【この雨を止めるため】〈第一話~第二十話〉
この作品は、一人の青年が様々な難題に遭遇しながら必死に提督として成長していく物語です。
※誤字、脱字または文脈の乱れ等、至らない点が多々あると思いますが、どうか温かい目で見てやってください。
※キャラ崩壊ありです
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
―― 雨が降る。
血の雨が降る。
敵も味方も、血を撒き散らして沈んでいく。
そんな中、数多の生命が消えゆく地獄の海の上で少女が一人、呟く。
「この雨は、いつになったら止むのかな……」――
季節は冬。
冷たい潮風が辺りを通り抜ける中、1人の青年が海を眺めていた。
否、青年は「海を眺めること」しかできなかったのだ。
『提督になるために遥々来たのに……何故だ』
この青年、本日からとある鎮守府に着任する予定の提督である。だが、肝心の着任予定の鎮守府に着けず、座り込んでいる。
風に飛ばされそうになる帽子を押さえつつ、朝の海を眺める。自身の零す息と波のさざめきだけが、一定のリズムを刻む。
「……」
青年はどうやって鎮守府にたどり着くかを必死に考える。
携帯は電池切れ。案内板らしきものを発見したがとても読める状態ではなかった。駅の中を調べても手がかり一つなく、辺りを見渡すが人っ子一人いなかった。
こうなれば歩き回ってでも鎮守府を探すしか。そんな考えが青年の脳裏によぎったその時、ふと周囲のリズムが変わった。
『あんなところで何してるんだろう?』
少女は、先程から海を見たまま全く動かない男の事がどうも気になった。
「あの、どうかしたんですか?」
離れているせいか、男からの返事はない。
「もしも~し」
距離を縮めて声をかけてみるも、目先の男からの返答は一向にない。
『大丈夫かな?』
もしかして、どこか体調でも悪いのではないか? そんな一抹の不安が頭をよぎる。
「大丈夫?」
心配になった少女は、少しばかり男の背中を揺さぶってみせる。
「うぉ!!!」
青年は背後からの予想だにしない声に呆気にとられた。
「あっ、ようやく気づいてくれた。君、そんなとこ……」
そこから先の言葉は、強い潮風によって散らされ、聞き取ることが出来なかった。
「……すまない。風でよく聞こえなかった。もう一回言って、ゑ?」
青年の目に飛び込んできた光景は、彼の身体に電流を走らせた。
それが背後の人物の風貌による驚愕か、はたまた風になびくスカートとその中の下着の見え隠れによる興奮か。
凄まじく速い平手打ちの衝撃かを青年が把握することはなく、その身体は弾け飛んた。
バッチーン!!
「ぉおうぇ……」
青年は 目の前が 真っ白になった……
「ごめん!大丈夫!?」
咄嗟にぶってしまったことを申し訳なく思い、少女は男の元に駆け寄る。
「ぅん、だいじょう゛」
痩せ我慢すらままならぬ程の威力だったが、男はよろけつつも立ち上がる。
「……すまなかった」
腫れ顔の男が謝罪の意を述べる。
「こちらこそ、急に叩いたりしてごめん」
お互い謝罪の言葉を交わし、改めて少女は目前の青年に尋ねる。
「それで、こんなところで何してるの?」
「あぁ、僕はこの辺りにある鎮守府に配属されることになった提督。なのだが、恥ずかしいことに道がわからなくてな」
「地図も電話もなく途方に暮れてたんだ。周りに人の気配もなくて困ってて……ってどうしたの?」
青年の言葉を聞いた途端、少女が敬礼したままこちらを見ている。
その敬礼は断じて「形」だけのものではない。
「私は舞鶴鎮守府所属。白露型駆逐艦、時雨です」
予想だにしない事態に青年の声が荒くなる。
「えぇぇ!?君が時雨!?」
「はい、これからよろしくお願いいたします」
青年は、本来鎮守府で出会うはずだった艦娘との思わぬ出会いに戸惑う。
「あ、ああ……よろしく」
『驚いた……実際に見てみると普通の女の子と大差ないじゃないか』
一瞬言葉が詰まった青年だったが、鎮守府の人間に会えたことで寧ろ安心の方が大きくなってきた。
「とりあえず、鎮守府に案内してくれるか?」
当初の問題も、鎮守府所属の艦娘がいれば解決したようなものだ。
「わかりました。私の後に付いてきてください」
振り返って先導する彼女の瞳は、どこか複雑な模様を浮かべていた。
「う、うん」
青年は、妙な違和感を感じざるを得なかった。
あれから約20分。
「此処が舞鶴鎮守府です」
「おお……」
『すごく……大きい』
『大きいのに、ありえないくらい静かだ』
この地「舞鶴」に着いてから鎮守府に着いても尚、青年の脳裏にずっとあった違和感。
それは異様なまでの「静寂」。
民家や施設など、人が暮らした形跡はある。
だが聞こえるのは波の音と木々や小鳥のさえずりといった環境音だけ。
『結局、此処に来るまでに彼女以外の人影を見なかった』
『民家や店のような建物も何軒か見かけたのに、何で時雨以外の誰とも会わないんだ?』
一抹の不安から、その疑問を吐く。
「時雨、他の艦娘たちは何処? というか、人が全く見当たらないんだけど」
時雨は曇った表情を浮かべる。
「どうした?」
「此処には、私一人しかいません」
想像もつかない時雨からの告白。当然、青年はその言葉を信じられなかった。
信じたくはなかった。だが、
「……本当?」
時雨は首を縦に振る。
『じ、冗談だろ……』
こうして、1人の青年の提督としての物語は人知れず始まりを迎えることとなった。
[提督が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮を執ります!]
鎮守府に着いた時には既に辺りは暗くなり始め、人気が無いのも合わさり何処か不気味な雰囲気が漂っていた。
「ここが鎮守府で間違いないんだよね?」
「はい。此処が舞鶴鎮守府です」
間違えてはいないようだ。
「とりあえず、司令部のある建物に案内してくれないか」
「了解しました。こちらです」
そう言い、真っ直ぐ進もうとする時雨。
「あ、待って」
「どうかなさいましたか?」
時雨は振り返り、姿勢を正す。
青年「よかったら、敬語はなしにしないか?」
「え?」
「やっぱり、年下の女の子に敬語で話されるのって違和感があるんだ。それに、時雨だって話す時に一々敬語で喋ってたら疲れるだろ?」
「これから一緒に戦う仲な訳だし、堅苦しいのは無しにしたいんだが、どうだ?」
青年のその言葉で、心の奥に押し込んだ本物が零れ出る。
「……いいのかい?」
先ほどの海辺で見せたあの「時雨」が姿を現す。やはり、こちらの方が耳に馴染む。
「あぁ!」
「……提督が言うなら、分かった。自由にさせてもらうよ」
「提督、これからよろしく」
「ああ。よろしく、時雨」
手を差し出すと、一回り小さな手から力が流れてくる。
「あ。あと、たぶん僕提督よりも年上だよ」
「えぇぇ!?」
「艦娘って、年を取っても容姿は変化しないんだよ」
衝撃の事実を知った提督は、何よりも先に頭を下げた。
「これから、よろしくお願いいたします……」
「敬語は無しだよ、提督」
その後、可笑しくなって互いに笑い合う二人の声が鎮守府中に響き渡った。
時雨に連れられて入った建物は、鎮守府の真ん中に位置する、他より一回り大きい建物だった。
建物の外観はかなり年期の入っている様子だったが、内側は外観からは想像ができないほど整えられていた。
「思っていたよりもずっと綺麗だな」
『もしかして時雨がずっと手入れをしていたのか』
そんなことを思いながら時雨を見ると、時雨のくせ毛が大きく揺れていた。
『きっとそうなんだろうなぁ』
本当に時雨は自分よりも年上なのか、まったく分からなくなった。
案内の途中に時雨から聞いた話によると、この鎮守府は数年前、先代の提督が未知の流行病で亡くなったことで一時的に運用を停止させていたらしい。
そのため、鎮守府に配備されていた艦娘は別の鎮守府や基地などに回され、近辺の民間人も病が感染する可能性を危惧し疎開したということだそうだ。
『どおりで誰もいなかったわけだ』
そう思い直しながら、提督は在籍する艦娘の一覧表に目を通す。
そこにはもちろん「時雨」のみ名前が記されている。
そのことを少しさみしく思う提督であったが、一覧表から目を離そうとした瞬間に本来提督が必ず行うことをしていないことに気づく。
それは「初期艦決め」である。
「初期艦決め」とは、鎮守府に新たに配属される提督には艦娘が必ず1人配属されるのだが、「どの娘を配属させるか」は提督自身が決めるという制度だ。
この「初期艦決め」を提督の皆は楽しみにする。
戦地とはいえ、長い間日々の暮らしを共にするパートナー決めとなっては現を抜かすのも無理はない。
無論この提督も来る途中の電車の中で色々と考えていたのだが、舞鶴に来てからは心に余裕が無く、すっかりその事を忘れていた。
「時雨」
「なんだい?」
「(もしかして)僕にとって時雨は「初期艦」ということになるのか?」
「そういうことになるね」
少しの間を開け、時雨は答える
「そうかぁ」
何故自分だけ最初から初期艦が決まっていたのか?
それは「配備される鎮守府に既に艦娘が在籍していた」からだと推測することは容易だった。
だが、この「配備される鎮守府に既に艦娘が在籍していた」という解が新たな謎を生んだ。
“何故提督もいない機能停止中の鎮守府に艦娘が在籍していたのか”
「そういえば、時雨は前の提督の元でも艦娘としてこの鎮守府に在籍していたんだよな?」
「そうだよ、それがどうかしたかい?」
「別の鎮守府には、行かなかったのか?」
「……まあね」
『どうして』と聞くのは無粋だと思った。
『けど、なぜ時雨はこの鎮守府に残ったんだろうか?』
会って一日も満たない今の関係では、どれ程知恵を絞っても答えを出せなかった。
「どうかしたかい? 提督」
「ん、いや何でもないよ」
そんなやり取りをしている間に、二人は司令室の前にやってきていた。
「提督、ここが司令室だよ」
「ありがとう、時雨」
「とりあえず大本営に着任の報告でもするか」
そう言い、提督は司令室の机にある電話に手を伸ばした。
その瞬間、大きな音が建物中に鳴り響いた。
チュドォォォォォン!!
「何だ今の音!?」
「港の方からだ!」
これ程の轟音が鳴ることが異常事態であることは誰の耳にも明らかだった。
「行くぞ!」
「うん!」
二人が外に出ると、鎮守府近海の水面に大きな波紋が確認できた。
「あれって、もしかして……」
「うん、そうだよ」
時雨が司令部から持ってきた双眼鏡を提督に手渡す。
もらった双眼鏡を覗くと、黒い何かがうごめいているのが見えた。
現代の海で「うごめく黒い生命体」といえば、思い浮かぶものはただ一つ。
「……深海棲艦!」
よく観察すると、魚のような身体をしているのもいれば、銃口が確認できるものもいた。
そこから先は考えるよりも先に身体が動いていた。
「時雨、今すぐ迎撃するぞ!準備でき次第すぐに出撃してくれ!」
「了解!」
そう言って時雨は急いで出撃準備に向かった。
提督も自分に出来ることをすべく、司令部へ向かうのであった。
~提督side~
時はほんの少し進み、僕は提督室に戻り、出撃した時雨からの報告を待っていた。
額から汗が垂れ、息が詰まった。これが実践の空気なのかと思っていた時、無線機が音を拾い始めた。
「敵艦隊発見!駆逐艦2隻、軽巡洋艦1隻!」
「今のこちらの戦力を考えるとかなり厳しいよ。どうする?」
時雨の焦りが無線機から伝わってくる。
敵は先程確認できたので全てだと分かり、ほんの少し安堵した。だが、こちら側が圧倒的劣勢であることに変わりはない。
『戦力は圧倒的にこちらが不利。加えて辺りの海の様子をこちらはまだ完全に掴めてはいない』
『数で負け、地の利も活かせないとなると……』
現状を打開すべく、頭をフル回転させる。が、指示を出そうにも、策を講じようにも情報が足りない。そうなると今の提督にとって出せる指示はこれしか無かった。
「時雨、戦闘用意! 何とかその場で深海棲艦を足止めしてくれ! こちらで打開策を考える! だから、それまでは耐えてくれ!」
「了解!」
ブツッとした機械音が鳴り、時雨からの通信が切れると提督はすぐさま司令部の棚から鎮守府近海の海図と艦娘や艤装、そして深海棲艦についての資料に片っ端から目を通し始めた。
~時雨side~
提督との通信を終え、再び深海棲艦の方を向く。深海棲艦は他の生き物には一切興味を示さず、真っ直ぐ鎮守府を目指している。
『敵はイ級二体に、ホ級が一体』
自分の意思に反応し、左右に展開された艤装に手を伸ばす。
「ここは譲れない、絶対に!」
「あの鎮守府だけが、あの人と共に生きた証だから」
そう呟き、時雨は自身の縄張りを荒らそうとする侵攻者に向けて主砲を構えた。
「だから、出ていけ……!」
つい数時間前までは穏やかで静かだった海が、一瞬にして轟音鳴り響く戦場へと変わった。
時雨と軽巡洋艦ホ級は互いに距離を保ちつつ旋回し、主砲を撃ちあう。砲弾はまっすぐそれぞれの身体へ目がけて飛来するが、時雨は速度を上げて右舷へ移動。砲弾の落下予測地点から離脱し、体制を立て直す。一方、ホ級は大きく旋回して砲弾を回避する。
時雨は敵軽巡洋艦を警戒して回避運動をしつつ、敵駆逐艦へと目標を変更する。駆逐艦二隻は迷う素振りを見せず、時雨目がけ前進するが、時雨は後ろに下がりつつ敵全体の動きを見て挟み撃ちにならないよう位置取りを行う。
その間にイ級は着々と時雨との距離を縮めていく。時雨はイ級の接近に合わせて射撃を続行し、距離を離そうとするが、イ級は被弾すれすれの距離で回避し、さらに速度を増していく。
時雨の外れた砲弾により水柱が海上に多発し、徐々に視界が悪くなる。
その隙をついて、イ級二隻が時雨との距離を一気に縮める。
だが時雨も直ぐさまイ級の接近に気づき、主砲をやや下に傾け発射する。放たれた砲弾はイ級の目前で着水し、両者を寸断する水の壁を生成する。それでもなおイ級は進行を止めず、水の壁を突き破る。イ級は突き破った勢いを維持し、口部の小型主砲を準備して仕留めにかかる。
だが、壁の向こう側にいるはずの時雨の姿はない。突如目標が消失したことで急停止し、辺りを見渡すイ級。
「こっちだよ」
イ級は急ぎ回避運動を取ろうとするが、一度停止したせいで速度は完全に落ちきっている。
時雨はその隙を突き、側面から狙い澄ました一撃を放つ。
弾は二隻ともに命中し、一体は頭蓋を損傷させ、もう片方にも僅かながら手傷を負わせる。
駆逐艦イ級A 8/20 【中破】
駆逐艦イ級B 18/20
軽巡洋艦ホ級 33/33
『よし、この調子で沈める!』
奇襲を成功させた直後、損傷が小さくすぐさま立ち直ったイ級Bの砲撃が飛んでくる。イ級からの近距離砲撃を完全に躱すことが出来ず、弾は時雨の左肩に命中する。
「くっ!!」
普通の人間よりも数十倍頑丈な艦娘の装甲であれど、近距離で主砲を当てられては傷を負うことは避けられなかった。
服は燃え落ち、肩の皮膚は爛れて赤い部分をほんの少し露わにする。
駆逐艦時雨 26/31
更に中破したイ級Aの砲撃が時雨の顔面を襲う。今度はなんとか身体を反らして躱したが、肩の痛みで僅かに集中力が削がれる。
戦況の不利を改めて感じた時雨は、数的不利をなくすべく狙いを中破したイ級に絞る。
イ級二隻は左右に展開し、時雨の周囲で円運動を行う。円は徐々に小さくなり、確実に時雨の行動範囲を狭めていく。
思うように身動きがとれない時雨はその場で迎撃態勢を取る。
イ級二隻は同時に円運動を止め、左右から一気に時雨に襲いかかる。このままでは確実に攻撃を受けると考えた時雨は今度は自身の足下に砲撃を行い、水柱を作り出す。
その後すぐに左舷後方に移動し、突っ込んでくるイ級を待ち構える。イ級二隻が姿を表した瞬間、時雨は引き金を引いた。
中破していたイ級の身体は時雨の砲撃に耐えきれず爆破炎上、海の底に沈んでいった。だが、もう片方のイ級に損傷はなく、反撃と言わんばかりに時雨の顔面を狙い打った。
「っ!」
砲塔の傾きから上半身に狙いをつけていることを察知した時雨は人間を超えた反応速度で身体を反らす。
攻撃が避けられたイ級は時雨に突っ込んだ勢いを利用してそのまま体当たりを仕掛けるが、イ級の身体は時雨に接触することはなく、発射された魚雷によって木っ端微塵となった。
駆逐艦イ級A 0/20 【轟沈】
駆逐艦イ級B 0/20 【轟沈】
至近距離での大爆発と巨大な水柱に視界が覆われる。波の揺れも相まって自分がどこにいるかもわからない。
必死に体制を立て直す中、足元で何かが動いているように感じた次の瞬間、時雨の脚の肉が焼き千切れた。
「い゛っっっ!?」
時雨の動きが鈍った隙を狙ってか、側面からホ級が姿を現し、主砲を連発する。
時雨は砲弾を艤装で咄嗟に庇ったおかげで轟沈は免れたが、先程被弾した左肩に再び弾が直撃し、肉が大きく抉り取られた。他にも胸部、腹部、腰部にも数発被弾してしまい、少女の体は赤黒く染まる。
駆逐艦時雨 8/31 【大破】
『まさか、さっきのイ級達の特攻はこのために!?』
満身創痍となった身体を何とか立て直す。身体のあちこちが熱く、感覚が鋭敏になる中、視界だけが朧げになる。
だが、力を込めて目前の敵を補足する。その碧眼の輝きは未だ失われてはいない。
時雨は沈みゆく太陽を背後に、主砲を構える。
「駆逐艦時雨、夜戦を開始する」
時刻は19:15(ヒトキューヒトゴー)。
太陽は既に沈み、月のスポットライトが二隻を照らす。
時雨は深海棲艦を中心に円を描く軌道をとり、敵の動きを牽制し、両手に構えた12.7cm連装砲を放つ。
狙いすまされた砲弾は人ならざる異形の命を削りこそすれど、刈り取るまでには至らない。
ホ級は時雨からの砲撃に怯むことなく主砲を撃ち返しつつ、速度を上げて旋回する。
「回り込もうたってそうはいかないよ!」
時雨はホ級の行動に合わせて発射待機させておいた61cm四連装酸素魚雷を放つ。旋回を続けたままホ級も魚雷を展開し、時雨の攻撃を無効化する。
当たれば大破は免れないほどの規模の攻撃がぶつかり合い、激しい衝撃を生む。
水柱に囲まれるホ級の姿を確認した時雨はここが好機であると判断し、全速力で距離を詰める。
『ホ級は魚雷の爆発でこちらの位置情報を把握出来てない。なら、ここで決める!』
時雨は直ぐに主砲と魚雷の再装填を行い、ホ級の側面に回り込み、全火力を叩き込んだ。
「さっきのお返しだよ!」
昼戦の時より遥かに大きな爆発が、深海棲艦の体を覆う。
『やった……』
確かな手応えだった。主砲二連発に加えて四連装酸素魚雷を叩き込んだのだ。もう立ってこれまい。そう頭では判断した。
だが、それとは別に「何かがおかしい」と本能が語りかけてくる。
確かに攻撃は命中した。その手応えはあった。普通の軽巡洋艦なら確実に沈んでいる威力であることはあの大爆発が証明している。
なのに、何故、自分は主砲を構えているのだろう。
心なしか、爆煙の中から突如叫び声のような、奇妙な音が聞こえてくる。
様子がおかしいと確信した時雨はすぐさま主砲の引金に手をかけ、力を籠める。
刹那、爆煙が突如紅く染まった。紅の煙はやがて大きな渦となり、辺り一面に広がっていく。煙の勢いは収まることを知らず、やがて時雨の足元まで到達した。
『!?』
ウチタイ、シズメタイ、コロシタイ、ツブシタイ、ケシトバシタイ、コロシタイ、ホロボシタイ、コロシタイ、コロシタイコロシタイ、コロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイィ!!!
頭の中を自分以外の誰かの激情が駆け巡る。
時雨の心が、本能が、大音量で警鈴を鳴らす。
『何、この煙!? 頭が……』
時雨は歯を食いしばり、正気を保って深海棲艦のいるであろう煙の発生源を警戒する。すると、中から深海棲艦ホ級らしき敵が姿を現した。
全身に、紅い煙を纏って。
軽巡洋艦ホ級??? 48/48
「さっきまでと様子が違う……。それに、傷が治ってる。いつの間に!?」
敵の突然変異に時雨は動揺を隠せない。
今まで戦ってきたどの深海棲艦の生態にも当てはまらない、未知の存在。
未知の存在だが、一つ確かなのは。
「お前を、通すわけにはいかない」
時雨は覚悟と決意を持って引き金を引いた。
~提督side~
時刻は19:30(ヒトキューサンマル)。
「はい……。はい、分かりました。では、よろしくお願いします」
提督は受話器を置き、無線機を手に取る。
「時雨、聞こえるか?」
遠い海で戦っている仲間の安否を気にする提督。
「提督……」
無線機から時雨の声が聞こえる。
「時雨、大丈夫か?そっちの状況を報告してくれ」
「提督、ごめん……」
突然の言葉に、嫌な考えが頭をよぎる。
「ど、どうしたんだ突然?」
無線機に耳を押し付けると、聞こえてくる時雨の声は掠れ、呼吸も荒かった。
圧倒敵不利な状況の中、時雨はたった一人で戦っている。一人でいる分、当然敵の攻撃は時雨一人に集中する。
だから、当然被弾も増える。
この状況から、現実から目をそらしたくなる。
女の子のボロボロになっているのに、何もしてられない愚かな自分の姿を姿見が映し出している。
「時雨……ごめん、負けちゃった……」
時雨の掠れた声に混じる無念が、より自身の愚かさを引き立てる。一緒に戦えない、助けてあげられない自分に心底腹が立つ。その怒りが、提督を突き動かす。
「時雨、今どこにいる!?」
「多分、冠葛島の北側……」
「分かった直ぐ行く! だから頑張れ!!!」
そう言って提督は部屋の中から使えそうなものを手当たり次第にかき集め、全速力で司令室から飛び出して船着き場に泊めてあった船のエンジンをかけた。
提督はレーダーで周囲を偵察しながら冠葛島へ向かうと、岩肌に一つの反応が見えた。
「時雨っ!」
提督の予想は的中し、船の速度を最大にして向かった先に時雨はいた。
だが、提督は時雨の傷つき様に言葉を失った。
時雨の服は所々破け、身体は銃創や爆創だらけ。艤装は原型を留めていなかった。
「時雨!大丈夫か!?」
提督はすぐさま時雨の元に駆け寄る。
時雨は既に気を失っており、反応は帰ってこなかった。
提督はすぐ船から救急医療設備を引っ張り出し、応急処置を施す。
「ごめんな……、ごめんなっ……」
気絶する少女の前で、提督は涙を流し続けた。
処置を終え、艤装を解除させた時雨を寝かせて鎮守府方面へと船を走らせていると、レーダーからの警告音が提督の耳に届く。
「深海棲艦!」
レーダーの反応は逸れることなく鎮守府の方へと移動している。
『やはり狙いは鎮守府か』
提督は速度を上げ、深海棲艦の後を追う。
「行かせるか!」
提督は船に搭載されている魚雷を深海棲艦目がけて投下する。魚雷が投下されたことに気づいた深海棲艦は進行を止めて魚雷を回避し、そのまま提督の方を向く。
『そうだ、そのままこっちに来い!』
舵を取り、鎮守府とは真逆の方向へ向かう。
深海棲艦が主砲を放って船を沈めにかかるが、提督は的を絞らせまいと左右に舵を切る。
逃げる提督。追う深海棲艦。
逃走劇を続ける両者だが、戦況は徐々に傾き、提督側は徐々に被弾が増えていく。艦娘と互角に戦える深海棲艦に比べて、こちらはただの小型艇。性能の差が徐々に見え始める。
『これ以上は船がもたない……』
『頼む、もう少しだけ耐えてくれ!』
提督の願いと裏腹に、差は明確な事象となって表れた。砲撃が提督の船を捉え始めた。砲弾は提督の船、左側面後方部に命中。船は煙を上げ、船体が悲鳴を上げる。
『まずい!』
動きが明らかに鈍くなり、体勢を立て直すことが出来ず、砲撃音が周囲に轟く。先ほどとは比べものにならない砲弾の雨が、辺り一面に降り注いだ。
「時雨!」
提督は時雨の身体に覆いかぶさり、砲撃から彼女を守る。直撃すれば二人とも確実に死ぬことはわかっていても、少しでも彼女を守りたい一心がそうさせた。
提督は目の前でうっすらと涙を流す少女の身体を引き寄せ、優しく包み込む。
「大丈夫だ時雨、僕はここにいる……。決していなくなったりはしない」
「時雨の事は必ず守る。だから、安心しろ」
何の根拠も説得力もない言葉だ。彼は一人の提督である前に一人の一般人。艦娘のように艤装をつけて戦うことも、海を渡って逃げることも出来ない。
だからせめて、自分に出来る限りを尽くして彼女を守る。
ドォォォォン!!!
超至近距離で砲弾が着水し、激しい耳鳴りと揺れが船を襲う。右へ左へ揺さぶられる中、どうにか時雨を守ろうと必死に耐える提督。
「もうダメだ、これ以上は……」
そんな提督に追い打ちをかけるように、船に積んであった物が提督に向かって飛来する。回避する足も掴む手もない今、提督は顔面で受け止める他なかった。
「い゛っつ!」
追い打ちを仕掛けてきたのは、提督が司令室から適当に持ち出した物資だった。何が入っているのか碌に確認も出来なかったが、どちらにせよ使う場面は来なかっただろう。
「なんだ?」
目の前に落ちてきた袋を睨んでいると、袋の中身が不規則に蠢いているのが分かった。膨らみは奥から徐々に手前へ移動し、やがて小さな人影が飛び出てきた。
「君は……」
顔には愛嬌のある瞳がついており、手には彼女の身体に合わせた極小の作業道具が握られている。
彼女はこちらに気づくと、真っ先に時雨の元へと駆け寄ってきた。ボロボロの時雨を見て、彼女の顔が歪む。
「 」
一時の静寂が流れ、彼女は時雨の頭にその手を重ねる。
その瞬間、時雨の身体から艤装が展開される。それだけではない。原型を失っていた艤装が元の形を取り戻していく。
「ん……」
先ほどまで気を失っていたはずの時雨の意識も回復を始めている。
『一体どうして』
そう思い、この現象を引き起こしたであろう彼女に視線を向けると、彼女の身体は既に淡い光に包まれており、徐々にその姿を消していった。
「 」
消え逝く中で微かに動いた彼女の口は、確かに何らかの言葉を発していたが、その詳細を聞くことは叶わなかった。彼女の存在は光の粒となり、夜波に煌めいて消えていった。
彼女の消失と同時に、時雨の目がゆっくりと開いていく。
「ここは……」
「っ! 起きたか、時雨!」
提督はすぐさま時雨の状態を確認する。こちらの声掛けにしっかり反応しているし、目に力もこもっている。
「ていとく?」
ドォォォォン!!!
「ぐっ!!!」
今度は先ほどよりも明らかに精度の高い砲撃が飛来してきた。このままこの場所に留まったままだと次の砲撃は確実に受ける羽目になる。
「時雨、立てるか?」
「うん……」
提督は時雨を立たせると、急いで操作盤へと向かう。
「一旦体勢を立て直すぞ!」
船に備え付けられた発煙菅を起動し、位置を攪乱させながら迂回して仕切り直しを図る。
レーダーでは海上にいるホ級の反応が「全く動いていない」ことは確認できていた。何故動いていないかは分からないが、この好機を逃すわけにはいかない。
「時雨、大丈夫か?」
「うん……、大丈夫」
時雨の意識は先ほどと比べてしっかりしているし、外傷もいつの間にか綺麗さっぱり消えていた。
「提督、どうしてここに?」
「どうしてって、時雨のことが心配で……」
そう言うと、時雨の顔が明らかに曇った。
「ごめん、心配かけちゃったね」
二人の間を沈黙が通る。この後どうするか、必死に考えをまとめていると時雨から思わぬ話題が飛んできた。
「提督、僕に聞いたよね。『別の鎮守府には行かなかったのか?』って」
「あぁ……」
「怖いんだ、この空が」
時雨は座り込み、天に輝く夜空を睨んだ。
「どれだけ綺麗な星空でも、青空でも、すぐに砲弾がそれを覆いつくすんだ。それに空だけじゃない。海にいると、いつ魚雷が飛んでくるかばかり考えてしまう」
「僕は、この景色を綺麗とは思えない」
提督も周囲を見渡し、改めて自分の認識の甘さを痛感する。
「だからこの鎮守府に残ってたのか。鎮守府として機能しないなら、戦闘が起きることもないから……」
そう提督が返すと、時雨はその首を縦に振った。
『いや、きっとそれだけじゃない』
『目を見ればわかる。あれは……大切なものを失うことへの恐怖だ』
提督は携帯を取り出して電源を入れようとするが、それが光を発することはなく、ただただ己の情けない顔が映るだけだった。
『あの時と同じ結末には、させない』
煙幕による攪乱を終え、ほんの少しだけ猶予が生まれる。
提督は一息入れて時雨に声をかける。
「すまなかった……。時雨ばかりにつらい思いをさせてしまって」
「提督は悪くないよ。僕の心が、弱いだけさ」
『そんなことはない』
この瞬間、提督は本当の意味で「艦娘」という存在を理解した。艦娘だって自分たちと同じ「人」という存在であり、同じように生活を送り、会話し、感情も抱く。そこに例外などありはしない。
提督は「艦娘」を「物」だとか「兵器」だとは全く考えていなかった。しかし、心のどこかで彼女たちを特別視していた。
自分より彼女たちの方が身体能力が高く、普通の人は装備出来ない「艤装」を装備出来る。その事実が彼女達を「人であって人ではない」と誤認させていた。彼女たちの身体は鋼の装甲に覆われており、自分たちより何百倍も強い。だが、心まで鋼で覆われている訳ではなかったのだ。
「本当にすまなかった。一人で背負わせてしまって」
「だが、これからは僕も一緒に戦う!」
「えっ!?」
時雨は疑念を露わにして提督の顔を見つめる。
「君のことは、僕が守る」
「だから、時雨も僕のことを守ってほしい」
そう言って、提督は拳を突き出す。その目には決意が感じられる。口先だけじゃない、確かな「覚悟」が。
「分かったよ」
時雨は観念し、柔らかな笑みを浮かべて拳を突き出す。
「任せたからね、提督」
拳同士がぶつかり、コツンと音を響かせる。静かな海で微かにだが聞こえたその音は、二人で挑む初陣の合図となった。
~提督side~
時雨に今後の作戦の概要を話し終えた提督は、目的地に移動しつつ先程の時雨について思考を巡らせる。
『自分は彼女の気持ちを考えてあげられなかった』
『緊急の事態だから仕方がない? 考えている余裕がない?』
『そんなのはただの言い訳だ。結局自分は目先の物事ばかり考えて、そばにいる人間一人の事さえまともに見てあげられなかった』
『もう間違えない、二度とあんな思いはさせない……!』
~時雨side~
提督から作戦を聞いた時雨は、指示された地点へ移動し始める。そして先程聞いた提督の指示を、頭の中でもう一度確認する。
~出撃前~
「それじゃ気を取り直して、作戦の詳細について説明したいと思う」
そう言うと、提督は手元の海図を広げて見せる。
「ここが先程の戦闘海域(イ地点)。そして今僕らはその海域を南下した孤島がある海域(ロ地点)にいる」
「敵深海棲艦は、ソナーによると活動を再開し、真っ直ぐ時雨を追ってこちらの海域に向かってきている」
「そこで、ここから少し進んだところに大きな岩が幾つか海面から出てきている海域(ハ地点)がある。ここで深海棲艦が来るまで潜伏し、現れたら僕が注意を引くから時雨に奇襲してもらいたい」
「奇襲のチャンスは一度きり。だから、一撃で仕留めてほしい。出来るか?」
「僕の方は大丈夫。それより提督が囮になるの? それは危険じゃ……」
「正面から戦ったら圧倒的にこっちが不利だ。主砲の撃ち合いではこちらの損傷が激しくなる可能性が高いし、魚雷は当たれば大きな傷を負わせられるが、視認されては簡単によけられてしまう」
「確実に当てるためには、敵の目を引く役割を誰かがこなさなくちゃならないんだ」
「それに、僕だってただの的になるつもりはないよ」
~現在~
「とりあえず、ここに隠れておこう」
時雨はいくつか海面から突き出す岩の一つに身を潜める。
「後は提督が来るのを待つだけ……」
余裕が生まれ、時雨の意識は分かれて作戦を行う仲間に向けられる。
「提督……、任せたからね」
強い思いを胸の内に秘める時雨は、ただその時をじっと待ち続ける。
時刻は19:40(ヒトキューヨンゼロ)。
夜闇に溶け込む一隻の艦は、周りを見渡しながら海上を滑走する。辺りは岩石が海面から突出していている、大きい物で十数m(メートル)はあるだろうか。
「……」
紅く燃える瞳がゆらりゆらりと移ろう中、決戦の幕はもう既に上がっていた。
「!?」
上空から落下してくる黒い物体。海のど真ん中でそんなものが落ちてくることなど、本来であればありえない。
その物体は海中に沈んだ後、巨大な破裂音を響かせ、静寂の海を掻きまわした。
『よし、今のは流石に深海棲艦でも驚いただろう。というか、驚いてもらわなくてはこっちが困る』
提督は掌に黒い物体に付いているピンを引き抜き、すぐさま巻きつけた紐を手に取り、勢いよく振り回す。
『いっけぇ!!!』
遠心力を可能な限り高め、一気に解放する。
投擲されたそれは深海棲艦の付近に落下するか、あるいは着水する前に空中で爆発した。双方、深海棲艦にとって有効なダメージは与えられていない。
先程まで混乱していた深海棲艦はその元凶が提督であることに気付き、身体の向きを変えて此方を見てくる。
初めての深海棲艦との対峙。その恐怖に、提督の脚は自らを嘲笑するかの様に震えていた。
人間は脆い。艦娘や深海棲艦とは比べものにもならないくらい。砲弾を受けきれる程の装甲もない。故に、簡単にその命を絶たれてしまう
だが、提督は挑む。何故なら、彼には目の前の圧倒的な恐怖を前にしてでも抗わなければならない理由があるから。
一つ、穏やかな海を取り戻すために。
二つ、一人の少女との約束を守るために。
そして三つ。過去を受け止め、未来に向かって歩んでいくために……。
「おまえの相手は僕だ! 来いっ!」
提督は深海棲艦にそう宣言し、船のエンジンを掛ける。
船のエンジンは、提督の心情を投影するかの様に激しく、高々とその音を響かせた。
提督は、深海棲艦の砲撃を海面から飛び出している岩を使って巧みに回避する。だが壁となる岩はその数を減らし始め、砲弾を避けるのが困難になってきた。
『あと少し……あと少しなんだ!』
船が小さいおかげか被弾すれすれで何とか回避できているが、その分激しい水流で転覆しそうになる。
『時雨が彼奴を倒すまで、何としても耐えてみせる!』
提督の奇襲爆撃から数分、早くも戦況は終盤に差し掛かっていた。戦前は数多くの巨岩が見られた海域も、今となってはその多くが根元から吹き飛ばされ、殺風景な海に変わり果てた。
これ以上岩を使って逃げ回るのは不可能だと考えた提督は、作戦を最終段階へと移す。
提督は無線機を使って時雨に合図を送り、時雨が合図を返してきた事を確認すると舵を切り、時雨が潜伏する岩を目指して速度を上げる。
深海棲艦は周囲には目もくれず、執拗に提督を追いかけてくる。明らかに距離が縮まっていくのを背中で感じながら、提督は、深海棲艦に向けて叫ぶ。
「もう逃げ回るのは終わりだ!」
ヒトの言葉が通じるかは定かではないが、少しでも注意を引こうととにかく話しかける。
「深海棲艦、お前には此処で負けてもらう!」
相手にこちらの作戦を悟らせない様に。
「最後に」
己の覚悟を固めるために。
「勝つのは」
そして、完全なる勝利を相棒と掴み取るために。
「「僕達二人だ!!!」」
ここで提督は、この時の為に温存しておいた最後の手榴弾を目前の深海棲艦目掛けて投げつける。
手榴弾は逃げている間に何度も投げたせいで、深海棲艦には途中から一切の効果がなかった。だが、それは通常の手榴弾に限った話。
今提督が投げた手榴弾は、中の火薬を通常の三倍詰めた高火力版。昨程までのものとは大きく異なる威力を誇る不意打ちに、深海棲艦はもろに被弾する。
その隙を逃さず、提督は回避行動に移る。
自分が命懸けで生み出した、一瞬の隙。この好機を共に戦う相棒に預けるべく、その名を呼ぶ。
「しぐれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
“海水でずぶ濡れになっていたとしても、
心の中でどれだけの恐怖を感じていたとしても、
誰かの為に命を張る事の出来るその男は、
文句なしの【英雄】である。”
「最後に、勝つのは」
「「僕たちだ!!!」」
時雨は唯一の好機を逃すまいと、魚雷を構えて岩陰から飛び出した。
深海棲艦は突如現れた第三者を視認した瞬間、明らかな脅威となる方に主砲を向ける。が、先手を打てたのは時雨の方だった。
時雨は深海棲艦が主砲を構え始めたと同時に装備している魚雷の殆どを発射していた。放った魚雷は深海棲艦に全弾命中。避ける暇を与えない攻撃は深海棲艦の身体が見えなくなるほどの大きな爆風を引き起こした。
「オオォ……」
深海棲艦は声にならない悲鳴を上げてその場で崩れ落ちるかのように停止した。深海棲艦の艤装と思われる部分は激しく損傷、本体の方も先程の砲撃で身体の彼方此方が吹き飛ばされていた。
「やったか?」
先の爆発音を聞き、船の旋回させて戻る提督。
深海棲艦の状態を確認した時雨はようやくこの戦いに終止符が打たれたと思い、肩の荷が降りていた。
「時雨、大丈夫か!?」
そう声を掛けようとしたその時、見えてしまった。死んだと思われた深海棲艦の主砲が僅かに傾いたのが。
『時雨!』
目の前にいるであろう時雨は俯いたままで、深海棲艦の動きに気づいていない。長時間の戦闘で心身ともに疲労している時雨には、切れた緊張の糸を張りなおす気力は残っていないのだろう。
提督は速度を全開にし、艦首に立つ。そして胸のポケットから一丁の銃を取り出し、撃鉄を起こす。
『今度は●●●る。これは、そのための銃だ』
照準を目標の頭蓋へと合わせ、力強く引き金を引いた。弾は深海棲艦の額へと吸い込まれ、赤黒い霧を噴出させる。
深海棲艦は虚空に手を伸ばすが、その最後の気力も霧となって失われ、完全にその生を絶たれた。
提督は手元の銃を見つめる。実践では初めて使用したが、その威力をまざまざと見せつけられた。
『そうだ、時雨!?』
提督は先ほどから動きを見せない時雨の元に駆け寄る。
「時雨、大丈夫か!?」
船の上から海上に浮かぶ少女に声を掛ける。
「うん……大丈夫だよ」
大丈夫な訳がない。昼の戦闘で既に中破しているのに、そこからドッグに入ることなく戦闘の連続だった。であれば、艤装は軋み、全身が悲鳴を上げている状態だろう。あの小人のおかげで一時回復はしたものの、普通の人間はともかく艦娘であっても失神するレベルの激しい痛みが時雨を襲っているはずだ。そして「人間」という枠から外れている艦娘だからこそ、その痛みを拒むことは決して許されない。
『早く帰投して休ませてあげないと』
提督は何とかして時雨を深海棲艦から遠ざけ、船に乗せようと試みる。
「時雨、艤装解除してこっちにこれるか?」
時雨は提督に言われた通りに行動し、船に乗り込んだ時点でその場で倒れこんだ。
「後は任せろ」
眠りについた時雨に声を掛け、船を走らせる。
タスケテ。
一瞬だけだが、確かにその言葉が耳提督のに届いた。だが、声が聞こえてきたわけではない。
『この海に意思疎通が取れるのは時雨くらいしか……』
まさか、と提督は思った。すぐさま提督は目線を先ほどまで命を奪い合った敵へと向ける。提督の嫌な予想は的中し、深海棲艦は明らかな動きを見せていた。攻撃手段であり、また移動手段でもある艤装が徐々にドロドロの液体状に変化し始めたのだ。艤装が原型を無くしていくにつれ、本体の方にも徐々に変化を見せ始める。あまりにも人体とかけ離れた、不気味さすら感じさせるその灰色の肌から黒い煙が湧き上がり、瞬く間に全身を覆う位の量に達した。
提督は深海棲艦の異様な変貌に息を飲まずにはいられなかった。煙が特に害を及ぼすものでなかったことが、猶更不気味だった。
やがて煙が晴れ、周囲がはっきり見えるようになった頃にはもう異形の怪物は姿を無くしていた。
『此奴ら、一体何なんだ……』
謎に包まれた深海棲艦を解明する手がかりを目にした提督は、寧ろ謎が深まったように感じていた。
こうして提督と時雨、このコンビ初の戦いは謎多きまま終わったのであった。
作戦終了 、勝利! 【S】
深海棲艦が消滅した後も提督は辺りを警戒していた。
『さっきの深海棲艦の行動は今まで聞いたことが無い完全な不規則(イレギュラー)だった。もしかしたら、別の深海棲艦が現れる可能性もある』
『早く鎮守府に戻りたいが、敵がいないことを確認してからじゃないと……』
視線をレーダーと海面でスライドさせつつ、近海の安全を確認すること数分。
異変を知らせたのは、レーダーのめであった。
「!?」
レーダーに映る生体反応、その所在は先の戦闘で深海棲艦が沈んだ位置と同じであった。
急いで海面の方に注意を向けると、一人の少女が漂流物のように水面に浮かんでいた。少女は見たところ意識は無く、身体中に傷が見られ、服も着ていない状態で海に浮かんでいた。
「な、なんでこんな海上に女の子が!? それに、レーダーに映ったってことは……』
提督は思慮に耽りそうになる頭を叩き、優先順位を確認する。
『何はともあれ、まずは二人を安全な場所まで連れて行くべきだよな』
【艦隊帰投中……】
幸運な事に、撤退中に深海棲艦と遭遇することなく3人は鎮守府に帰還した。
提督は帰投後すぐに二人を医務室に運び、治療を行った後にベッドで安静にさせた。二人の意識があることを確認した提督は司令室に戻ってすぐに受話器を取る。
ピッポッパッポッピッピッ プルルルルル プルルルルル
上への報告に未だ慣れない提督は、緊張に顔を歪ませる。
ガチャッ
「はい、こちら横須賀鎮守府です」
電話の先からは透き通るようで、また凜々しくも感じられる女性の声が聞こえてきた。
「こちら、舞鶴鎮守府です。本日、時刻16:00にて敵深海棲艦が鎮守府近海に複数体出現しました。敵部隊の構成は駆逐艦級が二隻、軽巡洋艦級が一隻でした」
「それは本当ですか? ここ最近、舞鶴近海での深海棲艦は確認されていなかったのですが……」
「はい、本当です。我が鎮守府では駆逐艦「時雨」を投入。自分も現場で指揮を執り、これらを撃破しました。被害は「時雨」が中破、自分が使用した船が一隻軽傷を負いました」
「了解しました、他に報告する事は御座いますか?」
「はい、実は敵の軽巡洋艦級の様子が他の艦と明らかに異なっていました」
「詳細をまとめた後、直ぐにそちらにお送りいたします」
「了解しました。情報提供、ありがとうございます」
「それから、深海棲艦との戦闘後、少女を一人海上で保護しました。多数の傷や体温低下が見られましたので、今はこちらの鎮守府で治療を行っております」
「……分かりました、報告は以上ですか?」
「はい、これで全部です」
「後日こちらから連絡致しますので、それまでは鎮守府近海の警備に当たってください」
「了解しました!では、失礼しま」
「ああ、待ってください!」
電話の先にいる女性の声が柔らかくなる。
「私は軽巡洋艦「大淀」です。困ったことが御座いましたら私に連絡してください!新任の司令官を支援する事も私の任務ですから!」
「ありがとうございます!では、失礼します」
凜々しい声に乗せられて聞こえてきた頼もしい発言に、提督の心は大きく救われたのだった。
ガチャッ
「……」
“「敵深海棲艦が横須賀鎮守府近海に複数体出現しました」”
『今朝、舞鶴鎮守府近海の哨戒を行った時には深海棲艦の姿は確認されなかった。なら、一体何処から?』
『それに海上で発見した少女というのは、おそらく私たちのこと……。過去に数回しか確認されていないはずの「ドロップ」が、どうして?』
軽巡洋艦「大淀」は、幾つかの疑問を抱きつつも、この一件を横須賀の提督に報告すべく筆を動かし始めた。
「ちっ、三隻全て轟沈か。舞鶴を潰すことは叶わなかったが、まあいい。他にも潰す機会はいくらでもあろう」
男は静かに将棋盤にある奥の駒を動かす。
「だが舞鶴に配属された提督、確かあの馬鹿な男の一人息子だったか?」
相手の駒は自陣の「歩」を一つ奪い取る。
「父親の二の舞にならぬ様、奴はきっちり教育してやらねばな」
不気味な笑いを浮かべ、男は空いた盤面に新たな「歩」を置いた。
提督は横須賀鎮守府への報告を終え、地図を片手に医務室へと向かう。
無論、時雨と少女の身を案じての行動である。
『それにしても広いなぁ』
自然と口からこぼれたその一言には配属されたばかりの提督の心情がそのまま込められていた。
提督の着任先である舞鶴は、以前は鎮守府も町も大変栄えていた。鎮守府は人員や設備が充実し、町では物の行き来や移住してくる人が後を絶たなかった。
だがそれも数年前の原因・正体共に未だ解明されていない謎の病によって一転。病は人から人へ伝染し、死者500名以上にまで昇る大きな災害となった。
それに加え、町では不可解な事件が連続で発生したため、「呪われた町」と称されることも少なくは無かった。
ある女性は『海の方から奇妙な音が聞こえてきた』と。ある男性は『若い女性の姿が急に見られなくなった』と。ある老人は『物の怪がでた』と。
そんな噂が病と共に広まっていったこともあり、徐々に舞鶴から人が離れるようになった。
『それで、ゴーストタウン(亡霊の町)と成り果てた訳だよな。まさか自分がその鎮守府に、しかも卒業して直ぐ着任する事になるとは思わなかったが』
提督は己の境遇を客観視し、息を漏らす。
『普通は卒業したら既に着任している提督の元で補佐をしながら経験を積むはずなのに、どうして自分だけ……』
物思いにふけっている内に、提督の足は医務室の入り口を踏んでいた。二人の様子を見るために更に歩みを進めていくと、中の仕切りから時雨が出てくる様子が見えた。
「提督、来てたんだ」
時雨は確かな足取りで提督の方へと歩いてくる。
「もう動いて大丈夫なのか?」
「うん。ちょっと疲れただけで、被弾もしてなかったから。もうこの通り」
時雨の明るい様子に、提督は自然と口元が緩む。
「そうか、ならよかった」
「提督は報告を終えたところ?」
「あぁ、終わったから時雨の様子を確認しに来たんだけど、元気そうで安心したよ」
「後は、彼女の方だけど……」
「彼女?」
提督は奥の部屋へと進み、その扉を開ける。
そこには簡素なベッドと、その上で体を起こす少女の姿があった。
「やあ、体調は良くなった?」
「ここは?」
少女はやはり混乱した様子で周囲を見回している。
「舞鶴の鎮守府だよ」
「……貴方は?」
「僕はこの鎮守府で提督をやっている者だ。先日、君がこの舞鶴鎮守府近海で浮かんでいるのを見かけて、僕らでここまで運んできたんだけど、何か身に覚えはないか?」
提督の質問を受けて少女はしばしの間考え込んだものの、最終的には首を横に振った。
「すみません、分からないです……」
「名前は?どこに住んでいるの?」
「……わかりません」
その後提督は何度も質問を繰り返したが、少女について何も知ることが出来なかった。
「記憶喪失……みたいだね」
「とりあえず、どうするかは上の人と相談してみるよ。もう夜だし、時雨は休んでいいよ。明日は07:00に司令室に来てくれ」
「了解。じゃあね提督。また明日」
「ああ、また明日」
時雨を休ませた後、提督は再び司令室へと戻り、本部に少女についての報告を行った。
本部曰く、「身元が明らかでない以上、むやみに移動させるわけにもいかない。記憶がある程度回復するまでそちらで保護するように」とのことだった。
予想通りの回答を得た提督は、ひとまず書類や荷物の整理に取り掛かった。だが、一日中張っていた緊張の糸はいつの間にか切れてしまい、支えを失った提督は瞼を閉じていた。
こうして着任一日目が終了し、舞鶴に着任した若き軍人の長きに渡る戦いの幕が上がりきった。
――目が覚めると、書類の山と大きなペンが視界に入った。背中には毛布が掛かっていた。側には綺麗に形取られたおにぎり置いてあった。いつ置かれたのか分からないけれど、おにぎりは少し冷めていた。一体誰が置いたのだろか?
着任二日目、時刻は07:00。提督は時雨と共に本部から送られてきた物資を搬入する手伝いをしていた。
中身は燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイトや開発資材、そして昨日見た謎の小人たち。彼女たちは軍では「妖精」と呼ばれる存在であり、基本的には艦娘の艤装運用の補助や開発の手伝いをしてくれるらしい。
昨日の敵部隊の撃破の報酬も含まれているらしく、鎮守府内に物資を運び終わる頃には昼過ぎになっていた。
「よし、これでようやく鎮守府として始動できるな」
「うん。資材や修復材、妖精さんも来てくれたから他の基地と同じように運用できるよ」
「じゃあ、さっそく建造をしてみるか」
『昨日の戦闘で戦力不足を痛感したからな』
「僕としても仲間を増やすのは賛成だよ。これから本格的に制海権を奪還していかなきゃいけないし、ある程度戦力は整えておくべきだろうからね」
「決まりだな。じゃあ、早速工廠に行こうか」
工廠は司令部のある建物の後方に設置されている。工廠内では、既に妖精達が機材の点検等をあらかた終わらせていた。
「建造をお願いしたいんだけど」
提督が一人の妖精に話しかけると、一枚の紙を提督に手渡してきた。そこには「各資材の投与数」と「高速建造材の有無」を記す欄があった。
「これに記入すれば良いのか?」
「うん、この紙に建造に使う資材の量を書いて高速建造材を使うかどうか選択して、妖精さんに渡せば建造してくれるよ」
「投与する資材の量で建造される艦の種類って変わるんだよな?」
「そうだよ。資材を少なくすると駆逐艦や軽巡洋艦、多くすると重巡洋艦や戦艦、空母なんかも建造できるよ」
「改めて考えるとすごいシステムだな……。同時に建造できたりするのか?」
「この鎮守府だと同時に三隻までなら建造できるよ」
資材に余裕がある今、どうせなら大幅な戦力増加を行いたい。そう思った提督は手元の建造レシピを記した紙を三枚取り出した。
『資材の量はどうしようか?』
提督が悩んでいると、時雨が工廠内にある棚から一つの書類を持ってきた。
「提督、これ使ってよ。前の提督が使っていた建造に関する資料だよ。中に建造レシピも書いてあると思う」
「ありがとう」
提督は時雨から書類を受け取り、目を通す。
中には確かに時雨が行っていたとおり、建造に関する情報が書かれていた。時雨の言った通り、建造レシピもいくつか記されていた。
「……」
「提督? 提督、どうかしたの?」
「えっ!?」
「なんかボーっとしてたけど、大丈夫?」
「そ、そうか、ごめんな。資材の量も決めたし早速建造してもらおうか」
提督は手元の紙に手早く数字を書き込んで妖精に手渡し、工廠を後にした。
建造が終了するまでの間、提督は時雨に他の建物を案内してもらうことにした。二人は工廠から倉庫、艦娘用の寮を見て回り、鎮守府入り口まで戻ってきた。
時雨に案内されて提督はとある建物の中へと入る。そこは一部で畳が敷かれており、竹刀や打込台が設置してあった。
「ここは武道場。柔道や剣道とかの稽古をするために前の提督が建てた場所だよ」
「艦娘も武道を嗜んでたのか?必要になるとは思えないけど」
「確かに武術自体が戦闘で発揮されることはほぼ無いよ。でも、『心と体を鍛えるにはこれが一番だ!』って前の提督が自分で建てて、武術も戦闘訓練に加えたんだよ」
「なるほど……」
武道場の作りは簡単なものであったが、とても丁寧に建築されていた。
「これを前の提督が?」
提督は柱をさすり、その作りの良さに感嘆の息を漏らした。
「うん。僕らも少し手伝ったんだよ」
自慢げになる時雨の説明を聞きつつ、竹刀を手に取る提督。
「ここの竹刀って自由に使っていいの?」
「大丈夫だよ。今は他に使ってる人もいないからね」
「そうか」
提督は竹刀を一本一本手にし、状態を確認していく。そして提督が竹刀の状態を確認し終わると、二人は武道場を後にした。
続いて時雨に案内されたのは、司令部のある建物の右手にあるかなり大きめの建物だ。
「ここで最後だよ」
「ここは?」
「艦娘用の訓練場。艦娘が陸上で訓練するときはここを使うんだ。一階は海上での動きや潜水艦の子達が潜水の練習をするためのプールと空母用の射的場があるよ」
「その上では射撃訓練用のスペースや簡単な装備の修理や調整を行う場所、三階は座学を勉強するための教室があるよ。」
「射撃訓練をしている直ぐ隣で勉強とか集中できるのか?」
「壁には遮音材や吸音材が使われているから全然気にならないよ」
「他に質問はあるかい?」
「いや、大丈夫だ」
提督たちは訓練場を後にし、手元の時計を確認すると既に時刻は19:00を回っていた。
「そろそそ建造が終わってる頃合いだし、工廠に戻ってみる?」
時雨の提案を飲み、二人は訓練場を後にして再び工廠へと向かった。
提督と時雨が工廠に入ると一人の妖精が建造完了の報告をしてきた。
「提督、一番ドックの建造が終わったみたい。二番と三番ドックの建造は後もう少しかかるみたい」
「じゃあ先に一番ドックに行くか!」
足早にドックへと向かう提督。
「ふふっ、子供みたいだよ提督」
「新たな仲間が来るんだ。喜ぶなという方が無理な話だろう」
『それに』
「?」
視線の先では時雨がきょとんとした顔を浮かべている。だが、頭のアホ毛の動きが今までの中で一番激しく動いている。
『時雨もやっぱり嬉しいんだな。けど、時雨にとってはずっと待ち望んでいた仲間だ。嬉しくないわけ無いよな』
そう考えながら時雨のアホ毛を眺めて歩いていると第一ドックに到着した。
「よし、開けるぞ!」
新たな仲間との出会い。提督は一呼吸置いて、ドックの扉を開ける。
その扉の先には一人の少女がいた。背丈は時雨より高く、髪は茶色でロングヘアー。後ろを緑色のリボンで結んでいる可愛らしい女の子だ。
少女は提督を見ると、挨拶をしながら一礼する。
「あの……軽巡洋艦、神通です。どうか、よろしくお願い致します……」
「僕が舞鶴鎮守府の提督だ。こっちは時雨。これからよろしく!」
いつもより数段高いテンションで話しかける提督。
「あっ、こちらこそよろしくお願い致します!」
どこか可笑しな空気の中、舞鶴鎮守府に新たな艦娘が一人着任した。
ドックから出て、他のドックの建造を進行具合を確認した提督は二人に指示を出す。
「時雨、神通にこの鎮守府のことを説明してあげてくれ。妖精さん曰くあと二、三時間でどっちの建造も終わるみたいだから、それまでは二人は自由にしてもらっていい」
「時間になったらこちらから招集をかけるから、工廠に来てくれ」
「「了解(しました)!!」」
「よし、それじゃあ解散!」
時雨と神通から別れて一時間、提督は再度武道場へと足を運んでいた。
竹刀を握り、剣先を打込台へと向ける。深海棲艦の顔に見立てられたそれに狙いを定め、両足のつま先に力を籠める。
前足の溜めを解放し、後ろ足で思い切りフローリングを蹴る。遠間から一気に間合いを詰め、手首のスナップを利かせてそのまま頭頂部へ……。
「っ!」
提督は頭頂部に軌道を合わせたまま竹刀を下へと落とし、頭ではなくその落下先にある小手を確実に捉えた。バチンという軽快な音が武道場全体へと響き渡る。
「一本、ですね」
武道場の入り口から声をかけてきたのは、時雨の案内を受けて鎮守府を回っているはずの神通だった。
「時雨は? 一緒じゃないのか?」
「時雨さんは私たちのために部屋を用意してくださっています……。その間に鎮守府を見るようにと言われたので、地図を頼りにここまで」
「そうか……」
今までは時雨一人だったが、建造中の彼女らを合わせて四人になるわけだから、確かに一部屋では足りないだろう。
まだまだ配慮が足りないと己を律する提督の傍に神通が歩いてくる。
「剣道を嗜まれているんですね」
「小さいころからやっていたんだが、最近はめっきりやらなくなったから腕が鈍ってないか心配でな」
「綺麗な面小手でした。お上手なんですね」
「神通の方こそ詳しそうだな。剣道はやるのか?」
「そうですね、あまり得意ではないのですが……」
「僕でよかったらいつでも練習相手になるよ。というか、一緒に稽古してくれるなら僕としても嬉しいんだけど」
提督の誘いを受け、神通は顔を逸らす。
「すみません……、今はまだ……」
「今は?」
「いえ、何でもないです……。私、他のところを見てきますね」
そういって、神通は走り去ってしまった。
『今はまだ、ってどういうことだ?』
神通のどこか引っかかる言い方に疑問を抱いた提督は身体はひたすら打ち込みを行いつつ、頭では神通のことばかり考えていた。
気が付けば武道場に来てから一時間ばかりが経過し、提督は急いで時雨と神通を集め、工廠へと向かった。
妖精さん曰く、既に建造は終了しているらしい。
早速三人は第二ドックへと向かった。
「よし、開けるぞ」
提督は後ろの二人に合図を送り、扉の向こうにいる仲間との初対面に備える。
重く閉ざされたドックの扉を開く。外側から光を取り込み、徐々にその内側を照らし出す。
「……イトクゥ」
どこからか聞こえる声、それが自分に向けられたものだと思った提督は後ろの二人に訊ねる。
「今、僕のこと呼んだ?」
後ろの二人は首をそろえてNOと返してくる。
「それなら誰が……」
そう言いながらドックの扉を開く。その瞬間、何か大きな塊がドック内から飛び出してくる。
「テイトクゥ!!!」
予想だにしない強烈な突進を受け、提督は塊ごと後ろの木箱へと突っ込んでいった。
「「提督(さん)!?」」
吹き飛ばされた提督も、傍で見ていた二人も状況を理解できないでいた。
そんな中、ただ一人の影だけが提督を覆う。
「君は……?」
頭から思いっきり木箱に突っ込んだせいで朦朧とする意識を取り戻し、目の前の人影に問いかける。
「Me?」
名を聞かれた人影は堂々とした仁王立ちで名乗りを上げる。
「ワタシは英国で産まれた、帰国子女の金剛デース!」
艶やかだが逞しい茶髪を振り回して自己紹介を終えた金剛は固まったままの提督に向けて手を差し出す。
「ヨロシクオネガイシマース!テイトク!」
「こん、ごう……?」
「ハイ!ヨロシクオネガイシマース!」
目の前の少女ははっきりとした物言いで、活力に満ち溢れた振る舞いを見せる。
「とりあえず、一度離れてもらっていいか? 起き上がれないんだが……」
「Oh! Sorry!」
金剛は素早い動きで後ろへとジャンプする。
「提督、大丈夫かい?」
起き上がる提督に時雨が声を掛けてくる。
「あぁ、大丈夫。それにしても、すごい突進だったな」
「私のバーニング・ラブを受け取れられる提督も大したものネ!」
「それはどうも。というか、受け止められていなかったような気もするけど……」
提督は起き上がって土埃を払い、金剛の方を向いて手を差し出す。
「改めてよろしく、金剛」
「オッケー! ヨロシク、テイトク!」
握手を交わし、新たな仲間「金剛」と出会いを果たした提督はもう一人の仲間にいるであろう方向へと足を向ける。
「次は三番ドックだな」
新たに仲間へと加わった金剛を含めた三人を引き連れ、そのまま三番ドックへと移動する。
「よし、開けるぞ。よいっ、しょお!」
両足に力を籠め、万が一の事態に備えながらドックの扉を開く。また金剛の時と同じような突進を食らえば、無事で済むとは思えない。
「……」
まだ薄暗いドックの中に精一杯の注意を向ける。先ほどは正面からだったが、もしかすると側面から来るかもしれない。
「…………?」
ドックの中を注視し、ずっと身構えているが、何も現れる様子がない。
「誰かいるか?」
ドックの扉を完全に開き、意を決してドックの中へと入る。
中では物音一つしない、無音の空間だった。ドック外から差し込まれた光でも中にいるはずの艦娘を捉えることはできず、提督は手元の携帯のライトをつけた。
「あなたが私の提督なの?」
ライトをつけた瞬間、その一言を発したであろう艦娘が照らし出される。
「うわぁ!」
その艦娘は提督の目前で微動だにすることなく、座してこちらを見ていた。提督の存在を確認したその艦娘は正座を解いて立ち上がる。凛とした顔立ちにすらっと伸びた背丈。髪は片側側頭部で綺麗に纏められており、一言で表せば「クール」な印象を漂わせる。
「航空母艦、加賀です。それなりに期待はしているわ。よろしく」
「あぁ、よろしく……」
握手を交わす暇もなく、加賀と名乗った艦娘は提督の隣を通り過ぎて行った。
それにどこか棘があるような、他人を寄せ付けない言い方が提督に会話することを憚らせた。
「と、とりあえず! 時雨、二人の案内を頼んでもいいか? 神通も、改めて鎮守府を見てきてくれ」
おそらく自分では彼女とコミュニケーションが取れないと判断した提督は時雨へと目線を向ける。時雨はこちらの視線に気づき、小さく頷く。
「分かったよ。じゃあ三人とも、僕に付いてきて」
「OK! 行きまショウ!」
四人の背中を見送った提督は工廠を後にし、そのまま司令室のある官舎、その一室へ向かう。横には「医務室」と書かれた看板が付けられている。
中へと入った提督は部屋の中にある幾つもの扉から、一番奥の扉を選んで扉を叩く。
「失礼するよ」
扉を開け、ベッドの隣に置いてある椅子に腰かける。
「君のことについて、話に来たんだ」
提督はベッドの上に座る少女を見つめ、口を開く。
「君、普通の人間じゃないよね」
その一言は、彼女の瞳に映る提督の姿を大きく揺るがせた。
「それは……どういう…………」
目の前の少女は目を見開き、声を震わせてその真意を問う。
「ごめん、言い方が悪かったな。別に君のことを化け物だとか、そんな風に言うつもりはないんだ」
紛らわしい言い方をしたと謝罪を行い、提督は改めて自身の考えを話す。
「初めにおかしいと思ったのは、君が海に浮かんでいるのを見つけた時だ」
「水温の低い海に晒されて人間が生存できる時間はおよそ五、六時間だとされている。それに加え、衣服も身につけずに流されたとなると、普通の人間なら一時間と持たずに死ぬだろう」
「だが、君はこうして生きている。となると、君はそれより後に漂流したことになるけれど、海上にいる時雨からの報告はなかった。そもそも、この近海には人が住んでいる地域は存在していない」
提督は自身の膝に肘を置き、口元を両手で覆う。
「となると、残された可能性としては君が『水温の低い海でも生存できる存在』ということになる」
「人の形をし、海の上でも自由にできる存在はこの世に二つ」
提督は背筋を伸ばして手を広げ、その内の二本を折って少女へと見せる。
「――艦娘か、それとも深海棲艦か」
「……」
「大本営に確認を取ったけど、付近の海軍施設で艦娘が逸れたという報告はされていなかった。となれば、残る可能性は深海棲艦だけど、君からは奴らが発する狂気や禍々しさといったものを感じない。もちろん、これらは全て僕の勝手な想像だし、明確な根拠があるわけじゃない」
「だからこそ、ここで白黒つけておきたいんだ」
今までの提督に見られていた明るい雰囲気は完全に消失する。提督は服の内側へと手を入れ、白銀を光の下へ晒す。
「君は僕たちの味方なのか、それとも敵なのか」
提督は決意に満ちた目で目の前の少女に返答を迫る。
「…………わかりません」
少女は俯き、顔を伏せる。
「自分が誰かも、何をしていたのかも、何も思い出せないんです。目が覚めたらこのベッドの上に寝ていて……。それより前の記憶はあったとは思うのですが、ぽっかりと空いてしまっていて……」
「……」
提督の視線を受け、少女の首は益々下へと落ちる。
「……ごめんなさい」
少女の謝罪を聞き、提督は一息ついて肩の力を抜いた。
「いや、いい。今のところは敵じゃない、それが分かっただけでも良かった」
提督は戦闘態勢を解き、普段の調子に戻る。
「ごめんな、脅すような真似して。君の記憶が少しでも早く戻るように、こちらとしては全面的に支援させてもらうつもりだから」
そう言うと、提督は少女の病室を後にした。
医務室を出た提督は軍服の内ポケットの内、膨らみが小さい方に手を入れて一枚の写真を取り出す。そこには幼き頃の自分と腕を組む男の子、それを見て笑みを浮かべる女の子の姿が映っていた。
「なぁ、吉信、風南濃。お前らがいたら、俺たち今頃どうしてただろうな……」
「こんな思いせず、楽しくやれてたのかな」
窓の外から差し込まれる月光が、提督の影を写真へと落とす。
提督は窓の外に広がる有明月を見上げ、手を伸ばし、拳を握る。
「……お前らの仇、絶対取ってやるからな」
医務室を後にした提督は時雨たちに今日は休むように伝え、自身も事務作業や用事を済ませて眠りについた。
そして、次の日。
「今日はテストを行いたいと思う」
「テスト、デスカ?」
きょとんとした顔をする金剛。提督は頷きを送って話を進める。
「時雨も含めて、僕は君たちの戦闘能力をまだ把握出来ていない。今後の作戦立案のためにも、一度確かめておくべきだと思ったんだ」
「僕は構わないよ。それに、実践で各々の実力を見極めるより、こうして事前に知っておいた方が連携も取りやすいからね」
「他のみんなも異論はないか?」
提督の言葉に金剛はハーイと大きな声で返答する。神通は小さく頷き、加賀は無表情を返してくる。
「よし、じゃあ早速始めよう」
金剛と加賀に的の準備をしてもらう間、提督は時雨と神通にテストの概要を説明する。
「君たち二人には主砲と魚雷を使ってもらい、撃破速度と精度を測りたいと思う。主砲と魚雷の使い分けは気にしなくていい。各々、自分の戦闘スタイルを貫いてくれ」
「「了解!」」
「じゃあ、まずは時雨。合図と同時に始めてくれ」
時雨は頷き、艤装を展開する。背中に格納された主砲を二分して左右両方の手で握り、構える。
「それでは、始め!」
テスト開始を宣言するブザーと共に、設置された的が起き上がる。
時雨は着実に、ミスすることなく的を撃破していく。正面に置かれた的や距離がある的は主砲で、近距離で展開された的や固まって配置された的は魚雷で対処する。
「安定してるな」
前の深海棲艦との戦いでは、敵部隊三隻に対して時雨は一人での戦いを強いられた。しかも敵部隊の中には軽巡洋艦が編成されていたため、状況としては最悪に近かっただろう。だが、そんな圧倒的不利な状況の中でも、時雨は無事に生き残った。それは、偏に時雨の戦闘技術が高かったからに他ならない。
その後も時雨は起き上がったそばから的を撃ち抜き、最後に海面に伏せておいた二つの的を撃破したところで提督は声を掛ける。
「そこまで!」
「提督、どうだった?」
「精度も速度も想像以上だよ。主砲と魚雷の使い分けも上手くできている。けど、遠距離の的に対しての砲撃が苦手なように感じた」
「よく分かったね」
「そもそも駆逐艦の装備は遠距離砲撃には向いていないからな。これだけ命中させれる時雨の腕は大したものだよ」
「ありがとう、提督」
時雨は展開した艤装を収納し、後ろへと下がる。
「次は神通の番だ。用意はいいか?」
「はい、大丈夫です」
時雨と入れ替わる形で、神通は艤装を展開しつつ前に出る。神通の腕に備え付けられた幾つもの小型主砲が正確に稼働しているのを確認した提督は的を起動し、海上へと意識を向ける。
「では、始め!」
開始の合図と共に、先程と同等の爆音が周囲に轟く。神通は指定された的を的確に攻撃していく。照準や攻撃を行う速度は時雨に劣るが、命中率は神通の方がはるかに上だ。だが、それよりも気になることが提督にはあった。
「提督、どうでしたか……?」
的を全て撃ち終えた神通が帰ってくる。
「すごく良かった。変化する状況の中でも安定して的に命中させることが出来るのは神通の確かな強みだと、そう思ったよ」
「ありがとうございます……」
嬉しそうに微笑む神通に、提督は講評の続きを話す。
「けど、近距離でもあまり魚雷を使わなかったよね? もしかして苦手だったりする?」
神通は目を伏せ、言葉を濁す。
「……はい。少し、苦手で…………」
「分かった。なら、今後は魚雷の訓練を重点的にしていこう。苦手を克服出来れば、取れる選択肢を大きく増やせるからね」
「……分かりました」
話を終えた神通には次のテストの準備を始めている時雨の手伝いに行ってもらい、次の参加者を呼び出す。
「次はワタシ、デスネ!」
「そうだから! 一旦落ち着いて!」
早く早くと言わんばかりに詰め寄る金剛を宥め、提督は金剛用に考えたテスト、その内容を説明する。
「金剛は戦艦だから、戦闘では敵主力艦を撃破するための要になる。それと同時に、敵からの攻撃を集中的に受けることも多くなる」
「だから今回は遠距離砲撃の命中率に加えて、敵の砲撃をしっかり回避できるかについてもテストしたいと思う。敵役は時雨と神通にお願いしてるから、二人からの攻撃を避けて的を撃破してくれ」
「OK! テイトク、見ててくださいネ!」
金剛は勢いよく海へと飛び出し、戦闘準備に入る。腰には時雨や神通の使用しているものより数段大きな艤装が付けられており、そこから伸びる砲塔部はその存在感を十全に発揮している。
「始め!」
提督の声を聞き、金剛は両足に力を込めて衝撃を受ける準備を整え、高らかに声を上げる。
「Fire!」
海を揺らす衝撃と共に無数の砲弾が空中で弧を描き、流星の如く的を襲う。その多くが目標から外れるものの、一発当てるだけで十分な威力を誇っていた。
これで金剛な火力要因としての自身の役割は果たしたが、これだけでは足りない。戦艦や航空母艦はその強大さの反面、攻撃が被弾すると修復の際にその強さに見合った資源と時間を必要とする。資源と時間の消費が増えれば、その分鎮守府全体の弱体化に繋がる。集中砲火の中、如何に被弾を減らせるかも戦艦の重要な役割である。
にも関わらず、金剛はその場を動かない。時雨たちから放たれた砲撃がすぐそこまで迫ってきているのに。
流石に実弾を用いてる訳ではないが、痛みを感じるには十分な威力を持っているはずだ。
「もしかして、何かあったんじゃ……」
一度テストを中断し、加賀に様子を見に行ってもらうべきだろうか、それとも様子を見るべきか。あれこれ考えている内に、金剛の方で動きがあった。海上での移動に問題はないことから、本人の体調や艤装に問題があった訳ではないようだ。
そう、移動自体には。
「金剛!?」
提督の目には、砲撃に向かって進んでいく金剛の姿がはっきりと映っていた。あれでは砲弾を回避するどころか、自分から当たりに行っているようなものだ。
危険だと分かっている場所に飛び込んでいく金剛の真意が分からない提督は戸惑うばかりであった。
金剛と砲弾との距離はほんの僅かなものになり、いよいよ接触する瞬間が訪れようとしていた。
こうなってしまった以上、もう救助は間に合わない。提督は固唾を飲んで金剛を見守る。
「一体、どうする気なんだ……」
自身の砲撃で相殺するのか、それとも被弾ギリギリで回避するのか。どちらにしても多大な危機を迎えることに変わりはない。
そんな提督の考えを、金剛は一蹴する。砲弾を前にして、金剛が構えたのは主砲でも足でもなかった。
「ハァァァ!!!」
砲弾が金剛の顔に迫るその一瞬の間に、金剛の拳が入り込んでくる。強く握られた拳は飛来する砲弾の側面と重なり、邪魔と言わんばかりに勢いよく海面へと叩きつけた。
二発、三発。次々に飛んでくる砲弾を見つけては接近し、殴り飛ばしていく金剛を見て、提督の口は開いたまま塞がらなくなってしまった。
「テイトク、どうでしたカ!?」
「あぁ、うん。凄かったよ……」
目の前に繰り広げられたあまりにも異質な光景は、提督が今まで士官学校で身につけた戦術論も一緒に殴り飛ばされたのではないかと錯覚する程だった。
「結果としては無傷での生還。的への命中率も高かったし、文句のつけようがないよ。けど、危ないからその避け方は今後は控えてくれ」
「Oh! テイトクはワタシのこと、大事に思ってくれてるんデスネ!」
金剛はまたしても謎の掛け声とともに提督目がけて突進し、頬を擦り寄せて来る。まるで愛着動物のような仕草と成長した身体とのギャップに、提督は言葉に詰まる感情を覚える。
「デスガ、この戦い方は変えられマセン!」
「ワタシの役目は、皆を守ることデスカラ!」
はっきりとそう答える金剛。
確かに、装甲が厚い戦艦は装甲が脆い駆逐艦を庇うことも時には求められる。
先程の行動は、自身の被弾を減らしつつ仲間を守るために金剛が編み出した戦術だったのか。
一瞬でもタイミングがずれるだけで間違いなく被弾する状況で確実に砲弾を殴り飛ばすためには、極度の技術と集中力が必要になる。そして、それを危なげなくこなした金剛にはそれほどの実力があるということ。今回のテストでは、それが証明されたのだった。
「次は私の番、ですか」
最後に残った航空母艦の加賀が提督の元へとやってくる。その凛とした声の裏には、気乗りのしない彼女の思いが溶け込んでいるようであった。
「加賀は航空母艦だから、主な役割は開幕の航空戦で優勢を確保することなんだけど、今この鎮守府には他に艦載機を飛ばせる艦娘がいない。だから、今日は艦載機の扱いをテストしたいと思う」
「……分かりました。では見ててください」
そう言い放つと加賀はすぐさま海へと入っていった。こちらの説明、あるいはテストそのものをまるで無意味だと言わんばかりに後ろを気にかけることなく。
先ほどからところどころ感じている違和感に提督は頭を悩ませる。確かに最初に出会った時から友好的な感じとは言えなかったが、それだけでは片づけられないような……。
「では、見ててください」
意識を脳内から視界へと切り替えると、加賀は既に艤装を展開し終えていた。上衣には胸当て、右肩には艦載機の発着を行うカタパルト、背中には矢筒。そして手には弓矢が握られており、弓弦に手をかけ、矢を番える。
「……」
加賀の極度の集中、そして静止にその場の時間まで停止させられたかのような空気が満ちていく。
「……弓を捨てて、矢だけ持って攻撃しに行ったりしないよな?」
先ほどの金剛の戦闘スタイルが独特だったこともあり、警戒する提督。
今のところ、加賀にはおかしな素振りは見えない。矢を番え、しっかりと狙いを済ませている。後は矢を放ち、艦載機を飛ばすだけだ。
「……」
弓弦を引き絞ってもピクリとも動かない腕。それはそのまま、加賀の弓の実力に還元される。フォームは完璧だ。後は艦載機を上手く扱えるかどうか。
「…………」
やはり、何かがおかしい。
弓を番え終えて既に一分が経過しているのにも拘らず、加賀は一向にその手を放そうとしない。それに加え、先ほどから感じている違和感。
より一層の注意を払い、加賀を見ていると不意にその腕は降ろされた。何事かと思い、提督は彼女の様子を窺うと、彼女もこちらの表情を窺っていた。
「――ご覧のとおりです」
彼女の口からは、そう告げられた。見た物全てを射殺しかねないほど鋭い瞳が、提督を静かに見つめている。
「ご覧の、とおり……?」
どういうことだ。そう口にするより先に、加賀の方から先の言葉の真意を告げられた。
「私は、艦載機を扱えません」
「え……?」
思わぬ展開に頭がついていかない提督。
それに対し、彼女の方はいたって冷静であった。このギャップこそが、彼女の言葉が確かであることを明らかにするものであった。
艦載機を扱えない、そう明言した加賀。その淡々とした様子が提督を更なる混乱へと導く。
一体なぜ彼女は艦載機を扱えないのか。建造上の不具合か。いやでもそれなら建造を行った妖精なら何かしら報告があるだろうし、そも加賀は自分が艦載機を使えないことをわかっている口ぶりだった。なら何が原因だ? 弓を構えて撃つ直前までできるということは技術的な面で問題は無いはず、なら艤装に問題が――。
「……いとく、提督」
自分を呼ぶ声が鼓膜を揺らす。ハッと我に返り、提督は慌てて声の主へと視線を移す。
「提督、どうなさいますか。艦載機を扱えない空母と分かった以上、解体でも左遷でも好きにすればいいわ」
加賀の諦めとも言える提案を提督はキッパリと切り捨てる。
「解体や左遷を選べるほど、この鎮守府は恵まれていない。それに艦載機を扱えなかったとしても、活躍の場はいくらでもある。君たちにそれを用意するのが僕の役目だ」
「それに今は出来なくても練習を重ねれば、いつか出来るようになるかもしれない」
艤装すら装着できない第三者にこんなことを言われるのはおかしい、そう思われるのは仕方がない。だが出来ないからと諦めていても、絶対に前に進めない。
なら、曲がりなりにも前に進む方がいい。
とりあえず、改めて加賀の戦闘能力を測るために今度は単装砲を使ってみるように指示する。
加賀は装備した単装砲を軽く操作した後に一、二発試し打ちをして感触を確かめる。こちらから見ても操作、発砲共に問題はなさそうであった。
「なるほど」
加賀は納得した様子で副砲を空に構える。その遥か先には、本来艦載機でのテストを想定して設置された的がゆらゆらと波に揺られていた。
副砲では命中させるどころか、付近に着水させることすら困難な距離だ。そう思っていた最中、火薬が連続して爆ぜる音が周囲を揺るがした。
間違いなく加賀の副砲であろう。見上げると、空の青から海の青へと溶け込む様子が目に映った。
「まさか……」
手元の双眼鏡で的に焦点を絞る。双眼鏡のレンズは、設置された三つの的の内二つが倒れている姿を提督の目にしかと焼き付けた。
「外しましたか。もう少し調整が必要ですね」
淡々と分析を行う加賀。それに対し、あまりの衝撃にまたしても言葉を失う提督。これ程離れた距離を副砲で正確に撃ち抜くには、それこそ弓矢で羽虫を仕留める程の繊細さと技術、それに視力が必要になる。
これを見た提督の頭には既に一つの戦術体系が組みあがりつつあった。彼女ら四人でしか絶対に成立し得ない、戦術が。
幾つか波乱の様相を見せたものの、どうにか加賀のテストも終了し、これで現舞鶴鎮守府の戦力を把握することが出来た。
「やはり単縦陣を展開するべきか、いやでもそれじゃあ金剛が動きにくくなる。なら時雨と神通を左右に展開させて空間を作って……」
テストを終え、司令室へと戻った提督は頭の中で考えていた陣形をより強固にするために紙面と顔を突き合わせていた。
「提督、まだ作業してるの?」
扉が開くと同時に、聞き馴染みのある声が聞こえてくる。
「あぁ、せっかく君たちの実力が分かったんだ。いつ深海棲艦が攻めてくるかもわからないし、早いうちに考えておいた方がいいと思って」
紙面に手を加え終わり、コツコツと響く足音を聞いて顔を上げる。
声の主は、やはり時雨だった。いつもと違うのはその手に盆が握られていることくらいか。
「僕たちはもうご飯を済ませたけど、提督はまだでしょ? 簡単なものだけど、よかったら食べてよ」
盆の上には、大小様々な形に握られたおにぎりとお茶が置かれていた。
「わざわざ持ってきてくれたのか」
「最初は金剛さんが「テイトクと一緒にディナーしたいデース!」って言い始めたのがきっかけでね。何か作って、持って行ってあげようってことになったんだ」
「丁度お腹が空いてたんだ。ありがたくいただくよ」
おにぎりの形や大きさに違いはあれど、どれも空っぽの胃には染み渡るほどの美味しさだった。
「それで、作業は順調かい?」
そう言って時雨は隣に立ち、提督が先ほどまで考えていた戦術案に目を通す。
「一応は完成した。けど、まだ一つ問題がある」
次々におにぎりを口に運びながら、提督は手元の紙をボールペンでつつく。
「そうかい? 見たところ、いい考えだと思うけど」
「そこなんだよ」
「そこ?」
提督の言う問題は、既に時雨の肯定する言葉の中に示されていた。
「さっき時雨は「見たところ」って言っただろ。この戦術は今日のテストの結果だけで作り上げた、いわば未完成品なんだよ」
今の言葉を受け、時雨も先の提督が言っていたことの真意を理解した。
「つまり、この戦術が実践で通用するか分からないってことだよね」
「……せめて事前に一回でも試運転できれば、改善箇所も分かるんだが」
「なら、他の鎮守府に演習を頼むのはどうかな? 前の提督はよく出雲鎮守府の提督と演習をしていたから、頼めば承諾してくれるかも」
出雲、ということは島根か。
「分かった、一度連絡を取ってみるよ」
「じゃあ、僕はもう戻るね」
「あぁ。ありがとう、時雨」
時雨は提督の顔を見て一つ小さな笑みを残し、部屋を後にした。
「出雲の提督に連絡を取る前に、まずは報告をしないとな……」
提督は机に置かれた受話器を取る。
ピッポッパッポッピッピッ プルルルルル プルルルルル
「はい、こちら横須賀鎮守府です」
受話器の先から聞き覚えのある女性の声が届く。
「こちら舞鶴鎮守府です。本日、新たに艦娘が三名着任しました。詳しい情報はこれより文面でお送りします」
「了解いたしました」
「では、失礼します」
「はい、ご報告ありがとうございました」
提督は握っていた受話器を一度台に置き、再度持ち上げ、慣れない手つきでボタンを押していく。
受話器からは先ほどとは異なるメロディが発せられていた。
~横須賀鎮守府にて~
「提督、こちらが舞鶴鎮守府に新たに着任した艦娘の詳細なデータになります」
クセ一つなく整えられた黒髪を靡かせ、少女は初老の男性へと一枚の紙を手渡す。
「あぁ、ありがとう。大淀」
「なになに、面白そう! 私にも見せてよ!」
「こら、瑞鶴。提督がお困りでしょう?」
側では瑞鶴と呼ばれた、髪を両サイドで纏めている少女が目を光らせながら身を乗り出し、その隣では艶やかな糸を一つ一つ束ねたような髪の少女が控えていた。
「構わないよ翔鶴。君も興味があるなら、一緒にどうだい?」
「……提督が、よろしいのでしたら」
「あぁ、いいとも」
机の上に大淀から受け取った紙をそのまま置くと、瑞鶴は更に身を乗り出す。
「軽巡洋艦に戦艦に空母。なかなかバランスがいいじゃない……って、え!?」
「どうしたの瑞鶴?」
身を乗り出していた瑞鶴は大きく仰け反り、思わず倒れそうになる。
彼女らから「提督」と呼ばれる男性も、先ほどより明らかに表情を曇らせている。
「一体何が……」
書かれているのか。そう思って紙面に目を映した瞬間、ある二文字が目の中へと飛び込んできた。
それは翔鶴にとっても、感情を揺さぶられるに値する二文字だった。
「加賀……先輩…………」
受話器の先から流れる呼出音は一定の間隔で提督の心臓を締め上げる。
「出雲鎮守府の提督、どんな人だろう……」
先代の提督と交流があったことを考えると、ある程度年齢を重ねているのだろうか。それとも若くして提督になった天才なのだろうか。
そんなことを考えていると受話器の呼出音がブツリと途切れ、代わりに元気に満ち溢れた声が受話器を突き破ってきた。
「はい、こちら出雲鎮守府です! もしかして、新しく舞鶴鎮守府に着任された司令官の方ですか?」
「え!?」
その元気いっぱいの応答にも驚いたが、何よりこちらの素性を知っていることに驚きを隠せない。
「どうして僕のことを……?」
「以前は何度も電話がかかってきたので、舞鶴鎮守府の番号は覚えてました!」
どうやら前任の提督はかなり出雲鎮守府と交流を持っていたらしい。まさか番号を記憶する程とは。
「それで、どういったご用件でしょうか? こちらの司令官にお繋ぎしましょうか?」
「お願いできるか?」
「分かりました! 少々お待ちください!」
その一言を境に少女の声はこちらには届かなくなった。
そして、待つこと十秒。少々渇きを帯びた、渋い声が受話器を通して耳の中へと入ってきた。
「お電話変わりました。あんたが新しい舞鶴の提督か?」
「はい、突然のお電話で申し訳ございません」
「いいっていいって。おかげで書類とのにらめっこから逃げられる」
「逃がしませんよ、司令官!」
先ほどの少女の声が向こうの提督の声に被さってくる。
「……やっぱりだめ?」
「ダメですよ! 私も手伝いますから、一緒に頑張りましょう?」
「はいはい、分かったよ」
受話器の向こうでは、二人の声のほかにも微かに紙上で筆先を動かす音が聞こえてくる。
「やはり、お忙しかったのでは……。また後程掛け直しましょうか?」
「いや、いいよ。それより、何の用で電話を?」
向こうの質問に、提督は単刀直入に自身の望みを打ち明ける。
「実はこちらの艦隊と演習を行ってもらえないかと思いまして」
その言葉を受話器に流すと、向こう側ではバンと机を鳴らす音が返ってきた。
「演習か!? いいねぇ! やろうやろう!」
まさかの二つ返事でのOKに、逆に困惑する提督。
何故こんなにもノリノリなのだろうか……。
「前はこっちから演習しないかって誘ったんだけど、まさかそっちから誘われるとはな!」
「私も、久しぶりに時雨ちゃんに会いたいです!」
「そうだろ吹雪! よし、いっちょやるか!」
口を挟めないままトントン拍子に話が進んでいくものの、演習自体は取り付けられそうな流れで提督は一先ずの安心を手に入れた。
「じゃあ、今週末にそっちの鎮守府に行くから、よろしく!」
「いえ! こちらから頼んで演習をさせてもらっているのに、わざわざ足を運んでもらうなんて!」
出雲から舞鶴までは相当な距離だ。なら、演習をしてもらっているこちらが出向くのが筋だろう。
「そっちの鎮守府、最近稼働再開したんだろ? 艦娘は何人だ?」
四人と答えると、やれやれといった様子で言葉を続ける。
「そっちが鎮守府留守にしたら、誰が留守番するんだよ。すっからかんにするつもりか?」
「……あっ」
確かに、この鎮守府に在籍しているのは僕含め五人。あの子の様子も見ておかないといけないし、全員が離れるわけにはいかない。
「それに、こっちの鎮守府まで来た事ねぇなら余計な体力消耗する羽目になるだろ。せっかくの演習なのに相手が全員満身創痍とか何の練習にもならねぇよ」
「……はい」
ぐうの音も出ないとはこのことだと、提督は痛感する。
「すみません。頼んでおいた上に来てもらう羽目になってしまって……」
「いいんだよ。そっちには行き慣れてるし。な、吹雪?」
「はい!」
「そういうことだ。そっちは演習の準備と何かうまい飯でも用意しててくれ。じゃあな」
それを最後に電話は切れてしまった。
本来演習を頼んでいたはずなのに、いつしか話のペースを相手に握られた提督は名状しがたい疲労感に襲われることとなった。
「何はともあれ、これで演習が出来る」
「後は僕の戦術が実践で通用するかどうか、だ」
そう言って提督は再度紙面を見つめ、また新たに筆を走らせ始めた。
来る週末。作戦会議室には提督含めた全員が集まり、最終確認に入っていた。
「皆、陣形は頭に入っているか?」
「はい。加賀さんが前方で哨戒し、私と時雨さんで左右の警戒をしつつ加賀さんと後ろの金剛さんを支援。そして後ろの金剛さんが主力となって砲撃、ですね」
「Yes! 私に任せてクダサーイ!」
「加賀はどうだ? 慣れない武装での戦闘になるけど、大丈夫か?」
「問題ありません。与えられた任務は必ず遂行します」
「そうか。時雨はどうだ?」
「うん、大丈夫。任せて」
全員の調子に問題がないことを確認した提督は最後の一声をかける。
「よし、みんな行くぞ!」
「「「「はい!」」」」
「こちらの準備は整いました」
時雨たちが艤装を展開して戦闘準備に入っている間、提督は出雲からやってきた提督の元を訪れる。
「おう、こっちも準備できてるぜ」
出雲の提督は部屋の窓を指差す。窓の外では出雲鎮守府から来た艦娘たちがウォーミングアップを行っていた。
「改めて、俺は大山一成。お前さんの艦隊と同じ編成で来たからな。今日は思いっきりやり合おうぜ!」
「晴間です。今日はよろしくお願いします!」
二人の間では開戦の握手が組み交わされ、鎮守府からは猛々しいサイレンが周辺一帯に響き渡った。
~舞鶴鎮守府side~
「敵部隊、発見。編成はこちらと同じみたいね」
先頭で目を凝らす加賀の目には、単縦陣で陣形を組み、こちらにゆっくりと進行する艦隊がしっかりと目に映っていた。
「なら、中距離での総力戦になるのでしょうか」
神通は口に手を当て、今後の展開を予測し始める。一方、加賀は己の鋭い眉を顰め、再度口を開く。
「……訂正します。向こうには、空母がいます」
「Oh……。ト、いうことハ……」
「全員、対空準備。来るわ」
空を見上げると、遥か遠くの雲に小さな影が映っては消えていくのが確認できた。
加賀は単装砲を掲げ、砲撃を開始する。
「Where!? ドコですカ!?」
「僕にも見えない……」
「私もです……」
「よく見なさい。左舷前方から雲に紛れてこっちに向かっているわ」
三人は目を凝らして雲を見つめる。が、どこまで見ても白い雲しか目に入らない。
「Nothing! どこにもいませんヨ~!」
「艦載機同士をあまり密集させず、分散させて発見し辛くしているわ。撃退はまず無理でしょうね」
「なら、迎撃は最小限にして回避に専念しよう。予めくる方向が分かっているなら、まだ避けやすいはずだよ」
「分かりました。加賀さん、艦載機との距離はあとどれくらいですか?」
「まだ雲の中ね。あと一分もしないうちに出てくるわ」
「かかって来いデース!」
加賀が砲撃を止めたことで、一時の間が場に流れる。この間にも、時雨たち舞鶴艦隊には着実に攻撃の手が重ねられていた。
【この雨を止めるため】の第一話から第二十話までをまとめました。
続きも随時更新していくので、よろしければ応援等よろしくお願いします!
追記
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青年よ。これから苦しい事や悲しい事がたくさんあるだろう。それをどう乗り越えるか、そしてどう成長していくか
君の歩み道が少しでも明るくあるように
これから楽しみにしています。お互い頑張りましょう!
ポテ神提督さん、コメントありがとうございます!
応援までして頂き感激です!
ご期待に沿えるよう頑張っていきたいと思います!
短いながらも、一つの話として完結できていて、文章も読みやすいです。
今後の活躍、楽しみにしております。
無陰暴流さん、コメントありがとうございます!
これからも頑張って投稿していきますのでどうか
よろしくお願いいたします!