「白露が泊まりにやって来た」
妹たちが旅行に行っている間、白露が村雨の店にやって来て・・・
「提督ぅ~、短期間だけどお世話になるね♪」
提督の店に白露が泊まりにやって来た。
「別に構わないが、どうして白露が泊まりに?」
「えへへ~、話せば長くなるんだけど・・・」
白露は事情を説明した。
・・・・・・
・・・
・
少し過去に遡った数日前、
「どうしよう・・・」
時雨が何故か困った顔をしていた。
「どうしたの~、時雨?」
外出から帰って来た白露が尋ねると、
「明日白露型の皆で泊まりの旅行の計画立てていたじゃん?」
「うん♪ 早く明日にならないかなぁ~。 村雨も海風たちも全員揃ってすごく楽しみだね~♪」
楽しみにしている白露をよそに、
「それがさぁ、ちょっと手違いがあって。」
「? 手違い?」
白露は首を傾げる。
時雨が言うには、10人で予約したはずが旅館側が誤って9人で取ってしまったらしい。 時雨が今日確認の連絡を入れて
発覚したようだが、既に手遅れで追加も出来ないのだと言う。
「・・・・・・」
「別の旅館も探したんだけど全部満室で予約が取れなくて・・・」
時雨は「だからと言って今更キャンセルなんて出来ないし」とため息をつく・・・そんな中、
「あたしが残っていいよ、だから皆で行って来なよ。」
白露の言葉に時雨は驚く、
「そんな、僕が残るよ。白露が一番楽しみにしていたじゃないか。」
時雨は説得するが、
「あたしは皆のお姉ちゃんだから! あたしが残るのは当然の事、だから妹たちで楽しんできて、ね?」
「・・・・・・」
白露の言葉に心が折れて、
「分かった、じゃあ白露。 僕たちで行くね・・・」
「うん、その代わりいっちばーんいいお土産買ってきてね♪」
お土産を買う約束をして翌日・・・白露を除く皆で旅行に行ったのだ。
・・・・・・
・・・
・
「なるほど、如何にもお姉さんらしい判断だな。」
「たまにはいい事するなぁ」と関心した提督。
「・・・でも、どうしてここに来たんだ?」
妹たちを旅行に行かせたことは納得した、だが白露は何故わざわざこの店に泊まりに来たのか・・・
「いやぁ~、よくよく考えたら今日から連休に入るから、間宮さんも酒保も休みだったの。
しかも、鎮守府の皆もどこかへ行く予定であたししかいなくて・・・それでこの店に来ちゃった♪」
白露は「てへっ♪」っと舌を出した。
「・・・・・・」
「つまりこの店に食事目当てで来たわけね。」と確信した提督。
「まぁ、別に構わないけど。」
提督は白露を歓迎した。
「じゃあそう言う事だから、短期間だけど白露とよろしくね♪」
短期間だが、白露との生活が始まった。
・・・・・・
「提督ぅ~、何してんの?」
店の裏で作業をしている提督に白露がやって来た。
「昼食と夕食の準備をしている。」
「え~、まだ朝だよ~?」
「ははは・・・料理と言うものは何も直前で作るわけじゃないんだよ。」
提督は苦笑いをする。
「事前に調理して、客からの注文が来たら短時間で提供できるようにあらかじめ出来た料理を準備しておくんだ。」
「へぇ~、何か本格的~。」
白露は提督の調理している料理を見て、口から涎が出掛かる。
「こらこら、まだ出すわけじゃないからそんな期待の目をしても困るんだが・・・」
「えへへ~、聞いてたら急にお腹が空いちゃって♪」
「昼まで我慢しろ、部屋にテレビがあるからそれまで時間を潰したら?」
「は~い、じゃあ遠慮なく部屋借りるね~。」
白露は指示された部屋の中へと入って行った。
・・・・・・
昼になり、
「白露、昼食用意できたぞ~。」
提督の言葉に白露が部屋から出て来る。
「は~い、もうお腹ペコペコだよぉ~。」
すぐ席に着いて待つ白露。
「ほら、今日はから揚げ定食にしてみた。」
白露の前にどっしりとから揚げ定食が置かれ、
「わぁ~! 凄く美味しそう! 提督やるじゃん♪」
白露は大喜びだ。
「それでは、いただきます。」
「いただきま~す♪」
挨拶を終え食べるかと思ったら、
「? どうした白露?」
何故か白露が・・・食べない?
「・・・唐揚げ嫌いだった?」
「全然! 大好物だよ!!」
「・・・じゃあ何故食べない?」
「提督こそ、何で食べないの?」
白露の言葉に、
「いや、「いっちばーん」のお前の事だから、先に食べるだろうと思って。」
提督は「一番」好きの白露を気遣った様子、しかし当の本人は、
「別に・・・いつも「一番」にこだわっているわけじゃないんだけど!!」
意外な言葉が出た。
「え、そうなの?」
提督は驚く、
「うん、食事なんか妹たちが食べるのを見た後に食べるよ? あたしはお姉ちゃんなんだから。」
「・・・・・・」
「意外だ・・・流石長女、妹たちを気遣ってるな。」と思ったら、
「それで「一番最後」にあたしが食べるの♪」
「・・・・・・」
「結局一番かよ!」と思った提督だった。
・・・・・・
「ねぇ提督、昼から何かやることある~?」
白露が暇そうに提督に尋ねた、
「いや・・・夕食の準備はしたし、後は調味料を少し足すだけで出来るから、それ以外の用事はないけど?」
「じゃあさ、白露とどこかに行こうよ♪」
「? どこかに?」
「うん、家にいても暇じゃん! せっかくの休日だし、あたしもどこか行きたいなぁ~♪」
白露は期待の眼差しで提督を見つめる。
「・・・・・・」
「断ったら、後々うるさいな。」と思いつつ、
「どこへ行きたい? 場所さえ言えば連れて行ってやるけど?」
「本当? じゃあさ・・・」
白露は店に置いてあったパンフレットを見て、
「白露はねぇ~、水族館に行きたいなぁ~♪」
「水族館か・・・少し待ってくれ。」
提督は最寄りの水族館を検索、
「うん、少し掛かるが水族館があるな・・・じゃあすぐに出かける用意をして行こうか。」
「わ~い♪」
白露は簡単な荷物を持って外に出た。
・・・・・・
「ねぇ提督、この生き物な~に?」
水槽に漂う海月を見て不思議そうに見つめる白露。
「見たことないのか? 海月って言う透明な生き物だ。」
「これで生きてるんだ!? 海の生き物って不思議で凄いんだね!」
そう言って、他の水槽に近づいては眺めての繰り返し、
「皆と旅行に行けないのは残念だけど、ある意味「一番」皆より楽しめてるかもね、あたし♪」
白露は「うひひっ♪」と笑いながら、
「あたしラッキー♪」
と、上機嫌の白露である。
・・・・・・
「ねぇ、提督ぅ~! 次はさぁ。」
水族館で終わると思いきや、まだどこかへ行きたいようで・・・
「今度はさぁ、動物園へ行きたい! 動物園に!!」
「動物園か・・・少し歩けばあったはずだな。」
「本当? じゃあ今すぐ行こうよ!」
白露に腕を引っ張られながら、ついて行った提督、
・・・・・・
「あの鳥可愛い~♪」
白露が孔雀を見ながら叫ぶ、
「しかも、羽が綺麗だし・・・あたしもあれくらい美人にならないかなぁ~♪」
「・・・・・・」
「多分無理。」と思う提督。
「じゃあ次行って見よう!」
白露はその場から離れた、
「うわぁ~! でっかい鳥!」
白露と比べ遥かに大きいサイズの鳥を見て驚く白露、
「ダチョウだな、鳥の中で世界最大の鳥だよ。」
「そうなんだ、飛んだら豪快だねぇ!」
「いや、この鳥は飛ばないよ・・・代わりに走るんだ。」
「飛ばない!? それって鳥なの? 掴まってすぐ唐揚げにされるんじゃない?」
「・・・・・・」
「お前にとって鳥は唐揚げの事しか頭にないのか?」と思った提督。
「絶対脱走しちゃだめだよ鳥君、逃げたら唐揚げにされちゃうからね!」
ダチョウに向かって真剣に話した後、次の動物を見に向かう白露。
・・・・・・
「うわぁ~、あの動物何か偉そう。」
岩場にまるでお偉いさんの様に座っている動物を見て、
「何て図々しい! 親の顔が見て見たいよ!」
「・・・・・・」
「お前が言うな、お前が!」と思った提督。
それからしばらく動物園を堪能し・・・
「もう夕方になっちゃった、そろそろ帰ろうよ提督。」
白露はとても満足したようだ。
「・・・今から帰れば夕食時間になる頃だな、じゃあ帰るか?」
「うん!」
提督と白露は店へと戻った。
・・・・・・
店に戻り、提督は夕食の準備やら風呂の準備を始める、白露はと言うと・・・
「あはは~♪ 何このネタおかしい~ww」
部屋で1人テレビを見てくつろいでいた。
「夕食出来たぞ~。」
提督の声がして、白露は部屋から出て行く。
「今夜はハンバーグにしてみた。」
「うわぁ~、美味しそう♪」
白露に目が輝いていた。
・・・・・・
「ご馳走様ぁ~、提督って料理上手いね♪」
「はは、このくらい出来ないと客に提供できないからな。」
「そうだね! それは言えてるw」
白露は胡坐をかいて提督と会話をしていた。
「風呂湧いたけど・・・入るか?」
「もちろん! いっちばーんに入浴しようっと!」
そう言って、浴室に入る白露だが・・・
「提督ぅ、タオルが1枚しかないんだけど?」
どこを探しても1枚しか見当たらなく白露は尋ねたが、
「ああ、1枚は洗濯しているからそれしかないよ。」
「・・・・・・」
白露は首を傾げる。
「ちょっと待って! じゃあタオルは2枚しかないの?」
タオル2枚・・・2人で使うとしたら、1日ごとに洗濯してるってこと?
「オレと村雨で「1日1枚」使用してるんだが?」
「え、どゆこと?」
提督の言葉に一瞬意味が分からなかった白露、
「だから、オレと村雨の2人で一緒に入浴して、1枚のタオルで2人の体を拭くんだけど。」
「・・・・・・」
それを聞いて、一瞬白露は頭の中で2人が一緒に入浴する想像をして顔を赤くした。
・・・・・・
入浴後、白露が部屋に戻ると提督が布団を敷いていて、
「この布団でいい?」
少し申し訳なさそうに尋ねる提督だが、それに対して真っ先に布団に飛び込む白露。
「いいよ! あたしは寝られれば何でもいいからね!」
そう言って、白露は布団に入り込むが、
「それは良かった・・・その布団しかないからな。」
「・・・・・・」
また白露は訳が分からず、
「え~っと・・・つまり?」
思わず尋ねる白露に、
「だから、その布団にオレと村雨が一緒に入って就寝してるんだ。」
「・・・・・・」
「提督と村雨ってどんだけ側にいるのよ!?」と思った白露。
「あ、じゃあ提督は今日どこで寝るの?」
この布団しか無いってことは、当然提督が入る布団が無いことになるが・・・
「カウンターで腰掛けて寝るよ、別にそれでも寝られるから。」
「・・・・・・」
それは流石に申し訳ないと思ったのか、
「と、特別にあたしと寝ても・・・いいよ?」
白露は一緒に寝る提案をしたが・・・
「それは駄目でしょ? オレの事は気にせず白露はその布団で寝なさい。」
そう言って、提督は部屋から出る。
「むむ、あたしちょっと図々しかったかな?」
少し反省しつつ、遠慮なく床に着いた白露だった。
・・・・・・
翌日、
「ねぇ提督ぅ~! 今日もどこかへ連れて行ってよ~!」
白露は遠慮もせずに提督に要求した。
「はぁ~、分かった。 それで・・・どこへ行きたいんだ?」
「そうだねぇ~・・・じゃあさ、遊園地に行きたい!」
提督が行く先を検索している間に、白露は勝手に行く準備をしていた。
「提督ぅ~! あのジェットコースターに乗りたいなぁ~♪」
白露がお願いすると、提督がチケットを購入して白露に渡した、
「ありがと~♪ 提督は優しいね♪」
白露は喜びながら、列に並ぶ。
・・・・・・
「ああ~! あのジェットコースター凄かったよ! 提督も乗ればよかったのに~!」
「オレは下で眺めていれば十分だ。」
「ふ~ん、提督って高いところ苦手?」
「いや、そう言うわけではないが・・・」
「!? 提督! 今度はあれに乗りたいなぁ~♪」
白露が期待の目で見つめ、
「・・・ほら、チケット。」
提督は察して、チケットを渡す。
「お~、提督気が利くじゃん! じゃあ行って来ま~す♪」
そう言って、1人勝手に楽しむ白露。
・・・・・・
「あ~楽しかったぁ!! 提督ありがとね♪」
白露は満足したようで、
「・・・もう昼過ぎか、 店に戻ってゆっくりしよう。」
「うん、そうだね! じゃあ帰ろう~♪」
2人は店へと戻る。
「ほら、今日の夕食はとんかつ定食だ。」
「うわぁ~、美味しそう! いっその事ここで住んじゃおうかなぁ~♪」
そう言いつつ、大きめのカツを口いっぱいに頬張る白露。
「お~いしい! これ本格的! 言う事なし!!」
「そうかそうか。」
緑茶をすすりながら白露と会話をする提督。
・・・・・・
その後は昨日と同じ、
タオルを借りて一番先に入浴し、1枚しかない布団を借りて就寝した白露。
・・・・・・
翌朝、
「今日皆が帰ってくるはずだから、帰る準備をしないと・・・」
白露は早く目覚めて、荷物をまとめていた。
「提督、おっはよう~!」
既に裏で今日の仕込みをしていた提督に挨拶した。
「おはよう・・・鎮守府に帰るのか?」
白露が荷物を担いでいて提督は察する。
「うん! 提督、2日間ありがとね~! あたし鎮守府に戻るから♪」
そう言って、店から出ようとした直後、
「おい白露、 忘れ物だ。」
提督が白露にあるメモを渡した。
「? 何これ?」
白露が眺めていると、
「何って、2泊3日の宿泊代金だけど?」
提督の言葉に白露は驚く、
「あ、あ、あたしからお金取るの!? しかも何この金額!? 2万5千円って高過ぎじゃない!!?」
金額にびっくりする白露に、
「1週間以内に払ってくれ・・・金額に不満があるなら村雨に交渉すれば?」
「むむむ・・・」
白露はムスッとして、メモを握ったまま店から出て行った。
・・・・・・
鎮守府に戻り、少し時間を潰していた所で、時雨たちが帰って来た。
「おかえり皆ぁ~♪」
白露が皆を出迎える。
「ただいま白露、留守番させて悪かったね。」
「いいよ、さぁさぁ♪ お土産は~?」
白露は出す前に手を差し出す。
「うん、「一番人気の名物饅頭」を買って来たよ。」
「やったぁ~♪ 一番に食べるね、うひひっ♪」
白露は上機嫌である。
・・・・・・
「それじゃあ私は提督が待ってるから。」
時雨たちに別れの挨拶をして村雨は店に戻ろうとしたが、
「村雨~! 聞いてよ! 提督がさぁ~!」
白露がメモを持って前に立つ。
「? どうしたの白露?」
村雨は首を傾げる、
「提督から請求されたんだけど、その額が高過ぎなんだよ!!」
白露は躊躇なく相談するが、
「? 請求って何? 提督の店で何かしたの?」
「・・・・・・」
白露はそこで「しまった。」と気づく、
「ねぇ、どう言う事? ・・・2万5千円って何この金額? 店の物でも壊したの?」
「あっ、いやぁ~・・・そのぉ~・・・てへへ。」
白露がとぼけるが、
「もしかして・・・私に何も言わず(許可も無しに)提督の店に泊まりに行っていたってことは無いよね?」
「・・・・・・」
泊まった事がバレてしまい、当然ながら村雨は激怒する。
「姉として妹の旦那様と一緒に泊まるってどうなの?」
「・・・・・・」
「タオルとかは自分で持参したの? ・・・店の物を使ったって、図々しいにも程があるんじゃない?」
「ううっ・・・」
「しかも、提督に遊園地や動物園に連れて行ってもらって、入場料やチケットの代金を提督に出してもらった!?
あなた何様なの! 白露には心の底から失望したわ!!」
「ご、ごめん。」
「ふ~ん、白露ってそう言う人間なんだ・・・図々しくて我が物顔で、自己主張で偉そうに振る舞って・・・」
「・・・・・・」
白露は何も答えられない・・・それでも村雨の怒声は続き、
「それらを含めて2万5千円? 安すぎるわ! 反省も含めて倍額払いなさい!!」
そう言って、メモに書いてあった金額を修正した。
「ご、5万円!? 村雨、ちょっと待ってよ! 本当に悪かったって・・・」
「1週間以内に払いに来てくださいね、白露お姉・さ・ん♪」
「・・・・・・」
「払わなかったらもう一生口を聞かないからね!」
そう言って、村雨はその場から去った。
・・・・・・
・・・
・
「ううっ・・・」
店の前で請求額を持ったまま立ちすくむ白露、
「今月のお小遣いと貯金分全て・・・はぁ~。」
白露は店へと入って行く。
「あら白露。 ちゃんと請求した額は持ってきたの?」
「・・・はい、これだよ。」
白露は持っていた封筒を渡す。
「・・・確かに、5万円受け取りました。」
「・・・・・・」
「またのご来店をお待ちしております♪」
「・・・はぁ~。」
白露は深いため息をついて店から出て行く。
結局、皆より「一番」に楽しんだ代償として、「一番」出費が掛かってしまった白露だった。
「白露が泊まりにやって来た」 終
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