「辞職率99%の鎮守府」
相次ぐ辞職する艦娘たち、この鎮守府に一体何が・・・
また仲間が辞めちゃった・・・
これで何人目だろう?
今月だけで、30人程着任して今日の艦娘の辞職の時点で・・・30人、全員じゃないか。
確かにここの鎮守府の待遇は良くないからね・・・本当を言うと、僕だって今すぐこの鎮守府から抜け出したいくらいだ。
でも、それが出来ないんだ。
昔いた鎮守府は暴力的な提督が毎日僕たちを殴る蹴るで・・・皆毎日の生活に怯えていたっけ?
何人か鎮守府から脱走しても、すぐに捕捉されて更に酷い・・・虐待? いや、拷問に近い暴力を受けていたね。
それを見た僕や他の皆は恐ろしくて提督には逆らえない。
どんなに暴力を受けても、ゴミみたいな扱いを受けても・・・耐えるしかない、そんな毎日の生活だった。
そんな時、本営からお偉いさんがこの鎮守府に訪問しにやって来て、
提督が上官に媚びているその隙に僕はこの鎮守府から逃げ出した。
追手が来ると覚悟はしていたけど、1人だけの脱走と諦めたのか誰も来る気配が無かった。
そして僕は必死に走って走って・・・目に映った鎮守府に駆け込んで、
「ここで働かさせて! 絶対に後悔させないから!」
と、今の鎮守府に僕は着任することが出来たんだ。
・・・・・・
ここでの生活?
はっきり言うと、前の鎮守府と比べればいい生活だよ。
提督は温厚で僕たちに対していつも優しく気遣ってくれるし・・・
・・・じゃあ何で、艦娘の辞職率が異常に高いのかって?
まぁ、そうだね・・・別に隠すことじゃないから素直に打ち明けると・・・実はこの鎮守府、
”凄く貧乏な鎮守府”なんだよ・・・
・・・・・・
食事は質素なものだよ、
朝食は塩にぎり2つに沢庵の漬物、飲み物は水だけ・・・たまにお茶が出されるけど。
朝食としては質素だけど、いたって普通だって? いやいや、
昼食なんか、これまた塩にぎり2つに沢庵だけ・・・飲み物は水かお茶の2種類だけ。
・・・流石に夕食は少し豪華でしょって? ・・・本当にそう思っているの?
夕食も・・・塩にぎり2つに沢庵・・・はっきり言って嫌になるよ。
これが1か月出されて見てよ・・・艦娘が辞職するのは頷けるでしょ?
部屋の待遇だって、酷いよ。
布団と机は最初から配置されているけど・・・それ以外は何1つ置かれていない。
もちろん物置に貸出物なんてない・・・と言うか、物置なんてあったっけ?
特に大変なのは夏場と冬場!
夏は暑いのに、扇風機すら置いていない!
それでも、夏場に着任した艦娘はずっと頑張っていて、
夏本番になると、鎮守府内を水着で凌いだことも・・・
冬場なんか更に最悪だよ。
暖房器具は一切置かれていないんだ、炬燵もヒーターも一切無し!
毎年の冬なんて寒くて凍えそうで、特に去年の極寒は布団でしか凌げなくて、正直言って死ぬかと思ったよ!
・・・じゃあイベントとかはって? ああ、ひな祭りに海水浴とかクリスマスの事を言ってるの?
この鎮守府でイベントをもしやると言ったら、大体想像がつかない?
ひな祭りは”折り紙で折ったひな人形を棚を積んで置いた”し、
海水浴は休日の日に僕たちで水着に着替えて人っ子1人いない海辺で泳いだり、ボール遊びをしたり・・・
クリスマスなんて、ケーキ1,2個にコンビニかどっかで買ったインスタントのフード。
・・・これで皆が喜ぶと思うかい?
分かった? 食事は超質素で、冷房器具も暖房器具も一切置かれていない!
イベントも普段の生活に毛が生えた程度のお祝い。
こんな待遇で艦娘たちがすぐに辞職するのは想像がつくでしょ?
一体全部で何人の艦娘がこの鎮守府に着任したのか分からないけど・・・間違いなく僕を除くと全員鎮守府から去ったね。
・・・僕は何で出て行かないかって?
そりゃあ、昔の鎮守府から脱走して、この鎮守府に無理に頼んで着任させて貰った身なんだよ。
自分から「着任したい!」と言っておいて、今度は「出て行く!」なんて失礼なことが出来るかい?
・・・でも、本音を言うと、出て行きたいかな。
それとも、今後この鎮守府生活が改善されれば・・・改善されるかな?
・・・・・・
ある日の事、
ほんの些細な事で提督と喧嘩に発展してしまった。
季節は夏場でこの日は猛暑、室内は暑くて汗が止まらない。
もちろん扇風機もクーラーも無い、しかも冷蔵庫は壊れてしまって、冷たいお茶すら飲めない。
そんな中で、僕は我慢できなくて、
「提督、アイス食べたい!」
提督にお願いしてみたけど、
「我慢してくれ時雨。」
結果は分かっていたけど、何故かその時の僕は凄く不機嫌で、
「いい加減にしてよ提督! こんなんだから艦娘たちもすぐに辞めてしまうんだよ!!」
と、溜まりに溜まっていた不満を一気に吐き出してしまった。
「何でこんなに熱いのに冷房機が1つも置いてないの! 何でアイスすらまともに食べれない程この鎮守府は貧乏なの!!」
僕の叫び声に、提督はずっと無言のままで、
「もう嫌だ! 一生こんな生活をするくらいならもうここから出て行く!!」
散々提督に不満を言って、荷物を持つと鎮守府から飛び出してしまった。
後になって、言ってはいけない事を言ってしまった事に後悔するけど、もう遅い。
「・・・新しい鎮守府を探そう。」
そう言って、僕は鎮守府から去る。
僕が去った以降、あの鎮守府どうなったのかは分からないけど、
噂によればまだ鎮守府は稼働しているらしい。
肝心の艦娘は着任しているのか分からないけど・・・もう僕はあの鎮守府に関わりたくない。
・・・・・・
・・・
・
「・・・・・・」
いつもの布団から僕は目覚める。
「ふぁ~あ。 また昔の事を思い出していた。」
伸びをして布団から出る。
あの後、他の鎮守府着任を要望したけど、どの鎮守府からも着任を拒否されて・・・
鎮守府に着任出来ないって事は「その後の生活が出来ない」のだから、
適当に雑誌とかで調べて、仕事と安いアパートを借りて今は1人で生活している。
鎮守府での出撃と比べれば、仕事なんて怪我もしないのだから作業的には楽だけど、
時給が安くていつも赤字が続いた。
「今月も赤字・・・はぁ~。」
稼いだ給料から生活費となる住居費、食費・・・交通費・雑貨等を減らして行くと・・・また足りなくなる。
「鎮守府から出て行って、少しは贅沢な生活が出来るかと思ったのに・・・鎮守府にいた時よりも貧乏になってる。」
鎮守府では塩にぎりと沢庵だったけど・・・住むようになってからは、おにぎり2つとお茶、鎮守府と大差ないね。
昼は売店の安売りと夜も同じ安売り・・・安売りは売り切れることがあるから、無い時は朝と同じおにぎり・・・
当然、鎮守府で僅かな楽しみだったひな祭りとかクリスマスなんて無い。
「これだったら、前の鎮守府にいた時の方がまだ良かったかも。」
食や待遇は確かに酷かったけど、生活費は免除だったし住む場所も困らなかった。
「提督はまだあの鎮守府で頑張っているのかな?」
待遇が嫌だったとはいえ、自分から出て行ってしまった事に今更ながら後悔する僕。
「もし、提督が許してくれるなら・・・次からは文句言わずに鎮守府で生活したい、よ。」
僕は天井に向かって呟く。
・・・・・・
突然の仕事の解雇、
僕は派遣と言う身分で働いていて、
責任者の話では「バイトより時給が高い」と言う事で、派遣を選んだんだけど、
契約期間と言うのがあって、僕の場合は3ヵ月に更新の手続きをしなければ行けない。
それで、今日で3ヵ月だったから更新の手続きをしようとして「君は今日付で解雇ね」と言われた。
「どうしよう・・・これじゃあ生活出来ないよ。」
僅かな資金を貰って、途方に暮れる。
「・・・・・・」
その時、僕の頭に浮かんだことは、
「あの鎮守府に行こう。」
前は待遇は悪いし、こんな場所から出て行きたいって散々言っていたのに。
「今の僕にはあそこしか行く当てがない。」
そう決意して、アパート等の契約を解除・・・荷物を持って鎮守府に向かった。
・・・・・・
鎮守府は昔と同じままだ。
「提督はどうしているかな。」
ここで生活していたのだから、執務室の場所は分かる。
一応提督には事前に連絡を入れて置いたけど・・・
「失礼します。」
扉を叩いて、執務室に入る。
「提督・・・ひ、久しぶり。」
提督は僕をじっと見ている。
「今更どの面下げて!」と言って来そうだったけど、
「おかえり時雨。」
意外にも、提督は怒っておらずそれどころか、再着任をあっさり許可してくれた。
「部屋も昔と同じだ。」
部屋内には布団と机だけ・・・他に設置された形跡はない。
「でも、仕方ないね。 アパートと比べれば、鎮守府の方が遥かにマシ、だね。」
そう言って、僕は布団に飛び込む。
「これからは文句を言わないで、明日から大人しく仕事をしよう。」
そう言い聞かせ、早めの就寝を取る。
翌日、提督から思いもよらない物を渡された。
「封筒・・・何か分厚い、何が入っているんだろう?」
すぐに封筒を開けて中身を確認するが、
「!? えっ、ちょっと待ってどう言う事!?」
封筒の中に入っていたのは何と、札束(100万円)。
「何で? どうしてこんな大金を?」
提督に尋ねると、そこには提督自身が考えた類を見ない待遇にあった。
・・・・・・
・・・
・
艦娘たちはまだ・・・残っているね。
今月で確か20人程着任して・・・今日の時点で20人残ったまま、良かった。
昔と違って、鎮守府の待遇も変わりつつあるからね、
それに、僕は今の生活にとても満足しているよ。
えっ、何でって? それは、僕の部屋を見れば分かるかな。
「じゃあ部屋を見せてあげるよ。」と言って僕は自分の部屋に案内する。
「ここが僕の部屋だよ。」
扉を開けて自分の部屋内を披露する。
”布団と机以外の器具がたくさん置かれている”・・・うん、僕が購入したからね。
部屋内には冷蔵庫と冷暖房用クーラーにテレビやPC、それに本棚も勢ぞろい。
この鎮守府の給料は高いのかって? いやいや、普段は雀の涙ほどだよ(笑)。
実はね、この鎮守府には昔、変わった待遇があってね・・・
・・・・・・
鎮守府での生活が嫌で出て行って、
1人暮らしを始めたけど、生活苦からまたこの鎮守府に戻って来たんだけど、
実は”再着任した場合に特別手当がつく仕組み”だったんだ。
よく分からないって? うん、最初は僕も意味が分からなかった。
要はこの鎮守府では”同じ艦娘が何度でも再着任可能”で、
辞めた後に再び再着任することで、”前に着任していた期間の特別手当が支給される”んだって。
僕の場合、2年間は我慢してこの鎮守府に務めていたから、
1年の皆勤賞含めて500万円・・・つまり、再着任した僕には合計で1000万円の特別手当が支給されたって事!
驚いたでしょ? 貧乏だったと思ったこの鎮守府は実は意外に裕福だった事に。
どうも、提督から事前に説明があったらしいんだけど、僕は”中途着任”の身だったから、
その情報を全く知らなくて・・・今思えば”不幸中の幸い”だったかもね。
部屋の改装は部屋主の自由だから、貰った手当で冷蔵庫や冷暖房機、おやつにおかずとか、欲しい時に購入しているよ。
イベントも基本、艦娘たちの要望で出来るからやろうと思えば、”1年中クリスマス”ってのも可能なんだ。
もちろん、経費は自腹だけど・・・それでも、支給される手当で十分行えるよ。
待遇ネタが分かったから、他の艦娘たちに伝えたら、年とは行かないけど数か月間堪えて辞めた後、
また同じ艦娘が着任して手当を貰えるようになった。
1年で皆勤賞含めて500万円だけど、1カ月でも約40万円は貰える計算・・・生活して行くには十分すぎる金額だよ。
それでも、鎮守府内の状態は相変わらずで、自分の部屋以外の場所は何も設置されていなく、
前にも言ったけど、夏場と冬場はとにかく大変なんだ。
それで皆と一緒に話し合って”支給額を減らしていいから鎮守府内を改装して欲しい!”と必死の説得で提督は了承してくれた。
・・・・・・
その後、鎮守府内は大規模な改装によって住みやすい環境になった。
執務室には扇風機や炬燵が置かれて、食事もおにぎりからカレーや肉料理も充実。
鳳翔さんや間宮さんが出張で来てくれることも。
イベントも日程ごとに行われて、まさに皆が望んだ環境になった。
でも、手当は半分以下になっちゃったけどね・・・でも、それでも生活して行くには十分だよ。
今では月に何人かの艦娘たちが着任していて、逆に辞める艦娘は全くと言っていい程いなくなった。
えっ? この鎮守府・・・”辞職率99%の鎮守府”って聞かされていたの? ははは、確かにそれは間違いないね。
でも今は違う、今は・・・”着任率99%の鎮守府”って言えばいいんじゃない?
さてと、僕からの鎮守府の説明は以上、かな。
じゃあ君はこれから執務室に行って提督に挨拶をしに行って。
その後、支給された君の部屋に案内するから・・・それじゃあ、また会おうね!
「辞職率99%の鎮守府」終
前半は”時雨の鎮守府生活の話”で、後半は”着任予定の艦娘に時雨が対応する”、と言う内容にしました。
戦時中に冷暖房なしの質素な食事で文句言うのか
いやはやよく考えられたストーリー構成で
面白いのと感心したのとでまじパネェッス
※2はまずとりあえずその戦時中は質素な生活しかできねぇっていう固定概念をブチ殺そうぜ?
欲しがりません。勝つまではか。
初めから質素。でも裕福になると。
贅沢を知ると。其処から逃げれなくなり
精神論に走る。勝つからこそ欲しがろう。