「レパレスの金銭事情」
レパレスが急にお金を無心して来て・・・
それは突然の事だった。
「指揮官! ごめんね、お金貸・し・て!」
巡戦レパレスがお金を無心してきた。
「いいけど・・・」
提督はそのまま1万円を貸した。
「ありがとー♪ 指揮官やっさしい~♪」
レパレスは喜んで執務室から出て行く。
・・・・・・
翌日も、
「本当にごめんね! お財布忘れちゃって・・・少しでいいから、ねぇ?」
「うん・・・ほら。」
提督は再び1万円を渡す。
「わ~い♪ 指揮官好きだよ~♪」
昨日と同じく、はしゃぎながら執務室から出て行った。
結局、翌日も明後日も同じように無心、提督は何の躊躇いもなくレパレスにお金を渡した。
・・・・・・
「指揮官。」
プリンツは呆れながら、
「いつまであの子にお金を渡す気?」
プリンツの問いに、
「最近は来なくなったな・・・しばらくしたらまた来そうな気がするね。」
提督は相変わらずのんきである。
「はぁ、指揮官。 あの子のヒモにされているのにまだ気づかないのかしら?」
プリンツは一応忠告するが、
「ヒモか、そんな悪い子に見えないけど?」
「指揮官、どこまでお人好しなのかしら?」
秘書艦であるプリンツは、提督の行動にいつも頭を悩ましていた。
・・・・・・
提督は堅苦しいのが苦手で、艦娘達には「作戦や任務以外は上官として思わなくていい。」と事前に伝えており、
ある艦娘は提督の事を「お兄ちゃん」 「先生」 「兄貴」等、一部の艦娘達からは親類や友人みたいに呼ばれている。
レパレスもその1人で、普段は提督の事を「友達」のように振る舞っている。
「指揮官がこんな態度だから皆に甘く見られているんじゃない?」
「そうか? オレはその方が気軽に話しかけやすいけどな。」
「指揮官、秘書艦である私の身にもなってくれない? 毎回、説明するのが面倒なんだけど!」
「それは悪いね・・・いっその事プリンツもオレの事を上官と思わなければいいんじゃない?」
「・・・・・・」
プリンツは呆れて何も答えられない。
・・・・・・
「明石、注文していた物は届いた?」
明石の店に立ち寄って、入荷したかの確認をする提督、
「届いたにゃ♪ ちょっと待ってにゃ~♪」
明石は手際良く荷物を台車に乗せていく。
「お待たせにゃ~、金額は5000円・・・毎度ありにゃ♪」
明石は笑顔で振る舞う、
「そうそう、これな~んだ?」
提督は明石にある物を見せる。
「!!? それは・・・3時間並んでも1個しか買えない超高級鰹節!?」
明石の口から涎が出掛かる。
「指揮官、明石のために買って来てくれたのかにゃ~!?」
「ああ、明石は毎日忙しいだろうからオレが時間を見て買って来てあげたぞ~。」
「わ~い、嬉しい♪ ありがとにゃ~。」
そう言って、明石は手を差し出す、
「・・・その前に聞きたいことがあるんだが、いいかな?」
どうやら、渡す条件として聞きたいことがあった提督。
「最近、レパルスが頻繁に買い物に来ているか?」
「? レパルス?」
明石は少し考え、
「う~ん、明石は見てないかにゃ~。」
「ふむ、そうか。」
「あっ、でも購買屋の不知火なら知ってるかもにゃ!」
「・・・不知火か。」
「明石の知っていることは全部話したにゃ! さぁ、その鰹節・・・頂戴にゃ♪」
「ああ、ほらよ。」
提督は明石に渡して購買屋に向かう。
・・・・・・
「聞きたいことがあるんだが?」
「何ですか? また購入者履歴を知りたいのですか? 個人情報は教えませんよ。」
「そこを何とか・・・」
「駄目なものは駄目です。」
「そうか・・・」
手元にチップ(1万円)をチラ見せして、
「うぅ・・・いえ、無理です。」
「何だよ、欲張りだな。」
今度はチップ3枚(3万円)をチラ見せする、
「・・・ちょ、ちょっとだけですよ。」
そう言って、購入履歴書を借りた提督、
「・・・! あったあった。」
提督は何かを見つけたようだ。
・・・・・・
小規模鎮守府で戦果を挙げ続けた結果、
「指揮官、朗報よ!」
恒例のプリンツが執務室に入って来て、
「本営から今度は「中規模鎮守府」異動の許可が出たわ!」
提督が今いる鎮守府は「小規模鎮守府 艦娘保有数50人まで」、提督の戦果が本営に評価され、
「中規模鎮守府 艦娘保有数100人まで」の異動が許可された。
「ほぅ、また昇進か。」
「ええ、艦娘保有数は今の倍の100人! 責任も大きくなるけど、とりあえず今は・・・昇進おめでとう! 指揮官!」
「ああ、ありがとう。」
提督はプリンツから渡された異動書にサインをした。
「あ~、それでねぇ・・・指揮官がさぁ。」
レパルスが仲間と会話をしている中、
「聞いた? 指揮官が中規模鎮守府に異動が決まったんだって!」
レパルスの友人から指揮官昇進の知らせが届く、
「嘘?・・・ってことは、昇進だよね?」
レパルスが尋ねると、
「そう、つまり私たちも1段階上の地位に上がるってことよ!」
友人は嬉しくてはしゃぐ。
「すご~い! 指揮官やるじゃん!」
レパルスも喜んでいた。
・・・・・・
「指揮官、鎮守府の皆に異動する準備を伝えておいたわ。」
「ご苦労様、では準備が出来次第向かうように伝えてくれ。」
「ええ・・・ただ1つ問題があるんだけど。」
「問題?」
提督は首を傾げる、
プリンツの話によると今鎮守府にいる艦娘は50人、異動先に既存の艦娘は51人・・・つまり合計で101人。
中規模鎮守府の保有数は100人までのため、このままでは1人「退役」させなければいけないらしい。
「「退役」って・・・つまりオレがいた世界で言うと、「解体」ってことか。」
「指揮官、悪いけど・・・今いる50人の中から1人を選んでもらえる?」
プリンツから決断を迫られる。
「・・・・・・」
執務室の扉の前で誰かが覗き見していた・・・手には花束を持って、
「・・・・・・」
提督の昇進へのお祝いだろうか・・・贈り花としては高価な花束だ。
「・・・・・・」
彼女は少し考えた後、執務室に入る。
「失礼しま~す! 指揮官、昇進おめでとう!」
レパルスだった。
「はい! 昇進祝いの花束! 私にはこれ位しか出来ないけど・・・」
申し訳なさそうに顔を下に向けるが、
「そんなことないよ、ありがとう。」
提督は喜んで受け取る。
「本当? 良かったぁ♪」
相変わらず笑顔が絶えないレパルスだったが、
「・・・指揮官。」
急に話題を変えて、
「さっき扉の前で話を聞いちゃった、盗み聞きするつもりはなかったんだけど・・・」
「? 話って?」
「1人退役しないといけないんだよね?」
「・・・・・・」
「だから、私が退役を希望します!」
レパルスの口から予想だにしない言葉が出て、
「・・・いきなり何で?」
提督が聞くと、
「お金が無いって言って指揮官から融通してもらってたけど、指揮官はもう気づいてるでしょ?」
「・・・・・・」
「本当は金欠でも何でもありません、ただお金が欲しかっただけです!」
「・・・・・・」
「だから私は、上官である指揮官からお金をせびってました・・・指揮官の優しさを利用しただけ。」
「・・・・・・」
「退役程度で許して貰おうなんて思ってないけど、私のせめてもの罪滅ぼし・・・だからお願い、私を退役してください。
そして、昇進してこれからも皆を支えて行ってください。」
ただお金が欲しかった、そう言い張るレパルス。
「そうなんだ。」
提督は一言呟く程度で、
「ふ~ん、自分なりに罪の意識は持っていたわけね。」
プリンツが横から口を出し、
「指揮官、この子で決まりね。 じゃあすぐに退役手続きを取って・・・」
プリンツは退役通知書を提督に出すが、
「もちろん、却下ね。」
レパルスの退役希望を提督は却下した。
「なっ!? 指揮官、彼女は罪を認めてる! その罪悪感から退役希望を出しているのよ!」
プリンツが噛みついて来て、
「うん、レパルスに過ちがあるのは分かった、でも退役は却下する。」
提督は退役を認めない、
「指揮官!」
プリンツの怒声が執務室に響く、
「1度の過ちで退役なんて重すぎると思う、それにレパルスは第1艦隊所属で主力艦隊の1人。
今退役したら代わりがいない。」
「・・・・・・」
プリンツは何も言えない。
「まぁ、昇進しなくてもいいじゃん! 今まで通り小規模鎮守府での生活でいいよ。」
何と提督は中規模鎮守府異動を蹴った。
「ちょ、指揮官! 何ふざけたこと言ってるの! せっかくの昇進のチャンスなのよ!!」
提督の勝手な判断にプリンツは怒りを露わにする。
「だって、101人じゃ駄目なんだろう? オレの鎮守府に退役する艦娘は1人もいないし、本営も1人多いだけで
拒否するならオレの方から願い下げだ。」
「・・・・・・」
「それに、1人すら助けられない人間が100人助けようなんて到底無理な話だ。」
「・・・・・・」
「だから、昇進は諦めよう! 以上!」
それだけ言って、提督は執務室から出て行く。
「指揮官! 待ちなさい!」
プリンツは後を追う、
「・・・・・・」
レパルスはその場で佇んでいた。
・・・・・・
「指揮官、どういうつもりよ!」
プリンツの怒りが治まらない。
「指揮官の言い分は分かるけど、「たった1人」の事で人生を棒に振ることなんて無いじゃない!」
プリンツの言う事は最もで、今後滅多にないだろう昇進のチャンスなど・・・しかし、提督の口から意外な言葉が、
「じゃあ、お前が退役したら?」
その言葉にプリンツは驚く、
「はぁ? 何で私が?」
提督が言葉を続ける、
「さっきから退役、退役ってうるさいなぁ・・・お前の頭の中は退役の言葉しかないのか?」
「・・・・・・」
「じゃあ聞くが、お前は退役される艦娘の気持ちを考えたことがあるのか?」
「・・・・・・」
「もちろん、不正をしたり命令無視をした罪として退役されるのはまだ分かるが、今回は不正でも命令無視でもない。
ただレパルスが「オレに借金をした程度」の問題、それが退役する程の罪か?」
「・・・・・・」
「大した問題でもないのに退役しろって、それこそ艦娘達からすれば「理不尽な対応」じゃないのか?」
「・・・・・・」
「プリンツってさぁ、相手の欠点しか見ていないんだな。 それだから仲間との折り合いが悪くなるし最果てに行かされるんだよ。」
「・・・・・・」
プリンツは昔、この鎮守府出身だったが仲間との折り合いが悪く、何度もぶつかり合っていたため
強制で「最果て鎮守府」に行かされていた。
「少しは「何故彼女があんな行動をしたのか?」の理由位察してやれよ。」
そう言って、提督はその場から去る。
「何よ、指揮官のバカ。」
プリンツは小声で愚痴を漏らした。
・・・・・・
翌日、
「今日の昼食日替わりランチはと。」
提督が昼食のために食堂へ来ていた、
「おっ、レパルスじゃないか? 君も昼食か?」
「・・・・・・」
無言で首を振る。
「君が良ければ一緒に食べないか?」
提督の誘いにレパルスは無言で首を振った。
・・・・・・
「今日のランチはチャーハン、胡椒を加えて・・・うむ、中々いける。」
提督をよそにレパルスは無言で食べ続ける。
「どうした? 元気印の君がそんなに落ち込んでいるのはあまり見たくないけど?」
「・・・・・・」
昨日の事もあってか、何も言えないレパルス。
「そうだな、少し話題を変えるか?」
そう言って提督がいきなり、
「お姉さんにちゃんとプレゼント渡せた?」
その言葉に、
「!? ど、どうしてそれを!?」
レパルスは驚きを隠せない、
「不知火の購買屋の購入履歴に「オレからせびった合計金額の商品」が記録されてた。」
「・・・・・・」
「まぁ、それだったら毎日せびるよりも「お姉さんにプレゼントを贈りたいからお金を貸してほしい」と言って
くれた方がプリンツの疑いも無かったと思うんだけどねぇ。」
「・・・・・・」
「それに、自分のやった事が間違いだと思うなら最初からしなければいいし、間違っていないなら胸を張って
堂々としていればいい。」
「・・・・・・」
「これに懲りて二度と虚勢は張らない事だね、レパルスはいつも通り鎮守府の元気印として振る舞った方が
オレも気軽に過ごせるからね~。」
会話している間に昼食を終え、
「もう1つ、昇進を蹴ったのは君が原因じゃないから、それは分かって欲しいかな。」
そう言って、提督はその場から去った。
・・・・・・
それから1週間後、
「指揮官、本営から特別措置が来たんだけど!」
また何かの書類を持って執務室に入って来たプリンツ。
「今度は何だ?」
あまりにしつこいので提督は呆れる。
「指揮官が中規模鎮守府異動を蹴り、本営に理由の旨を書いた書類を提出したでしょ?」
「ああ、確かに送ったよ。」
「そうしたら本営から特別措置として異例の書類が来たんだけど!」
そう言って、プリンツはその書類を読み上げる。
小規模鎮守府の指揮官殿、貴君の中規模鎮守府異動拒否の理由を読んだ。
確かに貴君の言う通り「意味のない(理不尽な)退役」はするべきではないと我々も認識できた。
しかしながら貴君の戦績は目を見張るものがある、今回は特別措置として
「中大規模鎮守府異動」を許可する、更なる活躍を期待する!
「・・・中大規模鎮守府?」
「そう、大規模鎮守府と中規模鎮守府の中間にある鎮守府で、本来は非常時のみ稼働する鎮守府なんだって。」
「・・・・・・」
「でも、指揮官が人数制限が理由で昇進を蹴った事で、本営も多少の優遇としてその鎮守府に異動を許可してくれたようね。」
「ふ~ん、それで保有数は?」
「150人までだって。」
「そうか・・・なら全員異動できるな。 すぐに準備するように皆に伝えろ。」
「了解・・・すぐに号令を掛けるわ。」
プリンツは執務室から出て行く。
「まぁ・・・結果オーライと言う形になったわけね。」
そう言って、提督も異動する準備を始めた。
・・・・・・
提督含む全員が中大規模鎮守府に異動が完了、
「前の敷地より一回り大きくなったなぁ。」
新たに売店以外に、遊戯施設・飲み屋・娯楽施設まで追加されていて、
「明日からまた忙しくなる・・・頑張って行くかな。」
提督の多忙な日々はまだまだ続くようだ。
「レパルスの金銭事情」 終
アズレンSSを50作位目指すか~♪
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