「料理大会」
白露の意外な特技で艦娘たち主催の料理大会に出場して・・・
時系列は、提督が再着任してゴミ捨て場の香取達が施設を閉鎖して鎮守府に着任してから、
少し経った後です。
ここはとある会場、会場内にはたくさんの艦娘たちが来場しており、
その中心で何人かの艦娘が与えられた食材で調理を行っている。
「これとこれをまずは切って、それからお鍋に水を入れて温めて、と。」
その中で一際目立つ艦娘がいる、白露型の長女の白露だ。
「よぉし、お鍋が温まった! じゃあこれを全部入れて・・・うおりゃあっ!!」
切った食材全てをそのまま鍋に放り込んでしまう白露、その光景に周りも思わずびっくり。
「よし、そしてこのまま煮詰めて、塩と胡椒を少し足して・・・これでいいかな~♪」
最後に蓋をして出来上がるのを待つ白露。
この会場では艦娘(駆逐艦)たちによる”料理大会”が行われている。
各鎮守府で腕のある艦娘たちが互いに競い、限られた食材から工夫して調理をすると言う物。
もちろん上位には賞金が課せられ、1位に輝けば50万円もの賞金が手に入る。
そのため、鎮守府から選ばれた艦娘たちは勝利の切符を目指しているのだが・・・
調理時間が終わり、審査員たちが各艦娘の調理した料理を見回る。
「ふむ、中々美味しそうな料理が調理されていて関心だな。」
各艦娘たちの料理を見て行く中、やはり審査員たちが一番注目した料理は、
「ふむ、我々にはただ食材を切って鍋に全部放り込んだようにしか見えなかったのだが・・・」
白露が調理したものを見て、審査員たちが苦笑いをする。
「まぁまぁ、人によって調理方法なんて様々でしょ? 絶対美味しいから! 食べて見れば分かるよ♪」
白露は自信満々に答える。
いよいよ料理の採点となり、
「うむ、曙の作ったカレーは美味いが、少し辛めだな。 辛い物好きにはたまらんだろうが、苦手な人間には向かないだろう。」
審査員たちが意見を出して艦娘たちの料理の点数を出して行く。
「うん、吹雪の野菜カレー、これは美味しい。 文句なしの高得点だね。」
ほとんどの料理の点数を出したところで、
「最後は白露・・・それでは頂こう。」
皿に取って、審査員たちが試食をする。
当然、食材を切ってお鍋に入れて煮詰めただけなのだから、あまり期待をしていなかったらしく、
しかも今回のお題が”カレー”で、白露は他とは類を見ない”果物カレー”を作ったのだ。
「・・・」
試食をした審査員たちが互いに顔を見つめ合う。
「何だこのカレー!? 凄く美味いぞ!」
先程まで味に期待すらしていなかったしていなかった審査員たちが「もう少し」と皿に取って口に運んで行く。
「この果物の甘味と酸味、カレーの味と調和して独特の旨味を醸し出している!」
果物を入れると言う白露の意外な発想、審査員たちの舌を虜にさせ、調理した鍋の中身は遂に空になる。
「全くの文句なしの美味さだ、このカレーの点数は高いぞ!」
そう言って、審査員たちの出した点数は50点中48点の高評価を叩き出し、
白露が勝利となった。
「えへへ~♪ また白露が勝っちゃったぁ~♪」
今回の勝負は4人による準決勝戦、白露が最高得点を出して勝利しもう1人、満潮が他の2人よりも高得点を出した事で
白露と満潮が決勝戦進出となった。
「それにしても白露の発想には驚いたわ・・・まさかカレーに果物を入れるなんてね。」
最初はその光景を見て呆れていた村雨だったが、審査員の高評価に思わず驚く。
「確かにね、ただ白露は果物を切ってそのまま鍋に入れていたように見えたけど?」
時雨も白露の調理に呆れていて、「これは負けるなぁ」と思っていた位だ。
「皆はそこしか見てないんだね~、あたしが何も考えずに適当に入れていたと思う~?」
白露は何故かにやにやしている。
「ど、どう言う意味っぽい~白露?」
夕立が気になって尋ねると、
「ちゃんと順番通りに仕上げたんだよ♪ まずは沸騰したお鍋に果物を入れる! そしたらすぐに火を強めて柔らかくする!
その後塩と胡椒を入れてスープみたいにして! そしたら下に沈殿した果物を一緒に混ぜてカレーのルーを入れれば、
コクのあるカレーの出来上がりってね♪」
白露の調理は適当では無く、事前に入れる順番とタイミングを見計らった白露ならではの調理法だった。
これには時雨たちも驚き、
「白露凄いっぽい~♪」
「ふっふ~ん♪ いいよ、もっとお姉ちゃんを褒めていいのよ~♪」
そう言って、この日は無事に勝利を収めて姉妹たちと一緒に鎮守府へと戻る。
・・・
そもそも白露が料理をするようになったのは理由がある。
食堂が開く時間は朝の7時から夜の22時、22時~6時59分までは空いていないため、鎮守府に所属の艦娘たちは
その時間内に食事をしなければならないが、深夜の遠征や特別任務もあり、その場合食堂の机に作り置きの食事を
置くなどの対応は取っているものの、量は決まっておらず基本は”早い者勝ち”である。
今週はちょうど時雨や夕立が深夜遠征を受けていたこともあり、帰還が深夜の0時、1時が多く当然ながら食堂に作り置きが
全く無かったのだ。
「お腹空いたっぽい~・・・」
夕立が部屋でずっと空腹を訴える。
「うるさいよ夕立、朝まで我慢してよ。」
隣で寝ている時雨が注意をするも、
「お腹空いたっぽい~、お腹が空き過ぎて眠れないっぽい~。」
「夕立! 僕だってお腹が空いてるんだ! 夕立だけじゃないんだよ!」
遂には時雨が怒る始末。
「・・・」
妹の隣で寝ている白露が目を覚ますも、その時はすぐに寝てしまう。
しかし、ずっとこの状態が続き白露が妹のために行動を起こす。
「お腹空いたっぽい~・・・」
「夕立うるさい、いい加減に静かにして!」
いつもと同じ様に2人の言い合いが始まると思った矢先、
「2人とも、お姉ちゃんについて来なさい!」
突然の白露の提案に、2人は互いに「何だろう?」と顔を合わせ、渋々ついて行く。
着いて行った先は、食堂。
「ほら、2人とも!」
事前に調理していたのか、2人の前に料理が置かれる。
「これ、白露が作ったの?」
「うん! あたしだってたまには調理するよ~♪」
「・・・」
白露が普段調理する所を見た事が無い時雨は料理を見て驚く。
「い、頂きます。」
スプーンを取って口に運ぶ時雨、
「はむはむ・・・ごくん。 お、美味しい。 これ本当に白露が作ったの!?」
予想と違った美味しさに思わず白露に再び尋ねる時雨。
「そうだよ、何? あたしが料理が出来ないただのお姉ちゃんだと思ってたの?」
白露はムッとする。
「ううん、そうじゃないけど・・・うん、美味しい。 ありがとう。」
時雨は素直に感謝の言葉を出す。
「いっぱい食べたっぽい~、ご馳走様っぽい~♪」
散々部屋で叫んでいた夕立も満腹で満足したようだ。
「あたしも時間が合ったら作るから、お腹が空いたらお姉ちゃんに言いなさい、分かった?」
「分かったっぽい~♪」
そう言って、3人は部屋に戻って静かに就寝をする。
深夜の遠征・出撃でお腹を空かせて帰還する妹たちのために、駄目と分かりつつも食堂で白露が調理を始めたが、
「白露、最近深夜に食堂で料理を作ってるんだって?」
食堂の責任者である村雨が白露に尋ねる、
「えっ? 誰が言ったの!?」
「夕立からよ、「白露が作ってくれて助かるっぽい~♪」って言ってたけど?」
「うう~・・・ご、ごめんね。 悪いのは分かってたけど、部屋でずっと叫ぶから静かにさせたくて・・・」
村雨は怒っているだろう・・・そう感じた白露は謝るが、
「別に怒ってないわ。 ただ白露も料理が出来るんだなぁ~ってね♪」
「意外ねぇ~」な言葉を出して、食堂に戻って行く村雨。
・・・
白露の活躍は鎮守府に広がり、妹だけでなく他の艦娘からも頼まれるようになる。
特筆すべきは白露のオリジナルティで、一見適当に調理しているように見えるが、実際はあらかじめ計画を立てて調理している所だ。
調理している光景を見た大半の艦娘が「煮ているだけ」「盛っているだけ」と手抜きしている様に見えるも、
実際は煮たり盛るタイミングを見計らって白露なりに適切な調理を施しているのだった。
どこでその技術を習得したのかは不明だが、本人によると、深夜に摘まみ食いをし続け、自分なりに味の相性を見つけたらしい。
・・・もちろん、つまみ食いをした件については後に減給扱いとなったが。
・・・
翌日、白露と満潮との料理大会の決勝戦が始まろうとしていた。
「対戦相手は満潮だったね~。」
白露は海上の廊下を歩いていて、
「あたしは別に賞金に興味はないけど、一応真剣勝負だからね! 満潮に会いに行って「お互い頑張ろうね~」と言っとこうっと♪」
白露にとって名声や賞金はどうでも良かった、お互いに”真剣勝負で全力を尽くす”、ただそれだけの気持ちだったのだが、
「あっ、満潮がいる! おはよう満潮~!」
満潮を見つけて白露が駆け寄ろうとした時、
「あれ、あの子は確か・・・姉妹艦の朝潮だよね?」
満潮の姉である朝潮が現れ、咄嗟に白露は陰に隠れて2人を見つめる。
「いよいよ決勝戦よ満潮! 相手は白露さんだから精一杯頑張りなさい!」
姉らしく朝潮は満潮を勇気づける。
「・・・」
満潮は無言のままである、緊張しているのだろうか?
「頑張ってね満潮、私には応援する事しか出来ないけど・・・」
「・・・ううん、それだけで十分よ。 ありがとう。」
満潮は力無く答えると、そのまま会場へと歩いて行く。
「どうしたんだろう満潮? 凄く元気無さそうだったけど・・・」
2人の会話の一部始終を見ていた白露は不思議そうな顔をする。
「あ、あの・・・すいません、白露さん。」
後ろから突然声を掛けられ、慌てて振り向くと、
「・・・何だ荒潮じゃん、いきなり声かけないでよ、びっくりするじゃん!」
後ろにいたのは朝潮と満潮と同じ姉妹艦の荒潮、しかも何故かそわそわしている。
「? どうしたの荒潮? 何か言いたそうな顔してるね?」
白露が不思議そうに尋ねると、
「じ、実は・・・」
荒潮は白露に思いのたけを漏らす。
・・・
いよいよ決勝戦の時間となり、白露と満潮は厨房に立ち互いに見つめ合う。
「言っとくけど手加減しないからね! 白露、貴方も全力で掛かって来なさい!」
満潮の挑発に、
「当ったり前じゃん! お互い全力を尽くそう、ね!」
白露は相変わらずのマイペースで満潮に言葉を返す。
両者が言い終わったところで調理時間のスタートである。
今回の決勝戦となるお題は”フリー”、つまり自分が一番得意な料理を出せると言う物。
出だしは2人とも順調に調理を始めて行く。
「・・・5分経ったわね、鍋の蓋を開けてそれから刻んだ野菜をすぐに入れて。」
満潮は手際よく調理をして行き、対する白露は、
「・・・」
普段と同じ様に調理を施して行くが・・・何故か白露に笑顔が無い。
「ここまでは順調、ここで隠し味の醤油と酢を入れて・・・これで10分待てば完成よ!」
満潮の調理は終わり、後は10分茹でれば出来上がる様子だ。
「・・・」
白露も満潮と同様に鍋に具材を入れ、隠し味となる調味料を入れる所だが、何故か入れるのを躊躇っている様子だ。
「すー、はー・・・よし、この隠し味を入れて、と。」
一度深呼吸をした後、白露は隠し味となる調味料を入れて出来上がるのを待つ。
「? おや?」
2人の決勝戦を見に来ていた提督が白露の行動に疑問を持った。
「・・・」
しかし、気付いたのは提督だけで、会場にいる皆は2人の勝敗の結果に熱気が入っていたため、すぐに疑問が消えてしまう。
・・・
2人の調理が終わり、いよいよ審査員たちが試食に入る。
満潮が作ったのは、子供なら誰もが喜ぶシチューである。
「うむ、満潮の作ったシチューは・・・うんうん、よく煮詰めてあって野菜も柔らかい。」
食べた審査員の口からは”美味い”と言葉が出る、高評価のようだ。
「次は白露・・・君はビーフシチューか、中々凝った物が作れるんだな。」
白露が調理した物は女の子が1人で調理するには難しいであろうビーフシチュー、審査員たちも思わず期待を膨らます。
「うん、中々濃くていい味を出している、でも少し甘すぎる気がする・・・君にしては珍しいね?」
準決勝まで寸分の狂いも無い調味料の足し加減に驚いていた審査員たちは、白露の些細なミスに「珍しい」と思いつつ、
「ご馳走様」と言って、机に戻る。
「それでは、決勝戦の結果を発表します!」
2人の勝敗結果に会場の皆は一瞬静まり返り・・・
「満潮は50点中48点、それに対して白露は45点・・・優勝は朝潮型駆逐艦の満潮! おめでとう!」
僅かな点数差であるが、優勝は満潮に輝いた。
「嘘・・・本当に私が優勝したの!? やったぁ!!」
結果が出るまで掌を合わせて祈っていた満潮は、確定した瞬間に飛び上がり、嬉し涙を流す。
「おめでとう満潮! 本当におめでとう!」
姉の朝潮、そして姉妹艦の荒潮・大潮も満潮の優勝を心から喜ぶ。
「いやぁ~皆ごめんね~・・・お姉ちゃんの力及ばずだったよ~。」
白露が何度も「ごめんね~」と妹たちに謝り、
「ううん、そんな事無いよ。 白露は頑張ったじゃん! それに2位でも十分凄いよ!」
時雨たちも朝潮たちと同様に、白露の結果を心から喜ぶ。
「えへへ~、でも2位だから賞金は優勝と比べて少なくなっちゃったけどね~・・・」
因みに2位の賞金は20万で、1位と差はあるが十分すぎる金額だと思われる。
「でも、皆に間宮さんで御馳走出来るね~♪ じゃあ鎮守府に戻ったら皆で間宮さんのとこに行こう♪」
白露の意見に妹たちは喜ぶ。
「・・・」
少し離れた場所で、白露と時雨たちの姿を見ていた提督よ村雨、
「・・・わざと負けたな。」
「やっぱり提督も気づきました? いつもは笑って調理しているのに、
あの時だけ何故か思いつめた表情で調理していましたよね?」
普段の白露なら絶対にミスしないはずの作業、何故白露はそんな些細なミスを犯したのだろう?
「もう1つ気になっていたんだけど・・・満潮だったよね? 白露と対戦した艦娘は?」
「はい・・・満潮さんがどうしたのですか?」
「あの子だけ・・・”更なる改装をしていなかった”よね?」
逆に言えば、朝潮・荒潮・大潮の3人は更なる改装を行っている状態なのに、なぜ満潮だけされていない事に
疑問を持っていた提督。
「白露の些細なミスと言い、満潮の未改装のまま・・・何か理由がありそうだな。」
すぐに提督は香取を呼び寄せ、
「満潮の鎮守府を調べて欲しい、なるべく早めに頼むよ。」
「はっ、お任せください所ちょ・・・いえ、提督!」
提督の命を受け香取は1人、人ごみの中に消えていく。
・・・
料理大会が無事終わり、いつものように平凡な時間が過ぎて行く。
当の白露は負けた事を根に持っているわけでも無く、いつもと同じように元気いっぱいなお姉ちゃんとして振る舞っている。
「ほら、時雨と夕立! 夜更かししてないで早く寝なさい!」
「わ、分かったよ。」
素直に従う時雨と夕立・・・今週は深夜の遠征が無いため、空腹を訴える事も無く夜食を作る心配も無くなった。
「じゃあ電気消すよ~、おやすみ~♪」
部屋の明かりを消して2人は寝息を立てる。
「・・・」
白露はまだ起きたままである。
「満潮はちゃんと改装出来たかな・・・」
白露は勝負する前の出来事を思い出す。
・・・
・・
・
朝潮が満潮を勇気づけ、満潮が会場に向かって歩いて行く姿を見た後、
「・・・何だ荒潮じゃん、いきなり声かけないでよ、びっくりするじゃん!」
後ろにいたのは、満潮と同じ姉妹艦の荒潮、
「じ、実は白露さんにお願いがあって来ました。」
「? お願いって?」
白露は首を傾げる、
「こんな事をお願いするのは本当に申し訳ないと思っています、でも満潮のためにどうしてもお願いしたくて・・・」
荒潮は一度深呼吸をした後、
「決勝戦でわざと負けてくれませんか?」
荒潮の口から放たれた衝撃の言葉。
・・・
料理大会が開催される1週間前、
満潮が着任している鎮守府で、
「いつになったら私を改装してくれるのよ!」
執務室内で満潮の怒声が響く。
「どうして朝潮も荒潮も大潮も改装を終わってるのに、どうして私だけ改装許可が下りないのよ! そんなのおかしいでしょ!」
満潮の言い分に、
「仕方がないだろう、度重なるイベント海域への出撃やその他イベントで資金を大幅に消費したんだ!
今は節約の真っ只中! お前に改装する余裕な資金が無いんだよ!」
提督の言い分に満潮は更に口調を荒げて、
「嘘つかないで! 私たちに隠れて深夜にこそこそと、どこへ行ってるの! 飲み屋? それとも他の女たちとイチャイチャ
しに行ってるの? どうなのよ!」
「うっ、そ、それはだな・・・うーんと。」
深夜にキャバクラに行っていることがバレた上に、その費用を鎮守府の資金で賄っていたこともバレてしまう提督、
「と、とにかく無い物は無いんだ! お前もしつこいぞ! その内改装してやるからもう少し待て!」
「嫌よ! 早く改装してよ! 今度は一体何か月待たせるわけ?」
2人の言い合いがしばらく続き、
「あ、そうだ・・・1週間後に艦娘たちが競う”料理大会”があるよな?」
提督が何故かにやにやして、
「な、何よ? そんなにやにやして・・・」
「優勝者には多額の賞金が入るって聞いたんだよなぁ~、どうだ満潮? 参加して優勝を狙って見ないか?」
卑怯な提督である、そんなに”改装したければ自分で資金を調達して来い”・・・散々深夜に自らの都合で散財し、
悪いとも思っていない、自己中心的で救いようのない提督だ。
「はぁ? 何で私が大会に出なきゃいけないのよ!?」
当然満潮は反論するも、
「じゃあ駄目だな、当面は節約生活で到底改装なんか出来ないし・・・まぁ、それでいいんなら構わないけどね?」
「・・・」
提督の挑発とも言える発言に、満潮は拳をわなわなと震わせる。
「それとも何か・・・優勝する実力が無いから出来ないとか? じゃあお前はただ文句だけ言う口だけ達者な
艦娘なんだなぁ?」
提督の言葉にムッと来たのか、
「そ、そんなわけないじゃない! いいわよ、参加すればいいんでしょう! それで優勝したら、
絶対に改装してくれるのよね?」
「ああ、改装してやる・・・約束しよう。」
「わ、分かったわ。 じゃあ参加して、優勝を狙ってやるわよ!」
満潮にも引けない意地があったのか、参加する意向を示した。
実際はあまり料理をした事のない満潮にとって、優勝など夢のような話であったが・・・
「・・・」
執務室の外で2人の会話を聞いていた艦娘がいた・・・それが姉妹艦の荒潮だった。
・・・
・・
・
「お願いします! 満潮を助けると思ってわざと負けて頂けませんか?」
荒潮の必死の願いに、
「あのさ、荒潮・・・それは無理だよ。」
白露は冷静に対応する。
「気持ちは分かるよ、でもこれは真剣勝負であって賄賂をする気ないから! それに満潮だって参加するために
頑張って決勝戦まで来たんだよ? 賄賂しなくても満潮は十分強いよ。」
「・・・」
「それに、満潮はこの事を知ってるの? 荒潮があたしに負ける様に頼むこと自体を?」
「いいえ、知らない。 全て私の独断よ。」
「でしょ? 満潮だって意地とプライドがあるんだよ? 真剣勝負でわざと負けたら満潮も「何で手を抜いたのよ!」と
怒るだろうし、それが姉妹艦の頼みだと知ったらあの子、きっと傷つくと思うなぁ。」
「・・・」
「だからごめんね~、あたしは満潮と真剣勝負で挑みたいから! わざと負ける気なんて無いから。」
そう言って、白露は荒潮と別れる。
そうは言ったものの、
白露はただ自分の実力を見せたいだけに参加した艦娘、対する満潮は自分の改装のために参加した艦娘。
満潮にとって優勝は、自分にとって絶対必要な改装条件である。
「正直どっちが勝つか分からないけど、でもあたしが勝ったらきっと満潮は悔しくて泣くよね?」
白露は深く悩み始める。
「でも、荒潮の言う通りわざと負けても・・・満潮はあれでも結構プライドが高いから、絶対怒るだろうし賄賂をした
荒潮も恨むだろうなぁ・・・」
白露は何度も悩む。
「それなら・・・調理中に調味料を間違える・・・例えば塩を入れなきゃいけない所を、間違って砂糖を入れちゃった、
って言う演出にすれば、満潮も会場の皆も気づかないかな。」
調理中に些細なミスをしてしまった白露、実際は満潮に勝たせるためにわざと間違えた白露の演技だったのだ。
・・・
「まぁ、あたしは別に2位でも良かったから、気にもしていないけどね~。」
そう思っている内に白露は「ふぁ~」っと欠伸を出し、
「もう寝よう、明日は早いんだった・・・」
既に寝てしまった時雨たちに続いて、静かに寝息を立てる白露。
翌朝、
「提督ぅ~、おはよう。」
今日は秘書艦の仕事だったため、危うく寝過ごしそうになり欠伸をしながら執務室に入る。
「おはよう・・・何か眠たそうだな?」
提督は白露を温かい目で見つめる。
「そんな事無いよ、ふあ~ぁ。 眠くない、眠くないよ~。」
そう言いつつ、何度も欠伸をしては席に着いて書類の整理を始める。
それから2時間経った後、
「ただいま帰還しました!」
執務室に香取が入ってくる。
「ご苦労様。 それで、何か分かった事はあった?」
「はい、提督の指示で満潮ちゃんがいる鎮守府を調査して来た所・・・」
「・・・」
香取の報告に耳を傾ける白露。
「まず提督ですが・・・はっきり言うと、とんでもない金遣いの荒い人間です。」
香取が説明して行く。
「鎮守府にいる艦娘たちの聞き込みをすると、どうやら鎮守府の資金にまで手を出してその結果、
武器開発の削減に艦娘たちの給料を勝手に減額したりしていたそうです。」
「ふむ、それはけしからん事だな。」
その後も、鎮守府の内情について説明して行く中で、
「あ、あの香取さん! ちょっと聞いてもいい?」
白露が声を掛ける。
「あら、白露ちゃん。 何ですか?」
「み、満潮は・・・更なる改装を受けていたの?」
「満潮ちゃん? いいえ、まだ改のままでしたよ?」
「えっ、それは本当!?」
「はい・・・そう言えば満潮ちゃん、何か様子が変でしたね。」
香取が聞き込み調査をして行く中で朝潮たちにも事情を聞いていたが、何故か満潮が思い詰めた表情で側に居た荒潮も
満潮を見て落ち込んでいる様に見えたらしい・・・香取はそれを鮮明に覚えていた。
「そんなの酷いよ!! 約束が違うじゃん!!」
それを聞いた白露は大激怒する。
「し、白露ちゃん? 一体どうしたの?」
突然の怒涛に驚く香取、
「酷いよ!! あんまりだよ!! 満潮が可愛そうだよ!!」
白露の怒りは収まらない。
「何か訳がありそうだな、説明してくれないか?」
提督の言葉に、
「荒潮が言ってたんだよ・・・満潮が・・・」
白露は決勝戦直前の荒潮とのやり取りを包み隠さず話して行く。
・・・
満潮が優勝すれば改装をして貰う条件だった事、荒潮が満潮のために白露に負ける様にお願いして来た事。
それを聞いた白露が同情して、わざと調味料を間違えた事を全て話して行く。
「そうだったのか、優勝すれば満潮は改装されるはずだったのか・・・」
しかし、香取によると満潮はまだ改装されていないと言う。
「優勝賞金をそのまま持って行かれたか、もしくは借金返済に勝手に使われた、か。」
結論を言うとそうなるが、
「満潮に話を聞くとしよう、提督はそうだな・・・香取、前と同じ様にやってくれ。 罪状は詐欺としてね。」
「はっ、お任せください!」
そう言って、香取は準備のために執務室から出て行く。
「それじゃあ白露、オレたちも向かおうか。」
「??? 向かうってどこに?」
「決まっているだろう、満潮がいる鎮守府にだよ。」
提督は準備のため部屋に戻り、白露も外出のために着替えをした後、提督と鎮守府から出る。
・・・
「満潮、貴方に会いたい人がいるって。」
「私に? 私に会いたいって、どこの物好きな人間よ・・・」
朝潮に呼ばれて、不満を持ちつつも満潮は目的の場所に向かう。
「白露・・・」
「久しぶり~満潮~♪」
白露は元気よく挨拶をするも、
「丁度良かったわ、私もあんたに言いたかったことがあるから!」
そう言って、白露に詰め寄る。
「言っとくけど、私は感謝なんかしてないわよ!」
「ほぇっ? 一体何の事?」
「とぼけないで! あんたあの時わざと負けたんでしょ? 調味料を入れ間違えるなんて今まで無かったじゃない!」
「・・・」
「そこまでして負ける理由を考えれば分かり切った事、どうせ荒潮か大潮が余計な事を頼んできたんでしょ?
私を改装させるためにわざと負けて欲しいってね。」
満潮は気づいていた、白露がわざと間違えた事も・・・姉妹艦が白露に賄賂をしようとしたことも全て。
「でも、残念ね。見ての通り私は改装されてないから!」
「・・・」
「優勝したら”改装してやる”と言われて、私はそれを信じて頑張って・・・荒潮たちとあんたの慈悲で運よく優勝できたけど。」
「・・・」
「提督は優勝賞金を勝手に使って、”次にまた優勝したら改装してやる”って言って来て、私はショックで愕然とした。」
「・・・」
「どう? 惨めでしょ? とっても惨めでしょ? 私の実力では到底優勝なんか出来ないのに、周りから同情されて
運よく優勝出来て・・・それなのに何の成果も無し、笑っちゃうでしょ?」
満潮は狂ったような笑いを浮かべるが、表情はとても悲しそうだ。
「そんな事無いよ、満潮は決勝まで自分の実力で頑張ったんでしょ? 満潮の実力は本物だよ!」
「・・・」
「確かに荒潮に負ける様に頼まれたけど、あたしはそんな気全然なかった! ただ、あたしは別に賞金が欲しかったわけじゃない!
でも、満潮は必要だったんでしょ? だからあたしは満潮に優勝を譲っただけ、それが悪いわけ?」
白露の言い分に、
「そんな事、今更どうでもいいわよ! 私は改装を受けられなかった、ただそれだけなの!」
満潮が反論した所で、
「ふむ、これで提督を補足する決定的証言が得られた、と。」
提督は満潮の言った証言をメモに取り、
「どうする白露? まだ話を続けるか? こんな自己中な艦娘の相手をするだけ無駄だと思うけど?」
提督の言葉に、
「・・・もう少しだけ話をさせて、提督。」
「・・・分かった。 ちょうど香取も来たことだし、オレは別の用事を済ませるとしよう。」
そう言って、提督は白露と別れる。
「余計なお世話だと思うけど、これをあげる。」
白露は満潮に何かが入った袋を渡す。
「何よこれ?」
不機嫌になりつつも、袋の中を見ると、
「・・・資材? あれ、この量・・・見覚えが。」
少し考えると、
「私が改装時に必要な資材・・・あんた一体どういうつもり?」
満潮は驚いて白露を見る。
「そのままだけど? それを使って更なる改装でもしなさいって事。」
白露が持っていた袋、中身は満潮が改装時に必要な資材であった。
「わ、私に恩を着せようって言うの? ふざけないで、そんな事をされる筋合いは無いわ!!」
優勝の時と同じ様に、改装までも他人からの慈悲を受ける、プライドの高かった満潮は怒りを露わにする。
「だって満潮、改装を受けたいんでしょ?」
「・・・」
「優勝賞金全部使われて改装が取り消しにされたんでしょ? それでも、改装を諦めきれないんでしょ?
だったらそれで改装しなよ。」
「だから、あんたからの慈悲なんていらないって・・・」
「慈悲じゃない、好意だよ! あたしだって改装するのに特定のアイテムが必要で、今まで改装出来なかったの!」
白露は改装のために”戦闘詳報”が必要である、特定の任務でしか手に入らない上に白露以外にも戦闘詳報が必要だったため、
順番待ちや様々な苦労があってやっと手元に確保できたのだ。
「改装出来ない辛さはあたしだって痛い程分かる! だからここは変なプライドなんか持たないで素直に受け取って!」
「・・・」
「無事に改装してそしたら・・・また勝負しよう? 今度こそ、真剣勝負で対決しよう! お互い何のハンデ無しでね?」
「・・・」
白露の目に濁りは無い、本当に再戦したい気持ちとただの好意であることに気付く満潮。
「・・・バカみたい、赤の他人にこんな資材を無償で提供して。」
相変わらず満潮は白露を馬鹿呼ばわりするも、
「いいわよ、貰ってあげるわよ! これで改装してそして・・・もう一度勝負してあげるわ、それでいいでしょ!」
満潮の言葉に、
「うん、待ってるからね!」
白露は笑顔で返す。
「バカ・・・でも。」
満潮は小声で、
「・・・ありがとう。」
白露に聞こえるか聞こえない程の声で感謝の気持ちを言うと、鎮守府の中に戻って行った。
その後、満潮の証言により提督は香取によって捕捉、鎮守府地下で鹿島と狂犬がうすら笑いを浮かべながら、
怯える提督に刑を執行させた・・・らしい。
・・・
このコメントは削除されました
消された。残念(>_<)
改装よりもそういうので優劣付ける艦これの風潮が
どうしてもアイドルの裏でギスギスした人気の取り合い見てる様で嫌になる