「海風の髪」
白露型の七不思議(適当)で挙げられた”海風の髪”。一体何が不思議なのか・・・
「いや、本当なんだって!」
提督と村雨に必死で説明する艦娘・・・それは江風。
「相談があるから何かと思ったら・・・”海風の髪が襲い掛かって来た”って、ああ、おかしい!」
江風の説明に村雨はクスクスっと笑う。
「本当だって! 昨日後ろから海風姉を驚かそうとしたら・・・」
・・・
「おっ、前にいるのって・・・海風の姉貴じゃん?」
江風が駄菓子屋の帰り道に、買い物から帰る途中であろう海風の姿を見かける。
「よしっ、ゆっくり近づいて脅かしてやろう!」
そう思い、江風はゆっくりと近づき海風との距離を縮める。
「もう少し・・・もう少し。」
手が届く位置まで接近して、
「よしっ、今だぁ!! 海風の姉きぃ・・・」
両手で海風を押そうとした瞬間、
シュッ!!
「おおぅ!!? えっ? えっ?」
江風の顔に一瞬だが、何かがかすれた感じがして、
「・・・いてて、血が出てる。 何で?」
江風の顔に切り傷があり、辺りを見回す。
「・・・何かにぶつかったわけでも、擦りむいたわけでもないのに。」
そう思っていると、
「あら江風、どうしたの? 駄菓子屋さんの帰り?」
海風が気づき、江風に近づく。
「! 血が出てるじゃない。 動かないで、拭いてあげるから。」
そう言って、海風がポケットからティッシュを取ると、江風の顔に押し当てる。
「・・・止血できたかな? どうしたの江風、転んで怪我したの?」
「ううん、転んでない! 急に何かがかすって気づいたら切り傷負ってて・・・」
「ふ~ん、でも大した傷では無いですね。 次から気を付けるんですよ。」
海風は立ち上がり、帰ろうとする。
「・・・」
江風は海風の後姿を見て一瞬、驚き背筋が凍る・・・海風の髪の先端が何故か・・・赤く染まっていた。
・・・
「・・・つまり、海風の髪が危険を察知して江風に襲い掛かったって言いたいの?」
「・・・うん、それしか考えられないよ。」
江風は真面目に言うも、村雨は大笑いをして、
「考え過ぎよ! 髪が襲って来たって、本人の意思とは関係なしに襲うなんて、あり得ないわよ絶対に!」
「で、でも本当に、本当なんだって! 周りを見たけどとても鋭利な障害物なんて無かったし、
転んだ覚えも無いんだよ・・・それなのに顔に傷が出来て。」
江風はその後も説明するも、村雨は全く信じる気配が無い。
・・・しかし、江風と似た様な説明をする艦娘がもう1人現れる、それは・・・
「海風の髪ってサソリの尻尾みたいっぽい~!」
夕立である。
「ちょっと夕立、まさか江風みたいに海風の髪が襲い掛かって来たって言うんじゃないでしょうね?」
村雨の質問に、
「襲ってきたわけじゃないけど・・・ 夕立は驚いたっぽい~!!」
江風と同じ説明をして来た夕立。
「・・・それで、一体どんな状況だったわけ?」
「え~っと、時雨と2人でキャッチボールをしていたら・・・」
・・・
「ほら行くよ、夕立!」
時雨がボールを夕立に投げる。
「取ったっぽい~! もっと強く投げてもいいっぽい~♪」
夕立の言葉に時雨はコクっと頷いて、
「じゃあもっと強く投げるよ・・・えいっ!!」
先程と比べて数倍の力でボールを投げるも、
「ぽい~! ああっ、取れなかったっぽい~!」
夕立は取り損ねてしまう。
「ああっ、ボールが海風に当たるっぽい~!!」
ボールの先には、提督と話している海風の姿が、
「間に合えっぽい~!!」
夕立は全速力で走るも、ボールはもう海風の近く・・・夕立は思わず目を閉じてしまうも、
「・・・あ、あれ?」
目を開くと、海風に当たった形跡は無く、提督と会話を続けており、
「・・・何で? ボールに穴が空いてしぼんでいるっぽい~?」
海風の側に、夕立が取り損ねたはずのボールが何故か穴が空いて空気が抜けた状態で転がっている。
「・・・」
夕立が周りを見ると、一瞬光るようなものが見えて凝視する。
「・・・」
・・・それは、海風の髪の先端が鋭利な刃物のように、光っていたかに見えた光景だったらしい。
・・・
「江風と言い夕立と言い・・・」
村雨は聞いて呆れ返り、
「いい? 本人の意思とは正反対に髪が勝手に人に襲い掛かったり、物を壊したりしないから!
江風の時はどこかで擦りむいて怪我しただけ! 夕立は海風の側の尖った場所にぶつかって穴が空いた、
それだけの話、分かった?」
村雨の言い分に、
「で、でもよぉ・・・本当に。」
江風は納得がいかず、
「はぁ、なら本人に聞いて見れば?」
そう言って、裏で作業をしている海風を呼ぶ。
・・・
海風に江風と夕立の話を説明する村雨、しかし、結果は分かり切っていて、
「江風に夕立さんったら・・・私の髪が襲い掛かってきたり、ボールに穴を空けたなんて・・・
あり得ませんよ、そんな話。」
村雨と同様、クスクスっと笑う海風。
「・・・」
それでも納得がいかない江風と夕立に、
「まぁ、2人の共通点は”背後”にあるようだね。」
提督は海風に背後に立ち、
「もしかしたら、背後に危険が迫ると防衛機能が無意識に働くのかもしれないね。」
そう言って、提督はおもむろに、
「あうっ!? て、てて提督!!? 何をするのですか!!?」
海風は驚き、顔を赤くする。
「いや・・・海風のお尻をさわさわしただけだけど?」
提督の言葉に、
「提督さん・・・痴漢してるっぽい~。」
「提督、見損なったよ! 男の風上にも置けないぜ!!」
2人は提督を睨みつける。
「違う違う! 背後から何かすれば髪が襲い掛かって来るんじゃないかと思ってさ。」
提督は説明し、
「・・・でも、髪は襲い掛かって来ないな。 やっぱり江風たちの勘違いじゃないかなぁ?」
提督の説得に、
「・・・まぁ、提督のやり方は微妙だけど、確かに襲って来ないね。 じゃあ江風たちの勘違いだった・・・のかなぁ?」
証拠が掴めずに、自分たちの証言を疑い始める江風たち。
「と・に・か・く! 髪が襲ってくることなんて有り得ないから! それが証明された事だし、早く鎮守府に戻りなさい!
今日は出撃と遠征は無いの? もう少しでお昼が過ぎるわよ!」
村雨の言葉に、
「!? やっべ! 13時から遠征だぁ! 村雨の姉貴、ご馳走様ぁ!!」
「・・・夕立も、出撃っぽい~! あたしもすぐに帰らないと。」
そう言って、2人はそそくさと店から出る。
・・・
「全くあの2人はぁ・・・」
村雨は「はぁ~」とため息をつく。
「まぁまぁ村雨さん、江風たちの疑問も晴れた事ですし、いいじゃないですか~♪」
海風は気にも留めず、また裏で作業をし始める。
「そうなんだけどね~、何かあるとすぐ店に来ては騒ぎ始めるんだから。」
村雨は少し不機嫌である。
「・・・」
村雨はふと、海風の後ろを見つめる・・・外から入って来たのか、ゴキブリが凄いスピードで海風に近づく。
「ちょっ、海風! 足元に・・・」
そこまで言いかけたところで、
ドスッ!!
突然ゴキブリの体が何かが突き刺される・・・それは、どう見ても海風の髪!?
「・・・」
村雨はその光景をしばし呆然と見つめる。
「えっ? きゃあっ、ゴキブリ!!」
死んでいるゴキブリを見て悲鳴を上げる海風。
「・・・あれ? 死んでいます? す、すぐに片づけないと!!」
すぐに箒と塵取りを持って来て、掃除を始める海風。
「・・・」
周囲を掃除して、何事も無かったかのように作業を再開する海風を見た村雨は、
「えっ、今の一体何?」
と、何度も思わざるを得なかった。
「海風の髪」 終
蠍座の尻尾かw
若しくは提督さんは好意ある人だから
攻撃しなかった?うーん。便利なんだか
微妙な能力だなあw