2022-10-10 15:33:34 更新

概要

この作品は、一人の青年が様々なトラブルに遭遇しながら必死に提督として成長していく物語です。


前書き

※誤字、脱字または文脈の乱れ等、至らない点が多々あると思いますが、どうか温かい目で見ていってください。
※キャラ崩壊ありです
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


 加賀と天龍、双方が睨み合う状況から一変して激しい接近戦へと移り変わる。身を削らんとする至近弾にも屈することはなく、攻撃を重ねる両者。

 二人にとって接近戦こそが最大の攻めであり、守りであった。

 加賀はその軽やかな身のこなしを活かし、海上を縦横無尽に駆け回って攻めかかる。それに対し、天龍は携えた愛刀を以て悉くを切り払い、返しの砲撃を見舞う。

 前後左右、様々な角度から砲撃を繰り返すことで天龍の動きを封じ、少しでも命中する確率を高めようとする加賀。事は加賀の思惑通りに運んではいるものの、有効だとなる一撃は簡単には与えられない。

 構図としては加賀が攻めたて、天龍がそれを防ぎつつ反撃の隙を窺うといった様子である。

 加賀の単装砲は幾度も火を噴くが、天龍はそれを防いだ上で尚反撃を行う。そこには「手数の差」が明確に表れていた。

 それを全身で理解している加賀の肩は僅かに上下し始めているのに対し、天龍には明らかな余裕が見て取れる。

「やはり、どちらかを潰すしかないわね」

 加賀は砲身をやや下に向け、姿勢を低く構え、更なる前進を試みる。先ほどまでは敵艦本体を狙っていたが、今度の狙いは本体のやや下側。

 加賀の動きから敵の狙いが自身の艤装、より具体的に言うならば背後の艤装側面に備えられている主砲であると察した天龍は武器を中段に構えつつ主砲での牽制を加え、回避の体制を整える。

 天龍はただ逃げの算段を整えたわけではない。敵が攻撃に熱を出して隙を見せた瞬間、それを機に一気に攻めるつもりでいた。

 しかし、天龍は気づけなかった。目の前の相手にとって、その思惑こそが最大の隙となることを。

 加賀は先ほどとは比べ物にならない速度で左右に動きながら前進し、反撃の隙を与えないまま天龍へと接近する。その速度は駆逐艦の速度に匹敵するか、或いはそれ以上であった。

 航空母艦である加賀は本来これほどまでの速度を出すことはできない。だが、これは航空母艦としての艤装を殆ど装備せず、単装砲一つで戦場に立っても華咲くことが出来る彼女にのみ与えられた恩恵である。

 加賀は予め狙っていた天龍の主砲へ砲撃を行い、天龍はそれを全身全霊で迎え撃つ。

 砲撃をどうにか捌いて反撃を行うものの、加賀の前進は一向に止まる気配を見せない。

 これほどまでに接近されると、もう超近距離戦しかない。そう考えた天龍は彼女の全身に注意を払い、刀を構える。

 加賀は天龍と接触するその直前、構えていた主砲を放つ。狙いは当然、目の前の天龍。

 その天龍は刀を上げて切先を立てる。加賀の全身に注意を払っていた天龍だが、加賀が主砲を構えた瞬間、その意識は主砲へと注がれた。

 その甲斐もあり、加賀の放った砲弾は直撃する前に真っ二つとなった。

 砲弾を斬った天龍は反撃に出るが、その視界には敵の姿は映っていない。


ガキィィィン!!!


「っ!?」

 巨大な鉄槌で下から思いっきり打たれたような、そんな痛覚に見舞われた天龍はよろめき、咄嗟に患部を手で覆う。

 痛みに耐え、痛みの根源であると思われる敵艦を見ると、振り上げた脚を戻し、物珍しそうな表情を浮かべていた。

 それもそのはず。

 ついさっきまで己の手の中にあったはずの愛刀が、いつの間にか敵の手に渡っているのだから。

「お前っ……、最初からそっちが目当てかよ……」

 痛みを意識の奥底に抑え込む天龍。

 一方、加賀は新たに手に入れた武器の調子を確認して右手に構える。左手には先ほどまで使用していた単装砲が握られている。

「良い装備ね。使わせてもらうわ」

「それ、オレ以外まともに使えるヤツ見たことねぇぞ」

「なら、試してみましょう」

 加賀は右手を前に構え、後ろ脚に力を籠める。その姿、その戦いぶりは航空母艦とは思えないほど様になっていた。


 加賀の攻勢が意味を成し、天龍との間にあった手数の差はこれで埋められた。加賀は新たに手に入れた武器と共に海を裂く。その道中にあるものは、何であろうと容赦はしない。

 一つ水飛沫が上がると、砲弾がその行く手を阻みに来る。だが、今の彼女に触れようとするものに、一切の慈悲は与えられない。

 二つ水飛沫が上がる前に、砲弾は鉄屑となってその役目を失う。

 三つ水飛沫が落ちた後には、その刃が天龍に届くであろう距離まで加賀は接近する。だが、接近することによるメリットは何も自分だけのものではない。

 天龍の砲撃を目で追うことは出来ても、身体が反応しきれないのだ。来ると分かっていても、避けることが出来ない。不可避となった天龍の攻撃が自分の身を襲う。

 一度脳内で予測再生された痛みが、実体となって体中を駆け抜ける。だが足を止めるわけにはいかない。

 私は勝つためにここにいる。勝利を得るために、戦う。

 そう、一航戦の誇りにかけて。

「……マジか」

 目の前にいる、まともな装甲を一つも積んでいないのにも関わらず、砲撃をものともしないでいられる敵の姿に思わず声が漏れる。

 だが事実として、至近距離での砲撃を以てしてもなお敵の眼からその戦意を取り除くことは出来なかった。このままでは反撃を受けるのは必至だろう。

 だが、まだ負けたわけではない。

 天龍は自身の腰から鞘を抜こうと手を伸ばす。鞘を抜き、敵の刀を食い止めることが出来れば。

 その望みを己の腕に託すよりも早く、敵の刀はこちらに届いた。その渾身の一振りによって、自身の望みは根元から寸断される。刀の峰が、自身の腹にめり込んでいる。

 吸った息を吐くことも、吐いた息を吸うことも出来ない。酸素の循環が止まり、一瞬にして視界に靄がかかる。

 靄はやがて黒く蝕まれ、無意識の底に沈んでいった。

 ドサッという勢いで崩れ落ちる天龍。その手から零れ落ちた鞘を加賀は手に取り、刀を納めて天龍の元に戻す。

 その時、戦闘で受けた傷や破けた衣服も同時に目に入ってきた。

「鎧袖一触……とは、いかないものね……」

 空っぽになった腕を見つめる加賀。その瞳に映る幻影を未だ追いかけ、縋りつこうとする己の弱さに唇を噛む。

 痛みで弱さを押し殺し、加賀は再び単装砲を構えてその場を後にする。

 一航戦の名において、敗北は絶対にありえない。

 それは個人の勝負だけに留まらない。自分が作戦に参加する以上、成功以上の戦果を挙げてみせる。

 いや、挙げなくてはならないのだ。


 加賀と天龍の戦いが苛烈を極める中、吹雪と神通による戦いの景色はその片方だけが色濃く変化していた。

「はぁっ、はぁっ……」

 吹雪は激しく踊る肩を必死に押さえつける。

『早く呼吸を整えないと……』

 じゃないと、あれが来てしまう。一切の容赦なく、一片の慈悲なく、無尽蔵な力で私を叩き潰そうとする、鬼が。

 肺にありったけの酸素を送り込み、感覚を研ぎ澄ます。視覚、聴覚、嗅覚を全て使って鬼の気配を探り当てる。

 跳ねる水面、空を斬る音、硝煙の匂い。それらの痕跡を辿ると、その存在を脳に刻むことは出来る。だが、問題はその先にあった。

 

 ドドドォン!!! ドドドォン!!!

 

 常に神通はその超速度で吹雪の死角へと入り込み、砲撃を幾重にも重ねて放ってくる。しかも砲撃を放つ腕を交互に入れ替えて、次弾装填によって生まれる隙を限りなく減らしている。だから吹雪は反撃することも、回避することも許されない。

 ここまで徹底してこちらの行動を制限し、隙を咎めてくるとなると、いっそ鬼より閻魔と表現した方が正しいのかもしれない。

『このままだと、確実に負ける……』

 ならどうするか。敵の砲撃と砲撃の合間に生まれる僅かな時間で吹雪は思考を何十倍にも膨らませる。

 敵はこちらの死角に回って攻撃をしてくる。それを目で捉え、反撃することはまず不可能。

 攻撃の主導権を向こうに握られている以上、撃たれる前に撃つのも無理がある。

『なら、今の私に出来るのは……これしかない』

 吹雪は両腕を体の前で交差させ、亀のように頭を腕の中へと引っ込める。

 明らかに攻撃を捨てた構えを見て、閻魔と化した神通の審判は吹雪を更なる地獄の奥底へと招き入れる。

 抵抗することなく、ただただ一方的に撃たれ続ける吹雪。だが、奥に潜んだその両目は腕の隙間越しに神通の姿をはっきりと捉えていた。

 それは被弾を承知の上で動きを止め、砲弾を浴びながらも相手の動向に意識を割いた賜物であった。

『やっぱり速い……。けど動き自体は複雑なことは何もしていないし、死角に入る時も姿勢を低くするか、左右に大きく移動するかのどっちか……』

『そして左右に回り込んできた時、必ず背後に回り込んでくる』

『狙うなら、そこしかない!』

 交差する腕に力を籠め、吹雪はじっとその瞬間を待つ。

 痛みで途切れる集中を繋ぎ、焦る気持ちを抑え、敵の行動を見誤らないよう慎重に、慎重に。

 十回以上に渡る被弾を振り絞った気力で乗り越える。その先では、吹雪の描くシナリオ上に神通の姿が浮かび始めていた。


『身体が左に傾いてる……。このまま左に移動してきたら、その次は背後に回り込んでくる……』

 痛みで溶ける集中を押し固め、一度きりのチャンスを待つ吹雪の目に、砲身の先で照り返す陽の光が左に薄れたのが一瞬映る。それが敵の残影であると気づき、急ぎ左を向くと既に砲撃準備を始めている神通の姿が飛び込んでくる。

「ぐっ!!!」

 すぐ防御の姿勢を取り、容赦なく襲いかかる砲撃をその身で受け止める。体が悲鳴を上げようと、視線だけは断固として敵から目を離さない。

 砲撃を終え、再び視界から消える神通。だが、吹雪は確かに捉えた。彼女の行く、その先を。

 雑巾みたくボロボロになった体を全力で左へ絞り、その身から絞り出される気力を両手へ注ぎ込む。

 手のブレを最速で修正し、撃たれるより先に引き金を引く。渾身の反撃を以て、この戦いに勝利するために。

 砲撃の動作に入っていない、しかし確かに移動を始めている敵はこちらの思惑通り、放った砲弾へと自分から吸い込まれていく。

『当たる!』

 緊張で引き伸ばされる刻の中で、勝利に繋がる一秒を吹雪は待った。

 敵は徐々に砲弾に近づいていく。それに伴い、自分もまた勝利へと近づいていく。

 まだか。まだか。まだか。

 目前の勝利に手を伸ばし、もどかしさに苛まれながらも、それが己の手に収まるのを吹雪は待つ。

 だが、ふと思う。

 一秒とは、こんなにも長いものだったのか。


 ドォン!!!


 激しく飛び散る水飛沫に思わず顔を逸らす。すぐさま顔を上げると、すぐ目前だった勝利は跡も形もなくなっていた。

「終わりです」

 薄く研ぎ澄まされた刃のような声が腹を抉る。すぐさま下を向くと神通が自身の懐へと飛び込んでおり、無数の銃口を突きつけていた。

『いつの間にこんな近くに!? さっきまでそこにいたのに!』

『動きは完全に読み切ったはずだったのに、一体どうやって……』

 何が起きたか分からず混乱していると、神通の足がほんの僅かに震えているのにふと気づいた。

 一瞬疲労が溜まったのかと期待したが、体幹が全く崩れていないことを考えるとそれはないだろう。

『ならどうして?』

 そこに一抹の希望を見出そうと思考を巡らせている中で、ひたすら攻撃に耐え、必死にチャンスを探っていた時の記憶が思い出される。

『あの時はとにかく移動先ばかり注視していたけれど、移動する前も同じように震えていた……というより、「力んでいた」ような……』

「では」

 その言葉が合図となって二人の戦い、その幕引きが始まる。神通は全砲門による一斉掃射を以て、吹雪の身体を

「そこまでよ」

 消し飛ばす、その直前で何者かの腕に遮られる。

「……加賀さん」

 別れてしまった仲間の姿を見て、瞳に落ちた影が消えていく。

「やめなさい。それ以上は演習による怪我では済まなくなるわ」

「……はい、分かりました」

 先程までの感情の一欠片も見せなかった様子から一転、大人しく主砲を下ろす神通を見た加賀は次に吹雪の方を向く。

「あなたはどうするの。不満があるなら、私が相手になりますが」

 吹雪は突然の出来事に反応を示せずにいたが、加賀の問いかけでようやく状況を理解することが出来た。

「……いえ、あのまま戦っていても、負けていたのは私です。ありがとうございました」

 吹雪は一度深く頭を下げる。これにより加賀と天龍、神通と吹雪の対決に幕が降ろされた。

「そういえば、天龍さんは?」

「向こうでのびているわ」

「えぇっ!?」

 まさか倒された挙句放置されているとは思っていなかった吹雪は、全速力で天龍の元へと駆けていった。

「私たちはどうしますか?」

「援護に向かったところで間に合わないでしょうが……一応、向かいましょう」

「はい」

 

 こうして加賀と神通、二人の戦いはこれにて一段落となり、話はもう二人の方へと切り替わることとなる。


 時は少し遡る。

 神通と別れた金剛は先の砲撃が飛んできた方角を頼りに、敵陣に向かって突き進んでいた。傍から見れば無謀な特攻だが、それでも金剛は決して足を止めることはなかった。

 この思い切りが功を奏したか、金剛の目に何やら見覚えのある物体が目に入る。

「あれは……艦載機、デスネ」

 航空攻撃の時は米粒と同じくらいの大きさであったが、今はそのシルエットをはっきりと捉えることが出来た。それはつまり、まだ艦載機が高度を完全に上昇しきれていないということであり、同時に艦載機の発艦者がそれほど遠い距離にいないことの証明となる。

「敵はモクゼン、デスネ!」

 金剛は更に速度を上げ、一気に距離を詰める。

 艦載機に気づかれたとしても臆することはなく、引き離すつもりで前へと進む金剛の少し遠くには、別の人影が徐々に接近しつつあった。


「っ! 敵戦艦発見! 単騎でこちらに向かってきています!」

 追撃のためにと放っておいた艦載機から思わぬ敵艦接近の報を受け、祥鳳の声には焦りの色が混ざっていた。

「なら、こちらから仕掛けるぞ」

 動じる様子はなく主砲を展開する長門を見て、祥鳳も己に喝を入れ、出撃させていた艦載機に待機を命じる。

「攻撃準備開始!」

「はい!」

 敵艦がこちらへ来ているということは吹雪と天龍による包囲に穴が出来たということになり、その穴は自分たちの作戦を崩れさせるのに十分な大きさであることは容易に想像できた。

 だからこそ、ここで確実に倒しておく必要がある。

 それに予想外の事態とはいえ、敵艦隊の要である戦艦が一人で行動しているのは明らかにチャンスだ。そこに何かしらの思惑があったとしても、この機を逃す手はない。

『何を企んでいるのかは知らないが、その思惑ごと叩き潰す!』

 二人は各々の目線で標的を捉え、照準を定める。

「「攻撃(爆撃)、開始!」」

 放たれた砲弾は空を切り裂く大きな礫となって目標を穿ちにかかる。祥鳳の命令を受けた艦載機も高度を一気に下げ、目標へと接近していく。

 先に攻撃が届いたのは祥鳳の急降下爆撃だった。

 だが、先程から艦載機が付近の上空を飛んでいること、そして頭上から一気に襲いかかろうとしていることに金剛は気づいている。

 故に、既に対処法も頭の中で浮かべていた。

 

「来ましたネ」

 敵艦載機の様子が変わったのを見て、金剛は不敵な笑みを浮かべて大きく右足を振り上げる。

 何も特別なことをする訳でない。

 ただ、上げた足を全力で振り下ろす。それだけだった。


ドォン!!!

  

 水平線の遥か先まで届くような衝撃音と共に生まれた巨大な水の槍は、迫り来る艦載機のいくつかを捉えてその自由を奪いとった。難を逃れた他の艦載機も攻撃どころではなくなり、一度撤退せざるを得なかった。

「コレで艦載機はOK」

 何とも単純な、いかにも力技といった感じだが、その分効果は顕著に現れた。

 それに、これなら両手を使わなくてすむ。

 叩きつけた足に余力を残し、その他の力を今度は拳へと流し込む。そしてすぐさま拳を思いっきり右に振り払う。

 ガキンという鈍い音が響き、拳を振り抜いた先の水面が大きく浮き上がる。

 普通なら先の艦載機に気を取られ、何も気づかずにお陀仏だったが、金剛には自分に襲いかかる砲弾がはっきりと見えていた。

 なら、自分に当たる前に叩き落とせばいい。

『って、思っていたのデスガ……』

 感覚が麻痺している右拳を動かしながら、続く二発目も左拳で殴り飛ばす。またしても、骨身に響く衝撃が拳に走る。

『このPower……。早く決着をつけないと危険デスネ』


後書き

「コレジャナイ...... コレジャナイ......」を繰り返してたら全く原稿が進みませんでした。反省


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