2018-09-09 09:56:06 更新

概要

1人の男性(以降主人公)がやっとの思いで就職した場所が、アズレンの鎮守府の給仕担当だった・・・


「ふぁ~あ・・・あっ、おはよう。早いね。」


早朝、1人の女性がリビングにやってくる。


「今日は外出するから、朝早く起きて弁当作る予定だったでしょ?」


女性の夫だろうか、早朝から2人分の弁当を作っていた。


「・・・あっ、そうだった。 すぐに顔を洗って来るから!」


女性はすぐに洗面台に向かい、顔を洗い始め、


「よし、目が覚めた! じゃあ私も手伝うよ!」


そう言って、夫と一緒に弁当作りに励む女性。


・・・・・・

・・・



「はぁ・・・また不採用か。」


1人の男性(以降主人公)が深くため息をつく。


これまで何度も面接を受けては不採用続きで就職できず、


気づけば周りの友人のほとんどが職に就いて生活をしていた・・・中には既婚をしていた友人も。



「まずいな、オレももっと真剣に取り組まないと!」



主人公は昔から料理好きだったこともあり、料理店で働くことが夢であったが、


大学卒業から10数年が経ち、今も無職だ。


そんな人間を雇ってくれる職場など無く、主人公より若い人材を募集していることが多かった。



「もうほとんどの箇所が年齢制限に引っ掛かるな・・・とにかくどこでもいい、料理店じゃなくても


 オレが作った料理を出せる場所ならどこだっていい!」



余程、料理に自信があるようで何度も検索しては探していた・・・そんな時、


「ん、”料理の腕に自信がある方、ここで働いて見ませんか?”・・・しかも、年齢制限なし! ここしかない!」


主人公は迷わず申請書を提出した。


・・・・・・


数日後、


主人公宛てに封筒が届き、封を開いて見ると・・・


「貴方を採用します、すぐに〇〇に赴いてください」


何と、面接も試験も無しの合格通知が・・・明らかに怪しい感じだが、当の主人公は、


「遂に・・・遂に就職場所が決まったぁ!! やったぞぉ!!」


不採用続きだった彼にとって、疑う余地も無くただ採用された事に喜んだ主人公、



「・・・この辺りのはずだけど。」


封筒に入っていた地図を頼りに主人公は赴くが、料理店らしき場所が無く代わりに、


「? あの建物は何だろう?」


近海にそびえ立つ建物、主人公は店を尋ねるために歩いて行く。


・・・・・・


「すいません、ちょっと店の場所を知りたいのですが・・・」


主人公が門で見張りをしていた門番に道を尋ねる。


「〇〇って言う所に行きたいのですが。」


主人公の言葉に門番が一言、


「ここですよ。」


「えっ、ここですか!?」


主人公は驚く。


・・・・・・


門番に案内され、建物の中へ。


どうやらこの建物は”鎮守府”と呼ばれる建物で、軍が所有する軍事施設だとか。


その施設に何故主人公が呼ばれたのか、理由は分かっていない。


「指揮官、〇〇様を連れてきました。」


”執務室”と書かれた扉を叩く門番、


「ご苦労、入ってくれ。」


中から声がした、どうやらこの鎮守府の責任者であろう。


門番に促され、主人公は中に入っていく。


「長旅お疲れさん、まぁ椅子に座ってくれ。」


責任者である指揮官が椅子を用意してくれて、主人公は座ると、


「早速だが、貴君にはこの鎮守府で働いてもらいたい。」


突然の申し立てに驚く主人公。


「貴君は料理好きと履歴書に書いただろう? 貴君のその料理の腕が必要なんだ。 明日から・・・


 いや、今日からでも働いて欲しい!」


「・・・・・・」


指揮官の話を聞く限りでは、相当切羽詰まっているようで、


「分かりました、採用してもらった以上は身を粉にして働く所存です!」


「うむ、良く言ってくれた! では現場に案内しよう!」


主人公は指揮官の後について行った。


 

「今日から貴君はここで働いてもらう!」


指揮官に案内された現場は、


「ここは、食堂ですか?」


着いた場所は食堂で、規模は大きく約300人分もの椅子が設置されている。


「この鎮守府に在籍している我が部下たちが集う食堂だ、前は給仕が何人かいたが一斉に辞めてしまってな、


 今この食堂に給仕は1人もいないのだよ。」


「・・・・・・」


「それで、料理をしたいと言う貴君にこの鎮守府に来てもらったのだ。」


「・・・・・・」


確かに料理をしたいとは言ったが、こんな大勢の人間相手に1人で対処出来るものなのか・・・


「あの、オレ以外に給仕希望者は?」


主人公の問いに、


「誰もいない、貴君のみだ。」


「・・・誰か助手とかいませんか、せめて2,3人程・・・」


「いない、貴君1人で頑張って貰う。」


「・・・・・・」


主人公は「やっちまった」と後悔する、俗に言う「ブラック」の部類に入っていると気づく。


「貴君の頑張りで給料は上乗せしよう、期間はまずは3ヵ月、しっかり身を粉にして働いてくれたまえよ!」


それだけ言って、指揮官は去って行った。



「・・・・・・」


案内された寮で1人座り込む主人公、


「どうしよう、この建物から出ようと思ったけど・・・」


指揮官の差し金だろうか、所々に監視の目が行き届いていた。


「ここは軍事施設の一環、逆らったりしたらまずいよね?」


もしかしたら”命令違反と判断されて射殺されるかもしれない”・・・そう頭によぎったのか、


「・・・取り敢えず、頑張ろう。 きつそうに見えて実は楽かもしれないしね・・・」


淡い期待を抱きつつ、その日は就寝する主人公。


しかし、翌日から苦難の始まりになる事を主人公はまだ知らない。


・・・・・・


早朝、主人公は食堂で調理を始める。


「指揮官の話では、朝9時から夜20時までの給仕作業を行えばいいと、まぁ勤務時間は普通かな。」


とはいえ、仕込みも何もしていないため、主人公は早朝6時から食堂で調理を行っていた、


もちろん3時間分の手当は貰えない。


「まぁ、研修中と割り切ればいいかな。」


主人公の今の気持ちはその程度だった。



午前7時になり、


「? あれ?」


食堂の前に人影が見える、


主人公が気になって扉を開けると、


「朝食は出来た? 皆お腹が空いてるんだけど!」


そこには大勢の女性の姿が、


「えっ? どう言う事?」


主人公は状況を飲み込めていない、


「だから! 皆これから出撃や委託に向かうからすぐに食事を済ませたいの! それで、皆の分は出来てるの!?」


「・・・・・・」


主人公は驚く、まだ7時なのにこの人だかり・・・指揮官が言っていた時間より2時間も早い。


「あ~、もうっ! どいて、ほら皆、早く食事済ませてさっさと出撃と委託に向かうわよ!」


1人の女性の指示で並んでいた全員が食堂に入っていく。


・・・・・・


「ちょっとぉ! こっちのみそ汁が無いんだけど!?」


初出勤早々、周りからの怒声が相次ぐ。


「すいません、少しお待ちください。」


主人公は急いでお椀に注いで、無いグループに持って行く。


「お兄さん! ご飯おかわり!」


今度は端に座る女性からおかわりの要求が、


「はい、すぐに持っていきます!」


事前に炊いて置いた飯を盛り付け、端の女性に渡す。


「お兄さん、こっちも!」


「お兄さん、こっちはまだ?」


約1時間の間、主人公はたった1人で彼女たちの世話をしていた。


・・・・・・


「やっと終わった。」


全員が食べ終わり、出撃と委託へと向かい食堂は静かになった。


「それにしても・・・」


主人公は悩む、


「朝9時って聞いたのに、どうして7時に?」


一瞬考えるも、結論は出ていて、


「指揮官にしてやられたなぁ。」


コスト削減だろうか、給料節約なのだろうか分からないが、指揮官が嘘の出勤時間の報告をしてきたのは間違いないようだ。


「早朝からこの人数の食事量・・・昼と夜なんてこの倍は必要じゃないの?」


主人公の予想は見事当たる。



昼になり、朝の倍以上の人数が押し寄せる。


「お兄さん! 私が頼んだ定食まだ来ないの!?」


「ちょっと! いつまで待たせる気?」


朝と同じように怒声が飛び交う、


「申し訳ありません、お待ちください~!」


主人公はせっせと注文を受けた品を出して行く。



仕込みは朝よりも倍にしていたため、不足にはならなかったものの、注文と運ぶ作業も1人で行わなければ


ならなく、皆からの怒声や不満が押し寄せ開始早々主人公は落ち込む。



「ふぅ~・・・もうくたくただよ。」


昼の時間が終わった頃には主人公は近くにあった椅子にもたれ掛かる。


「後は夜・・・恐らく、朝と昼よりも多いはずだな。」


主人公の予想はまた当たる。



夜になると、委託組と出撃組の全員が押し寄せ、恒例の怒声と不満が主人公1人にのしかかる。


「おい、お前! さっさと持って来てよ!」


「兄ちゃん! 何ちんたらしてんのさ、こっちは腹減って死にそうだよ!」


流石に主人公も不満が溜まるが、何も言わない・・・ただ謝るだけだ。


「申し訳ありません、すぐにお持ちします!」


「おかわりですね? 少々お待ちください!」



仕込みから調理、注文と提供まで全部1人でこなした主人公、


終わったのは23時・・・指揮官が言っていた時間よりもかなりオーバーした。



「9時から20時って、実際は7時から23時・・・5時間以上も違うじゃん!」


もちろん指揮官の話では5時間分の手当ては付かないとの事、「騙された」と呟く主人公。


・・・・・・


翌日も、



その翌日も・・・主人公は1人多忙な日々を送る、



鎮守府では指揮官と言う上官の下にたくさんの部下(艦艇)がいて、主人公はその艦艇全員の給仕を行わなければならない。


しかも、各国に分かれており(日本・ドイツ・イギリス等)各国に合わせた料理を提供して欲しいとの要望まで来る始末。


鎮守府内では主人公はあくまで給仕なため、身分は最下層。


艦艇たちからは「お前」や「あんた」呼ばわりで日常茶飯事である。



そんな状態で1週間が経ち・・・


夜の給仕が終わった頃、


「新しい職場を探そうか・・・流石にオレ1人ではこの仕事はきつすぎる。」


食堂の食器を整理整頓しながら主人公は呟く。


「深夜なら警備が薄くなっている・・・その間にこの鎮守府から出て行こうかな。」


最早、主人公にとって「働く」事よりも「ここから出たい」気持ちの方が強かった。


「とりあえず、料理人の決まりとして道具はきちんと片づけて、と。」


そう言って食器を棚に片づけていた時の事だった、


「あっ、あの! もう食堂は閉店、かな?」


1人の女性が食堂に入って来た。


「・・・・・・」


主人公が食器を片付けている光景を見て察したのか、


「ごめんなさい、明日の朝出直すね。」


空腹なのか、お腹を押さえた状態で食堂から出ようとして、


「・・・少し待ってくれるかな?」


主人公の言葉に女性は耳を傾けた。



「はい、お待ちどお様。」


女性の前に夕食の残り物を提供する主人公。


「・・・い、いただきます!」


スプーンを持ってガツガツ食べ始める女性、


「むぐむぐ・・・あっ、ご、ごめんなさい。」


見つめる主人公に女性は顔を赤くする。


「私1人のために、わざわざ作ってくれたのにこんな食べ方しちゃって。」


申し訳なさそうに謝る女性に、


「いや、よっぽどお腹空いていたんだなぁ~って思っただけ。」


主人公は答える、


「それに、お腹が空いているお客さんに料理を出すことがオレの仕事だからね。」


料理人として、自分の料理をお客様に提供する。 それが主人公が料理人として働きたかった理由だろう。


「・・・ありがとう、ご馳走様。」


女性はお礼を言って食堂から出て行く。


「・・・そうだよ、オレは料理人。 お腹を空かせている人に料理を提供するのが仕事なんだ。」


主人公は改めて気づく。


「何逃げようと考えていたんだろう、オレは。 逃げたら誰がこの食堂で皆に料理を出すんだよ?」


責任感が芽生えたのだろうか、急にこの仕事を全うしようと心に決めた主人公。


・・・・・・


翌日から仕事に励む主人公、


最初は嫌々で仕事をしていたが、自分にしかできない事だと思って本格的に仕事をした。


その内、主人公の頑張りを評価して話をしてくれる艦艇が何人か増えた。


まだこの鎮守府の人間を全て覚えたわけではない主人公にとって彼女たちの助言はとても有難かった。




「おい、兄ちゃん。 今日の夕食に肉はある?」


重桜の夕立が主人公に尋ねる、


「うん、今日はお肉たっぷりのカレーだぞ~。」


「おおぅ! 早く食べたい、この皿にたくさん盛って~♪」


今日は重桜と鉄血の混成部隊の給仕を担当、主人公は手際よく料理と酒を提供していく。


「ちょっとあなた、こっちにビール持って来て!」


鉄血所属のプリンツが編成数分のビールを注文する。


「お兄様、赤城と加賀に焼酎をお願いしますわ。」


重桜所属の赤城と加賀に焼酎を素早く提供する。


「あらぁ、初めて会った時よりも機敏に動いて、赤城は給仕様が気に入りましたわ~♪」


そう言って、加賀と共に焼酎を飲み干す。


「おい、マヌケ! 注文したフランクフルトはいつ来るの?」


鉄血所属のヒッパー、あれでも一応プリンツのお姉さんらしい。


「はい、すぐにお持ちします~。」


最初の時と比べて主人公の作業効率は上がり、彼女たちからの怒声や不満は徐々に減って行った。


口の悪い艦艇もいたが、「それは彼女たちの個性だから気にする必要は無い」と全く気にもしていなかった。


・・・・・・


今日も1日の作業は無事終了した。


「お兄さん、今日もお疲れ様~。」


仕事終わりに必ず彼女が主人公に会いに来てくれる。


ロイヤル所属のレパルス、主人公が改めてこの鎮守府で働こうと決意させたのが彼女である。


主人公が就職して1週間経ったあの日、閉店間近にやって来た艦艇こそレパルスだった。


主人公と彼女は気が合うのか、閉店から就寝までの僅かな時間にいつも会話をする仲だ。


「そうだ、ちょっと試しにこのデザート作って見たんだ・・・君に味見してもらえるかい?」


そう言って、レパルスに新作のパフェを差し出す。


「うわぁ~、とっても綺麗。 何か食べるのがもったいないなぁ。」


そう言いつつ、スプーンですくって頬張る、


「はむはむ・・・お、美味しい~♪ クリームとフルーツの相性が合ってるよ!」


どうやら好評のようだ、


「よし、明日からこのスイーツも追加するかな。」


主人公はデザート欄にスイーツをメモしていく。


「じゃあね、明日も頑張って。 無理はしちゃ駄目だよ!」


「うん、ありがとう。 君も仕事頑張ってね!」


お互いに頑張る約束をして別れる。


・・・・・・


主人公がこの鎮守府の給仕を始めて1か月が経ち、


毎日皆の食事を作るため、徐々に皆の好物を覚えていく主人公。


昨日作成した新作スイーツも中々の好評で、注文が殺到する程だ。



「ほい、今日の日替わり定食ですよ。」


夕方帰還した鉄血とロイヤルの混成部隊の艦艇たちの給仕を行っていた。


「はい、ネルソンさん! 注文された定食ですね!」


「お待たせしました! プリンツさんにはビールとおつまみですね!」



この頃にはほとんどの艦艇たちの食事を覚えていて、艦艇たちもわざわざ伝えなくても主人公がいつも通りに


調理するため、次第に打ち解ける者も増えて行った。



「おい、下僕! このスイーツのおかわりを頂戴!」


ドイッチュラントがスイーツのおかわりを要望、


「すいません、このスイーツは1人1個となっております。」


主人公の言葉に、


「はあっ! 下僕の分際で私に逆うの? 私が欲しいと言っているんだから、早く出しなさい。」


我儘なドイッチュラントに主人公は一言、


「明日はドイッチュラントの好きな〇〇を出すつもりだから、今日は我慢してくれない?」


「〇〇!? まぁ、下僕がそこまで言うんなら、我慢してあげるわ・・・うん、我慢する。」


主人公はおだてるのも上手くなった。


「ほい、ヒッパーはいつものビールとおつまみね。」


「・・・ちょっと! 1つ忘れてない? このマヌケ! 一体何度言えば(呆)」


「もちろん、ちゃんと入ってるよ、ほらここにね。」


主人公は指を差すと、


「・・・そう、ならいいわよ。(恥)」


始めの頃はよく周りから怒声を受けていたが、今では交流を持ったためほとんど言われなくなり、


主人公もやりがいを持ってこの給仕に取り込んでいた。


・・・・・・

・・・



主人公がこの鎮守府の給仕を始めて早1年が経過、


突然、主人公はこの仕事を辞める事態になる。



理由は、給料の未払い。


丸1年この鎮守府の給仕を務めたが、主人公は一度も給料を貰っていなかった。


「月終わりに支給する」と聞いていたが、実態は1か月が経過毎に「少し待って欲しい」と


言われ続け、結局何度も踏み倒されていた主人公、そして・・・


肝心の指揮官は失踪し、残された艦艇たちは別の鎮守府に再着任されることになった。



鉄血や重桜の皆の再着任が決まっていき、


「結構楽しくやりがいがあったんだけどなぁ。」


最初は不安があったが、徐々に仕事に慣れ、皆との交流が楽しかった主人公。


「でも、オレにも生活があるから・・・早急に新しい職場を見つけないと。」


そう言って、部屋に戻って鎮守府から出る準備を始める。



主人公に話しかけて来る艦艇が何人かいたが、その中で一番よく話をしてくれた彼女も遂に・・・


「お兄さん!」


ロイヤル所属のレパルスも再着任場所が決まり、


「また、会えるよね?」


彼女の願いに、


「うん、オレも君に会いたい。 その間に料理の仕事を見つけて、そしてまた新作スイーツを作ったら最初に


 君に食べてもらいたい、いいかな?」


主人公の言葉に、


「うん、楽しみに待ってるから・・・絶対会おうね、約束だよ!」


お互いに再会する約束をして、主人公は彼女と別れた。


・・・・・・


それから主人公は、ある有名な料理店に就職することが出来た。


前にいた鎮守府の給仕をしていたのが幸いしたのか、面接であっさりと通った。


あの鎮守府の待遇の悪さに辞める給仕が後を絶たない中、唯一最後まで給仕をこなした事が高く評価されたようだ。




それから半年が経過、


主人公は今も有名料理店で働き、たくさんの客を笑顔にしてきた。


新たな新作メニュー作りにも手掛け、彼の料理を求めて来店する客が後を絶たない。


そんな中で主人公はある新作スイーツを作成、レシピを作成して肌身離さずずっと持ち続けている。


「このスイーツは最初にあの子に食べてもらいたいから・・・」



あの時、鎮守府で出会ったあの女性・・・今はどうしているだろうか?



ある日の事、


来店した客の中に、鎮守府の憲兵がいたことで思わず話しかける。


「君は・・・そうか、あの鎮守府で働いていた給仕か?」


相手も覚えてくれていたようで、話が盛り上がった。


「そうか、君がこの有名店に・・・見事な大出世じゃないか!」


「いえいえ、運が良かっただけですよ。」


お互いの会話をした後、


「あの、聞きたいことがあるのですが・・・」


主人公は憲兵に話を打ち明けた。


・・・・・・


ここはとある鎮守府、


委託を終えた艦艇たちが帰還する。


「委託完了! 手に入れた資材は倉庫に備蓄しました!」


指揮官に報告後、旗艦は皆を労い明日に向けて休息するように伝える。


「では、明日もまたよろしくお願いします。 それでは、解散!」


旗艦の指示で皆が解散する。


「今日も無事終了、 あ~疲れたぁ。」


レパルスが伸びをする、


「もうくたくた・・・早くお風呂に入って寝たいなぁ。」


そう言って、入浴場に向かおうとして、


「レパルス、あなたに会いたいと言う人が鎮守府正門で待っています。」


姉のレナウンから知らされ、


「? 私に? 誰だろう?」


考えるが思い当たらなく、姉の言った正門に向かって行くレパルス。


・・・・・・


「!? ああっ!」


レパルスが正門で見たのは、


「お兄さん! お兄さんじゃん!」


昔、鎮守府で知り合った給仕の主人公との久々の再会を果たした。


「久しぶり! 元気だった?」


レパルスは大喜びだ、


「うん、オレも何とか新しい職につけたよ。 君はどう、ここでの生活は慣れた?」


「うん、前よりは少し楽になったけど、大変は大変かなぁ~。」


久々の再会にお互い胸を躍らせる。


「どうかな? 久しぶりの再会だし、喫茶店で話でもしない?」


主人公の言葉に、


「私もそうしたいけど、明日からも早朝から仕事があるから・・・ごめんなさい。」


「そっか。 じゃあ今度一緒に喫茶店行こう、絶対無理しちゃだめだよ。」


「分かってる、じゃあまたね。 来てくれてありがとう!」


レパルスは笑顔で鎮守府に戻って行った。


・・・・・・


それから更に1か月が経ち、


彼女と会う約束を立てるも、主人公も多忙で結局約束を守れなかった。


最も、彼女の方も毎日委託と言う仕事をしているため、主人公の約束を守れないでいた。



「今日もお疲れ様です!」


食器を片付けて、店を後にする主人公。


家に帰ると、何故か決まって机の引き出しを開ける。


「・・・・・・」


主人公は引き出しの中にある物を毎日眺めている。


「どうしよう、思い切って買ったし・・・後はオレの勇気だよね。」


大切な物だろうか、主人公は引き出しの物を見る度に頭を抱える。


「でも、相手はオレの事をそんな風に思っていないかもしれないし、だけどオレは・・・」


しばらく考え込む主人公、そして・・・


「よし、決めた。 明日またあの子に会いに行こう!」


そう言って、明日に向けて準備し始める。


・・・・・・


ここはレパルスがいる鎮守府、


「レパルス、正門にお客様よ。」


姉のレナウンの言われ、彼女は正門へ行く。



「あっ、お兄さんじゃん、おはよう!」


彼女は元気よく主人公に挨拶した。


「おはよう、今日は何時から仕事?」


「えへへ、今日は久々のお休み♪ だから部屋でのんびりしていたとこ~♪」


彼女は相変わらず笑顔だ。


「そう、良かったら喫茶店にでも行かない? まぁ、予定があるならまたにするけど・・・」


主人公の言葉に、


「いいよ! ちょうど私も今日は外出しようかな、と思っていた所!」


そう言って、部屋に戻って外出準備だけして主人公と喫茶店へと向かった。



「ここのコーヒーとケーキが美味しくてね。」


行きつけの喫茶店だろうか、主人公はレパルスに勧める。


「そうなんだ、じゃあこのケーキとコーヒー下さい!」


レパルスは迷わず注文する。


「あの時はどうなっちゃうのかと思ったけど、お兄さんもちゃんと新しい所に就けて良かったぁ♪」


1年前の突然の指揮官の失踪、各員別の鎮守府に異動し主人公も違う職場に就いた。


「まぁ、結局給料未払いだったし長くは続かないと思っていたけどね・・・」


主人公は今更ながらあの鎮守府の待遇の悪さを打ち明ける。


「そうなんだ、確かにあそこは酷かったかな。」


レパルスも思っていたようで、今更ながら彼女も主人公に打ち明ける。


「休みも取れずに出撃と委託ばっかで・・・帰還はほとんど深夜が多くて、食事もロクにとれなかったし。」


「・・・・・・」


「お兄さんが給仕として来てくれた時は皆喜んでいたんだよ、「これで食事が出来る!」ってね。」


「・・・・・・」


「皆、性格が色々だからすぐに怒ったりする子もいるけど、内心は喜んでいたからね~。」


「・・・そうだったんだ。」


給仕開始早々、皆からの怒声が響いたが決して文句や不満ではなかったようだ。


彼女たちもあの場所で苦労をしていた身、主人公が来る前は空腹で荒れていたんだろうな、と今になって思う。


「じゃあオレが頑張った事は無駄じゃなかったわけだね。」


給料未払いで、指揮官の失踪で急遽追い出される形となったが、決して無駄ではなかったと実感する主人公。


「皆感謝してたよ、口では言ってなかったけど表情を見たらすぐに分かったから。」


「そっか、それを聞いてオレは嬉しいよ。」


いい思い出が作れたと満足する主人公。


「・・・あのさ、レパルス。」


そろそろ言う頃かな、と思った主人公は急に態度を改める。


「? どうしたの・・・」


主人公の改めに少し緊張しつつも、話に応じるレパルス。


「君にこれを受け取って欲しい。」


そう言って、彼女の前に出した物は・・・


「!? えっ、これって!?」


レパルスは驚いた。


・・・・・・

・・・



「ちょっと あなた、何ぼ~っとしてるの?」


嫁に言われて主人公ははっとする。


「ああ、ごめん。 ちょっと昔の事を思い出していただけ。」


「昔? もしかして喫茶店で私にプロポーズした時のことだったりして?」


「・・・・・・」


意外にも嫁の直感は鋭い、


「私も驚いたよ、まさかあなたから指輪を出して来るなんてね~♪」


そう言って嫁はクスクスと笑う。


主人公の嫁さん・・・そう、彼女はレパルス。



喫茶店でのプロポーズ後、驚きつつも彼女は喜んで受け入れる。


彼女も主人公を好きだったようで、毎日仕事終わりに話に来たのは彼の事が好きだったから、


主人公もレパルスのおかげで給仕を続けられて、「彼女のおかげでオレは頑張れた」と言う気持ちがあり、


言葉に出せなかったがずっと片思いをしていたようだ。


レパルスは喫茶店でのプロポーズ後、


すぐに鎮守府に戻って”退役届”を提出、指揮官や姉たちも彼女の突然の行動に驚く。


当然主人公も驚いたが、むしろ彼女の大胆な行動により惹かれて行った。


現在、主人公は有名料理店の主任を務めている、


嫁のレパルスは主人公と同じ料理店のウエイトレスをやっていて、夫婦共同で働いている。


偶然に鎮守府で給仕をすることになった主人公と、鎮守府に既存していたレパルス。


そこで2人は運命の出会いを果たし、最後は結ばれたのであった。









「就職先が鎮守府の給仕だった」 終










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