「霧島の思い出」
提督と霧島が初めて出会い、今に至るまでのお話。
のんびり更新していきます。
「お待たせしました、秋刀魚定食と栗ご飯定食です。」
毎日が忙しい・・・執務室で秘書艦をやっていた時よりも更に忙しく、霧島は中々一息が着けない。
「チャーハン出来上がり! ほいっ、かつ丼も出来たぞ!」
「はぁ~い、今運びます~!」
村雨たちも手伝ってくれてだいぶ落ち着き始め、
「24時・・・今日の仕事は終了です、皆さんお疲れ様でした!」
1日の仕事が終わり、各皆が自分の寮へと戻った。
・・・・・・
「司令、今日もお疲れ様でした!」
「霧島もお疲れ様。 何度も言うがオレは提督じゃない・・・まぁそれも何度も言ったか。」
提督を辞めて料亭の大将に転職したものの、皆からは相変わらず「提督」と呼ばれ続け、今では慣れたものだ。
「早いなぁ、時間が過ぎるのが・・・オレが鎮守府に来た時、霧島と会ったのが初めてだったな。」
「そうですね、あの時は本当にどうなるか不安で仕方がありませんでしたよ。」
夜空を見つつ休憩をしながら、昔の事を思い出した。
・・・・・・
・・・
・
「繰り返す! この鎮守府は放棄! 繰り返す! この鎮守府は・・・」
突然の事だった。
入渠中に突然の鎮守府放棄・・・深海棲艦の襲撃の情報が入り、各艦娘たちと司令は即座に退去していきました。
「・・・・・・」
入渠を終えた時にはもう誰もいなく・・・
「私は捨てられた・・・」
そう悟った。
・・・・・・
何日経ったのでしょう・・・
鎮守府内には私しかおらず、金剛お姉さまも愛宕さん・・・駆逐艦の皆もいなくなりました。
「・・・・・・」
初めて経験する孤独・・・本には「寂しくて絶望する」なんて書いてありましたが、本当ですね・・・話し相手がいないというのは
こうも寂しくなるものなんですね・・・
「・・・・・・」
食料も資金もほとんど残っていません・・・退去の際に持てる分だけ持って行ったのでしょうか、そこらじゅうが散乱した状態で
食べ物も地面に落ちていたりと・・・衛生面で考えたら食べない方がいいですね。
資金も・・・残りわずか。 考えてみれば、ここの司令は浪費癖が悪く何度も注意しましたが、経済が悪化する一方で
鎮守府の生活が傾きかかった状態でしたね・・・
違う鎮守府に再着任する考えもありましたが、悩んだ。 「どうしてこの鎮守府に来たの?」に対して「私の鎮守府が放棄された」と
素直に言う勇気がなかったことと、私自身の経歴に傷がつくことを恐れ、敢えて再着任を拒んだ。
それから数日が経ち・・・私自身ももう限界が近づいてきました。
食料も底を尽き、資金も無い。
空腹と絶望が常に私に襲い掛かって「ああ・・・私は後何日持つのかな?」と思っていた程・・・
薄れゆく意識の中、最後の場所として選んだのは食堂。
この場所が一番皆で笑顔でやっていけた唯一の空間・・・今はただの電気もつかない暗い場所・・・
私は目をつぶり、心臓の鼓動がゆっくりと静かになるのを待った・・・
ドクン・・・ドクン・・・トクン・・・
トクン・・・ドクン・・・ カッ、カッ・・・
「? 何の音? ・・・歩く音? いや、まさかね・・・」
カッ、カッ、カッ・・・
「・・・やっぱり歩く音!? ・・・誰かいるの!?」
そう思って私は一時的に生きる希望を取り戻した。
足音が聞こえた場所をフラフラな足取りで近づいていき・・・
「? 誰だ? ここの住人か?」
そこには1人の男性がいた・・・
「・・・・・・」
それを見た瞬間、私は意識を失った。
・・・・・・
・・・
・
「・・・・・・」
ここはどこ? 私は死んだのかしら・・・
「・・・・・・」
いえ、心臓の鼓動が聞こえる・・・私はまだ生きている・・・
「・・・・・・」
目が覚めるとベッドの上で眠っていました・・・もちろん私には寝た記憶がありません。
「・・・・・・」
記憶をたどると・・・最後に見たのは・・・1人の男性が鎮守府にいた光景・・・
「気が付いた?」
振り向くと先ほど見た男性がそこに立っていました。
「適当におにぎりを握ったけど・・・食べるか?」
「・・・・・・」
初対面で且つ誰かわからない人間から食べ物の施しを受けるのは正直抵抗がありましたが・・・
「・・・・・・」
それ以上に・・・お腹が空いていて・・・食欲が圧勝してしまいました。
「遠慮するな・・・食べろ。」
「・・・いただきます。」
結局おにぎりを受け取り、食べた私・・・
「・・・・・・」
これで私はまだ生きることが出来ました。
「ここにはお前しかいないのか? 他の人間はどこへ行ったんだ?」
「・・・・・・」
それ以上に部外者がこの鎮守府に入ることが問題かと思われますが・・・
「話したくないなら別に話さなくてもいい・・・気持ちが落ち着いたらでいいから。」
「・・・・・・」
「オレは隣の部屋にいるから・・・何かあったら呼んでくれ。」
そう言って男性は部屋から出て行った。
「・・・・・・」
そう、あの男性こそが今の司令・・・当時は不法侵入者のようなお方だったのです。
・・・・・・
それから、その男性と奇妙な生活が続きました。
男性の方も私の事を「女性」としか思っておらず、「艦娘」とは知らなかった・・・それ以上に「艦娘」の意味すら知らなかったようです。
徐々に一緒に生活して行くうちに会話をするようになり、男性の方もこの世界の状況が少しずつ理解してくれるようになり、
私が世界のために戦う兵器「艦娘」というのも理解してくれた様子・・・
それでも、「普通は男が戦うもんだろ、女を戦地へ行かせること自体が異常だ。」と言います。
「いいえ、異常ではありません、むしろあなたが異常なんですよ。」と言い合いもしばしば・・・
しばらく生活が続き、私は意を決して・・・
「私の司令になって下さい。」と頼んだ。
もちろん、「オレに提督業は無理だよ、それ以上に戦略や命令するのは苦手なんだ。」と拒みます。
「でも、今の私にはあなたしか頼れないんです・・・戦略や基礎は私が指導します! ですからお願いします!」と
何度も何度もお願いをして・・・遂に彼は心が折れて、「やれるところまでやってみる。」と承諾してくれました。
それから私たちは司令と艦娘、「上司と部下」の関係になったのです。
・・・・・・
まずはこの世界の海域の説明、各艦種の説明、その他ノウハウを徹底的に司令に指導、
今はまだ私1人しかいませんが、いずれ増える見込み・・・最初から最後までみっちり指導しました。
司令も徐々に執務室での書類整理や編成の仕方などが出来るようになり、私が思い描いた理想の鎮守府生活が
戻りつつあると確信しました。
退去した艦娘たちの一部は、事情があり戻ってきてくれて、また皆と鎮守府での生活が始まろうとしていました。
しかし、誤算がありました・・・それは司令の性格です。
戦いを好まない性格なのでしょうか・・・私たちが戦闘で被弾するのを見るのが嫌だったのか、小破撤退を命じるようになりました。
はっきり言うと過保護・・・でも、命令なので素直に従いました。
当然のことながら戦績は悪く、上からこっぴどく叱られていました。
それでも司令は態度を改める様子はなく、相変わらずの小破撤退で戦果は最悪・・・司令レベル最下位の「無能提督」として
格付けされてしまいました・・・こんなはずではなかったのに・・・
・・・・・・
「何度言えばわかるんですか? 中破撤退でも問題ありません! いい加減に小破進軍を許可してください!」
何度も訴えた私・・・でも、
「命令だ・・・嫌なら編成から外れろ。」
と言われる始末。
「この無能提督!」
最近の私の口癖がこれでした。
提督達が集まる会議でも、「無能提督殿がこんな所へ何をしに?」 「クズもいいところだね、君はゴキブリ以下じゃないの?」
など、周りからの誹謗中傷が当たり前でした。
私も例に漏れず、「こんなクズ提督に仕える艦娘も低能なんだろうな。」 「艦隊の頭脳も堕ちたものだ。」と私まで罵倒される始末。
他鎮守府への再着任を希望しましたが、「無能提督の下の艦娘など誰が必要と思うんだ?」と言われ、着任拒否されました。
私の理想の鎮守府生活は木っ端みじんに砕け散りました。
残っているのは、私が無理にお願いして司令になってもらった「無能提督」だけです・・・
・・・・・・
毎日が苦痛でした・・・
廊下を歩いて執務室に向かう度に自分の表情が険しいです。
「どうしたんですか、霧島さん?」
駆逐艦の村雨さんが話しかけてきた。
彼女はこの鎮守府に元々着任していた白露型の艦娘・・・この頃はまだそんなに親しくありませんでしたが・・・
「これから食堂へ行くんですが、霧島さんも一緒に食べませんか?」
「・・・・・・」
もちろんそのつもりはなかったけど、気分転換として村雨さんと食堂へ行くことにしました。
・・・・・・
「今日のお昼はカレーです。」
村雨さんはスプーンを持ってきて食べ始めます。
「・・・・・・」
私は手作りの弁当を・・・食堂の調理は司令が行っているとの事・・・正直男性が作る料理なんてたかが知れてる・・・
そう思って私は食堂では絶対に注文しませんでした。
「それで、何か悩みでもあるんですか?」
「・・・・・・」
駆逐艦だからでしょうか・・・興味津々に聞いてきて、
「司令の横暴な態度に嫌気が差しているのよ。」
と、駆逐艦の子に愚痴をこぼした、すると彼女は、
「そうですかぁ~? 提督はとてもいい人ですよ♪」
「・・・・・・」
司令がいい人? ふ~ん、そうなの? あの無能がねぇ~・・・
「戦果も取れないあの司令がねぇ~・・・」
更に愚痴をこぼすと、
「霧島さんは本当に戦果の事にしか頭にないんですね~。」
村雨さんの言葉に頭に来て、
「それはどういう意味ですか? 私に喧嘩を売っているの?」
と、村雨さんに当たってしまった。
「ごめんなさい・・・そんなつもりでは・・・」
急に大人しくなる村雨さん・・・そもそも駆逐艦に当たる自分が問題なのですが・・・
「とにかく! 司令にはもっと真面目に執務をしてもらわないと!」
弁当を平らげて、すぐに執務室に向かった。
・・・・・・
「司令! この書類! 今日までです!」
執務室に入るなり、私は大声で叫ぶ。
「今まで何をしていたんですか!! 今日までにこれを終わらせないといけないと朝言ったはずですよね?」
司令は無言のままで、
「どこまで無能なんですか! 1日の作業すらまともにできないんですか・・・この無能がぁ!!」
私の怒号に司令は一言も言わない、
「もう一度言いますよ・・・今日までにこの書類とこれとこれ・・・全部やって下さい! わかりましたか? 全部ですよ!」
もう嫌・・・どうして私はこんな無能に「司令になって下さい」と頼んでしまったのか。
「霧島・・・」
司令が私を呼び、
「何をそんなに怒っているんだ?」
「はぁ・・・」
その言葉に私は遂に・・・
「いい加減にしてよ!! この無能!! どうして・・・何で私の気持ちを分かってくれないんですか!!」
いつもよりの大きな怒号、流石の司令も驚いて、
「あなたを司令に任命した私がバカでした!! あなたなんか死んでしまえ・・・この無能!!」
堪えきれなくなった私は泣きながら叫ぶ始末・・・
「もう、やってられない!! こんな鎮守府生活なんかもう嫌だ!!」
そう言って持っていた書類を司令の目の前に投げつけた。
「・・・・・・」
司令は無言で散乱した書類を手に取り、
「ごめん・・・霧島。」
司令が謝っていたけど、
「謝るくらいなら何でもっと早くしないのよ! あなたのせいで・・・あなたのせいで!!」
気持ちのやり場が無かった私は執務室を飛び出し、自分の部屋に戻った。
「ううっ・・・ぐすん・・・うああああ~~・・・」
その日はずっと部屋で泣き叫んでいました。
・・・・・・
あの出来事から司令と私に壁が出来ました。
最も顔を見る事すら嫌だった私は、机にホワイトボードを置くなどして司令を見ないようにしていました。
司令は相変わらずの態度・・・「昨日は言い過ぎたかな?」とわずかに思うのがバカらしく感じる程司令が不快でした。
・・・・・・
今日は出撃の日・・・相変わらず司令と私は口すら聞きません。
「皆、分かっているだろうが・・・深追いは無用、小破したらすぐに・・・」
「うるさい! 静かにして!」
司令の話を一方的に蹴り、皆は驚く。
「さぁ、皆行くわよ・・・出撃開始!」
重苦しい空気・・・それでも、私が先頭に出て皆もそれについてきた。
・・・・・・
戦闘で勝利・・・しかし、駆逐艦の1人が小破になってしまい、
「霧島さん、撤退しましょう!」
と、重巡の愛宕さんが撤退を勧めますが・・・
「・・・このまま進軍します、皆・・・私についてきてください!」
「霧島さん! 命令違反になりますよ!」
「・・・・・・」
愛宕さんの言うことは最もです・・・無能とはいえ、一応あれでも司令・・・上司ですものね。
「進軍します・・・嫌なら勝手に撤退してください!」
「・・・・・・」
当然ながら旗艦の命令を拒むことも出来ずに皆は私についてきました。
その時の私は小破撤退をしたくなかった・・・いえ、小破撤退をすれば結局私はあの無能の命令を素直に従っている
口だけ達者な艦娘だと思われていると感じたから・・・
「・・・・・・」
中破撤退でも大丈夫・・・そう、中破撤退でも・・・私はそれしか考えておらず目の前の光景など見てもいなかった。
「霧島さん! 前方に敵戦艦多数!」
愛宕さんの3度目の報告でやっと気づいた私、でも既に遅く敵側は砲撃を開始、駆逐艦と重巡は中破損傷を受けた。
「撤退してください! 今すぐこの海域から出ます!」
私はすぐに撤退指示を出し、皆は海域から離れる・・・それを見届けた後、応戦しながら自分も海域から離れようとした。
「・・・痛っ!!」
突然足に激痛が走る。
「・・・・・・」
海面から潜水艦が複数・・・敵の魚雷により、足の艤装が損傷し・・・移動が出来なくなった。
「・・・くっ・・・」
私は抵抗を続けるが、気づけば完全に包囲されていた。
「・・・・・・」
敵戦艦の主砲が私の目の前に突き付けられる・・・
「・・・・・・」
どうしてこうなったのだろう・・・
運が悪かった? それとも私の計算ミス? ・・・いいえ、違います。
司令の命令に背いた・・・ただそれだけです。
今回ばかりは小破撤退が適切でした・・・あの無能の指示もたまには当たるのですね・・・
もう私は助からない・・・結局私は死ぬんだ、と思いました。
考えてみれば本当はあの時死ぬはずだった・・・それを司令が助けてくれて・・・
・・・そうだ、私を助けてくれたんだ。
そんなことも忘れていました、その命の恩人に私は「無能! 無能!」と・・・
まだ「ありがとう」とも言ってなかった・・・私は最低な艦娘です・・・
目先の事ばかりしか考えていなくて、いつも司令を叱って・・・
司令は私の事が嫌いなはずです、毎日叱っていれば司令も愛想が尽きてしまうでしょう・・・
でしたら・・・私はここで沈んだ方がいいのかもしれません。
私は覚悟をした・・・その時でした。
「ウガアッ!? ・・・アアッ・・・」
突然目の前の敵戦艦が撃沈、周囲を囲っていた敵部隊も一瞬のうちに沈んだ。
「・・・・・・」
何が起きた? 私は最後に沈んだ敵を見た・・・そこには・・・
「し、司令!?」
司令が艤装?を装着してその場にいました。
「大丈夫か?」
司令の言葉に私は無言で首を振り・・・
「そうか・・・お前ら・・・」
司令の表情が険しくなり、
「オレの秘書艦に何してくれるんだ!!」
その怒号の後に持っていた武器を振ったか振っていないかわからない位の速度で敵を斬り捨てた。
「・・・・・・」
あんな巨大な剣を振るそぶりをせずに敵を斬るなんて・・・相当の剣術でした。
瞬く間に敵を全滅させ・・・
「立てるか?」
司令は手を差し伸べてきて・・・
「・・・・・・」
司令の手を掴むと担いでもらい、
「帰ろう・・・鎮守府へ。」
司令と一緒に鎮守府へと戻った。
・・・・・・
帰還後、私はすぐに入渠場へ・・・
「・・・・・・」
入渠時間は・・・約8時間。
「・・・・・・」
もちろん、私の命令無視の問題が無くなるわけではありません。
本来ならば命令無視で解体だって有り得る事・・・私の寿命が少し伸びただけです。
「・・・・・・」
司令は怒っているでしょうか・・・怒っていますよね?
散々当たり散らした私が大破で入渠ですもの・・・「お前は口だけ達者か?」なんて言うでしょうね・・・
やれやれ・・・今度は立場が逆ですか・・・でも、仕方がありませんよね・・・
その時の私はどんな処罰を受けるのかしか考えていませんでした。
・・・・・・
処罰は・・・ありませんでした。
むしろ私が無事だったことを自分の事のように喜んでいました。
「申し訳ありません」とだけ言って私はそのまま部屋に戻りました。
それ以降、私は司令の事を「無能」と言わなくなりました。
理由は特にないです・・・何故か言わなくなっただけです。
恐らく司令の思いがけない一面を見て、私の考えが変わったのが一番の理由かもしれませんね・・・
しばらくして、駆逐艦の村雨さんに思いもよらぬ事実を知らされました。
それは司令が深夜にいないことに気付いた時です。
それをたまたま村雨さんに話したら、
「霧島さん・・・今まで知らなかったんですか?」
と、驚かれたと言うか呆れられたと言うか・・・
「秘書艦なのに、提督の事を全く知らなかったんですね。」
「・・・・・・」
駆逐艦に言われると頭に来ていた私もこの時はなにも文句を言えず、
「今日の深夜にまたここで会いましょう。」
と、言われ疑問に思いながら深夜まで待つことにしました。
・・・・・・
深夜・・・
食堂で村雨さんと落ち合い、執務室へ・・・
「確かここに・・・」
村雨さんが司令の机の引き出しを物色して・・・
「あった・・・ありました。」
見つけた物は分厚いノート?
村雨さんに渡されてノートを開く。
「・・・・・・」
何これ? 各海域の敵情報・・・この海域に潜水艦、ここでは戦艦と空母・・・しかも時間帯で艦種が変化するって・・・
司令はどうしてこんな情報を・・・?
更にページをめくって行くと、
今月の資材の在庫数と高速修復材・・・徐々に資材は増えて行っていくのがわかるけど、高速修復材は出撃回数が多い割には
数がマイナスになったことがない・・・むしろここ半年で2,300個確保できている状態・・・
「・・・・・・」
知らなかった・・・司令は海域を独自に調べていたってことですよね?
「提督は毎日深夜に「副業」をやりに行っています。」
「・・・副業?」
えっ・・・副業? どうして? 何で提督業をしているのに副業なんて・・・
「本当に知らなかったんですか・・・霧島さん?」
「・・・・・・」
知らないです・・・だって司令はそんなこと一度も・・・いえ、私が聞かなかっただけ・・・が正しいですね。
村雨さんから聞いた内容・・・提督は中途着任したために上から叱責を受け、提督として認められず給料を
支払われない状態だったこと・・・それで、深夜に「副業」と称して毎晩留守にしているのだと言う。
そして、ノートに書いてあった海域情報は、あらかじめ司令が副業のついでに個人で調べた敵情報だった。
小破撤退を命じていたのは、損傷を軽くして資材を節約、練度の低い艦娘たちを順々にレベリングするための作戦。
進軍先に伏兵や強敵が潜んでいる事も全て考慮して判断していたのだと言う・・・
「・・・・・・」
全く知らなかったです・・・私はずっと目先の事・・・戦果の事しか考えていなかったから・・・
朝から晩まで執務作業・・・朝・昼・夜の皆の食事作り・・・そして、深夜の「副業」・・・
「嘘・・・このスケジュールでは休む暇なんてない・・・」
私は愕然とした・・・
「後、提督に渡すように頼まれました・・・」
村雨が霧島に渡したもの・・・それは、
「他鎮守府異動許可書」
「・・・・・・」
しかも、異動場所は・・・あの有名なエリート鎮守府、戦績は常に上位で金剛お姉さまもいる施設・・・ここより遥かにいい待遇
に違いない・・・と思った。
「・・・・・・」
霧島は悩んだ・・・自分の提督に対しての誤解、そしてこれからは提督を支えて行こうと決めたばかりの最中に
金剛がいる且つ戦績上位の鎮守府の異動許可書・・・
「・・・明日までに答えを出そう。」
霧島は許可書をしまうと部屋に戻った。
・・・・・・
翌日、霧島は非番であった。
久々の休日・・・霧島は久しぶりにと外出をする。
そこで、ある人と出会い・・・
・・・・・・
「司令・・・この異動許可書ですが・・・」
霧島は提督に書類を見せ、
「ああ、行くんだろ? まぁ、そこの鎮守府で頑張ってくれ。」
「・・・いえ。」
「ん?」
「私は・・・この鎮守府で働きたいのです。」
そう言って霧島は目の前で許可書を破り捨てた。
「その・・・今までずっと・・・ご、ごめんなさい!」
「・・・・・・」
「司令の事を全く分かっていませんでした・・・ずっと戦果の事ばかりしか見ていなくて・・・」
「・・・・・・」
「これからは周りをしっかり見て、司令を全力でサポートしていきたいと思いますので・・・お願いします!
私をこの鎮守府に居させてください!」
「・・・ふむ。」
「・・・・・・」
「いいけど・・・知っての通りオレは肩書きには興味がないから・・・出世は出来ないぞ、それでもいいのか?」
「はい、構いません!」
「わかった、じゃあ今日はもう遅いから、明日からまた秘書艦をよろしく頼む。」
「はい・・・お任せください!」
司令は私を、この鎮守府に残ることを許してくれました。
・・・・・・
それからまたいつもの1日が始まった。
戦果の事はひとまず置いておいて、周りの状況を判断しつつ秘書艦に従事していました。
最近では鎮守府の皆の練度が目標に達し、大規模な改装を行いました。
「皆改装は終えたな・・・更なる活躍を期待する、今日から中破撤退に引き上げる、各員頑張ってくれ!」
小破撤退を続けていたのは皆の改装練度に達するのを待っていたため・・・
司令は無能ではなかった・・・皆の事を第一に考えていただけでした・・・
私が出した書類に手を出さなかったのも、全て上に提出する書類・・・
提督として認められていないのだから、上の指示に従う必要がそもそも無いですよね・・・
提督の会議でも相変わらず誹謗中傷の嵐・・・最初は周りの提督に同調して私も「無能」と思っていましたが、
今では全く思っていません、それどころか意外にも周りが「無能」に見えてきたのです。
司令は周りの罵声に全く動じません、「この程度を気にしていたら提督などやってられない!」と・・・
確かに・・・逆に吠えてる周りがむしろ、弱虫に感じます。
・・・・・・
鎮守府生活は出世を望まなければ、いい待遇の場所です。
「・・・・・・」
金剛お姉さまは元気でやっているでしょうか・・・
・・・あの時、
「霧島~! 元気でやってた?」
「こ、金剛お姉さま~!!」
外出先で出会ったのは金剛だった。
「良かったね~・・・秘書艦が大変だって聞いていたからネ~。」
「いいえ、そんなことありませんよ! 私は何とかやっています・・・それよりも・・・」
霧島は金剛の顔を眺める。
「その顔の傷は・・・どうしたのですか?」
「ああ、これネ? さっきそこで転んで擦りむいたネ~!」
「そうですか・・・今度から気を付けてくださいよ。」
「わかってるって~! じゃあ霧島も秘書艦頑張るんですヨ~!」
そう言って金剛と別れた霧島、
「・・・・・・」
擦りむいた割に怪我の大きさが気になった霧島・・・
・・・・・・
後日、あの鎮守府に着任していた艦娘から事情を聞いた。
あの鎮守府は俗に言う「ブラック鎮守府」で、艦娘たちは満足に休むことを許されずに毎日疲労が溜まっていても出撃させられる
重労働・・・途中で大破した艦娘たちは入渠もせずに簡単に「解体」させられてしまうとか・・・
しかも、提督は非常に暴力的で、任務を失敗するものなら誰にでも暴力を振るうと・・・恐らく金剛も殴られて顔に傷を負っていた
と見える・・・エリート鎮守府は表向きで、実際は戦果だけしか求めない強欲提督の巣窟だったという事・・・
艦娘の事を兵器か道具としか見ていない待遇に霧島は耳を疑った。
それを知って霧島は異動をやめたのである。
・・・・・・
「あの・・・司令。」
霧島はどうしても聞きたいことがあり提督に尋ねる。
「ん、どうした霧島?」
「私たち艦娘の事を司令の視点でどのような考えをお持ちですか?」
前に提督に説明した艦娘の意味・・・世界のために戦う兵器だと・・・あのエリート鎮守府の待遇は確かに酷いがあながち間違いではない。
兵器に同情する理由がなく、使えなくなった兵器を捨てる行為は間違っていない・・・
故障したり、上手く稼働しなければ叩くことだってある・・・でも、艦娘と言うのは完全な兵器ではない・・・
女として生を受けた、もう一つの命が宿っている。
「怖い」 「悲しい」等の感情を持つ兵器とは言い難い存在・・・提督はどう思っているのか・・・
「う~ん・・・そうだなぁ・・・オレから見れば「女」かな。」
「・・・女ですか?」
「うん、だって兵器や道具ってそもそも「恐怖を感じない」 「命令に従う」 「感情を持たない」だからな。」
「・・・・・・」
「部屋に置いてあるテレビだって、「電源入れて動く」ただそれだけだろ?」
「・・・・・・」
「テレビが故障していたら、叩くか修理に出すだろう? それが道具であって、この世界では兵器と言うんだろ。」
「・・・・・・」
「でも、艦娘って・・・その3つが当てはまっているか? 「怖いと口走る」 「命令無視する」 「感情を持っている」・・・
3つとも該当しないだろう?」
「・・・・・・」
「それから判断して、艦娘と言うのは兵器ではない・・・「女」とオレは思っている。」
「・・・そうですか。」
「・・・まぁ、霧島たちが「兵器」として扱って欲しいなら、そうするが?」
「いえ・・・司令の思う「女」と判断して今まで通りにやって下さい。」
「わかった。」
そう言って提督はまた仕事に没頭した。
・・・・・・
その後のこの鎮守府の待遇は変わらず、私たちは順風満帆な生活を送っていた。
最近になって、「更なる改装」が可能になり、駆逐艦の夕立さんや金剛お姉さまが晴れて「改二」になれたとか・・・
金剛お姉さまはあのブラック鎮守府から異動になり、今では普通の生活を送れているとか・・・
「霧島。」
司令に呼ばれ、
「霧島に更なる改装が可能になったのだが・・・どうする、受けるか?」
「・・・はい、お願いします!」
「わかった、じゃあこれを持って工廠場へ行ってこい!」
提督から改装許可書を渡され、霧島は工廠場へと向かい・・・
・・・・・・
「霧島! 更なる改装でさらに強くなりました!」
「おめでとう! 霧島、更なる活躍を期待する!」
「お任せください、司令!」
こうして私は新たな自分に生まれ変わった。
・・・・・・
・・・
・
「あれから年月が経って、今に至るのですね。」
霧島はお茶をすすりながら、月を眺める。
「ああ、長かったような短かったような・・・」
提督も月を眺めながら答える。
「司令・・・今更ですが・・・もう1つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「? 何だ?」
「その・・・練度が最大になった方から順に・・・指輪を渡していますよね?」
「ああ、そうだが・・・最初はお前だったよな?」
「はい・・・次に村雨さん、秋月さん・・・次にサラトガさん・・・」
「・・・それがどうかしたか?」
「いえ・・・指輪を渡すと言う行為は・・・「好きになった艦娘」に送るものですよね? 司令の考えに否定はしませんが・・・」
「まぁ、そうだな。」
「つまり・・・全員が好きだってことですか? それとも、指輪の意味を知らなかったってことなんですか?」
「・・・・・・」
提督は少し考え、
「もし、霧島・・・お前にだけ指輪を渡したらその先どうなる?」
「えっ?」
「お前が今言ったように「好きになった艦娘」に送るなら、普通なら「愛した1人の艦娘に指輪を渡す」が正しいと言いたいのだろう?」
「はい、そうだと思っています。」
「もし、愛した艦娘と他の艦娘と編成を組み、戦闘中に全員が大破した場合、誰を優先に助けようとする?」
「・・・普通なら、「指輪を渡した愛した艦娘」ですよね?」
「そう、つまりその時点で「愛した艦娘のみ」を優先してしまうわけだ。」
「・・・・・・」
「指輪を「渡された」のと「渡されていない」、ただそれだけの違いで優先順位に差が出る・・・もし、お前だったら許せるか?
霧島が「渡されていない」側だったら・・・仕方がないと割り切れるか?」
「・・・・・・」
確かに・・・それだけの違いで扱いが変わるなら・・・嫌かもしれません。 「渡されていない」側の気持ちを考えていなかったです。
「オレは皆を何の分け隔てもなく大切にしたいし、差別をする気もない・・・もちろん、艦種だってどうでもいい。」
「・・・・・・」
「オレから言わせれば「指輪」は必要ないんだ、むしろ無くてもいい位だ。」
「・・・では、なぜ渡してくれたのですか?」
「更なる練度向上と生存率を上げるため・・・そして・・・」
「そして?」
「皆が・・・大好きだからだ。」
「・・・なるほど。」
霧島は納得して、
「わかりました、何か私の胸の靄が晴れました・・・ありがとうございます!」
「そうか・・・でも、勘違いしないで欲しい。 霧島の事をオレは・・・」
「わかっています、それは私も・・・同じ気持ちですので・・・」
「・・・・・・」
「では、明日の仕込みの続きをやってきます!」
そう言って霧島は厨房へと向かった。
「・・・・・・」
提督は霧島の後姿を見つめていた。
・・・・・・
翌日、
「さぁ、今日も朝から忙しくなりますよ! 皆、今日も1日頑張って行きましょう!」
霧島の号令と共に今日の仕事が始まった。
「遠征組のお客様が来店しました!」
「了解! 司令、早速調理お願いします! 秋刀魚定食とから揚げ定食に・・・」
霧島は今日も元気よく、提督と皆のために頑張るのだった。
「霧島の思い出」 終
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