「清霜とウォースパイト」
戦艦に憧れる清霜と、戦艦なのに幼児体型なウォースパイトの奇妙な2人の生活を描いた物語。
キャラ紹介、
提督:階級は元帥で、秘書艦に海風を持つ。
海風:改白露型の女の子、提督に秘書艦を受け持つ。
ウォースパイト:ロイヤル戦艦だが、幼児体型で駆逐艦娘たちから同類と思われているのが悩み。
清霜:戦艦に憧れる夕雲型の最終艦、ウォースパイトを自分と同じ「戦艦に憧れている艦娘」と
思い込んでいる。
大佐提督のいる鎮守府が、艦娘の増加に伴い一部の部屋の隣に増設を行い始めた。
それによって、隣接する部屋にいる艦娘たちが一定期間の間、部屋を開けなければ行けない事態となり、
提督の鎮守府に増設が終わるまで預かる形となった。
・・・
「今日から一定期間の間お世話になります!」
鎮守府に来た艦娘は夕雲型姉妹の艦娘たちである。
「よろしく、あいつからは事情は聞いてる・・・皆の部屋も用意しているから遠慮なく使ってくれ。」
「ありがとうございます!」
1人ずつ軽い挨拶をした後、夕雲の姉妹たちは用意された部屋へと向かう。
「? おや?」
よく見ると、1人だけ残っていることに気付き、
「初めまして! 夕雲型のラスト、清霜です!」
清霜は元気よく挨拶する。
「ああ、よろしく。」
もう一度挨拶を交わす提督に、
「ねぇねぇ、この鎮守府には戦艦の人いるー?」
挨拶が終わるなり、急に質問をする清霜。
「戦艦? うん、いるけどそれがどうした?」
提督の質問に、
「会いたい・・・ううん、会わせてください・・・お願いします!」
清霜は深く礼をする。
「指揮官、私を呼んだかしら?」
呼ばれて執務室に来た人間は、ロイヤル所属の戦艦ウォースパイト。
「ああ、早速だがお前にある駆逐艦の子のお守りを・・・いや、友達になって欲しい。」
「? 私が友達に?」
ウォースパイトは首を傾げる。
「ふ~ん、戦艦に憧れてるね~。」
提督から事情を聞いたウォースパイトは、清霜のいる部屋に向かう。
「つまり私も、もしかしたら・・・憧れの対象になるって事よね。」
ウォースパイトは何故か急ににやにやし始めて、
「はっ、行けない行けない。 まずはその清霜ちゃんに会って挨拶をしないとね。」
そう言って、清霜に会いに行く。
「失礼するわ。」
扉を叩いて、部屋に入るウォースパイト。
「はい・・・えっと~、誰ですか?」
ウォースパイトを見た清霜は不思議そうな顔をする。
「今日から清霜ちゃんの担当(友達)になる、戦艦ウォースパイトよ、よろしくお願いするわ!」
ウォースパイトは胸を張って清霜に自己紹介をする。
「戦艦・・・」
”戦艦”と言う言葉に反応して清霜はウォースパイトを見つめる。
「・・・」
ウォースパイトは戦艦である自分を見て、さぞ憧れているのだろうと思っていたが、
「お姉さんも戦艦に憧れているんだね! うんうん、その気持ちよく分かるよ!」
「えっ!?」
「私は清霜、戦艦が好きで、私もいずれは戦艦になる事を目標に頑張ってるよ!」
「・・・え~っと、それはちょっと無理な目標じゃないかしら?」
駆逐艦が戦艦になりたい・・・確かに無理な話ではあるが、
「よろしくね! え~っと・・・」
「ウォースパイト、私の名前はウォースパイトよ。 長いけどちゃんと覚えてね?」
「う、うん。 ウォースパイトさん! 私と同じ戦艦に憧れているウォースパイトさんだね!」
「・・・」
ウォースパイトは戦艦である・・・しかし、清霜はどうやら彼女の事を、
”戦艦に憧れている同じ駆逐艦娘”と思っている様子。
「あのね清霜ちゃん、私はこれでも戦艦なの。 決して駆逐艦ではなくてね・・・」
ウォースパイトは何度も説明するも、
「うんうん、分かるよ! 戦艦は強いからウォースパイトさんも戦艦になりたいんだよね?
その気持ち、私にはよく分かるから!」
全くウォースパイトの意見を信じない模様。
ウォースパイトは確かに戦艦である・・・しかし、容姿は幼児体型のため(特に胸部)、
よく駆逐艦娘たちに同類と思われているのが悩みである。
この日から戦艦に憧れている清霜と、戦艦なのに駆逐艦娘と思われてしまうウォースパイトとの奇妙な生活が始まる。
・・・
「やれやれ、指揮官にとんだ相談を持ち掛けられたわね。」
昨日の清霜の事でため息をつくウォースパイト。
「私はこれでも戦艦なのに・・・でも、清霜ちゃんや周りから見れば容姿は・・・はぁ~。」
改めて体型を気にするウォースパイト。
「気が進まないけど、指揮官の命令は絶対・・・その内この環境にも慣れるわよね。」
そう思いつつ、清霜の部屋に向かう。
「おはよう、清霜ちゃん。 今日は鎮守府内の設備の説明をしたいから・・・」
途中で口が止まるウォースパイト。
「き、清霜ちゃん・・・その恰好は何かしら?」
ウォースパイトが見た光景・・・それは、
頭には”戦艦”と書かれた帯を巻き、服の上に”戦艦”と書かれた法被を着用、そして両手にはまたも、
”戦艦”と書かれた旗を持っている光景。
「あっ、ウォースパイトさん、おはようございます!」
清霜は元気よく挨拶する。
「ふふ~ん、これはね! 私の”戦艦になりた~い”アピールの必需セット! どお? 凄いでしょ?」
「・・・」
凄いと言うか、呆れたと言うか両方の気持ちを持つウォースパイト。
「そうだ! ウォースパイトさん用にもう一つ用意していたんだ、はいどうぞ!」
そう言って、何と清霜は同じお揃いのアピールセットを彼女に渡す。
「いや、その・・・え~っと。」
渡されたウォースパイトはかなり困惑して、
「あのね、清霜ちゃん? 私はこれでも一応戦艦なの。だからこの格好をする必要は無いのよ。
それにこんな格好で鎮守府内をうろついていたら皆から変な目で見られるわよ?」
ウォースパイトの説得に、
「大丈夫! 私がいる鎮守府ではいつもやっているから!」
「い、いつもって・・・」
「ほらほら! 善は急げだよ! 早く来て私と一緒に戦艦になりたいアピールしよっ!!」
結局清霜のペースに付き合わされる事になったウォースパイト。
・・・
「戦艦になりた――い!!」
鎮守府廊下で元気よく叫ぶ清霜。
「・・・」
ウォースパイトは無言のままだ。
「ウォースパイトさんも! 私と一緒に叫んで!」
「わ、私も!? 嫌よ、そんな恥ずかしい!」
ウォースパイトは否定するも、
「それじゃあいつまで経っても戦艦になれないよ! ほら、私に続いて・・・戦艦になりたーーーい!!」
再び清霜が叫ぶ中、彼女も仕方がなく、
「せ、戦艦にな、なりたーーーい(ぼそぼそ)」
恥ずかしながらも小声で清霜と同じ台詞を言うウォースパイト。
「もっと大きく! 戦艦になりたーーーい!!」
「・・・せ、戦艦になりたーーい・・・」
この後もずっと廊下で叫んでいた清霜とウォースパイト。
当然ながら翌日も同じ事を(場所は変わって鎮守府外)させられ、
2日後も3日後もずっと清霜のペースに付き合わされる羽目となったウォースパイト。
・・・
「ああ・・・もう本当に最悪だわ。」
清霜からやっと解放され、執務室に向かうウォースパイト。
「私はもう嫌、絶対に無理! 指揮官には悪いけど、役割を変えて貰って・・・」
清霜がいる間ずっとこんな事をさせられるのかと思うと、嫌で仕方がないウォースパイト。
「・・・とまぁ、私では清霜ちゃんの友達になるのは無理よ。」
執務室に入るなり、提督に意見具申するウォースパイト。
「そうなの? 見ていると結構楽しそうに見えるんだけど?」
提督の言葉に、
「指揮官、一発殴ってもいいかしら?(怒)」
ウォースパイトが睨みつけてきて、
「おー怖い怖い。でも、他に適任役がいないからなぁ・・・」
提督は考える。
「そもそも清霜ちゃんはどうしてあんなに戦艦に憧れているのかしら? 沢山食べて、沢山アピールすれば、
いつかは必ず戦艦になれると思っているようだけど、そんな事無理に決まっているでしょ?」
思わず本音を漏らすウォースパイトに、
「確かにそうだね、駆逐艦娘として生まれてきた以上はいくら頑張っても戦艦にはなれない・・・
それは本人が一番分かっているはずだよ。」
「・・・だったら何故あんな事を?」
ウォースパイトの質問に、
「なら聞くけど・・・ウォースパイトはなぜ戦艦として生まれた?」
「何故って、私が戦艦と望んで生まれたわけでは無いし、宿命? それか運命じゃないかしら?」
「うん、無難な答えだね。では清霜はどうだろう?」
「?」
「皆を護りたい気持ちは誰よりも強い、だから一番強い艦種である戦艦になりたいとずっと思っている。
でも、自分は駆逐艦娘である身・・・いくら皆を護りたくても全て守れるわけでは無い、それは分かるよね?」
「え、ええ。 それは分かるわ。」
「ウォースパイトが今言った、運命として誕生したなら清霜はそれを受け入れるしかない・・・
でも、清霜はそれでも戦艦になりたいとずっと願っている。」
「・・・」
「なりたくてもなれないのは、本人にとって一番辛い気持ちではないかな?」
提督の意味深な台詞に、
「・・・失礼するわ。」
何も言えず、ウォースパイトは執務室から出て行く。
・・・
「戦艦になりたい・・・戦艦を目指す、か。」
廊下で一人考えるウォースパイト、
「考えた事も無かったわ・・・戦艦になりたくてもなれないって辛さは。」
運命には逆らえない、それは皆分かっているはずであるが、
「私が少し軽率だっただけかしら・・・」
清霜の行動に呆れていたウォースパイトだが、それ程戦艦に憧れている気持ちは確かに感じ取れていた。
「・・・ふぅ、あまり気が進まないけど、もう少し頑張って見ようかしら。」
そう決意して、部屋に戻るとすぐに就寝をする。
・・・
翌朝、
「ウォースパイトさん、おはようございます!」
普段と変わらず元気よく挨拶をする清霜、
「おはよう、清霜ちゃん。」
今日からまた2人の生活が始まる。
「あ、そうだウォースパイトさん! 私の部屋に来て!」
「?」
訳が分からず、清霜に腕を引っ張られて部屋に案内されると、
「どう、上手く出来てるでしょ?」
清霜が自信たっぷりに指を差した場所には、
「・・・」
ただの段ボールに円柱状のプラスチックだろうか・・・段ボールの側面にくっつけられ、
段ボールの上下には何故か大きな穴が空いている?
「清霜ちゃん、これは一体何かしら?」
ますますこの物体の意味が分からないウォースパイトが尋ねると、
「ふふ、これはね~。」
そう言って、その物体を持ち上げ、上下に空いている穴からそのまま清霜がすぽっと入り込み、
「ど~お? 戦艦清霜だよぉ! 強い、カッコいい?」
「・・・」
どうやらその物体の正体は、清霜が作った戦艦になり切りコスだった模様。
「・・・」
「うわぁ(引)」と思ったウォースパイトだが、ここは堪えて無難に、
「ま、まぁ似合ってると思うわ・・・うん、似合ってるわ。」
「本当に? やったぁ~!」
清霜は上機嫌になる。
「じゃあ今度はウォースパイトさんが着用してみてよ!」
段ボールを取ると、ウォースパイトに被せようとする清霜。
「いやいや、私はいいから!! と言うか無理、絶対に無理!!」
必死の抵抗をするも、
「そんなこと言わずに・・・ほら、すっぽり入れた~。」
結局清霜によって装着させられてしまうウォースパイト。
「・・・(恥)」
「うん、似合ってる。 これでウォースパイトさんも戦艦になれた気分で良かったでしょ?」
「・・・」
ウォースパイトは何度も思う・・・私はこれでも戦艦なのよ! 、と。
・・・
その後も清霜のペースに逆らうことが出来ずに、渋々お守りをするウォースパイト。
しかし、最初の時と比べるとウォースパイトは、嫌とは思っていない様で、
「やっている事はあれだけど・・・戦艦に心から憧れている事が凄く伝わるわ。」
次第に清霜の行動に慣れて来たのか、彼女は進んで清霜の手伝いをするようになる。
その甲斐もあり、
「清霜の友達になってくれてありがとうございます。」
と、清霜の姉妹艦からお礼を言われる。
姉も清霜の戦艦への憧れには手を焼いており、代わりに世話をしてくれているウォースパイトに感謝の気持ちを持っていた。
「べ、別にいいわよ。私もあの子が嫌いなわけじゃないから(恥)」
ウォースパイトは照れつつも、その後も清霜の友達を演じる。
・・・
清霜たちがいる鎮守府の増設もほぼ終わりを迎え、後数日で帰ることが決まったその日の事、
清霜にとって予想外の危機が起きようとしていた。
それは、夕雲型の姉妹艦たちで遠征に向かう準備をしていた時である。
「今日はドラム缶が大量に必要な遠征よ、各自ドラム缶を出来るだけ積んでね!」
旗艦の指示により、装備枠いっぱいにドラム缶を装備した夕雲型の姉妹たち、
その中にもちろん清霜も編成に加わっていた。
「準備は出来たわね・・・それでは遠征開始!」
艤装を装着し、海に出る皆。
「・・・」
ウォースパイトは無言で手を振って、皆を見送る。
・・・
約30分後に非常事態が発生。
「今どの辺りにいる?」
提督が無線で状況を整理している。
「提督! 近くには味方の部隊はいません! 完全に孤立状態です!!」
「くっ・・・なら今から急いで救援しないと!」
遠征中に、運悪く敵のはぐれ部隊と接触、遠征部隊は応戦をするも装備はドラム缶と軽装な装備のみ。
更に敵には重巡が含まれており、半数の艦娘が中破状態との事。
「今から出撃出来る部隊がいるか探してくれ!」
「分かりました!」
秘書艦の海風も無線を持って、各艦娘たちに状況を知らせようとする。
「あら? 何やら騒がしいわね?」
食堂で紅茶を飲んでいたウォースパイトが鎮守府内が慌ただしいのに気づく。
「・・・何かあったのかしら?」
飲み終えると、執務室に向かうウォースパイト。
「提督、残念ですが主力部隊は今海域を進軍中で、他の部隊も長時間遠征ですので救援には向かえません。」
海風は重い口を開く。
「そうか・・・現状今可能なのは海風と駆逐艦数名、しかし敵の中に重巡がいる・・・
駆逐艦のみでは火力が足りない。」
提督と海風が悩んでいると、
「指揮官どうしたの? 何やら騒がしいけど?」
ウォースパイトが不思議そうな顔で聞く。
「ああ、清霜を含む遠征部隊が敵と鉢合わせになって現在交戦中だ。」
「えっ、清霜ちゃんが!?」
「だが、皆は遠征用にドラム缶と軽装備しかしていないから、勝てる見込みは無い。
それで今出撃可能な人間を探している所だよ。」
ウォースパイトに状況を説明し、再び海風と作戦を立てる提督。
「止むを得ない、海風を旗艦として残りの部隊に駆逐艦として、魚雷を急いで装備させよう!」
「分かりました、ではすぐに今いる人達に号令を掛けて海風も艤装を装着して参ります!」
そう言って、海風は執務室から出ようとした所で、
「・・・私が行くわ。」
「えっ、ウォースパイトさん? 一体何を言って?」
一瞬海風は何を言ったのかが分からず、
「清霜ちゃんたちが敵と遭遇してるんでしょ? じゃあ私が救援に向かうわ!」
ウォースパイトは工廠場に向かおうとする。
「待ってください、ウォースパイトさん! 出撃はしては行けませんよ!」
ウォースパイトはロイヤル陣営の戦艦であり、そのため本陣で無ければ出撃許可は下りず、
いかなる理由であろうとも、別の拠点で出撃した場合は厳罰もあり得る事態になるが、
「清霜ちゃんは私の友達よ、友達が困っているんだから助けるのは当然の事でしょ!」
海風の忠告を振り切って工廠場へ向かう。
「提督、ウォースパイトさんを止めてください! 出撃させたら提督もウォースパイトさんも、
無事では済まなくなりますよ!」
海風の言葉に、
「うーん、それ以上に・・・」
提督は腕を組み、
「ルールを重んじるあいつが自ら破るなんて珍しいなぁ。」
と彼女の意外性を間近で見た提督。
「よし、海風も工廠場へ行って、あいつと一緒に清霜たちの救援に向かうんだ!」
何と提督はウォースパイトの出撃を許可してしまう。
「提督!!」
「・・・責任はオレが取る、今は清霜たちの救助が先だ。 すぐに工廠場へ向かえ!」
「・・・分かりました。」
提督の指示で海風も工廠場へと向かう。
・・・
「・・・分かりました。」
無線を聞いた旗艦は説明する。
「皆、今から救援が駆け付けてくれるわ! それまで持ち堪えて!!」
旗艦の号令に「了解!」と全員が叫ぶ。
「お願い、被弾した子を連れて先に離脱させて・・・残った人間は私と清霜、敵の攻撃を回避しつつ反撃をするわよ!」
そうは言ったものの、旗艦と清霜は最低限の主砲しか持ち合わせていない、
あくまで敵の足止め程度にしかならない。
「私たちが応戦して時間を稼ぐ! 行くわよ清霜!」
「うん、分かった!」
旗艦と清霜が前に出て、残りの負傷した人間と撤退組を先に離脱させる。
敵部隊の応戦を試みた旗艦と清霜。
駆逐艦である速力を生かして、敵の砲撃を回避していき反撃をするも、敵は駆逐・軽巡・重巡の混成部隊。
辛うじて重巡に当てるも、軽微な損傷した与えられない。
「!? ああっ!!」
一瞬の油断、重巡の砲撃が旗艦に着弾・・・大破に追い込まれる。
「お姉ちゃん、しっかりして!!」
清霜は姉を抱えて、退避しながら応戦を続ける。
「清霜逃げて・・・このままじゃ私たち全員がやられるわ。」
苦し紛れに僅かに発する声、
「大丈夫だから! 絶対に助けに来るから!」
清霜は決して諦めない・・・その甲斐あって、もう少しで戦闘エリアから離脱出来る場所まで到達する。
「!? ううっ!」
あと少しの所で清霜が被弾し、咄嗟に姉を押し出した事で敵の詮索範囲から逸れた。
「清霜! 何をしているの! 早くこっちに来て!!」
姉は何度も清霜を叫ぶ。
「・・・」
清霜は主砲を構える。
姉の言う通り、後少し進めば敵の追跡から逃れる位置まで行ける・・・しかし、間に合わなければ、
姉も間違いなく狙われることになる、そこで損傷の少ない自分が前に出て食い止めようとしている。
「大丈夫・・・清霜なら出来る・・・出来るもん。」
ゆっくりと照準を合わせて行き、
「敵の旗艦さえ倒せば・・・時間が稼げる・・・ゆっくり、落ち着いて・・・」
そう言いつつ、清霜は慎重に敵旗艦の重巡に照準を合わせ、
「お願い! 当たってぇ!!」
清霜は主砲を放つ・・・狙い通りに旗艦である重巡に向かって進んでいくが、
「そ、そんな!」
敵駆逐艦が旗艦である重巡を庇って撃沈、敵重巡は無傷である。
「主砲が損傷しちゃって・・・次弾装填は無理だよぉ。」
清霜は何も出来ず俯くが、敵は容赦なく距離を詰めて行き、
「忌々シイ艦娘共ガァ!!」
敵重巡は清霜の主砲を合わせ、発射態勢に映る。
「・・・」
装填も出来ない、足の艤装を被弾した事により回避も出来ない・・・清霜は敵の姿をただ見続ける。
「死ネ。」
そう言った後、敵の砲撃が発射されようとした・・・その時だ。
”全砲門! 一斉放射!!”
清霜の背後から掛け声と共に無数の砲弾が敵部隊に降り注ぐ。
「オ、ガウアッ!!」
敵重巡と軽巡が後ろから放った砲弾によって撃沈する。
「魚雷を撃ちます! てぇー!!」
既に発射準備をしていた海風が魚雷を発射、残りの残存部隊に接触・・・敵部隊は殲滅する。
「大丈夫ですか?」
駆け付けてきた海風に、
「あ、ありがとう。 救援感謝します!」
旗艦と清霜の無事を確認して、
「私が旗艦を運びます・・・ウォースパイトさんは清霜さんをお願いします!」
そう言って、海風と旗艦は戦線を離脱する。
「ウ、ウォースパイトさん。」
助けに来たウォースパイトの姿を見て清霜はただ見つめる。
「よく頑張ったわね、さぁ一緒にここから離脱するわよ。」
そう言って、清霜の肩を持つと海風と一緒に戦線から離脱する。
「・・・」
清霜はウォースパイトを・・・いや、正確にはウォースパイトの艤装を見つめていて、
「・・・」
艤装はどう見ても駆逐艦や軽巡のようには見えず、かと言って重巡や空母の艤装でもない・・・
いつも武蔵にくっついている清霜だから分かる・・・それは紛れもなく”戦艦の艤装”だという事に。
「ウ、ウォースパイトさん・・・本当に戦艦だったんだぁ。」
その後は終始無言で彼女に背負われつつ、鎮守府に無事帰還した。
・・・
海風たちのおかげで無事帰還出来た遠征部隊。
「無事に戻ってきてくれて本当に良かった!」
改めて提督は皆の無事を心から喜ぶ。
「そして海風とウォースパイト、2人もよくやってくれた!」
提督の感謝の言葉に、
「私は指揮官の命令に従っただけ、ただそれだけよ。」
「ありがとうございます、でも提督・・・これからが大変では無いですか?」
別拠点の艦船の無断出撃、既に本営に知られている事で海風は心配するが、
「オレにとって皆の無事が一番大事なんだ! 後はオレが対応するから、皆はそんな事は気にする必要は無いよ。」
そう言って、皆に休むように指示をする提督。
「提督は大丈夫でしょうか?」
未だに心配な海風。
「分からない、当然私も処罰を受けるだろうけど・・・そんな事は覚悟の上よ。」
「・・・」
2人で廊下を歩いていると、
「ウォースパイトさん!」
「?」
振り向くと、そこには清霜がいて、
「清霜ちゃん、どうしたの?」
ウォースパイトが清霜に近づく。
「・・・わ、私は先に行っていますね。」
場を読んだのか、海風は早々に去る。
「あ、あの・・・」
清霜は躊躇いつつも、その場で深く礼をして、
「ごめんなさい、本当に戦艦だったなんて・・・ずっと気づかなくてごめんなさい。」
「・・・」
ウォースパイトからすれば、何度も「私は戦艦」と言っているはずだが、
「別にいいわよ、清霜ちゃんが本当に戦艦に憧れている事はよく分かったから。」
そう言って、彼女は清霜に手をやり、
「清霜ちゃんも、あんなに傷だらけで、それでも必死で旗艦を守って・・・とても立派だったわよ。」
「ウォースパイトさん・・・」
清霜も手を出し、2人は互いに笑顔で手を握った。
・・・
ウォースパイトが戦艦と認識し、これで彼女の前で戦艦と言う事が無くなった・・・と思いきや、
「ウォースパイトさん教えてー! どうしたら、戦艦になれるか教えてー!」
今度はいつも武蔵に質問している”戦艦になる方法”をウォースパイトに聞くように・・・
「ええ~っと・・・その~・・・」
前は戦艦ごっこに付き合わされたウォースパイトだが、今度は戦艦になるための質問攻めに遭い、
「清霜ちゃん・・・これさえ無ければ純粋に可愛いだけなんだけどね。」
呆れつつも、再び清霜のペースに合わされる事となったウォースパイト。
・・・
・・
・
「全くお前は何をやっているんだ!!」
本営に呼ばれ、大叱責を受ける提督。
「失礼、艦娘の生還が優先だったもので別陣営の子を出撃させてしまいました。」
「失礼で済むと思ってるのか貴様! そもそも別の人間が何故貴様の鎮守府で生活しているのだ?
それだけでも既に大問題だぞ!!」
「はぁ、前にも言いましたが1人は私の鎮守府で修行中の身、もう1人は行く当てがなく、
他陣営と話し合った結果、私が引き取る事になった、と言った筈ですが?」
提督は本営にこれまでの経緯を包み隠さず報告している、当然反感を食らっている訳だが、
「以後気を付けます、ではもし、本営が危機的状況になっても私の鎮守府にいる艦娘たちには、
別陣営の艦船が混じっているから救援が出来ない、それでよろしいですか?」
「貴様ぁ、それとこれとは話は別だ!」
同じ条件を突き付けられ、話が別だとこれまた吠える本営に、
「何が違うのですか? 違うと思う所を私に分かりやすく説明してくれませんか?」
そう言って、提督は本営の人間たちを睨みつける。
「・・・」
睨みつけられた本営共は何も答えられない。
「勘違いしては困ります・・・私はあくまで艦娘たちの安全を優先して行動しているだけです。
お前らみたいなゴミ屑共の言い分に興味はないんです。」
「・・・」
「報告は以上です、それでもまだ不満があると言うならいつでもどうぞ、私は逃げも隠れも致しません。」
そう言って、本営を後にする提督。
・・・
清霜たちのいる鎮守府の増設が無事終え、戻る事になり、
「短期間ですが、大変お世話になりました!」
夕雲の姉妹艦が一斉に礼をする。
「うん、提督にはよろしく言っておいてくれ。」
別れの言葉だけ言い、提督は鎮守府に戻る。
「ウ、ウォースパイトさん。」
清霜が前に出て彼女の前に立つ。
「また会えるかな?」
清霜の言葉に、
「ええ、いつでも来なさい。 待っているわ。」
「! うん、また来る・・・じゃあね、ウォースパイトさん!」
姉たちに連れられ、清霜たちは元の鎮守府に戻って行く。
「・・・戻って行った、か。」
ウォースパイトは安心したと同時に、
ドサッ(疲れ)
その場に崩れる、
「ふぅ~・・・あの子のペースに付き合い続けて、本当に疲れたわ。」
「部屋に戻ったらまたぐったりね」と思いつつ、鎮守府に戻るウォースパイト。
・・・
「武蔵さーん! 戦艦になりたーーい!!」
鎮守府に戻るなり清霜はいつもと変わらず、武蔵に戦艦になりたいアピールを始める。
「おおっ、清霜。 やっと戻ったか。」
短期間ではあるが、清霜がいなかった事に若干気に掛けていた武蔵。
「教えて武蔵さーん! 戦艦になれる方法! 教えてウォ・・・こ、コホン!」
「んっ? 清霜どうした? 早口で咳き込んだか?」
武蔵は思わず「ぷっ」と笑い出す。
その後も清霜は戦艦アピールを武蔵に言い続ける。
しかし、短期間だがウォースパイトの側にいたこともあってか、時々彼女の名前を言い出し掛ける事があり、
咄嗟に咳き込んで誤魔化そうとする清霜。
しかし、武蔵にとってそれは気にもなっていないようで、
再びいつもの清霜の質問攻めに対応する日々が始まったのであった。
「清霜とウォースパイト」 終
このSSへのコメント