「提督と村雨」
”あの日”が迫ると毎日同じ夢を見るようになる村雨、
村雨が言う”あの日”とは・・・その時、提督が取った行動とは・・・
時雨と同じく村雨の史実を見て、ふと思いついたお話。
またあの夢・・・
”ある日”を境に急に同じ夢を見るようになる。
ここはどこ?
周りは闇のように暗く、寒くて寂しくて・・・
ああ、そうか。私は・・・
「はぁ・・・はぁ・・・」
同じ場所で目が覚め、額から汗が流れ、呼吸も荒い。
「はぁ・・・はぁ・・・」
今、私は部屋のベッドで目覚めた・・・
「・・・・・・」
落ち着いた後はいつも頭を抱える。
「また・・・あの夢・・・」
夢なのに現実と同じような感覚、本当に私はこの部屋で寝ていたのかどうかすら疑う感覚・・・
「・・・・・・」
今日は・・・秘書艦の仕事だったわね。
「・・・・・・」
私は早々に着替えると、執務室へと向かう。
・・・・・・
「提督、おはようございます! 今日の秘書艦はこの村雨が務めさせていたただきます!」
「ああ、おはよう! 今日もよろしくな。」
・・・・・・
やることがあって大変・・・
でも、その方が「私はまだ生きている」 とか「この鎮守府で生活している」と実感が持てる。
そして何よりここの提督は、とても優しい。
艦娘に対して優しく接してくれて皆提督の事が好き。 もちろん、私も提督の事が好き・・・。
・・・・・・
今日の秘書艦の仕事が終わり、
「今日はお疲れ様です! 明日も秘書艦を務めさせていただきます!」
私は自分の部屋へと戻る。
・・・・・・
またあの夢・・・
ここは海の底?
・・・そうか、私は・・・
「はぁ・・・はぁ・・・」
また同じ場所で目が覚める。
「・・・・・・」
そう・・・ある日と言うのは・・・
前の駆逐艦”村雨”が轟沈した日・・・
時空を超えて、私は前の”村雨”という記憶と人という感情を持つ艦娘に生まれ変わり、今に至る。
もちろん、他の艦娘にも同じことが言える。
あの日が近づくにつれて、私の中の記憶が蘇り、苦しくていつも寂しい衝動に駆られる・・・
あの日が過ぎれば・・・後は楽になる・・・
そうやってずっとこの衝動を我慢し続けてきた・・・
「・・・・・・」
空を見るとまだ暗い。
私は眠れなく、気分転換に外に出た。
そこには、提督がいた。
「どうした、眠れないのか?」
私に気づいたのか、声を掛けてきた。
「・・・・・・」
「隣いいかな?」
そう言って私の隣に座った。
「・・・・・・」
私も腰を下ろす。
・・・・・・
「それで、なぜ泣いているんだ?」
「え・・・」
無意識に私の瞳から涙が流れていた。
「・・・昼の執務の時もそうだったな・・・」
「・・・・・・」
「時間をやたら気にしていたり・・・指を頻繁に噛んでいたり・・・放心状態だったり・・・何か悩みでもあるのか?」
「・・・・・・」
「困ったらすぐに相談しろとは常に言っているはずだがな?」
「・・・・・・」
私はしばらく沈黙した後、
「提督、今日は何の日か知ってる?」
私の問いに、
「・・・特別記念日というわけではない日だが・・・わからない、何の日だ?」
「・・・・・・」
私はクスッと笑って、
「今日は・・・」
私は提督に話した。
・・・・・・
「・・・・・・」
「毎年この時期になると、私の中の記憶が蘇り、夢か現実かわからない感覚に見舞われるの・・・」
「・・・・・・」
「さっきも・・・寝てた時だって・・・薄暗い海の底で・・・」
そこまで言いかけて、
「よし、わかった。」
提督は私の肩をトンっと叩き、
「今日のその日までオレが側にいてやる。」
「・・・・・・」
「怖くて寂しいのだろう? ならオレがその時間が過ぎるまで一緒にいてやる。」
「・・・・・・」
提督は優しいのね・・・
「・・・でも、提督は・・・」
深夜は提督が出撃する時間、私なんかのために・・・
「気にするな。艦娘の安全が一番の優先だから。」
「・・・・・・」
私は無言で首を縦に振った。
ありがとう・・・って意外と言えないものね・・・
・・・・・・
今日の仕事は落ち着かないことを除けば難なく終わることができた。
そして・・・
あの日まで1時間を切った。
「・・・・・・」
寒くもないのに、私の身体はまるで極寒の世界にいるみたいに震えて止まらなかった。
提督が側に寄り添って私を慰めてくれたけど、震えは一向に収まらなかった。
「・・・・・・」
そんな私に、
「眠っていいよ。昨日は全く寝ていないんだろう?」
「・・・・・・」
提督は本当に優しい、私、提督の事が好きです。
確かに眠気がする、上手く寝付けば時間が過ぎるかも・・・でも、
またあの夢を見るのかしら・・・
また私は、一人寂しく海の底で・・・
「・・・・・・」
そんな私に提督は、
「これを持っていろ。」
そう言って渡されたのは、中心に青く光る宝石が付いたペンダントだった。
「お守りだ。」
「・・・・・・」
「それで、もし夢で・・・」
「?」
もし、夢で海の底にいたら、そのペンダントを持っているか確認しろ。そして気づくんだ・・・
「ああ、このペンダントは提督から貰ったもの。そうだ、私は提督と一緒にいたんだ。これはただの夢なんだ。」と。
「・・・やってみます。」
そう言って私は、深く深呼吸をしてペンダントを強く握りしめて寝息を立てた。
提督は傍で見守る。
・・・・・・
また、あの夢・・・
また、一人で海の底の暗くて、寂しくて寒い・・・
「・・・・・・」
ただ一つ違ったことは・・・
手に強く握りしめていた青く輝くペンダント・・・
そうだ、これは提督から貰ったもの・・・
私のために提督がくれた大事なもの・・・
そう、さっきお守りとして貰ったもの・・・
・・・さっき・・・
・・・さっき? ・・・!?
! そうだよ! 私は沈んでなんかいない!
さっきまで提督が私の傍にいてくれた!
これはただの夢!! 私は・・・私は生きている!!
・・・・・・
「・・・・・・」
目が覚めた。
汗もかいてなく、呼吸も荒くない・・・
「・・・・・・」
すぐに時計を見ると、
あの日の時間が過ぎていた。
「・・・・・・」
助かった・・・本当にそう思った。
悟った瞬間、大粒の涙が流れ落ちた。
「・・・・・・」
側で提督が眠っていた。
「・・・・・・」
枕元にはメモがあり、
そのペンダントは預けておく、持つ必要がなくなった時、返してくれればいい。
「・・・・・・」
それを見て、
「ありがとう提督。」
私は眠っている提督にキスをした。
「提督と村雨」 終
一部の艦娘の史実を見て泣いたこともありました。
素晴らしい。