出すために、私が計画を練ったの。」
「・・・・・・」
「そう、ナイフを投げたのは私よ・・・そして、「話がしたい」と言ったのは嘘。 あなたをここに連れて来るための口実だったの。」
「・・・・・・」
「提督が「心臓移植すれば治る」と言っていたわ・・・そう、あなたは私を助けるために建造された存在なのよ!」
「・・・・・・」
「本当はあなたに素直に打ち明けたかったのだけど・・・そんなこと言っても「はい」と言うはずないですよね?
だから強制ですが、無理やり拘束させてもらいました。」
「・・・・・・」
サラは手足を動かすが、全くびくともしない。
「無駄ですよ・・・暴れる精神異常の艦娘を拘束するための拘束具なんです・・・あなたではその拘束具は外せませんよ。」
「・・・・・・」
「さて、事情はお話しましたし・・・そろそろお別れにしましょうか。」
サラトガ(黒)は丸鋸を起動、高速回転した刃が彼女に突き付けられる。
「残酷な方法を取ってしまって申し訳ありません・・・ですが・・・あなたが死んでもあなたの心臓は私が受け継ぎます。
安心して死んでください。」
「んん~・・・うう~。」
「嫌ですか? そうですよね・・・でも、大丈夫。 首を切断すればそんなことも一切言えなくなります、少しの辛抱ですから・・・
我慢してください・・・」
サラトガ(黒)は丸鋸を彼女の首に近づけ、切り落とそうとした刹那・・・
ガキィィィィン!!!!
鉄と鉄がぶつかる鈍い音がして、サラトガ(黒)はその場に倒れた。
「くっ・・・一体何事!?」
サラトガ(黒)が振り向くと、
「ふぅ~・・・間一髪間に合った。」
提督がその場にいた。
「!? どうしてこの場所が!?」
「ああ・・・サラが行く直前に小型発信機を投げつけた。」
提督が指を差す・・・サラの髪に僅かに点滅する装置がついていた。
「サラトガさん! 無事ですか!」
村雨が拘束具を1つずつ外していく。
「ちょっと・・・そこの駆逐艦のあなた・・・勝手に外さないで!」
サラトガ(黒)は村雨に丸鋸を振りかざすが、
「お前・・・何やってんだ?」
サラトガ(黒)を掴み、平手打ちをした。
「!? くっ・・・」
その場に倒れこむサラトガ(黒)。
「駆逐艦の子に振りかざすものじゃないだろ、それは・・・それ以上にそんな危険な物で何をしようとしてるんだ?」
「うるさい! あなたには関係ないでしょ!」
今度は提督に向かって突進したが、
「・・・・・・」
紙一重で避け、サラトガ(黒)の腕をへし折った。
「!? ああああっ!!!?」
激痛が走り、サラトガ(黒)は腕を押さえて苦しむ。
「・・・・・・」
提督は村雨と一緒に拘束具を外していき・・・
「よし、全部外れた。」
口に貼っていたテープも剥がし、サラは自由になった。
「提督・・・あの・・・ご、ごめんなさい。」
迷惑を掛けられないと単独で行動したのが、かえって提督達に迷惑を掛ける結果となってしまい、サラは謝る。
「もういい、お前は村雨と一緒に料亭へ戻ってろ、わかったな?」
「はい・・・わかりました。」
村雨にお願いして2人はその場から去った。
「さてと・・・」
提督はサラトガ(黒)に近づき、
「話は全部聞いてたよ・・・あの子がお前の臓器移植のために生まれたんだって? 都合のいい解釈だな。」
「・・・・・・」
「悪いが、そんなことはさせない。 あの子はオレの料亭で働く看板娘だ・・・今はあの子がいないと成り立たない程に
大切な存在なんだ。」
「・・・・・・」
「もし、またあの子を襲う事があったら、今度は容赦しない・・・お前の首と胴体が離れる事は覚悟しておけよ。」
そう言って提督はその場から去った。
「・・・・・・」
サラトガ(黒)は腕を押さえたまま、その場でうずくまっていた。
・・・・・・
・・・
・
あれから、1か月・・・彼女はどうなったのか・・・
噂では、体調を崩して入退院を繰り返しているとか・・・
提督が見限って彼女を編成から外して、永久待機艦娘にしてしまったとか・・・結局彼女も犠牲者である。
最も、自身が治るためにもう1人の自分を躊躇いもなく殺そうとしたことに関しては同情も出来ず、
提督もサラたちも「自業自得」と言わざるを得なかった。
料亭に戻ったサラは翌日から元気よく再開した。
客からの要望もあり、限定10食から30食に増やして人気を呼び、彼女のおかげで料亭の評判と皆の給料に大きく貢献した。
・・・・・・
「いらっしゃいま・・・」
またサラトガ(黒)がやって来た・・・しかし、今度は片腕に包帯を巻いていて表情も元気がなく沈んでいた・・・
「・・・・・・」
サラトガ(黒)は無言で座る。
「ご注文はお決まりですか?」
「・・・このサラ特製シチューをお願いします。」
「かしこまりました・・・少しお待ちください。」
そう言って、サラはカウンターでシチューを温めなおした。
「・・・・・・」
サラトガ(黒)は彼女を見つめる。
「? 何ですか? 私の顔に何かついていますか?」
サラが尋ねると、
「私を恨んでいないんですか?」
「・・・・・・」
1か月前の彼女の凶行・・・結局失敗に終わり、腕を折られた挙句に心臓も手に入らず病状は悪化していき、
提督からも見放される始末の彼女がサラに尋ねた。
「恨んでいない、と言えば嘘になりますね・・・でも、私はもう気にしていませんので・・・」
「・・・・・・」
「私が今更あなたに復讐するとでも思っていたのですか? 勘違いをしないで欲しいのですが、
私はそこまで心の狭い人間ではありませんので。」
「・・・・・・」
「あなたのやった事は許される事ではないです・・・でも、余命僅かと宣告され、気持ちが切迫していた事に関しては
同情するべき所はあると思っています。」
「・・・・・・」
「同情の余地はありますが許したわけではありません・・・それが今の私の本音です。」
「・・・ごめんなさい。」
「・・・・・・」
温めなおしたシチューを彼女の前に差し出す。
「お待たせしました・・・サラ特製シチューです。」
「・・・ありがとう。」
利き腕でない手でスプーンを取ると、ゆっくりとシチューを口へと運ぶ。
「・・・おいしいです・・・ああ・・・本当に、おいしい。」
1口1口食べるごとに彼女の瞳から涙が溢れる。
「・・・ご馳走様でした。」
サラトガ(黒)は食べ終わると、
「100円、ここに置いておきます・・・もう二度と来ないつもりです、最後にあなたのシチューを食べれて嬉しかったです。」
そう言って、サラトガ(黒)は料亭から出て行った。
・・・・・・
「二度と来ない・・・どう言う意味でしょうか?」
その言葉がとても気になって料亭から出ると・・・少し離れた場所で、
「!? えっ!?」
サラトガ(黒)が胸を押さえながら倒れていた。
「大丈夫!? しっかりしてください!!」
サラが起こし、脈を診るが・・・
「止まってる・・・早く治療しないと・・・」
サラトガ(黒)を抱き、料亭に入ると・・・
「提督! 提督! 大変です! 今すぐ来てください!」
サラの呼びかけに皆がすぐに駆けつけ、応急措置を行った。
・・・・・・
脈は正常に戻り、息を吹き返したサラトガ(黒)・・・しかし、一時的に回復しただけでまたいつ容態が悪くなるかわからなかった。
「提督・・・その・・・彼女は、助かりますか?」
サラは心配になり、提督に尋ねる。
「・・・・・・」
胸の辺りを触れて、心臓の鼓動や脈を計る提督だが・・・表情は険しく、
「まずいな・・・この調子だと・・・持って後1日だ。」
「!? そ、そんな・・・」
診断結果を聞いてサラは絶望した。
・・・・・・
辛うじて生きているサラトガ(黒)だが、意識はない。
「・・・・・・」
側で見守るサラ・・・一度は自分の命を奪おうとした彼女を看病して何を思うのか・・・
「・・・サラ、オレが見ておくから・・・もう部屋に戻って寝ろ。」
提督がやって来て、
「ありがとうございます・・・でも、私が見ておきますので・・・大丈夫です。」
「どうして・・・」
「はい?」
「どうしてお前を殺そうとした人間を助けようとする? 恨んでいないのか?」
「・・・・・・」
サラは少し考え、
「恨んでいますよ。」
「・・・・・・」
「でも、こんな終わらせ方は納得できません! 私に何もさせずに勝手に死ぬなんて・・・許せません!」
「サラ・・・」
「せめて、死ぬ前に私に「一発殴らせなさい!」 と言いたいです。」
「・・・・・・」
「でも・・・それ以上に・・・苦しんでいる人間を放っておくことなんて・・・例え殺そうとした人間でも放っておけません!」
「・・・そうか。」
提督は何かを決意したようで、
「それならサラ、この子を助けるために少し手伝ってくれないか?」
「えっ?」
提督の言葉に驚き、
「助けられるんですか!?」
「あくまで可能性だが・・・できると思う。」
「・・・お願いします! 私も手伝います! 何をすればいいのですか!?」
「・・・・・・」
提督はサラに説明した。
・・・・・・
「お願いします、提督。」
提督に頼まれ、自身の血液を渡した。
「ありがとう・・・これにあの薬を・・・と。」
サラの血液に入れた薬は・・・昔、深海棲艦化した赤城を助けるために開発したワクチンだった。
「更に追加で強心剤と抗生剤を少し混入して・・・これでよし。」
用意した注射器は通常よりも一回り大きかった。
「行くぞ・・・チャンスは一度きりだ!」
そう言って、提督はサラトガ(黒)の胸に注射を刺した。
ドスッ!!
「・・・ゴフッ!」
反動で吐血するサラトガ(黒)。
「・・・・・・」
サラは彼女の手を強く握りしめる。
「・・・・・・」
提督は胸の辺りに触れて脈を診る。
・・・・・・
・・・
・
しばらくして、脈は正常に戻り心臓の鼓動も戻って・・・
「上手く行った・・・後は彼女の体力に賭けよう。」
「わかりました・・・提督、ありがとうございました。」
サラは彼女の手を握り、目覚めるのを待っていた。
・・・・・・
・・・
・
「・・・はっ!」
彼女は目を覚ました。
「・・・・・・」
寝たきりだったため、体が思うように動かない。
「目が覚めたか?」
隣に提督がいて、
「あの・・・私は一体・・・」
記憶がないのか、気になって尋ねるサラトガ(黒)。
「料亭から出た後、胸を押さえて倒れていてな・・・それをサラが助けた。」
「・・・サラが?」
「ああ・・・何の迷いもなく助けたい一心だったよ、あの子は。」
「・・・・・・」
「回復の兆しが見えてきたが、まだ完治まで入っていない・・・しばらくここで治療してやる。」
そう言って、提督は彼女に注射をした。
「・・・・・・」
サラトガ(黒)は無言のままだ。
・・・・・・
「おかゆを持ってきました、さぁ食べて♪」
サラがおかゆをすくってサラトガ(黒)の口に入れようとする。
「・・・・・・」
彼女はそっぽを向いて口にしようとしない。
「大丈夫ですよ、毒は入っていませんから。」
サラは笑顔で答える。
「・・・私を恨んでいるんでしょ・・・それなのに、どうして私の看病なんてするの?」
殺そうとした女性からの看病、本人にとってそれは恐怖でしかない。
威勢を張っていたが・・・内心は怖くて体を震わせていた。
しかし、サラトガ(黒)の考えとは正反対に、
「理由なんてないですよ・・・早く元気になって欲しいだけです。」
サラに復讐の気持ちなど微塵もなかった。
「・・・・・・」
「確かに恨んでいます・・・でも、こんな形で恨みを晴らしてもフェアではないですよね。」
「・・・・・・」
「食欲が無いようですね・・・ここに置いておきますから、お腹が空いたら食べてください。」
枕元におかゆを置くと、サラは部屋から出て行った。
「・・・・・・」
サラトガ(黒)は彼女が部屋から出るまでずっと顔をそらした・・・いや、顔を合わすことが出来なかった。
自分の病を治すために、もう1人の自分を殺そうとした自分・・・それなのに、殺されそうになったにも関わらず
自分を助けようとするもう1人の自分の慈愛にサラトガ(黒)は申し訳なくなって・・・
「私は何て酷いことをしてしまったの。」と初めて後悔をしたのだった。
・・・・・・
数日後の夜の事である。
大分体が治りかけたサラトガ(黒)は部屋から出た。
「・・・・・・」
理由は「お腹が空いた」からである。
ずっと部屋で寝たきりで皆からは消化の良い「おかゆ」しか出されていなかったため、物足りなかったようだ。
最も、治療で居候の自分がそんな贅沢など言えるはずもなく、黙っていたのも事実であったが、そろそろ限界が来ていたようだ。
店内の扉をゆっくりと開けると、何だか賑やかな声が聞こえた。
「・・・・・・」
そっと覗くと、そこには・・・
「はいは~い♪ 村雨の新作のプリンパフェができましたよ~♪」
「海風も少し頑張って・・・ハヤシライスを作ってみました・・・感想を聞きたいのですが・・・」
「司令! 私も栄養を考えて肉と野菜の比率を合わせた野菜炒めを作ってみました、是非ご賞味を!」
皆が新作のメニューを考えていた。
「う~ん・・・こんなにたくさん食べるのか・・・オレ1人では食べられんぞ。」
「・・・・・・」
テーブルに並べられた新作のメニュー・・・それを見て、
グウウウ~~!
サラトガ(黒)のお腹が鳴ってしまった。
「!!?」
咄嗟に隠れるサラトガ(黒)、もちろんその音は店内の皆にも聞こえたようで・・・
「そんなところで隠れてないで出てきたらどうだ?」
提督がサラトガ(黒)を呼んだ。
「・・・・・・」
流石に恥ずかしかったのか、顔を赤くしながら店内に入ったサラトガ(黒)だった・・・
・・・・・・
「今霧島たちが明日から出す予定のメニューを考えていてな・・・」
提督が説明する。
「・・・・・・」
それ以上にサラトガ(黒)の視線はテーブルに並べられた食事である。
「あ、お腹が空いてたんでしたよね・・・どうぞ。 まだ売り物として出せるかわかりませんが、海風特製ハヤシライスです。」
「・・・いただきます。」
皿に盛り付け、スプーンですくって口に含む。
「・・・・・・」
「あ、あの・・・どうですか? おいしい?」
「・・・はい、おいしいです・・・」
「ほ、本当ですか? 良かったぁ~。」
海風は一安心する。
「じ・ゃ・あ、今度は村雨特製プリンパフェを召し上がってみてください!」
と、サラトガ(黒)の目の前にパフェを差し出した。
「・・・いただきます。」
新しいスプーンを取って、口に入れてみる。
「どうですか?」
「はい・・・クリームとプリンの相性はぴったりだと思います。」
「やっぱり? よし、明日のデザートに追加しよう♪」
村雨は上機嫌である。
「・・・・・・」
食欲を満たせたサラトガ(黒)であったが、それ以上に・・・
「皆さんは・・・艦娘ですよね?」
「そうですよ・・・艤装を装着すれば普通に戦えますよ。」
霧島は普通に答える。
「でも、いいのですか? こんな所で働いていても・・・」
艦娘とは本来鎮守府で提督の命令に従い、深海棲艦と戦うためにいる・・・そんな彼女たちが任務を放棄? して料亭で働くと
言うのはまずいのではないか・・・と、感じたサラトガ(黒)。
「大丈夫ですよ、私たちが自分で決めた事ですから。」
村雨が口を開く。
「? 自分で決めた事?」
「私がいた鎮守府では、私は「待機艦娘」だったので・・・1日のほとんどがやることもなく、ずっと暇だったので・・・
それならここで働くのもアリかなと思って、ここで働いているんです。」
「・・・・・・」
「待機艦娘」・・・それはサラトガ(黒)も同じ状況である。
「それに・・・ここの提督とは長い付き合いですので、それだったらここの提督と一緒に生活したい、と思って今に至ります。」
村雨は笑顔で答えた。
「・・・・・・」
何ていい笑顔なのかしら・・・ここにいる艦娘たちは皆笑顔・・・ここでの生活が皆の「生き甲斐」となっているのね・・・
「・・・・・・」
それに比べて私は・・・
「・・・・・・」
「あの・・・そんなに思い詰めた顔をして、どうしたんですか?」
霧島が心配になって話しかける。
「あ、いえ・・・何でもありません。」
「・・・そうですか、それならいいのですが。」
「はい、大丈夫です・・・ご馳走様でした。 とても美味しかったです。」
そう言って、サラトガ(黒)は部屋へと戻った。
・・・・・・
翌朝、
「提督、すいませんが電話を借りてもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ。」
提督の許可をもらい、サラトガ(黒)は受話器を取った。
「・・・もしもし。」
彼女は誰かと会話をしていた。
・・・・・・
「体調が良くなったと聞きましたので、今日はシチューを持ってきました♪」
サラは笑顔で調理したてのシチューを持ってきた。
「・・・?」
布団に入っていたサラトガ(黒)からすすり泣き? のような声が・・・
「グスッ・・・ううっ・・・ひっく・・・」
布団を被っていたため、素顔は分からなかったが泣き声ははっきりと聞こえた。
「・・・シチューを置いておきます、温かいうちに召し上がって下さい。」
サラは隣に置くと、そのまま部屋から出た。
「提督、あの・・・」
「? どうした?」
提督が尋ねると、
「あの子が・・・」
サラは先ほどの状況を説明した。
・・・・・・
「皆、話があるんだが・・・」
その日の夕方、提督は霧島たちを集めて会議を開いた、内容はもちろん・・・サラトガ(黒)のことである。
「実は・・・」
提督が皆に説明していく。
・・・・・・
・・・
・
それから数日が経過し、
「長い間お世話になりました。」
サラトガ(黒)の病は完治したわけではないが、移植する必要がないくらいには回復していた。
「これからどうするんだ?」
提督が尋ねると、
「そうですね・・・故郷へ帰ろうと思っています。」
「そうか、鎮守府の皆に別れの挨拶をした方がいいのでは?」
「・・・・・・」
彼女は急に無言になる。
「・・・まぁ、それはお前が決める事だからオレが言う事ではないが・・・元気でな。」
「はい・・・提督、そして皆さん・・・本当にありがとうございました。」
「ああ、気にしなくていい・・・後は・・・」
提督が視線を変える・・・サラトガ(黒)がその方向を向くとサラが歩いてきて・・・
「・・・・・・」
目の前に立つサラトガ(白)、
「いいですか・・・歯を食いしばって下さい!」
そう言って「はぁ~っ」と、拳に力を入れ・・・
バキィィィィッ!! (殴る音)
「!?」
サラトガ(白)が殴りかかった。
「・・・・・・」
突然の事にサラトガ(黒)は驚く、
「これで、私の復讐は済みましたから! お互い恨みっこなしでお願いします!」
それだけ言うと、サラは料亭へと戻って行った。
「・・・・・・」
サラトガ(黒)は彼女を見つめていた、
「後・・・これはオレと皆からの気持ちだ。」
そう言って提督は少し小さめのバッグをサラトガ(黒)に渡した。
「・・・ありがとうございます。」
バッグを渡されて戸惑いつつも、お礼を言った。
「それでは・・・船の時間が迫っていますので・・・さようなら。」
「ああ・・・またな。」
そう言って、サラトガ(黒)は提督達の前から去った。
・・・・・・
船に乗り、椅子に座るサラトガ(黒)。
「・・・・・・」
彼女は鎮守府には戻らなかった・・・何故なら彼女は・・・
・・・・・・
・・・
・
「もしもし。」
サラトガ(黒)が電話した先は・・・鎮守府だった。
「病状が良くなったので、出撃が可能になりました。」
自分の病が改善されたので、提督に報告したのである・・・しかし、
「残念だが・・・お前は解任(解雇)だ。」
その言葉に耳を疑う。
「え・・・それは・・・一体、どういう事ですか!?」
「決まってるだろ? お前はもう必要ない、代わりに別の空母艦娘を投入したからお前は用済みだ。」
「そんな・・・」
「病気持ちの欠陥空母は必要ないと言ったのだ、鎮守府の荷物をまとめてさっさと出て行け。 猶予は3日だ!」
それだけ伝えると、提督は電話を切った。
「そんな・・・そんな・・・」
サラトガ(黒)の心に残ったのは、「欠陥」と「不必要」・・・その言葉だけで彼女を絶望させるには十分だった。
「・・・・・・」
サラトガ(黒)は部屋に戻って、ずっとすすり泣きしていた。
「体調が良くなったと聞きましたので、今日はシチューを持ってきました♪」
そう・・・サラがあの時、聞いた泣き声・・・それは、提督に解雇された後のサラトガ(黒)のすすり泣きだったのだ。
「・・・・・・」
彼女の態度にただ事ではないと感じたサラが提督に相談を持ち掛けたのであった。
「提督・・・あの・・・あの子が・・・」
サラは状況を説明した。
・・・・・・
「・・・・・・」
サラトガ(黒)は提督からもらった小さなバッグが気になっていた・・・
「何を入れているのでしょうか?」
それほど重くはないが、揺らしてみても何の音もしない・・・金属類ではないようだ。
「・・・・・・」
本当は故郷に着いたら中身を見る予定だったサラトガ(黒)、でも興味本位から開けてしまい・・・
「!? OH MY GOD!!」
サラトガ(黒)は驚いた。
・・・・・・
「皆、話があるんだが・・・」
サラトガ(黒)が解任された日の夕方、提督が皆を集めて会議を開いた。
「実は・・・サラトガ(黒)の事で話が・・・」
提督はゆっくりと説明していく。
「どうやら・・・鎮守府を解雇(クビに)されたようだ。」
提督の言葉に皆は最初驚いたが、
「そうですか・・・でも、はっきり言うと自業自得ですよね?」
霧島は冷静に答える。
「まぁな、だが彼女を簡単に切り捨てた提督の方にも問題があるとオレは思うんだ。」
「まぁ・・・それも一理ありますね。」
「それで? 提督は一体何をお考えなのですか?」
海風が尋ねると、
「まぁ、余計なお世話ではあるが・・・」
提督は率直に、
「彼女に当面の生活費を支給させてやろうと思っている。」
皆「・・・・・・」
皆はしばしの沈黙・・・しばらくして翔鶴が、
「提督は本当に人がいいですね・・・別に彼女から頼まれたわけでもないのに・・・」
「そうですよ、そんな余裕があるなら村雨に下さいよぉ~。」
と、村雨も不満そうだ。
「・・・そうか。」
皆の意見をよそに、
「私は賛成です。」
サラが口を開く。
「困った人を助けることはいいことだと思いますし、提督のやることには口出ししません・・・いつもの事ですから♪」
サラは笑顔で答える。
「そうね、そう言われるとそうですね・・・いつもの事ですよね、司令の予測不能な行動は。」
霧島も納得して答える。
「結局支給すると言う事ですよね? 確かに、提督の決めた事なら私たちだって文句は言えませんが・・・」
村雨は海風と翔鶴を見る・・・2人も無言で首を振った。
「よし、決まりだな・・・じゃあ、いくらまで出してもいいか、皆で話し合ってだな・・・」
提督は次のステップへと話を進めた。
・・・・・・
・・・
・
「・・・・・・」
バッグの中身は大量の札束・・・しかも、ドル札(サラトガの故郷はアメリカなため)。
「・・・・・・」
札束の中に紙が挟まっていて・・・
”どうせ一文無しなんだろう? 当面の生活費だ・・・故郷へ着いたら絵ハガキくらいは送ってくれ”
「提督・・・それに皆さん・・・」
サラトガ(黒)はバッグを強く抱きしめ、
「Thank you!!(ありがとう)」
と、心の中で叫んでいた。
・・・・・・
・・・
・
1か月後・・・サラトガ(黒)から絵ハガキが届いた。
故郷で何とか仕事を見つけて1人で平穏に暮らしているようだ。
「ほら、サラ。」
提督が読み終えると、サラトガに渡した。
「あ、ありがとうございます。」
サラは喜んで受け取った。
・・・・・・
「はぁ~い、サラトガ・・・故郷で元気にやってますか? 私は相変わらず料亭で忙しくて・・・」
休日の日にサラトガが手紙を書いていた。
本来なら会うはずのない2人、それが偶然か、必然だったのか、再開することになり・・・
「何があっても諦めちゃ駄目よ・・・頑張れば必ず・・・」
あまりいい思い出ではなかったが、何も嫌な事ばかりではなかった・・・いいこともそれなりにあって、
「・・・これでよし、後は切手を貼って・・・と。」
手紙を書き終わり、切手を貼ると料亭から出て行き、近くのポストへ投函した。
「無事に届きますように・・・」
ポストの前で祈るサラトガ。
「あら、休憩時間が終わりそうね・・・さてと、ではサラトガ・・・昼も頑張って行きますか!」
サラトガは今日も頑張って料亭で働くのであった。
「2人のサラトガ」 終
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