「村雨の思い出」
提督と村雨が初めて出会った時のお話。
のんびり更新していきます。
「提督、明日の仕込みが終わりました。」
「ああ、ありがとう、 村雨はもう休んでいいぞ。」
「はい、それでは・・・おやすみなさい。」
料亭を開いてから随分時が経ち、村雨も接客や調理に慣れて来た。
「明日は朝から仕事で・・・明後日は休みだから、春雨と一緒に喫茶店にでも・・・」
村雨が部屋で明日からのスケジュールを確認していた。
「さてと、早く寝ないと明日起きられないから・・・もう寝ましょう!」
灯りを消して、就寝する村雨。
「・・・・・・」
天井を見て、ふと思い出す。
「そう言えば、提督と初めて会った時も・・・こんな暗い時だったっけ?」
村雨は提督と初めて出会った時の事を思い出した。
・・・・・・
・・・
・
(ここから村雨の過去)
「はいは~い! 皆! 朝ですよ! お・き・て!!」
朝になり、村雨が元気よく皆を起こしに来た。
「ぽい~・・・後5分。」
「むむ、また村雨に先を越された。」
寝起きの悪い夕立と一番先に起きれなかった白露がぷぅ~っと頬を膨らます。
「次頑張りましょうね! じゃあ白露、五月雨と涼風を起こしてきて!」
村雨に言われ、白露は欠伸をしながら五月雨と涼風を起こしに向かった。
・・・・・・
「皆の食事も作っておいたわよ・・・さぁ皆、席について!」
村雨含む白露・夕立・五月雨・涼風の5人が机に座り、
「それでは・・・いただきます!」
村雨の掛け声とともに朝食が始まった。
今日の朝食は・・・麦飯とみそ汁。
「ずず~・・・おいしいです! 流石村雨さん! お味噌汁の味は一番美味いですね!」
「そお、ありがと~♪」
村雨は上機嫌だ。
「むむ・・・また一番を取られたし~。」
「いっちば~ん」の白露は不機嫌である。
「まぁまぁ、白露・・・残念だけど、お味噌汁は村雨が一番おいしいっぽい~♪」
「ふふ・・・そんなに褒めても何も出ないわよ。」
そう言いつつも、照れる村雨。
「さぁさぁ、朝食が済んだら遠征と掃除に洗濯! 各自取り掛かって!」
皆「了解!」
村雨の指示で皆が各役割を行う。
・・・・・・
村雨はいつも元気で皆を支える、
彼女は他の駆逐艦とは違って大人の女性のような印象を受ける。
「一番」を目指す姉の白露も、中身は姉と言うより姉として振る舞いたい女の子。
村雨は妹であるが、姉である白露の威厳を保ちつつ女性のように振る舞い、もう1人の姉として皆を支えている。
いつも明るく振る舞っているが、どこか無理にでも明るくしようと感じるようにも見える、なぜなら・・・
この鎮守府には村雨含む5人を除いて・・・誰もいない。
他の艦娘もいないければ、提督もいない・・・そう、この鎮守府は放棄された場所だった。
戦果を挙げられず、提督は任務を放棄して失踪、
他の戦艦や空母・重巡や島風などのレア艦は全て他の鎮守府に吸収されてしまう。
村雨たちのように通常艦(悪く言えば建造で簡単に入手出来る艦娘)は「不要」と扱われ、捨てられてしまった。
周りから「不必要」のレッテルを張られ、再着任すら出来ない状態の中でも村雨は諦めなかった。
「それなら皆で頑張ってここで生活して行きましょう!」の村雨の意見に皆賛成したのだ。
「さて、今日の分の買い物に行ってこようかな。」
買い物かごを持って少し離れた商店街まで歩いていく村雨、
歩くこと20分、
商店街に着き、後は目的の買い物を済ませるだけ・・・
「? いいなぁ~この手袋とマフラー・・・今の季節にはうってつけよね~。」
ガラス越しに見える手袋とマフラーにコート、村雨は足を止めて目を輝かしながら見つめる。
今の季節は冬、毎日氷点下並みの寒さで村雨は寒くて体を震わせていた。
本当は買って身につけたい気持ちはあるが・・・村雨たちの生活している鎮守府は”放棄された鎮守府”。
生活はギリギリで贅沢も出来ず、”何とか暮らして行ける程度”の状態である。
そんな状況で、自分用の手袋を買えるはずがなかった・・・
「・・・早く食料品を買って戻ろうっと・・・う~寒い寒い。」
村雨は振り向き、商店街の奥へと歩いて行った。
・・・・・・
「皆が帰るまでに夕食の準備をしなきゃね。」
村雨は買ってきた野菜や米を手際よく調理して皆の帰りを待つ。
5人の主な役割は、村雨が給仕担当・白露は皆の部屋の掃除・夕立と五月雨と涼風は遠征に行っている。
遠征で貰える報酬は微々たるもの・・・生活して行くには足りない気がするが・・・
「村雨、何か手伝おうか?」
掃除が一段落した白露が村雨に寄る。
「大丈夫、白露は気にしないで自分の役割をやって。」
村雨は笑顔で答える。
「・・・・・・」
白露は村雨の肩を持つ。
「? どうしたの?」
村雨が尋ねる、
「そんな無理しなくてもいいんだよ?」
白露は悲しそうな目で見つめる。
「知ってるんだよ、皆に隠れて本当は何をしているのか・・・」
「・・・・・・」
しばらくの沈黙が続き、
「大丈夫、私は皆と生活するのが楽しいから・・・だから頑張って行けるの。」
変わらず笑顔で答える村雨、
「でも、そんなに無理したら体を壊すからさ、少しは休んで・・・」
指で口を当てられ、白露は言葉を失う。
「大丈夫だから、心配してくれてありがとう白露。 でも、そのくらいしないと暮らせないのは白露にもわかってるでしょ?」
「・・・・・・」
何も言い返せない白露。
・・・・・・
夕方、夕立たちが遠征から帰って来た・・・結果は”成功”。
戻った夕立たちは、部屋に戻ると早々に着替えを済ませ、食堂の机に座る。
「皆、今日もお疲れ様です。 では、いただきましょうか。」
村雨が手を合わせて、
「それでは、いただきます!」
皆「いただきます!」
皆の楽しい夕食が始まった。
「うう~・・・今日は一段と寒いっぽい~。」
夕立が寒くて体を震わせていた。
夜の気温は氷点下を下回り、他の皆も体を震わせていた。
食堂は暖かいが、出た瞬間に寒さが一気に来る。
「一応皆の部屋に布団を多く出しておいたからね。」
白露が掃除の合間に各部屋に掛け布団を多く置いて置いた。
「それでも、部屋に戻るまでが寒くて嫌っぽい~。」
夕立は愚痴をこぼす。
「確かに、部屋に戻った時点でアタイも体が凍えてしまうよ。」
涼風も同意見だ。
「そ、それじゃあ食堂で皆で寝るのはどう?」
皆「・・・・・・」
しばしの沈黙、
「なるほど~! それ、いいかも!」
「ぽい~♪ 何で早く気が付かなかったんだろうっぽい~!」
意外にも五月雨の提案に皆賛成した。
「・・・とは言っても。」
白露がため息をつく。
「部屋に敷いた布団を全部持ってこなきゃいけないのよね~。」
寒さを堪えつつ布団を食堂まで担いでいく白露。
「仕方ないわ、文句言わずに皆の分も運んで。」
村雨も協力して布団を担いでいく。
「よし、食堂の机と椅子の半分を夕立たちに頼んで片づけて貰ったから後は、布団を敷くだけね!」
5人で協力して布団を並べていく。
「これでよし、と。 これなら暖かいし、皆と一緒に寝られていいんじゃない♪」
村雨をよそに夕立と涼風は既に布団に入っていた。
「暖かいっぽい~♪」
「うん、これならいけるいける!」
「・・・ふふっ。」
村雨もクスッと笑う。
「明日も早いから、皆早く寝るのよ~。」
村雨が出かける準備をして身支度を整える。
「村雨~どこかに行くっぽい~?」
パジャマに着替えた夕立が尋ねる。
「うん、ちょっとだけ用事があってね。」
「ふ~ん、外は寒いから体には気を付けるっぽい~。」
「わかってる、先に寝ててね。」
夕立に送られ、村雨は外に出た。
・・・・・・
「いらっしゃいませ~、こちらへどうぞ。」
店で接客をしている女性従業員・・・それは、村雨。
そう・・・村雨は週に数回、夜中に働きに出ていたのだ、遠征だけでは暮らして行けない事を知った上で・・・
白露が言っていた事はこのことで、夜中に「私用で出かける」と言って出かけ、
心配になって後を追った事で知ったようだ・・・しかし、まだ他の3人には知らせていない。
”そのくらいしないと暮らせない” ・・・村雨が言った言葉、遠征と彼女の働きで「やっと暮らしていける」状態なのだ。
白露もそれは百も承知だったが、止めることが出来なかった・・・それは村雨に対して甘えていたから。
止めれば生活が苦しくなるのは目に見えていて、結局白露は「村雨の安否」よりも「今の生活」を選んでしまったのだ・・・
・・・・・・
「休憩入りま~す♪」
村雨が笑顔で休憩室に入る・・・村雨の評判は良く、彼女の笑顔に癒されたく足を運んでくる客も多い。
仕事もそれほど大変なわけでもなく、村雨自身この仕事にやりがいを持っていた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
休憩室に入るなり、村雨は椅子に持たれかかった。
「ひゅ~・・・ひゅ~・・・」
息が荒い・・・とても苦しそうだ。
毎日の朝・昼・夜の皆の給仕に夜中の仕事、当然体が持つはずもなく村雨の体は限界に来ていた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
村雨は時計を見る・・・休憩が終わるまで後数分、
「仕事は後2時間・・・それまで・・・頑張らないと。」
足もおぼつかなく、冷や汗が出ている・・・それでも村雨は、
「私が頑張らないと・・・私が・・・皆を・・・支えないと。」
洗面所で顔を洗い、再び仕事場へと足を運んだ。
「お疲れ様です、次は3日後ですね・・・わかりました。」
仕事を終え、フラフラな足取りで鎮守府に戻る村雨、
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
帰り道に雪が降っていた・・・気温も氷点下・・・村雨の体は冷たく、体調も悪い・・・いつ倒れてもおかしくない状態だ。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・っ」
村雨はふらつき・・・そして、
ドサッ!!
村雨はその場に倒れた。
「・・・・・・」
起き上がる力もなく、ただ空から降ってくる雪を体で受け止めていた。
「・・・もう・・・ダメ・・・かな。」
暗い空を見上げながら、村雨は呟く、
「ごめんね皆・・・私・・・もう・・・ダメ・・かも。」
弱々しい口調で発するも、その言葉は誰の耳に届くことはなく意識を失った。
・・・・・・
・・・
・
「う・・・う~ん。」
目が覚めると、どこかの室内で眠っていた。
「・・・ここは?」
当然のことながら、村雨には覚えがない。
「・・・・・・」
確か、地面に倒れてそのまま私は意識を失って・・・
「気が付いたか?」
村雨が振り向くと、そこには1人の男が立っていた。
「えっと・・・あなたは?」
起き上がろうとして、
「起き上がるな、じっとしていろ!」
男は村雨を制止させる。
「・・・・・・」
「帰り道に雪の中で倒れているのを見つけてな、ここまで運んできたんだ。」
「・・・・・・」
「体が冷え切っていてダメかと思ったが・・・無事で良かったよ。」
「・・・・・・」
「そら、お粥も作っておいた・・・これを食べて温まりな。」
それだけ伝えて、男は部屋から出て行った。
「・・・・・・」
村雨は出て行くのを確認した後、側に置いてあった粥を口に含んだ。
「はむ・・・はむ・・・温かい。」
もう叶わないと思っていた温かい温もり・・・村雨はお粥を食べて体を温めた。
「・・・・・・」
外を見ると、猛吹雪・・・今外へ出ても無駄であろうと思う村雨、
「・・・雪が止むまで休ませてもらって・・・それからすぐに白露たちの元へ帰らないと・・・。」
自分の事より皆の事、それを言い聞かせて村雨は疲れた体を休めた。
・・・・・・
朝、雪は止み日が差し込んだ。
「晴れたか・・・昨日の吹雪を見て今朝はどうなるか不安だったが・・・」
男は空を見て安堵の表情を浮かべる。
「・・・昨夜は助けていただいてありがとうございます。」
村雨は深々と礼をする。
「ああ、別に気にするな・・・たまたま通りかかっただけだからさ。」
「・・・助けてくれた御恩をお返したいのですが・・・すぐに戻らないといけないので、少しだけ待っていただけませんか?」
律儀な村雨、助けてくれた男性に恩義を持っていた、
「そうか・・・気を付けてな。 まだ完全に治ったとは言えないからね。」
「・・・ありがとうございました、それでは失礼します!」
もう一度礼をすると、村雨はその場から立ち去った。
・・・・・・
「ただいま~! 皆大丈夫?」
鎮守府に戻ると、食堂に白露が待っていた。
「!? 村雨! 一体どこに行ってたのよ!」
白露は怒り心頭だ。
「ごめんなさい・・・少し寄り道しちゃって・・・」
咄嗟についた嘘、しかし白露には通用しなかった。
「村雨が帰ってこないから・・・あたしたち、どれだけ心配したかわかってるの!?」
怒り以上に涙を浮かべる白露、
「村雨に何かあったら一番悲しいのは・・・あたしなんだからね!!」
「白露・・・」
そこまで心配してくれていた白露に、
「本当にごめんなさい。」
何度も謝る村雨、
「いいって・・・無事だったらもういいから! でも、もうそんな無理なんかしないでよ!」
「・・・うん、心配かけてごめんなさい。」
姉に叱られて温もりを感じる村雨、
「白露、少し気分が悪いの・・・少しでいいから眠っててもいいかしら?」
昨日は助けられ、お粥と暖かい部屋で眠れたこともあって多少は回復したものの、まだ完全には治っていない。
「いいよ! あたしがやっとくから! 村雨は部屋でゆっくり寝ていて!」
「うん、ありがとう。」
姉の言葉に甘えて、村雨は部屋へと向かった。
「夕立、今日は凄く頑張ったっぽい~!」
遠征から帰還・・・結果は”大成功” 報酬がいつもより少し多めに手に入った。
「皆お疲れ様~! 今日はあたしが作ったからね~。」
そう言って、白露は机に麦飯とみそ汁を並べていく。
「白露さん、村雨さんは・・・帰って来ました?」
五月雨が心配になって聞く、
「うん、でも体調が良くなくて今ぐっすり眠っているから・・・そっとしてあげて。」
白露の言葉に皆は素直に「わかった」と応じた。
翌朝、
「皆~! 朝ですよ! さぁ早く、お・き・て!」
村雨が元気よく皆を起こした。
「ふぁ~・・・って村雨、もう大丈夫なの?」
「うん、昨日ぐっすり眠ったから・・・ほら、この通り!」
村雨は元気いっぱいに腕を振った。
「おはようございます・・・って、ああっ! 村雨さん! 体調はどうですか!? 大丈夫ですか!」
心配になって五月雨も近づく。
「大丈夫、皆心配かけてごめんね・・・私はもう大丈夫だから♪」
村雨のいつもの笑顔に皆も安心する。
「さぁ、朝食も出来てるから・・・温かいうちに食べましょう!」
村雨たちは食堂に向かった。
「ぷはぁ~・・・食った食った!」
「こら、涼風~・・・お行儀が悪いわよ!」
「いいじゃんか! こんな姿、アタイ達除いて誰も見ていないって!」
涼風は開き直る、
「あらあら・・・」
村雨もクスクスと笑う。
「はいは~い、今日も頑張って役割を全うしましょう!」
皆「了解!」
いつものように夕立たちは遠征に、白露も今回は夕立たちと一緒に遠征を手伝いに行くことになり、
鎮守府には村雨1人となった。
「いってらっしゃい~。」
皆を送って、
「よし、今日の夕食の調理でも始めますか。」
村雨は準備のために食堂へと向かった。
「確かこの辺りだったはず・・・」
鎮守府から少しの時間抜けて村雨は何かを探している。
2日前、村雨を助けてくれた男性がいる建物を探していたのだ、しかし、いくら探しても建物らしき物が無い。
「・・・・・・」
それからしばらく辺りを捜索したが、結局見つからずお礼として用意していた封筒を持って鎮守府へと戻って行った。
・・・・・・
・・・
・
夕方、今回はいつもと違った。
遠征中に白露たちが海域から逸れた敵深海棲艦と遭遇、五月雨が負傷し・・・遠征を中断して戻って来た。
帰還するとすぐに五月雨を手当てする。
放棄された鎮守府に入渠ドッグの機能は必要なく、提督が失踪したと同時に設備を止められていた。
仕方がなく、傷を消毒して包帯を巻いて寝かせる最低限の治療しかできなかった。
「ふぅ~・・・何とか落ち着いた。」
白露はわずかに安堵の表情を浮かべる。
「でも、どうするっぽい~・・・このまま寝込んだままだと明日からの遠征は諦めるっぽい~?」
「そしたら今後の生活が出来ない・・・ああ、どうしたらいいんだ。」
夕立と涼風に焦りが見える、
「大丈夫・・・私に考えがあるから・・・」
「? 考えっぽい~?」
「何だよ・・・何か対策があるのかい?」
村雨の言葉に振り向く2人。
「五月雨は治せるから・・・私を信じて!」
村雨の励ましに2人もようやく落ち着いた。
「考えがあるって・・・何があるの村雨?」
白露が心配になって尋ねると、
「・・・これがあるから。」
そう言って、ポケットから出したのは・・・
「!? それはダメだよ! それは村雨が一生懸命働いて貯金したお金じゃん!」
白露は叫んだ。
「大丈夫・・・お金はまた貯めればいいの、今は五月雨を治すこと専念して・・・ね?」
村雨は笑顔で答える。
「でも、それは・・・春雨といつか一緒に遊びに行くために貯めていたお金・・・それだけは使っちゃダメ! 絶対に!」
白露は何度も使う事を止めさせようとするが、
「白露・・・今大事なのは五月雨を治すこと・・・わかってるでしょ?」
冷静に答える村雨、
「・・・・・・」
言っていることが正しいだけに、何も言い返せない白露。
「ちょっと修復材と消耗品その他を買ってくるから・・・待っていてね。」
村雨は近くの鎮守府へ修復材等を購入するため、1人で歩いて行った。
村雨たち5人は「不要」と扱われた身・・・当然免除も保険もない。
丸々実費を要求されるため、今村雨が持っている所持金で修復材3個とその他消耗品が箱に入るくらいにまでは買える程度。
「また無くなってしまうのね・・・貯金。」
五月雨のためにとあの時は冷静に言っていたが、内心は辛かった。
「せっかく貯めて・・・春雨のお小遣いと皆の手袋とマフラーを買おうと思っていたのに・・・」
「また最初から貯金ね。」と呟く村雨、
「・・・行けない行けない、何を考えているの私は・・・早く鎮守府に行って譲ってもらわないと・・・」
村雨は近くの鎮守府へと急いだ。
「ごめんくださ~い。」
村雨が閉じた鎮守府の正門を叩く、
何事かと鎮守府から1人の人影がやってきて、門の前で立ち止まる。
「夜分恐れ入ります・・・私の大切な仲間が倒れてしまって・・・申し訳ありませんが、修復材とその他消耗品を譲って
いただきたいのですが・・・」
村雨は顔を上げた、すると・・・
「!? あ、あなたは・・・」
村雨は驚く、それもそのはず・・・
「君は・・・確かこの前の。」
そう・・・あの時村雨を助けた男がそこに立っていた。
しばらくお互いを見た後、
「外では寒い・・・中で話そうか?」
提督は正門を開けると、村雨を待合室へと連れて行った。
「寒かっただろう、ほら温かいお茶だ。」
「ありがとうございます・・・あの。」
「ん、どうした?」
「提督だったのですね? あなたは・・・」
「ああ・・・うん、まだ着任したばかりの新米だけどね。」
「・・・・・・」
目の前に提督が座り、
「それで、何の用だったかな?」
提督が尋ねると、村雨は事情を説明した。
・・・・・・
「ほら、高速修復材5個とその他包帯等の消耗品、そして2,3日の食糧だ。」
「はい・・・あの・・・私は修復材3個と消耗品だけを頼んだ筈ですが?」
明らかに要求よりも多い品に村雨は申し訳なさそうに尋ねる。
「おまけ、ただのおまけと思えばいい。」
ここの提督はどうやら気前がいいらしい。
「そうですか・・・では、ありがたく頂きます・・・それで、いくらでしょうか?」
おまけとはいえ、代金は発生するもの・・・村雨は財布を出して提督の要求を待つが、
「金なんか要らない、気にせず持って行ってくれ。」
と、無償で渡すと言ってきた。
「いえ、そんなわけには・・・それにまだ・・・助けてくれたお礼だって返していません。」
村雨は躊躇いつつ、財布から全額を出し、
「これを受け取って下さい! 何から何まで無償でやってもらうのは私のプライドが許しません!」
と、お金を渡そうとした。
「だからさ・・・金は要らないって。 ・・・それならオレの質問に答えてくれるかな? それだけ答えてくれれば
後はチャラで・・・どうかな?」
「・・・・・・」
質問に答えるだけ・・・それだけでチャラなんてこの提督はどれだけ気前がいいの? と思いつつ、
「わかりました・・・何でも質問してください。」
村雨は質問に応じた。
「そうか・・・では聞こう。」
「・・・・・・」
「君は一体何を背負っているんだ?」
「? 何を背負っている?」
「うん、初めて会った時もそうだ・・・あんな天気にそんな恰好で外出するのは異常だし・・・君が去る時”すぐに戻らないといけない”と
言った・・・何を大事に守っている? それとも・・・自分の命を削ってまで守る何かがあるのか?」
「・・・・・・」
僅かに会っただけなのに村雨の心境を読み取った提督・・・その言葉に彼女は言葉を失う。
「答えられないか? ・・・まぁ、無理にとは言わないが。」
「・・・・・・」
この人に話しても大丈夫かな? そう思った村雨は、
「私の話を・・・聞いていただけますか?」
村雨は少しずつ、事情を話していった。
・・・・・・
「なるほど、君のほかに後4人放棄された鎮守府に残ったままだと・・・」
「・・・はい。」
「周りから「不必要」のレッテルを張られ、他の鎮守府に再着任も出来ないと・・・」
「・・・はい。」
「・・・それでも、姉妹艦の事が気がかりで、毎日自分が無理をしてでも支えていたい・・・と?」
「・・・はい。」
村雨は今の現状と困惑した生活の事まで根掘り葉掘り提督に話した・・・
こんな話はするものではないけど、誰かに聞いて欲しかった・・・溜まっていたものを全てを吐き出した事で、
村雨は内心落ち着いていた。
「どうやら君は、オレが思っていた事より遥かに違って、責任感があり仲間想い・・・そして堅実のようだね。」
「・・・・・・」
「君を今日付けでオレの鎮守府に招き入れたい・・・どうだろう?」
「えっ!?」
村雨は驚いた。
「どうだろう? 君が構わないのなら、すぐに部屋を用意する・・・毎月給料も出す、どうかな?」
「・・・・・・」
まさかの再着任許可・・・村雨に選択の余地はなかった・・・でも、
「私1人だけ・・・再着任するわけには行きません・・・とてもありがたいですが、私1人だけはできません。」
私がこの鎮守府に着任すれば、当然白露たちと二度と会えなくなる、4人がこの先どうなるかなんて、想像もできない。
「そうか、残念だ・・・でも、どうして・・・どうしてそこまで彼女たちを支えようとする? 自分の命を削ってまで?」
「・・・・・・」
村雨は少し沈黙した後、深呼吸をして答えた。
「白露たちは提督や他の仲間たちに捨てられたんです! 捨てられた時の気持ちが提督にはわかりますか!!」
「・・・・・・」
「私だって本当は悔しいんです! 悔しくて皆と同じ泣きたい気持ちです! ・・・でも、私も皆と同じ気持ちでいたらと思うと・・・
せめて、誰か1人でも皆のために笑顔でいれば・・・皆も自然に笑ってくれるんじゃないかと・・・思ったんです。」
「・・・・・・」
「私が笑顔で何度も声を掛けたら皆笑ってくれました! 「このままじゃいけないよね!」 「皆で頑張ろうって!」
また皆に笑顔が戻ったんです!」
「・・・・・・」
「そんな皆の笑顔を・・・ううっ・・また失う事になるのは・・・ひっく・・私には・・・我慢出来ません。」
堰を切ったように叫んだ後、村雨は地面に泣き崩れた。
「そうか・・・」
提督は村雨の肩を持ち、
「わかった・・・お前と他の4人・・・オレが引き取ってやる!」
「!? ほ、本当・・・ですか!?」
まさかの一言・・・村雨は泣き止んで提督を見た。
「でも、1つだけ・・・条件がある・・・それが達成できれば・・・約束は守る・・・それでいいかな?」
「・・・・・・」
村雨は無言で首を振った。
・・・・・・
・・・
・
「誰かいるかな?」
提督が村雨のいた鎮守府にやって来た。
「はい~・・・ええっと~・・・何か御用ですか?」
提督の来訪に戸惑う白露、
「・・・・・・」
提督の隣には村雨がいて、
「!? 村雨! どうしたの!?」
村雨に気付いた白露が驚いて聞く。
「悪いね、大事な話があるんだ・・・全員を集めて欲しいんだ。」
提督の言葉に白露が全員を食堂に召集させた。
・・・・・・
「どうしたっぽい~、白露~?」
「何だい、アタイは五月雨の様子を見ておかなきゃ行けないんだけど。」
五月雨以外の全員が食堂に集まり、提督は皆の前に立つ。
「わざわざ集まってもらって悪いね・・・皆の許可がどうしても必要だったからね。」
「? 許可っぽい~?」
夕立が首を傾げる、
「皆忙しいだろうから率直に話すよ。」
提督は急に改まって、
「この子・・・村雨をオレの鎮守府に着任させたいんだ。」
「えっ?」
「ぽい~?」
皆が驚く、
「そうしたら村雨が「皆の事が気がかりで」と言ったんだ・・・だからオレがここに来て皆の許可を貰いに来たんだ。」
「・・・・・・」
しばらくの沈黙、しかし、
「良かったじゃん~! 村雨!」
最初に口を開いたのは白露だった。
「おめでとう! 村雨! お姉ちゃんは嬉しいよ!」
「村雨良かったっぽい~! 夕立も心から嬉しいっぽい~!」
「良かった・・・村雨の普段の頑張りが評価されたんだね、良かったじゃんか村雨!」
皆は心から喜んだ。
「白露・・・夕立・・・涼風。」
村雨は悲しそうな目をする。
「鎮守府でお姉ちゃんの分まで頑張ってよ、村雨!」
「本当は寂しいけど・・・頑張ってっぽい~♪」
「五月雨にもきちんと報告しておくからさ・・・村雨はアタイたちの事なんか気にしないで鎮守府で頑張りな!」
「・・・・・・」
村雨は皆の表情を見ていられず、下を向いた。
「何泣いてるのよ村雨、これで良かったんだからね! そんな悲しむ必要は無いって!」
白露は笑顔だ、
「夕立たちの事・・・忘れちゃ駄目っぽい~!」
今にも泣きそうな夕立が堪えて笑顔で振る舞う。
「ア、アタイも・・・ぐすっ・・・心から・・お、応援してるからさ・・・頑張ってよ!」
涼風は堪えきれずに涙を流した。
「・・・皆!」
村雨は堪えきれず皆に抱き着き、
「ありがとう皆・・・本当に・・・ありがとう!」
「何さ・・・ぐすっ・・・泣いちゃって・・・あたしだって泣けてくるじゃんか!」
「ううっ・・村雨~・・ひぐっ。」
「頑張って活躍して来いよ! 絶対だからな! ・・ぐすっ。」
皆の絆は深い・・・それを見た提督が、
「良し! 合格だ!!」
突然の一言に皆は動揺する、
「ふぇっ? 何?」
「合格って・・・何っぽい~?」
「・・・何だい、アタイたちの雰囲気を壊しといて。」
訳が分からず皆は提督の方を見る、
「すまない・・・少し試したかったんだ。 皆がどれだけ堅実で・・・仲間想いで・・・思いやりがあるのかを・・・知りたくてな。」
「・・・・・・」
「村雨、約束を守る・・・今すぐ荷造りをしろ。」
「はい! ありがとうございます、提督!」
「外で待っている・・・準備が出来たら出発するぞ。」
提督は鎮守府から出て行った。
「・・・村雨、一体どゆこと?」
意味が分からず白露は村雨に尋ねた、
「提督が条件を出してくれたの・・・「皆が私に対してどれだけ絆が深いか見たい。」って・・・」
「提督は「それがわかれば全員を引き取ってやる!」と言ってくれたの!」
「・・・つまり、提督が言ってた「合格」って・・・まさか!?」
「うん! 私たち全員を鎮守府に連れて行ってくれるってこと!」
それを聞いて皆が喜んだ。
「本当!? 本当に本当!? やったぁ~!!」
「・・・じゃあまた皆で暮らせるっぽい? 夕立嬉しいっぽい~!!」
「何だよ・・・提督も変な演出しやがって・・・でも、嬉しい!!」
また皆で暮らせる! それがわかって皆がまた笑顔になった。
「後これ・・・五月雨にこの修復材を使って・・・皆は最低限の荷造りをして、準備が出来たら出発するわよ!」
皆「了解!!」
村雨の指示により。各自準備に取り掛かった。
・・・・・・
「準備が出来ました、提督。」
準備を終えた皆、修復材で傷が治った五月雨も準備が整い、
「では、行こうか。」
提督に案内され、皆は放棄された鎮守府を後にした。
・・・・・・
・・・
・
その後、鎮守府に再着任した皆・・・出撃と遠征をこなし、何不自由のない普通の生活に戻ることが出来た。
「提督、お疲れ様です・・・今日の資料をお持ちしました。」
村雨が提督のために今日処理する資料を持ってきた。
「ありがとう、そこの机に置いておいてくれ。」
「はい、わかりました。」
提督に言われて、指定された机に資料を置いた。
「提督、今更なんですが・・・」
どうしても気になった事があったようで、村雨は提督に尋ねる。
「私と提督が会ったのは偶然なのですか・・・私にとってはそうは思わないんですけど・・・」
提督に会った事で変わった新たな生活、それは運が良かったとは到底思えない出来事である。
もしかしたら、提督があらかじめ計算の上で行動していたのかも、と感じた村雨。
「いや、たまたまだね・・・本当にあの帰り道で村雨を見つけて助けただけだ。」
「・・・・・・」
「でもその後、村雨の話を聞いて「ああ、村雨はオレと同じ境遇なんだ」と思って情が移ったのはある、かな。」
「? 提督と同じ境遇・・・ですか?」
その時、村雨には「同じ境遇」と言う言葉にピンと来なかったが・・・後にそれを知ることになる。
・・・・・・
村雨たちが着任して1か月後の事、
村雨は書類を持って執務室に入る手前、中から怒涛の声が聞こえた。
「何度言えばわかるんですか! それだから無能なんですよ!!」
秘書艦の霧島・・・最初に着任した戦艦の女性だが、何かと提督とぶつかることが多い。
「今日までに・・・この書類を済ませてください!! いいですか、今日までです!!」
霧島は不機嫌で執務室から出て行く。
「・・・・・・」
恐る恐る執務室に入る村雨、
「提督、今日必要な追加書類をお持ちしました。」
「ああ、ありがとう。」
提督は冷静に対応する。
「・・・・・・」
机に資料を置き、心配になって提督に聞いた。
「大丈夫ですか、提督?」
「ん、何が?」
「ここのところ毎日霧島さんに怒られていますよね?」
「ああ、そのことね・・・別に問題ないが?」
「・・・まだ霧島さんには話していないんですね? どうしてですか?」
「別に・・・これ以上霧島のプライドを傷つける必要はないと思ってな。」
「・・・・・・」
「村雨は気にする必要ない、普段通り行動してくれ。」
「・・・わかりました。」
何か言いたげだが、提督の命令に素直に従う村雨。
「・・・・・・」
村雨は知ってしまったのだ・・・提督のある秘密を・・・
・・・・・・
それはたまたま提督の机を整理していた時に見つけたとある資料、
「?」
勝手に見るつもりはなかったが興味があって思わず内容を読んでしまった。
「・・・・・・」
その内容に村雨は言葉を失った。
”貴君に提督の任を与えず、早々に鎮守府から出ることを命ず”
「・・・・・・」
提督としての認可がされておらず、退去命令も出されていることを知った村雨。
「つまり提督は・・・提督としての給料を貰っていないってこと?」
結論としてそうなるが、それ以上に・・・
「じゃあ、私たち艦娘に支給される給料は一体どこから?」
それが気になり、頭から離れなかった。
・・・・・・
夕方、提督に昼間の事を正直に伝えた、
「見たのか・・・」
「申し訳ありません・・・机に置いたままだったので・・・」
「いや、いいんだ。別に隠すことじゃないしその内打ち明けようと思っていたところだ。」
提督は笑いながら答える、
「・・・あの、提督?」
「ん、何だ?」
「提督として認めてもらえていないってことは、給料を貰っていないってことです・・・よね?」
率直に聞く村雨、
「・・・まぁ、そうだね。」
提督は頭を掻いた。
「では・・・皆の給料は一体どこから出しているのですか?」
駆逐艦の割にやたらきつい質問をぶつける・・・流石に提督も、
「・・・副業をやって稼いでいる。」
「・・・副業・・・ですか?」
そこで初めて知った副業と言う言葉・・・
村雨の必死のお願いにより、提督の毎日のスケジュールを見せてもらった村雨・・・それを見て、
「そんな・・・いや、無理でしょ!?」
スケジュール表を見て言葉を失う村雨。
「朝5時から食事作り・・昼と夕方を含め・・・夜中まで執務作業・・・深夜から副業・・・朝5時まで・・・毎日フルタイムじゃないですか!!」
村雨は悟った。
あの時提督が「村雨はオレと同じ境遇なんだ」と言っていた事、確かに昔の私の行動と同じ・・・でも、
全くの休みなしなんて・・・提督の方が無理をしているじゃないですか!!
すぐに止めるか、回数を減らすか願い出たが、
「大丈夫だよ、オレは皆と違って疲れを知らないもんでね。」
と、笑って答える提督・・・しかし村雨は、
「命を削ってまで頑張っているのはむしろ、提督の方じゃないですか!!」
と叫んだ。
「まぁ、オレも「皆の笑顔を見る事が楽しみ」だからな・・・そこが「村雨と同じところ」なんだよね。」
と答える提督。
「・・・・・・」
何か言いたげだが、それ以上何も言えずに茫然と立ちすくんでいた。
・・・・・・
その日からずっと私は提督の側で仕えることを決意した。
秘書艦である霧島さんと立場は違い、提督の健康状態や提督の身の回りの些細な変化とかも見逃さず、
常に見守って仕えよう・・・それが、提督が私を助けてくれた恩返しになるのではないか・・・と思った村雨だった。
・・・・・・
・・・
・
(ここから現代)
「そう、その後提督は色々あって提督業を辞めて今の料亭へ転職・・・私や海風は待機艦娘として扱われ、
ずっと出撃や任務の無い生活が続くのなら、いっそのこと提督の料亭で働くことを選んだのよね。」
天井を見ながら再び昔を思い出す村雨、
「そしてケッコン機能が導入されて、最初に霧島さんが指輪を渡された・・・」
当然のことながら霧島は戦艦・・・駆逐艦と違って練度の上昇速度は速い。
「私はその後に渡されたけど・・・別に順番なんてどうでもいいもの。」
霧島さんは提督の唯一の理解者であると思っているようだけど、私は提督の身の回りで常に仕えていたから・・・
霧島さんより私の方が提督の事をずっと知っている・・・だからって、霧島さんには言わないけどね。
「・・・・・・」
天井を見つつ、思いのたけを漏らす村雨、
「結構昔を思い出してしまったわね・・・今何時かしら?」
村雨は時計を確認する。
「もう1時間経ってる・・・早く寝ないと!」
そう言って、村雨は布団を被って就寝した。
・・・・・・
翌朝、
「おはようございます!」
村雨が元気よく挨拶をする。
「おはよう! 村雨はいつも元気だな!」
「はい、私の取り柄ですから♪」
そう言って、いつものように入り口で客を案内する。
「2名来店しました!」
村雨の案内で徐々に客が入ってくる、提督達は順に注文を受ける。
「さぁ、今日も一日頑張るとしますか!」
村雨は改めて意気込みをして、今日の仕事に励む。
「・・・・・・」
村雨は提督を見つめる、
提督は私が護る・・・何があっても・・・必ず!
「村雨の思い出」 終
超おもしれー!!
ヤンデレじゃないですかーw
しかしこんな可愛い看板娘が居るなら。
毎日でも食いにいくなあw
いい話ですね。こういう話ならいくらでも読めそうです。