「プレゼント」
艦娘が提督にプレゼントを渡し、ビスマルクも提督のために何を渡すか考えるが・・・
朝から皆が部屋で作業をしていた。
何でも、日ごろ世話になっている提督のために、各自プレゼントを考えているという事だ。
ビスマルクを除く全員がプレゼント内容を考えていたため、彼女は最初戸惑っていた。
「提督にプレゼントを渡す義理なんてないわ!」
と、最初は言っていたが、
「でも・・・皆やってるのよねぇ~・・・仕方ないわ、私も渡してあげようかしら。」
と、結局ビスマルクも渡すことにした。
「とは言っても、何をあげればいいのかしら?」
当然のことながら、ビスマルクは生まれてこの方、人にプレゼントというものを渡したことが無かった。
皆が準備している中、ビスマルクだけが悩み続けていた・・・
・・・・・・
「提督、いつもありがとうございます。 これ・・・良ければ受け取って下さい。」
村雨が提督に何かを渡す。
「おお、ありがとう。 大事にするよ。」
受け取った提督も笑顔である。
「・・・・・・」
陰から見つめていたビスマルクは、
「なるほど・・・小物でもいいのね。」
村雨が渡したものを見て、
「あの程度なら、私も奮発してもいいわね・・・なら、すぐに用意できるわ。」
ビスマルクは売店へと走っていった。
・・・・・・
「こんなものでいいわね。」
村雨が渡したものより、少し高価な品物をプレゼント袋に包んで執務室に向かう。
「何て言えばいいかしら・・・ほら、プレゼント! ありがたく受け取りなさい! ・・・少し強引よね・・・」
ビスマルクが台詞を考えていると・・・
「・・・あ、霧島!?」
執務室に入る霧島を見てビスマルクは隠れる。
「・・・・・・」
恐る恐る扉を開けてのぞくと・・・
「司令! いつも仕事、ご苦労様です! あの・・・これを・・・どうぞ!!」
と、霧島が渡したものは・・・
「!? ええっ!? 何あれ! あんな高価なものを!?」
ビスマルクでもわかる、宝石店で見かけるほどの高価なブレスレットを渡していた。
「馬鹿じゃない! 霧島は! あんな高価なもの・・・私が欲しいくらいよ!」
同時に持っていたプレゼントを見つめる・・・
「・・・こんなのじゃあ、提督は喜ばないかしら・・・」
適当に買って、はいどうぞ。 って言う程度の気持ちだったので、霧島の行動に彼女はためらう。
「私も・・・霧島と同じように、奮発すべきかしら?」
考えてみれば、毎月支払われる給料は駆逐艦と戦艦では数倍の違いがある。
さっきの駆逐艦にとって、あのプレゼントは彼女なりの提督に対する感謝とそれに見合う物を渡したの違いない。
「・・・・・・」
駆逐艦と同程度の物しか用意できない自分が何だか恥ずかしく思えてきて、
「・・・これは捨てよう。」
せっかく買ってきたばかりのものをごみ箱に捨ててしまった。
・・・・・・
「とは思ったものの・・・」
ビスマルクは悩む。
「何を渡せばいいのかしら・・・」
改めて、考える。
「・・・・・・」
プレゼントって要は気持ちなんだから、内容なんて何でもいいはず・・・だからって、安上がりなものは・・・
「・・・・・・」
一応宝石店に入って霧島が渡した似たようなブレスレットを見るが・・・
「高すぎ! 私には到底手が出せないわ!」
逆に霧島は凄い、と思った。
「どうしよう・・・ほかに思い当たるものはないし・・・」
答えが見つからないまま、彼女は鎮守府へと戻る。
・・・・・・
帰ったビスマルクは食堂へ向かう・・・入る手前で何やら艦娘たちの話が聞こえる。
ビスマルクがのぞくと・・・
「・・・・・・」
そこには、複数の重巡の艦娘たちが何か甘そうなスイーツを作っている。
「・・・・・・」
どうやら、提督のためのプレゼントのようだ。
「あ、そうか。 何も物じゃなくてもいいのよね。」
彼女はひらめく。
「だったら、私も何か作ってそれを渡そう。」
ビスマルクは食堂へ入っていった。
「ええっ!? 材料が無い!?」
不運にも、重巡たちの調理で材料はなくなっていた。
最も、彼女たちが自分たちで提督用に買ってきたのだから、当然のことだが・・・
「うう・・・」
仕方なく、ビスマルクは食堂から出て行った。
「はぁ~」
彼女はため息をついて・・・
「どうしよう・・・何も思いつかない。」
朝から夕方まで考えてみたが、
「・・・別にいいわ、提督は私の事なんて好きでもないだろうし。」
急に冷めた感じで、
「それに、何で提督のためにわざわざ用意する必要があるのよ! 別に自分用でいいじゃない!」
開き直って彼女は部屋に戻る。
皆が執務室に行く中、彼女だけが部屋で閉じこもっていた。
・・・・・・
しばらくして、彼女は部屋から出て執務室へと向かう。
「・・・・・・」
中では賑やかになっていて、恐る恐る扉の隙間からのぞく。
「・・・・・・」
重巡の子たちが提督のために作ったスイーツを食べてもらっていたり、
駆逐艦たちからプレゼントをもらった提督含む皆が笑顔だったり・・・とても楽しそう・・・
「・・・・・・」
皆の輪に入れてほしかったが・・・彼女は用意していない身・・・本人も認めていたようで素直に身を下げた。
「私も・・・用意しておけばよかった。」
後悔を感じて彼女は来た道を戻る。
・・・・・・
翌日からいつものような生活に戻ったが、ビズマルクには元気がない。
「どうしたんですか?」
と、皆心配するが・・・
「何でもないわ。」
と、だけ言葉を返して普段通りの生活を始める。
「・・・・・・」
ビスマルクは孤独を感じていた。
皆と同じように行動できず、挙句に機会を逃してしまうのだから。
「私は・・・この鎮守府には・・・必要ないの・・・かな?」
思いやりもない自分が情けなくなると同時に存在すら否定し始めた。
「提督も、本当は・・・無理をしているのかも。」
明らかに思い込みだが、彼女にとってはそれだけ心に傷となって残った。
・・・・・・
いつもと変わらぬ出撃・・・唯一違ったことは・・・
ビスマルクがその場にいなかったことだ。
当然、皆には思い当たる節はない。
「仕方がない・・・皆は気にせず出撃してくれ。」
提督の命令により彼女たちは海上へ進んでいった。
・・・・・・
「皆はもう行ってしまったかしら・・・」
一人窓の外を見て、呟く彼女。
「私がいなくても問題ないわよね?」
そう思っていると、
「お前は一体何をやっているんだ?」
振り向くと、そこには提督がいた。
「提督・・・」
顔を上げられず、ビスマルクは下を向く。
「気分が悪いのか? それなら別に文句は言わないが・・・」
「・・・・・・」
「それなら事前に休養届を出すように言っているはずだが?」
「・・・ごめんなさい。」
「お前の代わりに霧島に頼んだから良かったが・・・次からしっかりやってくれ。」
軽い叱責を受けた彼女はふと、提督の腕に目をやる。
「・・・・・・」
それは・・・前に彼女が捨てた安いブレスレットだった。
「提督・・・それは・・・」
「ああ・・・これか? ゴミ箱に捨てられていたから、もったいなくてオレが使っているんだ。」
「・・・・・・」
「恐らく誰かがオレのために用意したんだろうけど・・・何で捨てたのかな・・・オレは十分嬉しいんだけど。」
「・・・・・・」
「要は気持ちだから安い高いなんて関係ない、プレゼントしてもらえることが一番嬉しいからな。」
「・・・・・・」
「それにしても、本当にオレの腕に馴染んでいる。これを買った誰かはオレの腕に合わせて買ってくれたのかな?」
と、腕につけたブレスレットを嬉しそうに眺める。
「・・・・・・」
何だ・・・あんなものでよかったんだ・・・私ったら、どうしてこんなに悩んでいたんだろう・・・
「ビスマルクは今日は休み・・・と、第2編成は誰にするかな・・・」
提督が考えていると、
「私が行くわ!」
ビスマルクが志願する。
「ん? お前、今体調が悪いんだろう?」
「もう治った! だから出撃する!」
そう言って彼女は走っていった。
「・・・何だあいつは・・・」
提督は呆れながら、彼女を見つめる。
「ふふ・・・」
彼女はにやけていた。
「それにしても、提督は・・・安上がりね。」
と思った。
「でも・・・あんなに大切にしてくれるって・・・何だか嬉しいわね。」
最終的に結果オーライだが、自分が用意したプレゼントを使ってくれてビスマルクはとても満足していた。
「さて、皆が待っているわね・・・早く行かないと!」
彼女は早足で皆の元へと走っていった。
「プレゼント」 終
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