「提督と陸奥」
陸奥が海で漂流中に霧島に助けられ・・・
どれくらい経ったのかしら・・・
敵の攻撃を受けてそのまま気を失い・・・辛うじて目が覚めるも、意識が朦朧とする中、耳元に聞こえるのは波打つ音だけ・・・
・・・・・・
出撃直前に提督に言われた言葉・・・
「大破しても進軍せよ! お前らの代わりはいくらでもいる。」
文字通りの死刑宣告・・・逆らうことも許されず、進軍した。
長門と私、陸奥は新海域の攻略のための捨て艦として進軍させられたのだ・・・
仮に、新海域を制圧したとしても、私たちに待っているのは「解体」・・・勝利しても沈んでも明日はないのだ。
これが最後の出撃になるだろうと、私と長門は進軍を開始。
任務を放棄して逃げる手もあったけど、真面目な長門はそれを拒んだ。
捨て艦にされながらも任務を全うしようとする長門の意思に私は心を打たれた。
そうね・・・どうせ死ぬなら、派手に暴れましょう!!
・・・・・・
「長門! 長門ぉぉぉーーー!!!」
長門が私を庇って被弾、損傷は甚大で彼女はそのまま海に倒れた。
私の方も損傷は大きく、最早長門を助けることすらできない状態でさらに攻撃を受けて被弾・・・そのまま意識を失った。
・・・・・・
長門はどうしたのかしら・・・
彼女はもう・・・沈んだ?
・・・・・・
「・・・か・・・すか。」
耳元に聞こえる誰かの声・・・
「・・・で・・すか・・・ですか!」
長門かしら? それとも・・・
・・・・・・
ごめんなさい・・・私・・・もう・・・
私はそのまま意識を失った。
・・・・・・
目が覚めると・・・ここは廃家?
「大丈夫ですか?」
目の前にいたのは・・・金剛型の・・・霧島さん?
「まだ寝ていてください、傷が癒えていません。」
・・・・・・
まさか、彼女が・・・私を助けてくれたの?
「待っていてください、応援を呼びますので。」
そう言って霧島が無線機を取り出すが・・・
「!? 待って!・・・お願い! 今すぐ切って!!」
私の叫びに霧島さんは一瞬戸惑いつつ、無線機を切った。
「どうしたんです、何かあったのですか?」
「・・・・・・」
私は自分が置かれた状況を包み隠さず霧島さんに話した。
「そうでしたか・・・」
霧島さんは納得したようで、
「でしたら、私が先導しますので・・・私の鎮守府まで行きましょう!」
霧島さんは捨て艦である私を助けようとしてくれた。
「でも、今日はゆっくり休んでください。 明日から出発しましょう。」
霧島さんは「辺りを見てきます」とだけ言い、外に出た。
「・・・・・・」
私はまた眠りに就いた。
・・・・・・
翌日、
昨日と比べ、傷が癒えた私は霧島さんと一緒に鎮守府へ向かった。
・・・・・・
道中、身に覚えのある艤装の欠片を見て私は足を止めた。
「これは・・・間違いない! 長門の艤装!」
ここに艤装の欠片が流れ着いたという事は・・・
「長門が・・・近くに入る?」
私は必死になって探した。
所々に長門の艤装の欠片が浮かんでいる・・・
「・・・・・・」
たどり着いた場所は・・・小さな島。
私と霧島さんが島に降りて探索したところ・・・
「!? 長門!!」
木陰で気を失っている長門を見つけた。
「長門!! 長門!!」
私は必死で長門に声を掛ける。
「・・・陸奥・・・お前か?」
無事だった・・・私は嬉しくて長門に近寄る。
「良かった・・・もう会えないと思ってた。」
「そうか・・・私もだ。」
・・・・・・
無事再会を果たしたけど・・・損傷は大きく、長門一人では歩けない状態だった。
私が肩を貸してやっと歩けるほどで、側に霧島さんが警戒しながら進んでいった。
・・・・・・
運よく敵に遭遇せずに広い近海に出た。
「もう少しです、ここを抜ければ私の鎮守府があります。」
霧島さんが先導し、私たちはゆっくりとついていく・・・その時、
「!? 敵部隊接近! 陸奥さんたちはこのまま直進してください!」
霧島さんは戦闘準備に移る。
「だめよ! 霧島さん! あなた一人ではやられてしまう!」
「私は大丈夫です! 二人は私の事は気にせずそのまま直進してください!」
そう言って霧島さんがたった一人で砲撃し、戦闘に入った。
「行ってください! 早く!」
敵の砲撃を受け、被弾しつつも霧島さんは私たちを逃がそうと身を挺して戦っていた。
長門を担ぐことで精いっぱいだった私は霧島さんを信じて直進を続けた。
・・・・・・
霧島さんの姿が見えなくなり・・・
「・・・・・・」
砂浜が見え・・・私は長門を下ろした。
「ここまで来ればひとまず安心ね。」
後は霧島の安否が必要だ。
「早く彼女を助けないと・・・一人ではやられてしまう。」
そう思った私は長門を木にもたれさせ、砂浜を歩いていく・・・そして鎮守府を見つけた。
「・・・・・・」
私の話を聞き入れてくれるかしら? 捨て艦である私の意見を・・・
もしかしたら、私を見た瞬間捕縛するかもしれない・・・そしてそのまま提督によって「解体」されるかも・・・
でも、その前に霧島さんを助けてほしい・・・それだけは絶対に伝えなきゃ・・・
鎮守府まで後もう少しと言う所で・・・
「ううっ・・・また意識が・・・」
長時間の疲労と脱水・・・鎮守府が見えたことで気が抜けてしまい、そのまま意識が朦朧としてしまう。
「もう少し・・・なのに・・・」
陸奥はあと一歩のところで意識を失った。
・・・・・・
「・・・う~ん・・・はっ!!」
陸奥が目を覚ます。
「・・・ここは?」
目が覚めた場所は鎮守府の中だった。
「・・・な、長門!」
隣を見ると長門はそのまま寝息を立てていた。
「・・・そうだ・・・霧島さんは!?」
「呼びましたか?」
扉の入り口前に霧島が立っていた。
「良かった・・・無事だったのね。」
「ええ・・・途中から司令が助けに来てくれたので、難を逃れました。」
「・・・司令が?」
陸奥は首を傾げる。
「ええ・・・まぁあまり気になさらないでください。」
そう言って霧島はその場から去った。
その後、捨て艦として進軍させた鎮守府の提督は辞任したらしい。
生還を果たした二人に戻る場所はなく、霧島のいる鎮守府に一時的に「保護」される形となった。
・・・・・・
・・・
・
「本当ならあの時沈む運命だったけど・・・その後、あの鎮守府で過ごした時間は楽しかったわ。」
陸奥は大破状態でそのまま海に着水していた。
「あの子を見てしまったから・・・私はいたたまれなくて、鎮守府を飛び出しちゃった。」
あの子と言うのは・・・江風。
そう・・・長門と陸奥もまた、江風がいた鎮守府に所属していた。
「あの子が泣き叫んでいるのに助けてあげれなくて・・・今さら着任したいっていうのは虫が良すぎるわね。」
陸奥は江風が暴力を受けていたことを知っていながら、手を差し伸べることはしなかった。
「こんなことなら・・・あの時沈んでおけばよかったかもね。」
敵の主砲が向けられ、抵抗する力も残っておらず陸奥は覚悟を決めていた。
「さようなら、長門。 ・・・そして、ごめんね・・・江風。」
陸奥は目を閉じた、
「だったら直接本人に謝ればいいだろう?」
低い声が聞こえて陸奥が目を開く。
「て、提督!?」
目の前に提督がいて陸奥は驚く。
「いつまで逃げるつもりだ? それで江風が許してくれると思っているのか?」
同時に敵を撃破して陸奥に問いた。
「一番最低なのは現実に目を背けて死ぬことだ・・・江風どころか周りの皆が、お前を許さないだろう。」
「・・・・・・」
「まずは生きろ! そして機会を伺って自分の気持ちを正直に話せ、そうすればあの子もわかるだろう。」
「・・・・・・」
また私は助けられた・・・霧島さんに次いで今度は提督に・・・
「・・・いつまで海に浸かっているんだ? 早く立って鎮守府に戻るぞ。」
提督に言われ、陸奥は体を起こすと・・・提督と鎮守府に戻った。
・・・・・・
その後、陸奥は江風に謝るが・・・江風は「全然気にしてないから」と言って許してくれた。
そして、「保護」から正式に「着任」として許可をもらい、今では長門と霧島達と共に海を駆け巡っている。
「提督と陸奥」 終
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