2017-08-21 02:42:31 更新

概要

深海側の様子。


前書き

なんとなく、ヲ級と整備士の絡みが少なかった気がしたので。


このSSは、『最後から三番目の真実』の外伝です。


外伝『不知火「この鎮守府は何かおかしい』も読んでいただくと、より楽しめると思います。





※これだけでも短編になっています。本編を読む必要はありません(読んで欲しいけど…)




____________北方 深海棲艦泊地



ヲ級「テイトク、ナニヲシテイルンダ?」


深海提督「本を読んでいるんだ」


ヲ級「ホン?」


深海提督「ああ、そうか…。本というのはね、考えやお話を紙にまとめたものだよ」


ヲ級「オモシロイノカ?」


深海提督「もちろん。じゃあ、この本のお話を聞かせてあげるよ」


ヲ級「ワカッタ」


深海提督「邯鄲、というお話だよ」


ヲ級「カンタン?カンタンナハナシナノカ?」


深海提督「カンタン違いだね。この邯鄲というのは、中国という国にある場所の名前だよ」


ヲ級「フーン、ハナシ、ハヤク」


深海提督「ああ、すまない。それじゃあ始めるよ。




ある所に、菊というお婆さんがいました。

菊の若い頃はとても綺麗で、色んな男から言い寄られました。

そんな時、菊は必ずあることをします。

それは、邯鄲という里で手に入れた枕で寝させることです。

すると、そこで寝た人は全てがどうでもよくなり、女、金、名誉に興味を持たなくなります。

菊の旦那も、その枕で寝てから家を出て行ってしまいました。


ある日、菊の家に、昔世話をしていたお坊ちゃん"次郎"が訪ねてきます。

次郎は菊から枕のことを聞くと、それで寝たいと言いだしました。

次郎は18歳で、世の中の全てが馬鹿らしいと思っていたので、その枕で自分を試しました。


次郎は夢を見ました。

次郎は美女に言い寄られますが、全て拒否します。

踊り子にちやほやされますが、相手にしません。

大企業の社長になりますが、資産を全て寄付してしまいます。

そのうち政治家になり、国の頂点に立ちますが、周りからはクーデターだと言われます。

最後には毒を飲んで死ぬことを迫られますが、それも拒否します。

枕に住む邯鄲の精霊は怒って言いました。


『あんたは一度だってこの世で生きようとしたことがないんだ。つまり生きながら死んでいる身なんだ』


それに対して次郎は言います。


『僕は生きたいんだ』


夢から覚めた次郎は、寝る前と変わっていませんでした。

菊は次郎が旦那のように消えてしまわないかと心配しました。

それに対して次郎は言いました。


『人生って思った通りだ』


次郎は菊に、ずっとここにいると誓いました。」



ヲ級「ヘンナハナシダナ」


深海提督「ああ、すごく変だね」


ヲ級「ジロウハ、テイトクトニテルナ」


深海提督「そうかもしれないね」


ヲ級「ジャア、テイトクハ、ワタシノマエカラキエナイナ」


深海提督「…………」


ヲ級「ワタシハ、ズットテイトクトイッショニイル」


深海提督「…ありがとう。でも………ヲ級?」


ヲ級「コウヤッテ、テヲツカンデタラ、ハナレラレナイダロ?」


深海提督「お前は優しいな」


ヲ級「ヤサシイ?ヨクワカラナイ。ワタシハ、シタイカラシテルダケダ」


深海提督「人はね、生きていくために、世の中のインチキを我慢しないといけないんだ。そして我慢しているうちに、自分もインチキになるんだよ」


ヲ級「ダッタラ、ワタシトフタリデイキレバイイ」


深海提督「そう言える、それは優しさだよ」


ヲ級「ジャア、テイトクハモットヤサシイ」


深海提督「…これから俺も、優しくなくなってしまうな」


ヲ級「……?」




……………しばらく経過




ヲ級「テイトク、マタハナシヲシテクレ」


深海提督「んー、そうだな…」


ヲ級「ドウシタ?」


深海提督「俺が話してたら、お前は俺がいないと、考えやお話を知れないだろう?それは問題だよ」


ヲ級「……ワカッタ。ジブンデヨム」


深海提督「おや、字が読めるのか?」


ヲ級「ヨメナイ」


深海提督「読めないのか…じゃあ、一緒に勉強していこう」


ヲ級「ベンキョウ?」


深海提督「難しい質問をするね」


ヲ級「ムズカシイノカ?」


深海提督「というよりは、他に言い方がない。という感じかな」


ヲ級「ソウナノカ」


深海提督「あえて言うとすれば、世界を知るということだよ」


ヲ級「ヨクワカラナイナ」


深海提督「例えば、文字を知れば本が読める。本が読めれば昔のことが分かる。本は今までのすごい人達が、自分を残すために書いたものだからね。昔の成功や失敗を知ることで、これからどうすればいいのかが分かる」


ヲ級「ベンキョウッテスゴインダナ!」


深海提督「ああ。だけどね、最近の人間は誰も勉強の意味を考えないんだ」


ヲ級「ドウイウコトダ?」


深海提督「勉強は何かをするための道具なんだけど、勉強自体を目的にしちゃったんだよ」


ヲ級「……ムズカシイ…」


深海提督「ごめんね…。簡単に言えば、勉強をしたらそれで満足しちゃって、そこから考えることをしなくなっちゃったんだ」


ヲ級「イミガナイナ」


深海提督「そうなんだ。意味のないことなんて誰もしたくないだろう?」


ヲ級「ソウダナ」


深海提督「だから、人間のほとんどは勉強をやめてしまったんだ」


ヲ級「ニンゲンッテ、バカナノカ?」


深海提督「悲しいことだね。ほとんどの人間は愚かしい。だけど、その中でも頭のいい人はいたんだよ」


ヲ級「そうなのか?」


深海提督「自分の役に立つことを、自分で勉強できる人間というのもいるんだ」


ヲ級「スゴイナ」


深海提督「だけど、その人の足を引っ張る人というのも少なくない」


ヲ級「ヤッパリバカダナ」


深海提督「そんな人間達だから、指導者が必要なんだ」


ヲ級「シドウシャ?」


深海提督「指導者というのは、みんなを正しい方向に導いてあげる人のことだよ」


ヲ級「テイトクノコトダナ!」


深海提督「……だけど、ずっと俺に頼っていてはいけない」


ヲ級「…ダメナノカ?」


深海提督「これが終わったら、君が指導者になるんだ」


ヲ級「ワタシガ?」


深海提督「だから、一緒に勉強しような」


ヲ級「ソウダナ!」




………………またある日




ヲ級「ナア、テイトク」


深海提督「なんだい?』


ヲ級「コノ、"イエデノススメ"ッテイウホン、ナンデアタリマエノコトヲカイテイルンダ?」


深海提督「それは、人が当たり前のことさえ忘れてしまったからだよ」


ヲ級「ソレハ、ナンデダ?」


深海提督「考えなくても、誰かがやってくれるようになったからだよ」


ヲ級「ワタシタチガカンガエテイルノハ 、ジブンデヤッテイルカラカ?」


深海提督「その通り。だからね、ほとんどの人間は、何も考えず、何も見ず、何も言わず、何も聞かず、そうやって生きているんだ」


ヲ級「ソレッテ、タノシイノカ?」


深海提督「いいや、楽しくない。だけどね、それは仕方のないことかもしれない」


ヲ級「ナンデダ?」


深海提督「例えば、君たちは選択を間違えれば死ぬだろう?」


ヲ級「ソウダナ」


深海提督「ましてや、その選択によって他の深海棲艦まで死ぬことになったらどう思う?」


ヲ級「マチガエテハ、イケナイナ」


深海提督「そうだ。だから人は選択をしたがらない。自分の選択が大きな責任を伴うものなら尚更だ」


ヲ級「ダレカニシタガウノガ、シアワセトイウコトカ?」


深海提督「凄いね。その通りだ。だけど、愚かな人間は、他人のお陰で自分が責任を持たなくていいことにさえ気付かない。その結果自由を求めはじめる」


ヲ級「ジユウ?」


深海提督「自由は、何でもしていい、何でも選択していい状態のことだ」


ヲ級「ジユウハ、セキニンッテイウノガオオキインダナ」


深海提督「そう。だから自由を手に入れた人は、その後に責任の重さに耐えかねて、自由は悪だと言いはじめる」


ヲ級「ジブンガノゾンダコトナノニ」


深海提督「本当にね。自由を望んだ自分が悪いのではなく、自由が悪いことだと言い始めるんだ。思っていたもとの違ったからって自分勝手だよね」


ヲ級「ヤッパリニンゲンハ、バカナンダナ」


深海提督「悲しいことだよ。だからね、そういった意味でも指導者は必要なんだ。多くの人の代わりに選択して責任をとる。そういった人が」


ヲ級「ソンナノ、ソンシカシテナイジャナイカ」


深海提督「そうかもしれないね。だけど、代わりにその人は名声を得るんだ」


ヲ級「メイセイ?」


深海提督「多くの人から尊敬されるということだよ」


ヲ級「ソレハ、ウレシイノカ?」


深海提督「そうだな…例えば、俺は君たちの指導者だ」


ヲ級「ソウダナ」


深海提督「ヲ級は俺のことは好きかい?」


ヲ級「スキダゾ」


深海提督「俺はそれが嬉しい。だから指導者になっているんだ」


ヲ級「ナルホドナ」


深海提督「指導者になるということは良いことだし、選択できるというのは、自分が聡明であるという証拠だ」


ヲ級「ワタシハ、シドウシャニナリタイ!」


深海提督「ああ、その意気だ」


ヲ級「デモ、テイトクガズットシドウシャニナッテハ、ダメナノカ?」


深海提督「出会いがあるということはね、その後に別れがあるということなんだ」


ヲ級「ソンナノイヤダ!」


深海提督「それでも、事実は変わらない。お前も時がくれば、同じように誰かにものを教える日が来るだろう」


ヲ級「ワタシガ、オシエレルノカ?」


深海提督「今は教えれなくても、これからそうなっていけばいい」


ヲ級「ベンキョウスレバイインダナ」


深海提督「そうだ」



その年、深海棲艦との最終決戦があり、指導者を失った深海棲艦達は、どこへともなく姿を消した。




………


……………



カ級「ナニヲシテイルンダ?」


ヲ級「本を読んでいる」


カ級「オモシロイノカ?」


ヲ級「もちろん。テイトクが読んでたものだからな」


カ級「…フーン」


ヲ級「そうだ、ひとつ話をしてやろう。この本の話だ」




………………最終決戦前夜




深海提督「ヲ級、最後にひとつお願いしたい」


ヲ級「ナンダ?」


深海提督「横須賀鎮守府にいる提督、彼が困っていたら、助けてあげてほしい」


ヲ級「………」


深海提督「それが、結果的に君たちにとっていい結末に繋がる」


ヲ級「……ワカッタ」



ーfinー


後書き

作中の本は、三島由紀夫の近代能楽集です。
本編もよろしくお願いします!


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Schnitzelさんから
2017-09-11 00:14:29

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