2014-08-15 12:25:44 更新

10話


計佑は今、眠っていた。

雪姫がようやく落ち着くと、茂武市たちと共に雪姫の伯父の車に乗り込んだのだが、

その後すぐに寝込んでしまい……部屋に運ばれた今も、そのまま苦しそうに眠り続けている。


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「ホントにヒドくやられたね……」

計佑を診察した医者──雪姫の伯父が、雪姫、硝子、茂武市、カリナの4人に計佑の状態を説明していた。

「打撲はあちこち……右手は擦り傷も酷いけど、ヒビが入ってる指もあった。そして、肋骨も折れてるみたいだね」

黙って話を聞き続ける4人。

「傷口にバイ菌が入ってしまったんだろうね。今熱が出ているのはそのせいだろう。抗生剤は与えたから、明日までには落ち着くと思うよ」

立ち上がりながら、伯父が言葉を継ぐ。

「ともかく、今はゆっくり寝かせてあげなさい」


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玄関へと向かう叔父に、雪姫がついてきていた。

「あの……伯父さん、本当にありがとうございました」

「いやいや……そんな事より勇敢な少年だね彼は。……雪姫ちゃんの白馬の王子さまってところかな?」

伯父は靴を吐きながら軽口を叩いてみたのだが、雪姫が無反応なのにおや、と思う。

振り返って見ると、雪姫は顔を赤くして目を伏せていた。


──へぇ……あの雪姫ちゃんが。これはホントに……?


『雪姫ちゃんはさぞもてるんだろう? もう彼氏の一人や二人くらい──』

そんな風に雪姫がからかわれるのはよくある事だったが、

雪姫はそれにいつも困った顔で、しかしはっきり否定はしていた筈だ。


──まあ……幸雄と闘うことになるんだから、あれくらい頑張れる男の子じゃないと厳しいものなぁ……


弟の事を考えると少年の今後がちょっと不憫になったが、それ以上は会話を続けず、伯父は屋敷を去るのだった。


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──パタン。


計佑が眠る部屋に入った雪姫が、襖を閉めた。

グロー球と田舎ならではの明るい月光のおかげで、部屋は意外と暗くない。

特に何が出来るという訳ではないけれど、もしかしたら状態が急変することだってあるかもしれない。

だから交代で様子を見よう。そういう話になったのだが、雪姫はそれを一人で引き受けた。

──というより、自分だけにやらせて欲しいと頼んだ。

こんな事になったのは自分のせいだから──と。

勿論カリナや茂武市はそんな事はないと否定したけれど、雪姫の気持ちも汲んで引き下がってくれた。

ただ、硝子だけが渋る様子を見せていたけれど……


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計佑は夢を見ていた。

まくらが、誰かと話をしている。

その相手は……例の写真の人物、美月芳夏だった。

まくらが、美月芳夏の言葉に何か衝撃を受けている。

まくらの身体が震え始めて……


──どうした、まくら。何を言われたんだ……


計佑の言葉はまくらには届かない。


「……ぅした、まくら」


呟いた言葉と同時に、計佑は目を覚ました。

ぼんやりとした意識の中で、直前に見た夢を思う。


──夢……だよな。なんで写真の人とまくらが会話なんて。 ……でも、夢にしてはなんか気になる……


そういえば、まくらの姿を随分見ていない気がする。

体育倉庫まで案内してくれた後、自分が男たちに暴行を受けている間、

無駄だとわかっていても必死に叫び、男たちに殴りかかってくれていた。

けれど警察が駆けつけて、雪姫が開放されてから……まくらの姿を見かけていない。


──探さなくちゃ。


身体は痛むが、とりあえず上半身を起こすと──


「目が覚めた?」

「──!!」


そこではじめて、傍に雪姫が寝そべっていた事に気付いた。


「……何時間も熱が下がらなくて、うなされてたんだよ……よかった、落ち着いたみたいで」


雪姫がほっとした様子で微笑を浮かべて、起き上がる。そしてコップと水差しを手に取って、


「お水、飲む? 喉乾いてるんじゃない?」

「……あ……はい、お願いします」


確かにノドが乾いていた。ちょっと声を出しにくいくらいだ。

雪姫が注いでくれた水を受け取ると、一気に飲んだ。


「もう一杯飲む?」

「……はい、お願いします」


雪姫がまた注いでくれた水を飲んで、ようやく落ち着いた。


「……ふう……ありがとうございました」


礼を言うと、雪姫は無言で微笑んで、コップを受け取るとお盆に戻してくれた。


「……先輩、まさかずっと起きてくれてたんですか?」


申し訳ない気持ちで、半ばクセになってきた謝罪も継ごうとしたが、


「ねぇ計佑くん……」


雪姫が話しかけてきたので、とりあえず言葉を呑み込んだ。


「……計佑くんは……なんでそんなに優しいのかな」

「……え? オレ別に普通だと思いますけど」


謙遜などではなく、本心でそう答えた。けれど、雪姫はふふっと微笑うと


「普通、か……まあ計佑くんならそう言うよね……『本当に』優しい人だから」


そんな風に言ってくる。


「……? はあ……でも優しいって言うなら先輩の方がよっぽどだと思うんですけど。

今だって……わざわざ俺のために起きててくれたんでしょ?」

「……それは計佑くんだからだよ」


早口の小声だったせいで、よく聞き取れなかった。


「あの、今なんて──」

「私は。ただ人前ではいい顔をしようとしてるだけだから。『本当の』優しさとかじゃないんだ……」


寂しそうな顔をして言う雪姫に、なんと言っていいかわからない。

この旅行中も、みんなに色々と気を遣いながら取り仕切っていた雪姫。

そんな人が、なんでそんな風に思うのか不思議だったが、

彼女の深い内面の話なのかと思うと、軽く口を挟む事が出来なかった。


「……それにしてもさっ」


気をとり直したように、雪姫が笑顔を浮かべて話しかけてきた。


「計佑くんが優しいのは知ってたつもりだけど、あんなに強いのにもびっくりしたよ」

「ええ!? どっどこが!? 」


今度こそ納得できず、声を大きくしてしまう。

男たちに一撃すら入れることが出来ず、サンドバッグになるだけだったのに。

つい、またからかいモードに入ったんだろうかと疑ってしまう。


「あんな恐い人たちに、正面から向かっていって……勝てないだろうって事はわかってても、

……私……のために立ち向かってくれたんだよね?」


途中、一瞬ためらいながらも、雪姫が質問してきて。


「いや……あれはカッとなっちゃっただけで。別に勇気とかそういう話でもないんですけど……」


勿論、雪姫を助けるために駆けつけたのだけど、計佑は今まで殴り合いのケンカなんて一度もやった事がない。

だから勝てないだろう事は分かっていた。それで道中に、雑だが一応プランは考えたりもしたのだ。

警察は呼んであるのだから、その事を連中に伝えて。

お前らの顔と車のナンバーは覚えたと煽って、逃げまわり時間を稼ぐとか──

でもあの時、縛られた雪姫とその傍にいる男を見た瞬間、もう我を忘れてしまったのだ。


──ただ実際、そんな手をとらなくて良かったわけだけれど。

連中は想像以上にタチが悪かった訳で、もしそんな手をとっていたら、

警察が来る前に口封じだと雪姫たちを殺しにきていたかもしれない。


そういう訳で、雪姫は自分の勇気を讃えてくれているらしいが、素直に受け止める事ができなかった。

それでもやはり、雪姫は微笑のままで見つめるくる。なんだか尊敬の眼差しのような──


「やっぱり計佑くんはすごいよね……きっと本気でそう思ってるんだもんね」


──いや、本気も何も事実だし。


そう思うのだけど、これ以上反論するのも堂々めぐりになる気もして、それは口にせず、代わりに雪姫のことを話題にした。


「先輩の方がすごいですよ……あいつが俺に刃物向けた時、体当たりしようとしてたでしょ? 正直、焦りましたよ」

「……それも計佑くんだったからだよ」


また小声で言われて、やっぱりよく聞き取れなかった。


「……本当に、すごく嬉しかったんだよ……計佑くんが助けに来てくれた時。

……でも、どうやって見つけてくれたの?」

「え、あ!? そ、それは……!!」


──マズイ!! そんな言い訳は考えてなかった!! ええとええと……!!


必死で頭を働かせながら、適当なセリフを繰り出す。


「……コンビニの帰り道。オレと須々野さんもあいつらにちょっと絡まれたんですよ。

それで……あいつらの車を覚えてて……で、先輩の荷物を見つけた時に、きっとあいつらだろうと思って。

……それでとにかく捜さなきゃって思って走り回ってたら……偶然、やつらの車を見つけて……みたいな?」


──めちゃめちゃ雑じゃん……偶然て!! 無理がありすぎる……!!


冷や汗ものだったのだが、雪姫は笑ってくれた。


「ふふっ……偶然、か。すごい勘だね? 予知能力者とかみたい」

「はは、あはは……」


雪姫の目の尊敬の色がまた強くなってしまったような気がするが、引きつった笑いを返すしかなかった。


「私も……計佑くんみたいになれたらな……」


うっとりしたような顔で見つめられて、いよいよ居心地が悪くなる。


誤解でそんな風に思われても……と計佑は考えてしまうが、雪姫が見ている計佑の本質は決して誤解ではない。

しかしそれは、根が謙虚な少年には分からない事だった。


「今回のコトだってさ……

私がバカで、意地を張っちゃったせいなのに計佑くんのほうが謝るんだもん。

それにボロボロなのは計佑くんの方なのに、私が無事でよかったとか笑うなんてさ。

そんなの……反則だよ……」


そこまで言って、雪姫は瞳を伏せてしまった。

その顔は少し赤くて、でもなんだかちょっと拗ねてるようで。

責められてるのかな? と鈍い少年はそう考えて、


「えーと……すいません」


謝ってみた。雪姫が吹き出す。


「もうっ。だからなんで謝るのっ」


雪姫がコロコロと笑って。計佑もつられて笑い出した。


「ってて……!!」


おかげであばらに痛みが走った。もう一度横になる。


「だっ大丈夫!? 」


雪姫が慌てて身を乗り出してくるが、


「大丈夫です、ちょっと笑いすぎただけですから」


そう笑いかけると、ほっとした様子で雪姫もまた横になった。

そしてわずかの間、沈黙がおりて。やがてまた、雪姫が口を開いた。


「……ねえ計佑くん。

ちょっと不思議だったんだけど……私と初めて会った時は結構泰然としてたよね?

でもちゃんと話すようになってからは、なんかこう……あんまり余裕がないっていうか。

そんな感じで私に接するよね? それは……どうしてなのかな?」


何かを期待するような瞳で尋ねてくる。


「泰然と……ですか? 初めてって、裏門から逃げた時ですよね……?」


胸を触ってしまったり責められたりで大いに焦っていて、とてもそんな風に出来ていた気はしないのだけど。


「え。違うよ、入学式の時の……」


雪姫がきょとんとして、こちらも "入学式?" と、首を傾げてしまう。

そしてふと、雪姫の表情が沈んだ。


「……覚えてないの? ……入学式。傘をくれたよね」

「……えっ!? あれって先輩だったんですかっ!?」


雪姫が何の話をしていたのか、ようやく理解した。その時の事は、勿論覚えてはいた。

でも、あの時の女性は確かポニーテールだった筈で……


──あ? 終業式の日の先輩に見覚えがあったのはそれか……!!


─────────────────────────────────


雪姫が、あの日のことを思い返す──


──春。この日は、新入生の入学式だった。


「白井ー、こっちのやつも用具室に戻しといてくれよ」


入学式の後片付けで今も運搬をしている雪姫に、教師がさらに雑用を押し付けてくる。


「あ、はい!」


ポニーテールの雪姫が、笑顔で返事をする。


「忙しいよなー白井は。今度はテレビの仕事までやるそうじゃないか。

ホントお前は我が校の誇りだよ。親御さんも鼻が高いだろうなァ、立派な娘をもって!!」


……雪姫はニコニコとした表情を保っている。教師はゴキゲンで言葉を続けた。


「皆応援してるからな。頑張れよ!!」

「……はい、頑張ります」


……言葉に元気がなくなったが、やはり雪姫の表情は変わらない。


「おう!! 頑張れよ!! 我が校の未来の為に!! なんつって」


がはは、と笑いながら去っていく教師。

その背中が見えなくなるまで、雪姫はしっかり笑顔を保ち続けた──


─────────────────────────────────


ようやく雑用の全てを終えて帰宅しようとした雪姫だが、外は雨が降り出していた。


「……最悪。傘持ってきてないのに……」


軒先で、はあ……と大きなため息をつく。


──……頑張れよ……か。……もうこれ以上頑張れるところないんだけど、な……


学業はそんなに苦じゃない。

それでも毎日真面目に続けるのには時間も手間もかかる。

委員会の仕事は難しいものじゃないけれど、やっぱり時間と手間は結構とられるものだった。

でもそれらはまだよかった。

殆どは個人作業だし、集団作業の場合でも大抵はせいぜい10人程度。

なのに今度は、芸能界なんて大人数相手の派手な仕事まで負わされて──


──……そろそろ限界かなぁ……


笑顔を振りまいて、愛想よく人の言う事を聞き続けて。

なんだか最近は作り笑いばかりで、心から笑えたのなんて、もう随分昔のような──


<b>ガシャーン!! </b>


<b>「いてーっっ!!」</b>


派手な音と悲鳴に、ビクリと振り返る。


「かっ……傘立てが……」


少年が呟いている。

──カエルのようにべちゃりと地べたに這って。しかも、両ヒザを傘立てにひっかけていての、海老反った姿だった。


「ぷっ……!!」


一体どんな転び方をすればそんな姿に……!?

たまらず吹き出してしまっていた。──随分と久しぶりに。

そんな雪姫の笑いに気づいた少年が、こちらを見上げてきた。

慌てて前に向き直る。


──気を悪くしちゃったかな……怒ってないかな……?

新入生みたいだし、先輩につかみかかってきたりなんて……しないよね……?


内心ビクビクだったが、少年は軒先まで来ても黙ったまま立っていた。

ほっとした瞬間に、


「あの……」


話しかけられて、ビクッと振り向く。


「傘、つかいます?」


少年が、気負いのない笑顔で傘を差し出してきた。


「えっ!? あっでも……?」

「俺チャリなんです。合羽もあるんで」

「……でも……」


見知らぬ相手からいきなり借りるのも抵抗がある。


「あと一回使ったら捨てるつもりだったボロ傘ですから。

使ったら捨てちゃってください」


そこまで言われては、これ以上遠慮するのもかえって悪いかと、傘を受け取った。


「……ありがとう……」

「じゃあ失礼しますっ」


少年は自転車置き場へと駆け出していく。


「…………」


無言で、もらった傘を開いてみる。

確かにボロだった。──あちこち折れてて、想像以上に。

また軽く吹き出してしまう。


──なんかヘンな男の子……


一分にも満たない短いやり取りだったけれど、その笑顔が不思議と心に残った。


─────────────────────────────────


──おふくろぉ……!!!


母親の「もう一回くらい使えるわよ。持ってきなさい」という言葉のままに持っていった傘だった。

『ちょっと使えないくらいボロボロだったよ』という雪姫の話を聞いて、計佑は火が出る思いだった。

別にカッコつけたつもりはなかった。

それでも、ちょっとした親切のつもりが実はゴミを押し付けてただけとなれば、いたたまれないのは当たり前だ。

本当にこの人には、痴漢行為を数々働いてしまうわ、カッコ悪いとこばかり見せてしまうわで……

あらためて、なんでこんなに構ってもらえてるのか不思議になる。


──そんなにオレって、からかい甲斐あるのかなぁ?


……未だに、雪姫にとっての自分はそれだけの価値しかないだろうと考えてしまう、鈍感で、そして謙虚すぎる少年だった。


──それにしても……なんで気付かなかったんだろう?


入学式の日、確かに綺麗な人だと思った覚えはある。

これだけ綺麗な人は滅多に見ないのだから、

少なくとも終業式の日には思い出してるのが当たり前だろうに……なんでそんなに鈍かったんだろう?


──あの頃よりはちょっと成長した少年は、そんな風に過去の自分を不思議がっていた。


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「それにしても……ふーん。計佑くんは、私のことなんてすっかり忘れてたんだね……」


雪姫はすねた顔と口調を作って、計佑を責めてみた。


「やっ、忘れてたわけじゃ!! 覚えてますよ、ちょっと一致しなかっただけであって!!」


あせあせと弁解してくる計佑の姿が可愛くて、雪姫はまた微笑に戻った。


──まあ……忘れてしまってたワケじゃないんならまだいいのかな……


覚えてないんだ……と一瞬がっかりしたが、そうでもなかったようだ。

気づいてなかった、が正しいみたいだけど、それでもやはり、ちょっと微妙な気分にはさせられた。


──そりゃあ確かに1分も話してなかったんだけどさ……

それでも私はずっと覚えてたし、すぐに気付いたんだけどなぁ……あれ? でも──


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「でもそれじゃあなんで裏門の時……計佑くんも思い出してくれてたからじゃないの? 私の顔を見てぼーっとしてたのは……」

「あ、いえ。あれはただ、ホントにキレイな人だなぁって見とれてただけで」


その時の事を思い出して、計佑は何も考えずそのまま言葉にした。


「……えっ……!!」


それに雪姫が息を呑んで、かああっと赤くなっていく。

その様を見て、自分が今言った言葉の恥ずかしさに気付いた。


──な、何言っちゃってるんだよオレっ……先輩を口説きでもするつもりかよっ……!!


勿論そんな意図はなくて、

ポロリと本音がこぼれただけの話なのだが、だからこそ恥ずかしさもひとしおだった。


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──嬉しいっっ……!!! 計佑くんが、私のコトを綺麗って……!!!


他の男に言われても胡散臭いとばかり思えて、父親からのそれは親の欲目だろうとしか思えなかった言葉。

でも計佑の口から聞くその言葉は、まるで別物だった。その甘さは格別で、一気に心臓が早鐘を打った。


下心のない『本当の優しさ』。

自分の事より人の無事を喜べる『本当の強さ』。

こんなに優しくて強い人、他には知らない。

そんな憧憬の気持ちに、今の一言の嬉しさが加わって──


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恥ずかしさが引かなくて、計佑はつい黙りこんでしまっていた。

チラリと雪姫を見る。

雪姫のほうは赤い顔でギュッと瞳を閉じたまま、唇をむにゅむにゅとしていた。

そんな雪姫の内心など露知らぬ計佑は、


──そんなに恥ずかしいこと言っちゃったのか俺……──


などとずれた事を考えつつ、改めて顔を熱くしていた。


──そうして、体感時間ではたっぷり三分ほどが経って。

ようやく落ち着いたらしい雪姫が口を開いた。


「……私さ……素直じゃないんだよね……」


雪姫は瞳を伏せていて。


「本当は臆病で、自信がなくて……」


半ば独り言のように語っている様子だったから、計佑は口を挟まなかった。


「今さら……性格が変えられるとは思えない。でも──」


そこで、雪姫が伏せていた目を上げて、計佑の目を見つめてきた。


「……でもせめて。計佑くんには素直でありたい」

「……はあ」


──先輩のオレへの態度って、奔放だし十分素直そうに見えてたんだけど。これ以上素直にって──











「好き」










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<10話のあとがき>


原作10~14話は雪姫派には至高の宝物!!

(個人的には3~4、6~9話も最高なんですけどね)

という訳で、雪姫先輩のためにこんなん始めた身としては、この10話は特に気合いれないといけなかったんですが……

……なんかもう、盛る必要はなかった?

……というか、盛るとむしろテンポ悪くなった……?(-_-;)

(26話書き上げてみてからの追加コメント・うーん、書いた直後はテンポ悪くしちゃった気もして微妙だったけど。

今読み返してみると、そんなに悪くないような気もしてたり。……多分、後半は長い話ばっかりだったので、

この頃の短い話程度では全然冗長に感じないほど麻痺しちゃったからかもしれません?)


でもまあ僕は鈍い人間なので、一から十まで解説してくれるような読み物が好きなんです。

H2Oのはやみちゃんとかレンジマンが大好きなのも、

ヒロイン視点があってそこでヒロイン側の心理描写を詳しく描いてくれるからであって。

そういう訳で、他の方には蛇足もいいとこかもしれないんですけど、今回も色々と盛ってみましたm(__)m

ただし、雪姫の心の声は今までより少なく、を心がけたつもり。……あんま変わってないかもだけど(-_-;)

ラストの一言のインパクトのためには、それは大事かなぁと。

(入学式のシーンは別ですけどね。あれは過去だから問題ないかと)


という訳で、入学式のところはそれなりに盛って、改変してみました。

おかげで、計佑が入学式の時点で、既に雪姫を結構救えていたっぽく出来たかなぁと。

ちなみに原作と違って、こちらではまくらの姿を雪姫は見てない設定です。

まくらは自転車置き場で待ってて、軒先からは見えなかった……って感じかなぁ。


雪姫が素直になろうとするのに理由を一つ盛れましたかね?

自分が意地張ったせいで、今回の事件になったから──みたいな。


初めての出会いについて語り合う場面にも盛ってみました。

ここの小説第1話では、裏門で初めて顔を見合わせたシーンでお互いにしばらく見とれますが、

6話のポニー先輩の見覚えと合わせて、一応伏線(ていうのかな? こういうの)

として繋げられた形になったかなぁ……と。

んでもって、この流れでの計佑ポロリ本音が、雪姫の中で最後のひと押しになる──って感じにしてみました。


雪姫の言う『本当の優しさ』っていうのは、

僕の話の中では7話での「他人のためなら自分の事なんて」って感じので考えました。

雪姫は自衛手段の一つとして人に優しくしてる部分があるようなので、じゃあ対比としてならその形かなあ、と。


なんか原作計佑のカッコよさを、今回削いでしまった気がしてたりします。

計佑の心の声を色々書いてたら、

どーも暴漢に立ち向かったシーンが、ただカッとなった結果なだけ、みたいな……?

いやカッとなったのは先輩が大事だからこそで、計佑×雪姫としてはそれでいいんだけど、

計佑もすごい人間として書きたい身としては、うーん……?

なんか上手いこと思いついたら修正するかもです。

(26話書き上げてみてからの追加コメント・思いつきませんでした! だからそのままです……)


これまでもそれなりに改変とか盛ったりしてましたけど、

今回くらいから、そういうのがどんどん多くなっていくかと思います。

なので、新鮮な気持ちで読める箇所も増えていくんじゃないかな……?

とは思いますので、この先も読んでみてもらえると嬉しいです。


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