一色いろは・被害者の会7~怒涛篇(中間)~
いろはすSSです。更新が超遅れて本当に申し訳ない。気長に付き合っていただければ幸いです……/ってな訳で物語は文化祭編。それぞれの思惑が激しく交錯するようなしないような、熱血バイオレンス会議SS巨編・再開ッ!
シリーズものなので、初めての方は↓からどうぞ。
一色いろは・被害者の会 ~黎明篇~
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~前回までのあらすじ~
総武高校が一色いろはを生徒会長に戴き、既に一年が経とうとしていた。
――いろはす世紀001年。
早くも腐敗、堕落の極みにある生徒会長を粛清すべく、八幡・戸部・副会長の三人は『一色いろは・被害者の会』を名乗り生徒会に独立戦争を挑むのであった。
そんな訳で、いろいろやってる内に近づいてきた文化祭。
夏休みを経てさらに団結を深めた生徒会メンバー達は、一糸乱れぬ布陣でこのビッグイベントを迎え撃つ。
だが、流転する歴史の波は彼らの安寧を許さない。
よんどころない事情でロングホームルームを欠席した八幡は、前年同様、不在の内に文化祭実行委員に任命されてしまう。
思わぬ場所から生じた綻び。
しかしそれはまだ終末の序曲に過ぎないのであった……
前回 一色いろは・被害者の会7~怒涛篇(前半)~
忘れた人はもう一回読もうね!
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……というわけで、文化祭実行委員になってしまった俺である。
困った……一色や副会長にあれほど念を押されたというのに……
会議室までの道中、あれこれ言い訳を考えながら歩く。
まあ、こうなったのもほとんど顧問が悪いのだが、俺の方に一切瑕疵が無いかと言われればそこは辛いところだ。
……そもそも昨日夜更かしさえしなければ、こんな事態には陥らなかったのだから。
受験勉強と生徒会の両立だけでも結構な負担だというのに、その上アニメの消化まで己に課したのは大きな誤ちであった。
以前から気にはしていたが、自分に厳し過ぎるというのもまったく考えものである。
今後はもっと自らに優しく、充分に甘やかしてあげなければ……もうほんと自分で自分を褒めてあげたい。
また、我褒めだけでは承認欲求は満たされない。
小町や戸塚などにも言い含め、包括的な対処が必要になることは論を俟たない。
……さて、反省点と今後の指針も明確になった訳だが、文実委員になってしまった現実は依然立ちはだかっている。
くそ、なんて社会だ……現実逃避すら許されないというのか……
はぁと思わず溜息が出てしまう。
真面目な話、自業自得というだけならまだ良いのだ。
しかし、生徒会の足を引っ張ることになりかねない……という事態は思いのほか心苦しい。
被害者の会としての自分。末席なれど生徒会の一員である自分。
上では冗談めかしたたものの、これらの立場が、自分でも意外なほどに重くのしかかっていることに気付く。
……その重さが決して不快ではないことも、罪悪感に拍車をかけた。
だが、それにも増して引っかかるところがある。
かつて一色と交わした言葉が脳裏をよぎった。
―― 近くで見てないと、先輩は見逃しちゃうかもしれませんけどねー
―― 先輩に……見て欲しいんですから
―― 先輩にも、いつか見せてあげます、だから……
折りに触れ、一色が俺に"見て欲しい"と言ったこと。
……そろそろ履行される予感がある。
その内容は相変わらず全く見当もつかないのだが、この文化祭に照準を合わせていることだけは近頃の様子から窺い知れる。
一色が何かをする。
俺はそれを見届ける。
曖昧ながら――しかし半ば契約のようなこの取り決めこそが、今の俺と一色を結びつける一本の線になっているのだ。
生徒会から離れてしまうと、間近で見ることが叶わないかもしれない。
それは本件で生徒会メンバー達に非難されるより、俺にはよほど堪えてしまうことなのだ。
「……」
……とはいえ、だ。
顧問曰く「一番近くで生徒会を助けられるポジション」というのも、あながち間違いではない。
一色が文化祭で何かをしでかすつもりなら、実行委員という役職はお誂えの立ち位置ともいえよう。
まだまだ、どうにでも修正できる余地はある。
当面はやはり一色、ならびに生徒会役員どもの非難をどう躱すかに尽力した方が良さそうだ。
大丈夫、俺ならできる。
既にプランは建てている。……あとは実行するだけだ。
頭を切り替え、心持ち背筋を伸ばすと視界も広がっていく。
……が、見上げた先に居る男の姿に、早くもボキリと背骨が折れそうになってしまう。
「はっ、はわわっ!?八ま…………ふ、フンフ~~ン♪」
その男は、俺に気付くとハッと一瞬肩を上げて驚くものの、すぐに平静を装い再びノッシノッシと歩を進める。
いつものように鬱陶しい絡まれ方をすると思ったが、その男――材木座義輝は、まるで俺のことなど目に見えていないかのような素振りを見せる。
そして、そのまま俺を横切って交差する瞬間、耳元でそっと囁いてきた。
「――貴様、能力者だな?」
「――ッ!?」
思わずババっと後ろに格好良く飛び去ってしまったが、すぐに正気に戻るとサブイボの立った腕を見せてやる。
ちょっとホントそういうの止めて……
「見ろお前、鳥肌が立っちまったじゃねぇか……」
「ふはは、これはしたり!……いや何、我は今日ずっと眠くてな……あまり気の利いた挨拶が咄嗟に思い浮かばなかったゆえ、少しやっつけ仕事になった」
ふんすと鼻息を鳴らしたのち、材木座はちっとも申し訳なさそうな様子でガハハと豪快に笑う。
毎回毎回、そんなに凝らなくていいのだが……普通にしろ、普通に。
「お前も寝不足かよ……なんだ、昨日は遅くまで勉強でもしてたのか?」
「ふむ、それもあるが……今日はてっきり台風で休校になると思っていたのでな。絶好の機会であるので、我は積んでいたアニメを夜通し消化していたのだ」
「……」
「最終回まで見終えて、若干ウルウルしながらカーテンを開けると、絶望的なまでに鮮烈な朝日が我を迎えておったという次第よ……」
「……そ、そう」
「ふむ、受験勉強と創作活動の両立だけでも結構な負担だと言うのに、アニメの消化まで己に課したのは不味かった……自分に厳し過ぎるというのもまったく考えものよ。体調管理も受験生の務め……今後は自愛に自愛を重ね、思いっきり我自身を甘やかして過ごそうと思う」
「……」
材木座……なんてみじめであわれな生き物……
しかし、あまり認めたくない現実ではあるが、こいつとは思考・行動パターンに類似するところがあるようだ。
あるいは単にぼっちの収斂進化の結果なのかもしれないが。
「保健室で休もうかとも思ったが、不在なのを良いことに実行委員になどされたら堪ったものではないからな。今までなんとか根性で起きておったのだ……ファホン(欠伸)それにしても眠たいのう……はー、我寝てないわー、二時間しか寝てないわー」
「……ふ、ふーん……」
だが危機管理意識においては、こいつの後塵を拝していたようで、まこと慙愧の念に堪えない。
言い知れぬ敗北感に打ち震えていると、材木座は怪訝な顔を向ける。
「八幡、まさか貴様……今年も実行委に……?」
「言うな」
「えぇーー……ちょっと脇甘くない?我の知ってる八幡は、それはもう絶対に突き崩せぬ強固な『心の穴熊』を築き上げていたものだが」
「まあいろいろあってな、今年もなっちまったんだよ……せめての救いは、当分お前のくだらん小説を見ている暇も無いってことだけだ……」
「辛辣ぅーっ!」
……と、材木座は手を交差して後ろにのけぞる。
だがすぐに立ち直したのか、例のグローブから伸びた指で眼鏡をくいっと引き上げた。
「といっても貴様の場合、もはや天命としか思えぬが……しかし我からすると実は羨ましくもあるのだ」
ん?……どういうことだろう。
こちらも訝しげな視線を寄越すと、材木座は廊下の窓に目を向ける。
そして、らしくもない寂しげな顔で訥々と語りだした。
「ふむ……我が将来、アニメの制作進行の職に就きたいというのは、貴様も承知していたと思うが……」
承知してないんだよなぁ……
だったら折に触れて渡される、あの小説のなりそこないみたいな原稿は一体なんだというのか……
「我は昨夜『SHIR○BAK○』を一気に最後まで鑑賞してな……いや、実に良かった……皆がそれぞれに努力し、個々の特性を活かし、時に苦悩しながらも一つの作品を完成させていく……あれを見て、アニメの制作進行こそが己の天職ではないかと思い至ったのだ」
「いや、絶対無理だろ」
「し、辛辣ぅーっ!……いや、しかし我は絵もCGも描けぬし3Dも無理!当然音楽なども奏でられん!ぶっちゃけ、これといった面白い話も思い浮かばぬ……!」
いや、最後のそれ思い浮かばないのかよ……
だったら折に触れて渡される、あの小説のなりそこないみたいな原稿は一体なんだというのか……
「そんな我がアニメに携わろうと思えば、制作進行しかないではないかっ!」
「お前、あのアニメの何を観てたんだ?制作進行のみゃーもり(※主役)はコミュニケーション能力の塊だったろうが。……つまりお前の対極にある人間だ」
「ひいっ!?あえて直視しなかった現実を貴様……!ひっひっふー!ひっひっふー!」
ずばり指摘してやると、材木座は何故かラマーズ呼吸法を始める。
そんなことをしても産みの苦しみは理解できないというのに……
「と、とにかく、我は『皆で何かを成し遂げる』、その有り様にいたく感動したのだ……この想いだけは貴様とて汚すことは叶わぬ……!」
とまあ、無闇矢鱈に材木座を傷つけてはみたが、言わんとしていることは分かる。
確かにあれは良い作品だったからなぁ……
ひたむきな情熱の美しさ、迫る納期の恐ろしさ、分業のなんたるかを示した実に質の高いアニメである。
ついでに原画の絵師も最高で、とにもかくにも「お仕事アニメ」として近年稀に見る良作なのは間違いない。
もっとも、アニメ制作の実態は「SHIR○BAK○」ならぬ、「BLACK KIGY○U」なのかもしれないが……
「『学校は社会の縮図』というではないか……文実委員なら、その一端に触れられるのではないかと思ってな。少し羨ましくなったという訳よ」
「俺は去年もやってるからな……んな大層なもんじゃねーぞ」
「……とは言っても、去年は貴様も何やらジタバタ忙しくしておったではないか。充実していたのであろう?」
「む……」
「ほれ、最終日など、確か社畜のごとく奔走しておったよな……?ふっ、我の助言がなくば一体どうなっていたことやら……」
そういえば、去年の文化祭もなんだかんだでこいつには世話になってしまったのだ。
バツの悪さと面映さに、頬をポリポリと掻いてしまう。
やがて材木座はふっと柔らかく微笑むと、そんな俺の肩にぽむと手を置く。
「……まあ、また何かあれば我に相談するが良い。及ばずながら助力に参ろう……」
「材木座、お前……」
「八幡が何かをする……我がそれを見届ける。――曖昧ながら、しかし半ば契約のようなこの取り決めこそが、我と貴様を結びつけている一本の線になっているのだからな!」
やめてぇっ……!
いろんな意味で、すごく恥ずかしくなってきたからやめてぇっ……!
っていうか、なんなんだこいつ……さっきから俺の内面を尽くトレースしやがって……
も、もしかして能力者なの……?
「いや、ねーから、そんな取り決め」
「ほむん、まあしかし何であれ言うが良いぞ。差し当たってはこれを受け取れ……実行委になった貴様にせめてもの手向けよ」
言って、材木座は紙袋をぽんと俺に手渡してくる。
ガサリと開けると、中には近くの某巨大スーパーで買ったと思われるドーナツが三つほど入っていた。
「さすがに七個は買いすぎた……余ったから貴様にやろう」
「お、おう……」
おそらく、昨日見たアニメに感化され、大量に買い入れてしまったのだろう。
すーぐ影響されるんだから……
手向けという名の残飯処理を押し付けられてしまったが、美味しそうだから後で頂こう。
「……ところで八幡。貴様は昨夜、なんのアニメを観ていたのだ?」
「あ、あぁ……『Charl○tte』だ。中盤からの急展開に絡み取られてな。結局寝ずに最後まで観ちまった」
「ほう、貴様もあれを観たか……粗さは否めぬが、しかしどこか突き抜けた処があったのも事実……ついで言えば声優も良かった。友利たんの下僕になりたいと我は心底願ったぞ」
「声優のくだりはともかく、まあ……そうだな」
脚本を担当したのは有名な元ギャルゲ畑のクリエイターで、毀誉褒貶(きよほうへん)の多い御仁だと聞く。
しかし仮にも00年代、泣きゲーライターとしてオタ界の一世を風靡した男だ。
氏が生み出す独特の舞台設定・ストーリーは、人を魅了してやまない何かがある。
「フッ、いずれにせよ『P.A.W○RKSに外れなし』とはよく言ったものよ。いつか御大には二クールでじっくり取り組んで欲しいものよな」
「……まったくだ」
脚本が駆け足なのは、氏の大きな欠点であると言えよう。
尺を多く取り、ペース配分を間違えなければ、更に良い物に仕上がる期待感がある。
ただ二クール貰っても、氏の場合は野球回を二つ入れてきそうなので予断は許されない。
他にも思うところはあれど、俺はくるりと身を翻して、ドーナツの包を片手で掲げる。
「じゃあ俺はもう行くぞ。これサンキュな」
「……待て、八幡!」
呼び止められて振り返ると、材木座はいつになく深刻な顔で俺を見つめていた。
そして縋るような、振り絞るような声音で言葉を紡ぐ。
「だーまえに、だーまえに、『P.A.W○RKS』はまだ枠を残していると思うか……!?」
「さぁ、分からん。……だが買うさ、BDをな」
それだけ言うと、俺はまた前を向いて歩を進めた。
……しかし円盤商法も既に限界を迎えている感がある。
何か新しいマネタイズを、アニメ業界の人達にはぜひとも発掘してほしいものだ。
薄給で働くアニメーターのためにも……!
「こいつ……バイトの金も残り少ないだろうに……。まさにヲタ界の模範囚!」
後ろで材木座がぶわっと男泣きをしているが、泣きたいのはこちらの方である。
これから仕事だというのに、なぜ俺はこんなところでこんな奴とこんな話をしなければならないのだろうか。
材木座の視線を振り切って会議室に向かう足取りは、やはり去年同様、重く感じるのだった。
※※※※※※※※※※※※
無駄なパートを経て、暫く歩くと目的地に辿り着く。
会議室のドアは既に開放されており、中に入ると早速前の方で固まっている生徒会メンバー達と鉢合ってしまう。
彼らは他の生徒達より早くに来ていたらしい。
見たところ戸部だけが欠席のようで、残る面子は書類をホッチキスでぺちぺちと留めて準備に余念がないご様子。
だが俺が入ってくるやその手は止まり、一斉に視線を向けてくる。
「……あれっ、お兄さんじゃないっすか」
「比企谷先輩、来てくださったんですね!」
ぱぁ……と晴れやかな笑顔で出迎える後輩達。うぉっ、眩し!
そして案の定、何か勘違いなさっているご様子……
実行委員ではなく、生徒会の一員としてやってきたと思い込んでいるのだろう。
「うす……」
「比企谷先輩が居てくれると心強いです。よろしくお願いしますねっ」
書記ちゃんがにこりんと微笑みつつ会釈をする(可愛い)
その聖属性の波動に気圧されつつ、俺はコクリとひとつ頷く。
「何だかんだ言って来てくれるんすねぇ……お兄さんやさしー……」
ケヒヒ……と下卑た笑みを浮かべる大志を殴り飛ばしたくなったが、それもぐっと堪える。
これも俺の教育の至らなさ故……そう、自業自得なのだ……
今後はもっと厳しく指導にあたろうと決意しつつも、やはりコクリと一つ頷いてみせる。
「はぁ……来たんですか。先輩の席用意してないんですけどー……まあ、仕方ないから今日はわたしの隣座っていいですよ」
言って、一色はベシベシと隣の椅子を叩く。
なんなんこいつ。
およそ歓迎ムードという感じでは無いものの、よほど驚いたのか一色は未だに目をパチクリと見開いている。
こいつにしても俺が来るのは想定外だったようだ。
……まあそうだろう。一色には仕事をサボることで生まれる多面的意義……即ちスローライフ(※個人の感想です)の重要性について普段から懇々と説いていたのだから。
ともあれ、今はそんな後輩たちの無垢な眼差しが心に痛い。
「俺のことは気にすんな。その辺で見てっからよ」
「その辺って……」
「そういうわけにもいかないだろ。……待ってろ、すぐ予備の椅子を用意するから。そうだな会長の隣に一つ置くか……」
などと副会長も甲斐甲斐しく場を作ろうとするのだが、俺はそれを手で制して、ひとつ頷く。
「……?」
きょとんと首を傾げる副会長を背に、俺は会議室を縦断する長机の列に足を向ける。
「比企谷先輩、そっちは実行委員用の席ですよ?」
「そうか、読めたぞ……!比企谷はあえて一般生徒に扮することで、会議をそれとなく良い感じの方向に誘導するつもりなんだ……!」
……などと好意的な分析を行うのは会計くんである。
まったくこれっぽっちもそんな意図はないのだが、俺は振り返り「そこに気付くとは……さすが……」みたいな意思を込めて、ひとつコクリと頷いた。
それを受けて、皆は「Oh!さす八!」といった顔で目を丸くしている。
「すごい……比企谷先輩……!そんな姑息な企み、私は思いつきもしませんでした!」
「埋伏の毒ってやつっすね!さすがっす!お兄さんの深謀遠慮は余人の及ぶところではないっすよ!」
「ジャーナリズム!」
オーディエンスは最高潮に達し、俺はさざ波のようなエールを背に一人颯爽と席に向かう。
若干馬鹿にされてるような気もするが、だいたい計画通りである。
奴らが概ね性善説に基づいて動いているのは、これまでの付き合いで分かっていたこと。
黙っていれば、きっと好意的な解釈を勝手に拡大してくれると信じていた。
全くもってチョロい連中である。
……そう、俺は実行委員になった事実を隠蔽することに決め込んだのだ。
文化祭が終わるまでこのスタイルを貫き通してみせる。
必要なのは最後まで誤魔化しきる不断の覚悟。
試される意志力……こいつはハードな文化祭になりそうだぜ!
最大のヤマ場を難なくクリアした俺は、自らが座る席を求めてウロウロと彷徨う。
まだ他の文実委員は殆ど来ていないようで椅子は選び放題だ。
最後尾の席に目星をつけ、部屋の中頃まで進んだところで、背後からバンと机を叩く音が聞こえた。
振り返ると、そこには眉を吊り上げて、俺をギロリと睨みつける元気な一色の姿が……!
「あーーーーーっ!先輩、文実委員になっちゃったんでしょ!」
甲高い声が部屋中に響きわたり、周りに居るわずかな生徒たちから胡乱げな視線を向けられる。
ちっ……気付きやがったか……!
そう、この中で唯一人……一色という女子だけは人の善性を信じない猜疑心の塊のようなところがあるのだ。
きっと自分が普段いかがわしいことを考えているからだろう。なんという性悪ビッチなのか……
しかしここまで早く露見するとは思わなかった。
ふっ……鳳凰の、聖帝の夢は潰えたか……すっげぇ早かったな、潰えるの。
「わたしが、あれほど、口を、酸っぱくして、言いましたのに……!」
一語一語に怒気を孕ませながら、一色はズカズカとこちらに歩み寄ってくる。
俺はそれを「あーあー聞こえなーい」と耳をパタパタと塞ぎながら聞き流していたが、生徒会メンバーたちの虫を見るかのような眼差しまでは遮れない。
そ、そんな目で見んといて……
「あー、だから来たんっすね……おかしいと思ったっす」
「がっかりだな、比企谷には。失望させてくれる」
「ふーむ……しかしこれは約定違反ですよ……比企谷先輩には生徒会の規則に従って制裁をくわえないとですね……」
先ほどとは打って変わり、口々に非難の声をあげるメンバーたちである。
特に最後の書記ちゃんの発言は心底恐ろしかったのだが、更に恐ろしい一色の顔がぬっと視界に割り込んでくる。ひっ!?
「どーーーして、そういうしょうもない嘘を付くんでしょうねぇ……?」
「いや待て、俺は嘘は言ってない。本当のことを言わなかっただけだ」
「おんなじことですから!」
「アホか全然違うだろ。駆け付け警護地域と戦闘区域ぐらい違うわ」
「たいして変わんないじゃないですかっ!」
などと極めて政治的かつセンシティブな時事ネタを交えつつ言い争っていると、さっきから口をつぐんでいた副会長がけぷこむと咳払いする。
皆が自然と彼の方に目を向けると、副会長は悠揚迫らぬ態度で口を開きだした。
「……いいんじゃないか?どのみち、生徒会メンバーの大半は文化祭を手伝ってもらう気でいたし……比企谷もその一人ってことで」
俺にとっては救いの手ともいえるその言に、隣の会計くんは少し驚いた顔を副会長に向ける。
……だが、納得行かない面子も居るようだ。
「えーー!副会長ちょっと甘くないですかー!?」
「そうっすよ!断固制裁を加えるべきっす!」
「……副会長さん、それはさすがに示しがつかないですし……せめて規定の半分の十五打擲(ちょうちゃく)の刑に処すべきでは……」
後輩たちが俺を殺しにかかっているのがありありと窺える。
何なのこの子達……っていうか、なんで俺こんなに舐められてるの……?
この半年間、すごくいい先輩……してたと思うんだけど……な……
いよいよ泣きそうになってしまうが、副会長はどうどうと後輩たちを宥めると呑気な声で続ける。
「比企谷に限ってはこれでいいのかなって思ってさ。会長もしばらくは文化祭に張り付く予定なんだろ?」
「ま、まあ、そのつもりですけど……」
「なら好都合じゃないか。文実ならこいつもサボらないだろうし……かえって生徒会の人手が増えたとも考えられないか?」
「むぅ……なるほど、文実はほぼ毎日出席ですし……ついでに生徒会の仕事も押し付けちゃえば何も問題ないですね……」
副会長の訥々とした説明を、一色は膨れつつも腑に落としているようだ。
見る間に顔から怒気が消え失せていく。
代わりに俺の仕事がどんどん積み上がっているような気がするんですが……
「……ま、副会長がそれほどいうなら、今回はお咎め無しとします」
生徒会による制裁……俺と戸部は既に経験済みだが、何度味わってもあれは中々慣れるものではない。
温情判決にひとまず胸をなでおろしていると、一色ははっしと俺の手首を掴み、ぐいっと顔を近づけてくる。
その顔は息がかかりそうな程近くにあって、思わずのけぞりそうになる。
……が、いつもの視線に縫い止められて、例のごとくそのまま硬直してしまう。
この目で見られると、どうにも弱い……
「……悪かったって」
「ほんと、お願いしますよ……」
目を泳がせながらそう返すと、一色もふんすと鼻を鳴らして顔を逸らす。
とりあえず表面上は許してくれたものの、未だに口を尖らせており、不満が残っているのは見るも明らかである。
しかしある人物が会議室に入ってきたことで、そんな気配は何処かに霧散してしまう。
「えーと……ここで良いんだよな?」
などと呟きながら現れたのは、俺もよく知っている人物 ――葉山隼人だ。
会議室に居た僅かな数の生徒も、俺達の寸劇から目を離し、ビッグネームの到来にどよっと小さく驚きの声を挙げる。
俺も思わず手汗が吹き出して、心持ち肩が強張ってしまう。
「あーっ!葉山先輩じゃないですかっ!」
一色はきゃーん!と黄色い声を上げると、ぱたぱたと葉山の方に駆け寄っていく。
……だけなら良いのだが、俺の手首を掴んだまま離さないので、そのまま一緒に連れて行かれてしまう。
あの……いろはちゃん?君は彼に用があるかもしれないけど、俺の方はこれっぽっちの一欠片も話すことなんてないんですからねっ!
などという内心の抗議も届くわけがなく、結局二人して出迎えると葉山も爽やかに微笑んで応じる。
「そっか、今日はいろはが仕切るんだっけか……」
「そうなんですぅー!文化祭はー、ちょっと良いものにしたいのでー、気合い入れていこうかなって思ってたんですけどー、もう今から緊張しちゃって~~!」
ぶりぶりと身を捩らせながら、何かをアピールしている一色である。
思わず苦笑が漏れてしまう。
なんか、こういう光景久しぶりに見たな……
「それより葉山先輩はどうしたんですか?」
「ああ、それが今年は文実委員に推薦されちゃってさ……辞退したんだけど他に立候補者も居なくて……そういうわけでよろしく頼むよ」
「全然良いじゃないですか!葉山先輩が居てくれたら百人力ですって!ささっ、適当なところにおかけください。後でお茶持ってこさせるんで」
うん……な、なんか俺の時と対応が百八十度ぐらい違うんだけど……
しかしこいつも文実委員に選ばれてしまったのか……
昨日の戸部の話と合わせれば、今年はステージに上がらないというのは本当のことらしい。
一色は呑気に喜んでいるが、これは文化祭にとって大きなマイナスにもなり得るのだが……
ふと視線を上げると、葉山も俺を見ていたようでがっちり視線が合ってしまう。
―― やっぱり、君も居るんだな。
葉山は、そう言わんばかりの視線で睨めつけてくる。
なので、俺もじとりと腐った眼光を返す。
―― なんだよ、居ちゃ悪いか。
―― そうは言わないけど……君の居場所はあっちじゃないのか?
葉山はそう口にすると(※口にしてない)前にある生徒会役員の席にチラリと目配せする。
まあ、そう思うよなぁ……
こいつに誤解されるのはあまり面白くない。詳細を語っておく必要があるだろう。
―― いや、俺も文実委員になっちまったんだよ。
―― 今年もなのか……自分から立候補するタイプじゃないよな、君は。
―― 勘違いするなよ。不在の間に決められちまったんだ。本意じゃない。
―― 去年と同じじゃないか……そんなところまで変わらないんだな。
―― やかましいわ。
などと憎まれ口を叩き合っていると(※叩き合ってない)ふと葉山が俺達の手元に視線を落とす。
一色は未だに俺の手首をがっちりホールドしたままで、これではまるで何かお披露目でもしているようではないか。
……途端、罪悪感のようなものが、頭をもたげる。
軽く手を揺すって離すように促すと、ぽかーんとこちらを見ていた一色もはっと顔を赤くして俯かせる。
まさか、今まで気付いていなかったのだろうか……?
さっきも衆目の中で顔を近づけたりと、最近とみにガードが緩くなっている気がする。
―― おい、手離せってお前。
……と、テレパスを送ってみたが、一色は「は?」という顔で首を傾げていて、めっちゃムカつく。
やむなく強引に引き剥がしにかかると、何をムキになっているのか、一色は必死の抵抗を見せ、頑として離さない。
「……!……!」
「――ッ!~~~~ッ!!」
離さぬか、あいや離しませぬと無言でモゴモゴ蠢き合う俺達を見て、葉山はフッと少し目を細める。
―― 仲良くやってるみたいじゃないか
―― あ、いや、これは……ちゃうねん
などと、思わず関西弁で応じてしまう(※応じてない)
しかし、その視線には、いつもの蔑んだ色が含まれていない。
俺がそうであるように、こいつは決して俺を認めたりしない。……はずなのに、何だというのかこの呆けた視線は。
違和感を覚え、探るような目を向けると葉山は露骨に視線を逸らした。
「……ここにいると通行の邪魔だな。そろそろ俺達も席につくか」
「あ、ああ……そうだな」
「じゃあ、いろは。今日はお手並み拝見させてもらおうかな。……頑張れよ」
「あっ、は、はい……」
葉山は顔を背けたまま片手を上げ、颯爽と長机の方に足を向ける。
一色も何かおかしな空気を感じ取ったようだが、送り出すように手を離すので、俺もその背中に続く。
そして部屋の中頃まで歩を進めると、俺たちは並んで腰を落ち着けた。
「……」
「……」
うん……っていうか、なんでこいつの隣に座らなくちゃいけないんでしょうか。わたし最後尾に座りたかったのだけれど……
完全に勢いでこのポジションについてしまったが、一方でこいつの真意を探りたくもある。
何か言ってやろうとチラリと隣を覗き見ると、葉山は頬杖をついてぼぉっとした表情を浮かべていた。
前に居る一色を見ているような気もするし、俺の方を凝視しているようにも見える。
や、やだ……そんな見つめられると……素直におしゃべりできない……
およそ会話をするという空気でもなく、結局、俺も逃げるように顔を背けてしまう。
異文化コミュニケーションというのは、かくも困難なのである。
なんかもう……早く家に帰りたいな……
※※※※※※※※※※※※
かくして仏頂面が二人並んで頬杖をつく。
時折、一色などが物珍しそうな視線を寄越してくるが、別に面白くもなんともない。むしろ非常に気まずい。
俺ぐらいのBIP(※高次元ぼっちのこと)になると、一人頭の中で色々考えているだけで時は過ぎ去り、やがて周りの人間がいなくなったことすら気付かないほど没頭することが出来る。
……しかし、それは隣りに居るのが他人であった場合に限る。
相手が知り合いだと、途端に気が詰まり、必要以上に焦りが生じてしまうのは、ぼっちの宿痾ともいえる。
席代わっちゃえば解決じゃね?……などと考えるのは素人の発想だ。
誰しも経験があるだろうが、例えば電車などで混雑が解消された瞬間、隣に座っていた人がそそくさと席を替わり、心に大きな痛手を負ったことはないだろうか。誰しも経験があるはずだ。無いわけがない。
とにかく、そんな恐ろしくも残虐な行為を、俺のようなザザムシが葉山相手に敢行すれば、その精神的ダメージたるや想像を絶する。
さすがの葉山もその夜は枕を涙で濡らす他なく、やがて行き着く先は戦争しか残されていないのだ……
世界の平和は、俺のような人徳者の自制に依ってもたらされている……といっても過言ではない。
そんな訳で、平和主義者を自認する俺は席を替わることなく、この苦行のような時間を耐え忍んでいるのだ。あとなんか面倒くさいしな。
……などと生産性ゼロの思考に耽っている内に、気付けば会議室に訪れる者も多くなってくる。まばらだった席も既に半分が埋まったようだ。
そして生徒たちが会議室に入ってくる度に、室内の視線がじっと入口付近に注がれる。
そうそう。これ嫌なんだよなぁ……
視線の集中砲火を受け、委員達は各々微妙なリアクションを取りつつも、ある者は知り合いに出会った僥倖を喜び、ある者は孤独に一人、席を求めて彷徨う。
そんな中、最初から男女一組で入ってくる者が居た。
リア充と思しき二人に対し、反射的に爆発を祈念してしまったが、彼・彼女らは一色に向かってパタパタと親しげに手を振りだす。
「いろはちゃーん、来たよー!」
「やぁ、一色さん」
男の方は知らない顔で、今後も覚える気は一切ないのだが、女子の方には微かに見覚えがあった。
あの子は確か……先の花火大会でエンカウントした一色の級友の一人であったか。
二人は一色とひとしきり会話をした後、やがて後ろの方に席を求める。
道すがら、俺に目が合うと彼女は「うほっ!」と目を見張ったのち、にまーと笑顔を浮かべながら会釈してくる。
からかい交じりの嫌らしい笑顔ではあるが、その大仰な挙動も相まって、どこか憎めないところがある。
……さしずめ「女版・戸部」といったところか。あ、いや……やっぱちょっとウザいですね……
彼女は隣にいる葉山にも気付くと、これまた大袈裟に身を震わせ、ガバーッと九十度のお辞儀を見せる。
呆けていた葉山も、さすがに気付いたのか、爽やかに微笑んで手を振り返した。
すると、彼女は「おっしゃー!」とガッツポーズを取って、意気揚々と奥の方に歩んでいく。
なんかいちいち分かりやすい子だな……
「……お前、あの娘知ってんのか?」
「いや……実はよく覚えてないんだけど……」
知らんのかい。
だというのに、よくそんな態度を取れるものだ……
「あんな明け透けに好意を示されたら、こっちも愛想よく返しちゃうだろ。……咄嗟だったし」
「あっそ」
なんだこいつ……売れ出したコメディアンみたいなこと言いやがって……
ふと、彼女の後ろ姿を目で追うと、傍らにいた男子がじっとこちらを見ていることに気付く。
その視線は、冷徹ながらもしっかりと敵意が篭っていた。
あー……これはあれですわ……ジェラシーってやつですわ……
「ほら、なんか恨まれてるぞ」
「ん……?いや、彼は君を見てるんじゃないか?」
「いやいや、どう考えてもお前でしょ」
「そうかな……」
意外とこのお方、図太くていらっしゃる……!
まあ"みんなの隼人くん"たる者、これぐらいのメンタル強度がないとやってられないのかもしれんが……
こいつがいろいろ細かいことをグチグチ考えているのは知っているが、それも俺とは随分位相が異なっているのだろう。
ちょっとしたことも噛み合わない。おそらく天敵とも言えるほど互いに相性が悪いのだ。
まさにプラスとマイナス、陰と陽。
なんか、昨日もこんな話を誰かとした気がするな……
……などと、物思いに耽っていると、その当の本人の声が入り口から聞こえてくるので、思わず肩が跳ね上がってしまう。
「……お、はろはろー!いろはちゃん」
「あっ、姫菜先輩も……!?」
現れたるは、俺の中で噂の海老名さんである。
後ろで副会長が「げっ」と身をのけぞらせているが、一色の方は楽しげな様子で彼女の方に歩み寄る。
「姫菜先輩も実行委員になったんですかー!これまた百人力というか……」
「本意じゃなかったんだけどねー……せっかく演劇用の脚本を書いたのに、一瞬で却下されちゃって……その上、委員まで押し付けられてさー」
「は、はぁ……」
なるほど、だいたいの事情は察しました。
実に賢明なクラスメートたちである。
「受験で忙しいのは分かるけど、みんなノリ悪いよねー……それより、私"も"ってのはどういうこと?」
「ほら、そこ、先輩と葉山先輩もいますんで」
「おっ……」
海老名さんはこちらを向くと、ニヤリと口角を釣り上げ眼鏡を曇らせる。
そして、あたかも獲物を見つけたハンターのようにスルスルとこちらに這い寄ってきた。
嫌だな……怖いな……
そして、ひとつ奥に居る葉山の隣に座る……と思われたが、彼女はどういうわけか俺の隣にストンと腰を落ち着けた。
「いやー、知った顔があって良かったよー」
「もっと知ってる顔がこっちにいるんだが……」
……と葉山をちょいちょい指差すと、海老名さんは意味深気に笑う。
「んー……ちょっと訳あって、ここが良いかな。隼人くんに恨みはないけど……ほら、私は基本、優美子の味方だからさー」
葉山にも届く声量で、海老名さんがそんなことを口にする。
一方の葉山はむっとした表情を浮かべたのち、視線を虚空に向けて目を閉じた。
うーん……なんなんでしょうね……こいつら……
「……何だよ、それ」
「こっちの話」
伺ってみるも、海老名さんはつれない態度で、同じく目線をあらぬ方に向ける。
何やら込み入った事情があるご様子だが、それなら俺を巻き込まないでほしい……
こちらとしては左右の退路を絶たれ、ますます席を変更できない状況に追い込まれている。
「……」
「……」
「……」
当然、俺などを挟んで会話が盛り上がる由もなく……
『あっれー!?海老名ってば昨日はとべっちと、どうだったんだ!?言ってみろこんの~~☆』などというガールズトークも出来ようはずがなく、気まずさは先程よりも加速度的に大きくなっている。
は、早く……帰宅したい……
居心地の悪さに一人モニョモニョしていると、ふと、手元にあった包みの存在を思い出す。
中身を確認すると、都合のいいことにちょうど人数分あった。
ふむ……ここは動かねばならないだろう……
なぜ俺が空気など読まなくてはいけないのか……とも思ったが、この重苦しい状況を打破すべく、とりあえず切り出してみる。
「……お前ら……ドーナツ、食べる?」
「え?あ、ああ……」
「ありがと……」
紙袋を差し出すと、二人は面食らった顔を浮かべながらも、おずおずと手を伸ばす。
校内の間食はもちろん校則違反であるが、有名無実の典型例ともいえる。
周りを見渡すと、他の生徒達も机の上にペットボトルを置いて、○REOやらP○CKYなどをポリポリ齧りながら、会議前の一時の談笑を楽しんでいるようだ。甘いものばっかだね!
とまれ、斯様な空気なので浮いてしまうこともあるまい。
―― さあ、それじゃみんな、用意はいい?
どんどんドーナツ☆どーんといこー!
……などと三人でドーナツを天高らかに掲げる訳もなく、そのまま黙々と口をつける。
「……」
「……」
「……」
校内一のカリスマ性を誇る、我らがオピニオンリーダー・葉山。
底の知れない腐った心を持つ少女・海老名さん。
そして敵か味方か、孤高のロンリーウルフ……俺。
よく分からない面子が、三人並んで無言でドーナツをモグモグしている様は、一種異様な空気を醸し出していた。
お、おかしいな……
もうちょっと和やかなムードになると思ってたんだけど……
そうこうしてる内に所定の時間も間近となり、会議室内にはラストスパートとばかりに生徒達が続々と入ってくる。
その中には俺と同クラスの氏名不詳の女子(可愛い)の姿もあった。
彼女は前を通り過ぎる時、その異様な光景に「ひっ!?」と身を強張らせる。
しかし、一つ奥の葉山の姿を見るや「ぱあぁ……」と顔を輝かせるなどの目まぐるしい顔芸を披露しては俺のナイーブなハートを傷つける。
言葉になどしなくても、態度だけで人は人を傷つけることが出来るのだ。
ふ、ふえぇ……もう、おうち帰りたいよぉ……
最悪に重苦しい雰囲気と相まって、ついに泣き崩れそうになった俺に、氏名不詳の女子(可愛い)が恐る恐るといった様子で声をかけてくる。
「え、えっと……座る場所って決められてるのかな……?」
「ん?あ、いや、好きな場所に座っていいみたいだぞ」
「そうなんだ……」
と彼女はキョロキョロと辺りを見渡す。
どうやら知り合いが皆無のようで、文字通り所在なく立ち尽くしている。
まあ、初めてだと勝手が分からないわな……
こんな時、普段ならすかさずフォローを入れるであろう葉山だが、相変わらず、ぼうっとした表情で関与する気配がない。
一方の海老名さんも、我関せずといったご様子で口をモグモグしている。
って、本当になんなのこいつら……ちゃんと働けよ……
ここでも、仕方なく俺がホスピタリティを発揮するしかないらしい。
「……とりあえず後ろ座ったら。あとで知り合いの一人も来るんじゃねぇの」
「う、うん……ありがと」
長机をずらして隙間をつくり、甲斐甲斐しく彼女の通り道を作っていると、続けてトレイをもった一色がちょこちょこと、こちらに歩み寄ってきた。
ん?どうしたんだ、こいつ……?
胡乱げな目で出迎えると、一色は俺をスルーして紙コップをトンと葉山の前に置く。
「はい、葉山先輩。お茶です」
……珍しく、自ら給仕に来たらしい。今日はいろはすポイント祭り実施中なのかな?
「ああ、本当に持ってきてくれたんだ……ありがとう、いろは」
「いえいえ、もうあと五分ぐらいで先生方が来ますので、それまでに食べちゃってくださいねー……はい、姫菜先輩も」
「おー、いろはちゃんありがとー」
思わぬサービスに、葉山も海老名さんも顔を綻ばせる。
さっきからひたすら不穏な空気を漂わせる俺達であったが、一色が交じるだけでふっとその場が軽くなる。
「AE○Nのドーナツって何気に美味しいよね」
「あそこのコーナー塩パンも旨いんだぞ……」
「こういうのも、たまにはいいよな。普段家で食べないから……」
……などと誰宛てという訳でもなく、ポツポツと会話らしいものが生まれる。
行動の一つ一つに打算めいたものを含ませる一色だが、この行為は本当に自然に出てきたものなんだろう。
ぎこちなくも話し始める俺達を、ニコニコとご機嫌な様子で眺めている。
うん……ところでいろはす、俺のお茶は……?
「ヒキタニくん、今日のこの会議って何決めるの?」
「ん……確か初日は役決めだな。実行委員長とか各部署の割り振りを決めるんだ。今日はそれだけで帰れるはずだぞ」
「今年はちゃんとした子が委員長になると良いな……」
「ん、まあ、そうな……」
「経験者いると頼もしいなー」
「あ、はい」
辛い……俺を会話の中心に据えないで欲しい……
相変わらず、この二人は直接に言葉を交わそうとしない。
とはいえ、去年同クラスだった誼もあって、一旦始めれば歪ながらも会話は続く。
そんな俺の姿を、一色は一層嫌らしい笑みを称えながら眺めているのだった。
た、楽しそうで何より……
「……ところで、今食べてるのって先輩が用意したんですか?」
目が合うと、一色が俺の方をぴーんと指差す。
「そうだけど……あ、いや元々は貰いもんなんだけどよ……」
「へー」
などと超興味ない相槌を打つと、続けて一色は後ろをこそっと小さく指差す。
つられて振り返ると、氏名不詳の女子(可愛い)が、俺のことを化物でも見るかのように目を丸くして固まっていた。
やだ……傷つく……!
ガラスのハートにまた亀裂が入ってしまったぜ……
やはり輝かしい未来は前にしか無いのだ。フォワードルッキング!と前を向き直すと、今度は一色の顔がすぐそこまで迫っていた。
「ひっ!?」
などと、思わず可愛い悲鳴がまろび出てしまう。
「……後ろの方は、先輩のお知り合いですか?」
ポショポショと小さな声で聞いてくるので、俺は怯えつつも首をプルプルと横に振る。
「あ、や、知り合いってんじゃねーよ。同じクラスの人……」
「へー」
何この子……怖い。
こんな恐ろしい相槌初めて聞いたわ……
「まあ、この程度なら問題ないですかね……」
などと更に恐ろしいことを呟くと、一色はさっと顔を離して、相変わらず笑顔だけは貼り付けたまま両脇の二人に手を振った。
「それじゃ皆さん、よろしくお願いしますねー」
そしてスカートを翻すと、たったかと女の子走りで前の席に戻っていってしまった。
和やかなムードを演出してくれたかと思えば、俺にだけはしっかり恐怖を植え付けていく。
あの子ったら……まだ怒ってらっしゃるのかしら……?
会議前から既に精神を消耗していると、葉山は呆気に取られたような顔で俺を眺めている。
「……本当に仲良くやってるみたいだな」
「やかましいわ」
※※※※※※※※※※※※
そんな爽やかな青春グラフティを演じている内に、やがて時間がやってくる。
生徒たちも全員集合し、少し遅れて後見人たる教師陣が現れると、文化祭実行委員の最初の会議が始まった。
去年とは違い、まず最初に副会長による事務的な連絡がなされる。
文化祭の概略に日程。各部署の仕事内容。危険物の取扱い・衛生上の注意点や、その他諸々の規制事項……
その内容は概ね去年と変わりなく「生徒たちの自主性」だの「地域社会との交流」だの、ぼやっとした目標を掲げているのも前年同様だ。
……そんな超退屈な説明に、当然、生徒たちはフラフラと船を漕ぎ、前におわす生徒会長もうつらうつらと夢心地である。ちょっと貴女いい加減になさいよ……
とはいえ、眠くなるのも分からなくはない。
いくら文化祭がビッグイベントと言っても、フォーマットというのは既に確立しているものだ。
その完成度についても決して馬鹿にしたものではない。定められたレールに乗ってスタンドバイミーしていれば、大過なく当日を迎えられるように出来ている。
そんな確立した手順の中で、どんな色味を付け加えていくかが実行委の腕の見せどころという訳だ。
そして、一色も生徒会として、何かをこの文化祭にぶっ込もうとしている。
あいつにとっての頑張りどころは、今日この場所ではないということなんだろう。
……などと、取り留めのないことを考えている間に、副会長も一通り説明を終えたらしい。
後ろに引き下がると、ピキーンと覚醒した一色が入れ替わるように前に立つ。
この一連の流れは、すっかり生徒会のフォーマットになっているようだ。
「さてさて、それじゃ退屈な話も終わったところで、さっそく実行委員長の選出にとりかかりましょー!」
おー!と一色が腕を上げると、後ろで生徒会メンバーがぱちぱちと拍手を送る。
それにつられて、他の生徒達もなんとなく手を叩いて続いた。
……が、その顔は、皆一様に困惑気味である。
うん、まあ分かる。
俺も去年は前に立っているめぐり先輩が、そのまま実行委員長をやると思いこんでたからなぁ……。
「それでは!どなたか立候補する方は居ませんかー?」
拍手が未だパラパラと続く中、勢いに乗じて一色が呼びかける。
すると、ぱたと手は止まり、沈黙が会議室を支配した。
「……ちっ」
ですよねー……
これも去年と全く同じ展開である。
みな文化祭については、それなりにやる気を持っているのだろうが、こんな寄せ集めの中で、進んで頭を張ろうとする輩はそう居るものではない。
ある意味、文化祭を通じて最も難儀なのが、この実行委員長を決めるというプロセスなのかもしれない。
とまれ、あてが外れた一色はむぅーとほっぺを膨らませる。
可愛く振る舞っているつもりなんだろうが、さっき盛大に舌打ちしてたの、ちゃんと聞いてましたからね……
……が、そんな振る舞いも一瞬のことで、何か思いついたのか一色の表情がぱっと明るくなる。
「ってことは、推薦で決めるってことになっちゃうんですけどー、今日は、この中にいっちばんふさわしい人が居ますよねー!」
一色はパンと手を叩いて、俺の方……ではなく隣の葉山に目を向ける。
続いて会議室中の生徒が一斉に葉山の方に視線を集中させた。
うぉっ……!?俺が見られているわけでもないのに、すげぇ波動を感じるぜ……!
皆の期待を一心に受ける葉山。しかも本人はそれに全く動じていない。
この胆力、人気に加え、こいつはチームワークもお手の物である。葉山が実行委員長になれば、確かに成功はもう約束されたようなものだ。
……が、しかし残念ながらそれはダウトである。
その理由を指摘しようというのだろう、顧問として脇の椅子に座っていた体育教師の厚木が腰を上げた。
「いや、一色、それはいかんじゃろ……」
「えー!?あんでですかっ!」
一色がぎゃんと返すと、厚木はビクッと身をたじろかせる。
っていうか、何ビビってんのあの人……いや、俺も今ビクッとしちゃったけど……
「会長、実行委員長は通例として二年生がやるんだよ。会議始まる前に確認したじゃないか……」
「そ、そうでしたっけ……?」
代わりに副会長が指摘すると、一色は恥ずかしげに顔を俯かせた。
こいつにしては珍しいが、綺麗に失念していたようだ。……よっぽど周りの三年がお気楽なのだと思われる。
葉山も苦笑を浮かべながら、片手を上げる。
「ごめんないろは、さすがに受験勉強が優先だから……」
「むぅ……じゃあ誰か他にやってくれるって人は居ませんかー!」
しかし呼びかけも虚しく返事はない。
葉山の代わり……みたいな雰囲気になってしまって、一層ハードルが上がった感もある。
再び沈黙に包まれてしまった室内に、厚木のうぉんという咳払いが響いた。
「なんじゃおい、お前らもっとやる気出せ。覇気が足らん覇気が!いいか、文化祭はお前たち自身のイベントだぞ」
去年も同じ台詞聞いた気がする……
とは言え相変わらずの熱量で、最後に「じゃあの」とか言い出しそうな勢いだ。
そして威圧するかのように、会議室内の生徒一人一人に目をやり始める。
無遠慮な視線を向けられて生徒たちが萎縮する中、ふいにポロシャツの胸元に収まっている厚木のスマホがブルブルと鳴った。
ゴツい両手でスマホを取り出し、画面を見て少し目を丸くする。
「すまん、電話だ。一色、会議続けといてくれ」
「はぁ……分かりました……」
コソコソとスマホを耳に当てながら、厚木は出口の方に向かう。
そして去り際に、詫び入るように生徒たちに告げた。
「――じゃあの」
……本当に言いやがった……
だがドアが閉められても、廊下から厚木の超デカイ声が漏れ聞こえてくる。
「あん!?今日は初日じゃっちゅうたろうが!」だの
「え、車で来おったんか、まあええわい、そこで待っとれよ!」だの
「何!?コーンを弾き飛ばした!?何やっとんじゃお前!」だの不穏な声が聞こえてくる。
なんだろう……チンピラのカチコミでもあったのかしら……?
などと気を取られた生徒たちを呼び戻すように、一色はポンと再び柏手を打つ。
「はい!とにもかくにも実行委員長を決めないと始まりませんよー!誰か立候補してくださる方いませんかー推薦でもいいですよー」
しかし、呼びかけるも反応は一寸も変わらない。
推薦つっても、この場合友達を売るようなもんだからな……
「あっ、そうだ!委員長になると結構お得ですよ!内申とかー、指定校推薦とかで有利になっちゃったりするんです!」
思わず片手で顔を覆ってしまう。
アホなのこの子……それ理由にしちゃうと、ますます立候補しにくいんだっての……
でも、めぐり先輩も去年やってましたからね……こういうのは思わず言いたくなっちゃうのかもしれない。
当然、手を挙げる者など居るはずもなく、視線はますます俯きがちになっている。
……去年はここいらで雪ノ下が目を付けられ、続いて相模が立候補したのだったか。
だが今年はそうした目を引く生徒も居なければ、お調子者がうっかり手を挙げることもない。
こんな時は教師陣になんとか頑張ってもらいたいのだが、頼りの厚木は先程出ていってしまった。
ならばもう一人の教師は……?
「……」
目を向けると、そこに居るのは誰あろう―― 生徒会兼、被害者の会顧問の、我らが養護教諭である。
瞑目して腕を組み、一見、考え深げに鎮座しているようだが……
俺には分かる。あれは多分寝てるな。
まあ、しかし起きていてもあまり役に立たないだろうから、ここは見なかったことにしよう。
ぐっすり永眠して下さいね!
そんな訳で、時間だけが過ぎていき、会議室はすっかり停滞ムードである。
退屈なのか、隣の海老名さんがこちらに顔を近づけると、ぽそっと耳元で囁いてきた。
「まあ、こういうのって普通はやりたくないよねー」
「だな……」
「自分からってなると更にハードル高いだろうし……」
違いない。
当時はその軽薄さに嫌悪感さえ抱いたが、見方を変えれば相模のような存在は有り難くもある。
「無能な働き者」なんて揶揄もあるが、それでも自発性や積極性というのは得難い資質だ。
かつて、体育祭でめぐり先輩が彼女のフォローに尽力したのも、そうした部分を評価してのことなんだろう。
立場が変われば、こうして物差しも変わるのかもしれない。
……ところで、海老名さんは、あまり気安く俺に話しかけないでもらいたい。
一瞬、友達かと思っちゃったぜ……
「立候補する方いませんかー!ほら、あれですよ!文化祭の最中に恋が生まれるかもしれませんよ!」
「リーダーシップを発揮して異性にモテモテ!」
「『最初は騙されたと思ったけど、実行委員長になったお陰で彼女が出来ました!』……なんて事例もあったりするんです、多分!」
一色も打つ手がなくなったのか、ついには自己啓発セミナーの広告みたいなことを口走っている。
実に見苦しい……誰だよ、あいつを生徒会長に推薦した奴……
もう、こりゃくじ引きかジャンケンで決めるしかないかな……?
他の生徒たちもそんなムードを感じ取ったのか、諦観やら倦怠感やらが場に漂い始めた。
……と、その時、にわかに廊下から騒がしい声が近づいてくる。
間髪入れず、ドアがガラリと勢い良く開かれた。厚木が再び会議室に戻ってきたのだ。
「おう、すまんの!ちょっとOB……じゃなくてOGが来とってな」
へぇーという声が会議室のあちこちから立ち上る。
……しかし、縦の繋がりなど無い俺にはどうでもいいことだ。
OBだかオージービーフだか知らんが、まあ、だいたいああいうのは十中八九、招かれざる客だ。
迎える側の生徒は必要以上に気を遣わねばならないし、一年生にとっては赤の他人というしかない存在である。
だいたい卒業した学校にわざわざ訪れる奴なんて、大抵は現状に行き詰まり、その鬱屈を晴らしにわざわざやってくるようなつまらない人間に決まっている。
かつて奉仕部の依頼で、柔道部のOBと一悶着あったが、あれも例に漏れずそんなケースだった。
過去にしがみついてないでさぁ……!もっと現在(いま)を生きようよ!
などと内心でぶつくさ毒づいていると、厚木が開けたままのドアに向かって手招きした。
「ほれ、入ってこんかい」
「あ、あはは……こんにちは……」
照れ照れっと恥ずかしげに手を振りながら一人の女性が入ってくる。
その雰囲気はほわほわめぐっとしており、足を踏み入れた瞬間、停滞した室内の空気はオールめぐりっしゅされていく。
「二,三年生は知っとる者も多いじゃろ。去年、生徒会長をやってた城廻めぐりだ」
「みんな久しぶりー……お、覚えてくれてるかな?」
わぁ……めぐりんやぁ……!
他の生徒も、少なくない数が立ち上がり「わぁっ」と歓声と共に出迎える。
さすが元生徒会長だけあって顔が広い。
「こいつ、十日ほど日付を間違えててな、こんな早くに来おったんじゃ」
「あー、先生、それは言わないでって言ったじゃないですかー!」
もー!とポカポカめぐり先輩に叩かれて、厚木もほんわかと頬を緩ませている。
なんてだらしない顔だ……あれはあとで教育委員会に匿名で報告しとかねぇとな……
それはさておき、めぐりんである。OGとは誰あらぬ、めぐり先輩のことだったのだ。
うん……こういうのって良いよね……
中学にせよ、高校にせよ、よほど例外がない限り、わずか三年しか生徒たちは在籍しない。
しかしその足跡は、短いからこそ、それぞれの思い出に強烈にインプットされる。
出ていった者も、時には立ち止まり、過去を振り返りたいことがあるだろう。
こんな時代だ。残された側も不安に苛まれてしまう。素敵な先輩に道標を縋る欲求もよく理解できる。
そんなそれぞれの想いが交差する心温まる邂逅……それがOB、もといOG訪問というイベントなのかもしれない。
また、卒業生が気軽に学校に訪れることができる、その風通しの良さこそが名門校であるための必須条件といえるのではないだろうか。絶対そうだわ。
オージービーフとかほんと美味しいし、赤身の肉は最近アスリートの間で流行ってると言うし……ええ、もちろん俺も大好物です。
「一色さん!……来ちゃった」
「し、城廻先輩!?ど、どうぞどうぞ、すぐに席を用意しますので……!」
「めぐりせんぱーい!」
「めぐりんー!」
あたふたと生徒会役員共が場を設けている間にも、生徒たちは手を振り身を振って自己アピールしている。
俺も存在をアピールしようとするのだが、そんな生徒たちに遮られて目的を遂げられない。
くっ……!どけ雑魚どもが……!俺はつい先月、あの人とお泊りでバイトしてた仲だと言うのに……!ふんー!
などと、俺も立ち上がりはしないものの、首とアホ毛をぴょこぴょこ動かして自己主張していると、再び厚木がドアに向かって手招きする。
「お、それと、もう一人来とるんじゃ! おい、お前も入ってこんかい!」
……え?
厚木の声に、皆は再び入り口に目を向ける。
そこに現れたのは、俺のよく知る―― いや、姿形だけは馴染み深い人物……
「これも去年文化祭でステージに立っとったから、二、三年生は覚えとる者も多いじゃろ……OGの雪ノ下陽乃じゃ」
「こんにちはー!」
ひゃっはろー!とばかりに、一見陽気な振る舞いで現れたのは、陽乃さん――雪ノ下陽乃である。
……きっ、
きゃああああああああああああああああああああああ!!
「おぉー!」
……と俺が内心で上げた悲鳴にシンクロするかのように、生徒たちは色めき立った声を上げる。
めぐり先輩の登場に比べると抑えられたものだが、さっきの歓声とはまったく種類が異なる。
そこには容姿に対する興味や、あるいは去年まで在籍していた雪ノ下の面影を見出したのか……ともあれ、その感嘆は圧倒的とも言える存在感に対してのものだ。
「あー……去年ステージで見たよ……あの人」
「俺、見てなかったんだよな……でもめっちゃ美人じゃん……!」
「雪ノ下さんに本当そっくりだよねー……」
どよどよとざわめく中、そんな、敬いとも畏れともつかない声が聴こえてくる。
――俺はというと、それどころではない。
覗き込んでいた頭を引っ込め、アホ毛を仕舞い、どっと吹き出した手汗をシャツで拭う。
バクバクと心臓が嫌な拍子で鳴っている。
形にならない思考が、ただ無闇に脳内を駆け巡る。
あ、あ、あ、あ、慌てろ、おおお落ち着くな比企谷八幡……
クールだ……KOOLになるんだ……こんなときこそ冷静になれなくてどうする……!
ふと思いつき、その辺に丸めて転がせていたドーナツの包を再び広げると、ふんぬと指で突き二つの穴を開ける。
面が割れるとマズイ。
会議が終わるまで、ひとまずこれを被ってやり過ごそう……!
ちよっとKKK(クー・クラックス・クラン)っぽいビジュアルになるかもしれないが、最近は世界的にそんな潮流があるみたいだし、この会議室に一人ぐらい交じっていてもかえって自然といえるのではないか。
そんな訳で、ドーナツの包を被ろうとするのだが、上手く頭にはまってくれない。
ど、どうして!どうして被れないのぉーーッ!
「ヒキタニくん……な、何してるのか知らないけど、それ余計目立つと思う……」
見ると、海老名さんが俺の慌てる様子を見てドン引きしていた。
この子にドン引きされると凄いショックだよね!
しかし、彼女の指摘は至って正しかったらしく、ふとこちらに顔を向けた陽乃さんとがっちり目が合ってしまう。
「……!」
形だけの笑みで、その実、心底つまらなそうにしていた彼女の瞳に喜悦の火が灯る。
それは本当に嬉しそうで……だから余計にぞっとしてしまう。
「おー!比企谷くんじゃーん!」
片辺の二列に並んだ長机の間に、彼女はするんと身体を割り込ませた。
そしてどーもどーもと手刀を切りつつ、俺の座る席までスルスルと近づいてくる。
その間、葉山は後ろの生徒たちを詰めさせて一つ席を空けたのだが、彼女はそれを無視して俺の座っている椅子に強引に腰を割り込ませた。
はわわ、ずり落ちそう……っていうか、なんでそういう座り方するのこの人……
こ、困る……
「ひっさしぶりだね~~元気してたー?それにしてもウケるな~、今年も文実委員になってやんの」
陽乃さんは俺の肩に手を回し、朗らかな様子でバシバシ勢い良く叩いてくる。
ああ、もう……怖いし、近いし、柔らかいし、良い匂いするし、柔らかいし、近いし、あと怖い……
「ご、ご無沙汰っす……どうしたんですか今日は……?」
「つれないなー、可愛い後輩の陣中見舞いに来てあげたってのにー」
「暇なんすね」
精一杯の虚勢で嫌味らしいことを述べるのだが、この人には全く通じない。
目を細めて、そっと小さな声で囁いてくる。
「……いや、ほら、雪乃ちゃんを振った君が、どういう顔してるのかなーって……姉としては気になるところじゃない?」
「……」
……なんとまあ、直截に聞いてくるものだ。
しかし、それでかえって冷静になれた。
今度こそ心を落ち着けて、俺は陽乃さんにまっすぐ目を向ける。
「……それは話が違う。あいつにどう聞いたか知らないけど……コミュニケーション不足じゃないっすかねぇ……」
「ほーん……」
笑みを崩さず、瞳をより一層妖しく輝かせて、陽乃さんは息を漏らす。
「ま……どっちでも変わらないんだけどさ……私には」
「……」
意図を測りかね、目だけで続きを促す。
……しかし、それはほわっとした声に遮られてしまった。
「もぉー、はるさん!」
前に目を向けると、めぐり先輩が少し怒ったような顔で陽乃さんを睨んでいた。
そしてメンバー達が用意した椅子をペシペシ叩いて「おぅ、こっち戻れや!」と言外に主張している。
続いて、一色がコホンと咳払いする。
「えーと……すいません、はるさん先輩、まだ会議の途中なんですけど……」
一色は一色で、窘めるような口調とは裏腹に、ぶくぅっ!と頬を膨らませ、ジト目でこちらを睨めつけている。
その視線は主に俺に向けられていて……うん、まあ、これはまずいよなぁ……
陽乃さんの肩をぐいっと押して距離を遠ざけつつ、一色に弁明らしきものを行う。
「あ、いや気にすんな……ほら、ちょっとこの人アレだから」
「ひどいなー!アレって何さ比企谷くーん!」
引き剥がそうとするが、陽乃さんはなおも俺の方に密着してくる。
「むぅ……!」
……しかし、一色のじとっとした目付きと、フグの如く膨れ上がった頬に威圧された……訳ではないのだろうが、陽乃さんは途端に力を緩める。
「あはは……じゃあ、せっかく席を空けてくれたから、私はここに座らせてもらうね」
言って、陽乃さんはようやく俺から離れると、一つ向こうの席……俺と葉山の間にポスンと腰掛けた。
そして辺りを見渡すと、ぼそっと小さく呟く。
「……なるほど。だいたい把握した」
何を把握したって言うんでしょうね……この方は……
もはや恐怖しか感じないが、俺は身体ごと顔を背け、頬杖をついて前を向く。
しかし目を背けても、背中から異様なプレッシャーが発せられているのが分かる。
まさに不穏が服を着て歩いているようで、これに比べると、さっき思い悩んでいた重苦しさなど、まるでそよ風のような穏やかさだ。
「えーコホン、それでは続きをやりますよー!実行委員長をやってくれるって人は居ませんかー!?」
「なんじゃい、まだ決まっとらんのか」
「一色さん、こういう時は内申の話を持ち出すと効果的だと思う!」
「それはもうやりました……ちっとも釣られてくれないんですよねー」
「そうなんだ……どうしてだろ……?」
「二人共、そういうのは周りに聞こえない声量でお願いします……」
……前の方では身も蓋もないやり取りが交わされており、たいへん平和的である。
くっ、俺もいろいろ突っ込みたかった……!
「うー……できればやりたくなかったんですが、これはもうジャンケンで決めるしか……」
ついに諦めたのか、一色はグイグイと肘を曲げてスタンバる。
まあ、しゃーない。ここに至っては、いろはすジャンケン大会で事を決めるしかあるまい。
……誰もがそう思った時、すぐ後ろから脳天気な声が挙がった。
「はーい!」
ギクリと、肩が跳ね上がりそうになるのを必死で堪える。
「え?えっと……はるさん……先輩?」
生徒以外の挙手に、一色はわずかに逡巡したが、結局発言を促す。
「ジャンケンで決めるのは失敗の元だよ。どうしても『やらされた』ってのが付きまとうからさ、やっぱこういうのは立候補なり推薦で決めないと」
「はぁ……それは分かってるんですけども……」
などという二人のやり取りに、再び室内にはざわめきの声が挙がる。
……それを見計らって、あるいはそうなるのを見越していたかのようなタイミングで陽乃さんは言葉を続ける。
「でさー、この中でいっちばんふさわしい人材がいるよね。これまで推薦されなかったのは、先入観ってだけの話だと思うんだよねー」
「……どういうことです?」
その続きは、俺にも予想がついてしまい、ぎっと歯を食いしばってしまう。
「YOU!一色ちゃんが実行委員長をしちゃえばいいんだよ!」
「へっ、わ、わたし……!?」
一色の素っ頓狂な声とともに、周りから一層大きなざわめきが立ち上る。
「で、でも、わたしは生徒会長なので……できないんじゃ……」
「どうして?一色ちゃんはまだ二年生でしょ?三年はともかく、生徒会長が委員長をやっちゃダメって決まりはなかったと思うけどなー」
「……そうなんですか?えーと……」
一色は戸惑った様子で仲間たちに目を向ける。
突然降って湧いた話に、メンバーたちも些か動揺しているようだ。
それでも、副会長が挙手と同時に腰を上げ、敢然と異議を申し立てる。
「ちょ、ちょっと待って下さい!確かにそういう規則は無いですが、通例として生徒会長はサポ……」
言いかけたその時、後方から被せるように声が挙がった。
「――賛成!それって、すごくいいアイディアじゃないですか」
驚くほどよく通るその声の主に、皆は視線を後方に翻す。
あれは確か……一色のクラスメートであるところの正体不明の男子ではないか。
「ちょ、ちょっとマッチーってば!いろはちゃん困るって!」
同じく、一色の級友である快活な少女が、男子の肩を掴んで何やら諌めている。
……が、マッチーとやらは微笑みつつも少女の手を払うと、ついには立ち上がって意見を述べ始めた。
「いいじゃない、一色さん。委員長やっちゃいなよ。生徒会長兼、文化祭実行委員長なんてすごい格好良いじゃん」
わざわざ立ち上がった割に、言ってることはしょうもない。
しかし中身はどうあれ、言葉にすることで、そこに意味が生じてしまう。
「確かに格好いいよな……カリスマ生徒会長って感じ?漫画みてぇ」
「あの子、サッカー部辞めて感じ変わったよねー。校内販売のパンメニューも好評だし……いけるんじゃない?」
「生徒総会も超盛り上がってたもんな……他にもいろいろやってたらしいぜ」
「これは噂なんだけど、生徒会って夏休みに国際ハッカー軍団と遠洋漁業を賭けた連続耐久バンジージャンプ対決を銚子の犬吠埼灯台で行った末に見事勝利したらしいぜ……」
「銚子と言えば、若者が次々と水没する珍事件が立て続けに発生したらしいな……地元の人の話では妖怪の仕業じゃないかって」
なにか色々余計な尾ひれも付いているが……
ざわつく声の中には、一色が実行委員長に収まるのを良しとするコメントがチラホラと混ざっている。
不敵な笑みを浮かべていたマッチーは、十分に間をおいたのち、再び口上を述べる。
今度はおどけた口調と手振りを交えて。
「それにさ……実は俺、もう最初から一色さんが実行委員長やるって何故か思ってたんだよね……なんか、そういう雰囲気出てたっていうか」
「分かる!」
「俺も思い込んでたわー!」
あちこちから同意の声が上がると、続けてどっと笑い声が続いた。
今度は共感を誘った口上であり、そしてそれは見事に功を奏したようだ。
良くない……非常に良くない流れである。
騒然とした雰囲気の中、一色は役員席に戻って、皆と何やらゴニョゴニョと話し合っている。
思わず舌を打つ。
何か助言が出来たのではないか……くそ、こんなことなら俺もあそこに座っているべきだった。
ともあれ、場はすっかり「一色実行委員長」というムードになってしまっている。
……そんな空気を作った元凶の一人が、パタリとこちらにもたれかかり、小さな声で囁いてくる。
「ねぇねぇ比企谷くん……あの子、誰?」
「……マッチー」
彼女の問いには適当に答えて、俺はもう一人の元凶……マッチーとやらに目を向けた。
陽乃さんだけが相手なら、隣に座っているのもあって無理くりにでも押さえ込むことが出来たかもしれない。
だが、思わぬところから矢が放たれて、こちらも些か混乱してしまった。
奴にどんな目的があるのか。どんな意図が、思惑があるのか……?
知る由もないが、確かなことが一つ。
……マッチーは明らかに、一色に悪意を抱いている。
「か・い・ちょ!か・い・ちょ!」
「いろはすー!」
あちこちで囃し立てるような声が上がり、中には手拍子を打つ者まで現れる。
実行委員というのは総じてモチベーションが低い。くわえて停滞した空気が長かったのもあるだろう。
一刻も早くこの場を終わらせたい心理が合わさり、一色待望論に場が染まっていく。
おろおろと狼狽した一色が、縋るような目を俺の方に向けた。
視線が重なる。
これが最後のチャンスだろう。一つ頷くと、俺は目に力を込めて一色に思念を送る。
―― 一色、これは罠だ……!断固として拒否しろ。ジャンケンでもなんでも良い、委員長になるのだけは回避するんだ……!
「?」
……が、不発……!
一色は、俺の必死の訴えに「は?」という顔で首を傾げており、端的に言ってめっちゃムカつく。
もう!どうして通じないのぉーっ!
やがて一色は俺から視線を外し、コホンと咳払いすると、腕を振り上げて皆の歓声に応えた。
「まあ……皆さんがそこまで推すなら、仕方ありませんね……ではでは実行委員長、わたしが引き受けちゃいましょうーー!」
などと威勢はいいが、おそらく雰囲気に抗えず、周りの声に当てられて決めてしまったのだろう。
……まるで成長していない……
一色が「おー!」とあげた拳に、委員達から万雷の拍手が送られる。
「うおぉーーっ!」
「いいぞーー会長ーー!」
そんな大盛り上がりの会議室の中、生徒会役員共と俺は突っ伏して、机に熱いベーゼを交わすのだった。
……かくして、文化祭実行委員長が選出された。
※※※※※※※※※※※※
思いの外、時間が経っていたらしい。
結局その日は、実行委員長の役決めだけに留まり、他の役職は後日決めることになった。
部活に燃える系の生徒は早速出ていってしまったが、まだ会議室に残ってお喋りを続けている者も多い。
そんな中、前の方では生徒会メンバー達が、めぐり先輩をオブザーバーに緊急会議を行っている。
「み、み、みみみみんな、あ、慌てろ、落ち着くな……!KOOLになるんだ!こんな時こそ冷静になれなくてどうするんだよ!」
「落ち着いてください副会長さん……」
副会長はすっかり取り乱していた。
なんて見苦しいんだ……ああなったら人間お終いですね……
……と、言いたいところだが、今回ばかりは無理もない。今日のこれで、せっかく描いた未来予想図は全てパーだ。
奴の作った「水も漏らさぬスケジュール」も、今となっては壮大な前振りとしか思えなかった。
「ファホン(欠伸)……よく寝た……え、何々どうしたの……えー!?一色さんが委員長になっちゃったの!?どーして断らなかったの!」
「いや、そこは先生が止めてくださいよ……」
「ヤバイなぁ、忙しくなっちゃうなぁ、今日はヘルプで来ただけなのに……ちゃんと手当とか上乗せされるのかなぁ……?」
「それは俺らじゃなくて、偉い人に聞いてほしいっす……」
などと顧問も今更起き出しては、勝手なことを抜かしている。
もうあの人、ジャブローかどっかに左遷したほうが良いんじゃないかな……?
ともあれ生徒会はてんやわんやで、大変慌しい様子が見て取れる。
俺も参加した方が良いのだろうが、なかなか気力が湧いてこない。
彼らの狂騒を、机に突っ伏したまま遠目に眺めるのみだ。
「どうしたのー?くたびれちゃって」
声のした方にギギギ……と振り向くと、同じく突っ伏している陽乃さんと目が合った
ただ、こちらはふざけて合わせているだけで、俺とは対照的に実に楽しそうな面持ちだ。
「何か聞きたそうな顔してるけど」
「……意味ないことしても、しょうがないでしょ」
なんで、あんたこんな事するの……
幾度となく浮かんでは、結局呑み込んでしまった問いである。
聞けばそれらしい答えが返ってくるだろう。
……だけど俺がそれを信じることはないし、彼女も本心を曝け出すようなことはすまい。
去年交わした言葉通りだ。そこに意味なんか、ない。
「お、成長してるねぇ……お姉さん嬉しいな」
陽乃さんは悪戯げに笑うと、こいつこいつぅと指でチョンチョンと突付いてきた。
噛み付いてやろうかと思ったが、それも意味がないので止めておく。
それにこの人の場合、おそらく一色に対して悪意はない。もっと言えば、興味すら持っていないだろう。
さっきの提案は一色にというより、俺個人に対する悪意……せいぜい嫌がらせ程度のものだと思われる。
要するに一色は"とばっちり"を食らったのだ。
……ならば、せめてあいつの荷を少しでも背負ってやるのが、今の俺に取れる「責任」ということになる。
「……」
理由が付くと、ようやく気力らしいものが湧いてくる。
まだこの場にいる、もう一人の困ったちゃん……マッチーの様子も気になったが、生徒会メンバー達のもとへ赴くのが先決だ。
よいしょと立ち上がり、長机の隙間から中央のスペースに出ると、向かう間もなく一色の方から駆け寄ってきた。
顔には分かりやすく狼狽を貼り付けて、手を胸の前でワチャクチャと動かしている。
「先輩、先輩!どうしましょう……やばいです、マジやばいですよこれ……」
「アホかお前は……」
「だ、だって、あの空気で断るなんて出来っこないじゃないですか!」
案の定、雰囲気に屈して引き受けてしまったようだ。
そゆとこ治らないよね……君……
前での話し合いは一段落ついたのか、続いて会計くんと大志も俺達の方に歩み寄ってくる。
「……とにかく、決まった以上はやるしかないね」
「そうっすよ!幸い今日はめぐり先輩もいますし、早速あとでミーティングっす!大丈夫、なんとかなるっす!」
こちらは意欲旺盛といった感じで、あまり挫けていないようだ。
そんな二人に背後から声が飛んでくる。
「おっ、頼もしいねー、今年の生徒会は!」
陽乃さんは席に座ったまま、ぺちこーんとウィンクをかまして、その闘志を称える。
そもそも、一色が実行委員長になったきっかけは彼女の言に拠るものだ。
当然、彼らもあまり良い印象は抱いていないはず……
しかしニコニコと人好きのする、――少なくとも外見上は完璧な笑顔を向けられて、二人は毒気を抜かれた様子で照れりこと頭を掻く。
「わー…… 本当に雪ノ下さんにそっくりっすね……」
「あれ、君は…… 一年生だよね。雪乃ちゃんの事知ってるのー?」
「はい!川崎大志っす!去年、俺が入学する前に、お兄さん共々お世話になりました!」
「ほーん……そうなんだ……」
陽乃さんは値踏みするような視線を大志と、そして隣の会計くんにも向ける。
普段はポーカーフェイスの会計くんだが、今日ばかりはややたじろいているのが見て取れる。
一色も何かを感じ取ったのか、不安げな顔で俺のシャツの裾をくいと摘んだ。
その手の動きに視線を落として、陽乃さんは小さく呻く。
「ふーん……その子達が、比企谷くんの"今の"連れ合いってわけだ……」
嫌な言い方をする――
だが言葉の意味を斟酌する間もなく、陽乃さんは再び笑顔を大志に向けた。
「大志くんの言う通り、こんな時こそ先人の知恵を頼るべきだね。今日はめぐりがトコトン付き合ってくれるだろうから、どんどん聞くといいよー」
「やっぱそうっすよね!持つべきものは先輩っすよね!」
年上の美人なお姉さんに首肯され、大志はいやぁとだらしなく鼻を伸ばす。
「もう器量の良い先輩ばっかで、そこはほんとラッキーっす」
何言ってだこいつ。
一人呑気な大志であるが、一色は遮る形でその前に立つと、意を決したように陽乃さんに語りかける。
「あ、あのっ、だったら、はるさん……はるさん先輩からは何かアドバイスってないですか?」
「私から?んー……特にないなぁ…… でも大丈夫大丈夫、一色ちゃんなら文化祭も"無難に"こなせるって」
「無難……いや、それじゃ困るというか……面白くないっていうか……」
一色はチラリと俺を見たのち、なおも陽乃さんにつっかかる。
「城廻先輩に聞いたんですけどー、はるさん先輩って実行委員長をやってらして、しかも大成功だったらしいじゃないですか?その秘訣をわたしも知りたいかなーって……」
「……へぇ、一色ちゃん"大成功"したいんだ。欲張りだねぇ」
「あっ、い、いえ、そういう風にできたらいいなーと……」
「それに結構やる気あるじゃない?お姉さん安心しちゃったなぁ」
「や……それは……まあ、はい」
さんざ翻弄された身だから分かる。陽乃さんはわざと一色が引っかかるような物言いをしているのだ。
傍で聞いているだけでハラハラ、ヤキモキしてしまう。
「でもこういうのって、それぞれの年のノリとか雰囲気とか、友人関係とか、周りのフォロワーシップが重要だったりするんだよね……年が離れた私じゃ、ちょっと良いアドバイスは出来ないかも」
「そうですか……」
「ごめんねー」
あくまで軽いノリで陽乃さんが謝ると、一色は歯噛みして視線を落とす。
そうしている内に、気付けば周りに人だかりが出来ていた。残った生徒たちは一色と陽乃さんの会話に耳を傾けているようだ。
二人とも目立つタイプである。耳目を集めるのはごく自然なこと。
しかしあるいは、これもまた彼女が意図的に作り出した状況と言えないだろうか……?
―― またしても、嫌な予感が頭をもたげる。
「でも一色ちゃん、去年の文化祭だってすっごく盛り上がったよね!」
「あ、はぁ……そういえば楽しかったですね……。それに文実の方も、雪ノ下先輩が仕切ってて凄かったって聞いてます」
「うんうん、雪乃ちゃんもまあ、ちょっとは頑張ってたけど……でも、去年はもっと頑張ってた子が居たんだよねー」
「陽乃さん」
咎め立てるように、葉山が横から口を挟む。
何時になく低い声で、それは対峙する者を竦ませる、迫力の篭った声音のはずだが……
「いやー、もう実際超格好良かったね。私に言わせれば、貢献度・インパクト共に彼が去年のMVPかな!」
しかし陽乃さんは、超軽薄なノリで葉山の言を難なく相殺してしまう。
……それ以上はいけない。
俺も止め入ろうと前に出ると、間を外すように陽乃さんはガタッと腰を浮かせた。
そして面食らった俺の背中をバーン!と叩いて一色に――周りの生徒達に高らかに告げる。
「去年の文化祭の"間隙の救世主"……それがこの男、比企谷くんだー!バーン!」
過剰なまでの演出と口上に、それまで一色と陽乃さんの二人に注がれていた視線が、一斉に俺の方に向けられた。
なんてことを言うのだ、この人は……
俺はシャツを摘んでいた一色の指を軽く払うと、陽乃さんに向き直る。
「あんたな……」
「照れない照れない」
「照れてんじゃねぇよ」
歯を剥いて睨みつけるも、彼女はついと視線を逸らし一色の方に顔を向ける。
……さっきから間を外されっぱなしで、まったく捉えどころがない。
「まぁそんなわけでさ、成功の秘訣は彼がよーーく知ってるよ。しっかりアドバイスを聞けば……できるんじゃない?"大成功"」
「は、はい……」
どよどよと周りから声が立ち、無遠慮な視線を向けられる。
「誰こいつ?」みたいな顔をしているのが大半だが、中には一色の級友のように好奇の目を向ける者もいる。
他にも、驚き、困惑気味の生徒会メンバー達や、少し悲しげな顔を浮かべているめぐり先輩の姿もあり、いずれにせよ、あまり気分がいいものではない。
しかし、もっとも耐え難いのが、傍らにいる一色の視線だった。
興味深げに、あるいは真摯に―― いつしか向けられるようになった眼差し。
そこにどんな意思が込められているのかも、俺はもうとっくに分かっている。
「……先輩、去年も文実委員だったんですね……」
「あ、あぁ……」
払ったはずの手は再びシャツを摘み、じっと知りたげな顔を向けてくる。
しかし――
去年、文化祭であったこと。
俺がどんな風に振る舞い、どんな役回りを演じ、誰の為に、何を求めて奔走したのか――
……言えるわけがない。この子には。
「あれー、知らなかったの?一色ちゃん」
「……」
瞳に僅かな焦燥を滲ませて、一色は陽乃さんから顔を背ける。
「だったら尚更教えてほしいよねー、出来れば……本人の口から」
しかしその言を受けると、一色は顔を上げキョロキョロと辺りを窺う。
なんとも嫌らしいことに、陽乃さんは、俺以外にもこの話を知っている人間がいることを仄めかせたのだ。
かつての文化祭の顛末。その大凡を知っているのは、すぐそこに座っている二人 ――葉山と陽乃さんだ。
ただ、この両名が一色を相手にペラペラと喋るのは考えにくい。
葉山はその誠実さ故に。陽乃さんはその厄介さ故に……ここまでしでかした相手に変な話だが、ある種の信用がある。
しかし、それ以外の者ならどうだろう?
去年の俺の行動は、結果的に悪名として学校中に広まった。
それが表層的なものにせよ、正確性に欠いたものにせよ、覚えている者も数多くいるはずだ。
話に挙がれば、拍子に思い出す奴だって出てくるだろう。
……そうなると、問題はまったく別のものに変質してしまう。
悪名高い“例の男”が今年もまた実行委に居て、しかも生徒会に関与していると知られたら……
それは文化祭の進行に大きな支障を来しかねない。少なくともプラスには働くまい。
冷や汗が背筋を伝った。
周囲に集る人だかりを、見るともなく見る。
例えば、去年同じクラスだった連中はいないか。あるいは相模の友人は?
前年も文実委員だった生徒なら……そもそも、二年連続で委員になったのは、はたして俺だけなのか?
今、この中にも当時のことを覚えている人間がいるかもしれない――
ふと、射抜くような視線を感じ、顔を向ける。
「――」
「……!」
そこには、薄く冷笑するマッチーの姿があった。
その視線は間違いなく俺に向けられている。
――ああ、なるほど。葉山の印象が正しかったのかもしれない。
先程一色に向けていた視線とは、また種類が違う。
見下すような、蔑むような、俺にとっては馴染み深い―― それは明確に彼我を分かつ"排除"の視線だ。
暫し睨み合ったのち、こちらから目線を逸らして後頭部をガシガシと掻く。
……厄介なことになってきた。
副会長ほどの労苦ではないが、俺の予定も大幅に修正しなくてはならない。
今後の行動にも大きな制約がかかるだろう。
しかし、それは後で考えるとして……さて、差し当たってこの場をどう収めるか?
思案に暮れていると、思わぬところから声が挙がる。
「んーー……どうかな?"比企谷"くんって、前のクラスじゃ目立たないタイプだったし……そんな大それたことしてたっけ?」
ポツリと、さほど大きくはないのに、よく耳に残る高い声。
視線の多くが、声の主である海老名さんに集まった。
「私はそんな話聴いたことないけどなぁ……」
誰ともなしにそんなことを言うと、陽乃さんも彼女に顔を向け、僅かに眉を顰める。
依然、笑顔のままだが目だけは笑っていない。
「おや、なんだねこの子は……新キャラ?」
新キャラじゃねぇよ。
「比企谷くんとは仲良くしてたほうだけど、MVPってちょっと信じらんないなー。……ね、隼人くん」
陽乃さんとは一切目を合わさぬまま、海老名さんが葉山に話を振る。
「そうだな、姫菜の言う通り、"比企谷"は前に出る性格じゃないし……陽乃さん、人違いでもしてるんじゃない?」
この日、初めて二人は直接言葉を交わしたのではないだろうか。
咄嗟のパスであったが、急にボールが来ても対処できるのが葉山隼人である。
「ほほーう」
頬杖をつきつつ、陽乃さんは今度は蔑んだような視線を葉山に送る。
この二人も、旧知の仲でありながら、今日ここで初めて目を合わせたのではなかろうか。
なんかあれだな、怖いな……ここの長机に座ってる人達……
まともな感性を持っていたのは俺だけだったか……
とはいえ、両者とも俺に助け舟を出してくれたらしい。
……言わずもがな、嘘をついているのはこの二人の方なのだが、それは余り大きな問題ではない。
"みんなの隼人くん"と、そのお友達から疑義が呈されたなら、真実を希釈するには十分な材料だ。
実際の実力はさておき、この場では陽乃さんより葉山の方が大きな影響力を有しているのだから。
それに、信用を築くのは大変だが、陳腐化するのは存外に容易いものだ。
「まっ、んじゃー今日はそういうことにしといてやっかなー」
「……何の話だか」
そう葉山が締めると、なんとなく辺りには白けたムードが漂い、興味を失ったのか俺への視線もパラパラと外れていく。
やがて周りの生徒達は、今日新たに形成したそれぞれのコロニーに戻っていった。
気付けば、一色の級友二人の姿も消え失せている。
問題の解決には程遠いが、ひとまず今日のこの場は凌げたようだ。
ほっと胸をなでおろしたいところだが、しかしさっきのフォローで誰も彼もを煙に巻けたわけではない。
「むぅ……」
……などと、ふくれっ面を向けながら、シャツを摘んでいる後輩が一人。
最近は人目を憚らずに引っ付くようになってきたので、俺としては内心あまり穏やかではない。
「……話してくださいよ」
「それより君が離しなさい」
「なに誤魔化してんですかっ!」
いや、誤魔化すとかじゃなくてね……
そうして、またもや離せ話せとモゴモゴと蠢き合っていると、やや気疲れした様子のめぐり先輩がやってくる。
「ごめんね……比企谷くんが今年も委員やってるだなんて思わなくて……私がうかつだったよ……」
「あ、いや、それは……」
「一色さんも……なんとか上手くいくよう私も協力するからねっ!」
「はぁ……」
言って、めぐり先輩はペコペコと頭を下げる。何か責任を感じておられるらしい。
……まったく恨めしくないといえば嘘になるが、それでも、この人を憎むのは筋が違う気がする。
改めて、三人して陽乃さんを見やると、ニコニコとたいへん上機嫌な様子でこちらを眺めていた。
WAO!すっごい良い笑顔してるNE!
「もう、はるさん!どーしてこんなことするかなぁ……」
めぐり先輩は陽乃さんの前に立つと、はぁと溜息をついてみせる。
「比企谷くんが絡むと、妙にはしゃいじゃって……」
「うん、それについては自分でも考えてたんだけど……これはもう愛としか言い様がないよねー」
「やかましいわ」
思わず素のツッコミが口を突いて出たが、陽乃さんは軽く流すと、めぐり先輩に引っ張られるまま立ち上がる。
「これから職員室に挨拶に行って、そのあとは生徒会室ですよ。一色さん達のミーティングに付き合ってあげなくちゃ」
「えー、職員室の方はパスして良くない?」
「良くないです。ほら、行きますよ!」
めぐり先輩にうんうんと引き摺られながら、陽乃さんはこちらにひらひらと手を振ってくる。
「それじゃ比企谷くん、また後で。寂しいだろうけど、生徒会室で待っててね~」
……誰が行くか。
二人が部屋を後にしたのを見計らって、俺は急ぎ帰り支度を整える。
「えっ、先輩帰るんですか!?」
「ああ、今の内だ。万が一にもあの人らと鉢合わないルートを使う。その経路は全部で8パターン」
「いえ、そうじゃなくて……会議には付き合ってくれないんですか」
「付き合いたいのはやまやまだが……今日はマズイ。あの人とは相性が悪すぎる」
などと口にしたものの、それだけが理由ではない。
しかしそれを一色に告げるわけにもいかず、俺はもっともらしい後付の理由を口にする。
「……なんとなく分かるだろ?俺があの人と居るともっとややこしい事態になるぞ。会議の要点はあとで副会長にでも聞くからよ……今日だけは勘弁してくれ」
「むぅ……まぁいいですけど」
あまりにあっさり帰宅を許してくれたので、拍子抜けしてしまう。
言い出しておいてなんだが、もっとごねられると思ったぜ……
怪訝な顔を向けると、一色は口を尖らせながらもぼつぼつと漏らす。
「……先輩が、あの人にくっつかれてるのを見ると、なんか面白くないですし……」
「あ、アホか……」
突然いじらしいことを言いやがるので、こちらも少々反応に困ってしまう。
「先輩が話してくれないのも……面白くないです」
「それは……」
「蚊帳の外なのも、なんか面白くないです……」
しかし、続けて出てきた言葉には、ろくな反応もできなかった。
悲観にくれたその顔は、先月、花火大会の折にも見せた表情で……チクリと、胸が痛む。
「あっ、やっぱ今の無しで」
重くなりそうだった雰囲気を、一色はワチャワチャ手を動かして振り払う。
そして顔を上げ、ウンと咳払いすると、取り繕うように口にしだす。
「話す、話さないじゃないですよね。分からないから、知らないから、私が勝手にイーッてなってるだけなんです」
「……そか」
一色はペチンと俺の二の腕に拳を当てると、いつものあざとい笑顔を作る。
「今日はいいですけどー、その代わり、明日からドンドン働いてもらいますからね!」
「ん……了解」
頷き合って、暫し並んで歩く。
やがて一色は役員席の方に曲がり、俺は会議室の出口に向かって折れた。
「えー!?」と非難がましい目を向ける生徒会・年少組に手を振って別れを告げる。
そして去り際にもう一度部屋を見渡すと、まだ残っている海老名さんと目が合った。
ついでで悪いが、じっと謝意を込めて視線を送る。
―― さっきは、その、ありがとです……
―― いいよ、こんぐらい。
爽やかな返答をいただいて、今度こそ俺は会議室を後にした。
葉山にも伝えた方が良いような気がしたが、それは止めておく。
だって、男同士視線で語り合うとか超気持ち悪いじゃないですか……
※※※※※※※※※※※※
夕方とは言え、まだ日は高い。
昼間ほどではないにせよ、まだまだ暑さの残るアスファルトの上を、えっちらおっちらと自転車を漕いで進む。
そんな艱難辛苦を乗り越えれば、ようやく念願の帰宅である。
リビングに入り鞄をその辺に置き捨てると、制服のままソファにぼふんと沈み込んで、その帰宅っぷりを堪能する。
あーー、この一瞬のために生きてるわー……今、俺生きてるわー……
これだからまったく帰宅はやめられない。
昼飯を食べた後ぐらいから帰宅で頭がいっぱいになる辺り、ぼちぼち依存症の域に達しているのかもしれない。
「はー……」
とにもかくにも、まずリラックスだ。
息を吐きながら脱力し、四肢の力を緩める。
そして全ての思考を放棄して、自らをアッパラパーの状態にもっていく……そう、つまり無我無空の境地である(※個人の解釈です)
ところが、体が休まると自然と頭が回り出してしまうものだ。こうしている間にも、今日の記憶がむくむくと思い起こされる。
記憶の整理・再構築とやらを、脳のやつが勝手に行い始めるのだ。
……おかげで心の底から安堵することが出来ない。
安堵どころか、チラチラと陽乃さんの顔が思い浮かぶ度に不安に苛まれてしまう。
脱力したはずが、いつの間にか拳をぎゅっと握りしめている。
久しぶりに会ったが、その不穏っぷりは健在であった。
相変わらずの人を喰ったような笑顔。弄ぶように心を切り裂いていく話術。耳をくすぐる甘い吐息。艶めかしい指遣い。そして妹さんとは似ても似つかぬ、あの豊満な胸……
……違うな。なんか後半エロくなってるぞ。
とまれかくまれ、本日俺の心を一番揺さぶったのは間違いなく彼女だろう。
それに動揺したのは、きっと俺だけではない。
おそらく、一色も今日始めて彼女の恐ろしさを直に触れたのではないか。
今日あの人が来たのは偶然だろう。俺があの場に居たことだって想定していなかったに違いない。
しかし彼女は、ごく短い間に俺の現在のおかれている状況・心情を推察し、更にこの半年間、ずっと自分が頭の中でこねくり回していたことを現実に突き付けてみせたのだ。
もはや怪異と呼ぶしか無い洞察力であり、災厄といっていいほど近所迷惑な能力である。
「……」
―― あーーっ、もう、なんで来ちゃうかなー!あの人は!
俯せながら、じったんばったんと尺取虫の要領で腰を上下する。
勢い余ってソファから転げ落ちると、床との隙間にずっと潜んでいた我が家の愛猫・カマクラと目が合った。
暗闇の中、瞳孔を大きく開いて「人として信用できない……」みたいな目を俺に向けている。いや、お休み中のところ本当に申し訳ない。
ゴロンと寝転がり、何も映っていないテレビの方を向いて思考を続ける。
……まあしかしだ。
たとえ陽乃さんが居なくとも、厄介な事態に変わりはなかったのかもしれない。
今日は気になる人物がもう一人いた。忘れもしない、そう、確かマッピーと言ったか……
契機を作ったのは陽乃さんだが、皆を煽り立て、一色を実行委員長に押し付けたのはあの男だ。
そして、そのあと俺に対して向けたあの視線……
状況証拠と言うにも弱く、これは直感でしかないのだが、多分あいつは俺が去年やったことを知っている……もとい覚えている。
一色への態度も鑑みるに、何か腹に一物あるのは間違いない。
表面化するのが早いか遅いかだけの問題で、いずれ牙を剥いていたと思われる。
そうなれば、陽乃さんが突き付けるまでもなく、俺は嫌が応にも去年の事と向き合うことになっていたのではないか……?
「……」
電源の入っていない、真っ黒なテレビの画面を凝視する。
パネルに映る哀れな男が愛おしくもあるこの頃だが、今日ばかりは恨めしい目を向けてしまう。
結局、因果応報・自業自得・身から出たさびというやつで……
陽乃さんのちょっかいに、あるいはマッピーのあの視線に……いちいちビビっているのも、元はと言えば去年の俺に原因がある。
そして、その去年の行いが、一色に……生徒会の面々に累を及ぼしかねない事態になってしまったのだ。
それがなんとも情けなく、もどかしい。
「……」
―― あーーっ、なんでこう面倒くさいことしちゃうかなぁ過去の俺は!もうバカバカ!八幡のオタンコナス!ゴミ!ヤムシ!毛顎動物!
あー、もう!なんかもう!
再び、じったんばったんと尺取DANCEでストレスの昇華を試みる。
警戒体勢で見守っていたカマクラも、この動きにはびっくり仰天!
フシャーと威嚇したのち「こいつヤバイで!」といった様子で一目散に逃げ出していく。
うーん、やはりこのアングルから見る猫のダッシュはワイルド感に溢れているな……
腰を上下しつつその行く末を見守っていると、ひょいとカマクラが誰かに持ち上げられた。そして、その手の主にゴロゴロと甘えた声を出す。
ドアの縁に足をかけ、呆れたような顔を浮かべて立っているのは誰あろう―― 最愛の妹・小町である。
小町は腰をヘコヘコ動かしている実兄を見て、はぁとため息をつく。
「うちの不可解なオブジェは、時々奇妙な動きをするよね……」
「不可解なオブジェ」
そんな言い方もあるのか。
っていうか酷すぎる……よっぽどメンタルが強い金髪のサッカー選手じゃないと耐えられなさそう……
「ほっといてくれ……お兄ちゃんは、こう見えて今すごく悩んでるんだ……」
「へー」
はー……憎たらしいわぁ……この子……
相づちの棒っぷりも一色に比肩しうる軽さだ。
年々罵倒の語彙を充実させる妹に戦慄しつつ、俺はひとつ懸念事項を思い出す。
丁度いいところに通りがかった。ここはきちんと伝えておこう。
「あ、あとあれだ……暫くの間、お兄ちゃんに優しく接してくれ。家族の愛が足りないばかりに、今日は取り返しのつかないミスを犯してしまったんだ……」
「何それ?説明する気を全く感じないん…………あっ」
軽蔑のまなざしを送る小町であったが、何か思い当たる節でもあるのか、カマクラを抱えたままこちらに歩み寄ってくる。
そしてさっきまで俺が暴れていたソファに、ぼふんと腰掛けた。
「……ま、いろいろテンパることだってあるよね……おっけー、普段より何割増しかでサービスしたげるよ」
「おぉ……妹よ……」
思わず目が潤んでしまう。
言ってみるものだ。絶対拒否られると思っていたが、快くお願いを聞いてくれる小町はやはり世界で一番可愛かった。
さすがは唯一無二の俺の妹だけある……
「去年小町がテンパってた時も、お兄ちゃん気を遣ってくれてたもんね……どしたの?模試の結果があんまり良くなかったとか?」
ん?何言ってだこいつ。
俺が勉強の進捗なんかで悩んでいると思っているのだろうか。
「違う違う。お兄ちゃん、今までフラッシュバックに苛まれてたの。模試とかお前……何言ってんの」
「は……?え、フラッシュバックって……あの、昔の嫌なことを、ぱっぱーって思い出しちゃうやつ?」
「それだ」
恥の多い生涯を送って来ました……
腰の上下運動を止めると、俺はシュンと項垂れてみせる。
しかしそんなグロッキーな俺に、小町はソファの上からぎゅむうと腿裏を容赦なく踏みつけてくる。オウフ。
「なにそれ、今更じゃん!だいたいお兄ちゃんに恥ずかしくない過去なんてあんの!?」
辛辣ぅーーーっ!
「はーー…もう、何かと思えばしょうもない……言ってみれば、黒歴史はお兄ちゃんの人生そのものなんだから、いちいち悩んだってしょうがないじゃん!」
「ひ、ひぃ……お前……なんて恐ろしいことを言うんだ」
「過去にしがみついてないでさぁ……!もっと現在(いま)を生きようよ!」
「し、辛辣ぅーーーっ!」
妹に心を砕かれ、俺はガクリと大の字になって横たえる。
そ、そうね……言われてみれば恥のかきっぱなし。学年が変わっても、やはり恥を恥で上塗りするようなワクワク☆スクールライフだった。
いちいち思い悩んでいたのでは、毎日、尺取STYLEで通学しなければならない。
それに、記憶力の欠如こそが悪行超人においては必要なことだとサンシャインさんも仰っていたではないか。
「ありがとよ……小町、おかげで立ち直ったぜ」
「え……今ので立ち直ったんだ……」
思惑に若干のズレが有るようだが、大丈夫、私は平気。
実際のところ、なるようにしかならんし、現在出来ることをやるしかないのだ。
陽乃さんとて毎日文実に来るわけではないし、マッピーにしたって何するものぞ。所詮は年下の二年坊だ。先輩の威厳でキャン言わせたりますわ!がっはっは!
「……じゃあ勉強して歯磨いて寝るわ」
ぐりぐりと腿裏マッサージを続ける小町だったが、足をピタリと止めると、はぁとまたしても溜息をつく。
「……なんかやっぱ、お兄ちゃんって、そういうとこは凄いね」
「何じゃそりゃ」
「お兄ちゃんさ……去年、お母さんに言われなかった?リビングであんまりだらけるなって」
「ん……?あぁ、そういや言われてたな……や、結局だらけてたけど」
「あたし、それ言われてないんだよねー」
小町はカマクラの頬下をグニグニと弄くりながら、そんな事を言う。
確かにマッマからは事あるごとに注意を受けていた気がする。年末に炬燵でのんべんだらりと過ごしていた時も、そんなお小言を頂いたものだ。
小町は受験生なのだから、あまりだらけた態度を見せるのは良くない――と。
しかしなんだ、こいつは言われてないのか。
「まあ、それはあれだな。多分、愛情の差がそのまま表れてんだろうよ」
「いや違うでしょ」
反射的に出た割には的を居た言葉と思ったが……小町はそれを即座に否定する。
「そうじゃなくてさ、お兄ちゃんって結局信用されてるんだよ」
「や……どうだろ、んなことないと思うが……」
「絶対そうだよ!実際、小町はお兄ちゃんがサボってたら自分もサボろうって思うタイプなんだよね。……ってか、口実にしちゃうっていうのかな」
そうなのか。
自主性に富み、かつ協調性をも両立させる完璧超人と思っていた小町にそんな一面が……
っていうか、そういうのって自覚してる時点で克服できてるような気もするのだが……
「……でも、お兄ちゃんは小町がサボってたからって、自分はサボったりしないでしょ?」
ふむ……まぁそうかな?いや、そうでもないような……
こうして人から言われると、あまり強く自信が持てない。
「少なくとも、お母さんはそんな風に思ってるよ。だから、あたしにはとやかく言わないんだよね……それって信用されてるのなーって」
どうも俺を褒めてくれているようだが、一方の小町は浮かない顔で、寂しげに目を伏せる。
い、いかん……妹が悲しんでいる。フォローしなくては……!
「でも、それはあれだぞ、家族の序列的なもんであって……なんたって、俺は小町のお兄ちゃんなんだからな」
「違うよ、性格の問題だよ」
俺の渾身のフォローを、またしても小町は即座に否定する。オ、オウフ……
「結局それに甘えちゃってるんだけどさ……でも、小町としてはそういうのを羨ましくも、情けなくも思ってるわけですよ……」
ふむ……慰めるのは失敗したが、言わんとしていることは分かった。
何かとチヤホヤされる年下ポジションにも、それはそれで悩ましいことがあるのだろう。
それは不甲斐なさであったり、気を遣われる重荷であったり……
こちらとしては純粋な善意のつもりでも、言われる方はそのまま額面通りに受け止めるわけではない……という話でもある。
フッ……しかしこいつめ、お兄ちゃんをそんな風に見ていたとは。
口ではなんだかんだ言いつつも、根底のところでは小町も俺のことを兄としてリスペク……
「で、何やったの?取り返しのつかないミスって」
「……」
「ほら、聞いたげるから言った言った。小町も暇じゃないんだよ?」
「……ひ、人の期待を、少し裏切ってしまったかもしれません」
あるいはこの先にも、裏切るようなことがあるかもしれない。
「何それ」
「文化祭で少々……こう、迂闊ことをしてしまったというか……厄介事を持ち込んだといいますか……」
「あー、それなら大丈夫大丈夫、お兄ちゃん元から信用されてないし」
「さっきと言ってることが違うんですが……」
「あたしが言ったのは勉強のこと!人付き合いに関してはお兄ちゃんダメダメじゃん。はっきり言って小学校低学年レベルだよ!?」
「しっ、辛辣ゥーーーー!」
うっ、うっ、そんなことないのに……
小町の見えないところでは俺だって頑張ってるのに……昼間のお兄ちゃんはちょっと違うのに……
だいたい、こいつに俺の何が分かるというのか……!
「お兄ちゃんってさー、学校でも遠慮なく物言われたり、ぶっちゃけ馬鹿にされちゃったりしてない?」
ひ、ひぃ……!こいつ、何故そのことを……。
一色は元からだが、最近は書記ちゃんや大志といった後輩達まで舐めた口を聞いてくるようになった。
マッピーだって、あれは俺を馬鹿にしてるんだよなぁ……
それにしても、何故小町はそんなことまで分かってしまうのか。
も、もしかして……能力者……なの……?
「お兄ちゃんは人に理解されること全く考えないからさ……そうなると周りの人は、見たまま、感じたまま評価するしかないんだよね」
「は、はい……」
くっ、こいつ……JKになったからって、いっぱしの口聞くようになりやがって……
しかし思い当たる節がありすぎて、何も反論が思いつかない。
「ま、しばらくは大人しくしてることだね。時間経ったらみんな忘れるし……本当は誰だってクラスメートのことは悪く言いたくないからさ」
「いや、クラスメートじゃなくて、今言ってたのは生徒会の面々なんだが……」
「えっ、そうなの?……ああ、あの人達か……」
ジト目で説教くれていた小町だったが、それを聞くとぱちっと目を見開く。
そして思案すること暫し。
「あー、それなら大丈夫大丈夫。多分信用されてるから、失敗したとしても、そんなに気にすることないんじゃない?」
「さっきから話がひっくり返ってばかりなんだが……」
「面倒くさいからいちいち言わないけど……あの人達のことなら、そんな気にしなくて良いと思うなー」
もう、この子ったら……何度掌を返せば気が済むんでしょう……?
俺はそんな子に育てた覚えはないし、ブレない信念の大切さは常に背中で教えていたつもりだったのだが……
コロコロ意見を変えるような奴って最低だよね!
「あー、しょうもな。心配して損したよ……」
言って、小町はどべっとソファに寝転がる。
説教は終わりと言わんばかりに、四肢を脱力しすっかりだらけモードに入っている。
「い、いや、お前……何を根拠にそんなにリラァックスしてんだよ……」
「ほら、お兄ちゃんっていじりやすいし、みんなも甘えてるだけなんじゃないかな?それに……とやかく言わない人だって居たんじゃない?」
「それは……」
ふと、副会長の顔が頭に浮かぶ。
そういやあいつ、とやかく言わないどころか、今日はフォローしてくれたんだっけ。
まあ、副会長は折り目正しい奴だ。夏休みのことを恩義に感じてのことかもしれないが……
それに奴だけではない。今日は葉山や海老名さんも、俺に助け舟を出してくれたのだったか。
「……」
「ほら、居るんじゃん。そういう人達のことをもっと気に留めないとダメだよ。批判を気にするのもいいけど、それよりも期待に応える方がずっと大事だもん…………あっ!いま小町良いこと言って、今日もポイントが高い!」
「はいはい、高い高い」
こういうところが無ければ、本当に良い妹なのだが……
ため息をつきつつ、よいしょと立ち上がる。
尺取虫の形態模写も、小町との掛け合いも楽しいが、本当にそろそろ勉強をしなければいけない。
鞄を拾い、シャツのボタンを片手でプチプチと外しながら自室に向かう。
そうしてリビングから出ようとした時、小町がぼそりと嘯いた。
「……お兄ちゃんは、本当に訳わかんない奴だけどさ」
足を止め、顔だけ振り向いて、言葉の続きを待つ。
「でも、ちょっとでもお兄ちゃんのことをさ…………」
「……」
言いかけるも、俺の視線に気付くと小町はウッと口をつぐんでしまう。
「やっぱいいや。……褒めるとなんか調子乗りそうだし」
「さいですか……」
苦笑して、今度こそリビングを出た。
小町が何を言おうとしていたかは知らないが、でも、きっと俺を励まそうとしたのだろう。
本当に悩んでいると、あれで真面目に向き合ってくれる。
だから言葉はなくとも、その気持ちが伝わるだけで、ある程度持ち直すことが出来るのだ。
――幸い、俺は家族に恵まれている。
ここにはあるのは、癒やしと言ってもいいし、逃げ場と言ってもいい。
そうしたバッファのようなものを俺は確かに持っていて、だから外で何があったとしても、本当の意味で追い詰めらることはない。
そんなことを考えていると、ふと、脳裏にあいつの姿が浮かぶ。
今日はよく似た顔に会ったので、尚のこと鮮明に思い出された。
そんなバッファがない奴も居る――
現在はどうか知らないが、去年の今頃、あいつは親に充てがわれたマンションに一人で暮らしていた。
それだけが理由ではないにせよ、さぞ張り詰めた心理状態にあっただろう。
焦燥し、追いつめられ、実際体調も崩していた。
凛とした態度を人前で崩すことなかったが、しかし本当は足掻いていた。
今でこそ分かるが、あいつは、雪ノ下はそれこそ必死に……寄辺を求め、誇りを賭け、一人気を吐いていたのだ。
そうして足掻いて、足掻いて、あいつは文化祭で何を得たのだろう――
俺は、――俺たちは何を手に入れたのか?
……幾ばくかの寂寥と共に、じわりと熱いものが胸を伝う。
話して欲しいと一色は言う。
しかし、その正体を、未だに俺は言葉に出来ないでいる。
※※※※※※※※※※※※
グーテンモルゲン!
わたし比企谷八幡!十中八九、男子高校生!
……あれ、このネタやったかな……?なんか以前も同じようなことを……いやいや大丈夫、初ネタだ。絶対やってないわこれ。
さあ、そんな訳で日も明ければ、一介の男子高校生たる俺は学校に出て、授業を受ける。
私立文系志望とは言え、選択した理系科目の授業も申し訳程度にこなさなければならない。
もはや消化試合としか言えない不毛な授業を終えると、実験室を出て一人トボトボと教室に戻る。
次の授業は現代文だ。これは得意科目なので、さっきの授業同様、寝て過ごしても大過無い。
昼休みを挟むと、次は英語に日本史……これも今ぐらい時期だと自習のウェイトが高くなり、あまり実のある講義は行われない。いずれもスリープアウトしてOKである。
はて、そうなると一体全体、俺は何故学校に来ているのか……?
千葉の教育制度が抱える闇に思いを馳せたその時、不意に背後から腕を取られる。
「せーんぱいっ!」
「オウフ」
咄嗟のことに思わずダンディーな吐息がまろび出ると、前を歩いていた同クラスの男二人が、何事かとこちらを振り返る。
腕を取った本人―― 一色が彼らに愛想よくお辞儀すると、ちっと舌を打って再び歩き出す。
おい……いま確実にヘイトを受けたぞ……
しかし一色は、こちらの事情などまるで勘案せずに、話を切り出してくる。
「ちょうどいいところに……先輩、今日のお昼はいつもの場所じゃないんで!えーと、生徒会……じゃなくて被害者の会の教室に来てください」
「はい……あ、いや、なんでだ?」
「ミーティングですよ、ミーティング。役員メンバーで今後の方針を話し合うんです。あっ!あと、ちょっとだけ運んで欲しい荷物があるので、それも……」
これ間違いなくメインは後者なんだよなぁ……しかも、その質量は絶対"ちょっと"ではない。
……とはいえ、断る理由もない。
こいつにおっ被せた迷惑を考えれば、むしろ、それぐらいは協力して然るべきだ。
「ん、分かった。……他にも戸塚とかは呼ばなくていいか?人手が要るようならこっちで手配しとくぞ。他にも川崎とか、あと、戸塚とかも……」
「え、ええ……大丈夫です。ほんとに荷物はそんなに無いんで……あくまでミーティングがメインですから」
若干頬を引きつらせる一色であったが、伝えることを伝えると、キョロキョロ辺りを見渡す。
そして、フフンとせせら笑うような顔を向けてくる。
「……にしても、相変わらずぼっちですねぇ……先輩は……」
「ほっとけ」
移動教室からの帰り路。
選択授業なれど、他の級友達は皆、小集団を形成して廊下を歩いている。
……独りなのは俺だけだ。
「謎なんですよねー。わたしの前では、ちっともそんな感じしないのに」
ふむ……。
まあ確かにそんな印象を抱いても不思議ではない。
俺のぼっちぷりは、クラスの中でこそ最大限に発揮される。
『はーい、それじゃ一人二組になってー!』だの『じゃあ、今やった英会話を隣に座ってる子とRepeatしてみようかー!』だのという無慈悲な指令によって生み出される悲喜こもごもなイベントを、こいつは目の当たりにしたことがないのだ。
学年の差は斯様に大きい。
それは、こいつがどうやっても知リ得ない、俺の一面である。
……逆に、俺がどうやったって知り得ないこともある。
「お前の方はどうなんだ」
「へっ、わたしですか?……普通にやってますよ、先輩と違って」
「いや、昨日の会議でよ、お前に委員長押し付けたのはクラスの奴だったろうが」
強烈な印象がある。忘れようにも忘れられない……そう、確かマッキーと言ったか。
「あー……」
それで俺が何を言いたいのか、一色は大体のところを察したようだ。
考えにくいことだが、こいつも、もしかしてクラスでは疎んじられているのではあるまいか……?
昨日の奴の態度を見るに、そんな懸念がふと浮かんだのだ。
「なんといいますか……この辺のこと話すのは、ちょっと恥ずかしいんですけども……」
言いにくいのか、一色は逡巡した様子で、あちこちと目を泳がせる。
「嫌なら別に話さなくていい」
「ほら、昨日、あの男子と一緒にいた女の子……覚えてます?夏祭りの時、先輩も会ったと思うんですけど」
話すんかい。
こいつのテンポには時々ついていけないのだが、あの快活な少女の事だろう。
言われて、ぽわんと頭に思い浮かべる。
ふむ……なかなか可愛らしい子だった。どこのコミュニティにも一人は居る。明るく、ムードメーカー的な存在。
しかし、あの子がどうしたというのか……?
「……去年、わたし、クラスの子に、生徒会長に推薦されちゃったじゃないですか?」
「ああ、そうだったな」
「あの子は、その推薦した女子グループの一人っていうか……中心人物っていうか……」
「マジか……」
えぇ……そうなの……?
これには少し驚いてしまう。
あの明け透けで、天真爛漫といった感じの子が、去年のあの企みに加担していようとは……
冗談半分と言えども、級友を生徒会長に勝手に推薦するのは悪意無しにはありえないことだろう。
……しかし、昨日あの子はマッキーの煽りを止める素振りを見せていた。
一色を陥れる様子と、昨日のあの姿がどうしても結びつかない。
「それでー、あの子とマッチーって、クラスではちょっといい感じなんですよねー」
「マジか……」
よーしよしよし……そろそろ八幡、着いていけなくなってきたぞー……
え、なに?じゃあ、あの二人グルってことなの?
確かに仲が良さげなのは間違いないと思うが、裏でコソコソ共謀しているのも抱いていたイメージと異なる。
やはり、いまいち実感が湧かない。
「あの二人は去年も同じクラスでしたし……とにかく、なんかそんな感じで、マッチーはええ格好してみせたかったんじゃないですかねー?」
「意味が分からん……」
説明する気ねーだろ、こいつ……
とはいえ、俺はあの二人のことを全く知らない。
加えて、人付き合いに関して一色はこれで目端の効く方だ。
俺には適当な推理に聞こえても、そう外したことは言ってないのだろう。
ただ、まったく文脈は理解できないが、一色を委員長に押し付けるのは、奴らの"ええ格好"の範疇に入るらしい。
そして斯様な共通認識が成り立つのなら、それはつまり……
「やっぱりお前、疎んじられてんじゃねぇの?」
「違いますって!」
「ふむ……これは、もう対抗策を打つしかないな」
「た、対抗って!……ちょっと、余計なことしないでくださいよ」
「いいか一色、マインドセット次第で人間は孤独に打ち勝つことができる。その思考パターンは大別すると八つ……その全てを伝授してやろう」
「なんて内向きな対抗策……」
一子相伝の技を弟子に伝えようと思ったのだが……
一色のこの目……養豚場の豚でもみるかのように冷たい目だ。
残酷な目だ……「かわいそうだけど明日の朝にはお肉屋さんの店先にならぶ運命なのね」ってかんじの!
などと、冷酷極まりない態度をみせる一色だったが、コホンと咳払いして続ける。
「そういうの本当に良いですから。それに、あの二人は友達……ですし……」
「えぇー……」
友達……なんだ……
相変わらず、女子の交友事情は複雑怪奇である。
こんなん、絶対外交に失敗しますわ……
「とにかく、心配はご無用ですから!言いましたからね!」
「まあ、お前が良いってんなら良いけどよ……」
「……まったく、先輩はわたしをどういう目で見て……」
テクテクと渡り廊下を歩き、分岐点たる踊り場が見えて来た時。
隣でブツブツ嘯いていた一色が、はっしと再び俺の腕を取る。
ひゃん!冷やっこい!
「先輩、もしかして今わたしの事……心配してくれました?」
にまーと、一色は意地の悪い笑顔を浮かべてそんなことを言う。
「ばっ、ばっか、お前ばっか、そんなこと、ばっか、ある訳、ばっか」
こちらも動転して、思わず壊れたレコードのような返答をしてしまう。
……にしても、やはり最近距離感が決壊している節がある。
こんな人の行き交う場所で、こんなアレをしていたら、そんなアレと思われてしまうのではないか。
「いいから離せって、お前」
「話してくれたら離しますよー」
そうして、廊下の真ん中で、またもやモゴモゴと蠢き合う。
「なお、暴れれば暴れるほど強く締まる仕組みになっています」
「どういう原理だ」
一色の挑発的な顔は、まさにキャッチ・アズ・キャッチ・キャンといった趣きである。
近代レスリング発祥の地である、ランカシャーの息吹を感じるぜ……
だが言っている場合ではない。
様々な理由で、今の時期あまり目立つ行動を取るのは控えた方がいい。
くっ、しかしこっちの方向に腕をほどくと関節を極められてしまう気がする。一体、どのルートで外せばこの拘束から逃れられるのか……!
――などと、再三に渡るフィジカル・チェスに興じていると、階段の上から声がかけられた。
「ヒッキー!やっはろーー……って……あっ」
「おっ……」
「あっ」
尻すぼんだ呼びかけの後、三つの間抜けな嘆詞が重なった。
……と共に、さっきまで絡みついていた一色の腕がさっと解かれてしまう。
最初の声の主―― 由比ヶ浜は一瞬後悔した顔を浮かべるも、取り繕うようなぎこちない笑顔を浮かべる。
そして、くしくしとお団子を弄りながら、ゆっくりと階段を降りてきた。
「ご、ごめん……邪魔するつもりじゃ……なかったんだけど、あはは……」
「や、そういうんじゃねーから……」
なんとも気まずげな雰囲気に、互いにあちこちと視線を泳がせる。
ふと傍らの一色に目をやると、自らの掌を見つめて、ぎっと歯を噛みしめている。
……が、俺の視線に気付くと、すぐにその手を背中に隠した。
「ゆ、結衣先輩、こんにちはー!」
誤魔化すように、ぱっと笑顔を向けると、同じくわざとらしい表情で由比ヶ浜も応じる。
「やっはろー、いろはちゃん。姫菜に聞いたんだけど……なんか、実行委員長になっちゃったんだって?」
「そうなんですよー!なんかノリでそういうことになったっていうかー……」
「大丈夫大丈夫、いろはちゃん、もうすっかり生徒会長らしくなってるもん。文化祭だってきっと上手く出来るよ!あたしのクラスでもすっごい評価高いし」
「ほんとですかー!?」
……内容だけを聞けば、なんてことない先輩後輩同士のやり取りだ。
だが、何故かそう響かないのは、二人の必要以上に周りに合わせようとする性格のせい……では、もちろんなくて……
ガシガシと後頭部を掻く。
……こいつだ。こいつが全部悪いのだ。
「男子にも評判いいんだから!"声がやみつきになる"とか……"踊らされたい"とか……あと"げぼく"……?になりたいって子も!」
「は、はぁ……」
由比ヶ浜の方もいろいろ取り繕おうとしてか、訳の分からない発言が飛び出している。
あれ、完全に聞いたまま言ってるな……大丈夫か、あいつのクラス。
「ま、まあ、とにかく……結衣先輩にも、またご協力をお願いすることになるかも……」
「うん、どんどん頼ってよ!……あっ、それにあれだよ、ほらっ」
由比ヶ浜は俺の背中をべシーンと叩いて、えっへんと何故か誇らしげに胸を張る。
「実はヒッキーってば、去年は文化祭の実行委員だったんだよ!」
「んが……」
「あー……」
思わず「んが」とか言ってしまったが、昨日の会議のことが思い出され、一色との間にずんと鉛のような重しがかかる。
「参考になるんじゃないかなーって……あ、あれ……?」
そんな俺達の微妙な空気を感じ取ったのか、由比ヶ浜はバツが悪そうに、ちょんちょんと己の両手の指を突き合わせる。
「あっ、そっか……ごめん……そんなつもりじゃなかったんだけど……」
「……」
「……」
「……」
三人して俯き、押し黙ってしまう。
……まともに会話も出来やしない。
もはや俺の周囲は、地雷で埋め尽くされているのではないかと錯覚してしまう。
いたたまれない心地と、しかし一方で苛立ちが頭をもたげる。
―― 地雷。
去年のあれを地雷だと言うのか、俺は――
暗い情念が、じわりと汚泥のように胸に広がっていく。
しかし、今はそれに向き合う時間も気構えもない。
ひとまず目前の状況を終わらせようと、俺は逃げの一手を打った。
「ん……俺、もう行くぞ。お前らも急いだ方が良いんじゃねぇの」
テキストの角で、チョイチョイと進路を指すと、二人もはっとこちらに顔を向ける。
「あー!あたし、職員室行くんだった!」
「わたしは生徒会室です!」
「んじゃ、俺は教室に……」
そして俺たちは、JOJ○三部のラストシーンのようにバンッ!と身を翻し、それぞれの道を力強く歩んでいく――
……というようなことは全然なく、手を振り振り、一見和気藹々としたムードで別れを告げる。
そして、淀んだ空気から逃げるように、いつもより少し早めに歩を進め、その場を離れた。
しかし、その重苦しい空気を発しているのは他ならぬ自分自身だ。
逃げられようはずもない。
ぺたぺたと下履きを廊下に叩きつける。
その音に紛れこませ、誰にも聞こえない声量でぼそりと呟いた。
「……くそったれめ」
俺は一体、何に苛立っているのか。
何を守りたいのか。
何に慮っているのか。
思考はとりとめもなく、千々に乱れる、
しかし、言葉にすらできないこの想いだが、一つだけ言えることがある。
――俺はこのことを、きっと誰にも触れられたくないのだ。
※※※※※※※※※※※※
一色いろは・被害者の会7
怒涛篇・中間 【了】
久しぶりに再開したと思ったら、ドロドロの展開……
次回!特に理由の無い暴力が八幡を襲う……!
遅かったじゃないか...。
次も気長に待ってます!
待ってたんじゃよおおおお!
しかしまさかの大魔王降臨とは、、、八幡といろはにあ旧奉仕部の呪縛を乗り越えて次のステージに進んでほしいです。
とりあえず続きを気長ーに待っています。
安定の天丼といろはの可愛さで顔がニヤける…今回もとても面白かったです!
ワガママ言って恐縮ですが、トベニウム(戸部から排出される分泌物。サムズアップしてる時によく出る。)不足で栄養失調になりそう…っべー
はあぁぁぁ…うん!うん!
久しぶりの新作、全力で味わわせて頂きました!
シリアスな気配にそわそわしつつ、きっとこの八幡といろはなら、乗り越えて明るい未来に辿り着けると信じています。
キターーー!!!!
ホントに待ちました!!でもこの内容見せられると怒れない……(笑)
このドロドロ展開ホントにたまんないですわ……
次も頑張ってください!!!
今日こそは更新されてるハズ!と思いページをクリックすること幾星霜。相変わらずの重厚且つ、軽やかな内容に感服です。
とべっちが出てこなかったのがちと残念でしたが、不穏な雰囲気が充満しつつも後編への期待が高まるばかりでありますよ♪
いろはす、八幡とその他諸々の仲間達(下僕)とでこの難関を切り抜けてみせろ!
ついにきたか…
待ってました!
今回も安定のクオリティで一気に読んでしまいました!
後編も楽しみに待ってます!
本当にこれは群像劇っぽく仕上がる予感あと材木座は癒し
待っていたぞこの時を
長かった。待ってる間に何回読み返した事か。しかしこのクオリティー、文句はつけれん。
また続きを待つ日々が始まるな。
待ってたゾ
めぐりんから陽乃さんの急転直下に草
続きも楽しみに待ってますよ!!
OG・・・?と嫌な予感が脳裏をよぎった直後にめぐりんの登場で胸をなでおろし、よかった、本当によかった、と思っていたら・・・。まんまと揺さぶられまくりっすわ。
随分と遅かったじゃないですか…
ずっと楽しみに待ってましたよ!
三月に何があったのかも徐々に明かされてきて盛り上がってきましたよー!!!
続きが気になりすぎるので早めの更新をお願いしますm(__)m
お仕事も大変だとは思いますが頑張ってください!
メチャメチャおもしろい!
続きが気になる〜
あと、小町の一人称は私ではなく小町ですかね…
応援してます!
ガハマさんの前では手を離してしまうんだな・・
それにいろはすにはテレパスが全然通じない
ドロドロでハラハラしてしまうけどやっぱりテキストは面白いです
お待ちしていました
お待ちしていました!
おまちしていました!!
※17
このSSでは、小町の一人称はあれでいいのですよ
ありがとーーー!
これから読む。
先にお礼
待ってました!
文化祭編全くどうなるのか予想できなくてめちゃくちゃ面白いです!
次回も期待してます!
何だかスッキリしないなぁ。
次回で陽乃もマッピーもきっちり報復にあってほしいね
待ってたよー!
ジャーナリズム!
正直、延期になってるけど本家の12巻発売より待ち遠しかった。
で、待たされただけの事はあるこの内容。
きとったぁーーーーーーー!
きておったわぁーーーーーー!
ありがとう。
いまから読みますね。
うれしいのう、うれしいのう
きたぁー!
やっぱさいこーだねぇ
きてたぁ!
ほんま更新ありがとうな
忘れた頃にやって来る被害者の会
相変わらずのクオリティーで安心しました。
※20
いやそれお前が決めることじゃねぇからwww
陽乃さん出てきたww
いろはすSSで一番面白いと思ってます!!!
続き待ってます♪♪
小町の一人称間違えちゃったな……
これはちょっと修正しといたほうが良いかも。
指摘してくれた人も、慰めてくれた人?もありがとう!
次回以降はさらにいろいろキャラが崩れていくかもしれないけど
いろいろツッコミ入れつつ大目に見てね!
とりあえず少なくとも三回は読み返します。今回も最高でした。
アンチと制裁ないからつまんね
量産型いろはssって感じ
このss読んでからというもの、他のいろはすssが読めんくなってしまった。笑
忙しくて大変だろうね。
でも待ってるよ。君のペースで存分に書き切ってくれ。
やっぱり面白い!コメディもいいけど、シリアスもまたいい感じ!次も期待して楽しみにしてます!
葉山や陽乃さんの前では離さなかったのにガハマさん相手だといろはすは手を離してしまうのね・・・
海老名さんも描写も何気に良い
サブキャラの活躍も楽しみなssなんだよなぁ
お疲れ様です。休み時間などで読んでて、ギャグが面白いのでつい、デゥフヒと笑って隣の人にドン引きされます。(脱衣さん許すまじ) 続き楽しみにしております。
ガハマさんで手離しちゃうなら雪乃だったらガタガタ震えながら小便漏らしちゃうやろなあ…
続きが読みたい…
求む続き
続きが読みたい定期
続きが欲しい。せめて生存報告。
最新刊発売したから活動報告来てると思ったら無かった
生きてるかだけの報告を……。もうこんな面白い作品を未完だなんてことだけはしてほしくないな。原作はどうなってももうこれはこれでパラレルワールドとして見てるから作者さんには好きに書いて欲しい。最悪雪乃が魔王を超えた大魔王になっていても許せるくらいにはこの作品は面白い!
生存確認。凄い面白いので、気長に待ってます。
いつまでも待ちますぜ
まってるぞい
もう書かないの?(´・ω・`)
更新待ってます!
年内は更新ないのかな?
読み返してました。
やっぱ面白い!
続きお待ちしてます。
まだ更新待ってますよ
俺は待ってるぞ。なんてたって今まで見てきたいろはすSSの中で最高峰クオリティなんだから。
新年だぞ
更新まだかなぁ
更新待ってる。
がんばれ!
更新待ってます!!!何回も読んでます!!!!
頑張ってください!!!!
お前の書いたSSが好きなんだよ!!!!
おもしろい!気長に待っておりますので 続き よろしくおねがいします
何度でも読んで待ちます!
生きてるかい?
もうすぐ最終更新から一年になりますね。何か生存報告だけでもあると嬉しいです!
この一年ほぼ毎日更新チェックしていました。お元気でいていただければ嬉しいです。
まだかな・・・・・・・・・・・・
続き読みたい…
頼みます。書くのをやめるかしばらくしたらまた書き始めるのかだけ教えてください。この作品本当に好き
もう1年経ってしまった…
ワールドカップ終わってまた毎日ここの更新をチェックする日々が来てしまった
仕事忙しいのかな・・・
まだか…
はやく!はやく!
何枕獏だよ…
とツッコミを入れずにはいられない
続き楽しみに待ってます
もう夏も終わった。
お願いします。生存報告だけでも……
自分はいつまでも全裸で待ってますぜ。もう1年3ヶ月ぐらい全裸で待ってますが、もう2年も全然待てるから、書きたい時に書いてこっそり投稿してくれれば、ヒョロヒョロになった体もムキムキになるので。
ここで終わってほしくないんだ…
物語も終盤じゃないのか?
頼むよ…
更新止まってから既に何周も読み返してるが、本当に良く出来たSSと思う
いったいどんな終わり方を考えてたのか、気になってしょうがない…
とうとう活動報告から1年経過
だんしんくいーんじゃねェぞォ!!!!!生きてんのかァ!!!!!
おい!生きてるか!?ずっと待ってるから続き絶対に書いてくれぇ… あ、無理だけはしないようにね!待ってるぞぉぉぉ
いつまでも全裸待機してますぜ…
そろそろ新刊が出るからたのむ
せめて生存報告を…
希望を与えてくれよ
原作完結と同じくらいあなたのssの続きを待ってます
よみがえってくれ…
とうとう13巻発売したぞ…
こっちにも蘇ってくれ……
やっぱ原作新刊が出るとここに顔出す奴もいるわな
続き待ってるゾ
年が明けちゃう!年が!
年末!年末ゥ!
2019年も待ち続けるんだぜ…
今年も全裸で待機!
つか、エタらないで…
年末年始はやっぱりコメント沢山つくなぁ。
俺も待ってるぞー
筆をおるなら宣言してくれ…
頼むぅ…続きを…
生存報告でもいいからお願いします
新刊3月やな
それでも俺は続きが欲しい・・・
マジでエタるのやめてくんねーかな
もしかして作者さんは、皆の期待が予想以上でプレッシャーになってるのでは。。
俺ガイル3期決定したぞ!!生きてますか主さん😭😭😭
そんなの気にすんな!!!
終わらせてくれればそれでいいんだよ
頼むよ、書いてくれよ
新刊発売後に更新してないかな
マジでエタるの勘弁してくれや
平成終わっちまうぞ…
筆折らないでくれ
万一折るなら言ってくれ
そしたらもう見ないからさ
でも書くならいくらでも応援するしいくらでも待つ
だから反応だけ返して欲しい
反応すらないから主死亡説を考えてしまう…
おーい
悲しい
次の改元までには更新すると期待
諦めないぞ…
あらためて読み返してたけど、やっぱめっちゃ面白い。。
作者の身に何かあったのかな?
作者の身に何かあったのかな?
これが面白すぎて他のいろはすSS読めなくなっちまった
もう最終更新から2年も経ってたのか…
脱衣さんのSS読みた過ぎて毎週更新されてないか確認しに来てる俺は脱衣中毒
上に同じ
もう何十回も読み直してるけどやっぱり面白いわこれ
やっぱ未だに復活を待ってる同士はいるようだなぁ…
やっぱ未だに復活を待ってる同士はいるようだなぁ…
上に同じ。いつまでも全裸待機。
やっぱり更新ないか。悲しい
かれこれ2年以上経つのかぁ
気長に更新されるの楽しみにしてます。
多分未完やけどすきやったでこのSS
もう更新されないのかなー
原作の方が先に完結してしまうぞ…
やっぱり主さんの身に、何かあったんだろうかねぇ。
盆暮の長期休暇になると読み返してるんだけど、本家以上にエンタテインメント満載で最高やね。
久々に来た
思い出してまた見に来たけど、もうダメか…
原作完結しましたよ!!
またいつでもいいので、この話の続きを読んでみたいです。
遂に14巻が発売されました。
原作本当に良かった…
こっちもいつの日か続きが読めたらなぁ
原作完結記念にどうか…
本編と同じくらいこっちの結末が気になる
もういろはすルートはこれしかないって感じ
これが終わらずに完結はあり得ない
続きが読みてえ
もう何回も読み直してる
いろはssで一番面白かったよ……。誰か引き継いで欲しいくらいだけどこの作者並に面白い作品書くの難しいよな…
原作完結したぞ
アニメ三期だぞ
続きを…
年明けちゃう
今年も更新待つぜ
もうすぐ3年たつという事実
このSSに出会ってもう三年も経つのか…
せめて生きてるかだけでも報告してくれ
まだ更新待ってる奴他にもおるんか
いるよー
いつまでも待ってます
3期見てないんか
3年近く立つという事実
こうしてちょくちょく見に行くけどやっぱり更新されてない
なんだか悲しいよ、このSSのいろはは報われないのか
いろはす(水の方)の公式SSも良かったが、やはりこっちの続きを読みたい
まじで3年間定期的に更新されてないか確認してるんだよね
頼むよ
まじで3年間定期的に更新されてないか確認してるんだよね
頼むよ
せめて……………せめて活動報告だけでも更新してほしいです………………………お願いします……………………………………………
続きがみたいです………
原作完結してアニメ3期まで始まるって元ファンなら少しでも耳に入るくらいの出来事だと思うんだが…
それでも反応無いってことはガチでもう書けない状態にあるのでは?
もう3年間も待ち続けてるのか…
3年経ったのか。最初の1年は続きがいつきてもいいように何度読み返したことだろう。2年経つと時々更新されてるか確認する程度になった。もうここに来ることもないかもしれない。続きは読みたいが、もう更新されない可能性が高いだろう。
たとえそうだとしても、本当に面白い作品だった。ありがとう
切ない…
3年って本当に長いなぁ…
とうとう3期も放送されちゃったよ…
まだ待ってるぞ、俺は。
俺もずっと待ってるぞ
夏だから見返してるぞ
毎年見返すのが恒例になってます
アニメ終わったな…
久しぶりに来た
座して待つ
完結してくれぇっ…!
お願いです。生存報告ください。
お願いです。生存報告ください。
今年も待ちます
まだまだ待ちます
定期的に思い出して覗きにきちゃう。俺もまだまだ待つ。
更新してくれえ
久々に来た
また来る
一番最初の作品が7年前なんよ
1年ぶりに来ました。
まだまだ待てます!
超久しぶりに来た
永遠に待つ
まだまだ待てる!
まだ待ってる人他にいる?
まだまだ待ってます!!!!
俺だって待つさ
誰か続き書いてみてくれ
ずいぶん経っちまったな…
それでも待つ
結末見ずに死ねない
久々読み返したけどやっぱり死ぬほど面白い
更新まだ待ち続けるわ
5年経った今でも自分と同じように更新確認している人がいるのに感動してる。
まだまだ待ちます。
これに匹敵する面白さのいろはすSS誰か教えて
もう何周したかわからない…
前にコメントしてから5年以上も経っててビックリですが、この作者さんの書くいろはす他生徒会メンバーが素敵過ぎるので、まだまだ更新待ち続けます!
あの活動報告から5年も経つのか
いつ再開してくれてもええんやで
2023年になったけど待ちます…
待ってる
続ききてくれー。作者さん見てるかわかんねえけどよー
いつまでも待つよ
このSS好きすぎて定期的に確認しに来てるわ
本当に好きなSSだった
更新しなくなって残念だけど、出会えて良かったわ
文化祭編直前まで読んでて、久々に思い出してみにきたら最近更新されてなかったのね。。
当時本当にわたりんが気ままに書いてるんじゃ無いかと思うくらい面白かったし今も昔も2次創作で一番出来が良い物だと思ってる。
多分作者さん見てないと思うけど本当によかった
同じくらい面白いいろはすSS教えてください
年に2回くらい読み返してる