「約束」
時雨がイベント海域の”レイテ湾”へ出撃することになり・・・
料亭”村雨”に珍しい客がやって来た。
「いらっしゃいませ・・・あら、時雨じゃない?」
村雨の姉妹艦の時雨がやって来た。
「久しぶり、元気そうだね。」
「まぁね♪ 今日はどうしたのかしら?」
時雨を席に案内して、水とお品書きを渡す。
「実は・・・」
時雨は村雨に説明した。
・・・・・・
「そう、またレイテに行くのね・・・」
レイテ湾のイベント海域が出現、時雨や金剛達を含む西村艦隊と栗田艦隊が再度出撃することになった。
「本当は扶桑達と一緒にまたレイテに行きたかったけど・・・」
※扶桑・山城・最上・満潮は、先のレイテ戦で沈んでいる。
「残念だけど、生き残りは僕だけ。 でも、他の皆と再編成したから後は出撃するだけかな。」
「・・・・・・」
「前と比べて僕たちは強くなったと思う、でもそれ以上に敵側も勢力を拡大しているのは確かだ。」
「・・・・・・」
「勝てるかどうかも分からない、でも僕は今回の任務はある意味チャンスだと思う。」
「? チャンス?」
「扶桑達が沈んで、僕だけが逃げ帰った・・・あの時はそれしか思っていなかったけど。」
時雨が心境を語った。
「僕だけ帰還して、周りからは「幸運艦」・「運が良かった」と言われ続けるばかり・・・」
「・・・・・・」
「そしてその言葉に苛立った僕は仲間の一人に暴力を与えて、鎮守府を転々とするようになった。」
「・・・・・・」
「最後に着任した場所が、村雨の提督の鎮守府だったね。」
「・・・・・・」
「提督が教えてくれたんだ、「逃げ帰ったんじゃない、次の戦うチャンスを与えられた」と思えばいいと。」
「・・・まぁ、提督が言いそうなことね。」
「それで扶桑達が喜ぶとでも思っているのか? 今のその暗い時雨を見て皆喜ぶのか?・・・って。」
「・・・・・・」
「それで僕は立ち直れた、改装も終わって皆と一緒に戦えて・・・僕は幸せな艦娘だと思う。」
「・・・・・・」
「そして、レイテ再出撃になった・・・これは扶桑達のために勝利を手にするチャンスだと思った。」
「・・・・・・」
「だから、今度は必ず・・・皆とそして、扶桑達のために勝ってみせるんだ!」
「そう。」
村雨は少し考え、
「時雨の決心は分かったけど、だからって「沈みに行く事」は絶対にやめてよ!」
「村雨・・・。」
「あくまで「生存」を優先にして! 「勝利」は二の次! わかった?」
「・・・・・・」
妹の気遣いに、
「分かった・・・そうだね、「生存」が一番大事な事だったね。」
村雨に言われて「生存」の言葉が妙に響いた。
・・・・・・
「邪魔したね、僕はもう帰るよ。」
時雨によると、出撃は翌日のようだ。
「ご馳走様、村雨の料理も前日に食べられて、僕は思い残すことはないよ。」
「何言ってるのよ、明日も明後日も食べに来ればいいじゃない。」
「そうだね・・・ははは、僕ったら何を言ってるんだろう?」
時雨は舌を出してごまかすが、村雨は何を考えていたのかお見通しだったが、
「頑張って、そして必ず戻って来て!」
引き留めることが出来ず、せめて「無事に帰って来て」と願った。
・・・・・・
「あ、提督。」
帰り道に提督に出会った。
「おや、久しぶりだな時雨。」
「うん、久しぶり。 どう? あれから鎮守府との折り合いが悪いようだけど?」
元提督と鎮守府は相変わらず犬猿の仲である、しかし一部の艦娘(特に駆逐艦)は元提督の事を慕っているため、
度々料亭に赴いては艦娘達から相談を受ける関係が続いている。
「まぁな、別にあそこまで警戒しなくてもいいんだけど。」
提督はため息をつき、
「僕は提督の事を信じているからさ、何か相談があったら何でも言ってよ。」
「うん、ありがとう・・・それで。」
提督は気になり、
「料亭に行った帰りか? 村雨に会いにでも行った?」
「うん、本当は提督にも伝えようと思っていたけど・・・」
時雨は提督に今の心境を語った。
「そうか、またレイテに行くことになったのか。」
「うん、でも安心して。 必ず勝利して皆で無事に帰ってくるから。」
「そうか、なら大丈夫だな。」
提督は返事をするが、時雨の言葉にはどこか自信なさげな僅かな態度を見逃さなかった。
「オレは何もできないが・・・せめてこれを渡そう。」
そう言って、提督がポケットから何かを出し、時雨に渡した。
「? 短刀?」
渡された物は、通常より短めの短刀。
「? 何か軽い?」
短刀であるが、一応剣の部類。 その割に重さはなかった。
「もし、窮地に立たされた時にこの短刀を使え。」
「・・・・・・」
短刀の使い道なんて、分かり切っている・・・それでも時雨は、
「ありがとう、大事にするね。」
と言って、短刀をポケットの中にしまった。
「じゃあ僕は帰るね、お疲れ様。」
そう言って、提督と時雨は別れた。
「・・・・・・」
短刀を渡された時の時雨は一瞬だが、「提督には少し失望したかな。」と思っていたが、
後に提督の優しさを知ることになるのはまだ先の事である。
・・・・・・
・・・
・
翌日、
時雨や金剛達を含む部隊がレイテへと出撃を開始した。
「絶対皆で勝利して・・・皆で帰ってくるんだ! 扶桑に山城、そして皆・・・僕たちを護って!」
形見とも言える髪飾りを強く握りしめ、時雨は進軍を開始した。
・・・・・・
「! 敵の前衛部隊を確認! これより戦闘を開始します!!」
旗艦が敵部隊を補足、各部隊が戦闘態勢を取る。
「全砲門・・・ファイヤー!!」
金剛・榛名たちも戦闘開始、重巡や駆逐艦の仲間もそれに続いた。
「僕たちは勝つんだ! 必ず勝利してそして・・・皆と一緒に帰るんだ!!」
時雨は叫んで、戦闘を始めた。
・・・・・・
・・・
・
序盤は何の問題はなかった、
厄介なのは空母位で、戦艦や重巡の皆が小破するなどの損傷を負ったけど、それでも勝利できた。
「これより、敵本隊を叩きます!! 私に続いてください!!」
ここまでは順調・・・後は、最深部に行って敵本隊を叩くだけ。 これで扶桑達の仇を取れる、そう思っていた・・・
・・・・・・
甘かったのかな?
僕や皆は更なる改装で強くなった・・・数々の戦闘に参加して勝利を収め、戦略を練って来た。
これなら絶対に今度こそ勝利できるだろう・・・そう思っていたのに・・・
敵本隊が現れ、僕たちは突撃したが、
流石は本隊・・・護衛部隊のほとんどが戦艦と空母の強化型、
味方の戦艦は中破、重巡・駆逐艦の皆は中・大破に追い込まれた。
それでも、金剛や榛名は奮戦して、本隊へ打撃を与えることに成功したが・・・
装甲は固く、耐久力も高い・・・中破状態の戦艦の火力では、撃破に及ばない。
撤退を考えたけど、この機を逃せばいつチャンスが訪れるかわからない・・・
大破した仲間を順に撤退させて、残りの小・中破の仲間が抵抗を続けていた。
「くそっ! もう少しなのに・・・」
敵本隊も金剛達の奮戦で、中破まで追い詰めもう少しで撃破出来るが、
「!? 敵本隊が援軍を呼んだようです!」
無線から知らされる敵援軍の情報、しかもほとんどが戦艦!
「後、数分で敵本隊と合流してしまいます! どうしますか? 撤退して戦力を整えるかそれとも・・・」
追い込まれる旗艦・・・戦闘継続・・・もしくは撤退。 その決断が出来ずに旗艦は悩む。
もし、本隊を撃破出来ずに合流されれば間違いなく轟沈者が出る、
逆に撤退すれば、こんなチャンスがいつ起きるかわからない・・・究極の選択だ。
「・・・・・・」
僕は敵の砲撃を受けてしまい、大破に追い込まれていた。
「・・・・・・」
状況から判断すると・・・撤退かな? だって僕もだけど戦艦のほとんどが大破・・・
敵本隊を撃破出来なければ、後数分で援軍と合流。 僕たちは完全に戦況不利となってしまう。
「・・・・・・」
時雨はポケットから何かを出した、それは・・・
「・・・提督。」
提督から貰った短刀、
「・・・・・・」
時雨は思った、仮に継続して敵が合流してしまっても自分は敵に沈められたくない・・・それだったらいっそ自分の手で。
「・・・覚悟は決めた方がいいよね?」
長い沈黙の末、旗艦が出した結論は「戦闘継続します! 後、数分の間に敵本隊の撃破を狙います!!」
その決断に、大破した戦艦たちも「やろう!」「そうこなくちゃ!」と士気が上がった。
「良かった・・・よし、僕だってまだ戦える!」
そう言うが、砲身は歪み魚雷も撃てない・・・火力は大幅に落ちている。
「せめてこれで・・・短刀で戦おう!」
そう言って、時雨は鞘を抜いた、すると・・・
「・・・・・・」
時雨は鞘を抜いて驚いた。
・・・・・・
「敵本隊! 大破! 後少しで撃破出来ます!!」
金剛と榛名の必死の砲撃で敵本隊は大破、しかし2人も大破・・・そして敵援軍合流まで1分を切っていた。
「止むを得ません、撤退しましょう! 戦力を立て直して・・・それからまた挑みましょう!!」
旗艦の撤退指示、抵抗していた皆が諦めて撤退を開始する中、
まだだ!! まだ僕は戦える!!
大破だった時雨が何故か修復した状態?で全速力で敵本隊に向けて突撃、
これが・・・これが僕と・・・扶桑・山城・・・そして、皆の分だぁ!!
持っていた多数の魚雷を敵本隊にぶつける。
沈めぇ!!!!
瀕死だった本隊に多数の魚雷が直に命中! その瞬間撃破を確認した。
「こちら旗艦! 敵本隊を見事・・・撃破しました!!」
その瞬間、撤退をしていた皆・鎮守府で待機していた提督達からの歓喜の声が上がった。
援軍の敵増援部隊は主が失った事で撤退を開始、間一髪の勝利を収めたのだった。
・・・・・・
・・・
・
数日後、時雨はまた村雨の料亭へと足を運んでいた。
「いらっしゃいませ、そして・・・おかえり、時雨。」
「ありがとう。」
時雨は席に座る。
「聞いたわよ、金剛さんたちが追い詰めた後、時雨が最後にとどめを刺したって。」
「うん、全ては皆のおかげ・・・そして。」
時雨はポケットから短刀を出し、
「提督のおかげさ。」
と、短刀をテーブルに置いた。
「・・・・・・」
「本当はもう駄目かと思っていたんだけど・・・」
時雨はあの時の事を思い返した。
・・・・・・
・・・
・
(敵との決戦の最中)
「・・・・・・」
砲身が歪んでる・・・これじゃあ砲撃も魚雷も撃てない・・・だったら!
時雨はポケットから短刀を取り出し、
「せめてこれで・・・短刀で戦おう!」
僕は鞘を抜いた。
「!?」
鞘を抜いて時雨は驚く、
鞘に刀が付けられていなかった・・・そこで軽い理由が分かったが、
「? 先端に何か入ってる?」
逆さにして、取り出すと・・・
「・・・何かの錠剤と、折りたたまれた・・・写真?」
僕は折りたたまれた写真を広げた・・・そこに映っていたのは、
僕・・・いや、僕と白露・・・そして白露型の皆が集まった時に撮影した記念写真だった・・・全員が滅多に揃う事がなかったから
その時に、皆で話し合って写真を撮ったんだっけ?
「・・・・・・」
皆笑顔でいた・・・”何があっても笑顔を絶やすな” ・・・撮った提督の口癖だったよね?
「・・・・・・」
写真の端には・・・”絶対に諦めるな!!” と提督の自筆が・・・
「何だよ・・・提督は。」
写真を見た時雨の瞳から涙が溢れて来る。
こんな演出してくれちゃってさ・・・こんなものを見せられたら僕は・・・沈むわけには行かないじゃないか!!!!
失いかけていた希望が時雨に戻った。
僕は皆と帰る!! 勝利して必ず皆と一緒に帰るんだ!!
そう言って、写真と一緒に入っていた錠剤を口に含んだ。
その瞬間、損傷していた傷と砲身が修復し、
「多分、ダメコン(応急修理女神)のコンパクトサイズかな・・・提督がやりそうなことだよ、
でも、そのおかげでチャンスが生まれた。」
時雨は全ての魚雷を担ぎ、全速力で敵本隊に詰め寄り、
「これで最後だぁ!!!!」
瀕死の本隊に直に命中、悲痛な叫びと共に本隊は海の底へと沈んだ・・・
・・・・・・
・・・
・
(ここから現代)
「提督はいる?」
「ごめんなさい、今明日の料理の買い出しに行ってるの。」
「そう・・・」
時雨は短刀を村雨に渡して、
「じゃあ提督に伝えて置いて・・・「ありがとう、提督のおかげで僕はまた助けられた。」って。」
「わかった、ちゃんと伝えておくわ。」
「うん、それじゃあ僕は帰るね。」
時雨は店から出て行った。
・・・・・・
「これとこれを買って・・・と。」
提督は明日の料理の買い物途中、
「この具材だと、明日のメニューはシチューかな・・・後は人参とじゃがいもと。」
提督は手際よく材料を籠に入れていく。
「・・・・・・」
陰で誰かが提督の姿を見つめる。
「よし、これで必要な材料は揃った、早いとこ帰るか。」
提督は清算して店へと戻る、
「・・・・・・」
見つめていた人間が口を開く。
時が来ましたよ・・・提督。
「約束」 終
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