艦娘、はじめました
日本本土からはるか南へ数千キロ。
南国の小さな島にポツンとその風景には似合わない日本式の建物がある。
私はそこで艦娘達の指揮を任されている身だ。
艦娘と言っても普通の艦娘ではない。
簡単に説明すると元深海棲艦だったとでも言おう。
俗に言われているドロップ現象で保護した者は艦娘、あるいは深海棲艦の記憶が殆ど無いのだが彼女達の大半は自らの意思でアチラを抜け艦娘となったので鮮明な記憶を持っている。
斯く言う私も元は深海に属していたけれど、まぁ色々ありコチラについた。
未練はない、と言うと嘘になるが後悔はない。
この小さな島で起きる出来事を皆さんにすこしだけ紹介しよう。
提督「はぁ~・・・。今日も見事な青空ねぇ・・・暑くて干からびそうだわ。」
透きとおるような大空から降り注ぐ日光は夕方になっても衰えを知らず最早熱いを通り越して痛いと感じる。
書類整理をする気力は無いが団扇で自分の胸元や足元を扇ぐことはできる。
提督「台風でも来ないかしら・・・?」
?「台風が来たら来たで蒸し暑いって騒ぐくせに何を。」
提督「誰!?・・・って加賀か。」
加賀「何か問題でも?」
提督「別にぃ。」
彼女は航空母艦の加賀。元は空母棲姫で古くからの知り合い。
口は些か悪いが中身はそうでもない・・・はず。
秘書艦として手伝ってもらっているけれど、どうも上司として見られていないような気がしないでもない。
加賀「はい、追加の書類です。」
提督「げぇ・・・追加って最初のより多くない?」
加賀「そう感じるのは貴女の仕事が遅いからです。いつまでたっても提出しないから催促されて倍になって来るのよ?」
提督「ぐぬぬ・・・!」
加賀「よくそれで提督として居られますね?普通なら職務怠慢で解雇されてますよ?」
提督「あ、それは私も思ったわ。なんででしょうね?」
加賀「・・・。」
提督「ヤメテ!生ごみを見るような目で見ないで!」
加賀「生ごみの自覚はあるのですね。」
提督「酷い!」
伊14「加賀お姉ちゃん、あんまり提督を虐めちゃだめだよ?」
提督「そうよ!イヨちゃんの言う通りだわ!私は偉いのよ!?」
伊13「提督を困らせちゃ・・・イヤ・・・。」
加賀「あの・・・これは・・・。」
彼女達は潜水艦の伊13と伊14。
深海双子棲姫としてその名を轟かせていたがアチラを抜ける際に拉致・・・同行させた。
数少ない私の理解者で対加賀用の決戦兵器で、あの口うるさい加賀が唯一意のままに動かせない相手だ。
なぜかって。
この純真な眼差しと今にも泣き出しそうな上目遣いには勝てる訳がない。
本人曰く戦艦の血も入っているらしくそれが原因でそっちの気があるのではないかと推測する。
伊14「あっでも、提督もちゃんとお仕事してね?居なくなったら寂しいもん。」
伊13「提督・・・ずっと・・・一緒に居たい・・・です!」
提督「うんうん、お仕事頑張る!」
天使のような二人に迫られ自然と恵比須顔になった。
加賀「うわ・・・酷い顔ね。」
提督「なんですって!?」
伊14「も~そんなこと言わないの。提督、可愛いじゃん。ねー?」
提督「そうでしょそうでしょ?貴女の仏頂面のほうがよっぽど酷いわ。」
加賀「・・・頭にきました。」
伊13「・・・だめ。」
艤装を展開しようとするが抱きつかれ制止される。
伊14「あんまり怒らないの。そだ、もう16時だし晩御飯の準備しないと。今日はカレーの日だし、加賀お姉ちゃん一緒につくろ?」
伊13「加賀さんの作るカレー・・・おいしくて好きです。」
加賀「・・・はぁ。いいでしょう。提督、夕飯まではキッチリと仕事をしていてくださいね?」
提督「へいへい。」
加賀「カレーの味付けはどうしますか?」
提督「辛口で。」
加賀「じゃあ甘口ですね。」
提督「なんでよ!?」
加賀「私達は甘党ですので。」
伊14「甘いの好きー!」
伊13「うん♪」
提督「・・・もう、しょうがないわね!思いっきり甘くしちゃいなさい!」
伊14「いぇーい!提督、楽しみにしててね!」
3人は執務室を後にし炊事場へと向う。
提督「・・・全く。潜水艦ってのはホント、可愛いわね。・・・さてと、静かになったし昼寝でも・・・いや。仕事しよ~っと。」
万年筆を書類の上で走らすが1時間と持たず夕飯の迎えに来た加賀に叩き起こされ喧嘩になったのはまた別の話。
提督「全く・・・あのヒゲ達磨め。緊急会合だからって呼ばれて行ってみればただの昼食会なんて・・・。なんか色々触られるし早くシャワーを浴びたいわ・・・。」
艤装は重いので着けたくないし自力での航行は疲れるのでどこからか拝借した艦載艇を全速で走らせる。
提督「本土から呼び寄せた有名な料理人らしいけどまぁ・・・加賀の作るものの方が美味しいわね、うん。」
普段は口には出さないが加賀の料理が一番のお気に入りだ。
提督「今日の夕飯は何かしら・・・ってこの音は?」
エンジンを止め耳を澄ます。
波の音に紛れ上空から聞き覚えのある音が近づいてくる。
提督「・・・ヒュー?」
次の瞬間乗っていた艦の近くに大きな水柱が立つ。
提督「きゃあ!?なっ、何よ敵襲?いえ・・・、こんな威力を持つ敵はこの辺に居ないはず・・・。だとしたら・・・。」
?「お~い!」
提督「やっぱり・・・。」
波の狭間から一人の部下が姿を現す。
ガングート(ガン)「無事に帰ってきたのだな、良かったよかった。」
提督「ええ・・・たった今無事じゃなくなったけれどね。」
海水のシャワーを浴び全身ずぶぬれになっている。
彼女も深海あがりで今は指揮下の主力の一員だ。
ガン「・・・? どうしてそんなに濡れているんだ?」
提督「アンタ馬鹿じゃないの!?なに私に向けて砲撃してるのよ!」
ガン「いや、帰ってきたことに対する祝砲のつもりだが?」
提督「祝砲に実弾を使う馬鹿がどこに・・・ここに居たか。」
ガン「ふむ・・・?」
こちらは実弾を使って何が悪い?と言いたそうな顔をしている。
提督「それで、こんな所で何してたの?」
ガン「ん、ああ。今日は特にすることが無かったから領海の警備でもと思ってな。」
提督「そう、私とは違って真面目ね。よしよし。」ナデナデ
ガン「わっ///きっ、気安く触るな!」
撫でている手を振り払うが満更でもないようだ。
提督「あら、赤くなっちゃってかわいい。」
ガン「なんだと!わ、私を愚弄するとはいい度胸だ。銃殺刑に処してやる!」
提督「はいはい、その言葉は聴き飽きたわよ。だいたい拳銃を没収したのに・・・。」
主砲を向けられている。
提督「あのー・・・本気?」
ガン「無論だ!」
提督「いやね、銃殺刑どころかミンチより酷い状態になると思うのだけれど。」
ガン「知ったことかぁ!」
提督「イヤーッ!」
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?「・・・い・・・ま。・・・司令官様。」
提督「・・・んぅ?」
?「お気づきになられましたか?」
提督「春・・・風さん?あれ、私は一体・・・。」
春風「またガングート様を怒らせて沈められた(未遂)ようですね。」
提督「そう・・・。」
春風「さ、お風呂の支度ができていますので風邪を引かないうちにお入りになってください。」
提督「え、あ・・・ありがと。」
駆逐古鬼と呼ばれていた頃は好戦的だったが今ではその容姿に見合わない落ち着き様で年上からも春風さんと慕われている。
(ガングートにより)打ち捨てられていた岸壁を立ち上がり風呂へと向う。
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提督「ふぅ~。やっぱりお風呂は良いわねぇ、何とかが生み出した何とかの極みだわ。」
口元まで湯に浸かりブクブクと泡を出しながら心と体を休める。
春風「司令官様、お湯加減はいかがでしょうか?」
提督「ん~、ちょうどいいわ。」
春風「お着替えをお持ちしたので置いておきますね。」
提督「ん~ありがと~。」
春風「あら・・・様。・・・ですか?どうぞごゆっくり。」
提督「春風さん、何か言った~?」
春風「・・・。」
提督「春風さん・・・?」
ガン「入るぞ!」
提督「わひゃっ!?前、前!隠しなさいよ!」
ガン「女同士だ何を恥ずることがある。」
提督「貴女は少し羞恥心というのを覚えるべきよ!」
先刻とは逆に提督の顔が真っ赤になる。
ガン「・・・?うむ、良い湯加減だ。」
桶ですくったお湯を体にかけ湯船につかる。
提督「と言うか何自然に入ってくるのよ。ここ、私専用なんだけれど?」
ガン「なに、いずれここも我が深海連邦の統治下となるんだ。さして問題はあるまい。」
提督「お尋ね者が何を言ってるのやら。」
ガン「だ、だからそのうち最高指導者となって政権を握るのだ。さすれば皆、私を捕らえられる訳が無い。」
提督「ふぅ~ん。じゃあ私達と敵対するのね。」
ガン「えっ・・・?いや、それは・・・その・・・。」
提督「・・・冗談よ。それより、さっきは冷かしてごめんなさいね。」
ガン「いや、謝るのは私のほうだ。感情に任せて上官に手を出してしまった。申し訳ない。」
提督「・・・じゃあ規則に則って罰を与えないとね。」
ガン「ああ、煮るなり焼くなり好きにしてくれ。」
提督「そうね・・・それじゃあ10時と15時の甘味没収3日間でどうかしら?」
ガン「・・・へ?そんなので良いのか?」
提督「ええ。没収した甘味で私の夜更かしに付き合ってくださる?特に急ぎの仕事もないし夜は暇なの。」
ガン「うむ、了解した。」
提督「お酒もあればなお良いわね。」
ガン「心配無用だ。同志ちっこいのに作らせた極上のブツがある。」
提督「・・・一応違法だからね?まぁ口外はしないけれど。」
ガン「ふふん♪」
酒のことを思い浮かべ上機嫌になる。
提督「・・・ねぇ。」
ガン「うん、どうした?」
提督「・・・傷はまだ痛むのかしら?」
左頬の傷跡について尋ねる。
ガン「いや、全く痛みは無いな。」
提督「・・・そう。」
ガン「もしかして気にしているのか?あれは事故だったのだ。貴様が気に病む必要などない。」
提督「でも・・・。」
ガン「それよりも貴様が無事で何よりだった。腹に穴が開いてたのを見て冷や汗どころの騒ぎではなかったぞ。」
提督「うぅ・・・。」
ガン「・・・うむ。傷は残ってないし元より血色も良い。」
提督「・・・そんなに見つめないで///」
ガン「流石は我らが姫君だ。その慎ましやかな体でも色気が出ている。私が男だったら確実に襲って!?」
提督「エッチ!バカ!変態!」
浴槽のお湯を怒涛の勢いで顔にかける。
ガン「わっ・・・な、なにを!?」
提督「うるさいうるさい!」
ガン「あべし!?」
手桶で殴られる。
提督「ふん!だ、誰が貴女に抱かれてやるもんですか!」
湯船からあがり脱衣所と浴室の仕切扉を親の敵を取るような強さで開け閉めし脱出する。
ガン「おい!・・・少しからかいすぎたか。」
ガン「まぁ純情なのも姫の良い所だ。私はもう少し湯に浸かるとしよう。」
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