もう日常
即興で書いてます。何でもありな方に読んでいただけると幸甚です。飽きたら消えます。
コメント本当にありがとうございます。読んで泣きました。月は台風で見えないけどもう死んでもええんじゃあぁ^〜
pv100恐れ入ります
書いてて恥ずかしくなってきた。自分が予想外に気持ち悪い。
なんか一杯評価してもらってありがとうございますすすすっs。感無量の恐悦至極にございます。
携帯がピロンと鳴って意識が薄く覚めてきた。続いて二度目の通知が届いてもう一段洗い段階の意識が働いて、目を開けるとカーテンの間から光が降り込んでいた。
ベッドの周囲に携帯が有るものだとばかり思って腕をそこらじゅうに這わせたのが幸いしたか、血流が早まり、体の感覚がはっきりしてくる。頭を横に向けると耳に、足を伸ばすと背中に、それぞれの異物感が探し物の昨夜の状態を思い出させた。
そう、たしか音楽を聴きながら横になって程よい睡眠欲が漂って、流されるままに寝込んだのだった。
画面が割れていないように祈りながら、バッテリー切れ既の所で堪えている画面を見た。
のそりとうつ伏せになり、充電器に繋いで通知の全容を確かめた。
送り主は奇縁でできた後輩からで、私の携帯画面にはでかでかと雀の交尾の写真が表示された。その後には「おはようございます!ベッドシーンって電線でやるとシュールそうですよね。」と書いてあった。早起きさんめ。
手早く「何か用?」と送ると秒速で既読。こういう時は大抵変な事をする。
ピロン♪
「先輩デートしませんk?」
「え?」
「だkらデートですよ」
「誤字は認めないんだな」
「器と自前のブツが小せぇですね」
「急に外出したくなくなった」
「嘘ですよ!ごめんなさい!」
「あやまってばっかだな」
根は良い後輩だと思う。
それからコンビニでの待ち合わせを取り付けて、30分後に家を出た。
目的地に着いた。人の服を見る目は上等と自負していたが、今日の後輩は別格の美人になっていた。
声を掛けようと近づいて私の脈が早まった。
(あっぶねぇ...唯の美人で赤の他人だったわ)
危うく声かけ事案で社会的に死ぬ所だった。もう死んでないかどうかは別にして。
その美人に声をかける猛者がいた。中肉中背でやや俯き加減。ナリを見るにイケメンの可能性は大いにある。
「もし、失礼だがここで見窄らしい社会的に死んでそうな男を見なかったかな?」
「それってもしかしてあの人じゃないですか?」
指が確とこちらに伸びた。背後に人影は無く、私が意中の人らしい。弁護人は私がつとめければ私が可哀想だったから弁解した。
「待ってください。私は社会的に死んでいるかちゃんと脈をとったんですか?」
イケメン(仮)は言う。
「そんな事をしなくとも平日の起きがけから雀の交尾を眺めるような変態野郎は、私の知っている限り社会的に死んでいます」
(個人情報が漏れているだと!?政府は何をやっている!)
ん?私の知り合いって可愛い後輩以外いたっけ?...。
ということはこのイケメンそうなイケメンは後輩という結論になる。私の脳が推理する。
然し目前には美人とイケメン。女性と男性...いや違った。私は今男装をしている事を忘れていた。後輩は生物学上女性だが普段が女装だっただけだ。
日頃推理小説愛読しててよかった。やったよホームズ!階段の数を覚えるのはテレビのお化け階段特集を見てやめたけど。
「先輩、そろそろ気づきました?私ですよ...僕の方が良いですか?」
「勝手のいい方で自由にするといい後輩。天皇陛下はユーモラスに一人称は朕だ。気になる人間は非国民だろ」
「なんでちょっと愛国心が強いんですか...。それはそうと手間ぁ取らせたなネェチャン。コレやるよゲヘヘ」そういって後輩は皺のよった万札を一枚、美人のポケットにねじ込んだ。
「柄が悪いけど良い人ってよく美談に登場するけど実写は初だったわ」
「それは良かったです!初体験ですね!」
「そうだな。美談処女は卒業だね!」
「ここで背景に百合の花が咲くとキマるんですけどね〜」
(何だそれ、極まってるな)「随分羽振りが良いんだな。」
「あぁ、あれ落ちてたんですよ。実質他腹です。」
「ふぅ〜ん。んで、今日の目的は何なんだ?見たところ服装はスペシャルだけど」
「予め言ったじゃないですか。覚えが悪いのはこのオツムですかぁ〜?」
(言葉責めは嫌いじゃないが単純に気に入らんなぁ...)「デートだったっけ?」
「その通りです!どうせ先輩は平日でも休日でも変わらずニートでしょうから、烏滸がましくもこの後輩が外界へ連れ出してあげようと一考を案じたのです!」ドヤッ
(ドヤ顔メチャキュートだな)「そうか。反社会的だと長年言われ続け、潜在意識にまで刷り込まれた引け目が未だに抜けなくてな。もう時代は変わったのにね。」
「先輩が労働していようといまいといずれ滅びていましたよ。少子高齢化が見え始めた時に国は税収制度自体を見直すべきだったんです」
「おぉ〜、識者みたいな慰め方」
「もっと褒めて良いんですよ?」ドヤッ
(ドヤ顔メチャ(ry)「煽てて木に登ったら考えてやるよ」
「豚になっちゃうじゃないですか!?」
「それはそうと、一体どこに行くんだ?デートといってもエスコートできるだけの技量は持ち合わせてないぞ?」
「御安心を。先輩に苦労させるほど不出来な後輩じゃありませんよ。その前に先輩朝御飯食べてないですよね?」
「うん。何で分かった?」
「同輩先輩が言ってました。早起きしたら三文以上の食費がかかるから先輩は朝食べないって」
(話したのか...。単に朝が弱いのを誤魔化しただけだけど)
それから後輩の後を三歩下がって慎ましやかについて行き、ジャンクフードの店に入った。端引け目だった。美女ってなんかこうバリアの強度がヤバい。
入店してトコトコと奥へ行く。
一時代昔なら真っ直ぐ注文をしにレジへ向かっていたが、機械化は猛威を奮って労働人口を間も無く零にした。テーブルに座ればタッチパネルで注文を行い、あとは机の設備が軽快な音と一緒に品を運んでくるのだった。コミュ障だから助かる。
「いよいよジャンクフードって感じだな。科学の味がする」
「本格的にそうなってますねぇ」
でも珍妙なもので「いただきます」はやっぱりやった。
後輩は何か一つ食べ終わるまでは口を開かなかった。こういうのを育ちが良いとか評するんだろうけど、生い立ちを思い返すと素直にそうはならなかった。
ふと店内を見回して後輩があっと小さく声を漏らした。視線の先には同輩が独り、ランチタイムを過ごしていた。こういう時に自分から話しかけるのは後輩の役で、私はいつも見ているだけだ。
早速「ちょっと行ってきますね」と言い残して同輩のテーブルへ早歩きした。
後輩が話しかけて、同輩が顔を上げる。話が弾んで、一つ笑って、こちらを示す。
内容は聞こえないけど仲が良いんだと思う。
一寸経って二人が歩いて来ると私は顔を逸らした。この辺がコミュ障だと自覚はある。
「やぁ、久しぶりね。調子はどう?」
「中々の塩梅だよ。そっちこそ礼装だけどまだ続いてるようだね、仕事が」
同輩の仕事は除霊師や霊媒師や霊能者と呼ばれる類のものだった。仕事といっても当然賃金は無く、趣味が大半でやっているようだ。
それから積もる話を後輩も交えてしたところでは、国が急変してから仕事の依頼や超常現象も増えたそうだ。
皆不安なんだと思う。科学で食料は賄われ、労働は機械が。後に残されたワーカホリックなどは暴動を起こしてニュースを賑わせた。働かない時間をどう使うか。これは世間の一大テーマになっていたが、同輩や後輩は多趣味な上に私はニートだから世間はどこか遠かった。ザマァ見ろ。
「今日の予定は?」同輩が口火切った。
「聞いて驚かないでくださいよ〜!実は今先輩とデート中なんです!」
「ええっ!本当に!?貴方は浮いた話は生涯無いと思ってたのに」
「家に居ても正味な話、する事が無いから付き合ってるだけで、ロマンスは生まれてないぞ」
「またまた〜そんなこと言って、さっき初体験を済ませたじゃないですか〜」
「その程でいくとあの場には三人いたが、初めてが濃厚過ぎない?」
「まぁ、そうよね。貴方が浮くのは世間からくらいよね」
「ぐぬぬ...。ちょっとお手洗い」
「逃げたわね」
「逃げましたね」
「それでですね、この後行く方角を占って欲しいんです」コソコソ
「良いけど、珍しいわね占いに頼るなんて」
「堕としたいヤツがいるんです」キリッ
「勇猛果敢ね。出たわ。南の方だから...映画館かしら?」
「ありがとうございます。このご恩は後程返しますので!」
内緒話を待つのはどうも苦手な気がする。中断させても悪いし、かといって待っていれば罪悪感が募る。痛し痒し。一大決心でテーブルに戻ると後輩は慌てて居住まいを正した。可愛い。
「何を話してたんだ?」
「先輩の秘密を少々、グヘヘ」
可愛い。
それから立ち上がって観たい映画が有るのだと言った。同輩と別れて食品の梱包を塵箱に優しく入れた。ニートになってから所謂慈悲心みたいなものが強くなった。ゴミ溜めの底を語るほど恥じてはいなかったけど、記憶に深く残っているという事は思うところが有ったんだと自己分析している。
映画館へ着いて個室をオーダーしたのは後輩だった。一瞬の早技に為すすべ無く個室へ入って「黒トカゲ」と「かサブランか」を続けて観た。本当のところはキャンセルしようと思えば出来たのに、しなくてもいいと思わせる魅力が、今日の後輩を包んでいた気がした。
最後の一巻も終わり、台詞を噛み締めて、一瞬毎を吟味した。時間一杯まで語った所為か耳が火照って仕方なかった。気温差とか空調とか飲み物の成分などを原因として挙げて自分を説伏していった。
映画館の外はもう暗くなり、薄い霧が立ち込めて、細やかな雨が垂れていた。後輩は少し口角を上げて「使いませんか?」と折畳みの傘を出して私を入れて歩き出した。
たった一言だったけれど、いつもより低音で、どこか分からない深層に引っかかって、歩いていても時折空耳が続いた。
元のコンビニに着いて、いざ別れようとした時に不意に腕を掴まれ、胸元まで引き寄せられる。後輩を凝視した。黒々とした目の奥に、鈍く店の照明が反射して濃くなった瞳孔は夜さながらだった。
「どうしたんだ後輩、視線が痛いぞ?」こんなの耐え切れる訳がない。
「僕が今日何故男装をしたか分かりますか?警戒を解いて貰うためですよ。あまり隙を見せない方が良いですよ?運動不足の華奢な体なんですから」
慌てて返す
「か弱い乙女じゃあるまいし、心配ご無用だ。」
間髪は入らない
「乙女に襲われてもおかしくない時代ですので、僭越ながらご忠告申し上げました。それではこれで」
目の奥が笑ってる。いつの間にヤンデレ属性なんて持ってたんだ。怖い。
後輩には変なスイッチがいっぱいある。育った環境のせいかもしれないが、狡知に長けた部分なんて常人が及んだ試しがない。早めに対策を練らなければ身が危ぶまれる...ような気がする。
(取り敢えず返って寝よう)
現実逃避は習性になっていた。身体は正直。
翌日午後に起床して、誰もが悠々自適な世界に優越感と時間の重みを感じながら、手早くお手製の朝食を拵えた。手癖でテレビをつけると、国の大病が未だ癒えていない、なんてそのままを自称有識者のオジ様方が眉に皺を寄せて雄弁に語らっていた。頭に浮かんでくる一句「急くな喚くな天下の事は 暫し美人の膝枕」とかなんとか。
趣味がないだけで困るなんて贅沢なのかもしれない。贅沢が敵になっていたのはもう七十余年前の事で今は味方でもない。
食事を済ませて食器を洗っているとガシャン、と食器が割れた。一欠片は綺麗に四角形だった。特に慌てなかった。けどそんなに荒っぽく扱ったつもりはなかった。最近よく風呂場の排水口も詰まるし、家全体にガタが来ているのかもしれない。
今度同輩に診てもらおう。綺麗好きが高じて昇華したあの家事の絶技なら安心して頼れる。その前に見つけないといけないけれど。
基本的に携帯を持たない同輩は稀に見る電気体質らしく、何でも触った電化製品を次々と故障させて塵にしてしまうのだとか。
ニートだったら発狂ものだと拝察する。
ピロンと携帯が鳴った。送り主は唯一の後輩からだ。会社員みたいな堅い謝罪文が長々と書かれていて面食らった。会社なんて勤めたことないけど。
要約すると昨日の行いを詫びているようで、後日改めて謝罪に伺うとのこと。根はいい後輩だと思う。軽く有耶無耶にしてふざけた文調で返すといつもの調子が出てくる。謝られても困るだけで、別に嫌でもなかったし。煩悩礼賛。ニートになって荒んでから寛容になったのかもしれない。
明日の予定はできたけれど今日はどうしよう。少なくなった日照時間を有効活用したい衝動に駆られる。近くの神社にでも行こうかな。神は半信半疑だけど、暇潰しのぶらぶら歩きにはもってこいの場だ。
境内に着いて手水場で手と口を雪いで、二礼二拍手一礼で参拝する。賽銭は無い。(お金は無価値になっているけどそれでも欲しいものかな?)
設けられたベンチで一休みしていると、同じく参拝者であろう老夫婦が少し警戒の仕草で通り過ぎっていった。慣れた光景だけど、また引け目が粘り気を強くする。
帰宅して情けなく後輩に愚痴をこぼした。後輩は何か察した様子で「これはもう一度デートですね!」と無邪気っぽかった。
その夜は夢を見た。
後輩の裸体が怪しくくねって、首元に這い寄って来ては私の首を舐め回す。ベッドは雲よりも絶妙な柔らかさで、鼻腔は甘美な香りで充満している。脳は溶けそう痺れていて、四肢に力は入らない。後輩の顔は...面輪が定まらないが泣いていたような気がする。
思わず抱きしめるとバキバキと音をたてて崩れてしまった。あとには何も無くて、虚脱感は朝になっても消えなかった。
寝覚めが悪いのと後ろめたさでどうにもしょうがないから、気分を無理に持ち上げるために携帯でエラフィッツジェラルドの「ハウハイザムーン」を聴きながらの朝食と洒落込んだ。
暫くして、自宅の鳴らずのインターホンが鳴った。優しく玄関を開けるとフレッシュ元気な後輩がいた。そうだった、約束があったんだ。
「準備するから少し待って」と軽く頭を下げると開口一番「やっぱり」と一人合点する後輩。
「何が?」
「先輩、前の散髪にいつ行かれました?」
あっ。視界が狭くてもそれが当たり前になっていて、自分の風体がどれだけ悪質になっているかを俯瞰できないでいた。避けられるわけです。
「なるほど。それはそうと今日は男装じゃないんだな」
「そっちが良かったですか?」
「できればしばらくは見たくない。ちょっとだけトラウマになってそうだから」
「ネコババして羽振りが良くってそれがトラウマに。なんかキメラっぽくないですか?」
「言い得て妙」
「キメラな後輩持ちってファンタジーですね」
後輩がカラカラ笑う。可愛い。
「キメラ後輩...ん〜、まぁアリ」
「げぇ、守備範囲広いですね。ん?という事は「後輩」もアリなんですよね?」
「仮にアリだとして、私が愛するかどうかは別だろう」
「徐々に愛に変わる劣情は愛ではないと?」
「哲学の議論では劣情の先に純愛が有るとする説が有るのは知っているけど、それはあくまで互いの歩み寄りがないと」
「逃げ道で待ち構えれば良いんですね!」
「そうなるか?」
「愛情の反対は無関心ですから歩み寄ってるでしょう」
「唯の暴挙だ」
「ぐう」
後輩が愛情を欲してるのは知ってるけど、あげられるほど潤沢には無い。申し訳ない。
「さて、私が切りましょうか。先輩の髪」
「上手く切れるのか?」
「同輩先輩に習いましたので信頼していいですよ」
「じゃあ頼む」
後輩を家にあげて支度を整えて手洗い場で髪を切り始めた。
「髪を触らせるのは親しい証だそうですよ?」
「へぇ...」
友達百人欲しかったら床を手で撫でまくれば解決しそう。
「はい。終わりましたよ」
鏡を見たら想像より少し短くてドキドキした。
ふと肩越しの後輩を見ると少し落ち着きが無かった。トイレかな?
「どしたの?」
「いやぁ、実は少し失敗しちゃって」
鏡を再確認したが失敗箇所は見て取れない。
「どこをどう失敗したんだ?」
「落ちぶれた先輩の髪を切るつもりだったんです。その方が素敵じゃないですか?」
人の事は言えないけど。
「悪趣味だと思うぞ、それ。人の自由でも。それに計画がずさんじゃないか?」
「知ってますよ。正確性が無いから趣味なんです。キッチリしたいなら仕事にすればいいでしょう。」
普通は穏やかな後輩が辛辣なのは、原因を考えるに後輩の両親の命日が近いことが挙げられる。
元金持ちなりの心労はおよび知れる範疇を出ていた。
ここはひとつ荒療治といこう。上手にいかなくても、ブルってても、蛮勇でも。なに、故人にならうだけだとも。初めは処女の如く後は脱兎の如し。
「ハッ、八つ当たりか?後輩。残念だが貴様の大事にしていたパパとママは首を吊って死んでるんだ。良い加減に白状したらどうなんだよ!?両親共いなくなっちゃって寂しくって夜も眠れませんって」
言っちゃった。
「先輩は優しいんですね。気遣ってくださるんですね。でも一つ丁寧に訂正させてもらうとあんな屑共に哀悼した事は一度だって有りません。アル中にヤク中でサディストな肉塊に墓を掘ったのは坊主ですし、葬式だって親戚がやったんです。棺桶に唾を吐いてまで嫌悪した連中の話は、できればしないでいただけると精神衛生が快調なのでお願いできますか?」
淡々としているが怒っている。怒ると人間らしくなると誰かが言っていた。
「さっき自分で言っておいてもう忘れたのか。覚えが悪いのはそのオツムかな?愛情の反対は無関心なんだろ?だったらそんなに捲したてるなよ後輩。その反抗の残滓は情愛の念なんじゃないのか?」
「確かにそうかもしれません。でも...人心がそんなに無機質に動く筈がないじゃないですか!!ええ確かに憎々しいし恨めしいけれど、じゃあこの怨念を復讐以外でどう晴らせと仰るんですか!?もう奴らはとうの昔に逃げおおせやがったんです!肉が腐っても骸骨が土になっても魂みたいな茫漠とした物になって漂っていたとして、どうやってそれに鉄槌を下せって言うんですか!!」
私はそれに答えずに息を乱した後輩を見つめた。時々低い唸りを混じえて響く息遣いが二人きりの部屋に強く残った。
フローリング床にパタパタと後輩の涙が落ちる。
また思い出す。「涙は人間の作ることの出来る一番小さな海です。」とかなんとか。
慰めるなんて大層な芸当はできないけど、泣かせたくはないから黙って手を握る。国が滅んだ故の被害者といえば被害者で、救われたといえばそうなのかもしれない。ザマァなんて思ってごめんね。
小一時間たったくらいに項垂れていた後輩がスックと姿勢を正して、切り落とした髪の毛を掃除し始めた。私もとにかく手伝って、片付けを終えた。
鼻をすする音も止んで、平常運転の後輩は正座で頭を下げた。私も真似して頭を下げた。下げる途中で胸元が見え...ナイスおっぱい。
お互いに「ごめんなさい」と言い合ってこれで仲直りなんだと思う。人付き合いは縁遠い。
ザワザワと風が戦いで木の葉が鳴って、やや暖かい風が窓から入る。陰鬱な雰囲気を吹き払って、早めの薫風が部屋の隅々まで満ちた。
「また明日」と別れてから寂しくなった。人好きの人嫌いは不治の病。持病みたいなもん。取り敢えずパソコンを点けてサーフィンをする。来たる夏の日に向けて。
次の日、朝から気温が高かった。なんだかそわそわしている私がいて、少し面映ゆい。
ピロン♪ (来たっ)
「先輩おはようございます。起きてますか〜?」
「起きてるよ」
「早起きですね!腰のモノの手入れもさぞバッチリなんでしょうなぁ」
「朝から元気だな」
「テンション上げて参りまひょ〜。異性のモーニングメッセージですよ?」
「内容がおっさんなんだよなぁ」
「www」
いつもの調子で仕掛けてきたという事は、いつもに戻りましょうと暗に言っている。彼女なりの甘え方なのだと推察してみたりする。進展も後転もないけれど、なあなあにしておくのは大人な付き合い方だと思う。
その後補助輪付き自転車で走行する、滅茶苦茶にダンディなナイスガイの写真で一頻り盛り上がった。強者っているもんだと感心した。
なんだったか...そう、学生時代にも変人がいくらかいたような記憶がある。特に教師陣には殊更。社会の先生は歴史上の人物の薀蓄を遊説して授業をよく潰した。社会人じゃないと思ったものだ。理科の教師は堅物でよく怒鳴ったが、ある一時間の語呂合わせで笑いを取って生徒達に衝撃を与える事もあったなぁ。数学教師に至ってはフリーハンドで円を書けるだの数式の美学を高らかに唱えたけれど、数学が算数から出来ない私には理解は遠く及ばず。
まぁ、特技って人に見せたくなるよね。
思い出せばニートへの順路をなぞっている気がしてきた。胸中でスモークを焚かれたような気分になるから思考を止めないと。
最近勉強をしていない気がしてならなくなってきた。何故か知らないけど一定以上の勉強をしてないと、変な充足感とプライドが保てない。身体は正直。
どんどん連想が盛る。
そうだ、それこそ情報に関して見識ある人物が教科書で宣うには、情報化社会において知識の断片化が論われていたっけ?
でもこの意見だって知識なわけで、だったら唯の知識不足だろうと理論立てて考えて、同輩に話したら他人には屁理屈にしか聞こえないんじゃないか?と至極真っ当な意見だった。あいつは凄い。
それから同輩と後輩と私で遊ぼうと身勝手にも計画を練った。携帯持ってないからね。
家を出てまずしたことはスケジュールが全て上手くいった想像からだった。これには訳があって同輩の特性にシンクロニシティなるものがあるそうだ。だから後輩と一緒にそれをする事で同輩が勘付いてくれるのを祈る。因みに同輩の方の勘的中率は七十八%と中々のもの。暇を持て余して30日の期間で同輩に付き纏い、六百の事例から導き出した数字だから正確性は微妙なところだ。
後輩とは同輩を探しながら図書館で待ち合わせた。
ウエストポーチで荷物を小さく纏めて、今しも歩き出さんとした時に視界の端に違和感を感じて急停止した。
道路に出る横道の陰に何かいる。
標識の棒に隠れているつもりなのかもしれないけれど、どう見ても無理がある。服は黒いコートで髪はロングに息を色白の骨張った手がゼンマイ仕掛けの玩具みたいにカクカクと動いている。なんか怖い。自分をなだめて分析し続ける。
目は爛々と開かれていて、足が...裸足。
この格好の人間を相手に怪しがりて寄りてみる気は流石に起きない。取り敢えずの行動は何事も挨拶が大事なので、こんにちはと言って去ってしまおうと考えた。いざ。
「こんにちは」
「...。」
当然無反応。反応されても困るけど。幸先の吉兆はともかくとして関わらない方がいいことなんて世の中には多量にあるのだから、君子危うきに近寄らずで模範解答なはず。
大股で後輩の元へ向かう。妙に衣摺れの音や自分の靴の音が気になってしまう。
運良く今日は人通りが少なくて信号も全部青。横断歩道はガランと...少し少な過ぎないか?
(近くで何かイベントでもあるのか?)
安直かもしれないけれど今冷静でいられるほど肝はすわってない。
早歩きなのに緊張からか、呼吸が浅くなっていたらしく反射的に大きく息を吸った。その時うっと声をあげて立ち止まった。腐臭がする。蛆やゴミムシなんかが喜びそうな激臭が体内に入り込んでくる。ヤバい、吐きそう。
屈みこんでいると後ろでピタピタと聞こえた。そんなつもりは無かったけど嫌な想像をする頭。
振り返るほど勇敢じゃない。ホラー映画だったら振り返った奴が先に死ぬんだ。ならどうする?
故人に教わった行動は 兵法三十六計逃げるに如かず だと思う。
全速力で走った。運動会はいつもビリだったけど持てる全てを投じて走ったつもり。
どのくらい走ったか...いつのまにか車の駆動音が聞こえだして歩行人もいつもの量で、息切れした私を気持ち悪そうに見ていた。
「先輩、どうしたんですか?持病の発作だったら遺言聞きますけど?」
私を先輩と呼ぶのは狭いコミュニティの中で後輩だけだ。すっごく安心する。
「ちょっと女児にそそられてダッシュして追っかけてただけだよ」
「うわぁ、ロリコンキメェです」
「何だそれ、キメラ女子特有の鳴き声か?それにNOタッチだったからセーフだろう」
「未遂ですよ」
「事実無根であり、記憶にございません」
「汚いですね」
「大人はね、汚いんだよ。貴女には分からないでしょうねぇ!」
「何やってるのよ二人とも...」
同輩君の感度は良好なようだな。
そうだ、専門家の意見を聞かなきゃ。
なんか不条理な苛々が湧いて来ている。同輩は悪くないのに。
「同輩、あ、ありのままに起こったことを話すぜ...斯く斯く然々」
苛々が募っていく。自分でも訳がわからない。
「ふぅむ。それで、その人と面識は?」
「いや、無い。」
今すぐ殴り倒したいとさえ思えてくる。
「最後の質問ね。私に対して何か思う事は?」
「ウザイ!!!」
はっと我に帰り、狼狽えつつ謝罪を重ねた。後輩は冷たい目だった。Mじゃなかったら危なかった。
「取り敢えず静かな所に行きましょうか?」
「うん。本当に申し訳ない」
「よくある事よ」
後輩も引き連れてやって来たのは山奥の辻堂で、中ではお地蔵ちゃんが笑っていた。
それから私の苛々が限度を超えて罵詈雑言を吐いたと後できいた。記憶は丸っ切り無い。
一応の成り行きは同輩の「報身」とかいうものからアプローチをかけて菩提心しょうきの儀式から審神者をつとめて観音経偈から般若心経、宝塔偈でキメ。安倍晴明の秘印で悪因を切ったとか言ってたけど本当かどうかは知らないし分からない。その分野には明るくなかった。
一部始終を後輩の携帯で撮っていたらしく後で三人鑑賞会をした。バイオリンを映像に合わせて弾いたりピアノでもしたり。ボーカルは私。後輩に大盛況だった。大ウケともいう。
どっと疲れた一日だったけれどちゃっかり同輩に家の診断約束も取り付けたし、目的は果たしたので終わりよく全て良かった。
珍しくみんな揃って仕事も無くて、趣味を使って賑やかして囃し立てて、思いっきり笑った。幸せに眠った夜だった。
暇な一日が訪れた。でもなにかこう...「うちの亭主と炬燵の柱 無くてはならぬが有って邪魔」みたいな気分で仕方なくボッチ。
自分から構ってと言える人って凄いんだと思い知らされた。兎だったら死ねてる。
午後になるまで出来の悪い頭に知識を溜め込むために相対性理論を調べた。チョイスが既に馬鹿っぽい。今まで馬齢を重ねた証拠だと思う。
早々に飽きて調べ物を切り上げ、助六所縁の江戸桜の台詞を諳んじていると携帯電話が鳴った。今日は貴重な着信だ。いやっほぉい。
「もしもし?」
「せん...ぱい、助けて下さい」
え?
「ど、え、どうした?何があったんだ!?」
取り乱す。泣いてるっぽいんだもの。
「今日、グスッ、家にお邪魔します」ブツッ
切れちゃったよ...。えぇっと、そう、分析しなきゃ、。泣いてて震えた声だったという事は精神的に怖がっているか不安がってるか、だと思う、多分。昨日はあんなに笑ってたのに。原因は...思い当たる節が無い。胸を覗いたのがばれたのかな?...だとしたら土下座で済むといいなぁ...。
約30分後に玄関が開いた。ピンポン押してくれないと心臓に悪いからやめようね。
「来ましたよ...」
「いらっしゃい。なんか飲む?」
後輩は無言で頷く。そんなにしおらしくしないでください。童貞は豆腐メンタルなので。
「それで、どうしたんだ?」
「命日」ボソッ
あぁ。そうだった。二年目なのに。一年前に一度有った事なのにもう忘れてた。こんなの推理小説だったら絶対しないのに。やっちまったよホームズ。
そうか、と言う他に何もできずにどうもしない。お金に価値が無くなって、衣食住は保障されても人が傷つくなんて救いようがなさ過ぎるんじゃない?言ってみればギャップ死に。
金が無いだけで落胆して別居して、金が無いだけで離婚して、金が無いだけで酒に溺れて、金が無いから暴力にはしって、金が無いから薬物依存になって、金が無いから絶望の末自殺する。
これは私的な見解だけれど後輩の両親は金の為に働いたんだと思う。責めて見えない所で下がれば良いのに、マイホームで、なんて、思考の混濁もいいところだろう。
死体を見て病むのは正常にも見えるけど、よく考えたらどうなのか分からない。
単純に悲しいなら日待藥で治るけど、こんなどうやって癒せばいい?
後輩の親は立派な社会人で劣った自然人だった。
考えろニートの私に出来る事。愚詠。
たしか「ミロール」の歌詞でも言っていたことだ。歌って踊れば忘れちゃうからと。
「上を向いて歩こう」と「愛の讃歌」を熱唱した。兎に角吃驚しろ。
ついでにアルゼンチンタンゴも一緒に踊った。綺麗に歌ったり踊れたつもりはない。寧ろ素人の猿真似だから醜かったとすら思う。
同輩ならもっとスマートにこなしたはずだ。同輩に対してコンプレックスがある。
後輩は泣いて笑ってくれて疲れたのか寝てしまった。墓に参ることは今後も生涯無いんだと邪推した。
美女の寝顔に間違いを起こしそうになったけど、それは気持ちだけでヘタレだから何も無い。
女性がいい匂いなのは抗酸化作用が強いからだというネットの知識を思い出して、深呼吸しそうになるのを我慢して布団を敷いて後輩を転がした。
斯くして童貞は守られた。反省はしている、後悔はしていない。
(ん?ここは?)
周囲はシンと鎮まっていて実用性皆無のパーティグッズが散乱している。
(窓、窓...有った。夜っぽいかな?)
微かに、空気だろうか、シュウシュウと音がする。ジッと聞き耳を立てて出所を探る。
初めて見る布団をのかして、ゆっくりと壁伝いに歩く。
一段と強くなった音の方には年季の入ったソファが一脚。ソロソロと足を運んで背もたれに手を置いて、薄暗い目に正体を写した。
それはとても知っている顔で、華奢で運動不足で面倒見の良いニートその人だった。
家の所在もおおよそ見当がついて、それが唯我独尊の対象者の住まいというだけで凍えた心が溶けていく。この快楽を味わう度に手中に収めて離したくないと、悍ましい愛着がこの人に巻きついていくんだ。盲人が杖を手放さないように、名前を刻んで印を付けて、土の中まできっと持っていくの。
体感何分愛でた事か。小さな窓が明るみを帯びてきて世が失望の内に目を覚ますのに、自分だけは違うのだと誇大妄想を繰り広げるくらいには。
起こしたくはないけど放っておいたら昼まで寝るから、声量控えて嗄声気味で一言一句丁寧に
「先輩、朝ですよ。」やっぱやめた「起きろ寝坊助っ!」
天鈿女の命よろしく騒ぎ狂った翌朝に、チェリーは女性に起こされた。それも能力値は平均より明らかに上のスーパー人に。でも言葉は粗野で、少し叩いて起こされるのは辛い。
意識したら余計にドギマギしてしまって一挙手一投足がカクカクしてくる。トラウマがフラッシュバックする。
(ト、取り敢えずテレビをつければ助かるでしょ)
ピッ
こうなれば身なりだって俄然気になってくるわけで、寝起きの醜態が恥ずかしくってこの上ない。加齢臭とかしてたら嫌。
「後輩、あ〜、ちょっと昨日汗かいちゃったしお風呂入ってくるヨ。覗いちゃ駄目アルヨ」
「フリですか?よく貧相な体でそんな台詞が吐けますねぇ。ラーメン作って待ってますよ」
「朝からラーメンはちょっと...」
「その骨皮ス○オ君の体現者みたいなボディに脂付けなきゃでしょう。チャイニー?」
「ありのままで結構ですので。そんなこと言ったら後輩のお腹にも付くんだぞ!」
「私はサンドイッチ食べますので」
「胸中が豊かじゃないから育たないんだ」ボソッ
「セクハラですよ?早く入ってこい!」
おっかねぇ。
コポコポ、ゴボッ
また排水口詰まってる...。同輩は、私の問題が解決しないと詰まり続ける、と言ってたけどその問題が分からない。
悩んでも仕方ない。憂さ晴らしに歌う。
「三千世界の鴉を殺し 主と朝寝がしてみたい♪」
風呂から上がって髪を入念に乾かして、鏡の前で作り笑いの練習をして、後輩の待つ居間へ意気揚々と向かった。
今では後輩がテレビをまじまじと注目している。
「どうしたんだ後輩?」
「ニートが近づいています」
私が?
アナウンスに傾注して聞く。
アナウンサー「我が国の所有権を巡って争いが!今正に始まったと元国交相関係の人物から情報が入りました!」
国がいくら無くなったとはいえ、土地が全部消えたわけではない。寧ろ今までの冷戦状態が奇跡の表れだったんだ。胸が烟ってくる。深呼吸は出来なくて、視界が鼓動に合わせて狭くなったり広くなったり。
「先輩、どこかに支配されたらまたお金が流れ込んでくるんですよね?」
嫌だ
「そうなるだろうな」
「そうなったら先輩はまた本当のニートになるんですか?」
「そんなの...」分かるわけない。
稼いでも稼いでも出費がかさんで夢はあたまごなしに蹴散らされてそれでも気持ち悪く将来の夢を語らされる。
相続や贈与の自由も無くて、どこに住むにもやはり税をかけられる。人数頼りの年金を義務化して、全ては国民の為だと吹いて私みたいな人間は蔑まれるあの忌まわしい悪夢が、また現実のものとして顕現するかもしれない。
でも止める術なんて持ってるわけない。
「もしもそうなったら生かされるかいっそのこと死んでしまうかの二択だと思う、多分」
「そんな勇気は無いでしょう?」
「大抵の自殺者は直前にジタバタした形跡があるらしいから、きっと勇気が無くてもできるんじゃないかな。情報ソースは無い」
後輩は急に黙って携帯を弄る始める。Mじゃなかったら危なかった。ネガティヴでごめんね。
突如、ピアノの音が流れ出す。聴き覚えがある。これは「あノ鐘ヲ鳴らすのは貴方」...だと思う。
後輩は立ち上がって急に歌うよ。
ソウル調の曲種の力強い音楽に、澄んだ声が心の臓の少し下に染み入ってくる。ズキズキと痛む右の胸に歌詞が分入って根拠のない自信と癒しがドッと押し寄せてくる。鳥肌が立って目の前が惨めさで歪む。唇を真一文字に結んで必死で堪えても鳴り止まない声がただでさえ醜悪な私の顔を皺くちゃにしてしまった。趣味ってヤバい。
歌い終わった後輩は息を整えてゆっくりと喋り出す。
「死なないでください先輩。先立たれたら私はどうすればいいんですか?誰が甘やかして煽ててくださるんですか?生きる為に生きちゃ駄目なんですか?国家予算のつぎ込み先を間違えて責められるのは辛いけど、先輩はその辺の人間と違って一緒に絵を描いてくれたし科学の知識だって偉そうに偏って教えてくれたり、ビッグマウスで救いようが無くて堕落しきった屑で国益にはならないかもしれないけど、私個人のレベルでは必要不可欠なんです!やなことあってもハッピーで、人生ついでに生きてくださいよ!」
歳を重ねて涙腺が緩くなったのか赤児さながらに咽び泣いた。恥ずかしすぎる。
後輩沼に捕まってもっとずっと駄目になる。
その後、後輩と二人でふやっふやのラーメンとパサパサのサンドイッチを食べた。
腹を満たして食器を洗って、今日はどうしようか?、と後輩に訊ねた。
「ああ、すみません。この後予定があるんです」
「えっ、どこか行くの?」
「はい、同輩先輩に借りがあるのでそのお返しに...あ、もう行かないと。お邪魔しました〜」
後輩は言うが早いか出て行ってしまったので、必然的にまたぼっち。去り際ちょっとドライだった気がする。被害妄想だけど。
さて、本当にする事が無い。単純な思考で暇だからパソコンを点けた。今まで少しネットから離れていたからどれも情報が新しくなっていた。
時事ネタがどうやら盛り上がっているようだ。
内容はおおよそ、片方の国の歴史から見て現在の私が住んでいる国の領土所有権があるとか無いとか、また自由な状態になっているだけに統治者を選出すべきか?とか、また新しい機械が完成したとか、慈善家達が科学者と協力して一気に不治の病を治そうと奮起している、など様々な人間がそれぞれのしたいことを気儘にしていて画像に写ったほとんどの顔には善悪はさておき、笑みが有った。
歴史を記録している人間が新たに現状を記した物も見つけた。そういえば今日に至るまで旧時代からどうやって生きてきたのか。記憶と記事を照らし合わせながらぼーっと読み進めることにした。
記事
旧時代崩壊の始まりは、少子高齢化の当時に対して元政府が、人数頼りの税収で国を動かそうとした事に原因を見出す事が出来るのではないだろうか?
そもそもの構造は元国民が得ていた賃金から少量の税を徴収し、社会に必要な施設を完備する他、保険制度や、有事の際の対応を行う警察、消防、救急、軍...etcなどの人員へ給料等として使われていた。
しかし、元国民の労働環境は年々悪化の一途を辿った様子で、低賃金者からは税を取り立てる事ができない制度も有った為に、その対策として元国民一々にかかる税率を引き上げる方針を打ち出したのだ。
それに追い打ちをかけるように、利便性や効率化の為に機械化が進んだ。理由は当然だが低コストで人間よりも良く働く為だろう。
その結果、労働に勤しむあまり死者を多数出し、生き残った人々は経済的な余裕を失い、出生率は激減して行き、これらの負のスパイラルによって遂には我が国は旧時代の終わりを迎えたのだ。
これにより、様々な混乱が各地で勃発した。
公共施設やインフラの管理をしても賃金が貰えないのだから、労働意欲以前の問題と言えるだろう。これに伴い、人々は社会を動かす目的が消え失せ、このまま退廃しきるのを待つばかりに思えた。
旧時代崩壊から約一週間後、元国民の中の有識者が有志連合を立ち上げ、それまでの機械化をさらに増進させ、且つ科学力の増強と普及を図るという行動を起こした。
これにより現在の様に培養肉等の食料が確保され、しかも家作りまでも機械が無人で為してしまう驚異の状態を構築したのだ。
これらの技術力は非常に優れおり、海外からも前に述べた様な有志が集まり、真の智慧者達が今も日々真理を求めて身を粉にして研究に没頭している。
さて、元国民達はどうしたか?
初めは所謂「食っちゃ寝」が多く見られたが、段々とデストロイヤーが国全体に多く出現し始めた。
そこで有志連合は暴力を制圧するために、警備ロボットが次々と開発された。これらにより治安の維持は成功したが、プライバシーに関する権利を巡っては激しい論争が今も続いている。
他にも、従来の趣味に加えて技術を駆使した新時代のバーチャルゲームや学問が、老若男女問わず一世を風靡している。
まとめ
これは筆者の感想だが、旧時代は滅んで幸福度がいかに高まったかというデータは、周知の事だろう。これを元に言えるのは滅んで正解だった時代だと、この一点に尽きるのではないだろうか?
○年○月○日×曜
こういう記事を見ると心底ホッとする。私より遥かに不幸になった私みたいな人間が、多く救われたんだと実感が湧いて、いいことをしたときみたいな充足感が満ち満ちてくる。錯覚かもしれないけど、騙し絵を見れば誰だって騙される。
この他にも色々な記事やそれに対する評価、それからゲームに興じた。
さっきのテレビのキャスターが言っていた事はもう忘れよう。後輩と同輩がいる今があれば充分幸せだと感じるから。習性は治らない。
後輩は迷っていた。
(同輩先輩を探すに当たってシンクロニシティ持ちなのは聞いてるけど、できればもう少し効率的に動きたいなぁ...)
不意に肩をポンと叩かれた後輩は驚いて声を上げる。
「ヒッ」
「あら、脅かしちゃったかしら?ごめんなさいね」
後輩が振り返れば、そこにはめかし込んだ同輩が立っていた。
「びっくりしましたよ〜」
「いやぁ、ゆうべ夢で貴女が来るって見たものだから、迎えに来たのよ」
「まさか、予知夢ですか?」
「結果論でいくとそうなるわね」
「ひえ〜」
「あら?夢の中と服が違うわね...少し歩かない?」
「はあ...」
自然に手を繋がれて、大きなビルの前に来て止まった。
「ここで何かするんですか?」
「入ってからのお楽しみよ」
そのまま躊躇なく自動ドアを抜けて、エレベーターに直行。乗り込んですぐ同輩は手持ち鞄から一枚のカードを取り出して監視カメラに翳した。
「何ですかそれ?」
「会員証よ」
(映画かよ...)
「映画みたいでしょう?」
「へっ!?あっはい」
「そんなに緊張しなくても取って食いやしないわよ」クスクス
(そうじゃないんだよなぁ)
一階に止まっているはずのエレベーターが、定かではないけど下へ向かって動き出した。
ピンポン♪と音がしてアナウンスが鳴る。
アナウンス「いらっしゃいませ。同輩様」
「様?偉そうですね」
「意外と偉いのよ?私」
「美人ではありますけど...偉い...ねぇ」
「ありがとう。鶯鳴かせたこともあるわよ?」クスクス
(冗談に聞こえない)
エレベーターを出ると地下空間が広がっていて、小さな喫茶店が構えられていた。
看板には「café」と書いてある。
「何ですかここは?」
「私の店よ」
!?
「店って...店ですか?」
「ええそうよ。浪漫中毒の連中が協力しながら動かしているの」
「なんか物騒ですね...」
ガチャリとステンドグラスのあしらわれた木製のドアを開けるとカランランと鈴が鳴る。
店内を一望して絶句する。
入り口に敷いてあるマットにはアラビア調の裁縫がしてある。
壁から床、天井に至るまで薄藍色と少々の金色で塗られていて給仕がバーテンダーの様な刺繍の入った服で出迎えた。勿論ロボット。
椅子や机には細部にわたって彫刻が施されており、檜だろうか、えもいわれないいい匂いが漂って来る。照明は蒲公英色の旧式で、店の奥まった所には安楽椅子と年季の入った蓄音機がザリザリとノイズ混じりに音楽を流している。
どうやら小さいながらもステージや音響設備もあるようだ。
「うわぁ、ハアァ...」
「驚いた?お金の勘定が要らない分自由に出来るのよ」
「はい、とても...。あっ、でも材料はどこから?自由とはいえ高級品はあまり出回らないですし、まして旧式の家具なんて」
「有志連合に協力しているから、その報酬として貰ったのよ」
「協力ですか?」
「ええ、心霊現象を専らの趣味にしているだけに、それが科学的に解明できないか?という試みがあるの。それに安全な実験台としてこき使われているのよ」
「身を売ったんですね...」
「言い回しに悪意を感じるわ...。実はここに来たのはお茶をするのも吝かではないんだけど、衣装が奥の部屋に置いてあるの。だからドレスアップしてそれからうちの別荘に来ない?」
「いいんですか?そんなにして貰っちゃって」
「借りを返すために私を探してたんでしょ?だったらしてもらいたいことがコレよ」
(何か下心でもあったりして...)
「ああ、下心は無いから安心していいわよ?」
「処女なのに筒抜けとは...」
それから約二時間迷って漸く着替えを済ませて、店が手配した車に乗って少し都市部なら離れた所へ来た。運転手は同輩。
「ついたわ」
同輩が車からサッと降りて、手早く後輩の座る助手席のドアを開ける。エスコート魔人。
「やだ、イケメンですね!」
「惚れても良いわよ?」クスクス
下車した後輩の目の前には、田舎の土地が広いのをいいことに、これでもかと使った平たい旧式の家がデカデカと厳かにあった。
「うわぁ、でっかいですね〜。これも報酬なんですか?」
「これは唯の趣味」
創作意欲って凄い。
招かれるままに来てしまったけど、場違いな気がして来た。元金持ちとはいえ格が違い過ぎる。背筋も自然と伸ばされるし。
「さ、入った入った」
「気後れしてますので、お先にどうぞ」
「そう?じゃあ失礼して」
ガラガラと引き戸を開けると正面に、虎だろうか、厳しい顔つきの動物が描かれた屛風があった。先に入ってたら間違いなく腰抜かす。
玄関には花がいけてあって良い香りが鼻を抜ける。
出迎えのロボットが住み込みで管理も兼ねていたようで、荷物を預かって奥へ案内してくれた。少し違和感。
「さて、来たは良いけど何をしましょうか」
「えっ、予定があって来たんじゃないんですか?」
「迎えに行ったのは来るのを知っていたからで、何をするかまでは考えてなかったのよ。急だったし」
沈黙してしまった。鹿威しが鳴る。
「あ〜、それじゃあ普段から訊いてみたかった事をいくつか」
「ええどうぞ」
「何でそんな言葉遣いなんですか?」
「う〜ん、表現技法ってあるじゃない?」
「はい」
「それの一種だと思ってもらえると分かりやすいんじゃない?方言みたいな」
「ああ、たしかに分かりやすいです。やで〜とかずら〜とかナリ〜みたいなものですね」
「最後のは知らないけど大体そうよ」
「それでは第2問!ジャジャン!」
「クイズ形式なのね」クスクス
「先輩とはいつからのお付き合いなんですか?」
「曖昧になるけど...旧制度換算で中学三年位からじゃなかったかしら」
「へぇ〜、古い付き合いなんですねぇ」
「あの元ニートに歌や踊りや絵やその他を教えたのは私なのよ?」
「ええっ!?独学だったって偉ぶってましたよ?」
「ほう...後で呪ってやるわ」
「勉強は教えなかったんですか?」
「ええ、だって興味無かったから」
「旧時代によくそれが言えましたね...」
「こんな時代になると分かってたからね」
「また予知ですか?」
「いいえ、これは単純な流れで予想はついたわ。まさかこんなに早いとは思わなかったけど」
「頭が良かったんですね。続いて第3問!
同輩先輩は...先輩の事が好き...だったりしますか?」
「likeであってもloveじゃないわ」
「そうなんですか!いや〜、そうでしたか〜ウンウン。いや、そうじゃないかとは思ってたんですよぉ〜」
「思春期ね。まぁ私は性別より人格で選ぶ事が多いけど、あのニートは女性じゃないからね」
(えっ?)
「え?」
「え?ああ、言ってなかったかしら?私は生物学上女性だけど、自分のことを男性寄りだと思っていて男性として女性が好きな人類よ?」
「ヘーソウナンデスカ」
「理解が追いついてないわね。まぁ、ともかくとして魅力を感じないのよ、あの元ニートには」
「はぁ...という事はあれですか?私みたいな人間が好ましいと?」
「う〜ん、悪くはないけどまだまだ未熟だからストレートにタイプ!って感じじゃないわね」
「それはそれでなんかモヤっとしますね...」
「それに彼女はもう三人ほどいるし」
「へあっ!!?」
「3分ヒーローみたいになってるわよ」
「だって三人って...刺されませんか?」
「昼ドラの見過ぎよ?みんなポリアモリーだからモーマンタイよ」クスクス
「はえ〜。青天の霹靂な気分です」
「それって青天の霹靂なんじゃないの?」
「たしかに」
この後先輩の過去話を根掘り葉掘り洗いざらいに訊いた。天性のボッチだったとか声は良かったとか、早めに両親が亡くなって四年くらい同居してたとか。
すっかり日暮れまで居座ってしまった。
「遅くまで引き止めてごめんなさいね。今日はもう遅いから泊まっていっても良いわよ?」
「本当ですか!?」
「随分と嬉しそうね。部屋は無駄にあるから好きに使って良いわよ」
「やったぜ」
私が無駄に広いお風呂に入っている間に同輩先輩はプロ顔負けの手料理を用意してくれていた。手料理なんていつ以来だっただろうか。家に帰っても誰がいる訳でもなく、寂しく栄養食品を貪る日々とのギャップに涙目になりながら味わって食べた。
アナログな生活の理由はおそらく同輩先輩の体質に起因している。家事ロボだって街中では見かけない型だったし。
その夜にはロボットを交えて枕投げをした。枕投げに殺法があるのを初めて知った。
いつの間に寝てしまったんだろうか、鹿威しの一鳴りで深く瑞々しい空気を吸い込んで目を開けた。外では虫が盛んに求愛していて、月光の強さに心酔する。
むくりと上体を起こしてまだ仄暗い部屋を見渡すと、襖が幾重にも開かれていて最奥の不明瞭さが家の大きさを物語っていた。
隣には同輩先輩が寝ていてもう熱帯夜気分なのか布団を乱して寝相を酷くしている。
寝起き特有の冷静さの内に、放心にも似た心持ちで現在の様を改めていた。
急に落ち着いた声で問いかけられる。
「もう起きたの?もう暫くは寝てて良いのよ?」
「いえ、もう目が冴えてしまいましたし」
「そう。早起きなのね。私に訊き忘れた事が有るのね?」
「はい、先輩に辛く当たってしまって仲直りはしたんですが、矢張り根本的な解決はされていない問題があるんです。同輩先輩、幽霊がいたとして、それらに危害を加える事はできるんですか?」
「通常は不可能よ。でも科学的に解明されていけばいずれは可能になるでしょうね」
「もう一つ。私は復讐したがっています。これは裁かれる対象だとお考えですか?」
「いいえ、思わないわ。誰もが誰も裁けない。それに善悪なんて社会を円滑に動かすために人が作った制度でしかないわ。仮に神みたいなものがいたとして、全知全能の支配者が弁護者をたてずに無知無能に等しい人間を一方的に断罪するならそれは悪魔よ。
古今東西問わず、神は愛と慈悲に溢れた物だとされているわ。なら人間が抱いた感情に物差しを当てるなんて、非道な真似は絶対にしてはならないでしょう?」
「じゃあ人を殺しても罪にはならいとお考えなのですか?」
「いいえ。これは他人の考えを借りるけれど、人は産まれながらにして既に苦しみを持っている。だからその状態に、加えて苦しみを与えるのは明らかな過失である。そう思っているわ」
「じゃあそれを行った人間は所謂地獄みたいな所へ赴くんですか?」
「それも多分いいえ。目的を明示せずに唯平和に成れという聖者や神が、地獄へ誰かを落として責め苦を与えるのはそれこそ無責任でしょう。
罪を考える以前に平和になったとして、一体その先何をするのかの有無で変わる法なんて、万能とは言い難いと思わない?」
「はい。ではどこに行くんでしょう?」
「どこかに行きたいの?」
「いえ、ですがなんとなくそうなるかと...」
「因果律が消滅するか否かで変わると思うけど、どこにでも行くしどこにも行かないんじゃないかしら?」
「ハア」(よく分かんなくなってきた)
「ん〜、纏めると、どんな感情にも行いにも優劣や善悪は無くて、唯生きるという中に自分が凡ゆる分野でしたいと思った事を楽しめばそれで及第点なんじゃないかしら?今のこの時代なら旧時代より容易いわよきっと。」
「...ニートでもですか?」
「ニートでもよ」クスクス
「なんか綺麗事っぽいですね、それ。堕落してる感じがする。」
「あら、便利さを怠けだと思うのは悪習よ?たとえ伝統として染み付いていても。
綺麗事を述べるだけだから綺麗事になるのよ。各個が動かなきゃ。
復讐したいんだったら、終えて後に何をするか決めておかないと困った事になるわよ?」
「終わった後...ですか...。先輩を懐柔して飼い殺すのも一興かもですねぇ...」
「元ニートの幸運を祈るわ...」
やがて庭に日光が眩く射し込んできて、朝がやってきた。希望的に映る情景と相対する腹の中の一物を比べてパチパチと瞬きをした。
その朝は同輩先輩に朝御飯を頂いて帰路についた。ウチにも家事ロボ配備を検討しよう。
それから五日間もの間三人が三人とも会う事は無かった。
二人共と音信不通の音沙汰無しで、なんだか時間を遡ったように静かな部屋で、私は生理現象を満たしてはパソコンに張り付いていた。
俗に言う「キチガイゲージ」が溜まったら「魔王」のイントロに合わせてきらきら星を歌って消化した。
鳴らずのインターホンがけたたましく家中に来客を告げる。
出てみると同輩がいた。明日はきっと槍が降る。
「ハロー、元気してた?」
「やっとかめ〜、家に直接来るなんていつ以来だっけ?」
「ええっと...一年振りくらいかしら?」
「君子の交わり淡き水の如しと言うからには君子の証拠かもね」
「ゴマ擦ったって何も出ないわよ?」
「じゃあ擦り損だったか...。何の用だよ」
「急にドライね。
実は近々自殺専用の施設が建立予定らしいの。だからそれを報せに来たのよ」
「有志連合が建てるのか?」
「ええ。自殺の自由は倫理的に認められるべきだと結論が出たそうよ。勿論審査はあるけど」
「それで、私に態々言いに来たのは嫌味か?」
「違うわよ。でも意外ね。貴方ならこれ幸いと飛び付くかと思ってたのに。察するに後輩ちゃんかしら?」
「御明察。お互いに依存しあってるから余計に死に難いよ。人という字は〜みたいな」
「それそんな意味だったかしら?共依存なのは自覚済みなのね。まったく、こんな暑い中来たのに無駄足だったわ。帰る」
最早後輩の為に生きている生物に成り果てている。もし後輩に嫌われたら生きていける気がしない。この心が後輩の策略による物だったとしても単純に駆け引きで負けたというだけで、これは一般にも起こり得るごくありふれた応酬なはず。
でも、最後の一線だけは守らないと。後輩だから。もしも私を奴隷の様に籠絡させるような罠が待ち構えていたら、陥落の前に自決しないと二度と人間として振る舞えない気がする。
噂をすれば影がさす。故人はこう思ったはずだ。
故人「噂を(ry)なんだぞ〜」
故人「噂って影でするんじゃねぇの?」
故人「ぐぬぬ」
まぁそれはともかく、私の携帯には後輩のアドレスが懐いて離れない。今回の通知も恐らくは後輩からだ。
(やっぱり)
「先輩、明日の夜に近くの神社で祭りがあるそうです。ご一緒にいかがですか?」
(祭りねぇ...。普通なら豊穣を願ったり邪気を祀り返したりするんだろうけど、神頼みだったら困ってないから神様の体調でも気遣う羽目になるよなぁ...。)
「おっしゃあ!分かった。行こう」体は正直。
「じゃあ、5時に神社で落ち合いましょう。駆け落ちでもいいですよ?」
「賭け落ちの間違いじゃないといいな」
「どちらにせよ追われないですけどね」
さて、存外にあっさりと予定ができてしまった。べ、べつに寂しくなかったし!?
祭りといえば古い記憶が蘇る。いつぞや、まだ旧時代だったのは確かだが、まだ齢二桁にもうなるかというタイミングだった。
闇夜に提灯が連ねられて大人子供問わず笑顔だった。甘い匂いが漂っていて、目移りして先走ってしまった。ふと自分を連れて来てくれた親がいないのを知って、今にも泣きそうだった時に目の前に年下の女の子がいて泣いていた。赤地に金魚が二匹泳いだ和服を着ていたっけ。
ゆっくりと近づいてそっと手を繋いで、迷子お知らせに私も半べそで行った。
アナウンスは大音量で流れてすぐに女の子の両親は迎えに来たけど、私の親は少し離れた場所で通り魔にあっていた。
祭囃子よりも大きくがサイレンは鳴っていたのに私はパトカーが格好いいからはしゃいでいた。
その後あえなく捕まった通り魔の、動機は鐚一文欲しさだったという。
私の両親はいつも「世の中お金じゃ買えない大事があるんだよ」と説き聞かせていたけど、ねえ?
そこまでさせる魅惑の物体マネーを私はなあなあに今でも見ている。大人っぽいと自負してる。
同期の同輩の家に引き取られて色んな芸事を仕込まれた。何故かは知らない。
学校に行ってまず委員長や合唱団班長なんかはおろか、帰宅してもクラシック、ジャズ、シャンソン、ハバネラ、ビギン、オペラ、民謡、演歌、浪曲、新内流し、吟唱、都々逸、ブルース、ロックンロール、ソウル、ヘヴィメタル、ポップソング、ヨーデル、ホーメイ...etcの歌から楽器や
油絵、水彩画、美人画、日本画、浮世絵、抽象画、人物画、仏画、模写、etcの絵に踊り等々。
当然クラスでは浮いた。同輩は笑っていたけど当時は結構傷ついてた。
それからすぐに国が瓦解した。すると突然家を与えられて追い出された。人でなし。
なんて事のない迷子の思い出だけど、新時代に向けた儀式の様にも思えてならない。
なに、明日はその迷子にならなければ良いのだから。
待ち兼ねた夜がやってきた。生憎の曇天が不安をかき立てて、祭りの陽気がそれを中和するの繰り返し。
はやる気分が足に出たのか、少し早く着いてしまった。
「ごめんなさ〜い。待ちましたか?」
「No problem」
「え〜、そこは ううん、今来たとこ♡じゃないんですか」
「逆じゃないの?普通はさ」
「ジェンダーロールは古いですよ?」
「萌えの問題だよ」
「残念ですが私は綺麗系ですので。それにしてもその格好、モボですか?」
「青い背広と迷ったんだが神様の言う通りにした結果だ」
ゆったりとした麻生地の夏仕様和服に、カンカン帽を斜めに被ってお高めのステッキ。ちいさな巾着袋に下駄が意地の徹底さを醸し出している。
「そっちこそ、折角の祭りなのに浴衣じゃないんだな」
後輩は黒の主色に、なんだろう?木の様な刺繍が薄っすらと入った薄手とその下。計二枚着て、下は白いズボンにブーツと晴れ着にしてはやや、地味目に見える。荷物は袈裟懸けバッグ。
「先輩をたてる良き後輩ですので」ドヤッ
ドヤ顔可愛い「偶然をものにする強かな後輩だと思うよ」
「惚れてもいいんですよ?」
「ん?何のことだ?」
「惚けないでくださいよう」
挨拶もそこそこに境内を出て会場に歩みを進めた。本心は着物じゃなくて良かったと思う。偶々の一致でも条件は揃わない方がいいはずだから。
会場では屋台の店主はおらず機会が無機質に音を立てて焼きそばやたこ焼きを焼いたり、綿飴を巻き取ったりしている。お囃子も無論無人だから、ただスピーカーから流れているだけ。氏子衆がよく許したもんだ。
それでも町中の人が心を慰めるために輪になって踊っている。
それを見た後輩が私の前に片膝をついて手を差し伸べる。汚れちゃうから焦る。
「先輩、Shall we dance?」
「お馬鹿、映画の見過ぎだぞ。折角のおべべに土が付いてるじゃないか」
「御返事下さいよ〜」
「はぁ、踊ろうか。お誘いはミスマッチだけど」
「はい!」
盆踊りの鬼と言われた妙技を、お披露目してしんぜよう。
それから拍手喝采をあびて得意げになりつつ、人気の少ない所へと急いだ。ファンが出来ちゃうかも。
二人で神社の軒下に腰掛けて、貰ってきた焼きそばを食べながら、祭りのクライマックスである花火を待った。
タイミングが良いのか悪いのか、まだ打ち上がらない内に霧雨がサラサラと集まったみんなに降りかかりはじめた。
蒸し暑いこの縁日には丁度いい涼が恵まれた気がする。
瞬間、夜空にパッと光が満ちて、ドンと爆音が響む。
勿体ない気もするけれど風邪をひかせても悪いから、どこか屋内に入ってしまおうか?と後輩に言うといつかの深淵を宿した目で私を見ていた。蛇に睨まれた蛙。
言葉をなんとか絞り出そうと口を開けたが、後輩の方が一段早く動く。
「先輩!」ガバッ
(なっ、おっ、え?...抱きつい、芥川、アババババ)
焦って狼狽えて尋常ではない。
おいおい、上目遣いでそんなに見られたら照れちゃうだろうが。
「「......。」」
後輩にくっついた雨粒が会場の明かりを乱反射してスパンコールのように輝いている。黒い服に縫い付けられた木を見れば、花火が咲く度に蓬莱の枝に変わっていて、後輩らしい甘い香りの香水が私の理性を淡くしていく。
(駄目だ!早く動かないと...!?)
動かない。息を吸うとチクリと僅かに痛みがあって、何か刺されたとやっと気付くが、後輩は手早く鞄から縄を取り出して私の四肢を速やかに束縛した。意識が朦朧として最後に見た光景は、後輩の高慢に歪む口許だった。
次に目を開けた時にはもう何処かの屋内にいて、ベッドに手錠で繋がれていた。
「あ〜、やっと起きましたね!お加減いかがですか?先輩。言ったじゃないですか〜。乙女に襲われても不思議じゃないって」
「ん”ン〜っ!」
口もどうやら塞がれている。
「少し大人しくしておいてくださいね、今外しますから」
「パハッッ!
後輩、今すぐに手錠も外してくれたら嬉しい。あと此処は一体どこだ?」
「意外に冷静なんですねぇ。先輩と離れ離れになってた五日間で用意したので、安普請ですが、私が先輩と暮らす愛の巣ですよっ♡」
「何を寝惚けた事言ってやがる。悪い事は言わないから外すんだ、早く」語気を強めていく。
「焦らなくっても解放しますよ。先輩が私と結ばれさえすれば、ね?」
「後輩、本気でそんな事言ってるのか?残念だったな。私は生粋のロリコンだぞ年増め」ハッタリをかます
「嘘です。祭会場で一番美人のうなじをずっと目で追ってたのは知ってます」
(男の性め。せくしぃには勝てん)
「じゃあ仮に結ばれたとして、その後どうするんだ。自分が一番知っているはずだぞ。動く事を止めた人間が如何に重いかを」
「先輩の萎えきった矮躯を抱えられなければ、ここに運べてませんよ。ねぇ先輩、もう抵抗はやめませんか?さっきから手首の薄皮が切れて血が出てますよ?」
「やめるわけないだろうが!過ちを犯そうとしてる後輩がいるのに!」
「そですか。じゃあコレで強行させてもらいますね♡」
後輩は小型の注射器を手に持って恍惚の面持ちで近づいてくる。お願いだからやめてくれ。そんな事をしても救われるわけないだろ。愛を語れる程高尚な人間ではないけど、肉体だけの繋がりはより溝を生むことくらいわかる。
同輩が言っていた。愛は相手本位だと。でも目の前の状態はそれからかけ離れている。
後輩のブラウスが赤い事がハッキリとするほど距離はもう縮まっている。首元は雨か汗かは知らないが、雫が楕円状に付着していてネックレスかと錯誤する。
小さな痛みが私の首に走って体は徐々に火照りを増した。後輩の頬は紅潮して息は乱れている。薬の所為か時偶起こる、寝ているのに意識はある状態で...それから長いこと魔手に堕ちた。
目を開けられる様になった頃には、後輩の純白と私の潔白が燃え上がった痕跡が真っ白なシーツに灼きついていた。
脱力も落胆も後悔も哀しみも味わった。
その後、朝か昼か分からない部屋で飼われた。
排泄も摂餌も着替えも入浴も自由を全て掌握された。後輩は心底楽しそうにして偶に日用品を揃えに何処かへ出て行く。尊厳なんて無かった。
幾日浪費したかは推理すら出来ないでいた。
後輩が外出したある日、遠い遠い開かないはずの扉が解錠されて見知らぬ女性が侵入してきた。いとも簡単に私の手錠を解いて言うには
「元気?アタシの全てから伝言よ。
自分で帰って来なさい。
だって。それじゃあね」
呆気に取られていたが、ふと脳裏をよぎる正体が一つ。あの祭り会場一の美人!
誰かしらんが助かった。
手早くあり合わせの服を着て押っ取り刀で恐る恐るドアを出る。
何日ぶりかの日光が、長く伸びた廊下の点在する窓から温かく射している。
左右の正解は未知。左に行こう。左は元が火足りだと、エネルギーに溢れた方だと同輩に教わった。
「待って!」
振り返ると後輩がいる。悲痛の眼差しが私を釘付けにする。
「本当に行っちゃうんですか!?もう一度戻りませんか!?不満があったなら改善します!、肉欲が多いなら合わせます!だから待って!!」
動かなければならない。踵を返して一歩。
「行かないで...」
また泣かせてる。
「行かないで!」
心が千々に裂けていく。
「行かないで!!」
疾く去らないともっと傷付けてしまう。
駆けた。
「行かないで!
行かないで!!
行かないで!!!
行かないで!!!!
ッッッ窓から飛び降りるわッッッッッッ!!!!!!!!!!!」
振り返った刹那、もう後輩の姿は窓の外だった。
神よ。こんなのどうやって助けろってんだ。
私の手から滑り落ちたモノは余りに大きかった。ふらふらと階段を下りて自動ドアを抜けて、見上げた建物は路地裏のホテルだった。もう誰にも顔向け出来ない。
肌を照らす灼熱の太陽が、蝉の声が、石畳の照り返しが、全てが無機質に感じる。
陽炎にさえ成れたら、どれだけ楽になることか。
お金より大事がお金の引き金で砕かれた。
行き先を誰かが妨げる。物好きがいるもんだ。こんな無価値な肉に関心して何の利益が出るんだろうか。
「よく頑張ったわね」
聞き慣れた優しい声色。幼心に救われた私の故郷。
嗚呼、願わくばもう一度助けて。
「同輩!!私は精一杯やったんだ!!なのに金が!!アレが全部全部持って行ってしまった!!!!!アレはもうここには無いのにっ...なのにっ、こんな結末なんて可笑しいじゃないか!!!??
私の手が小さいから悪いのか!?知識が足りないのか!?信心があれば救えたのか!?
愛さえあれば何でもなかったのにそのために金が要るなんてどうにかしてる!!!!!!」
「お疲れ様ね。
貴方は持てる全てを奮ったわ。私がちゃんと見てたから安心してお休みなさい」
運動を絶っていた体が脆く崩れ落ちて、その残骸を、一切の苦しみを払い除けて埃をはたいて慈悲深く運んだ掌の大きかったこと。
絶対の安楽を惜しげなく振る舞うその行いに、私は現人神を見たのだった。
翌日もその次の日も、明日も明後日も明々後日も後の明後日も弥明後日も、何もしたくない。
元にも現にも廃人になった私が思う。
病院のベッドに寝かせられて、白い天井を眺めつつ一寸先の闇を反芻していた。
治療は当たり前にロボ
「オカゲンイカガデスカ?」
「殺してくれ」
「ソレハデキマセン。ドウハイサマニメイジラレテオリマスノデ。ソレニアスニモタイインデキソウデスシ」
「ポンコツめ」
「ゲンキソウデナニヨリデス、デハシツレイ」
ロボとすれ違いに同輩が見舞いにやって来た。
「ニートにあげる花はないですか?って訊いたら花屋さんが困って遅くなっちゃったわ。取り敢えず明日は私の別荘に貴方を置くけどいいわね?」
「よく毎日飽きないな」
「これでも ちゃんと面倒見るから〜 ってあるある駄々を突き通した稀有な人類なの。それにまだお仕事が残ってるわ」
「失職中〜」
「あっそ。まぁいいわ。明日古い車で迎えに来るわ。それじゃ」
手をヒラヒラと振って早々に帰ってしまった。
体内時計は止まっているのに明日が来るのは皮肉としか思えない。
涙は枯れたのにフラッシュバックする毎に鳩尾が締め付けられて呼吸が早くなる。するとお決まり通りに繋がれたら管から睡眠導入剤が流し込まれ、それで夢の世界へ逃げ込む。もうなにも見たくない。
(そうだ、明日は件の施設に行って死のう)
夢を見た。
大きな卵があってコツコツと内側からノックが聞こえる。段々と殻を砕いてあと少しなのに自力は尽きかけているらしい。ちょっとだけ手伝ってやると、激しい閃光が放射されてシルエットが浮かび上がる。
これは...見たことがある。
2段重ねの雀だった。
嬲られた気分。
翌日はまだ曙の頃に迎えが来た。
目をこすりこすりようやっと宣言通りの古い車に乗り込んで同輩の家へ向かった。
「着いたわよ。食費は三文未満だから上がってさっさとご飯食べなさい」
「食事が喉を通らない」
「お茶漬けだから大丈夫よ」
なんだそれ。凄いなお茶漬け。
これまた宣言通りに一杯食わされた。慣用句が邪魔。
「同輩、私は少し出てくるよ」
「ちょっと待って。言ったでしょ?仕事があるわ」
「何も出来ないよ」
「何もしなくていいの。それから何処へでもいくと良いわ」
そんな仕事はもう少し早く欲しかった。いや、仕事なんてしたくない。
同輩が大声で連れてきて、と奥の部屋に向かって叫ぶと襖が一気に全て開いて、朝焼けが刹那の間で目に飛び込んで来る。
逆光に向かって細目を開けると幻覚が明滅してシルエットが浮かんだ。
人影
(中肉中背で...男?...。)
「男じゃないわ。もっと良く見なさい」
目をもっと開けると.......あっ...。
(不立文字)
衝撃、混乱。
「先輩」
「幽...霊?」
「いいえ、本物の私です先輩。おっぱいで確かめますか?」
「何で、だって、飛び降り...」
「着地地点で今私の両脇に居る方々に捕まりました」
「後輩なんだな!?生きてるんだな!?」
「はい。恥ずかしながら」
「話の途中だから続けるわよ?
まず貴方があの日後輩ちゃんと待ち合わせてる事は知ってたわ。最初は手出し無用と思ってたけど、流石に違法薬物の違法乱用に拉致監禁、強姦までするとなると話は別。
有志連合の警備に協力してる以上犯罪は見過ごせなかったの。そこで、後輩ちゃんを捕まえてる両脇の二人、私のパートナー達だけど彼女らにも手伝ってもらって身柄を確保したの」
「じゃあもっと早く助けられたんじゃないのか!?」
「それは出来なかったわ。貴方が囚われていた建物は個人の所有物で、持ち主は現在の領地争いに加わっている国の重鎮だったの。だからデータも幾重にも秘匿されてて結果、許可を取るのに時間を大分ロスしてしまったの。
能力不足だったわ、ごめんなさい」
「屈辱だったけどあの忌々しい両親のツテを頼りました。まさか突破されるとは思いませんでしたけど」
「後輩ちゃん?貴女のした事は犯罪よ?どうにも捕まえた当初から反省の色が見えないけど、それは何故か教えてもらえる?」
「先輩覚えてますか?先輩のご両親がお亡くなりになった日の事。私は幼かったですけどずうっと覚えてましたよ?
同輩先輩は隠し通したようですけど先輩の両親は旧経済界の元締めだったんですよ?
それがあの通り魔の一件で先輩の両親の傘下であった私の家族の企業はおろか、この国の約半分の人が路頭に迷った」
「そんなこと一言だって!」
「本当の事よ」
「何で黙ってた同輩!!」
「貴方はあの当時純真無垢過ぎたのよ。前に教えたわよね「丸けれど一角あれや人心 あまり丸きは 転びやすきぞ」とね。
それだから罪悪感を持たせないように経済界から既に脱退していたうちの家が引き取ったのよ」
「別に先輩を恨んでいるわけじゃないんですよ?ただ純粋に一夜の恋だったんです。分析すれば糸し糸しとなるあれです。
それなのに関係が見えるに連れて自分の感情が間違っている気がして。
でも今回の一件でハッキリしました。手段を間違ったかもしれないけど、この恋慕は普通のものだったと。先輩と過ごした時間は天にも昇る心地でした。
反省していない訳ではなくそれ以上に嬉しいんですよ」
パンッ
同輩が後輩の頬を打った。
「その身勝手でどれだけこのニートが傷ついたと思ってるの!貴女は何も得てないわ!ただ渇愛を満たしただけよ!
普通の恋?片腹痛いわね。他の人間がどれだけ悩んで苦しんで自分を抑え込んでいるか知らないんでしょうけど、少なくとも貴女のような犯罪めいた事はしないわ!
貴女は法で裁く。世界の智慧者が結集した叡智の法でね」
「世界一完璧な法典でも先輩の中の私を取り除く事は何人も出来ないですよ。
言葉や思想はいつまでも残り香を放ち続けますよ、きっとね?」
「だから貴女は未熟なのよ、後輩ちゃん?」
「負け惜しみですか?滑稽ですよ?」
「世界が駄目なら宇宙の法で捌くまでよ」
「はい?気でも狂いましたか??」カラカラ
「大マジよ。既に宇宙の生命体とコンタクトが始まっているわ」
「宇宙人がいるとでも?」
「ええ、世界は広いわ。未熟者なりに体感してくるのもいい経験になると思うわよ?そろそろ連行しましょうか」
「待ってください。
先輩、最後に一つだけ訊いてもいいですか?」
「なんだ?」
「刑期を終えたらもう一度一緒に遊んでくれますか?」
「約束する。ラストダンスは私に」
「はいっ!喜んでっ!」
共依存は不治の病で特効薬などは無い。同輩は不服そうにしていたが、私はもうこれで良い。胸の穴が埋まった瞬間に、もう不可欠なのだと知ってしまったから。
後輩の言う通りにその後の私の言動の端々には、後輩が見え隠れする。
カニバリズムより確かな同調。
同輩に過去に有った事実を細大漏らさず訊き出した。原点は私の親で、後輩が終点。
悪どい物など無かったのに、秘められた身辺は余りにも金があった。
後輩は喜んで誓った再開を死守するはずだ。その時になったら私は、全霊を捧げて無象の罪を償おうとするに決まってる。
欣喜雀躍とする後輩とその前にひれ伏す私。泣き噦る私はきっと存在感など無くなって、後輩と一体化するのだろうと確信めいた妄想が脳裏を去来した。
あの透かしの入った精巧な札の肖像画が、我関せずと笑った。
なんかニートになる正当な権利があると思って書きました。
衣食住と科学とオカルトを追求するだけの人生を送りたいです。
進み過ぎたが故の退廃的な世界観、現代社会の風刺
労働が消えてもニートを自称する主人公
生まれが過酷でも、健気に主人公に狂愛を向ける後輩
それを受け入れる主人公と、融けそうになる共依存
不思議な力と共に二人を繋ぎ、見守る同輩
大好きです
最高だと思います
最高です
続き待ってます