「村雨の葛藤」
やっとの思いで「改二」になった村雨だが・・・どこか様子がおかしい?
注:村雨が2人出てくるため、村雨改二の方を 2「 」 と書きます。
はいは~い、私は村雨。 皆よろしくね~♪
私は白露型駆逐艦の村雨、駆逐艦としては珍しく大人の女性を思わせるような一面を持つ・・・って皆言うかな。
私の事を応援してくれるファンもそれなりにいて、その度に練度も上がり最近になって練度70になりました~♪
そして・・・そして! 待ちに待った「更なる改装」が私にも舞い降りましたぁ~!!
服装も変わって、髪のボリュームも増えていかにもお・と・なって感じの印象を受ける姿になりました~、
村雨はこれからも頑張って活躍しちゃうんだからぁ!!
活躍して・・・活躍して、提督に振り向いてもらいたい! もうただの汎用駆逐艦で終わりたくない!
・・・ずっとその気持ちでいたのに、
・・・・・・
「村雨、無事帰還しましたぁ~!」
出撃任務を終え、負傷した仲間が入渠場へ行き、
「提督に戦果の報告をしてきますね!」
旗艦だった私は執務室に向かった。
「ご苦労、下がってよい。」
いつもと同じ台詞で何か不愛想・・・それでも、出撃できるだけマシ・・・なのかな?
「そうだ、一応伝えておこう。 村雨の今後の処遇だが・・・」
提督の口から発せられた言葉、
「村雨は旗艦から外す、違う駆逐艦を配置に着かせるからお前は用無しね。」
「・・・・・・」
一瞬何を言われたのかがよく分からなかった。
練度70で更なる改装・・・更に強くなってステータスは上がったけど、
「私以外に他の皆はとっくに改装済みだし、今更って感じよね・・・」
そう、私の更なる改装はこの鎮守府の提督に取って「遅すぎた」のである。
ステータスは上昇したものの、秋月さんのように対空特化でもない、夕立みたいに火力最強でもない。
「全体的にステータスが上昇した程度」にしか判断されていなかった。
あくまで私は図鑑のコンプリート用に改装されたと知ったのは、それから数日後の事だった。
「・・・・・・」
最近何をやるにしてもやる気が起きない、
「私の人生って何だったの?」
皆が改装で人気になる中、私は置いてきぼりで活躍の場が少なく編成にも入れず、良くて遠征や雑用を命じられるだけ・・・
それでも、提督に願い出てファンも徐々に増え人気を獲得し、駆逐艦人気艦娘にも私の名前が検索すれば
出るまでにもなった。
そして・・・今回の更なる改装、もっと頑張って提督に振り向いてもらおう・・・今日までずっと思っていたのに・・・
・・・・・・
私は相変わらず部屋に籠ったまま。
お呼びが掛かるわけでもない、
同じ姉妹艦からも出撃に誘われるわけでもない、
いつの間にか私の人生は「終わった」ような感じに思えた。
このままずっと部屋で誰の期待にもされず一生過ごすことになるのかな・・・
・・・・・・
「部屋に籠っていて食費だけ掛かるな、あの役立たずは!」
執務室を通りかかると聞こえる提督の愚痴・・・多分私の事かな?
「出撃させてくれないから。」と言う正論を上官に言う事も出来ずに結局私が「命令無視して引き籠っている」と
周りに解釈されているみたい。
最近の私は何をしたかな?
食堂と部屋と入浴場しか行き来しているだけ・・・
「・・・・・・」
そう、私は・・・役立たず。
改装したのにこの状態じゃあ・・・ただの資源喰らいよね。
「・・・・・・」
部屋から出るのが怖い。
仲間に会うのが怖い。
私の事を邪険に扱われそうで話したくない。
姉妹艦にもこんな状態で顔なんか会わせられない!
絶対皆私の事を「役立たず」 「無駄改装」としか思っていない。
どんどん悪い方向に考えて行って遂に・・・部屋から一切出られなくなった。
心配した仲間の報告で初めて部屋から出た位・・・
当然執務室に呼ばれ、
「お前は解雇!」
その一言で私がこの鎮守府にいる理由がなくなった。
・・・・・・
私には行き先が無い。
行く当てがない。
資金も退職金として僅かに支給されただけ。
「・・・・・・」
これじゃあ、数日で底を尽くかな。
ぐぅ~。
「・・・・・・」
お腹が鳴った・・・今日は何も口にしていなかったっけ?
「・・・・・・」
何もしていないのに、部屋に引き籠っていただけなのに・・・どうしてお腹は空くんだろう?
「・・・・・・」
お腹が空いた・・・とりあえず売店でおにぎりとお茶を買おう。
・・・・・・
売店のおばあちゃんに「綺麗な子だね」って言われた。
「綺麗・・・」
綺麗って言われたのは初めて・・・鎮守府では誰もそんなこと言ってくれなかった。
「そうか、私は綺麗なのね。」
一瞬自分の自信を取り戻した私だったけど、
「・・・綺麗だから何よ。」
と、結局また落ち込んでしまう。
・・・・・・
風の噂を聞いた・・・私(村雨)が店で働いていると言う。
「・・・・・・」
この世界では建造が禁止されているはずだけど、建造に手を出して「2人目」が生まれ、
証拠隠滅で監禁したとして、裁判に掛けられた提督がいるのを新聞で読んだ覚えがあるわ。
「・・・・・・」
私が2人いるってことも別にどうだっていい、 今は自分のこれからの生活を考える事で精一杯だから。
「・・・・・・」
でも、気になった。 もう一人の私はどんな生活を送っているのだろう・・・
・・・・・・
村雨が働いていると言う店に行ってみた。
「・・・・・・」
幸いにも店の扉が開いていて、室内を見ることは簡単だった。
「・・・・・・」
本当だ・・・カウンターで接客をしているもう一人の私。
「・・・・・・」
でも、あの村雨は・・・更なる改装をしていない、つまり「村雨改」のまま。
「・・・・・・」
それでも、なんて笑顔なのかしら・・・あんなに笑って、喜んで・・・
「・・・・・・」
カウンターの奥には男性らしき人影が・・・この店の大将かな?
「・・・・・・」
村雨と大将の左指に指輪が・・・そうか、あの2人は結婚してるんだ。
「・・・・・・」
村雨改のままなのに、あんなに幸せな生活をして・・・それなのに私は、改二になったのに何でこんな惨めな目に・・・
・・・・・・
はっきり言ってただの逆恨み、
幸せな村雨を見ていて感じた「不公平」と言う気持ち。
「・・・・・・」
手には刃物、陰で隠れてじっと機会を伺う。
「・・・・・・」
私は一体何をしているんだろう? 私はただもう1人の村雨が幸せそうに生活しているのを見て羨ましいと思っただけ、
それなのに、どうして刃物を持って・・・「あの子が憎い」って思ってるの?
「・・・・・・」
私は改二なのに、 改のくせに何で私より幸せになっているわけ? そんなの不公平よ!!
「・・・!」
村雨が「買い物に行って来ます!」と言って外に出た。
・・・・・・
村雨はまだ私に気付いていない、
「・・・・・・」
買い物籠を持ってステップをしている姿に、憎しみに拍車が掛かる私、
「・・・・・・」
駄目、こんなのはただの逆恨み・・・私はただあの子が羨ましいと思っているだけ・・・本当にそれだけ、それだけ・・・
「? あら?」
村雨が振り向いて、私を見た?・・・その瞬間、
「うわああああっ!!!!」
彼女を押し倒して、顔に刃物を突き付ける。
2「何であなたはそんなに幸せなの!! ねぇどうして!!?」
「・・・・・・」
刃物を突き付けられた村雨は今の状況が分かっていない、
2「私は周りに振り向いてもらうために、頑張って改装して・・・ずっと頑張って来たのに、何であなたは改装もしていないのに
そんなに幸せに生活しているのよ!!」
「・・・・・・」
刃物を突き付けられているのに全く抵抗をしない村雨、それどころか私を見て哀れんだ表情をしてきた。
2「・・・やめてよ。」
私は堪えきれず涙が溢れて、
2「そんな哀れんだ顔しないでよ!!!!」
涙が頬を伝って村雨の顔に降りかかる。
「・・・・・・」
村雨は何も言わない・・・それどころか目を閉じて笑顔で振る舞った。
2「・・・・・・」
まるで「殺してください」と言うような死を覚悟した表情である。
2「う、うわああああっ!!!!」
刃物を振り上げ、村雨に向けて突き刺した・・・
2「・・・はっ!」
刺さる直前に私は我に返った。
2「ああ・・・あああ・・・」
自分が艦娘として・・・生きる者として酷い事をしてしまった事にやっと気づき、
2「あああ・・・ううっ。」
刃物を捨て、私はその場で泣き叫んだ。
2「ひぐっ・・・ううわああ~。」
ずっと・・・ずっと、その場で泣き叫んだ。
「・・・・・・」
村雨が起き上がって私を見る。
2「・・・・・・」
当然怒っているはず、私は殺そうとしたんだから・・・哀れな表情で私を睨む村雨の視線。
2「・・・・・・」
覚悟はしていた、もう私は行く当てもない、希望もない、生きる意味もない・・・挙句に嫉妬からもう一人の自分を殺そうとしたんだから。
「・・・・・・」
でも、私の予想に反して村雨は、
「事情がありそうね、店に来る?」
その声は天使・・・大げさかな、今の私にはそれ程に大きな存在に思えた。
・・・・・・
店に着くなり、村雨は暖簾を取り扉を閉め、裏で作業をしていた大将に事情を話していた。
2「・・・・・・」
私を憲兵に突き出すつもりかな・・・でも、それに対して私は文句は言えない、 突き出されて当然の事をしたんだもの。
2「・・・・・・」
2人が話している間が長く感じる・・・もういいから、早く憲兵でも提督でも呼んで私を処罰すればいい。
2「・・・・・・」
会話を終えて、村雨から発せられた思いもよらない言葉、
「店を紹介するからそこで働いて見ない?」
2「!? えっ?」
私は驚いて村雨を見つめる、
「もちろん、私とは二度と会えないけど・・・それでもまだ生活したいなら働き口を紹介するわよ。」
2「・・・・・・」
「提督に捨てられたんでしょ? 私も捨てられた身だからその気持ちは痛いほどに分かる。 でも、だからって自分を見失う
様な事はやっては駄目! あなたがやり直す気があるなら、もう一度頑張って見ない?」
2「・・・・・・」
驚いた・・・村雨は私を、殺そうとした私を恨んでいないの?
「あなたのしたことはもちろん許される事ではありません、でも捨てられたことでやり場のない気持ちや切迫していた
状況は同情するべきところはあります。」
2「・・・・・・」
「もう一度聞きます、あなたは・・・村雨はもう一度やり直す覚悟はありますか?」
彼女の言葉に、
2「・・・もう一度やり直したい。」
私は自分の気持ちを伝えた。
・・・・・・
・・・
・
現在私は、別の鎮守府で活躍している。
村雨に紹介してもらった店で、客として来店した今の提督に「鎮守府に来ないか?」と紹介させてくれました。
前の提督とは違い、1人1人を評価してくれて「私と言う存在」も受け入れてくれた。
まだ着任して間もなく第3部隊の編成に参加しているけど、
私と同じような境遇の艦娘達が多くいて、すぐに打ち解けた。
改装すれば幸せになれると思っていたけど、違った。
改装するしないではなく、自分が選んだ道を進むことが本当の幸せだと改めてわかった。
もう1人の村雨にはもう二度と会えないけど・・・最後に伝えたかった。
・・・・・・
村雨・・・本当にごめんなさい、そして・・・
ありがとう。
「村雨の葛藤」 終
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