2017-11-17 21:45:02 更新

概要

ドラゴンボールヒーローズ ビクトリーミッションX 03の続きです


前書き

今までの話とは少し書き方が変わります 最後まで読んでいただければ幸いです


―――"超サイヤ人3を超えろ そのためには心から憎しみを捨てなくてはならない"




―――そう告げられたビートは、仲間であるローラが敵であったという事実を乗り越え、心から憎しみを捨てて仲間を信じようと決意する




―――しかし、信頼していたシャメル、そしてモルネーまでもが敵だったという残酷な現実を前に、ついにビートの心は、憎しみを持つことも仲間を信じることも出来なくなってしまう




―――タイムパトロールの希望であったビートは、暗黒魔界からの内通者であるシャメルたちに連れ去られてしまったのだった…






[mission04︰ 時空を越えた想い ]






―――時の広場



フローズ「く…くそ…」ヨロッ


カギュー「大丈夫ですかフローズくん、肩を貸しますよ」


フローズ「…すまない…カギュー」


カギュー「いえ…早くミーティングルームに行きましょう」




―――ミーティングルーム



時の界王神「……来たわね、それじゃあはじめましょうか」


時の界王神「…とてもまずいことになったわね…」


ゼン「申し訳ありません、時の界王神さま! 私が彼らを逃がしてしまったために…」


時の界王神「もういいのよ…ゼン」


フローズ「もういいだと?ふざけるな!すぐにビートを取り戻しにいくぞ!!」


カギュー「ふ…フローズくん!そんな体で…無茶です!」


フローズ「あいつがいなきゃ…何も始まらない!このままオレたちが負けてたまるか!」


時の界王神「…気持ちは分かるけど落ち着いて、フローズ」


フローズ「落ち着けだと?それは無理だ、オレは今すぐビートを…」


時の界王神「行かないで!!!」


フローズ「!!!」


ゼン「か…界王神さま…」


時の界王神「お願い…無駄死にするようなまねだけはやめて ビートがいないからじゃない、あなたたち全員がいないとこの戦いは絶対に勝てないの …だから落ち着いて、フローズ」


時の界王神「あなたたちまで死ぬようなことになったら…私は…」


ワイル「…………」


カギュー「…フローズくん」


フローズ「…少し熱くなりすぎた…頭を冷やしてくる…」ガチャ


フェン「…フローズ…」


フェン「(…今思えば、最初にシャメルたちがいたバトルフィールドは現実世界からしか来れなかったところだ…なのにシャメルたちはキングカギューのことを知らなかった…)」


フェン「(邪悪な気が感じられなかったのも、おそらくドローの力で気を封じ込めていたんだろう…疑うべき点は早くからあったのに…)」


時の界王神「…あなたたちに話しておくことがあるわ」


カギュー「…?」


時の界王神「先程の時空の歪みのことだけど…」


時の界王神「魔神ドミグラが復活したかもしれないの」


ゼン「…魔神ドミグラ?それはいったい…?」


時の界王神「簡単に言うと、天界で悪事を行い7500万年の間、ずっと時の狭間に封印されていた魔導師よ」


時の界王神「そのドミグラが魔神の力を手に入れ復活した…時空の歪みのエネルギーを利用してね…」


時の界王神「シャメルたちは魔神の力はまだ覚醒してないんだろうけど、その片鱗が表れている魔導師なのよ、きっと」


時の界王神「ドローやワームホールを使えたところを見る限り、彼らもいずれかは魔神になるのかもしれないわ…」


ゼン「なんてことだ…敵の戦力は増える一方なのに…私たちはビートくんを奪われてしまった…」


カギュー「…これからどうするおつもりですか…界王神さま」


時の界王神「世界間の繋がりが不安定な今、こっちから相手のところに乗り込むことは出来ないわ」


時の界王神「だから待つの」


ワイル「待つ…?何をですか?」


フェン「…こちらの切り札はローラ…そうですね、界王神さま」


時の界王神「…そうよ、彼らは必ずローラ取り戻しに来る そこを一気に叩くしか方法はないわ」


時の界王神「ドラゴンボールもまだこっちにあることだし…」


時の界王神「相手が動くのを待つしか出来ないけど…まだ希望はあるわ」


カギュー「希望…」


カギュー「(…ビートくん…)」











―――暗黒魔界・トワの研究所




トワ「……」ズズ…


コーヒーを飲みながら目の前の資料に目を通す

サイヤ人に関する資料だ


今日ここに連れてこられるサイヤ人を仮面で洗脳する、それがトワに与えられた役目


速やかに戦力に出来るよう迅速に事を進めなくてはならない 以前仮面で洗脳した男は先の戦いで殺されてしまった 


今度はそうならないように上手くサイヤパワーを引き出す方法を思案していた


トワ「(サイヤパワー…強力なこのエネルギーを利用して、最強の戦士を作り出す…それが私の役目…)」



ピーピー



部屋の外からコールがかかる おそらくシャメルたちだ

最後の一人であるサイヤ人を連れてきたのだろう


トワ「ドアのロックは外したわ いいわよ入って」



ウィーン



シャメル「…久しぶりだな」


モルネー「…どうも」


シャメルとモルネー 魔神の素養を持つ魔導師たちだ

彼らは内通者としてタイムパトロールに潜入し目的のサイヤ人を奪い、たった今自分たちの任務を終えたのだ


シャメル「…こいつ、気絶してるぜ 念のため手足は拘束しておいたけどな」


トワ「…これが目的のサイヤ人…?」


手足を魔力を帯びた特殊な枷で拘束され、寝かされている少年 年端もいかない子供だ

仮面で洗脳しても戦力になるとはとても思えなかった


シャメル「じゃ、オレたちは戻るぜ ドミグラも、お前たちが時空を歪ませてくれたお陰で復活したことだしな」スタスタ



魔神ドミグラ…彼らにとってはこの世の全てを手に入れるという目的に不可欠な存在


だからこそ魔導師である彼らはこちらの目的であるサイヤ人を奪ってくるかわりに、時空を歪ませ魔神ドミグラを復活させるよう話を持ちかけてきたのだった


トワ「…………」


2人が部屋から出ていったあと

今度は近くで顔を覗き込む 本当に10歳そこいらの子供だ 

目のまわりが少しだけ濡れていた 泣いたのだろうか そんなことを考える必要はない


この少年は言わば操り人形 洗脳し戦力にするだけに過ぎない捨て駒

何故泣いていたのか そんなことを考える必要はないのにどうして考えてしまったのか


トワ「…研究のしすぎね…」


疲れているのだろう この少年を地下に運んで明日からゆっくりと研究することにしよう


トワ「よいしょ…」


少年を持ち上げる 軽い こんなに軽くてよく今まで戦えたものだ


トワはまたも考える必要のないことを考えた








ビート「…っ」


目を覚ます 周りを見渡すが暗くてよく見えない

ここは部屋だろうか だがドア以外にあるものはない、手足も自由に動かせない

 

何故自分はこんなところにいるのか 記憶を辿って思い返してみる


ビート「っ…!?」


思い出した 思い出したくはなかったが刻み込まれた記憶があの瞬間を鮮明に写し始めた


そうだ 自分は裏切られたのだ

信頼していた仲間に


彼らに裏切られた瞬間、目の前が真っ暗になったのが最後の記憶として残っている


ということはここは暗黒魔界だろうか

とりあえず自分が拘束され監禁されていることはすぐに理解できた


これからどうなるのだろう…

殺されるのだろうか、それともサイヤパワーを悪いことに使われるのだろうか


ビート「っ…うっ…」


ふと静かに涙が溢れてきた 殺されることへの恐怖ではない

結局自分は何も出来なかった 希望になることも世界を救うことも


そう思うとフローズたちや、死んだノートたちへの想いから自分を呵責せずにはいられなかった


何もかも消耗しきったビートはそのまま安らぐことのない眠りについたのだった




トワ「………」ズズ…


朝のコーヒーは自分にとって一日が始まったことを告げてくれる、だから毎朝欠かさず飲んでいる


まだ頭は冴えてこないがじきに戻るだろう

今日からあの少年の研究だ


トワ「これと…あとこれね」


少年の食事を用意する 四分割されたプレートに最低限の栄養だけが取れる粗末な食事


客人をもてなすわけではないのだから当然と言えば当然だ


それを自分の研究室の地下に運んでいく



ピピッ ウィーン



ドアのロックを解除し中へ入る 少年は横になって寝ていた


ビート「……」スゥ…スゥ…


自分が入ってきたことにも気付いていない 聞こえるのは微かな寝息だけ


トワ「………」カチャ


プレートを床に置き、ふと少年の顔を見る


まだ目のまわりが濡れている あれからまた泣いたのだろうか


そんなことを考えながら、トワは部屋をあとにした




トワ「………」カタカタカタ


自分の役目は研究だ 歴史を改変することで得ることが出来る魂のエネルギー「キリ」


それをミラに注ぎ込みミラを最強の戦士に作り上げる、最近の自分の研究はほとんどそれだった


他には自分の魔術を注ぎ込み相手を洗脳することが出来る仮面の研究、今日からは主にこの研究をしていくことになる


暗黒魔界の王であり兄でもあるダーブラのために自分が出来ることは、暗黒魔界復活の為、キリを集めミラを最強の戦士にすること


その力を使い、他の世界を支配すること それがダーブラの望みなら妹である自分の望みでもある


いつからかトワはそう考えるようになっていた


脅威であったサイヤ人はこうしてタイムパトロールから奪い、残りはドラゴンボールだけ

それで暗黒魔界は絶対の存在になれる


トワ「あともう少しで…お兄様の夢が叶う…」


ならばドラゴンボールを奪うためにもこの少年を戦力にしなくてはならない


この日からトワの研究は始まった









ビート「………ん…」ムクッ


どれくらい寝ていたのだろうか ゆっくりと体を起こす


ビート「………」


心も体もひどい倦怠感に襲われていた 周りを見渡すと食事らしきものが置いてあることに気付く


こんなときに食欲なんてあるわけない 食欲どころか生きることへの希望さえ無くしそうになっているのに

こんな状況で食事をしても喉を通るわけがない


ビート「…ノート」


とても小さな声で呟いた 大切な仲間の名前を 


自分を庇い希望を託して死んでいった仲間のことを


ビート「………」ゴロン


再び横になる 眠くもないが無理やり瞼を閉じる

もう何も考えたくなかった

いっそのこと早く殺して欲しかった


ビート「……オレは…」


いつからだろう こんな風に考えるようになったのは

そんなことを考えながらビートは再び眠りについた









トワ「…やっと出来たわ」


あれから作業を続けているといつの間にかもう夜が更けていた

別に珍しいことでもない よくあることだ


トワ「…………」ズズ…


コーヒーを飲み小休憩をとる 終わったと思うと途端に疲れが襲ってくるのだから不思議なものだ


そういえばお腹も空いてきた 今日はまだ何も食べていないことに気が付く


そのことでさらに気づく あの少年はどうしているのだろうか


トワ「…そんなこともうどうでもいいわよ」


思考を振り払うかのようにぼそりと呟き、仮面を手に取り地下へと足を運ぶ


ビート「………」スゥ…スゥ…


彼は変わらず静かに寝息を立てていた 食事にも手を付けた様子はない


トワ「…子供ね…」ハァ…


小さく溜め息をつきながら仮面を顔に近付ける


今までのどの仮面よりも強力な魔力を与えたのだ、こんな子供でもきっと戦力になるだろう


しかしその考えはすぐに消えた


トワ「…!? つかない…!?」


仮面が少年の顔につけられない 何度試してもだ


この仮面は顔につけさえすれば、破壊されない限り半永久的に装着者の心を洗脳する


そう、つけさえすれば


トワ「どうなっているの…」


トワは暗黒魔界のどの闇よりも深く大きな溜め息をついた








トワ「(…いったいどうなっているの…仮面がつけられないなんて初めてだわ…)」


部屋に戻って考える もちろん仮面がつけられなかった原因についてだ


トワ「(仮面の洗脳が効かない条件…心を持たないもの…たしかそうだったはず…)」


心を持たないものに洗脳は効かない よく考えてみれば当たり前のことだろう


例えばこの仮面を人形につけても効かない

心がないもの、考えることの出来ないものに洗脳が効かないのは当然のことだ


トワ「(何かしらの理由で心を閉ざしてしまっていて、洗脳する余地がない…そうとしか考えられないわ…)」ハァ…


本日何度目の溜め息だろう

すぐに洗脳出来ると思っていただけにトワの驚きは大きかった


トワ「…弱みどころか、心自体が全てを拒絶してしまっていては洗脳なんて無理な話ね…」


とにかく心に隙を作れば洗脳出来る ではそのためには何をすればいいのか

トワは天才的な頭脳で考え始める


トワ「……………」


ものの数秒で一つの考えが頭に浮かぶ


トワ「…心を失った原因を探るしかないわね…」




トワ「…よし…これでいいわ……」


あの後トワはすぐに少年の記憶を見るための準備に取り掛かかっていた


いま少年の頭には特殊な装置が着けられている


トワ「これでこの子の記憶を見て原因を見つける…洗脳はそれからね…」


洗脳装置の応用で作られた、記憶を見ることの出来る特殊装置


記憶を除く…その行為にトワは少し後ろめたさを感じた


トワ「…仕方のないことよ…」


小さく呟き、そう…自分に言い聞かせた




そして、トワは少年の記憶を見始めた












『セルにフリーザ…どんな奴が相手だっておれは負けない!』



『男の子も女の子も関係ない…キミは強いよノート…でもオレは、諦めない!!!』



『オレは…オレの仲間の力を信じる…!!!』



『…そう…最後まで、信じる仲間とバトルしたいんだ!!』



『「最強の…!」10倍…!か…め…は…め…波ーーーーー!!!』



『いけっ!!!いけぇーーー!!!』



『フローズが強いのはカードの大切さを知ってるから…』



『そして、誰よりも「ドラゴンボールヒーローズ」が大好きだからだ!!!』



『オレ絶対強くなるから!そしたらまたバトルしようぜ!!』



『どんな仲間とも友情度をアップするんだ!!』



『次がファイナルラウンドだ!決着つけるぞ!!!』



『またやろうぜエリト!』



『誰かが…救ってくれた未来…』



『うん…もうすぐ…もうすぐ何かつかめる気がするんだ』



『かんちがいするなよニム オレの目的はお前を助けることだ…』



『だからお前が目を覚ますのであれば…オレはお前を倒す!』



『悪いが一瞬で終わらせる…勝負だ!!』



『戻ってこい!!ニム!!!』



『その大切な仲間の存在を強く意識して…仲間を守るため心から強くなりたいと願ったときに…』



『人は…強い自分へと…覚醒する!!!』



『ノート達が危ない!!!』



『オレには…できない…』



『まともに闘うことさえ…させてもらえなかったんだ…』



『オレは…誰も守れない…誰も守れないんだ…!!!』



『オレ達は1人で闘っているんじゃない いつだってどんな時だって仲間と一緒に闘う…』



『それがドラゴンボールヒーローズなんだ!!!』



『世界を救うのはオレたちドラゴンボールヒーローズだ!!!!!』





『オレは…必ず勝つ!』



『みんなの想い…くらえーーーっ!!!』



『そうだ…オレは1人じゃない…オレたちは…ドラゴンボールヒーローズなんだ!!』



『ノート…オレだって…オレだって…ノートに死んでほしくないよ!!!』



『お願いだよ!!死なないでくれよ!!ノート!!!』



『絶対に許さないぞ…お前たち』



『よくも…よくも…ノートを…オレの大切な仲間を!!!』



『ノート…ごめん オレは…みんなの希望に…なれなかったよ…』



『でも…オレも一緒に逝くよ ノート…』



『(オレに…力が無いから…だからノートを守れなかった…!)』



『(力があれば…オレがもっと強くなれば!)』



『消してやる!!』



『オレが強くなって…あいつらを…』



『オレが…この手で!!!』



『……オレは…もっと強くならないといけないんだ…』



『オレも戦う オレが暗黒魔界を…必ず倒す!』



『なら強くなるしかないよ』



『もう大切なものを失わないように…』



『オレはもっと強くならないといけないんだ!頼むよ!ゼン』



『いや…カギューだと思って 怒られちゃうからさ、ちゃんと休めって』



『でもオレには休んでるヒマなんてないよ オレはもっと強くならないといけないんだ』



『……力がなければ…大切なものを守れない そう気づいたからだよ』



『オレは…消さなきゃいけないと思った あんなことを平気でするやつらを許しちゃおけないんだ…!』



『ああ…シャメルもきっと出来るよ』



『(いや…オレは必ず強くなっているはずだ!)』



『…見ててよ…ノート』



『……フローズ、ゼン…手を出さないでくれ』



『…いや、オレが1人で戦った方が勝てる』



『さあ来い お前たちはオレの手で―――』



『―――この世から消してやる』



『カブラたちの仇…くらえーっ!!!』



『もうお前は…絶対に…絶対に許さないぞ!!!!』



『お前は…必ず殺す…!』



『オレに力を貸してくれ…ノート…!!!』



『お前のような…仲間を捨て駒に使うようなやつに…オレは絶対に負けてたまるか!!!』



『ノートは…オレの…オレの…!』



『大切な仲間なんだーーっ!!!』



『そうだ…一人でだって戦えるじゃないか…!』



『…オレ一人でやるって言っただろ!』



『それが余計なんだよ!!』



『あと…もう少し…もう少しで…!』



『…違う…オレ一人で戦ったほうが…』



『…………信じる……仲間を…』



『ちゃんと信じてるよ…フローズ…』



『フローズだけじゃない…カギューも…ゼンも…シャメルも…みんな…』



『…でも……オレは……戦うときだけは…』



『戦うときだけは……一人で…戦いたいんだ……』



『そうした方が………オレは…』



『な…なんで…なんでローラなんだよ フェン』



『…オレは…オレには…一緒に戦ってきた仲間を疑うなんて…』



『オレが…ローラと…仲間と戦う…?』



『……あの時…ローラの声が聞こえたんだ…『やめて』って…』



『それを聞いたら…体が動かなくなっちまったんだ…』



『(ノートの言った通り…本当にオレは…みんなの希望に…)』



『(でも…オレには…あるのか?みんなの希望にふさわしい力と…覚悟が…)』



『(オレのこの戦いは…始まったばかりなんだ…)』



『……仲間を信じるとか…力とか…希望とか…』



『オレには…分からないんだ…』



『ただ…仲間のことは信じたいって思ってる…あいつらのことも…』



『じゃあオレはどうしてなれないんだ…?超サイヤ人ゴッドに…』



『っ!?なんで!?何が足りないんだ?ゴッドになるためならオレはなんだってする!オレはその力で暗黒魔界に復讐しないといけないんだ!!』



『(憎しみを捨てる…か)』



『(でも…ノートが殺された時のことを思い出すと…どうしても許せないって思うんだ…憎しみが湧き上がってしまうんだ…ソラ)』



『(もう仲間を疑うなんてことはしたくないんだ…)』



『(そんな…!そんな…!本当にシャメルたちまで…!)』



『(モルネー…シャメル…信じていたのに…)』



『(仲間を信じようなんて…そんなの…意味無かった…オレの自己満足だったんだ…)』



『(もうオレは…誰も…信じられない…もう…オレは…)』










トワ「……もうこんな時間…」


少年の記憶を見終えてからというもの、トワは夜遅くまで研究を続けていたが、思うように捗らなかった


トワ「………」カチャカチャ


寝る前に温かい飲み物を用意するが、その間ですらもトワは上の空だった


トワ「(…あの子の記憶を見てから…私、おかしいわ…)」


心ここにあらず

今の彼女にはこれ以上ないほど適切な表現だろう


何故こんな風に上の空なのか 考えてみる


彼の記憶があまりにも凄惨だったから?


年端のいかない彼の壮絶な体験に同情したから?




…違う





トワ「…憎しみに支配された心…」


トワ「…あの子も……」



トワはある想いを胸に秘め、迷うことなく地下室へと向かった








夢を見ていた気がする とても長い夢を


実はノートが殺されたときからずっとある夢を見続けてきた


仲間が殺される夢を


自分は何も出来ずに無惨に仲間が殺されてしまう夢を


だからあの日からビートは、早朝から深夜にかけて修行をするなど、極力睡眠を避けていた


…カギューにはもっと休むよう言われていたが






しかし、今回はその夢とは違う夢を見た


だがあまりいい夢ではなかった


今までのことを思い返すような、そんな夢


フローズとの戦い、邪悪龍との戦い、ゲノムたちとの戦い


暗黒魔界との初めての戦い、トキトキの森での戦い、ローラとの戦い




…シャメルたちの裏切り




そして…ノートの最後




あの時から自分は変わったのだ


あの時から自分は憎しみを持って戦うようになった


仲間を…信頼しなくなっていった





フローズ『…ビート、お前オレと最初に戦った時に、自分の信じる仲間とバトルしたい、って言って最後までデッキチェンジをしなかったよな』


フローズ『なんて考えが甘いやつだろうと思ったが、それと同時にどこか清々しかった』


フローズ『あの時のお前の顔が忘れられないよ』



トキトキの森の戦いの後で


そう…フローズに言われたことを思い出した









ビート「…………」


気がついたときにはもう目が覚めていた


体中が汗だくで気持ち悪い

悪寒からくる嫌な汗で濡れた服が体にへばりつく 悪い夢を見たときはいつもこうだ


ビート「(…もう勘弁してくれ…)」


この期に及んでもまだ運命は自分を苦しみから解放してくれないらしい


ビート「(……何もする気が起きない…もう何も…)」


疲労も限界だ だから寝るしかない

しかし寝れば悪夢に襲われる 決して自分を解放してはくれない


ビート「(…殺すなり、洗脳するなり、早く苦しみから解放してくれよ…オレはもう負けたんだ…)」


いっそのこと自決でもしようと思ったが手と足が拘束されているため無理だった


生き延びているのではなく生かされているこの状況にもはや涙すら出てこない その時だった



ウィーン



ドアが開き、誰かが部屋に入ってきた



開いたドアからの光で一瞬目が眩むが、すぐにビートの視線は入ってきた人影に釘付けになった



透き通るかのような白い髪に青い肌


何よりとても綺麗な顔立ちをしているその女性は


トワ「…………」


とても哀しそうな顔をしていた…少なくともビートにはそう見えた





白衣の隙間から見えた特徴的な赤色の服を纏っているその女性が、暗黒魔界の人間だということはすぐに分かった


ということはここはやはり暗黒魔界か

白衣を着ているということは科学者に違いない



死と隣り合わせの自分にしては聡明だった



ビート「(…一体何をしにきたんだ…?)」


そんなことを考えたがすぐに白々しいと思った


ビート「(殺されるのか…)」


この戦いが始まったときから覚悟していたことだが、いざそうなるとやはり死への恐怖が自分の中に広がり始めていく


もし…死んだあとノートに会えるのなら

ノートは死んだ自分のことをどう思うのだろうか


希望を託してくれたノートに合わせる顔がない


そんなことが頭に浮かんだ



ビート「(……ノート…)」



その時、手足の枷が突然外れた


ビート「…!?」


女性が初めて口を開く


トワ「歩けるようなら……付いて来て」





ビート「………」


トワ「………」


いったいこの女性は何を考えているのか

これから殺すなり洗脳するなりにしろ全ての拘束を解く必要はないだろう


拘束が解かれたので逃げ出そうと思えば出来るだろうが、ここは敵の本拠地だ

時の広場へ戻る手立てもないのに暴れても余計脱出が困難になるだけだろう


何よりさっきの彼女の顔が忘れられなかった



ビート「(……この人は…いったい…)」


大人しく彼女の後ろに付いて行き階段を上る どうやら自分は地下室にいたようだ


トワ「入っていいわ」


開けられたドアから部屋に入る 中には見たこともない機械や薬品が並んでいる 研究室のようだ

やはりこの女性は科学者らしい


その広い部屋の片隅にある部屋に連れて行かれた


中にはベッドと机と…とにかくいたって普通の部屋だった


トワ「…今日からこの部屋にいてもらうわ」


トワ「食事は私が持ってくるから、その間に体を洗ってきてもらうわ 着替えはそこに置いてあるからそれを使ってもらうわよ」


トワ「バスルームは出て左だから、それじゃあね」


彼女はそう言って部屋を出ていってしまった


ビート「…は?」


ビート「なんだそれ…オレを拘束もしないで…」


ビート「何を…考えてるんだ…あの人…」


疑問に思うことなんて山ほどあったが、考えたところで答えが出て来るわけでもない


ビート「…体を洗ってこいとか言ってたな…」


体中が嫌な汗でぐっしょりだ とりあえず言われた通り、体を洗ってくることにした





シャアアアアア



ビート「ん…」


温かいシャワーで体中の汚れを流す 


シャワーを浴びながら考える あの女性のことを


ビート「(…オレを洗脳するんじゃないのか?)」


ビート「(なのに…なんで…オレにこんなことを…?)」


ビート「(…オレを見たときの…あの哀しそうな顔…)」


ビート「(…なんで……あんな顔を…)」


体の汚れは流せたが、心は晴れないままだった






シャワーを浴び終え部屋に戻る途中、女性が部屋から出てきた


顔を合わせるのは気まずかったので、やり過ごそうとしたが女性の方が自分に気づいてしまった


ビート「(…まいったな)」


トワ「…汗は流せた?」


ビート「…ああ」


トワ「食事は置いておいたから …そういえばまだ名前を言ってなかったわね 私はトワ」


トワ「…あなたは?」


ビート「(……なんでそんなこと聞くんだよ…別に関係ないだろ)」


ビート「…………」


トワ「……言いたくないならいいわ」


彼女はそのまま研究室へ入っていった


ビート「(……オレから何か情報を引き出すつもりなのか?)」


ビート「(…それとももし本当にただ聞いているだけだったら…)」


ビート「(……いや…相手は暗黒魔界の科学者だ…罪悪感なんて感じる必要ない…そうだろ…)」


ビート「(…あいつらは…ノートの仇なんだから…)」




部屋に入ると女性が言っていた通り机の上に食事が置かれていた


地下室のときと違ってとてもおいしそうな料理がプレートの上に並んでいる

あの女性が作ったのだろうか


ビート「……何が入っているか分からないしな…食欲も無いし…」


料理に手を付けることはしなかった とするとやることはもう一つしかない


しかし寝るのは夢を見るからという理由でしたくなかったので、椅子に座り休むことにした


ビート「(フローズやカギューたちはどうしてるんだろう…)」


ビート「(…オレが死んだら悲しむかな…)」


フローズとカギュー、ドラゴンボールヒーローズの中で共に生き残った二人 特別な仲間だ


しかしフローズからは仲間を信頼しなくなったと言われ、カギューとはあまり話すこともなくなった


そうなった理由は…自分が一番よく分かっていた


ビート「(………………)」









トワ「……………」ペラッ


あれからトワは研究書を読み耽っていた


トワ「…もうこんな時間…最近多いわね…」


昔からトワは読書や研究に熱中し時間を忘れることが多かった

それは読書や研究が好きだったからなのだが、好きになったのにはある理由があった


トワ「(…………)」


その理由を思い出すがすぐに頭から振り払った


それと同時に別のことを一つ思い出した


トワ「(…そういえば食事のプレートを回収するのを忘れてたわね…)」




コンコン


トワ「…入るわよ」ガチャ


一応断りをいれて部屋に入る


すると少年は机に突っ伏して寝ていた


また食事には手を付けた様子がなかった


トワ「……………」


そのことに少し、ほんの少し心が痛む


プレートを手に取り持っていこうとする その時だった


ビート「…ノート…」


トワ「…?」


微かに聞こえた声に反応して反射的に振り返る その先にあった光景にトワは思わず声を上げた


トワ「…え…!?」


ビート「…っ…うぅ…」


寝ている少年の瞼が微かに濡れていた まるで初めてここに来たときのように


トワ「(…泣いているの…?)」


嗚咽を漏らしながら寝ているその少年は、何かにすがる様に手を伸ばしている


彼が年端もいかない少年の身でありながら壮絶な経験をしたことは、彼の記憶を見たトワには分かっていた

もしかしたらそのときの夢を見ているのかもしれない


トワ「…そのときから…この子は憎しみを持つようになったのね…」


持っていたプレートを机に置き少年の近くに座る


ビート「…ぅぅ…っ…」


トワ「(…やっぱりどう見ても普通の子供ね…)」


たとえ洗脳したとしてもこの少年は戦力にならない そうトワは確信した


それと同時に胸に秘めた想いが確固たるものとなった


トワ「(…どうすればいいの…)」


起こすのはなんだか気が引ける かといってこのまま寝かせていては風邪を引いてしまうだろう


ならせめて少しでもこの少年を安心させてあげよう そう思ったトワは少年の頭を優しく撫で始めた


トワ「………」ナデナデ


ビート「…っ……」


トワ「(こんなことをするなんて…私は…どうしたのかしら…)」ナデナデ


人の頭を撫でるなんて生まれて初めてだ その割には優しく撫でられている気がする

これが母性本能というものだろうか 憎しみに支配されている自分がこんなことをすることになるなんて、少し前までは考えられなかった


トワ「でも…この子なら…まだ…」ナデナデ


ビート「………んぅ…」


トワが何かを言いかけたところで少年が目を覚ました 頭だけを上げて寝ぼけ眼でこちらを見ている


トワは思わず少年と目があった








いつの間にか寝てしまった そしてまたあの夢を見た


仲間が殺され、自分の無力さを痛感する夢


しかし今回の夢は違った 途中からとても安心する感覚が頭に広がっていくのを感じた


ビート「(…暖かくて…安心する…)」


優しさを全身で感じた気がした いったい誰なのか 頭を無理やり起こして撫でているであろう人物の方へ目を向ける


そして…あの女性と目があった






ビート「………」


トワ「………」


二人ともしばらくの間動かなかった

自分も訳が分からず、目も一瞬で覚めてしまった


トワ「………」スクッ


先に動いたのは女性だった 自分の頭から手を離し無言で立ち上がり、プレートを手に持ち部屋から出ていった


ビート「…なんで…あの人が…」


一人残されたビートは困惑していた だが同時にまだ頭に残っている感覚のことを思い出す


とても暖かくて…そして何よりも優しかった


暖かい感覚が心に広がっていくなんて久しぶりのことだった


ここ最近自分の心に広がっていたのは憎しみだけだった だからこの感覚はビートにとってとても安心するものであった


ビート「…あの人の手…暖かったな…」


冷え切った自分の心が少しだけ暖かくなった気がした







トワ「(……おかしな事をしてしまったわね…)」


プレートを片付け寝る準備をしながら先程のことを思い出す


あの少年からしてみれば不思議で仕方ないだろう 敵である自分にあんなことをされたのだから


そもそも拘束もされずにいること自体おかしいと思っているはずだ


別にあの少年にどう思われようと構わないが、なんとなく気まずかった


トワ「(…でも…もう決めたことだから………)」


トワは再び決意を胸にして眠りについた






―――翌朝



ビート「…ふわ…」


あの後ベッドに入ったのはいいが夢を見るのを避けていたことと考え事でろくに眠れなかった


まともに寝ていないわけなのだから当然眠気はとれない

ベッドから起き上がってストレッチなどをしてみるがふらついてうまく歩けない


するとドアをノックする音が聞こえた


トワ「食事よ」


そう言いドアを開け女性が入ってきた 朝食を持ってきてくれたようだ


昨日と同じでとてもおいしそうな料理 だが自分の心にある暗黒魔界への憎しみが手を付けることを許さなかった


ふいに女性は口を開いた


トワ「…隈がひどいわ…ちゃんと寝ているの?」


トワ「あと全然食事にも手を付けていないけど、そろそろ食べないと体を壊すわよ」


こちらを案ずる言葉 しかしビートはその好意を素直に受け取れなかった


ビート「…何が狙いだよ」


トワ「…狙い?」


ビート「オレから何か情報を引き出すつもりなら無駄だぞ お前たちのせいでオレの仲間は死んだんだ」 


ビート「そんな奴らにこれ以上仲間を殺されてたまるか オレを洗脳するなり殺すなり好きにしろよ」


トワ「…私はあなたにそんなことはしないわ」


ビート「…は?」


トワ「…食事…ここに置いておくから」カチャ


そう言い彼女は部屋を出ていった


ビート「何言ってるんだ…?じゃあなんでオレをここに…」


ビート「(…いや…そんなことよりも…)」


さっきの自分を気に掛けてくれた言葉 あれは本当の好意で掛けてくれたものだったのだろうか


もしそうだとしたら…


ビート「(…分かんないよ…だってあの人は…ノートの仇だろ…)」


ビート「(…でも…もしそうだとしたら…あんなことを言った自分が嫌になる…)」


昨日の夜のことを思い出す あの優しい感触を

ひょっとしたら思いの外優しい人なのだろうか


思えばあの女性に対して悪い印象はない

食事を持ってきてくれるし、体を洗うよう着替えまで用意してくれたり、自分の体を案じる言葉を掛けてくれたり


でもその好意を素直に受け取れない自分がいた


その自分はどこから来ているのだろうか そんなの決まっている


ビート「オレの…暗黒魔界への憎しみの心…」


暗黒魔界の住人…そうだと思うだけでノートたちが殺されたことを思い出してしまう


だから彼女の好意に対してもあんなことを言ってしまったのだろう 


もしかしたらあの人のことを傷つけてしまったかもしれない そう思うと自分がたまらなく嫌になってくる 


自分もやってることはミラたちと同じ…人を傷つけることをしている そうさせているのは自分の中にある憎しみの心だ


ビート「…ソラの言ったとおりだ…こんな心じゃ超サイヤ人ゴッドになれるはずないよな…」


ビート「…でもオレには…どうしたら憎しみを捨てられるか分からない…」


ビート「…分からないんだ…」








トワ「(…そろそろ限界かしら)」


トワ「(…心の中に暗黒魔界への憎しみがある限り、私が何をやっても無駄ね…)」


トワ「(記憶を見た限りあの子の心境を一番理解してくれているのは彼しかいない…)」


トワ「(彼ならあの子から憎しみを取り除いてくれるかもしれない…)」


トワ「(…でも精神リンクを使うには今のあの子の心では無理だわ)」


精神リンク…他者の心同士を繋ぐというトワが開発したシステムだ

トワはこのシステムを使いビートとある人物の精神を繋げようとしていた


トワ「(あの子がしばらくの間憎しみから別のことに意識を向けてくれないと無理ね…)」


トワ「(あと…私に出来ることは……)」


トワ「(……………)」




あの後、昼も夜も少年は食事には手を付けなかった 日に日にやつれていきかなり危険な状態の少年にトワは精神リンクをさせるための準備を進めていた


トワ「…これであとはあの子を寝かせるだけね」


しかし彼はろくに寝てもいない おそらく嫌な夢を見ることを避けているのだろうが、精神リンクは安定した状態でないと出来ないので、睡眠中にするのが最適だった


トワ「…とにかく様子を確認しないと…」








コンコン


トワ「…入るわよ」ガチャ


またあの人が来た もう何度目だろう 

今日は頻繁にこの部屋に来ている気がする


トワ「…………」


黙ってこっちを見ている そして思い付いたように自分の方に歩いてきた


トワ「…食事もそうだけど…そろそろ寝ないとあなた本当に危険よ」


…確かにそうだろう もう何日も何も口にしていないしほとんど睡眠もとっていない


ビート「(寝るなんて無理だ…またあの夢を見ると思うと…)」


ビート「(…でも……)」


この人があの時のように頭を撫でてくれれば寝られるかもしれない 

誰かの優しさに触れればひょっとしたら安心して眠りにつけるかもしれない


ビート「(…そんなこと言えるわけない…)」


でももし言ったらどうしてくれるだろうか

案外すんなりしてもらえるかもしれない 何故だかそう思える気がした


自分より年上の女性だからだろうか 母性本能があるように思えたからだろうか それとも敵ではあるが優しい一面を見たからだろうか


トワ「…ねぇ」


ビート「………っ…」


彼女は変わらず心配そうにこっちを見ている

分からない、本当に分からない 


こんなことをする彼女のことも、憎しみに縛られて固定概念から抜け出せない自分のことも


耐えきれなくなったビートはついに感情を露わにした



ビート「っ…なんでそんなこと言うんだよ そんなこと、あなたに関係ないだろ」


トワ「…ようやくまともに口を聞いてくれたわね」


トワ「…関係あるわ…とってもね…」


ビート「え…?それってどうい―――んむっ」


トワ「ん…」




ビート「(……え…?…今…何が…?)」


ビート「(暖かくて柔らかいものが唇に当たってて…息が…苦しい…)」


ビート「(…何よりあの人の顔がすぐ近くにある…)」


ビート「(…こ…これって…!!?)」



トワ「ん……ぷはっ…」


ビート「…うぁ……」



ビート「な…なにを…」


トワ「…あなたが感情を見せてくれたから…私も感情のままに動いただけよ」


ビート「…なんだよ…それ…」


トワ「…また後で話してあげるわ とりあえず今日はもう寝なさい」


ビート「…っ…」


トワ「…どうしたの?」


ビート「っ…寝られないんだ…仲間が殺される夢を…見てしまうから…」


トワ「……!」


トワ「…何故それを私に話したの?」


ビート「…それは…」


ビート「………て…」


ビート「………っ…」


トワ「え?何?聞こえないわ」


ビート「…もう一度頭を…っ…な…撫でて欲しいんだ…」


ビート「その…あの時すごく…安心したから…」


トワ「…そう…分かったわ」


そう言うとトワは動けない自分を優しくベッドの上に寝かせてくれた


トワ「寝付けるまでここにいてあげるから」


ビート「ビート」


トワ「…え?」


ビート「…オレの名前…ビート」


トワ「…そう」


トワ「じゃあほら、毛布を被って、ビート」


ビート「…うん……」


ビート「…トワ」


言われたとおりに毛布を被ると頭の上に優しい感触が広がる


トワ「………」ナデナデ


ビート「…ひょっとして…トワって優しい人…?」


トワ「……あなたはどう思ってくれてるの?」ナデナデ


ビート「…っ…もういい」


トワ「…ふふ」ナデナデ


ビート「…っ………」


ビート「…………ねぇ」


トワ「…なに?」ナデナデ


ビート「…おやすみ」


トワ「…おやすみ…」ナデナデ












ビート「…ここは」


夢のなかだろうか 周りには何もない白い空間が広がっている


ビート「…夢?それにしてはやけに意識がはっきりしてるし…」


すると不意に後ろに気配を感じた


ビート「っ!」バッ


ビート「!!!」






カギュー「…久しぶりですね、ビートくん」






ビート「か…カギュー?なんでここに…?」


ビート「い…いや、それよりいったいここは…」


カギュー「…今日はそんなことを話に来たんじゃないんです」


ビート「…え?」


カギュー「…時間が限られているようですから」


ビート「……時間…?」


カギュー「ビートくん…キミとこんな風に話すのは初めてですね」


ビート「うん…そうだね」


カギュー「…キミはどんな時も決してあきらめず…仲間を信頼し戦っていた」


カギュー「でもノートさんたちが殺されたときからキミは変わった」


カギュー「ひたすら力を追い求めるようになって…」


カギュー「…仲間を信頼しなくなった…フローズくんやソラさんがそう言っていました」


ビート「…………」


カギュー「それは…キミの中にある憎しみの心がそうさせていると…そう思っていました」


カギュー「キミは二度と仲間を信頼出来なくなった…と」


カギュー「…でも…私はそうは思いませんでしたよ」


ビート「え…?」


カギュー「キミが一人で戦うことにこだわったのは仲間を信頼していなかったからじゃない…」





カギュー「…もう二度と仲間を失いたくなかったからですよね?」


ビート「…!!」



カギュー「キミは仲間と一緒に戦えばまたあの時と同じようになるかもしれないと思った」


カギュー「誰かがキミを庇って死んでしまうと…」


カギュー「だからキミは一人で戦うようになった 暗黒魔界との戦いに勝利しても…仲間を死なせたら負けだと思ったから」



『…いや、オレが1人で戦った方が勝てる』



カギュー「本当はそう言いたかったんじゃないですか?」



『あと…もう少し…もう少しで…!ゼンが…死ぬかもしれなかった…!』



『…違う…オレ一人で戦ったほうが…仲間を失わなずに済むんだ…』



カギュー「本当は誰よりも私たちのことを大切にしてくれてたんですよね?」



カギュー「キミは仲間との信頼よりも…仲間を失うことの方が怖かったから…」 



カギュー「力を手に入れて強くなろうとしたのも、力は仲間を守るためにあるということを誰よりも分かっていたから…」



カギュー「憎しみと怒りで本当の自分を見失っていただけで、ビートくんは何も変わってなかったんです」



ビート「…オレが…?」


カギュー「…気付いてあげられなくてすいません…ビートくん」


ビート「…違う…オレが…」


カギュー「でも私は…私たちは信じてますよ、ビートくんのことを」


カギュー「…だからビートくんも私たちを信じてください」


ビート「信じる…」


カギュー「私は…もうビートくんに悲しい思いはして欲しくないんです だから私たちも、ビートくんを守れるくらい強くなりたいんです」


カギュー「…信じてくださいビートくん 私もビートくんも…もう悲しい思いをしないために…」


カギュー「裏切られても…裏切らないでください」


カギュー「戻ってきてください…ビートくん」



ビート「…カギュー…フローズ…」




ビート「…ノート…」













ビート「ん……」ムクッ


ビート「……夢?いや…」


ビート「…カギュー…」



コンコン



トワ「食事よ」ガチャ


トワ「あら、もう起きてたの」


ビート「うん…」


トワ「…よく眠れたの?」


ビート「うん」


トワ「そう…よかった」


トワは優しい笑みを浮かべていたが、笑い方が少し不自然に見えた


ビート「(…笑い慣れてないような…そんなふうに見える…)」


ビート「(それに…初めて会ったときのあの顔…)」


あの哀しそうな顔…何故あの時あんな顔をしていたのだろう


思えば自分はトワのことを何も知らなかった


暗黒魔界の科学者であることと…あと敵であるはずの自分に優しさを向けてくれること以外、何も知らない


ビート「…っ…!」


唐突に昨夜キスをされたことを思い出す 今頃になって顔が熱くなっていくのを感じた


やっぱりこの人は何考えてるのか分からない、ビートはおもいっきりそう思った


ビート「(…でも、分からないけど…優しかった気がする…)」


トワ「…ずっとこっちを見てどうしたの」


ビート「え?いや、なんでもない…」


トワ「…食べられる?」


おいしそうな朝食、昨日までは心が受け付けなかったが今日は食べられそうな気がした


ビート「…うん、食べるよ」


トワ「…! そう…」


トワ「…ゆっくりよく噛んで食べるのよ」


ビート「うん…いただきます」


ビート「」パクッ


ビート「………」モグモグ


おいしい、とてもおいしい 何日も食べていないからじゃない

とても暖かくて安心する味だった


トワ「…どう?」


ビート「すごく…おいしいよ」


トワ「…よかったわ」


ビート「」モグモグ


頬杖をついてこちらを見ているトワ 昨夜のことも相まってあまり目を合わせられなかった

顔が赤くなっているのもばれないよう、少し俯きながら食べていた


ビート「」ゴクゴク


ビート「ふぅ…ごちそうさま、トワ」


トワ「じゃあこれ洗ってくるわ 終わったらまた来るから」


ビート「うん、分かったよ」




ビート「…」ゴロン


トワが出ていったあとベッドの上で横になってカギューと話した時のことを思い出す


ビート「…あれってやっぱり夢だったのかな…それとも…」


昨日までの自分とは何かが違う気がする 言葉では表せないが、たしかに以前自分が持っていた感情を取り戻せている気がした


ビート「(…仲間を…信じる…大切な存在だからこそ…共に守りあう…)」


ビート「(…それがオレの本当にしたかったこと…)」



トワ「お待たせ」


ビート「…よいしょ」ムクッ


トワ「まだ寝足りないの?」


ビート「ううん、少し考えごとしてた」


トワ「温かい飲み物持ってきたわ、はい」


ビート「ああ、ありがとう」


トワ「………」ズズッ


ビート「………」ジーッ


とりあえず早く理由を聞こう ビートは話を切り出すタイミングをうかがっていた


トワ「…なに?」


ビート「いや!なんでもない…」ゴクッ


ビート「あちち!」


トワ「…大丈夫?」


ビート「あち…いてて…」


ビート「(うぅ…早いとこ話をしないと…)」


トワ「…さっきからどうしたのよ 何か変だわ」


ビート「いや、別になんでもないよ …ただ」


ビート「…昨日の質問の答えを聞きたくてさ」


トワ「…質問?」


ビート「トワが…優しい人なのか、っていう質問」


トワ「…………」


トワはカップを置き少し俯く


ビート「…答えてよ」


トワ「…私は…優しくなんかないわ…」


ビート「じゃあ…なんでこんなことを?」


ビート「敵のはずのオレに…」



トワ「…………」



トワ「………似てたから…」



ビート「…似てた?」




トワ「あなたが…昔の私と似てたから…」


ビート「…それってどういうこと?」


トワ「…心に憎しみを抱えてた」


ビート「!!!」


トワ「…今からちゃんと説明するわ」


トワは俯いたまま話をし始めた


トワ「…私…ダーブラの妹なの」


ビート「!? ダーブラの…!?」


ビート「(全然似てない…あのダーブラとトワが兄妹なんて…)」


トワ「…昔から私はずっと一人だったわ 兄が暗黒魔界の王ということに尻込みして、周りに誰も人がよってこなかった」


トワ「…私はその寂しい気持ちを研究に打ち込むことで紛らわせてきたの でも全然気持ちは晴れなかった…」


トワ「いつからか私は、その研究を歴史改変のために使うようになった ずっと一人だった私の研究が初めてお兄様の役に立った…私はそれが嬉しかったわ」


トワ「自分の研究を悪用する罪悪感よりも、お兄様に嫌われたくなかった…誰かに必要とされたかった…」


トワ「…私は長い時の中で、憎しみに支配されるようになったわ 私の心にあった寂しさがいつしか憎しみに変わっていったの」


トワ「…はじめはお兄様の役に立てて嬉しいと思っていたけど…次第に罪悪感に苛まれるようになったわ」


トワ「悪いことだと分かっているのに研究を悪用してしまう自分が嫌いになっていって…」


トワ「…生きた心地がしなかったわ」


トワ「そんなとき、あなたに出会った」


トワ「実は…私はあなたの記憶を見たの」


ビート「オレの記憶…?」


トワ「その中で、あなたが暗黒魔界に対しての激しい憎しみと怒りに心が支配されていることを知ったの」


ビート「…………」


トワ「憎しみは必ず人を傷つけるわ…」


トワ「あなたも…憎しみで行動した自分を嫌いになったりしなかった…?」


ビート「…!!」


ビート「…したよ」


トワ「…私は今のあなたならまだ戻れると思ったの いつか必ずそれすらも思わなくなる日が来るから……」


トワ「全てが見えたような気になって…憎しみで自分を想ってくれる人の姿が見えなくなっていって…」


トワ「世界の全てを憎むようになって…得たもの全てを壊すためにしか使わなくようになってしまうわ…」




トワ「そうなったら…あなたはもう戻れないから…」




トワ「あなたには…私のようになってほしくないの」




トワ「…絶対に憎しみに支配されてほしくないの」




ビート「…………」




トワ「…それが理由よ…」


一息ついてコーヒーを口にするトワ その顔は哀しさと寂しさそのものだった


ビート「…でも…オレがまだ憎しみを捨てられたかなんてわからないよ」


ビート「それが確信できるのは…超サイヤ人ゴッドになれた時だ」


トワ「…あなたはそれに変身するために憎しみを捨てるように言われたのよね…」


ビート「…うん…でも、新しい形態になるにはきっかけが必要なんだ」


ビート「憎しみを捨てたからってすぐになれるわけじゃない むしろスタートラインに立っただけなんだ」


ビート「でもオレ…憎しみを捨てられたのかな…」


トワ「…………」ギュッ…


ビート「…!? トワ…!?」


立ち上がった彼女はおもむろに自分のことを抱きしめてきた


あまりにも突然のことにビートは戸惑わずにはいられなかった


トワ「ごめんなさい…少しだけこうさせて」


ビート「う…うん…」


柔らかくて暖かい感触が全身を包み込む でもトワの心は変わらず冷え込んでいるようにビートには思えた 


トワ「…きっと出来るわ…あなたなら」


トワ「もう辛い思いはしなくていいように…私が…あなたから憎しみを取り去ってあげる……」


トワ「だから私のことを…信じて…」


ビート「…………トワ…」


ビート「……」ギュッ


ビートも優しく抱きしめ返す もう確信していた トワはとても優しい人だと


優しいけれど…とても寂しそうな人だと…















それからビートとトワは旧知のように打ち解けていった


ビートは超サイヤ人ゴッドになるためのきっかけを見つけるため修行し、トワは毎日彼の話相手になっていた


ビートはいつの間にか憎しみから解放され、トワも寂しさを感じることは少なくなっていった


いつしか二人はお互いにとってかけがえのない存在になっていた 傷の舐め合いだと言ってしまえばたしかにその通りだろう 


しかしビートはトワの優しさに触れ自分の優しさを取り戻し、トワもビートの暖かさに触れることで寂しさを忘れることが出来た


二人とも幸せだった





しかし二人は忘れていた…ビートは現実世界の人間で、トワは暗黒魔界の科学者であることを…






ダーブラ「…トワはいったい何をしている…?洗脳に手こずっているのか?」


ミラ「…オレが様子を見てこよう」






幸せは決して長くは続かないということを…











―――夜




トワ「お疲れ様、夕食よ」


ビート「ありがとう、トワ」


トワ「どう?何かつかめた?」


ビート「あともう少し…何か大切なことを忘れている気がするんだ」


ビート「強い自分になるための…きっかけを」


トワ「…そう」


トワ「食べ終わったらまた話相手になってくれる?」


ビート「うん、もちろんだよ」


トワ「ふふ…ありがとう」


ビート「(トワ…前よりは明るくなったけどまだ少し雰囲気が暗いな…感情を出すことがあまり無かったのかな)」


ビート「(…そういえばいまだになんでキスしたのかを聞いてないな…)」


ビート「(感情のままに動いたって言ってたけど…どういう意味だったんだろう…)」








夕食後は温かい物を飲みながら話をするのが二人の日課のようになっていた


ビート「………」ズズッ


トワ「………」ズズ…


ビート「…ねぇ」


トワ「…なに?」


ビート「あの時…なんであんなことしたの?」


トワ「あんなこと…?」


ビート「いや…その…き…キスしたこと…」


ビート「なんであんなことをしたのか、まだ聞いてなかったから」


トワ「…怒ってるの?」


ビート「ううん、ただ理由を知りたくて」


トワ「…私、誰かのために何かしてあげたい…そんな気持ちを持ったの初めてだったの」


トワ「あなたを助けてあげたい…そう思ったから…」


ビート「…それが理由?」


トワ「…………」


トワ「……多分違うわ」


ビート「え?」


トワ「なんであなたにキスしたのか…私にもわからないわ…」


トワ「本当はキスなんてする必要無かった…でもあの時…そうしたいって思ったの」


トワ「何故だかわからないけど…気がついたら体が動いてた…感情のままに…」


ビート「………」


トワ「…誰かとキスしたのは初めて?」


ビート「う…うん」


トワ「そう…私と同じね」


ビート「え?」


トワ「私も初めてだったから…よく分からなくて…その…ごめんなさい…」


ビート「いや…オレも初めてだったし…ちょっと驚いただけだから…」


トワ「…ここでもう一度する?」


ビート「え!?い、いや…!」


トワ「…冗談よ」クスッ


ビート「もう、からかわないでよ!」


トワ「ふふっ、飲み物片付けてくるわね」


トワはそう言って部屋を出ていった


ビートはベッドに横になると、さっきのことを考え始めた


ビート「(…少し残念な気がするのはなんでだろう…)」


ビート「(結局キスした理由も「わからない」だったし…)」


ビート「(感情のままに動いたって…その感情って何だったんだろう…)」


ビート「(オレはトワに…なんて言って欲しかったんだろう…)」



するとふいに部屋の外から声が聞こえた



ビート「…?」


トワの声の他にもう一つ声が聞こえた 音をたてないようにドアの前に向かい外の会話に耳を澄ます


ビート「…!!」




ビート「この声は…!」




聞き覚えのある声だった 同時にあの時のことを思い出す この戦いが始まった時のことを





ビート「ミラ…!!」







トワ「…何しに来たの?」


ミラ「……あのサイヤ人を洗脳するのにいつまでかかっている?」


トワ「………」


ミラ「ダーブラも待っているぞ」


トワ「…お兄様が?」


ミラ「そうだ、ダーブラも戦地に赴くと決めたのだからな」


ミラ「それで…洗脳は出来たのか?やつを戦力とし歴史改変を進め、キリを集めるのだろう」


トワ「…………」


ミラ「どうした…トワ」


トワ「……やめたわ」


ミラ「…なに?」


トワ「もうやめたわ…こんなこと…」


トワ「私はもう…歴史改変から手を引くわ あとはあなたとお兄様でしてちょうだい」


ミラ「なっ…!?」


ミラ「突然どういうつもりだ!トワ!」


トワ「別に…私の研究をあまりいいことに使われていないことに嫌気が差しただけよ」


ミラ「…俺たちを裏切るのか」


トワ「…裏切ってなんかいないわ…ただもうこの件からは手を引くと決めたの」


ミラ「同じことだ!」


トワ「ミラ…あなたも本当は無理をしてない?」


ミラ「…なんだと?」


トワ「あなたが憎しみに支配されているのなら…背負わせてしまった私の罪だわ」


トワ「ミラ…あなたももうこんなことはやめて お願い…」


ミラ「………どういうことだ…」


ミラ「いったい…誰がトワにこんなことを…」


ミラ「あのサイヤ人か?」


トワ「違うわ…私は自分の意思でこうなったの」


トワ「気づいたの…自分の過ちに…」


ミラ「トワ…お前が俺を造ったとき、オレを暗黒魔界の王として最強の存在にする…そう言っていたお前が…」


トワ「ミラ…憎しみや怒りでは最強にはなれないわ あなたも考えればわかるはずよ」


トワ「本当に人を強くするのは…多分別のものなのよ」


ミラ「……………」


ミラ「………許さない」


トワ「…ミラ?」


ミラ「お前は…俺を裏切ったんだ…絶対に…絶対に許さない!!」ドンッ


トワ「きゃっ!?」


ミラ「何が憎しみや怒りでは強くなれないだ、相手への憎悪、それこそが俺を強くする!!」


トワ「違うわ!わかってミラ!!」


ミラ「黙れ…!お前は俺の最強になりたいという想いを裏切ったんだ!」


ミラ「殺してやる…!」


トワ「…!」


ミラ「殺してやる!!」グワッ


トワ「―――っ!」グッ






いつか…こんな日が来るんじゃないかと思ってた


当たり前だ 過ちを認めたからといって、自分のしてきた罪が無くなるわけじゃない


むしろ殺されるくらいで丁度いい


ミラに自分の憎しみを背負わせたのは私なんだから


終われて良かった


優しさとぬくもりに触れて、死への恐怖を思い出してしまう前に…






でも…もし最後に願いが叶うなら…




もう少しだけあなたの側にいたかった



もう少しだけあなたと話していたかった



もう少しだけあなたのぬくもりに触れていたかった




…優しくなりたかった






ビート…












ミラ「き…貴様…!」


トワ「……?」パチッ




ビート「………」ググッ



ビート「…やめろ」



トワ「!!」


トワ「ビート…!」


ミラ「ちっ!」バッ


ミラ「やはりお前の仕業か…サイヤ人」


ビート「…………」


ミラ「俺はお前が一番許せない…最強の座も…トワも…何もかも俺から奪っていこうとするお前を…」


ミラ「俺は絶対に許さん!!!」



ビート「…最強…か…」



ビート「………やっと思い出したよ、トワ」



ビート「大切な…ことを…」




ビート「いいか、ミラ 本当に人を強くするのは、怒りでも憎しみでもない」



ミラ「…なんだと?」



ビート「そんなもので得た力は…すぐに感情と共に消えていくんだ」



ビート「本当に人が強い自分へと覚醒できるのに必要なのは…」



ビート「大切なものを守りたいと思う心だ」



トワ「……!」



ミラ「大切なもの…だと?」



ビート「さっきお前は、トワを傷付けようとしただろ?…だからオレは絶対に負けるわけにはいかないんだ」



ビート「…トワはオレの…大切な人だから!!!」





ド ギ ュ ン




シュアアアアア…




ミラ「な…何!?」



トワ「…赤髪…?」




超サイヤ人ゴッドビート「………」シュウウウ…




トワ「まさか…これが…」





トワ「超サイヤ人ゴッドなの…?」




SSGビート「…これが…超サイヤ人ゴッド…」




ミラ「(戦闘力が分からない…!いったいこいつに何が…!!)」



ミラ「があああっ!!!」



SSGビート「」シャッ



ミラ「な…!」



SSGビート「………」ガシッ



SSGビート「(…見える)」



SSGビート「(憎しみで全てが見えていたようになっていたあの時とは違う)」



SSGビート「(大切な人が…トワがちゃんと見える…)」



SSGビート「(オレを呼び戻してくれたトワの存在が…オレの中にある…!)」



SSGビート「(守るべき存在があることを…自覚できる!!!)」



ミラ「ち…離せ!!」


SSGビート「………」スッ…


ミラ「!!!」


SSGビート「…オレもお前と同じだったよ」


SSGビート「憎しみや怒りが自分を強くすると思ってた」


SSGビート「でも本当は…大切な存在のために戦っていたっていう…オレが戦う理由を思い出したから…」


トワ「…ビート…」


SSGビート「今度はお互いに自分自身で気付けるといいな」


SSGビート「大切なものを守る心を持ってるやつが最強…って」


ミラ「…!」



SSGビート「…またな」



最後にそう言い、ビートはミラの核を貫いた



憎しみの人造人間ミラは、音も立てずに静かに崩れ落ちた



「すまなかった」、最後にそう聞こえた気がした



トワ「(…ミラ…)」


トワ「(向こうで…あなたが自分の過ちに気付いてくれる…そう信じてるわ)」




ビート「………」フッ…


ビート「はぁ…はぁ…」


トワ「ビート…大丈夫なの?」


ビート「平気だよ、それよりトワは?怪我はしてない?」


トワ「なんともないわ、あなたが助けてくれたから…」


ビート「そっか…よかった」


トワ「今体力を回復させてあげるわ」スッ


トワ「………」キィィ…ン


ビート「ふぅ…」


ビート「ありがとう、トワ」


トワ「…………」


ビート「…トワ?」


トワ「…時間がないわ」


ビート「時間…?」


トワ「…おそらくお兄様も何かおかしいと思っているはずだわ」


トワ「お兄様に気付かれてしまう前に、あなたは仲間のところへ戻った方がいいわ」


トワ「超サイヤ人ゴッドにもなれた今、もうここにいる意味はないでしょ?」


ビート「…そっか、そうだよね…」


ビート「いつまでもここにいるわけにはいかないよね…」


ビート「…………」


トワ「…世界間の繋がりがある今なら、私にも世界間を飛び越えられる装置を作れるわ」 


トワ「それであなたを帰してあげる」


ビート「…わかった」


トワ「じゃあ研究所の入り口で待ってて、私は準備を進めてくるわ」


ビート「…うん」


ビート「(超サイヤ人ゴッドになれて…トキトキ都奪還への手段を手に入れた…)」


ビート「(ノートの仇も討てた…)」


ビート「(嬉しいはずなのに…なんだろう…この気持ち…)」


ビート「(…トワは…寂しくないのかな…)」







―――トワの研究所・入り口



ビート「…………」


トワ「お待たせ」


ビート「トワ…」


トワ「じゃあまずこの腕輪を着けて」


ビート「これは?」


トワ「これを着けていれば一方通行だけど世界間の移動が出来るわ あなたの仲間のところへも戻れるはずよ」


ビート「そっか、ありがとう」


トワ「…あと…これ…」スッ


ビート「? なに、この袋?」


トワ「一応中身を確認しておいて」


ビート「!? こ…これって…!?」


トワ「…そう…ドラゴンボールよ」


トワ「6個ちゃんと揃ってる あなたたちの持っているボールと合わせて7個…願いを叶えられるわ」


ビート「…こんなことして大丈夫なの?」


トワ「…平気よ」


トワ「これであなたの大切な人を生き返らせられるでしょう?」


ビート「大切な人…」


ビート「(…ノート…)」


トワ「…ただ…」


ビート「…?」


トワ「このドラゴンボールは、本来この世界にはなかったはずのものだから…使い方が本来の方法と異なるの」


トワ「願いを叶えるには、時の巣の台座にドラゴンボールをはめる必要があるわ」


ビート「時の巣に…?」


ビート「じゃあトキトキ都を奪還するまで願いは叶えられないのか…」


トワ「…あともう一つ」


トワ「このドラゴンボールで誰かを生き返らせる場合…」


トワ「生き返らせられるのは一人だけよ」


ビート「…!? 一人だけ…!?」


トワ「…人を生き返らせるのはドラゴンボールでも相当な力を使うわ…」


トワ「別の世界で願いを叶えるにはどうしてもそうなってしまうの…」


トワ「だから…よく考えて使ってほしいの」


ビート「………一人だけ…」


ビート「…………」


トワ「…………」


トワ「じゃあ…そろそろ…」


ビート「うん…」


ビート「色々とありがとう、トワ」


トワ「ええ 私も楽しかったわ」


ビート「…………」


ビート「…じゃあ…」


トワ「…………」


グイッ


ビート「え…―――んむっ」


トワ「ん…」


ビート「………」


トワ「……いきなりごめんなさい…」


トワ「あなたと別れると思うと…どうしても自分の気持ちを抑えられなくて…」


トワ「だから…」


ビート「……それって…さよならって意味じゃないよね…?」


ビート「もう二度と会えないから…だから最後にもう一度キスしたの…?」


ビート「また…会えるよね…?…トワ…」



トワ「…………」



トワは暗い表情をしたまま俯く



ビート「……トワも…オレと一緒に行こうよ」


トワ「…え?」


ビート「オレがみんなを説得するから…だからトワも一緒に行こうよ」


トワ「……………」


トワ「…駄目よ…それは出来ないわ…」


トワ「私は…お兄様を裏切れない…」


トワ「…お兄様から…嫌われたくない…」


ビート「…………トワ…」


ビート「…わかったよ でも、これだけは約束して」


ビート「また…会ってくれるって…」


トワ「…ええ…約束よ」


ビート「うん…約束…」




ビート「…じゃあ、オレは行くね トワ」


トワ「…ええ」


ビート「…またね…トワ」



最後にそう言うとビートは大空へと飛び立った



トワも空を見上げて、ビートの姿を見つめる




トワ「………ビート」






…ごめんなさい…



私は大切なあなたに…一つだけ嘘をついた



もうあなたとは会えない



こんなことをした私を…いくらお兄様でも許してはくれないだろう



本当はあなたと一緒に行きたかった



ずっとあなたの側にいたかった



でもそれは出来ないの



これ以上あなたと深い関係になってしまったら…お互いの弱みになってしまうから…



私は大切なあなたの負担になりたくない



あなたならきっと…世界を救ってくれる



ドラゴンボールで…あなたの大切な人を生き返らせてあげて…



あなたの幸せが…私の願いだから…




私の側にいてくれてありがとう









…ビート







To be continued...


このSSへの評価

このSSへの応援

このSSへのコメント


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください