「提督と白露型」4
鎮守府の元気印の江風がまた何かやろうとして・・・
1月1日・・・今日が何の日かわかりますよね?
そうです、お正月です。 司令が3日前から皆のためにおせちや雑煮を調理していました。
私たち艦娘も朝早く起床して、大会議室に集まっている所です。
・・・・・・
司令が前に出たところで、皆が恒例の挨拶を、
「提督(司令)、新年明けましておめでとう(ございます)!」
「ああ、こちらこそ明けましておめでとう! 今年も何の問題もなく皆が無事に過ごせるよう願おう!」
そして司令からの今後の説明を聞いた後、皆は食堂へと向かった。
今日の給仕は瑞鳳と秋月さん・・・とは言っても昨日の時点で司令が料理を作り終えているので、
皆によそっているだけですが・・・
全員が席に座り、各テーブルにおせちが置かれ、秘書艦である私が合図をしました。
「では、今年も頑張って行きましょう! それでは・・・いただきます!」
「いただきます!」
それからは皆の大声や喜びの声が飛び交いつつ、私も雑煮とおせちをいただきました。
・・・・・・
もう一つ・・・特に駆逐艦の皆さんにとっては楽しみが1つあります・・・わかりますよね?
そうです・・・”お年玉”です。
おせちを食べながら、駆逐艦たちは「今年はいくら貰えるかな?」等、まだもらってもいないのに
金額を予想しています・・・まぁ、子供と言うのはそんな感じなんでしょうね・・・
「あたしが一番なんだから一番多いのは当然あたしだよ!」
はい、出ました。 一番を目指す白露さん、 お年玉も一番多いと思っているようです。
「僕は金額にはあまり興味ないけど、貰えるならやっぱり嬉しいよね。」
と、興味ないと言っている割にはやはり欲しいと呟く時雨さん。
他にも、「去年より多いかな~っぽい?」や「貰ったらすぐにアイス買う!」とか意見が飛び交います。
そんな駆逐艦の子たちをよそに「おやおや」と呆れたように見守る戦艦と空母の皆さん。
まぁ、当然なのですが私たちは貰えるわけではないので、何だか駆逐艦の子たちがあんなに喜んでいるのが
羨ましく感じますね。
そう言っているうちに、司令がやってきました。
「では、皆整列! これから皆のお楽しみの”お年玉”を配るぞ~。」
お年玉と言われて駆逐艦の子たちは我先にと司令の前に並びます。
「はい、これは白露の。 はい、これは時雨の。 次は・・・」
あらかじめ、各艦娘たちの金額を決めているようです。 例を言えば白露さんの場合、一番多くないと
「あたしが一番なんだから一番多いの頂戴!」と去年文句を言われて渡し直した事がありましたので、
司令は金額を設定して渡しているようです。
司令は手際よく駆逐艦の子たちに大入り袋を渡していき・・・気が付けば配り終えていました。
「じゃあ次は・・・軽巡と重巡。」
そう言って五十鈴さんや愛宕さんたちに渡していきます。
「次、戦艦と空母。」
あら、私たちにもあるんですか?
「オレから見たら皆女の子みたいなもんだ。」だそうで・・・
子ども扱いされるのはあまり好きではありませんが、やはり貰えると嬉しいですね♪
結局鎮守府にいる全員に大入り袋を渡してその場が終わりました。
後は初詣ですかね・・・司令を誘ってみましょう。
・・・・・・
・・・
・
「皆どうだった? たくさん貰えた~?」
白露型長女の白露が皆と集まって袋の金額を言い合っていた。
「僕は1万円・・・去年より多くもらえた。」
「私は8千円っぽい・・・時雨より少し少ないっぽい?」
「やったね! あたしは一番だから1万5千円だったよ! いいでしょう~?」
「何で白露の姉貴だけそんな多いんだよ! あたしにも分けてくれよ!」
「だ~め! あたしが一番の長女なんだから多くもらえるのは当然なんだから!」
白露含む皆が金額を言い合っている光景を見て、村雨と海風は「あらあら」と呟いた。
「そう言えば、村雨と海風はいくら貰ったの?」
白露たちにじっと見られて海風はたじたじ。 冷静な村雨は、
「白露より少なかったわ。私は5千円よ。」
村雨に続いて海風も、
「私も・・・7千円ほどでしたよ。」
「何か少ないっぽい~・・・村雨と海風・・・提督さんに何か悪いことしたっぽい~?」
「そうね・・・この前2人で提督の大事なものを壊してしまったかな。」
「あ~だから少なめにされているんだ、姉貴たち可哀そうに。」
しばらく話し続けて・・・
「じゃああたしは今から外出しようっと!」
白露が部屋から出て行くと「じゃあ僕も。」 「私も~。」と次々に出て行き、しまいには村雨と海風の2人だけになった。
「ふぅ~、何とかごまかせた・・・正直に言っちゃうと白露がまた提督に抗議しに行くもんね。」
「私たち・・・一応秘書艦をしていますから、その分の手当てもついてますからね。」
「・・・で、海風はいくら?」
「私は3万7千円です。」
「私は4万5千円・・・こんな大金持つことなんてなかなかないわね。」
「貯金しようか。」と2人で言って部屋から出て行った。
・・・・・・
「司令からお年玉を頂きました。」
と、霧島が喜んで会話をする。
今、執務室に霧島と秋月と大鳳が設置された炬燵に入って会話をしていた。
「秋月までこんなに頂いてよろしいのでしょうか?」
金額を見て「あわわ・・・」とためらう秋月。
「これで少し高めの焼酎でも買おうかしら。」
と、飲む酒の事を考える大鳳。
「私は・・・司令と少し豪華な料理店へ行ってご馳走したいかな♪」
3人とも、それぞれの使い道を話しながら盛り上がっていた。
・・・・・・
「きひひっ! 去年より多く貰えたし、少し奮発して高めの菓子でも買おうかな~。」
と、駄菓子屋で菓子を手に取りながらにやにやする江風。
「・・・うん?」
江風の目に映ったのは・・・
「くじ?」
値段は一枚600円・・・はずれなしのくじだが・・・一番いい景品に目が行った。
「あっ、あれって確か・・・」
前に山風と一緒に駄菓子屋に来た時の事を思い出す。
・・・・・・
・・・
・
「山風~、今日はこの江風が菓子を奢ってやるからさ、好きなものを持ってきな。」
「・・・うん、ありがとう。」
そう言って、山風はたくさんの菓子を見つめ、探し始めるが・・・
「・・・・・・」
山風の視線は菓子ではなく、入り口手前の奥に飾ってある大きなぬいぐるみであった。
「ん? どうした山風~?」
江風が呼ぶが返事が返って来ない。
「山風、山風ってば!」
「・・・うあっ! な、何?」
「どうしたんだよ、ぼ~っとしてさ。」
「な、何でもない。」
ぬいぐるみへの視線をそらしてお菓子コーナーに戻る。
「・・・これがいい。」
「よし、買ってくるから外で待っていてくれ。」
「・・・うん。」
そう言って外に出ようとしたが、山風の視線はやっぱりあのぬいぐるみを向いていた。
・・・・・・
・・・
・
「あのぬいぐるみ・・・このくじの景品だったのか。」
そう確信した江風は、
「1回だけ・・・やろうかな。」
と、店番のおばちゃんにくじを頼んだ。
・・・・・・
結果は残念ながら、小物入れであった。
「まぁ、早々当たるわけないよなぁ~。」
と言いつつ、江風はそのまま帰った。
次の日も、江風はまたくじを引いた。
クッションが当たり・・・江風はがっかりして鎮守府に戻る。
また次の日も・・・その次の日も・・・
山風の見ていたぬいぐるみを手に入れるため、江風は淡い期待を胸にくじを引き続ける。
「・・・・・・」
またしても外れて・・・違う景品を片手に江風は鎮守府に戻るのであった。
・・・・・・
「最近江風の様子がおかしいのよね~。」
「あ、村雨も気づいた? 僕もそれが気になってた。」
「後・・・部屋に少しずつですが・・・物が増えてきているんです。」
「誰かに押し売りされているんですかね?」
と、江風の行動を気に掛ける皆。
「悩み事があるのかな? それだったら長女のあたしが一番に聞いてあげるよ~!」
相変わらずテンションの高い白露、
「いえ、江風の事は私から聞いてみます。」
海風が言うと、皆が「わかった。」と返す。
「じゃあまた・・・何かわかったらすぐに僕たちに教えて。」
「はい、それでは失礼します。」
と、海風はその場を後にした。
・・・・・・
「江風~、いる~?」
海風が部屋に入ると、江風が物を見つめながら座り込んでいた。
「あ、姉貴! どうした?」
「最近様子がおかしいから、どうしたのかなって。」
「べ、別に・・・いつもと同じだよ。 気にすんなって。」
「外出する度に物を持って帰ってくるよね? 誰かに押し売りされているの?」
「そんなんじゃねえよ! あたしが自分で買っているだけだよ!」
「そう・・・」
「そうだよ! ・・・じゃあこれからまた出かけるからさ・・・夕方までには帰ってくるから。」
そう言って江風は部屋から出て行った。
「江風・・・」
何か隠しているようで心配する海風だった。
・・・・・・
「春雨~!」
待ち合わせ場所に春雨がいて村雨が呼ぶ。
「村雨姉さん!」
月に1,2回2人は休みが合わせて、姉妹で一緒に遊びに行っている。
「今日はどこへ行こうかしら?」
「村雨姉さんはどこがいいですか?」
「そうね・・・最近できた喫茶店でも行かない?」
「はい! 行きます!」
そう言って2人は歩いて行った。
・・・・・・
「はい、春雨・・・今月は提督から色つけてもらったから・・・少し多めに♪」
春雨におこずかいとして袋を渡す。
「ありがとう、村雨姉さん!」
春雨は大喜びだ。
鎮守府にもよるが、春雨がいる鎮守府ではお金の受け渡しが無い(その代わり、鎮守府内の酒保・飲み屋は全て無料)ため、
おこずかいと言うものを貰ったことが無い。 だから外出しても買い物ができず、鎮守府にいることがほとんどなため、
村雨と一緒に外出できることはとても嬉しかった。
「春雨はちゃんと貯金してる?」
「はい、村雨姉さんから頂いたお金はほぼ貯金してますよ♪」
「偉い! 流石私の妹!」
そう言って春雨の頭を撫でる。
・・・・・・
夕方になり、2人は鎮守府に帰ろうとする。
「またね~春雨。 ちゃんと頑張るのよ!」
「はい、ではまた半月後に! 村雨姉さん!」
お互い手を振って鎮守府に帰る2人だった。
・・・・・・
「ただいま~。」
「おかえり、江風・・・ってまた何か買ってきたの?」
「・・・・・・」
「江風! どうして!? 何でそんなに買う必要があるの? 小物入れだってこれで5個目ですよ!」
「わかってる・・・。」
「無駄遣いはダメですよ! 提督から頂いた大事なお金をそんな無駄に使って・・・」
「無駄なんかじゃないって!!」
海風が叱るのは最もだが、それが気に入らないのか江風は反論した。
「本当に・・・何でもないから・・・姉貴は気にしないでくれよ・・・」
そう言って江風はそのまま布団に入り込んだ。
「江風・・・」
声を掛けられず、海風はただ立ち尽くしていた。
・・・・・・
「そう・・・江風と喧嘩したんだ・・・」
「・・・・・・」
「でも、江風は何でそんなに買ってくるんだろうね?」
「確かに・・・同じものを持って帰るんでしょ?」
「はい・・・昨日の時点で小物入れが5個目です。」
「う~ん・・・」
皆で考えていると、
「ただいまっぽい~。」
夕立が帰ってきた。
「あら、おかえり。」
「ただいまっぽい~・・・そう言えばさっき駄菓子屋で江風を見たっぽい。」
「? 駄菓子屋で江風が?」
「うん・・・何か難しい顔して考えていたっぽい。」
「・・・・・・」
気になる情報・・・
「ちょっと海風が見てきます。」
と言って、その場から出て行く海風。
「海風って本当に妹想いだよね~。」
「あんなに心配してるのに、当の江風は本当に世話が焼けるわよね。」
・・・・・・
海風が駄菓子屋をのぞくと・・・
江風がいた・・・何をしているのかと様子を見ていたら・・・
「江風が手に持っている物・・・あれは・・・くじかな?」
そう思っていると、江風はその持っていた紙を広げ中身を見る。
「・・・はぁ~。」
江風がため息をつく・・・どうやらはずれのようだ。
「残念だったねぇ~・・・ほら、クッションだよ。」
クッションを片手にしょんぼりしながら帰る江風。
「・・・・・・」
海風は江風の後姿を見つめていた。
・・・・・・
「江風?」
「・・・何だよ姉貴。」
不機嫌なのか、江風の表情が険しい。
「それ・・・全部くじの景品ね?」
「・・・・・・」
さっきまでの表情が一変して急に無言になる江風。
「どうしたの? 何でそんなに引くの? 何か欲しいものがあるの?」
「・・・・・・」
「教えて江風・・・本当は・・・何が欲しいの?」
「・・・実は・・・」
江風は少しずつ説明していった。
・・・・・・
「そう・・・山風にぬいぐるみをプレゼントをしたくてくじを・・・」
江風がそれほどまでに、くじにこだわっていた理由がやっとわかった。
「前に山風と一緒に駄菓子屋に行った時、あいつがぬいぐるみを見ててよ・・・それで、山風は欲しかったんだなぁって。」
「江風、気持ちはわかるけど・・・当たるかどうかわからない物をずっとやることは良くないですよ。」
「・・・・・・」
「でも、山風のためにやった事なら・・・私はいいことだと思います。 でも、無駄遣いもほどほどにしてください。」
「うん・・・ごめん、姉貴。」
江風は海風に謝った。
・・・・・・
「へぇ~江風がねぇ。」
「江風もなんだかんだ言って姉想いじゃない。」
江風の行動に関心する皆・・・
「・・・でも、くじかぁ~・・・確率の問題だから、そんな上手くいかないよねぇ~。」
「うん、こればっかりは・・・ね。」
「皆で引けば当たらないかな~っぽい?」
「・・・・・・」
夕立の意見に皆賛同したのだった。
・・・・・・
「おばちゃん・・・くじやらせて!」
江風以外の皆が駄菓子屋に行ってくじを買った。
「1人2枚だから、全部で14枚。 それなりに期待が持てそうだけど?」
「よぉ~っし! あたしが一番を当ててやる!」
「あらあら・・・どれどれ。」
皆がくじを開けて・・・結果は・・・
「残念、小物入れと風船。」
「私も・・・クッションと財布。」
「私もノート2冊っぽい~。」
残念ながら全員はずれだった。
「おばちゃん・・・このくじ全部で何枚あるの?」
時雨が聞くと、思いもよらぬ答えが・・・
「500枚よ。」
皆「・・・・・・」
当たるはずない・・・そう思った皆。
しかも、さらに確率を下げる理由として、1週間経つごとに減ったくじは500枚まで補充されるとのこと・・・
「当たらないよ、こんなの。」
「本当ね・・・江風には悪いけど、こればっかりは・・・」
「ぽいぽい~。」
皆は諦めて鎮守府へと帰っていった。
・・・・・・
「当たらないのは分かった、でも・・・」
皆はため息をつく。
「代わりに手に入った景品・・・どうしよう。」
当然ながら、使い道を考えていなく途方に暮れる皆。
「鎮守府の皆に配っちゃえば?」
「そうしよっか?」
「ぽいぽい~。」
皆の意見が一致して鎮守府に戻った。
鎮守府に帰還後・・・食堂前にテーブルを設置し景品を並べて立札を立て、「ご自由にどうぞ」と書いて置いておいた。
・・・・・・
「おはようございます、今日の秘書艦は海風が承ります!」
いつもと変わらない朝からの仕事・・・
「そう言えば、食堂前に何やら物が置いてあったけど、心当たりない?」
「ああ・・・あの・・・実は。」
「?」
海風が説明していく。
「なるほど、くじの景品で手に入ったが使い道がなく、あそこに置いたと?」
「はい・・・」
「なかなかいい考えだが・・・あまり廊下に物は置かない方がいいんだけどね。」
「す、すいません。」
「まぁ、あのくらいの数なら、すぐになくなるかな。 逆に「もうないの?」と言って来そうな気がするんだけど。」
「・・・・・・」
「・・・と言うか、何故くじを大量に引いたの? 何か欲しい物があるのか?」
「・・・はい、実は・・・」
更に詳しく説明して・・・
「ふむ・・・山風のために元々江風がくじを引き続けて出ず、それを知った白露たちが皆で引いたけどそれでも出ないってこと?」
「はい。」
「まぁ、確率の問題だからな・・・こればっかりは仕方ないな。」
「そうですよね・・・しかも、1週間経つとリセットされるんですよ。」
「何・・・リセット?」
その言葉に提督は反応した。
「はい・・・減ったくじを元の枚数まで補充するそうです。」
「・・・それって詐欺じゃないの?」
「えっ、そうなんですか?」
海風はきょとんとする。
「くじの景品は数が決まっているから、普通はリセットなんてしないはずだが?」
「・・・・・・」
「何か怪しいな・・・そこの駄菓子屋・・・」
提督は考える。
「でも、「詐欺だ」なんて言ったら営業妨害になるし、色々と面倒だからな・・・よし!」
「?」
「ここは1つ、1人の客として正攻法なやり方でぬいぐるみを取ってやろうじゃないか!」
そう言って提督は立ち上がり、
「駄菓子屋に行ってくる!」
提督は執務室から出て行った。
・・・・・・
「提督が駄菓子屋に行ったって?」
「はい、「ぬいぐるみを当ててくる。」と言ってました。」
「あ~あ、提督まで巻き込んじゃって。」
「提督さん、何か秘策があるっぽい?」
皆が話し合いをして・・・
「私たちも行かない?」
「そうだね・・・気になるから様子を見に行こう!」
「賛成っぽい~!」
皆が一斉に駄菓子屋に向かっていった。
・・・・・・
「何だよ提督、急に江風を呼び出して?」
「ああ、お前も連れて行った方がいいなと思ってな。」
「・・・どこへ?」
「来れば分かる。」
「・・・・・・」
江風は乗り気にならなかったが、とりあえずついていくことにした。
着いた場所は・・・駄菓子屋。
「提督・・・まさか。」
そのまさかである。
「江風見てろ・・・オレが正攻法で取って来てやる!」
そう言って提督は駄菓子屋に入っていった。
・・・・・・
「くじをやらせてくれ。」
提督が頼むとおばちゃんがくじ箱を持ってくる。
「2,3質問していいかな?」
と言っておばちゃんに質問した。
「くじは全部で何枚あるんだ?」
「500枚よ。」
「このくじの中にあのぬいぐるみは含まれているんだな?」
「もちろん、当たればの話だけどね。」
「1枚いくらだ?」
「1枚600円だよ。」
「そうか、なら引こうか。」
「・・・・・・」
提督の行動を江風が見守る。
「江風、ここで隠れて何やってるんだい?」
「!? わわっ! 時雨の姉貴!」
「何してるっぽい~?」
「江風・・・そんなこそこそしちゃって・・・もう提督が入っているのかしら。」
「なっ・・・皆いるじゃん!」
気づいたら全員揃っていて、
「何でここに・・・まぁ、多分想像つくけど。」
「提督がくじを引くって言うから気になって。」
「ぬいぐるみを当ててくると言ったので、どうするのかお手並み拝見を・・・」
「・・・っぽい~。」
皆が見守る中、提督が行動に移した。
「では貰おうか。」
「はい、この中からどうぞ。」
「いや、引かない。」
「はい? 何を言って?」
「全部買う。」
「はい!?」
「だから・・・500枚全部くれ。」
「・・・・・・」
「600円が500枚だろ? ほら、30万円。 ではぬいぐるみは貰っていくね。」
おばちゃんの目の前に30万円を出し、提督はそのままぬいぐるみを手に取った。
「ちょっと待った! まだくじを引いてないでしょ?」
「は? 全部買ったんだから引く必要ないだろう?」
「もしかしたら、ぬいぐるみが入ってないかもしれないじゃない。」
「最初に聞いたよな? 「このくじの中にぬいぐるみは入っているか?」と、そうしたら「ある。」とはっきり言ったよな?」
「・・・・・・」
「では、貰っていく・・・あ、そうそう。 残りのくじ499枚の景品も今日中にオレの鎮守府に届けてくれ。」
「ふざけないで・・・499個も持っているわけないじゃない!」
「あ? 持ってない? 何で?」
「・・・・・・」
「500枚のくじを売っていたんだろ? なら当然500枚分の景品が無いとおかしいよな? それとも、詐欺か?」
「そんな! 人聞きの悪い!」
「じゃあ今日の夕方までに残りの499枚、耳をそろえて鎮守府に届けろ、わかったな?」
「・・・・・・」
「もし、届かなかったら詐欺と判断して通報するからな。」
「・・・・・・」
「では、待っているので・・・今日の夕方18時までによろしく。」
提督はぬいぐるみを持って去ろうとしたが、
「待って、通報だけは・・・通報だけは許して。」
店主が提督を止める。
「金額分の品物は用意します・・・ですから通報だけは。」
「・・・あ、そう。」
提督は駄菓子屋に戻って、
「じゃあこの店にある駄菓子を全部くれ。」
「はい!?」
「1個10円~100円だろ? 29万9000円あるから、店にある駄菓子を全部貰っても余るだろう?」
「そ、それは・・・」
「余った金はサービスしてやるんだから、これほどいい条件はないだろう? まぁ、無理にとは言わないが?」
「・・・・・・」
結局交渉は成立し、提督はぬいぐるみを持って駄菓子屋から去った。
「さすが提督・・・相変わらず予測不能な行動をするね。」
「まさか全部買うなんて・・・頭になかったです。」
「それに提督さんのおばちゃんに対しての威圧・・・怖いっぽい~。」
「残りは駄菓子全部・・・後で提督に分けてもらおうかな。」
そう言っているうちに、
「お前ら、そこにいるんだろ?」
お見通しだったようで、皆が陰から出てくる。
「今おばちゃんが駄菓子を袋いっぱいに詰めているから、皆で全部持ってきてくれ。」
そう言って提督が鎮守府に帰っていった。
「やれやれ・・・私たちがここに来ることも計算の内だったわけね。」
「さすが提督・・・1つ2つ先を読んで・・・抜かりない。」
「袋いっぱいの駄菓子・・・部屋に持って帰ろうかな。」
「こら、ダメでしょ、涼風! あれは提督が出したお金なんだから!」
「ちぇっ! わかってるって!」
「・・・さぁ、皆で早く持って帰るわよ!」
皆「了解!」
そう言って皆が駄菓子屋に駆け込んだ。
・・・・・・
「皆ご苦労様!・・・菓子は隅っこにでも置いてくれ。」
提督の指示で、皆が執務室の隅の空きスペースに全て並べた。
「うん、それにしても・・・」
提督が目の前にある菓子を見て・・・
「約30万円分の菓子の量は凄いなぁ。」
提督は苦笑する。
「司令、明日の作戦について少しお話が・・・って! 何ですか! このお菓子の量は!!」
霧島が叫ぶ。
「いやぁ~・・・色々あってね・・・ついね、つ・い。」
「ふざけてるんですか? 一体いくら使ったのですか?」
「30万円。」
「司令・・・あなたはバカですか?」
「まぁ、正当な理由があるんだが・・・」
「正当だろうと、不当だろうと普通、こんなバカみたいなことはしません!」
「・・・そこまで言わなくても・・・」
「もう一度言います! 司令はバカですか?」
霧島に叱られている光景をそっと見守る白露型の皆だった。
・・・・・・
「え~と、目的が少しずれたが・・・江風。」
提督は江風を呼ぶ。
「ほら、ぬいぐるみ。 今度山風に会って渡してこい。」
「提督・・・ありがとう!」
江風は感謝してぬいぐるみを受け取った。
「江風さんのためにくじを全部引いたんですって?」
霧島が話しかけてきた。
「まぁ、その・・・すいません。 先ほどは言い過ぎてしまって。」
「・・・・・・」
「でも、こんなにたくさんのお菓子をどうするおつもりですか?」
「決まっているだろう? 皆に配る。」
「・・・ですよね。」
そう言って、鎮守府の皆に配る提督と霧島であった。
※ちなみに霧島は2袋分いっぱいに詰まった菓子をこっそり部屋に持って行ったそうなww
・・・・・・
「山風~、久しぶりじゃん!」
休みが合い、江風と海風は山風に会いに行った。
「江風・・・くっつき過ぎだよ!」
「そんな堅いこと言うなって、それに山風にいいもの持ってきたんだぜ!」
「? いいもの?」
心当たりがなく、首を傾げる山風。
「へへん、これさ。」
そう言って後ろに隠していた大きなぬいぐるみを目の前に出して、
「ほら、山風! お前のために手に入れて来たぜ!」
「これって・・・江風・・・私のために?」
駄菓子屋で見たぬいぐるみ・・・「これが欲しい」と素直に言えなくて、諦めていたけど・・・
「・・・ありがとう・・・あたし、とても嬉しい!」
「よかったよかった、これを手に入れるのに、どれだけ苦労した事か・・・」
「こら、海風。 それは言わない約束でしょ?」
「へへっ・・・そうだったな!」
「・・・・・・」
久しぶりの再会と、ぬいぐるみを貰って山風は笑みをこぼした。
・・・・・・
「司令、はむっ・・・今日の海域のはむっ・・・編成なんですが・・・」
「そうですね・・・もぐもぐ・・・村雨としては・・・ぱくっ・・・この部隊の編成が・・・はむっ・・・お勧めですが・・・」
「・・・・・・」
「? どうしましたか、司令?」
「お前ら・・・せめて食べ終わってから話せ、行儀が悪いぞ!」
「・・・・・・」
お菓子が大量にあるので、各艦娘たちはお菓子を常に持ち歩いていた。
「全く・・・そんなものばかり食べていると太るぞ。」
「・・・そもそもこんなに大量に買ってきたのはどこの誰でしたっけ?」
「・・・・・・」
「私たちが少しずつ減らしているんですよ。」
「それはどうも。」
「今度はこのおせんべいでも食べようかしらね♪」
最早、作戦会議と言うより、お菓子の食べ比べと化している光景であった。
・・・・・・
その後も、霧島たちは食べ続けた結果・・・太った。
太っただけならまだいい・・・問題は・・・
「あれ、艤装が装着できない!?」
艦娘たちは少しと言っていたが、艤装が装着できない程増加してしまったことで提督もさすがに怒る始末・・・
「減量のため、明日から毎日運動とおにぎりのみにする!」
しばらくお菓子に囲まれた生活の先に待っていたのは、減量のために食事制限をされる毎日であった。
「提督と白露型4」 終
これって提督も恐喝じゃ?