2019-11-27 16:20:04 更新

概要

提督に依頼され、他の鎮守府に赴く海風。 そこで会ったのは両目に包帯を巻いた時雨で・・・


前書き

キャラ紹介、


提督:再着任した提督、今は嫁艦と仲間たちとで順風満帆な生活を送っている。

海風:提督の奥さん2、今回は村雨の出番は無し。

時雨:別の鎮守府に着任している姉妹艦。 両眼には包帯を巻いており実質目が見えない。
   昔、鎮守府で起こした騒動が原因とされているが・・・


提督に”手紙を届けて欲しい”と頼まれ、別の鎮守府に向かう海風。


海風は買い出しのために外出しており、その道中に鎮守府があったため依頼されたと言う物。


「え~っと・・・時雨さんに手紙を届ければいいのですね?」


確かに宛先は”時雨”と書かれていて、


「時雨さん・・・私がいる鎮守府にも時雨さんがいますけど、同じ人がいるとやはり緊張しますね。」



同じ艦娘が重複する事は禁じられているが、鎮守府違いなら何の問題も無い。


「買う物もたくさんありますし、すぐに渡して鎮守府から出ましょう。」


そう思い、店の途中に位置する別の鎮守府に向かう海風。


・・・


鎮守府に入り、艦娘から時雨の部屋番号を教えて貰い番号を探す海風。


「時雨さんの部屋番号は210ですので、ここは205で・・・え~っと、あっ! ここですね!」


目的の部屋を見つけ、扉を叩く海風。


「時雨さん! 私の提督から手紙が届いています!」


海風の言葉に、


「手紙? ああ、うん・・・ちょっと待って。」



ドアの向こうで聞こえる時雨の声、だが少し様子がおかしい?


「・・・」


ドアを開けるだけなら時間は掛からないはずだが、何故か数分後にドアが開く。


「え~っと・・・僕に手紙かい?」


ドアの向こうに現れたのは紛れもなく時雨だが、


「し、時雨さん! その目は一体どうしたのですか?」


海風は驚く、


「えっ? う、うん。僕は目が見えないんだ・・・」


両目に包帯をしており、実質”目が見えない”時雨がそこに立っていた。


・・・


すぐに頼まれた手紙を渡すも、


「ご、ごめんね・・・僕は目が見えないから、君が代わりに読んでくれないかい?」


「あっ、はい。 それでは失礼します。」



目が見えないのだから手紙が読めるはずがない、確かにそのとおりである。


海風はゆっくりと便箋を取って時雨に向かって読み始める。


「・・・”反省したか?” としか書いていません。」


たった一言だけの言葉、当然海風には何の意味なのかは分からない。


「・・・」


時雨はそれを聞いて一瞬無言になり、少し経った後、


「うん、反省してる・・・僕は本当に酷い艦娘だったよ。」


時雨には手紙の言葉の意味をよく理解していた。


「時雨さん、一体どういう意味なのですか? それにどうして目が見えないのですか?」



海風にとって、”出撃中に両目を被弾して見えなくなった”位にしか思っていなかったが、


「うん、昔僕はね・・・」


時雨は昔の出来事を話し始める。


・・・

・・



「提督、今日の書類を持って来たよ。」


秘書艦である時雨が提督のために大量の書類を持って来る。



約1年前だろうか、この時の時雨はとても真面目であり、提督を常に気遣い仲間たちへの気配りも欠かさず行い、


皆からも慕われ、秘書艦を任されている有能な艦娘だった。


「本当に時雨は気が利くな~、戦艦や空母の子達もお前の事を褒めていたぞ~。」


「そ、そんな。 僕は別に当たり前のことをやっているだけだよ(照)」


当たり前だと言って顔を逸らすも、時雨の顔は照れて赤い。


「これからもオレと皆を支えてくれ、時雨は皆のアイドルなんだからな!」


「う、うん。 僕、頑張るよ!」


提督に言われて更に照れる時雨。



月日が経つにつれて、次第に責任が増えて行き秘書艦の他に旗艦まで行うようになった時雨。


当然休日も減ることになるが、「皆のため」と頑張り、それからも提督と皆を支えて来た。


そんな時の事、鎮守府で新たに導入された”ケッコンカッコカリ”システム。


練度MAXになった艦娘に指輪が渡され、更に強くなれると言う物。


人間社会では指輪を渡す行為は”結婚”を意味するが、艦娘に対しては”結婚(仮)”として扱われる。


しかし、(仮)と言えども、提督が艦娘に指輪を進呈するのだからそれは愛ゆえの好意である。


「指輪かぁ・・・そう言えば僕も練度MAXだったよね。」


一瞬時雨は考える。


「もしかしたら僕が提督から指輪を? いやいや、練度MAXな艦娘は他にもいるし・・・」


何度も考えては何度も同じ結論を出す。


「でも、練度MAXと指輪を貰ったでは意味が全然違うよね?」


そう思った時雨は、


「よし、もっと頑張って提督に振り向いてもらわないと!」


時雨の気持ちはいつしか”提督のみ”と目標を変えることになる・・・


・・・


それから時雨は提督のためなら何でもやって来た。


食事や健康管理に至るまで隅々に、ただでさえ秘書艦と旗艦で追われていると言うのに、


更なる役割で時雨は次第に体調を崩してしまう。


「時雨、無理はするな。 秘書艦が倒れてしまっては元も子もないだろう?」


提督が心配して声を掛けるも、


「大丈夫、大分役割に慣れて来たから・・・えへへ♪」


時雨にとって、体調不良はある意味好都合だった。



この鎮守府の人間はとても良心的である。


誰かが倒れたら真っ先に手を差し伸べてくれる、そこで時雨は秘書艦と言う立場を利用して、敢えて体調不良を続ける事で、


提督との距離を縮める作戦に出たのだ。


「もう、提督は心配症だよ~・・・大丈夫、僕は提督のためなら何でも出来るから♪」


「そうか、ならいいんだけど。」


提督も時雨の行動に全く疑いも無く心配する。



・・・しかし、こんな日がずっと続くと提督も時雨に何かしらの不安を持ってしまう。



「提督! 何で僕を秘書艦から外すのさ!」


突然の秘書艦の変更に、時雨が声を荒げて抗議する。


「提督の事を一番知っているのは僕なんだよ! 僕が一番の理解者なんだよ! それなのに、他の子に秘書艦を変えるって・・・


 一体どう言う事なのさ!!」


時雨の叫びに、


「いつも体調を崩している時雨を見ていて辛いんだ、だからまずは体を治して欲しい。 完治したらまた秘書艦として、


 お前を迎えるから、それでいいだろう?」


提督の言葉に、


「提督・・・ぼ、僕の体を心配してくれて・・・」


提督の気持ちに時雨は一瞬胸を撃たれる・・・しかし、時雨にはそれ以上に、



”僕の体を心配してくれている・・・つまり、提督は僕がいないと不安で仕方ないんだ”


時雨は勝手に解釈し、


「うん、分かった。 きちんと休めてからまた秘書艦として頑張るね!」


そう言って、素直に戻る時雨。


「そうか、提督にとって僕の存在が必要なんだね・・・うん、それなら良かった。」


提督の気遣いが、時雨にとって”僕に対しての愛情”と勝手に認識していく。



体調が良くなり、提督の言う通りに秘書艦に戻るも、何故か時雨が提督に勝手な束縛を課せるようになる。


「提督、何で他の女と話しているの? 秘書艦として僕が傍で提督を支えているのに、あんまりじゃないかい?」


「提督! 僕はいつも提督のためなら何でもやってきているのに、どうして最近は僕を避けるんだい? 酷くない?」


「気分が悪そうだから休め? 嫌だ、僕が休んでいる間に他の女と話をするんでしょ? 絶対嫌だね!」


と、時雨の気持ちは歪んだ愛へと変わっていく。



そして、提督が遂に指輪を渡す艦娘を決める。


「当然、僕が貰えるに決まってるじゃん。 だって、誰よりもずっと提督を支えて来たし、一番の理解者だもん!」


時雨は既に嵌めて貰う準備までしている。


「指輪を貰ったら・・・その時はもう、他の子達の提督への接近を禁止させよう。 提督には僕1人がいれば十分なんだから!」


この時点で時雨はいわゆる”ヤンデレ”と化していた。


「あっ、提督が執務室に入って行く・・・よし、じゃあ真っ先に僕が指輪を貰いに・・・」


そう思い、時雨が執務室に入ると、


「・・・えっ、何で君がここにいるの?」


そこにいたのは、提督ともう1人・・・戦艦の艦娘が。


「何でって・・・提督に呼ばれてそれで。」


よく見ると、戦艦艦娘の指に指輪が嵌められているのに気づく時雨。


「・・・」


一瞬時雨はその状況を飲み込めないでいた。


「おめでとう、 これからもオレと鎮守府の皆を支えてくれ!」


提督の言葉に戦艦艦娘も「はいっ、頑張ります!」と幸せの声を発する。


「・・・何で。」


時雨は提督に詰め寄り、


「何で・・・僕に指輪をくれるんじゃなかったの!!!」


時雨は激怒して提督に詰め寄る。


「ずっと提督を支えてきたじゃん! どんな時もいつもずっと! それなのに、何で他の女に指輪を?


 何で僕じゃないんだ!!!!」


時雨の表情はまるで鬼のようになり、


「お、落ち着け! 落ち着け時雨!!」


提督は時雨の行動に怯え、側に居た戦艦艦娘が止めに入る。


「何でだよ提督!! 何で!!」


時雨の叫びに、


「指輪を渡すと練度が更に上げられる・・・だから火力の強い戦艦、そして鎮守府で一番火力の強いこの子に


 指輪を進呈したんだよ。」


提督は怯えながら答える。


「火力が強かったから? それだけの理由で? そんなふざけた理由で別の女に指輪を渡したの?


 ふざけるなぁ!! そんなのあんまりだぁ!!!!」


提督の言葉に時雨は遂に切れ、戦艦艦娘に魚雷を向ける。


「時雨! お前何で魚雷なんか持っているんだ!!?」



魚雷を持つ時雨、それに対して戦艦艦娘は艤装を装着していない、つまり丸腰の状態だ。


「指輪を渡しなよ? そんなの君には到底ふさわしくない物だよ?」


時雨が鬼のような形相で睨みつける。


「・・・わ、分かったわ。 ほら、持って行って!」


戦艦艦娘は指輪を時雨に渡して、逃げるように執務室から出て行く。


「ふふ、やっと貰えた~、僕の指輪ぁ♪」


これで終わると思ったであろう提督、しかし、


「提督は酷い人間だねぇ~、近くで一途に思っている僕を差し置いて他の女に手を出すんだから~♪」


時雨の視線は怯える提督に向けられ、


「な、何をするんだ? や、止めろ時雨!」


提督は必死に助けを請うも、


「提督が悪いんだよ・・・僕だけを見て僕だけを好きなればいいのに・・・」


時雨は提督の顔に自身の顔を寄せ、


「いっその事、手足を剥いじゃおうか? それなら動くことは出来ないし・・・そうだ、提督を地下牢へ入れよう。


 毎日決まった時間にご飯を届けて、決まった時間に相手してあげてそれから・・・」


時雨の眼は最早、艦娘としてではなく狂気に支配された黒く濁った眼に変貌していた。


・・・

・・



「・・・」


時雨の話を聞いて「うわぁ~」と思う海風。


「それからどうしたのですか? 本当に地下牢へ入れて手足を剥いで閉じ込めたのですか!?」


海風の質問に、


「いや、そんな。流石にそこまでしなかったよ。 だって後片付けが面倒じゃん?」


「・・・」


「でも、地下牢に入れたのは本当、僕はあの時提督を完全に私物化していたんだ。」


「・・・」


「その後、異変に気付いた艦娘たちが僕を問い正したり、抗議にも来たけど・・・僕は何とかその場を凌いだ。」


「・・・」


「提督を地下牢へ入れて長い月日が経った頃、地上の艦娘たちが姿を消した。 ”提督不在により全艦娘は異動”ってね。」


「・・・」


「僕には好都合だった、その分提督と一緒に居られたんだから。」


時雨は昔の出来事を今のように話して行く。


「それで、本営から何人かの提督が調査にやって来て、その度に僕が何度も「何でもありません」、


 「僕も提督を探しています!」と説得して何度も追い返したけど・・・」


時雨は「はぁ~」っとため息をつき、


「最後に来た提督が、君の提督だったんだ。」


時雨はその時の出来事を詳細に話す。


・・・

・・



「提督? ううん、僕は見てもいないし会ってもいないよ。」


再び調査に来た別の提督といつものように追い返そうとする時雨。


「もういいかい? 僕は忙しいんだ・・・早く消えてくれるかな?」


時雨は不機嫌そうに呟く。


「そう言う君は? 全艦娘は異動って聞いたけど、何故ここにいるんだ?」


「何故って? 僕も提督を探しているから。 上官が急にいなくなったら探すのは当然の事でしょ?」


「そうか、じゃあ今捜索しているならどうして”犬皿に餌を入れて”るんだ?」


時雨の手には捜索とは無関係に、犬皿に盛った食事を持っていた。


「これは・・・ち、近くで犬を見つけたんだ。 とても痩せていて、それで不憫に思ってさ・・・」


咄嗟に誤魔化す時雨だが、


「・・・」


提督は何を思ったのか、鎮守府内の部屋をしらみつぶしに捜索し始める。


「ちょっと提督! いきなりやってきて何なのさ!」


時雨は驚き、何度も提督を止めようとする。


「そこは全部見たよ! でもいなかったんだ! どこか別の場所に閉じ込められていると思うんだ!!」


焦った時雨が思わず言った言葉に、


「閉じ込められている・・・そうか、地下か。」


提督は迷うことなく鎮守府地下に向かう。


・・・


「ここにいたか・・・提督殿、大丈夫か?」


地下牢内に入れられた提督を見つけて、提督は何度も声を掛ける。


「?」


背後に気配がして振り向くと、そこには何故か魚雷を手にした時雨の姿が、


「・・・」



時雨の表情は何かに取り憑かれた表情で、提督を睨み付ける。


「”閉じ込められている”と言ったな? 探しているだけのお前が何故”提督が何故閉じ込められている”と分かったんだ?」


「・・・」


「それを知っているのは本人だけ、つまり提督を閉じ込めたのは・・・時雨、お前だな?」


提督の言葉に、


「うん、そうだよ。 僕がやったんだ。」


「・・・」


「あ~あ、バレちゃった。 これで君もここで始末しないと行けなくなった。」


時雨は複数の魚雷を手に持ち、


「何で皆は、僕と提督の邪魔をするのかなぁ? 僕は提督といられればそれでいいし、提督だって僕だけがいれば


 それで幸せなんだよ? それなのに、どうして皆は邪魔をするの?」


「・・・」


「僕と提督の幸せな空間に入る人間は誰であっても許さない、君には悪いけど・・・ここで死んで貰うよ!」


そう言って、提督との距離を縮める時雨。


「お前、目がドス黒いな? 普段の時雨は純粋に青く宝石の様な瞳なのに・・・」


「そう? 僕の眼は生まれつきでね・・・別に青くても黒くてもいいじゃないかい?」


そう言って、魚雷を投げようとした刹那、




グシャッ!




何か潰れる、もしくは何かを剥いだような音が一瞬だけ響く。


「あっ、あっ、あーーーっ! 痛い!! 痛いよぉ!!」


突然時雨が痛み苦しむ。


「・・・」


提督は何も言わず、時雨の髪を掴み、




グシャッ!




再び何かが潰れた、もしくは何かを剥いだような音が一瞬だけ響く。


「痛い! 痛いっ!! あ、ああ・・・目、目が見えない???」


突然周りが暗闇になる・・・激しい激痛と突然の暗闇の空間、時雨はすぐに気づく。


「両目を抉った・・・これでお前も自分が犯した過ちを理解出来るだろう。」


提督はそう言って、何も言わずその場から立ち去る。


「提督! 待って! い、痛い! あああ。」


時雨は視力を突然に失った事でパニックを起こしていた。


「ま、待って提督! な、何も見えない!! 嫌だ、置いて行かないで!! お願い、助けて!!」


時雨は地下牢で1人叫ぶが、既に提督の姿はなかった。


・・・

・・



「・・・」


「その後、しばらくして僕は他の提督に助けられて今は・・・この鎮守府で何とか生活しているんだ。」


時雨は過去に犯した罪と視力を失った経緯を話す。


「違う鎮守府に引き取られたけど・・・当然出撃も出来るわけも無く、出来る事と言ったらせいぜい雑用位。


 最も目が見えないんだから、1日の大半を部屋で過ごすしかないけど。」


時雨は不満そうに呟き、


「この鎮守府の提督や皆も、最初は心配してくれたけど・・・次第に僕を避けて行って、今では誰も僕に話しかけても来ないんだ。」


「・・・」


「でも、仕方がない、よね? 僕は昔酷い事をやったんだから。提督が僕にした事は今でも許される事じゃないけど、


 でも僕もそれ相応の悪い事をした、って事なんだろうね。」


「・・・」


海風は時雨の言葉に一瞬だが首を傾げる。


「帰ったら提督に伝えてよ、”反省してる、もう二度とあんな事はしない”ってね。」


「・・・はい、今の時雨さんの言葉。 私が責任を持って提督にお伝えします!」


そう言って、海風は鎮守府から出て行く。


・・・


その後、目的の買い物に向かい真っ直ぐ鎮守府に戻った海風。


「おかえり、手紙は届けてくれたかな?」


「はいっ、目が見えないという事でしたので私が時雨さんの前で読んであげました。」


「そうか、助かったよ。」


提督は海風にお駄賃を渡して仕事に戻るが、


「・・・」


「? どうした海風?」


海風がずっと提督の目の前に立っている。


「時雨さんを許してあげるのですか?」


海風の言葉に、


「海風だったらどうする?」


「えっ、海風だったら、ですか?」


逆に質問を返されて戸惑う海風。


「そうだな、少し話題を変えようか。」


そう言って、提督は急に改まり、


「海風が昔着任していたブラック鎮守府、そこにいた暴力的な提督。 散々海風を殴り蹴り、罵倒をした提督が急に


 「心を入れ替えた、許して欲しい」と言ってきたら、海風は許してあげる?」


「そ、それは・・・」


海風は急に無言になる。


「仮に許したとしよう、その後提督が本当に改心して艦娘たちに優しく振る舞うと思う? また同じ様にどこかの鎮守府で


 艦娘たちに感情の捌け口として暴力を行っている・・・海風はどっちだと思う?」


提督の質問に、


「・・・昔の提督の場合でしたら海風には分かりません、ですが今は時雨さんの事です。


 私なら・・・海風としては許してあげるべきだと思います!」


「ふむ、そうか。」


そう言って、提督は海風にまた手紙を渡す。


「明日また時雨にこの手紙を届けてくれ・・・ここには時雨が犯した罪と今後の詳細を記してある。」


「・・・」


「最終判断は海風、お前に任せる。 では、頼むぞ。」


そう言って、以降は無言で執務に専念する提督。



翌日、


海風は再び時雨を尋ねる。


「また君かい? 今日も何か用?」


「はいっ、提督に報告した所”また手紙を届けて欲しい”と言われ、届けに参りました。」


「提督が? それで、手紙には何て書いてあるの?」



時雨は目が見えない、海風がまた時雨に読んで聞かせる。


「”駆逐艦時雨、お前は十分に反省していると判断して、過去の過ちを水で流し、両目を治してやる”との事です。」


海風が読むと、


「!? 本当? 本当に!? 僕はまた目が見えるようになるの、とっても嬉しいよ!!」


今まで暗かった時雨が急に元気になる。


「・・・」


「そうか、過去の過ちを水に流してくれるんだ・・・そして、両目の治療。提督も何だかんだ言って結局、


 僕にした行いを悔やんでいたんだね・・・うん、良かったよ。」


「・・・すいません、まだ続きがありますのでお聞きください。」


そう言って、海風はまた読み始める。


「海風・・・つまり私ですが、私に”時雨さんの今後の生活の説明”と”両目の治療の際、付き添ってもらう”ように頼んだ。


 従って海風の言う事に素直に従う事”・・・と書いてあります。」


海風が読み終えると、


「そう、うん分かった。 じゃあ早くこの目を治して欲しいかな! すぐに治療場へ連れて行ってよ海風!」


「はい、分かりました・・・では、私について来てください。」


そう言うと、海風は時雨と一緒に治療場であろう場所へと向かう。


・・・


「そうか、遂に僕の目が治るのかぁ。」


先程までの暗い表情はどこに行ったのか、今の時雨は何かの目標に向けたような明るい表情のようにも見える。


「それにしても、提督も酷い人間だよね? いくら僕が悪い事をしたからって両目を抉るなんて・・・


 何が「自分のした罪の過ちが分かる」だよ、それ以上に女の子にこんな事して・・・人としてどうなのさぁ。」


「・・・」


「両目が治ったら、まずは提督に文句を言おう。 治ったからって、僕の不満が無くなったわけじゃないから、


 「もっと別の方法があったんじゃない!」位言ってやらないとね!」


「・・・」


「それが終わったら、この鎮守府で1から頑張って戦果を取って・・・他の誰にも負けない強い艦娘になって、


 提督に振り向いてもらおう。 うん、僕の目標が出来たよ!」


「・・・」


「・・・海風? 聞いてる? 側に居るかい?」


「えっ、はい。 目の前にいますよ。」


「そう、声がしないからびっくりしたよ。」


そう言って、海風の誘導に素直に従う時雨。


・・・


「さぁ、着きましたよ。」


海風が歩を止め、時雨に側にある椅子? に座るように指示をする。


「・・・んんっ? これは椅子かい? とっても堅い気がするんだけど?」



治療場に連れて行かれ、近くにある椅子に座ったと言うのに素材が堅いのか、お尻が痛いと不満を漏らす時雨。


「はいっ、今の時雨さんにふさわしい場所に案内しましたよ。」


「えっ? どう言う事? ここは治療場じゃないの?」


時雨が聞くと、海風の口から驚くべき一言が、




”では、時雨さん・・・死んでください”




「? えっ?」


時雨は一瞬何を言われたのか分からなかった。


「・・・」


海風は何も言わず、所持していた主砲を向けて数発時雨の体に撃ち込む。



ドン、ドォン!



「うっ! ぐわぁっ!!?」


座っていた時雨は地面に倒れる。


「はぁ、はぁ・・・う、海風? 何で? どうしてこんな事を?」


突然の海風の行動に時雨は驚きそして、怯える。


「僕が、君に何をしたって言うの? 何もしてないよね? なのに何で?」


時雨の訴えに、


「いいえ、時雨さんは私に危害を加えましたよ。 それとも自覚が全く無いのですか?」


「・・・」


「少し話題を変えましょうか、昨日の話で少し気になったのですが・・・」


海風は負傷した時雨の前でゆっくりと話し始める。


「時雨さんは提督に気に入られるために、提督の身の回りを全て一任した・・・それは間違いないですね?」


「う、うん。」


「その結果、時雨さんの目には提督しか映らず、提督に自分だけを見てもらおうと、他の艦娘たちが提督に


 近づかないようにした上、提督にも「他の女とは関わらないで」と警告までしたんですよね?」


「・・・う、うん。」


「それなのに、指輪を渡した相手が他の艦娘だった事で、時雨さんは逆上して艦娘の方から指輪を奪い、


 提督を懲らしめるために、地下に監禁した・・・それは間違いありませんね?」


「う、うん。 そうだよ・・・」


「その後、私の提督が地下牢で監禁された提督を発見して、殺そうとした時雨さんが逆に両目を抉られる事態になった。」


「・・・」


「地下牢で苦しんでいたけど、しばらくして別の提督が訪問した際に負傷している時雨さんを見つけ、救出。


 今はこの鎮守府で生活している・・・それで間違いありませんね?」


「そ、そうだよ・・・それの何がおかしいのさ?」


時雨の言葉に、


「では、お聞きします・・・監禁した提督はどうなったのですか?」


「えっ?」


「今の話を聞いた限りでは、”負傷した時雨さんを別の提督が救出した”とありますが、では時雨さんが監禁していた提督は


 一体どこへ行ったのですか?」


「・・・」


時雨が急に無言になる。


「時雨さんが監禁していた提督は救助されなかった・・・その理由は簡単です、”既に死んでいた”からですよね?」


「・・・」


「つまり時雨さんは監禁どころか殺人までしていたという事になりますね?」


海風の言葉に、


「・・・だ、だって仕方がないじゃん! ちょっと地下に閉じ込めて食事を少し抜いただけですぐに衰弱しちゃって・・・


 数日地下室に行かなかったら、急に動かなくなっちゃって・・・」


「・・・」


「で、でも提督が悪いんだよ!! 僕だけを見ていればそんな目に遭わなかったし、きちんと僕に指輪を渡せばこんな惨状にも


 ならなかった・・・ぼ、僕が悪いんじゃない!! 提督がすべて悪いんだ、分かる? 全て提督が悪いんだ!!」


時雨は開き直り、全ての原因が提督だと叫ぶ。


「それで私の提督は時雨さんの行動を制限するために両目を抉ったのですね。」


海風は納得するが、


「そんなの! 僕には迷惑な話だよ! おかげでずっと部屋に閉じこもりを余儀なくされて、出撃も何も出来ない、


 確かに僕は悪い事をしたかもしれないけど、こんな仕打ちは・・・明らかに酷過ぎるよ!!」


今の発言を聞く限り、時雨は”全く反省していない”と判断した海風。


「もう結構です・・・それでは時雨さん、そろそろお時間ですよ。」


そう言って、海風は再び主砲を時雨に向ける。


「時間? 時間て何さ? ・・・火薬の臭い? ま、まさか! 止めて、止めてよお願い!!」


時雨は命乞いをするも、




”さっさと死ね”




海風の口に似合わぬ、冷酷な言葉が出た瞬間に時雨の頭に弾が撃ち抜かれる。


「あー、あああ・・・あうー。」


撃ち抜かれた時雨は虫の息で、僅かに「あーあー」と声を漏らす。


「実はこの手紙には続きがあります・・・今から読んで差し上げますね。」


「あー・・・うー。」


「”駆逐艦時雨、お前は十分に反省していると判断して、過去の過ちを水で流し、両目を治してやる”・・・ここまでは一緒です。」


「・・・」


「その後の続きですが、”逆に反省していない場合、お前に待っているのは明日ではなく、死だ”、だそうです。」


「・・・」


「私は提督からそれを一任されました・・・つまり私、海風が時雨さんの死刑執行人になったと言うわけです。


 ご理解いただけたでしょうか?」


「あー・・・うう。」


「最も、頭を撃たれて思考が落ちている今の時雨さんでは到底理解出来ませんよね?」


目的を終えた海風はその場から去ろうとする。


「あっ、最後にお伝えします・・・時雨さんが私に行った危害についてですが。」


海風はにっこり笑顔で、


「私の提督に文句、もしくは抗議しようとしましたよね? 時雨さんの狂気を制限するために殺さず敢えて生かして、


 最後は治療すると約束までした私の大切な提督に時雨さんは危害を加えようとした。」


「・・・」


「”提督に害する者は全て排除”、これが私のモットーです。 時雨さんは私の大切な提督に危害を加えようとした・・・


 それが時雨さんが私に行った危害です。」


そう言って、瀕死の時雨を置いて海風は部屋から去る。


・・・



その後、時雨は誰にも気づかれる事も無く、息を引き取る。


海風が連れて行った場所は治療場では無く、時雨が監禁した提督と同じ地下牢である。


しばらくして、艦娘から”地下で異臭がする”と報告が出たため、調査して初めて時雨の死体を見つけたそうだ。


・・・

・・



「ご苦労だった、そうか時雨は全く反省していなかったか。」


「やはりなぁ~」と呟く提督。


「それで、手紙の下に書いてある言葉に従い、時雨さんを処刑致しました。」


「うん、ありがとう。これで、この世界の悪い芽を摘むことが出来て良かった。」


提督は海風を褒めると、


「そ、そんな・・・海風に勿体ないお言葉です。海風は提督のためなら、何でもする覚悟でおりますので(照)」


「そう、でも無理はしないでね? 頑張り過ぎて倒れてしまっては元も子もないからな。」


「は、はいっ。 それでは部屋に戻ります、失礼しました!」


海風は礼をすると、執務室から出て行く。



「提督に褒められました~、海風はとても嬉しいです~♪」


執務室から出た瞬間に、海風の気分は高揚している。


「これからはもっともっと提督のために頑張らないと! 村雨さんには負けていられません!


 海風だって提督のためなら何でも出来る事を証明しなければ!」



あくまで「提督のために」と意気込む海風、でも何と言うか・・・時雨と同じような境遇に見えなくもない?


「提督に危害を加える人間はこの海風が全て排除します・・・だって私は、提督の奥さんなのですから!」


そう言って、海風は廊下を歩いて行く。



・・・今の海風の発言は、時雨の時と同じくさながらヤンデレ染みた口調のようにも聞こえた。









「盲目の時雨」 終










このSSへの評価

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SS好きの名無しさんから
2022-07-31 10:16:04

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2020-02-06 21:54:59

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2019-11-26 18:13:41

五月雨改さんから
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五月雨改さんから
2019-11-26 17:19:31

このSSへのコメント

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1: 五月雨改 2019-11-26 17:20:18 ID: S:2JodWk

率直な感想
君(時雨)には失望したよ…

2: 焼き鳥 2019-11-26 18:14:42 ID: S:05sBWA

ヤンデレは一途なだけだと思うけどこれはやりすぎたな時雨…
続きが楽しみです(*゚▽゚*)

3: SS好きの名無しさん 2019-11-27 07:26:02 ID: S:waI7VW

他者に対する偏愛というより身勝手な自己愛って感じだなこの時雨ちゃん。
他人に尽くして他人に絶賛されてる自分に酔う為に周りの配慮を考えれないていう

4: SS好きの名無しさん 2019-11-27 23:43:38 ID: S:vnflJw

この盲目の時雨が
未来の海風の様な気がする…。

5: SS好きの名無しさん 2019-11-28 00:03:03 ID: S:z1yQ0x

>この盲目の時雨が
>未来の海風の様な気がする…。
この話の続き的な物が降臨しそうな気がするな
作者的には村雨や海風は特におお気に入りな気がするから
そこまで酷い殺傷沙汰にはならないかもー

それとヤンデレ系艦娘は某同人誌シリーズを思い出す


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