2019-06-04 00:01:02 更新

概要

質素な生活をし続ける秋月たちに、提督が良かれと部屋の改装を行い・・・


防空駆逐艦”秋月”。


駆逐艦の中で対空性能がずば抜けて高く、演習に編成する提督達は多い事だろう。


何も知らずに演習に空母を投入して、秋月のおかげでボーキサイトが吹っ飛んだ経験のある提督も多くいる、


彼女には姉妹艦の照月・初月(今回は涼月は登場せず)がいて、妹たちも同じ対空性能が高い。


つまり、秋月型が演習に編成されていれば”ボーキの消費を気にしない提督以外は脅威となる存在”である。


そんな彼女たちには、意外な一面がある・・・



”超質素(貧乏)な生活をしている”のだ。



鎮守府に着任しているのだから、給料も支給され食堂と生活費は基本免除で、生活苦にはならないはずなのだが、


皆がカレーやステーキを食べている中で、秋月含む妹たちは決まって”おにぎりや沢庵”しか食べていない。


周りから見れば哀れむだろうが、当の秋月たちは全く気にもせずいつも明るく元気に振る舞う。


「最近食べた食事は何?」と聞けば、


「焼きおにぎりです、美味しすぎて気絶しそうでした!」と明るく返された時は、「何て切ない・・・」と


思う人間は多いはずである。


そんな秋月たちに、提督が特別なサプライズをしたのだが・・・


・・・・・・


「よし、これでいいかな。」


最後の作業を終えて提督は道具を片付ける。


「ありがとうございます、司令!! でも、ここまでしていただかなくても・・・」


秋月はたじたじ。


秋月から、”部屋の扉とトイレが故障した”との依頼を受け、修理に赴いてくれた提督。


しかし、秋月たちの部屋を見るなり、


「う~ん、秋月たちの部屋には家財道具が何もない・・・」



秋月たちは主に早出や遅番が主体である。


時間帯が不規則なため、秋月たちの部屋は特別に共同部屋(シェアハウスみたいな感じ)になっており、


各1人ずつの部屋と中心に台所、入り口の側にトイレがあり、それなりに快適な部屋層になっている。


今提督は中心の台所にいるのだが、


「秋月、ここは台所だよね?」


「はい、そうです!」


秋月は元気よく答える。


「・・・見る限り何も無いように見えるんだけど?」



周囲を見渡せば、他の艦娘たちの部屋に大抵は見かける電子レンジやポットすら置いておらず、


冷蔵庫は小さめのが置いてあるが、中身はほとんど入っていない(お茶とおにぎり程度)。



「相変わらずひもじい思いをしているのか秋月?」


提督の質問に、


「い、いえ! そう言うわけではありませんよ!」


秋月は元気よく答えてくれるが、はっきり言って元気なだけで説得力は無い。


「電子レンジすらないのか? 食事が冷めて、温めるために部屋に置く艦娘もいるのに。」


提督の言葉に、


「電子レンジ? それって何ですか? 冷たいのが温かくなるのですか?」


秋月は全く知らないようで、不思議そうに首を傾ける。


「・・・まずはそこからか、はぁ~。」


提督は思わずため息をつく。



秋月の部屋がとても貧相に感じたため、提督が依頼を兼ねて部屋内を改装したのだ。


「本当に・・・何てお礼を言えばいいか!」


扉とトイレの修理を頼んだつもりが、部屋内の改装までしてもらって申し訳なく思う秋月。


「いいんだよ、でもこれなら普段と違って快適に過ごせるはずだよ。」


「そうですね・・・司令! 本当にありがとうございました!!」


秋月は元気よくお礼の言葉を出す。


「何かあったら連絡して、修理でも追加でもやるからさ。」


そう言って、店に戻る提督。



これで、秋月たちは人並みに生活が出来るはず・・・提督はそう思っていた、のだが・・・


・・・・・・


「司令! 大変です!! トイレが・・・トイレが!!」


突然の秋月からの呼び出し・・・何度も「トイレ」と叫ぶので、


「もう故障したのか? 秋月たちも使い方が雑だなぁ~。」


と提督は最初思っていたのだが、


「・・・・・・」


トイレに入って確認するなり、


「? 別に故障していないんだけど。」


秋月からの依頼で、故障したトイレを部屋と一緒に改装、最初は和式の便座だったのを洋式に変えたのだが、


「秋月、どう言う事だ? 別に故障していないけど?」


扉の前で何故か怯える秋月に話しかけると、


「トイレが・・・いえ、トイレの蓋が!」


秋月は一言、


「勝手に開いたんです!!!!」


「はい?」


提督は拍子抜ける。


「ですから・・・トイレの蓋が、勝手に開いたんです!!!!」


「・・・・・・」



最近のトイレはセンサーが付いている、人がセンサー内に入れば自動的に開く仕組みで、ほとんどの鎮守府は


このセンサー式のトイレが普及しているはずなのだが、


「このトイレは・・・幽霊でも取り憑いているのですか?」


余程怖かったのか、秋月は泣き出す。


「秋月、怖かったですけど、それでも勇気を出して便座に座ってしまいましたけど・・・私、呪われていませんよね?」


本気で怖がる秋月を見た提督は、


「・・・・・・」


呆れて何も言葉が出ない提督、それ以上に、


「オレ、何かとんでもない事をしてしまった気がする?」


そう思いつつ、秋月にトイレは自動式と詳細に説明する、


「秋月の勘違いですか!? も、申し訳ありません!! ああっ、恥ずかしさのあまり顔から火が出そうです!!」


あまりの失態に本当に火が出る勢いに顔を赤くしていた秋月。


「いや、事前に説明をしなかったオレにも問題がある、許してくれ。」


普及しているとはいえ、責任を感じた提督は素直に謝罪する。


これでトイレの問題は事が済み、提督は安心して店に戻って行く。



当然ながら、トイレの問題はまだ”始まり”であることを提督は知らない。


・・・・・・


「また呼び出し・・・今度は何かな?」


再び秋月からの呼び出しで、


「この前のトイレみたいに、幽霊がいるの? みたいな悩みは止めて欲しいなぁ~。」


そう思いつつ、秋月の部屋へと向かう。



「あっ、司令! 夜分恐れ入ります!!」


時間は夕方、部屋には秋月と照月の2人がいて、


「台所の水道の蛇口を壊してしまって・・・」


どうやら今回は修理の依頼のようだ、


「そうか、じゃあすぐに直そうか。」


提督はほっとすると、道具を用意して台所へ向かう。



「う~ん・・・」


「壊れた」と聞いて、見て見ると確かに壊れている・・・しかし、


「秋月、一体どうやってこのレバーを壊したんだ?」



秋月は”水道の蛇口”と言っていたが、実際はレバーで上に引けば水が出て、逆にレバーを下げると水が止まる仕組みで、


家庭やほとんどの鎮守府でも投入されている一般的な水道レバーである。



その水道レバーを見ると、上げた状態でもなければ下げた状態でもない。


何て言うか・・・レバーが”左右にねじれて(歪んで)いた状態だった。


「はいっ! いつもの水道の蛇口を同じ使い方だと思って。」


秋月が説明する。


「それがいくら左に回しても水が出て来なくて・・・それで照月と一緒に力いっぱい回した所、


 ぐにゃっと曲げてしまって・・・」


秋月は申し訳なさそうに謝り、


「これはまずいと思って、今度は右に回したのですが、もっと歪みが酷くなって・・・ご、ごめんなさい!!」


秋月は深く頭を下げ、同時に照月も一緒に謝る。


「・・・・・・」


提督は驚いたと言うか、呆れて物が言えなかったようで、


「初めて見たよ、レバーを左右に捻って歪めた人間を・・・」


思わず、ぼそっと口に出す提督。


結局、トイレの時と同じ様に秋月と照月に説明していき、その後レバーを修復する。


「レバーを上げれば水が出たのですか!? それは初めて知りました!!」


秋月と照月は、目からうろこが出たように驚き、


「ありがとうございます!! 次からは大丈夫です、本当にご迷惑をお掛け致しました!!」


秋月は深く頭を下げ、提督は2人に「おやすみ」と言って店へと戻って行く。


・・・・・・


それ以降は、秋月からの呼び出しは無くなり、やっと落ち着いたかに思えた。


「どうだ、部屋の生活に慣れたかな?」


店から連絡を入れて秋月たちのその後の経緯を聞く提督。


「はいっ! 最初は慣れませんでしたが、今では妹たちと一緒に協力しながら徐々に生活に慣れて行きました!!」


「そうかそうか、それは良かった。」


「これで大丈夫だな。」と思った提督。


「司令が置いてくれた大きな冷蔵庫、最近になって冷凍食品を入れるようになりました!」


「ほぅ、それはそれは。」



おにぎり以外の食べ物を食べていることに安心する提督・・・しかし、秋月からあらぬ発言が、


「朝になったら冷凍庫から出して解凍した後、妹たちと一緒に食べるんです!


 皆で”バリボリ”と音を立てながら食べていますよ!!」


「? バリボリ?」



秋月の口から放たれた”バリボリ”と言う言葉・・・一体どう意味なのだろうか?


「あっ、すいません! これから夜勤に行きますので、それでは失礼します!!」


「あ、ああ。 夜分悪かったね、それじゃあお休み。」


お互い挨拶をして電話を切る。


・・・・・・


「何か嫌な予感がするな・・・」


昨夜聞いた”バリボリ”と言う言葉・・・気になって、早朝に秋月の部屋に向かう。


「あっ、司令! おはようございます!!」


夜勤明けでこれから就寝する所の秋月に会う。


「あっ、そうか。 夜勤明けだったね・・・今から寝るならオレは出直すよ。」


秋月に謝り帰ろうとするも、


「いえ、構いません! それに今から朝食ですので、寝るのはそれからですね。」


秋月は笑顔で答えて、


「司令も食べて行きませんか、まだ朝食食べていませんよね?」


「うん。 じゃあお言葉に甘えて・・・」


秋月に誘われ、せっかくだからとご馳走になる提督。


「ちょうど今日食べる予定だった冷凍食品が解凍出来ていますよ♪」


秋月の示す方向には、机におにぎりと未開封の冷凍食品が置いてあり、


「今日の食品は餃子です! それでは開けます!」


秋月は封を開けて皿に盛って行く。


「それでは・・・今日の朝食を、頂きます!!」


秋月は掌を合わせると、箸を持って餃子を掴み取る。


「ちょっと待った秋月!」


直前で止める提督。


「??? どうしました司令?」


秋月は餃子を掴みながら不思議そうな顔をする。


「その餃子、まだカチカチじゃないか?」



確かに解凍はしているが、決して柔らかいわけでは無く、中心はまだ氷の様に堅い。


「はいっ、でも大丈夫ですよ! 外側が柔らかいのでそのまま口に入れて・・・ガリッ!」


何と秋月は解凍したての餃子を食べ始めた。


「バリッ! ボリッ! ガリガリ・・・う~ん、この餃子! とても美味しいです!!」


秋月は歓喜の声を出す。


「・・・・・・」



昨夜秋月が言った”バリボリ”と言う言葉・・・完全に解凍していない食品をそのまま食べた時に発する音だった。


「し、司令。 どうしたんですか、そんな堅い表情をして?」


睨んでいるようにも見える提督の表情に、秋月は怖がる。


「因みに、冷凍食品はいつから食べてるんだ?」


「いつから? 1週間前から食べていますよ?」


「その間、電子レンジは使っていない?」


「電子レンジ? はいっ、一度も使っていません。」


「本当に?」


「はいっ、使い方が分からないのでそのまま電源を落としていますよ?」


秋月の言葉に、


「はぁ~・・・」


提督は頭を抱えて、深いため息をつく。



その後、秋月に電子レンジの使い方を教えて、本人に冷凍食品を直接温めて貰う。


「わぁ~、餃子と焼売が温かくて、とても美味しそうです!」


電子レンジから出された冷凍食品を見て感動する秋月。


「それでは、頂きます! ほくほく・・・はむはむ・・・お、美味しい~!!!!」


秋月の声が部屋内に響き渡る。


「凄いです、これが電子レンジなんですね!? 確かに今まで冷たかったから妹たちで「温かい物食べられないかな~?」


 って思っていた所なんですよ!!」


「そうか、使い方を分かってくれて本当に良かったよ・・・はぁ~。」


提督はまた深いため息をつく。


・・・・・・


それ以降も、


「し、司令!! テレビの電源が入りません!!」


と言われ、駆け付けて見るも・・・


「秋月、それはテレビのリモコンじゃない・・・電話の子機だ!」


「(恥)あっ、す、すいません。」


赤面しながら何度も謝る秋月。


・・・


「司令! 大変です、エアコンが壊れて熱い風しか出て来ません!!」


と言われ、「嫌な予感がする」と思って駆け付けて見れば、


「し、司令! 助けて下さい! 秋月に照月たちも・・・もう暑くて、倒れそうです!!」


目の前に汗まみれの秋月たち、そして部屋内は確かに熱風で気温が高いが、


「秋月・・・夏なのに”暖房”に設定しているけど?」


「ほえっ? ・・・ああっ、す、すいません(大恥)」

 

すぐに”冷房””に切換・・・その後、暑さは即解消された。


・・・・・・


そして、またも事件到来、


「姉さん、部屋の明かりが付かないんだけど?(初月)」


「・・・本当ですね、何故でしょう?」


確かに2人がいくらスイッチを入れても、部屋の明かりは反応しない。


「・・・もしもし司令、夜分お疲れ様です! また問題が発生してしまって・・・」


秋月は申し訳なさそうに、提督にお願いをする。



「確かに、付かないな。」


提督が駆け付け、いくらスイッチを入れても明りは付かない。


「故障ですかね~司令?」


「・・・・・・」



よく見ると、部屋の明かりだけでなく周りの家電も全く動いておらず、


「・・・もしかしてだけど。」


何を思ったのか、提督はその場から離れる。



「・・・やっぱり。」


提督は納得する、


「し、司令! 原因が分かったのですか!」


秋月も同伴して、


「ああ、その前に質問だが。」


提督は秋月に向かって一言、


「ブレーカーの電源を切ったのは一体誰だ?」



提督が確認したもの、それは部屋内の電気を供給するブレーカー・・・それが全て”オフ”になっていたのだ。


「・・・確か今日、初月がこの辺りの掃除をしていました!」


そう言って、初月に問いただすと、


「ああ・・・うん、僕がその辺りを掃除していたよ。」


「その時ブレーカーを切りませんでしたか?」


「・・・あの”入・切”のスイッチの事? あれなら全部”切”にしたよ。 何が”入・切”かよく分からなくてさ。」


「・・・こらこら。」


それを聞いて提督は呆れる。



ブレーカーを入れたら、部屋の明かりは普段通りに点灯する。


しかし、全部のブレーカーを切ってしまったのだから、当然ながら冷蔵庫の電源も落としてしまい(約6時間)、


中の冷蔵・冷凍食は全て廃棄する事態に(姉さんごめんなさい!(初月))・・・



秋月たちのために部屋の改装をした提督、


しかし、逆に秋月たちの生活に支障をきたしてしまったと後悔し、悩んだ末に、


「秋月、せっかく部屋を改装したけど・・・」


「はい。」


「部屋を元に戻すね?」


「・・・はい、お願いします。」


秋月は申し訳ながらも、提督の案に応じる。



結局、改装したにも関わらず、僅かな期間で元の状態に戻ってしまった秋月たちの部屋。


「本当に悪い事をしたね秋月。」


「いえいえ、こちらこそ司令の御好意には感謝しています!」


「秋月にはやはり、今の(貧相な)生活が身に染まっているんだ。 横から手を出す必要は無いって事がよく分かった。」



生活基準を上げれば秋月たちは快適に過ごせると思っていたが、


慣れない環境で問題が次々に発生し、秋月たちを困らせる事態になった事を深く反省する提督。


「じゃあこれで、何かあったら呼んでくれ・・・力になるから。」


「は、はい! ありがとうございます!」


そう言って、提督は秋月の部屋から出て行く。



「また元の生活に戻っちゃったね、秋月姉。」


改装前と同じ、古ぼけた机に座っておにぎりと沢庵を食べる秋月たち。


「確かに・・・でも、今の生活の方がずっと落ち着きますね!」


改装後は慣れない電化機器の扱いに悪戦苦闘の毎日で、結局使いこなせなかった秋月たち。


「でも、僕としてはあの生活も悪くなかったと思うよ。」


初月はおにぎりを頬張りながら、思いのたけを漏らす。


「そうですね・・・まぁ、一時の夢の生活をしたと思えばいいでしょう?」


秋月の意見に妹たちは「そうだね」と、首を振る。


・・・・・・


その後も、秋月たちは相変わらず質素な生活を送っている。


しかし、困惑している訳ではないようで、秋月たちに笑顔が絶えない。


しかし、周りから見れば”不憫”と思う艦娘たちが多く、秋月たちに差し入れを出す人間が昔より増える事態に。


その影響からか、秋月たちの生活基準(特に食事)が一時的に上がり、


特に妹の照月と初月は大層喜んだとの報せを仲間から聞く事が出来た。










「秋月の部屋の改装をしてあげた結果・・・」 終











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2019-06-19 17:45:55

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2019-05-27 23:14:28

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このSSへのコメント

1件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2021-10-07 02:29:18 ID: S:ylvChG

よかれと思ったら大惨事か....本当にあるんだよなぁ


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