2017-05-24 20:58:30 更新

概要

秋月がこの鎮守府に来たいきさつを回想するお話。



前書き

サブストーリーです。


「司令! 朝ごはん用意いたしました。」


提督の前におにぎり二つとたくあんが置かれた。


「すいません、簡単なもので・・・」


秋月は申し訳なさそうに謝るが、


肝心の提督はおにぎりを頬張っていた。


「うん、昆布が入ってる。 うまいうまい。」


「本当ですか、ありがとうございます。」


秋月は喜ぶ・・・それと同時に、


「司令は気づいているかな・・・」


今食べているおにぎり、それが秋月と司令が知り合うきっかけになったことを・・・




・・・・・・


(ここから回想)



「おにぎりいかがですか?」


私は握りたてのおにぎりを売っていました。


「出来たてですよ! いかがですか?」


私は何度も言いましたが・・・


「・・・今日も売れませんでした。」


たくさん残ったおにぎりを包むと、秋月は鎮守府へと戻る。



「申し訳ありません、今日も全く売れませんでした。」


私は司令に謝る。


「今日もか・・・何回目だ?」


「・・・・・・」


「全く・・・身寄りのないお前を引き取ったのはこの私だぞ! もっと役に立て!」


「・・・申し訳ありませんでした。」


「・・・下がっていい」


秋月は執務室から出て行った。



「・・・・・・」


防空駆逐艦秋月・・・彼女は駆逐艦でありながら、対空性能は艦娘の中でもトップであり、使う提督も


多くいるだろう・・・しかし、それを除くと平凡で、唯一のメリットは食が細いことだろう。


この鎮守府は空母機動部隊のみのため、駆逐艦を雇わない場所だが、


対空トップの性能と食が細いために資材の節約になるだろうと特別に着任させた。


直後にボーキサイトが枯渇、出撃ができなくなった。


そこで秋月に資金を稼いで来いと命令をしたのである。


「・・・・・・」


でも、支給されたのは、ご飯と複数のおかずのみ。結果おにぎりくらいしか作れない。


海外艦も着任し、昔ではなかった洋食が定番となったこの時代、おにぎりを買う者はいるだろうか・・・


食のありがたみを一番わかっている秋月だが、その気持ちは贅沢ばかりしている人間たちには


到底届かなかった・・・



・・・・・・



半年に一度、提督達が集まるイベントがある、それが・・・




”グルメ試食会”




提督達が普段鎮守府の食堂で食べている一番人気の食べ物を提示し、人気を競い合うイベント。


一番人気があった鎮守府には賞金が貰える。


主に各鎮守府の艦娘たちが食べ物を紹介・説明を行う。 参加した提督達が集まって投票するというもの。


秋月の鎮守府も参加することになっているが、人気は悪く、売り上げも悪い。


今回も秋月が参加するが、提督からは「売り上げがなければ解体する」と宣告されていた。


秋月にとっては最後のチャンスとなる勝負である。



・・・・・・



朝から提督達が一斉に各売店に並ぶが・・・秋月の店には誰一人来なかった。


・・・おにぎりしかないのだから仕方ないと言えばそれまでなのだが・・・


「・・・全く売れません・・・」


秋月はため息をつく。


「おいしいのに・・・」


そう言って一人で握ったおにぎりを食べる。


「・・・・・・」


しばらくして、


「!?」


秋月の前に一人の提督が立っていた。


「・・・おにぎりを一つ貰おうか。」


秋月は驚き、


「あ、はい! どうぞ!」


並べてあるおにぎりを出した。


「どれがおすすめかな? 君のおすすめを一つ貰おうかな。」


「おすすめですか? そうですね~。」


秋月は考えてすぐに、


「昆布がいいです。 今なら炊き立てのご飯に昆布を入れてあるので、おいしいですよ。」


と、提督におにぎり(昆布)を差し出した。


「100円です・・・お買い上げありがとうございます!」


笑顔で言う、たった1つでも売れたことに嬉しい秋月。


「100円・・・安いな・・・これで元は取れるのか?」


提督からの質問に、


「一律100円にしているんです・・・そうすればたくさん買ってもらえるかな・・・って。」


「・・・・・・」


2人の会話に提督の秘書艦”霧島”がやってくる。


「司令、ここにいたんですね・・・」


探していたらしく、霧島は汗をかいていた。


「ちょうどよかった。」


提督の言葉に霧島は首を傾げる。


「おにぎりは全部で何個あるかな?」


提督の質問に、


「え~っと・・・全部で999個あります。」


「じゃあ全部貰おうか。」


「!? 全部ですか!?」


「そう、全部・・・何かまずいか?」


「えっ・・・いいえ! お買い上げありがとうございます!」


秋月はおにぎりを急いで包む。


「あ、霧島、 全部持ってね。」


「ふざけないでください。」


「・・・・・・」


「というか、こんなにおにぎり買ってどうするんですか!?」


「鎮守府にいる皆で食べればいいだろ?」


「せっかく”グルメ試食会”に来たのに、おにぎりだけって・・・」


「そんなこと言うな、うまいぞ、このおにぎり。」


霧島の有無を聞かず口におにぎりを突っ込む。


「・・・・・・」


「どうだ?」


「あら、おいしい。」


霧島の顔が朗らかになった。


「では、お会計・・・99900円です・・・」


「はい、おつりは取っておいて。」


そう言って100万円置いていく。


「!? あの!」


「梱包、手数をかけた分含んでいるから・・・」


「あ、ありがとうございます!」


霧島に半分持たして提督は去っていった。




「全部売れちゃいました・・・」


秋月は喜ぶ。


「これで解体は免れますよね?」


秋月は鎮守府に戻る。



「お~、よくやったな~」


司令は上機嫌でした。


「やればできるじゃないか、この調子で次も頼むぞ。」


「はい、お任せください!」


解体の話はどこに行ったやら・・・司令は売り上げの資金を見ながらニヤニヤしていました。



・・・・・・



夜、何故か眠れなくて起きた私は、鎮守府内をうろついていました。


執務室に明かりが・・・司令が徹夜している?


「・・・・・・」


私は執務室を除いた。



「今日の売り上げはよかったよ。」


「秋月さんが? へぇ~、すごいですね。」


司令と秘書艦が話していました。


「これで、鎮守府の資材は確保できますね。」


「いや~それがそうも行かずな・・・」


司令の話によると、上司に借金をしているようで今日の売り上げは全てそれに回したようです。


「どうするんですか? また出撃できないじゃないですか!?」


「なぁに、またあいつにやらせればいいさ。」


「秋月さんに? 提督、あんまりではないですか?」


「ならお前がやれ。」


「・・・・・・」


秘書艦が無言になる。


「・・・・・・」


秋月がさらに聞いていると、


「そうだなぁ、おにぎりというショボい物を売るのをやめさせて・・・」


「・・・・・・」


「いっそのこと、体でも売って稼いでもらうか?」


「!?」


秋月は背筋が凍った。


「一応あれでもスタイルはいいだろうからな・・・そうだな、明日にでもお偉方に可愛がってもらおうかな。」


「・・・・・・」


それを聞いて秋月は部屋に戻った。



・・・・・・



「そんな・・・」


秋月は泣く。


「私は今まで何のために・・・」


司令に叱られ、それでも我慢して頑張って・・・鎮守府のために尽くしてきたのに・・・


「・・・・・・」


気持ちのやり場がなかった私はそのまま鎮守府を飛び出した。



・・・・・・



「はぁ・・・はぁ・・・」


どのくらいの距離を走ったのでしょう・・・


鎮守府が見えなくなり、着いた先は海でした。


「・・・・・・」


結局私は・・・いいように・・・利用されていただけだったんだ・・・


「鎮守府が大変だから秋月、助けてくれ。」


なんて言ってたのに・・・


「・・・・・・」


売り上げがあったから解体は免れた・・・でも、本音を言うと今の気持ちは解体の方がよかったかも・・・


「・・・・・・」


解体されていれば、こんな悔しい気持ちにならずに済んだだろうし、


こんな苦しい気持ちにならずに済んだはず・・・


「・・・・・・」



もう、いいや・・・もう私は・・・疲れました。



秋月は自ら海に飛び込んだ。





ああ・・・



海の中は・・・寒いと思ったけど・・・意外に温かいんですね・・・



・・・・・・

・・・




「・・・はっ!」


目覚めた時はベッドの上にいました。


「・・・・・・」


当然私にはその記憶がありません。



確か私は・・・海に飛び込んで・・・そのまま・・・



「・・・・・・」


考えていると、


「!?」


目の前に人が現れ、


「大丈夫か?」


あの時、試食会でおにぎりを全部買ってくれた司令がいました。


「あ・・・あの。」


「海辺で倒れているのを見かけてな・・・ここまで運んできた。」


「・・・・・・」


「ゆっくり休むといい。 何かあれば呼び鈴を鳴らせばすぐに向かう。」


そう言って提督は部屋から出ていく。


「・・・・・・」


秋月はまた眠った。



・・・・・・



鎮守府からの捜索願いが出ていない・・・私は、結局鎮守府のお荷物だったってことかな・・・



「・・・・・・」


ここの司令は一時的に「保護として」私を居させてくれました。


でも、ただで住もうと考えてはいなかったので、せめて朝食だけはと毎日の朝、私がおにぎりを握っていました。


意外とこの鎮守府ではおにぎりが好評でした、うれしかったです。


いつの間にか、朝食係を頼まれるようになりました。



ある日のこと、


「出撃しないか?」と司令に言われました。


「はい、司令の命令なら私はそれに従います!」


「そうか、なら・・・」


司令は編成を考え、


「今日から主力部隊の編成に参加してもらう、お前の働きに期待する!」


「お任せください! 司令!」


私は、主力部隊へ配属されました。



・・・・・・



「秋月さん、すごいです。」


「敵艦載機をどんどん落としちゃうんだからね~。」


秋月の本来の性能がこの部隊で活かされていた。


「・・・・・・」


秋月自身にもある決心が芽生えた。



「司令! あの・・・」


「? どうした秋月?」


「私をこの鎮守府にいさせてください!」


「・・・・・・」


しばらく沈黙が続き・・・


「・・・わかった、これからもよろしく。」


「あ、ありがとうございます!」


正式にこの鎮守府の艦娘として認められました。



・・・・・・



鎮守府の生活に馴染んできたころ・・・


「司令・・・朝ごはんが・・・」


と、扉を開けようとしたら、


「・・・・・・」


どうやら誰かとお話ししている様子。


私はそのまま食堂に戻りました。




その時は運が良かったのかもしれません・・・




前の鎮守府の司令が凄い剣幕で執務室に怒鳴り込んできたようです。


「大切な艦娘をお前に奪われた」と叫んでいたらしく、私を迎えに来てくれた? と思っていたら、


徐々にお金の商談に変わり、最終的に1億円払えと要求されたようです。


「・・・・・・」


予想はしていましたが、ここまでひどい人間だったとは・・・もう未練がありませんね・・・


最終的に、ここの司令は本当に1億円払い、商談は成立したことの経緯を後で知ったのですが・・・


1億円・・・そんな・・・私のせいで司令に多大な迷惑を掛けてしまいました。


とても一生掛けて払うことのできない金額・・・私、どうしたらいいの?


「・・・・・・」


朝、いつものように司令に朝ごはんを届けに行く。


「・・・・・・」


執務室に入り、司令の前に置く。


「おお、今日は何の具が入っているかな・・・」


司令は楽しみな顔を浮かべる。


「・・・・・・」



司令は何も言わない・・・気を遣ってます? それが逆に心が痛かったです。



「司令! 申し訳ありませんでした!」


堪えきれずに私は謝罪した。


「・・・・・・」


もちろん謝ったところで1億の損害がなくなるわけじゃありません。


「? どうしたの?」


「・・・・・・」


気づいていない様子で、私は胸の内を話しました。


「ああ、それね。」


司令は何故か苦笑いをする。


「まぁ、確かに払ったけどね。」


「申し訳ありません・・・」


「別に安いもんだ、気にするな。」


「そんな・・・私なんかのために!」


「まぁ、払わないと秋月を返せとか、訳の分からんことを言っていたもんでな。」


「・・・・・・」


「1億でケリがつくなら安い商談だったよ。」


「・・・・・・」


「それに・・・」


「?」



その時言った司令の言葉が今でも覚えています。






お前がいなくなったら誰がおいしいおにぎりを作ってくれるんだ?






「・・・・・・」


「うむ・・・お、今日は鮭入りか~」


司令はおいしそうに食べ始めました。


「・・・・・・」


しばらく司令を見ていた後、


「失礼します。」


私は執務室から出ました。




廊下で霧島さんと鉢合わせになり、


「あ、秋月さん。ちょうど探していたのよ!」


「?」


「今から遠征に行くから皆のおにぎりを今すぐ用意してくれないかしら?」


「・・・・・・」


「皆言うのよ、秋月さんのおにぎりが食べたいって。」


「・・・・・・」


「30分後に出発するからすぐにお願いね!」


「・・・・・・」


「後、主力部隊から連絡が入って、1時間以内に対空武器を装備して応援に駆けつけてほしいって。」


「・・・・・・」


「ほらほら、皆待っているんだから。 こんなところで落ち込んでいないで、ね。」


「・・・・・・」



皆、私を頼ってくれている・・・こんなところで落ち込んでても仕方がないですね。



「わかりました! 秋月! 皆のために頑張らせていただきます!」



・・・・・・



(ここから現実)



「司令はさすがに忘れていますよね・・・」


と、おにぎりを食べている司令を見つめる。


「・・・・・・」



でも、いいんです。 私、この鎮守府で働けて・・・幸せですから。



「・・・秋月。」


「はい? 何ですか?」


司令に指を出すように言われ、私は首を傾げながら出しました。


「・・・司令、これって。」


左手の薬指に入れられた指輪・・・もしかして!?


「練度最大おめでとう・・・そして、毎日おにぎりを作ってくれてありがとう。」


「・・・・・・」


「これからも、この鎮守府とオレを支えてくれ。」


「・・・・・・」





司令・・・






「はい、秋月! これからも、司令と皆のために精一杯頑張っていきます!」









「提督と秋月」 終



後書き

書いた私が言うのもなんですが・・・おにぎり食べたくなりました(笑)
シーチキンとねぎとろが好きです。

ちなみに、秋月が好きなので・・・外出の際は秋月絵のポーチを持って行きます(笑)


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このSSへのコメント

2件コメントされています

1: Abcdefg_gfedcbA 2017-05-10 23:42:03 ID: MrrQrcrX

秋月が救われて好き。かわいいのでもっと好き

2: キリンちゃん 2017-05-31 10:44:13 ID: mUbIVKn0

Abcdefgさんコメントありがとうございます。
確かに秋月はかわいいです。一時期秘書艦にして
時報と声を聞いていましたが、ほっこりしてました~
「大丈夫」って言葉を掛けられて本当に大丈夫な気持ちになれます。


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