2014-09-13 01:31:02 更新


 <26話(最終話)>



 委員会活動が予定より早く終わった雪姫は、軽い足取りで天文部の部室へと向かっていた。

 気詰まりな時間が短く済んだ上に、

今日はもうないと思っていた愛しの少年との時間がとれるというのだから、

未だに恋に舞い上がり続けている少女としては、ご機嫌にならない筈はなくて。


 浮かれた気分のまま部室にたどり着くと、ドアを開く為に手を伸ばして、

その瞬間、ドン、と部屋の中から何かがドアにぶつかってきた事に、ビクリとして手を引っ込めた。

 そして何事かと思う間もなく、硝子の強い声が漏れ聞こえてきて。

何やら自分の事や、告白について怒っている様子だとわかってドキリとした。


──えっ……ど、どうして硝子ちゃんが……?


 自分の告白についてこんなに声を荒げているのか。それに、まくらの名前も出ていたような。

 突然の事で、硝子の言葉の全てを飲み込めてはいなかったけれど、

自分と計佑の関係についての話というのなら、気にならない筈がなかった。


 そしてその中でも、硝子の最後の言葉、

『一ヶ月過ぎても答えが出せないのは本当に鈍いせいなのか』

これはしっかりと聞き取れた部分だったし、──あまりにも、気になりすぎる内容だった。


 不作法な事は重々承知で、ついつい息を潜めてドアに耳を近づけた。

やがて、硝子が今度は落ち着いた声で計佑に尋ねて。その内容にまたドキリとした。

かつて、自分も計佑に同じような質問をして。そして、安心出来る答えをはっきりともらっていた。

だから、今さら聞くまでもない話で、何も不安に思うことはない筈なのに。

何故か耳が離せず、そして胸がザワついた。


──そして、少年が口にした答えは、一瞬だけ雪姫を安心させて。


……すぐに、奈落へと叩き落としたのだった。


─────────────────────────────────


 その後、雪姫はどうやって帰宅したのか覚えていなかった。

気がついたら自室のベッドの上にいて、先日計佑に買ってもらったばかりのぬいぐるみを抱きしめていた。

 室内はもう真っ暗になっていて、随分と長い間自分が呆けていた事を知らせてくれた。

 アリスは、久々に実家に帰るという予定があったから、とっくにこの家は出ているだろう。

父も母も今日は帰りが遅い筈で、普段の雪姫であれば、広い家で夜一人きり、という状況に

不安を覚えて、見るつもりがなくともテレビを大音量でつけるなどしているところだったが、

この時の雪姫は明かりすらつけずに、ただただベッドの上で丸くなり続けていた。


「ひどいよ……散々期待もたせといて、今さらそんなのってないよ……」


──初恋なんかまだって言ってたくせに。本当は、とっくの昔から好きな人がいて。

──ただの妹だからって言ってたくせに。本当は、女のコとしても好きだってなんて。


「あんまりだよ……っ。こんなに好きにさせておいて、そんなのって……!」


──わたしは、『あの私』よりも、ずっとずっと計佑くんのコト好きになっちゃったのに……!


 少女の脳裏を、初デート前日の晩に見た夢の事がよぎって。そんな心の声が浮かんだ。

"夢" でしかない筈の事を、実在した何かのように考える不自然さ。


……けれど、少女にその不自然な言葉を深く考える余裕はなくて、ただただ悲しむ感情に溺れてしまう。


──せめて、こんなに好きになる前に言ってくれていたら。

──島での夜の時、そう言ってくれていたら……こんなに悲しまなくても済んだのかな。


 そんな風に考えて、


──……そんな訳ないか。あの時でもう、私は計佑くんのコト好きで好きでたまらなかったんだもんね……


 既に計佑で一杯一杯だった過去の自分を思い出して、自嘲する。

引きつった笑みに唇の片方がつり上がったけれど、また新たに涙もこぼれてきた。


──いつの間にか自惚れていたのだろうか。

──少なくとも、告白した時点では受け入れてもらえる自信なんかなかった筈だった。

──……それなのに、いつしか自分は……


 そんな風に自省する考えも浮かんだけれど、


──……でも、あんな風に接してきてくれて。

──あんな言葉をかけ続けて来られたら、好きになってもらえると思うのは。

──もう時間の問題でしかないんだと、そう考えるのは仕方ないじゃないか。


 納得出来ない気持ちもすぐに浮かんできて。


……けれど、


──……でも、まくらちゃんだったら。当たり前の話なのかな……


 選ばれた相手の事を考えると、責める気持ちは持てなかった。


──自分のような仮面優等生とは違う、心の底からの、本物の笑顔を振りまける少女。

──計佑と同じ、"本当の" 優しさを持った女の子。

──そんな女の子とずっと一緒にいたら、好きになるなんて当たり前の話で……


「いや……嫌だよっ! それでもやっぱり、諦めたりなんて出来ないよ……!!」


 思わず叫んでしまっていた。


 計佑に相応しいのは、自分なんかよりまくらだとわかっていても、

まくらなら、間違いなく計佑を幸せにしてあげられるとわかっていても。

勝ち目がないと知れば、打たれ弱い自分だったらさっさと尻尾を巻いている筈なのに。


……それでも、もう自分の中で膨らみすぎてしまった想いは、捨て去る事は出来なくて。



──結局、この日の雪姫は、夕食もとらずに。一晩中ベッドの上で泣き続けた。



─────────────────────────────────



 次の日になっても、雪姫は部屋に引きこもり続けた。


 今日が土曜日で幸いだった。こんな精神状態で、学校なんてまるで行ける気がしなかった。

 朝も昼も食事をとらずに閉じこもる雪姫を、母親が心配して度々様子を伺いにきたけれど、

何も話すことは出来ずに、ただただベッドの上で座り込み続けていた。


……そしてまた、ドアがノックされて。音の違和感に顔を上げた。

母のものとは違う、遠慮のない大きな叩き方を不審に思った瞬間、


「やほー、雪姫ー? なんか落ち込んでるんだってー?」


 カリナが、ズカズカと部屋に入り込んできた。

呆気にとられている内に、


「や~、なんか雪姫のお母さんから連絡あってさ~?

なんか雪姫がずっとメソメソしてるって言うから来てみたんだけど」


 こちらが尋ねもしない内にそんな事を口にしながら、

ベッドの上にまであがってきて、雪姫の正面で胡座をかくと


「んで? 一体どうしちゃったの」


 カリナらしい、あっけらかんとした態度。


……それでも、ちゃんとこちらを心配してくれている事はわかった。

珍しく眉はひそめられているし、そもそも心配してくれてなければ、わざわざ家にまでなんて来てはくれないだろう。

けれど、それがわかっていても、素直に話す気にはなれなくて。

一度は上げた顔を、抱えた膝の上に乗せていたくまモンへと再び落としたが、


「やっぱり、あの計佑ってぼうやのコト?」


 ズバリ切り込まれて。思わず、また顔を上げていた。

そうして、驚きのあまり、無言のまま目を見開いていたのだけれど、


「いや、アタシは確かにバカで脳天気だけどさ。流石にそれくらいは想像出来るって」


 たはは、といった顔で笑うカリナに、くしゃり、と雪姫の顔が歪んだ。


「うっ……うああ……カ、カリナぁ……っ!」

「あわわ!? ちょっ、ちょっと泣かないでよ雪姫ぃ!? 

ア、アタシにゃあ、優しく慰めるとかってのは無理なんだからさあ……!!」


 また悲しみがぶり返してしまった少女に、カリナが狼狽えて。

こわごわと背中を撫でてきてくれる少女へと、雪姫がしがみついて。


 もう事情が知られているらしい相手には、雪姫も意地を張ろうとは思えなくなった。


──やがて少女はしゃくりあげながらも、どうにかカリナへと経緯を話し始めたのだった。


─────────────────────────────────


「……へぇえ~~~……アタシが知らない間に、随分色んなコトあったんだねぇ……」


 雪姫からひと通りの話を聞いたカリナが、感心の声を上げた。


 思えば、カリナには計佑との事は殆ど話してはいなかった。

恋愛に全く関心がなさそうな友人にはしづらい話ではあったからだけれど、


「……ごめんね、なんだか内緒にしてたみたいな形になっちゃって……」


 流石に水臭すぎたかと謝ったのだが、カリナは「アハハハハ!!」と豪快に笑っただけだった。


「いいっていいって、そんなの!!

第一そんなん話されてても、そーいうのにキョーミないアタシには退屈なだけだったろうからね!!」


 そしてそんな言葉と共に、バンバンとこちらの肩を叩いてくる。


……正直、結構痛かったのだけれど、

カリナなりの照れ隠しやこちらへの慰めでやってくれている事だと思えば、

面映くはあっても止めようとは思えなかった。


「しっかし、あのボウヤに他に好きなコが、ねえ……?」


 やがて落ち着いたカリナが、首を傾げながらそんな事を呟いてきた。それに、雪姫はまた俯いてしまう。


「ねえ、それホントに間違いないの? なんかの聞き間違いとか、勘違いとかさあ」


 そんな風に尋ねられたが、首を左右に振る事しか出来なかった。


──これまでに何度か、アクシデントや勘違いで振られると思った事はあった。

──けれど、今回のは。もうどこにも、誤解の余地なんて見当たらなくて。


 改めてそう考えて、また涙が零れそうになったところで、


「でもさあ? あのボウヤ、間違いなく雪姫にも惚れてたと思うんだけど。

雪姫のコト、めちゃめちゃ意識してたじゃないの」


 未だ納得がいかない様子のカリナが、そんな事を言ってきた。


「雪姫のコト、命がけで守ってみせたりしてさあ。

そりゃあ人の良さそうなボウヤだったけど、

大して思ってもない相手の為に、いくらなんでもそこまでするもんかねぇ?」

「……それは……」


──自分だって思わなかった訳じゃあないけれど。確かに、意識はしていてくれたのだろうけれど。

──でも、今となっては……


 そんな風に沈んでいく雪姫を他所に、カリナは


「ホントなら、雪姫のコト泣かせるなんて、今すぐぶっトばしにいくトコだよ?

でもあのボウヤにはそういう立派な功績とかもあったし、とりあえずは我慢してるんだけど……」


 ぶつぶつとそんなセリフを呟いていたけれど、やがて表情を改めると、


「ところでさ。ボウヤがそのまくらってコが好きだったからって、どうだっていうの?」


──予想外の質問に、一瞬思考が真っ白になった。


「……え? え、いやだって……?」


──計佑には他に好きな人がいる。

──つまり私の失恋は決定じゃないか。

──これで何が『どうだっていうの』なのか……?


 突飛なカリナの言動に振り回されるのは珍しくない事だったけれど、

今回のはいくらなんでも意味不明すぎた。ポカンとしていたら、


「だってそのコ、引っ越しちゃったんでしょ。

遠距離恋愛なんて普通ムリだって聞くし、結局雪姫の勝ちってコトになるんじゃないの?」


 カリナらしい、あまりにも大雑把な答え。


……けれど、そんな雑な答えには、まるで納得など出来なかった。

だって、あの誠実な少年だったら。

『距離の長短』なんて打算的な理由で相手を選ぶなんて、到底思えない。

一度相手を決めたなら、きっと真摯にその人の事だけを思い続ける筈で──


「つーかさ。そもそも、そのまくらってコはボウヤのコト何とも思ってないワケでしょ?

てコトは、ボウヤはそのコにフラれて、あとはもう雪姫と付き合うしか残ってないんじゃん」

「……なっ……!!」


──この少女は、一体どこまでがさつなのだろうか。

全くの的外れとまでは言わないが、あまりにも乱暴な意見に空いた口がふさがらなかった。

 やはり、カリナに恋愛相談をしてこなかったのは正解だったと、ついそんな風に思って──

恐らく、呆れた顔を見せてしまっていたのだろう、カリナがむっとした顔になった。


「……なんだよぉ、その顔はぁ……だって雪姫が言ったんじゃない、

まくらちゃんってのは自分たちをずっと応援してくれて、色々手を尽くしてくれてたんだって!!

そんなの、ボウヤには全然気がないってコトじゃないか!!」

「そ、それは確かにそうかもしれないけど……」


 ムキー!! と詰め寄られて、弱々少女はあっさりと怯んでしまう。けれど、それでもまだ、


──……でも……まくらちゃんも計佑くんと同じで、自分の気持ちを自覚してなかっただけ、とか……


 そんな風に、心の中だけで反論した。


 カリナと違って繊細ではあったが、結局は素直すぎる性格の少女。

 まくらが「計佑に気持ちはない」と明言した以上、

「身を引いて、恋敵を応援する」という概念を理解するには至らないのがこの少女だった。


 それでも流石に『まくらも計佑同様だったのでは』という程度には想像が及んだのだけれど──


「それとも何!? もし二人が両思いだったとしたら、雪姫はさっさと諦められるってーの!?」

「──!? やっ、やだ!! そんなの、無理……っ!!」


 がさつながらも──いや、粗野だからこそのパワフルさで。

雪姫を煽ったカリナが、雪姫からまくらの気持ちへの不安を吹き飛ばしていた。


「じゃー、やるコトは1つっしょ。ボーヤの目がどこに向いてようと、こっちに振り向かせるだけの話じゃないの」

「……えっ……で、でも。……そんな自信、ないよ……」


……とりあえずはまくらへの不安を忘れられた少女だったが、結局はまた弱気の虫が顔を出して。

 その様に、短気な少女が額に青筋をビキッとたてると、さらには体ごと立ち上がった。


「自信のあるなしじゃねーよ!!

欲しいかどうか、やるかやらないかの話でしょーがっ!!

いつまで女々しいコト言ってんだよォ!!!」

「ひっ……! ど、怒鳴らないでぇ……怖いよ、カリナぁ……」


 仁王立ちで見下ろしてくるカリナに、ぬいぐるみを抱きしめてプルプルと震える脆弱少女。

 そうしてしばらくの間、チワワ少女を睨み下ろしていたトラ少女だったが、やがて大きく溜息をつくと。

またドカっと腰を下ろしてきて、ガリガリと頭をかいた。


「……やれやれ。まさか雪姫が、こんなにメンドい女だったとはねぇ……こういうのも猫かぶりって言うんだっけ?」

「……っ……わ、わたしのこと、キライになった……?」


 不安に駆られた少女が、潤む瞳で上目遣い。

それをしばらくの間、しかめっ面で見つめていたカリナだったが、


「う~~~ん……………………いやっ、これはこれでアリ!!」


 叫ぶやいなや、雪姫を押し倒した。


「ふぇえ!? ちょ、ちょっとカリナぁ!? な、何して……!!」

「うむっ、貼り付けたみたいにいつも笑顔だった雪姫もいいけど、

今みたいにベソかいてんのも、これはこれで良し!!

てゆーか、本来のアタシの好みからしたらこっちのがむしろ良しッッ!!!」


 さらりと、雪姫の本質を見抜いていたかのような発言をしながらも、


『でもそんなんどーでもいいんだよォ!!』とばかりに、雪姫の胸へとグリグリ顔を埋めようとする野生少女。


「や、やめてよぉ!? ちょっ、やだっ、やだぁ……!!」

「よいではないか、よいではないか!! 別に減るもんでもないんだからのぉ」


 全力で抵抗する少女と、五割の力でじゃれついてるだけの少女。

……元々の身体能力に倍ほどの差があるせいで、完全に均衡状態が出来てしまっていた。


──そんな調子で、しばらくの間、柔らかい雪姫の身体を堪能して満足したカリナが、

ゴロリと雪姫の横へと身体を投げ出して。

 漸く開放された雪姫が、荒くなった息を落ち着けていると、


「……まあ、生きてさえいれば未来なんてどうにだって変えられるんだからさ。

いじけるなんてつまんないコトにエネルギー使ってないで、とにかく足掻いてみなよ」

「……カリナ……」


 顔を横へ向けると、カリナが初めて見るような優しい顔つきでこちらを見つめてきていて。

 がさつなばかりだと思っていた少女からの思わぬ暖かさに、

また涙が──といっても、先程までとは真逆の理由で──零れそうになった。


「……ありがとね、カリナ……私、カリナが友達がいてくれて、本当によかった……」

「タハハハハ!! やめろやめろぉ!! そんなクッサいセリフ、聞きたくないってーの」


 感謝の言葉を伝えると、カリナが珍しく赤い顔をしてそっぽを向いた。


──カリナは親友ではあっても、それでもどこかに壁は作っていた。

けれど今、隠していた弱い自分、駄目な自分をこうして知られて、そして受け入れてもらえて──

今こそ、本当の親友になれた気がした。


──そうして、昨日の一件以来、ずっと悲嘆に暮れてばかりいた少女の顔に、ようやく笑顔が戻ったのだった。


─────────────────────────────────


 そんな風に、二人は和んだ空気に包まれていたのだけれど、カリナが照れ隠しにか、


「……しっかしさあ? あのボウヤ、平均以上とは思うけど、それでもそこまで雪姫が入れ込むほどのモン?

雪姫と釣り合うほどとは正直、思えないんだけどさあ」

「……なっ……!?」


 計佑の事を軽んじるような発言をしてきて。

少年にべた惚れの少女が一瞬で沸騰しかけて、空気が一変した。

 それでもどうにか爆発は押さえ込んだのか、


「……ふんっだ……!!」


 と、雪姫が拗ねたようにそっぽを向いて。


「ありっ、お、怒った?」


 カリナが慌てて雪姫の顔を覗こうとするが、受け入れない少女は、ぬいぐるみで顔を完全に隠してしまう。


「ご、ごめんってば雪姫ぃ……本気で言ったワケじゃないっていうかさあ……」


 照れ隠し半分、本音半分の言葉だったけれど、本気で雪姫を不快にさせたかった訳ではないカリナ。

一応謝ってはみせたのだけれど、少女からの回答は


「……いいよ別に……カリナはわかってくれなくたって……」


 相変わらず顔を隠したままの、拗ねたような声で。


「わ、わかった!! 本気で謝る!! アタシも、ちゃんとボーヤの良さを分かるように努力すっから──」


──許してほしい、そう言いたかったのだろうけれど、


「本当にいいの! ていうか、カリナには分かって欲しくないのっ!!」

「……へ……?」


 予想外の雪姫の言葉に、カリナが呆気にとられて。

そのまま呆けていると、雪姫はぬいぐるみを少しだけ下げて、目だけのぞかせて来た。


「……だって計佑くんの良さを知っちゃったカリナが、ライバルになんかなったりしたら困るモン……」


 くまモンで口元を隠しながらの上目遣い。加えて、拗ねと甘えのハイブリッドボイス。


──先日のデートの際、キングオブ朴念仁な少年は反応しなかったけれど。

肉食獣の少女にとっては、あまりにも美味しそうなご馳走だった。


「……オ、オマエ……マジで可愛すぎんだろ!? ……もういいっ、アタシが美味しく頂いちゃるッッ!!!」


 叫びながら、トラ少女が本気で雪姫へと襲いかかった。


「ええぇ!? な、なにっ!? ちょちょ、カリ……っ!?」


 本気で身の危険を感じた被食者が、慌てて抵抗を始める。……が、先程とは違い、今の捕食者は本気だった。

あっという間にくまモンは投げ飛ばされ、Tシャツも剥ぎ取られ、ブラのホックも外されたところで、


「や、やああああ!? まって待ってまってぇえ、カリナぁ!!」


 涙目になった雪姫が悲鳴をあげて、


「どうしたのっ、雪……姫……」


 そんな声と共に、ドアが突然開いた。

 その声の主──お茶を運んできた母親は、部屋に二歩ほど踏み込んだ所で足を止めて。

絡み合う二人の姿に完全に凍りついていた。


「……あ。雪姫のお母さん……いや、これはですね? 違うんですよ?」


 第三者の乱入で、ようやく正気に戻ったカリナ。


「お、お母さんっ……助かった……」


 召し上げられる事態をどうにか回避出来たと、ホッと溜息の雪姫。


「……ごゆっくりどうぞ……」


 そして、スススと滑るように後退りしていく母。


──パタン、と静かにドアが閉められた。


……やがて、自分たちの関係がとんでもないもの

──特に、自分が "ネコ" ──

だと誤解された事に気付いた雪姫が大慌てして。


 けれどそこでカリナが口にした言葉は、


「ん~……アタシ、自分ではギリノーマルだと思ってたんだけど。

なんかマジで両方いけるぽいし、別に否定しなくても──」

「──いいワケないでしょお!?」


 少なくとも、雪姫の方は計佑100パーセントなのだ。

 慌ててカリナを引き連れて母の元へと向かって、どうにか誤解が解けて安心したところで、

雪姫のお腹が可愛い悲鳴をあげて。

三人で笑って、久しぶりの食事を始めて。


──こんな風に。

雪姫の心中を覆っていた雨雲は、ハリケーン少女がもたらした嵐によって、とりあえずは吹き飛ばされたのだった。



─────────────────────────────────



 昼食の準備中、切らしていた調味料に気づいて

買い物のために家を出た計佑は、今は無人の、かつては音巻家だった家の前で足を止めた。


「…………」


 門扉の前で、無言で立ち尽くして。まくらが使っていた部屋を、暫くの間見上げ続けて。


……やがて、項垂れてしまった。


「……ずっと好きだった、か……」


 呟いて、溜息も漏れた。


「……なんで言ってくんなかったんだよ……」


──わかっている。言える訳が無かったことは。

だって、自分とまくらの関係は、あまりにも家族として完成しすぎていた。

それを壊すかもしれない真似なんて、家族に飢えていたまくらに出来る筈はなかった。

もしも自分が先にこの気持ちに気付いていたとしても、言えなかったとは思う。


……それでも……


「……言ってくんなきゃ、オレに分かるワケないだろ……

お前も散々言ってたじゃないか、オレは鈍感すぎるってさあ。

結局、お前一人につらい思いさせたままで全部終わりだってのかよ……」


 知り合ったばかりで、目新しく見えてしまうせいもあるだろう雪姫にばかり気を取られていて、

見えていた筈のまくらの気持ちには、まるで気付けなかった。

 幽霊状態になってから、度々まくらの様子がおかしかったのに、

異常事態のせいだろうとばかり勝手に思い込んでいた。

旅先で、雪姫が傍にいるようになってから、特におかしくなっていたというのに、だ。

 気付いてみれば、あれは嫉妬以外の何物でもなかった。


……それを理解るようになったのは、雪姫の嫉妬の数々で学んだお陰、というのがまた皮肉だったけれど。


──どんな気持ちで、オレ達のコト応援してくれてたんだろうな……


『まくらに好きな男がいた』──その事を知った時の、自分の嫉妬ぶりを思い出す。

……自分だったら、嫉妬に狂うばかりで、まくらとその相手の事を応援など、まるで出来る気はしなかった。


 そして、あの時の事を思い出していたら、とあるまくらの言葉も思い出して。

──『私の好きな人なんて、言えるワケないでしょ!?』──

その可笑しさで、皮肉げに唇の片側をつりあげた。


──そりゃ言えるワケないんだよな……


 相手は目の前にいた自分だったのだから。そして、

『私なんか、どう逆立ちしたって勝ち目ないんだ』

そんな事を言っていた理由も、今なら理解できた。


──先輩が相手だって言うんなら、そりゃあそんな風に思うかもな……


 あちらは、基本的には完全無欠の、才色兼備なお嬢様だ。

まくらがそんな風に卑屈になってしまうのも、無理はなかったとも思う。


……けれど。

男が相手を選ぶのに、惚れるのに、そんなのは全然関係無いんだと、

お前の魅力は先輩にだって負けてなどいないんだと、今ならそう言ってやる事も出来るのに。


 そんな風に思ったところで、

──『……目覚くんは、絶対後悔するから……!!』──

まくらの試合を応援しに行った時の、硝子の言葉を思い出した。


「……はは……」


 自嘲の笑みが漏れた。


「……ホント。須々野さんの言う事にハズレなし、だな……」


 身体を折り曲げ、門扉の上に額を乗せて。

まだまだ厳しい日差しの下にも関わらず、少年は随分と長い間、その体勢のまま動かなかった。



─────────────────────────────────



「……けーすけ? もうみんな帰ったぞ……?」

「……え? あ……」


 部活に出ていた計佑がアリスの言葉で我に返ると、確かに部室内には他の人間はもういなかった。

 残っているのは、自分の足の間に腰掛けているアリスと、

そのアリスのお腹に片手を回して、もう片方の手では少女の髪を弄び続けている自分だけで。


「……悪い。引き止めちまってたみたいだな」

「いや、そんなのはいーんだけど……」


 頭を後ろに倒して、こちらの顔を見上げてくる少女。

その表情には、はっきりと心配している色が浮かんでいた。


「オマエ、なんかこないだからボーっとしてばっかじゃないか。大丈夫なのか……?」


 小学生モドキに心配されている自分に、苦笑が漏れそうになった。それでもどうにか取り繕って、


「いや、だいじょぶだいじょぶ。ただの夏休みボケだからさ」


 笑いかけて、ゆっくりとアリスの額を撫でてみせた。

けれどそれに、アリスは不満そうに唇を尖らせると。頭を前に戻した。


「……やっぱり変だ……」

「……ん? なにがだ……?」


 アリスのつむじを見下ろしながら、変わらず頭を撫で続ける。


「……なんで最近、そんな優しくしてばっかくんだよ……前は、しょっちゅうアタシの事、弄って遊んでたのに」

「……ん~? そうだったっけ……」


 内心ドキリとしたけれど、とぼけてみせた。


「まあ、それだったら別に悪いこっちゃないだろ? 優しくなったってんなら、何が不満なんだよ」

「……それは……」


 相変わらずアリスの顔は前を向いたままで、表情は見えなかったけれど。

その顔いっぱいに『でも、なんか気に入らないんだよ』という感情が浮かんでいる様が想像できて、

なんだか笑いがこみ上げてきた。


「おいおい、何だよ?

『いぢめてくんないとなんだか寂しいの』なんて、お前そんなマゾっ娘だったのか?」

「マゾッ……!? ち、違うもんっ!! わ、私そんなんじゃないもんっ、た、ただ私はっ……!!」


 久しぶりにからかってみせると、弾かれたようにアリスが振り返ってきて。

その真っ赤な顔に和みながら、……でも、心配してくれた少女をこんな風に誤魔化してしまう事への

罪悪感に痛みも感じながら──以前の自分を演じてみせる。


「……まあそうは言ってもなぁ。特に悪さもしてないのに、きつく弄るのも違うもんな。

なんでお前最近悪さを……ってそうか、先輩が来ないからだな……」


 アリスの悪戯といえば、大抵は雪姫絡みだった。

けれど、二学期が始まって以降、雪姫は一度も部活に顔を出していなかった。

となれば、アリスが雪姫をおちょくって、自分が叱るという構図も当然無くなっていた訳なのだけれど──


「……先輩、どうしてる? お前、家では相変わらず先輩をからかったりしてるのか」

「最近はそういうコトしてないよ。夏休み、おねーちゃんにはでっかい借り作っちゃったし。

……それに、なんかちょっと元気ない感じもしてるからさ……」


 そんな風に答えてきたアリスは、一瞬沈んで見せたが、


「……まあ、最近のおねーちゃん忙しいせいで、オマエにもあんま会えてないみたいだしな!!

元気ないのはそのせいなんだろーけど!!」


『この色男め』という意思を込めてか、ニシシと笑ってくるアリスに、


「……お前にまでイジられてやるつもりはねーんだよ、このチビッコがっ」


 チョップをお見舞いしてやる。


「いたぁ!? な、なんだよっ、照れくさいからってボーリョク振るうなよな!!」

「だまれマゾッ子!! お前が望んだ通りにしてやっただけの話だろーが!!」


 二人の妹を立て続けになくして、内心飢えていた少年は。

そうやって、唯一残された "妹の存在" に縋るかのように、アリスとの戯れを続けるのだった。



─────────────────────────────────



 帰宅した計佑は、すぐにベッドに身体を投げ出して。

しばらくの間天井を眺めていたのだけれど、やがてのろのろとケータイを取り出した。


──もう引き伸ばすワケにもいかない、よな……


 メールを打ち始める。

相手は──雪姫。

要件は──さんざん待たせてきてしまった "返事" についてだった。


──さんざん待たせて、ようやく、か……


 正直、気は重い。重すぎるくらいだ。


──もう少し時間が欲しい。

──完全に、気持ちが落ち着いてからでも。

──大事な話なのだ、自分にはまだ混乱してる部分だってあるのだから。


……そんな風に考えて、先延ばしにしてきた。

最近、雪姫からの接触や連絡がなかったのをいい事に。

 けれど、今日のアリスとの話で……やはりもうそういう訳にもいかないと、とうとう決心した。

元々、"自分の気持ちがはっきりわかった時にはちゃんと答える" というのが約束だった。

だからもう、逃げ続ける訳にはいかないのだ。


……けれど……


──……それでも……もう少しだけでも……


 決心した筈なのに、手が止まってしまう。はあっ、と大きく溜息をついたりして。

結局、たった数行程度のメールを打つのに、1時間近くかかってしまったのだった。


─────────────────────────────────


 計佑からのメールを見た雪姫は、ついにこの瞬間が来てしまったかと、深く溜息をついた。

その要件は至極単純──『二人で話がしたい』──ただそれだけの内容だった。


──こないだのデートの時みたいな、全然別の話……なんてオチは、期待出来ないよね……


 聞かなくても、内容はわかりきっている話。

聞きたくなんてないけれど、聞かない訳にはいかない話。

……それでも、やっぱり聞きたくはなくて、あれほど触れ合いたかった少年から逃げてまでいた話──


 カリナからの激で、一度は覚悟が出来た少女だったけれど、所詮は根っからの気弱少女。

次の日には、もう覚悟は揺らいでしまっていて。

少年から話を切り出されるのが怖くて、部活にも顔を出さず、メールすらしないで逃げまわっていたのだった。


──逃げてたって、何にもならないのに……


 カリナにも言われたとおり、諦めるなんて出来ないのなら、こちらを振り向かせるよう努力するしかないのに。


……それでも、今は逃げる事しか考えられなかった。


 だって、自分は暴走気味なくらいにアプローチしてきたつもりだ。

それで駄目だったというのなら、これ以上どうしたらいいのかわからなかった。


──ごめんなさい、計佑くんっ……!


……結局、ウソの返事を出した──忙しくて、しばらくはゆっくり会えそうにないと。


 逃げまわっていても、あと半年しかない計佑との高校生活を無駄に消費してしまうだけ。

そんな事はよく分かっていても、それでも。

面と向かってふられてしまう瞬間が、どうしても怖かった。



─────────────────────────────────



 放課後の教室で、雪姫からの『今日は図書委員の仕事があるから』という返信を確認した計佑は、

ぐだりと机に上半身を侍らせた。


──先輩……やっぱりオレの事避けてるのか……!?


『話がある』とメールしてから一週間。

その間、一度も雪姫と会えていなかった。いや、それどころか電話での会話すら出来ていなかった。


──……でもそれにしては、メールだけはマメにくれてるんだよな……?


『話がある』と連絡する前には、雪姫からのメールも殆どない時期があったのだけれど、

それ以降には、毎日またメールをくれるようになっていた。

 それを考えると、避けられていると決めつける事も出来なくて。

どう捉えていいものやら、頭を悩ませるばかりだった。


──ホント、身勝手だよな、オレ……


 つい一週間前までは、こちらも話しづらいからと、雪姫からの連絡がない事に安心していた癖に。

 いざこちらから行こうとした時に上手くいかないと、途端にこんな風に考えるだなんて。


……そう、あんなに深く自分の事を想ってくれていた人に、酷い応えを返そうとしているくせに、だ。


 雪姫のリアクションを想像すると、怖くて、痛くて仕方がない。

それなのに、雪姫に避けられているのではないかと思うと、それもまた堪らなく辛くもあって。

 わがまますぎる自分に、改めて嫌気がさした。


──先輩は、あんなにオレに気を遣ってくれていたのにな……


 雪姫は知名度の高い自身の事を考慮してか、

天文部員以外の人目がある時の校内では、一対一で話すような状況は出来るだけ作らないようにしてくれていた。

 それはきっと、計佑に変な噂がたたないようにという配慮からだ。

普通に考えたら雪姫自身の仕事への影響などを考慮しての事でもあったかもしれないけれど、

雪姫と実際に触れ合っていた計佑の感触としては、雪姫が自身の問題として考えているような

様子はなくて、あくまでも計佑ありき、という感じだった。


 それでも、隙を見つけては一言二言だろうと自分に話しかけてきてくれたり、

仕事や委員会で忙しいだろうに、少ししか顔を出せないような日でも部活に顔を出してくれたりと、

いつだって雪姫の方から会いにきてくれていた。

 そういった事を、雪姫からの接触がなくなってみて初めて気付かされた。


──いい加減オレから行かなきゃ、やっぱりダメだよな……


 自分がどれだけ雪姫の好意に甘えていたか、今さら思い知らされて。

漸く、こちらから会いに行こうという意思が芽生えた。

 忙しくしているだろうに押しかけるなんて迷惑だとはわかっていても、

それでも、このままズルズルと放置して……なんて、それこそ耐え難い。

とにかく少しでもいい、雪姫と話そう──そう考えて。


──といっても、三年の教室に乗り込むとかは流石に……

  でも今日は委員会の仕事らしいし、今いるのは図書室だよな?

  それなら人数は多くないし、目立たずにも済むかも……行ってみるか……?


 人影が少なくなり始めた教室で、少年はぶつぶつと算段を立て始めるのだった。


─────────────────────────────────


「それじゃあね、雪姫。お先に~」

「あっ、うん。お疲れ様でした」


 自分と一緒に最後まで残って仕事をしていてくれた委員が、ひらひらと手を振りながら図書室を出て行って。

一人残された雪姫は、ちらりと時刻を確認した。


──結構、ギリギリだったなぁ……


 最終下校時刻まで15分程度になっていた。


──……まあ、おかげで "今日のところは" 計佑くんにウソつかずに済んだけどね……


 計佑からは、委員の仕事が忙しいという理由で今日も逃げたのだ。

これで『実は仕事はすぐに終わりました』では、また1つ計佑への罪悪感が積み上げられてしまうところだった。


……とは言え……


「……はぁあ……いつまで逃げ続けるんだろうな、わたし……」


 話がしたいと言われて一週間。

顔を合わせないでいても、電話で切り出されるかもしれない。

そう考えて、電話すらも避け続けて、代わりとばかりにメールだけはまめにおくり続けて。

勿論、メールで伝えられてしまう可能性も心配ではあったけれど、そこまで徹底する訳にはいかなかった。

 長期戦の為に今は一時撤退してるだけ、というのが建前なのに、

連絡を全て絶ってその結果少年との距離を大きく開けるような事になれば、それこそ完全敗戦で終わってしまう。


……けれど、いい加減限界だろう事もわかっている。

いくらなんでも、そろそろ計佑にも怪しまれているかもしれない。


……それに、


──もう、計佑くんと会えなくなってどれくらいかな……


 メールだけの繋がりでは、もう切なさが限界に達しそうだった。

遠目に姿を伺った事はあるけれど、そんな物はかえって飢えを増長させただけだった。

夏休みの時には、計佑の声を聞けない期間が一週間程度で限界だった。

 なのに、今回はそれを遥かに上回る時間が経っている訳で──


──会いたいよぅ……声が聞きたいよぅ……けど会うのは怖いよぉ……


 二律背反に囚われて。

カウンターに突っ伏して、前腕にぐりぐりと額を擦りつけながら、


「計佑くぅん……」


 呟いて、


「はい、雪姫先輩」


──その声に、ギシッと硬直した。


 誰もいない筈なのに人がいた事についてと、そしてその声の主についての2つの意味で。

 恐る恐る顔を上げると、声の主──計佑が、カウンターへと入ってくるところだった。

久々に近い距離で目にする、愛しい人の姿に胸がドキリと高鳴るが、同時に恐怖も膨れ上がった。


「あっ、えっ!? どっ、どうして計佑くんがここに……!?」

「先輩と話がしたくて。……もういい加減、限界だったから」


 言いながら、もう少年が雪姫の隣へと腰掛けてきた。

その顔つきがいつもより固いものに見えて、加えて声にまでいつにない力強さを感じた。


──やっぱり……避けてたコト気づかれてる……!?


 少年がそんな状態になっているのは、機嫌が悪いせいではと思うとますます怖くなった。

 けれど、考えてみれば当たり前かもしれない。

誠実な少年の事だから、まくらに気持ちを伝えるにしても、

まず自分に対してきちんと返事をしてからだと考えたのかもしれない。

 なのに、雪姫の方は逃げまわってばかりでいつまでも話をさせなかったのだから、

いい加減怒りを溜め込んでいても不思議ではなかった。

 その事に思い至って、改めて申し訳なくもなったけれど、


「ごっ、ごめんね計佑くん!! まだ仕事残ってるのっ、直に下校時間だし、今日はもう──」

「さっきすれ違った先輩から、もう仕事は終わったって聞きましたけど?」


 やっぱり怖くて、逃げようとした言い訳は通じなかった。項垂れて、


「…………うん…………わかった…………」


 とうとう観念した。


──……覚悟は一応してたコトじゃない……それに悪いコトばかりじゃないよ……


……そう、観念した、のだけれど。早速、心に慰めを並べ始める。


──『気まずくなるのもイヤだし、今まで通り友達ではいようね?』

……そんな風に言って、とりあえずは平気なフリでもしていれば、また傍にはいられるようになるんだもの……


 一度振られてしまえば、もう怖いものはなくなるのだ。

そうしたら、何食わぬ顔をして、また以前みたいに纏わりついてみせればいい。

 まあ、友人の範疇に収めなければいけないのだから、前ほど親密という訳にはいかないだろうけれど。

それでも、全然会えなかったこの二週間ほどよりは、よほどいい……そんな風に考えて。自分を慰め続ける。


「時間もあまりないし、単刀直入にいきますね。

……話っていうのは、散々待たせてしまった "返事" の事なんですけど──」


 卒業までまだ半年ある。いや、自分さえその気なら、卒業してからだって、いくらでも会いにはいける。

そう、これからまた頑張るのだ。


……まあとりあえず、今日はまた泣いてしまう事にしよう。

アリスに泣きつくのは流石に歳上としてどうかと思うし、カリナに甘えてしまおうかな。

……ああ、でもまた押し倒されたりしたらどうしよう?


──そんな余計な事まで考えて、もう泣き出しそうになっている自分を必死に誤魔化した。


「──先輩には、色々と謝らなくちゃいけなくて。

そんなつもりはなかったんですけど、でも結果的にはウソついちゃってて──」


 計佑が一方的に話し続けている。

それでも、自分の心を守るのに忙しくて、ろくに気に留めていなかった。


「初恋もまだだとか、まくらの事はただの家族って前に言いましたけど、実は違ってて──」


──ああ、いよいよか。

もはやぼんやりとしか話を聞いていなかったけれど、さらに心を麻痺させて。

俯いて、膝の上で握った拳へと視線を落とした。


「まくらがいなくなって、胸にぽっかりと穴が空いたみたいな気がして、それで──」


──もうわかってるよ。

──もうその先は、言われなくてもわかってる。

──でも、一応最後までは黙って聞かなきゃいけないんだよね……


 覚悟を決めた理性とは裏腹に、心はどんどん凍りついていって。

少女が俯いたまま、瞳からは光が消えて虚ろになっていく。


「──それで、ようやく雪姫先輩のコトが好きなんだって確信が持てたんですけど……」


──へえ、そうなんだ。

──よかったね、おめでとう。

──……私にとっては、死刑宣告みたいなものだけど──


「……え!!??」


 いきなりグンッと顔を跳ね上げると、計佑の方へと振り向いた。


「……い、今……なんて言ったの……?」


 聞きたくない話のあまり、勝手に脳内変換してしまったのだろうか?

肝心の場所が、ありえない名前に置き換わっていたような気が──


「え? いえ、やっと先輩の事が好きだって確信が出来たって……」


……したのだけれど、聞き間違いではないようだった。


──え……え……? な、何言ってるの……?


 まるで予想していなかった展開に、目を見開いて少年の顔を凝視していたら、


「な、なんですか……? 幽霊でも見たみたいな顔して……なんかオレ、変なコト言いました?」


──言った!! 言ったよ、思いっきり言ってるよ!! 何言い出したのかさっぱりだよっ!!


 感嘆符まみれの言葉が脳内に溢れかえったけれど、驚きのあまり口には出せないまま呆然としていたら、


「なんか先輩、さっきからちょっと様子おかしいですね……あの、ちゃんと話聞いてくれてました?」


 一応、聞いてはいたつもりだったけれど。

もしかしたら、自分が思っていた以上に聞き流してしまっていたのかもしれない。

前後の繋がりがまるでわからなかった。

 それでも雪姫としては、とりあえず『おかしいのはそっちの方だ!!』と主張したいところだった。


「……あ、あの……計佑くん、まくらちゃんのコトが家族としても、女のコとしても好きだったんだよね……?」

「あ、なんだ。ちゃんと聞いてくれてたんですね」


 少年がはにかんで見せるけれど、それが何故、ついさっきのセリフへと繋がるのかはやっぱり分からない。

相変わらず混乱が続いている間に、雪姫の手へと計佑の手が重ねられた。


──……え……


 雪姫にとって、計佑の手に自分の手を包まれるのは特別な事だ。動揺していた意識が、あっという間に落ち着いていく。

──そのお陰で、またおかしな事に気づいたけれど。


──なんで……計佑くん、こんなに落ち着いてるんだろう……


 先日の映画館では、こちらの手を握ろうとしていただけで一杯一杯だと言っていたのに。

この少年なら、きっとあの時は真っ赤な顔をして、震えまでしながらこちらの手を握ろうとしていただろうに、

今はすっかり落ち着いた様子で。

……計佑がこんな風になれるのは、こちらが弱って見せている時限定だった筈なのに。


「……先輩に応える時は、先輩の気持ちに負けないって思えるようになってから。

そんな風に考えてたから、本当はまだ伝えたくはなかったんですけど──」


──計佑の手に、力がこめられて。ぎゅっとこちらの手を握りしめてきた。


「でも、自分の気持ちがはっきりしたら、ちゃんと答えるっていうのも約束してましたものね。それに……」


──少年が、俯いて。


「最近、先輩に全然会えなくて。

……もしかして避けられてるんじゃあ、って考えるともういてもたってもいられなくなって。

もしもこのまま、先輩まで失うなんて事になったら、って考えた時に、もう絶対の確信が持てたんです」


──そこで、また少年が顔を上げてきて。


「まくらなら、どうにか耐えられても。先輩を失うなんて事だけは、絶対耐えられないって。

あんなに好きだったまくらよりもそんな風に思える先輩は、間違いなくオレの特別な、ただ一人の人なんだって」


──計佑が、じっとこちらの目を見つめてきた。


「誰よりも雪姫先輩が好きです。大好きな人なんです」


──いつも雪姫と目を合わせる時は、大抵ドキマギしてばかりだった筈なのに。

──今はまばたきもせず、まっすぐにこちらを見つめ続けてくる。


「さっきも言ったみたいに、

応える時は、オレの気持ちが先輩の気持ちに釣り合うようになってからって考えてました。

それが、あんなに強くオレのコト想ってくれてた先輩に対する、せめてもの礼儀だって思ったから。

なのに、まだまくらのコト完全に割り切りもしない内にこんなコト言い出すなんて、酷い話だってわかってます。

こんな酷い返事で、先輩にどんな顔をされるのかって思うと怖くて、逃げたりもしてました。

……でも……!!」


──優しく見つめられた事なら何度もある。

──けれど、こんなに熱い瞳で見つめられたのは初めてで。


「でも、オレにとって先輩がどれだけ大切な人か、もうわかってしまったから!

先輩にはずっとずっと、オレの傍にいて欲しいって!

……もう遅すぎますか!? オレに愛想尽きましたか!?

……いや、もしそうだとしても関係ない!

今度はオレのほうが、先輩のこと追いかけて……もう一度、オレの事好きになってもらえるまで、頑張りますから!!」


──ひたむきな、縋りつくような目で求められて。

──まさかの展開に、どこかまだ理解が追いついていなかったのだけれど、

この瞬間、とうとう少年の言葉が全て呑み込めて。一気に身体を満たした歓喜で、全身が大きく震えた。

──この人が、私の大好きなこの人が、今、私の事をこんなにも……!!


「あ……愛想なんて尽きるわけないよ……ずっと、ずっと大好きに決まってるよ……」

「──!! ホントですかっ!? 」


 奥手だった筈の少年からの熱すぎる告白に、完全に熱に浮かされて。

ぽやーっとしたままに口を開けば、少年が満面の笑みを弾けさせた。

 雪姫の大好きな、計佑の笑顔。

けれど、少年がここまで嬉しそうにしている笑顔なんて、いつ以来だろうか。


──そうだ、確かまくらが目を覚ましたという報を受けて、旅先から帰宅していった時のような。

その笑顔にボーっと見とれていたら、少年の顔が急に引き締まった。


「……それじゃあ先輩、あらためてお願いがあるんですけど……」


──何を言われるのか。その幸せな予感に、またぶるりと全身が震えた。

頭に血が上るなんてものじゃない。溢れてくる感情で飽和して。

もう目は潤み始めて、口も半開きになったところに、


「オレと結婚してくれますか?」

「はい……喜んで……」


 尋ねられて、溢れかえる幸せな気分のまま何も考えずに返事をして、


「──へ!?  け、結婚!?」


 我に返った。思わず尋ね返すと、少年がカッと赤くなった。


「あっいや!? 違うちがう違いますっ!!」


 バタバタと手を振って、次に頭をガリガリとかきむしりながら、


「くそっ……落ち着けてると思ったけど、やっぱテンパってるのかな。こんな大事なトコ言い間違えるとか……」


 ブツブツと呟いた後、またこちらに向きなおってきて、


「ホントすいません、先輩。まずは婚約が先に決まってますよね?」

「なにが決まってるのお!? 」


 大真面目な顔をしてボケる少年に、思い切りツッコんだ。


「えっ……な、何かおかしかったですか? 年齢の問題でまだ結婚は出来ないし、まず婚約ですよね?」


 計佑が狼狽えながらも、まだそんな事を言ってくる。


「ほ、本気で言ってる訳じゃないよね……?」

「……え。ま、まさか先輩、イヤなんですか……?」


 世界の終わりでも迎えたかのような表情を向けてきて。


「まっ、まさか!! ううんっ、イヤだなんて、そんなワケないよ!!

そりゃあゆくゆくはそうなれればって、私だって思ってるよ?

……じゃなくてっ!! そもそも、まだ私達付き合ってもないよね!?」

「あ。そう言えばそうですね。じゃあ付き合ってください。そして結婚もしてください」


 すぐに畳み掛けられた。……しかも、また求婚された。


「だっ、だからあ!! そうじゃなくて、なんで結婚とか婚約とか、そんな段階が飛んじゃうのお!?

 普通、もっとこう、お付き合いを重ねていってから……とかでしょお!?」


 訳がわからないまま、どうにか当たり前な質問をしたのだけれど、


「えっ、いやだって、両思いって事で、もう付き合うのは確定事項ですよね?

でもホラ、先輩はすごくモテるし。恋人ってだけじゃあ、他の男がワラワラ言い寄ってきそうだし、

最低でも婚約とかまで話進めとかないと、オレ、不安でたまらないんですよね」


 計佑は照れくさそうにそんな風に答えて、


「こないだのバイト代、まだ残ってますから。

そりゃ高いのとかは無理ですけど、それでもちょっとした婚約指輪、今度買いにいきましょうね」


 さらには、嬉しそうに笑いかけてまでくる。

けれども、雪姫の方はさっぱりついていけない。──いける訳がない。


──ど、どうしちゃったの計佑くんっ……!? な、なんで急にこんな……!


 ついこの間まで、『恋ってどんな食べ物?』みたいな顔をしていた癖に。

元々スイッチのオンオフで急に態度が変わる所はあったけれど、

開き直ったらここまで大胆になる人だったのだろうか。


──それにしたって、いくらなんでも極端すぎるよ~~~!!??


 普通に見えて、実は全然規格外。

そんな少年の正体は弁えていたつもりだったけれど、

今回のそれはあまりにも想定外で、なんだか目が回りそうだった。


──お、おちついて、落ち着いて……よく考えてみれば大したことないじゃない。

  ……てっきり振られると思っていたら、高校生なのにプロポーズされただけ。


「──だけって、こんなの落ち着けるワケないよぉおお!?」


 冷静に振り返ってみようとしたけれど、やはり無理な話だった。

思わず叫んでしまっていたが、


「そうですね、 オレもすごい舞い上がっちゃってます。こういうのを『天にも昇る心地』って言うんですかね」


 ニコニコとした少年は、相変わらずズレた事を言ってくるだけだ。

……けれどそこで、少年が、はたと何かに気付いたような顔をすると。キョロキョロと当たりを見回し始めた。


「……うーん。このままじゃあ、誰かに見られちゃう可能性ありますよね」


 そんなセリフを口にすると、いきなり立ち上がって。

繋いだままだった雪姫の手を引っ張りあげてきた。

「え、え」とつられて雪姫も一度立ち上がったところで、今度は下へと手を引かれて。

二人してカウンター内の床へと座り込んだ。


「これでとりあえずは誰にも見られないですよね」


──何を、とは口にするまでもなかった。

もう少年の顔が、こちらの顔へと急接近しつつあったから。


「やっ、ちょちょっ、ちょっと待ってっ!!」


 慌てて少年の肩を押しとどめた。


「なっ、ななななな、何をする気なのっ!?」

「え、なにって……とりあえずキスでもと」


 勿論何をする気だったかくらいは察していたけれど、咎める意思も込めての質問をしてみれば、

『何当たり前のコトを?』みたいな顔で返されて。頬がヒクヒクと震えるのが自覚出来た。


──だからっ! ついこないだまで手だって握ってこれなかったクセに!!

  いきなりこんな飛び級してくるなんて反則でしょお!?


「……先輩? イヤなんですか……?」

「い、いやってワケじゃあ……!?」


 笑顔から一転、悲しそうにすがってくるその顔に、強烈に母性本能をくすぐられるけれど。

 それでも、少年の肩に置いた手から、力は抜けなかった。


──決して、嫌な訳ではない。告白されて、そのままキス。

ロマンチストな乙女としても決して不満はない流れの筈だけれど、

初めてのキスは、もっと落ち着いた気分の時に交わしたい。

 こんな、何がなんだかわからない内に勢いで済まされてしまうなんて

"初めて" に拘わりがある乙女としては、やっぱり許容し難かった。


「わ、わかったから!! 話はよーくわかったから、今日はもう帰ろう!?

ほっ、ほら、もう下校時間だしね! 続きは、また今度落ち着いてって事で──」

「──待てませんよ、そんなの」


 言うやいなや、計佑がこちらの手を掴んで肩から外させると。


──そのまま、雪姫の身体を床へと押し倒して、更には覆いかぶさってきた。


────なに……えええぇえええ!!!??


 一瞬何のつもりかわからなくて、けれど直ぐにパニックになった。


────ちょっとまって。まさかまさか、こんなところで……!!


「まってまってまって計佑くんいくらなんでもそれは無理ムリ無理駄目だめぜったいダメ、

いきなりこんなトコロでとかそんなこと──!!!!」


 慌てて、全力で抗う。必死に押しのけようとして

キャンキャン喚いてみせたところで、計佑の手がこちらの口をぐっと覆ってきた。


「……もう黙って……」

「─────!!!!?????」


 耳元で囁かれた。

続いて、計佑の息が耳にふうっと吹きかけられる。


ゾクゾクッッ……!


 全身に震えが走り、完全に硬直した。思考が真っ白になる。

 

 そうして雪姫が大人しくなったところで、

口を抑えこんでいた計佑の手がするりと動くと、そのまま雪姫の頬をすりすりと撫でてきた。


ビクゥンッッ……!!!


 少年にのしかかられているというのに、身体が大きく跳ねた。

 計佑の手は、自分にとって特別なものだ。

そんな手でさらさらと顔を愛撫されて、一際激しく心臓が悲鳴をあげた。

そのまま更に鼓動が激しくなっていって、もう破裂してしまいそうな気すらしてきて。

身体どころか頭の中まで熱くなって、もう何も考えられなくなった。


 力が完全に抜けて、くにゃりと身体が蕩ける。


──……もう、なんでもいい……


 潤み始めた雪姫の瞳が、そっと閉じられて──



─────────────────────────────────



 計佑が目を覚ました時、辺りは真っ暗だった。

そして自分が固い床に寝転がっている事に気付いて、とりあえず起き上がろうとしたところで


「……いっつぅ……!!」


 ズキリと頭が傷んで、思わず声を上げて。その声が頭に響いて、さらに顔を歪めた。


──なんだよこれ……一体どうなって……


 ズキズキと痛む、重い頭を手で支えてゆっくりと辺りを見回す。

そしてここが自分の部屋などではなく、学校の図書室らしいという事に気がついた。


──はあ……? なんでオレこんなトコで寝てたんだよ……


 訳がわからなかったが、痛む頭ではゆっくりと考える気もしなくて、

こっそりと夜の校舎から抜けだすと、ふらふらとしながらも漸く家へと辿り着いて、

「どこほっつき歩いてたんだい!!」

と怒鳴ってくる由希子に

「今は調子悪いから、後で……」

と逃げるようにベッドへと倒れこんで。


──喉、かわいた……ああでも、下までいくのもかったるい……


 そこで、飲みかけのスポーツドリンクを机の上に見つけると、これ幸いとばかりに手にとって一気に飲み干した。


──は~~~……アクエリアスがここまで美味いって思えたの初めてかもな……


 ペットボトルを机に戻して、そしてそこで、ふと違和感を覚えた。

 ペットボトルに巻かれている、見慣れた印刷フィルム。だけど何故か、今はそれが妙に意識に引っかかって。

そうしてぼんやりと見つめ続けていると、途切れていた記憶が急激に戻ってきた。


──雪姫に会いにいかなければ。

 そう決めた筈なのに、やっぱり勇気が出せなくて、

もう誰もいない教室でグダグダしている内に、茂武市が忘れ物を取りに戻ってきた事。

どうしたのかと尋ねられたので、茂武市にならいいかと先輩に返事をしに行くつもりだと明かした事。

「おおっ、ようやくかよ!!」

と祝福はしてくれたのだが、

「先輩の反応が怖い」と伝えると

「ああ……? あんだけ惚れられてて、何ビビる必要あんだよ?」と呆れられた事。


 まくらとの二股ぽい気持ちがあるからだ、等とは流石に口にしづらかったので口ごもっていると、

「……しょーがねーなあ。また用意するの面倒なんだけどお前にやるよ。これ飲めば勢いくらいつくだろ」

 スポーツドリンクのペットボトル──中身はアルコール──を渡された事。

 そして、随分悩んだのだけれど、いつまでも決心がつかない自分には確かに必要かと観念して、

初めての酒を口にしたら、それまで悩んでいたのが馬鹿らしくなってきて──


 そこで、元々悪かった少年の顔色が更に青ざめていく。

──雪姫に求婚なんてものをして、押し倒して、覆いかぶさってしまったところまで思い出していったからだった。


「ウソだっっっ!!!!」


 思わず叫んで、またズキリと頭が痛む。うめき声を上げるとベッドに倒れ込んだ。

 記憶は雪姫に覆いかぶさった後、急激に眠気が襲ってきてからの

「……この息……お父さんがお酒呑んだ時の……!?」

 そんな雪姫の声で終わっていた。


──ウソだウソだウソだぁぁぁあああ!! 絶対にウソだぁぁあああああ!!!!


 大声は頭に響くので、代わりに激しく頭をふってみたのだがそれはそれで頭が痛んで、またうめき声が漏れた。


──ゆ、夢だ……夢に決まってる!!! そうだよ、初めての酒で、きっと悪い夢を見ただけなんだっ!!!


 だとしたら何故自分が図書室のカウンター奥で寝こけていたか説明がつかなくなってしまうのだけれど、

もはやそんな一縷の望みにかけるしかなかった。何故なら、


──散々待たせた挙句の答えは随分と失礼な内容で、

──それなのに求婚などという暴走を始めて、

──最後にはあんなトコロで押し倒しまでしてしまった。


 真面目で、奥手で、初心な少年には、そんな現実は到底認められないからだった。


──そ、そうだ! 先輩に確認してみようっ、そうすれば夢だって証明出来るっ……!!


……パニックに陥って、もはやまともな思考が出来ていない少年。

夢じゃなかったとしたら、その結果どうなるのか──そんなわかりきった事にも思い至らない。

 あの優しい雪姫が、大好きな筈の少年を床に放り出して帰ってしまうくらいなのだから

その感情は推して知るべしなのに、もはや "夢" という可能性に縋る事しか出来なくなっていた。


 計佑が起き上がってすぐに電話をかけると、しばらくの間コール音が鳴り続いて。──やがて、ついに繋がった。


 『…………………………』


 ここしばらくは留守電ばかりだったのに、今日この時にはしっかり繋がった電話。

なのに、延々と貫かれる無言。

それら自体が、ある意味もう答えになっているのだけれど、やっぱりそれを認める事は出来なくて、


「……せっ先輩!! あっあの、変なコト聞きますけどっ、オレ今日先輩に会ったりなんてしてませんよねっ?」

 

 そう、痛む頭をおして尋ねた瞬間。


……電話の向こうから、とんでもない鬼気が伝わってきた気がした。


『……まさか、覚えてないとでも言うつもりなの……っ……』


──地をはうような低い声。雪姫からそんな声を聞く事なんて、きっと一生ないだろうと思っていた、そんな声に。


──……だよなぁ……夢のわきゃないって、ホントはオレだって……


 とうとう諦めがついた。

そして余りの恐ろしさに、心が逃避を始める。──それこそ、夕方の図書室で雪姫もやっていた時のような。


──……あ~……それにしても、先輩でもこんなに怖くなったりするコトあるんだなあ……

  今の先輩だったら、鬼モードの須々野さんにだって負けないんだろうなぁ……


 そんな益体もないことを考えて現実逃避していたら、


『……ナニ無視してくれちゃってるのカシラ、計佑クン……?』


 発音がどこかおかしいその声に、我に返った。


「はっ!? いっいや! すっ、すいませんでしたっ……!!!!」


 慌てて謝ったのだけれど、電話の向こうの雪姫の怒気はまた膨れ上がったような気がした。


『……ソノ謝罪はドウイウ意味かな……モシカして覚えてないコトを謝ってるのカシラ……』

「えっ!? いっいやその、それは……」


 全部覚えている。──いるとは思うけれど、そう正直に口にするのも怖くて口ごもっていると、


『……コレ以上トボケヨウってイウンナラ──』

「おっ覚えてます!! 多分全部!!」


 余りの迫力に、慌てて告白した。


『………………』


 すると、しばらくの間雪姫は沈黙して。


『……全部って、どこからどこまで……?』


 ようやく、雪姫の声がある程度は落ち着いてくれた。けれど、


「……えっと、先輩と図書室で話し始めて、その、覆いかぶさった後、少しくらいまでは……」

『…………』


 答えてからわずかな間の沈黙の後、いきなりプツッと電話は切られてしまった。


──……おわった……


 コテン、と計佑がベッドに倒れこんで。


……真っ白に燃え尽きた少年は、今度こそ夢の世界へと逃避を決め込むのだった。



─────────────────────────────────


 次の日の朝を迎えても、計佑は布団の中に逃げ込み続けていた。


……が、そんな逃避を由希子が許す筈もなく、鉄山靠で家を追い出されて。

 自転車を走らせる気にもなれず、足を引きずるようにして何度も立ち止まりながら

学校へと着いたのは昼休みも終わった後だった。

 何があったのかと心配する友人たちに碌な返事も出来ず──ただし茂武市にだけは、

逆恨みとわかりつつも、つい恨みがましい目を向けてしまったりもしたのだけれど。

 そうやってグダグダと午後の授業を過ごして、放課後になったところで、また茂武市が計佑のところにやってきた。


「おい……ホントにどうしたよ計佑? 昨日、まさか上手くいかなかったってのか?」

「……あ~……アレ飲んだら、やたら気が大きくなってな……いきなり先輩押し倒しちまったよ……」


 その答えに、流石の茂武市も絶句して。

そんな友人の顔を、机に上半身を預けたまま見上げていたけれど、責めるような言動はどうにか抑えこんでいた。

 こいつに渡された酒のせいで──どうしてもそんな風に考えてしまいはするけれど、

結局のところ悪いのは自分だという事はちゃんと弁えていた。


……いたつもりなのだけれど、それでも恨みがましい目はしていたのだろう、

茂武市が気まずそうに一声謝って、そそくさと逃げ出そうとしたところで、


「けーすけーっ、テメーーッッ!!!」


 怒声と共にアリスが教室へと飛び込んできた。

のろのろと計佑がそちらに顔を向けた時には、もうアリスは飛び上がっていて、

その勢いのまま計佑を蹴り飛ばしてきた。


──ガターン!! と派手な音を立てて、何の抵抗もしなかった計佑が椅子ごと床へと倒れこむ。

そんな少年へと更なる追撃をかけようとしていたアリスを、慌てて茂武市が後ろから押さえこんだ。


「けーすけっ、オマエおねーちゃんに一体なにしやがったっっ!!! 」


 もがきながらのアリスの言葉に、ビクリと少年が震えた。


「昨日からおねーちゃんが完全におかしくなっちゃったんだぞ!

あ、あんな、あんな変なおねえちゃんなんか……!! どーせオマエのせいなんだろっ!!?」


 そんな子供の糾弾に、計佑は倒れたまま両膝を抱えると丸くなって。


「……もっと罵ってくれ……いや、もっと蹴ってくれてもいい……」

「……ひっ!? な、なにいってんだこのヘンタイ……!?」

「……け、計佑お前なあ……」


 計佑のドM発言に、アリスがドン引きして、茂武市が顔を両手で覆って天を仰いだ。

それでも計佑は床で丸くなったままだ。

 茂武市が溜息をつくと、アリスを教室の隅まで引っ張っていく。

何かを話し込んで、渋々ながらもアリスが教室を出て行くと、また計佑のところへと戻ってきた。


「おい、いー加減にしろよ計佑。いつまでそうしてるつもりなんだよ」


 無理やり引っ張り起こされて、よろよろと立ち上がる計佑。茂武市が辺りを見回す。

教室にはもう殆ど人は残っていなかったが、それでも室内の全員が好奇の視線を向けてきていた。


「……とりあえず、部室にでも行くぞ」

「…………」


 抵抗はしないが積極的に歩こうともしない少年が、

ズルズルと引きずられるように天文部室へと連れて行かれるのだった。


─────────────────────────────────


 部室へとたどり着くと、計佑はすぐにテーブルへと突っ伏して。

その様に茂武市は溜息をつくと、メールを打ち始めた。それを済ませると、


「……とりあえず、白井先輩呼んどいたわ」


 計佑にとってはとんでもない爆弾発言をかましてきた。


「──なあっ!? な、何してくれてんだよお前っ……!」


 ぐずぐずに溶けていた少年が、ガバっと身体を起こす。

久しぶりの俊敏な動きで立ち上がると、慌てて部屋から飛び出そうとして、


「おいこら、どこに行こうってんだよ」


 茂武市に首根っこを掴まれてしまった。


「ちょっ、てめっ……何なんだよっ、昨日からお前の──」


 アルコールの事といい、今の雪姫への連絡といい、

余計なお節介ばかりしてくる友人にとうとう怒りが爆発しそうになったけれど、


「……あのな、昨日のコトは悪かった。

オレの考えが浅かったせいで、余計なトラブル引き起こしちまって」


 珍しく、真摯に頭を下げてくる茂武市に、それ以上怒りはぶつけられなかった。

そもそもが逆恨みだと言う事もわかっているだけに。


「けどなぁ、やっぱ黙って見てはいらんねーわ。

コドモに『踏んでくれ』みたいなやべーコト言ってる姿は、流石に見ちゃいらんねーんだわ……」

「……うっ……あ、あれは……」


 雪姫の事を口にされて落ち込みがMAXになったせいで、つい自虐願望を口に出してしまったけれど、

確かにあの姿はあまりにも酷かったろうとは思う。

 けれど、だからと言っていきなり雪姫を呼びつけるなんて、

乱暴過ぎるフォローじゃないのかという不満も抱いてしまう。

──そこで、茂武市のケータイが着信音を奏でた。すぐに茂武市はメールを確認すると、


「……お前、嫌われたって自分のコトばっか今は考えてるのかもしんねーけど、

先輩の気持ちも考えてみろよ? いきなり押し倒されたなんて、先輩もショック受けてんじゃねーの?」

「……あ……!」


 その言葉で、初めてその可能性に気付いた。

 昨日の電話の様子から、激怒しているとしか考えられなくなっていたけれど、

あの気の弱い雪姫だったら、男に押し倒されるなんて怯えや恐怖だって相当なものだった筈だと今更思い至った。


「……っ……!!」

「とりあえず、オレが無理やり酒なんか飲ませたせいとかってのは先輩に知らせといたから。

お前もとにかく謝り倒せ。少なくとも、好きって感情が暴走した結果だってわかってもらえれば、

きっと許して……許して……くれんのかなぁホントに……?」


 無言で項垂れたところに、フォローしてくれて……いるつもりなのやら、

最後には微妙な顔をして首をかしげる友人の有難いお言葉に、溜息をついて。

観念して椅子へとまた腰を下ろした。


「……ま、まあきっと大丈夫だぞっ、計佑。白井先輩優しいし、絶対許してくれるだろ!!」


 自分自身あまり信じてないような様子の茂武市はバンバンとこちらの肩を叩くと、そそくさと部室を出て行った。


─────────────────────────────────


 一人部室に残された計佑は、

もうテーブルに突っ伏す事はなく、けれど肩を落としたまま審判の時を待ち受けた。

 出入り口には背中を向けたままだ。

……情けないけれど、いきなり雪姫の顔を目にするのは怖かった。

 そうしてだんだんと顔が下を向き始めていたところで、


「本当に反省はしてくれてるのかな、計佑くん?」


 そんな声と共にいきなり肩に両手を置かれて、驚きと恐怖で思わず腰が跳ねた。


──えっ、なっ!? い、いつの間に……!?


 足音は勿論、ドアが開く音だって聞こえなかったのに。

……いや、思い返せば茂武市は出ていく時ドアを閉めていかなかったような気がする。


──それは実は雪姫からの指示で、茂武市はあえてドアを開け放したまま出ていったのだけれど、

そんな事を知るよしもない少年は、改めて茂武市への恨みの念を膨らませた。


「……凄い勢いで身体跳ねたね?

 ……もし座ってなかったら、いつかの病院の時みたいに壁まで突っ込んでたのかなぁ?」


 耳元で囁かれたけれど、相変わらず振り返る事も出来ずに硬直を続ける。

 雪姫の声は、昨夜のようなドスのきいたものではなかったけれど、

それでも状況を考えればやはり恐ろしすぎて、脂汗が流れてきた。


「茂武市くんに聞いたんだけど、私にキラわれでもしたんじゃあって、今日はヒドく落ちこんでたんだってね?」

「……それは……だって……」


 あんな事をしでかして、昨夜の雪姫は凄く怒っていて、もうそうとしか思えなかったから。

しかしさっきの茂武市の言葉で、まだまだ謝らなければいけない事に気付かされた。

振り向いて、また改めて謝罪しようとしたけれど、


「だめ。そのまま前を向いていなさい」


 ガシリと顔の両面を挟まれてしまって、雪姫の顔を見ることは許されなかった。


─────────────────────────────────


──そうだよ……今は、こっちを振り向いたりしたらダメなんだから……


 しっかりと計佑の頭を固定しておいて、雪姫は赤く染まった顔を緩ませていた。


──まあ、計佑くんらしいといえばらしいんだけど……ま~た、そんなコト考えてたんだ……


 どうせ押し倒してきたのだって、眠くなったせいとかそんな理由だろうくせに。

でもまあ、今回はそんな風に思うのも仕方ないのかもしれない。

昨夜の電話だって、いきなりぶち切ってしまったりもした事だし。


──怒って切ったんじゃなくて、恥ずかしかっただけなんだけどね……


 確かに図書室で、計佑が酔って寝ている事に気付いた瞬間は、怒りでどうにかなりそうなくらいだった。

あんなに腹がたったのは生まれて初めてだったかもしれないくらいに。


 計佑の身体を跳ね除けて、もう振り返りもせずにズンズンと帰宅して、

……けれど、やがて落ち着き始めると。

 最後の行動はともかく、少年の告白自体はウソではなかったのではないかと思い始めたら、

怒りは静まっていって、喜びへと置き換わりつつあったのだ。


……まあ、そうしてじわじわと喜びを噛みしめていたところへかかってきた電話の第一声が、

まるであの時の事を覚えていないかのようなものだったので、

また怒髪、天をつく状態にもなってしまったのだけれど。


──だって、あんなの恥ずかしいに決まってるよ……あの時の私ってば……


 もう完全に計佑を受け入れるつもりになってしまっていた。

あんな場所で、あんな時刻なのに。

きっとあれからすぐに、見回りの先生だってやってくる筈だったのに。

 ちょっと耳に息を吹きかけられて、顔を撫でられたくらいでもうその気になっていた事を、

計佑もちゃんと覚えていると言われてしまって……顔から火が出る思いで、慌てて電話を切っただけの事だった。


──全く、あれからの自分がどれ程酷かった事か。

母やアリスにはドン引きされるし、今日一日クラスメートにだって随分心配されてしまった。

 そんな嬉し恥ずかし120%な気分のせいで、

次にどんな顔をして計佑に会えばいいのやらとちょっぴり悩んでいたのだけれど、

この凹み切った計佑の様子からすると、あの時の "もう全てを許す気になっていた"

こちらの様子はよく覚えていないという事なのだろう。


……まあ、押し倒してきた時点ではもう殆ど寝ぼけていたのだろうから、無理もない気はするのだけれど。


──それにしたって、失礼な話だよねっ……!!

  こっちは、一瞬とはいえ覚悟だってしたっていうのに……!!


 あんなトコロで身体を許しそうな程になっていたのに、そこで寝こけて放置だなんて。


……いや、勿論そのまま最後までいかれてしまったりする方がよほどまずかったのだけれど、

女の子としてはあんな風に放り出されるのだって許しがたくて。


──だから……今は、私が攻める番なんだからね……?


 計佑が初めて家へ来てくれた時といい、

自分は計佑に攻められると、あっという間にトロトロに蕩けてしまう。

 だから今は、計佑にこちらを向いて話をさせる訳にはいかなかった。

今は罪悪感やらで縮こまっている様子の少年だけれど、何の拍子にスイッチが入って、

またこちらを蕩けさせようとしてくるかわかったものではないからだった。


──最近は、もうずっと振り回されっぱなしだったもんね……

  このチャンスに、しっかりとお返しさせてもらうんだからねっ?


 久々に味わえる加虐の楽しさに、雪姫は頬を緩ませているのだった。


─────────────────────────────────


「ねえ、計佑くん。昨日は随分と熱い告白してくれたけれど、あれって本気だったのかな?」

「え゛!!??」


 予想していて然るべき質問だったのに、あれからずっと落ち込む事しかしていなかった計佑は

完全に意表をつかれてしまった。


「んん……? その『え』はどういう意味かな……? まさか酔ったせいでのウソだったりするのかな……?」

「えっ、いやそんな!! まさか、ウソなんかじゃないですっ、ていうか本音すぎるというかっ……!」


 雪姫の声は、怒っているというよりはどこか楽しげで。

答えがわかっていての、あえての質問という感じだったのだけれど、

余裕のない少年はそんな事にも気付かないで、慌ててそんな答えを返してから、


──って、何馬鹿正直に答えてんだよオレ~~~!!


 その恥ずかしさに顔が熱くなった。

──結婚を求めて、指輪を送ると宣言して、

その理由は他の男が寄ってくるのが許せないからだと独占欲丸出しで。

雪姫のいない人生など耐えられないと、縋るような事まで口にして。

 酒のせいで抑制が全く働かなかった本音は、素面の時にほじくり返されるのは余りにも恥ずかしすぎた。

だというのに、


「……ふ~~~ん……

私のこと、10年以上一緒でずっと好きだったまくらちゃんより好きなんだ?

あ、それにずっとずっと傍にいて欲しいんだっけ?

そしてまさかの、高1のクセにプロポーズしちゃうくらい?」

「……っっっ……!!」


 改めて、わざとらしく確認してくる雪姫。

 もう恥ずかし過ぎて死にそうな気分になってきて、目も開けていられなくなった。

恥ずかしいことに涙まで滲んでくる。


 なのに雪姫の追求はとどまる事を知らなくて、


「ねえ、訊いてるんだよ計佑くん? ちゃんと答えてくれないかなぁ?」

「……っ……は、はぃぃ……そうです、先輩のコトが大好きですぅ……」


 消え入るような声でどうにか答えてみせたら、

「……くぅう~~~……!!!」

という何かを堪えるような声が後ろからして、

顔を挟んできたままの両手も震えていたのだけれど。


 もう恥ずかしさに身を焦がす事で一杯一杯の少年は、

そんなわかりやすいサインの意味にも気付かず、目をキツく閉じたまま、ただただ震え続けていた。


─────────────────────────────────


──……くぅうう~~~……!!! い、言ってもらえた……!!

  今度こそ、お酒の勢いなんかじゃなくて、ちゃんとだよねっ……!!!


 雪姫は歓喜のあまり思考の一部が口をついてしまった事にも気付かず、

甘美な悦びに浸りきって、一時の間身体を震わせていた。

 やがて身体の震えは治まってきて、最後までむにゅむにゅと擦り合わされていた唇も落ち着くと、

1つ大きな溜息をついて、漸く気をとり直して。

未だにプルプルと震え続けている少年を見下ろす。

計佑の顔を両手で挟んだままだったから、少年がどれほど顔を熱くしているかは、まさに手に取るようにわかった。


──ふふふ……どーお計佑くん?

  こういうコト、改めて確認されたりするのがどれくらい恥ずかしいか、よーくわかったでしょお?


 そう、雪姫が計佑の言動をわざとらしく振り返ってみせたりしたのは、

ただ嗜虐的な楽しみの為だけではなくて、今までの報復も兼ねての事で。

 島で夜を過ごしたあの時や、合宿の夜の事やの、あの火が出るような恥ずかしい思いを、

この機会にしっかり計佑にも味わわせてやろうと思ったからだった。


──でもね、計佑くん……まだまだ、終わりじゃないんだからね……?


 そしてまだもう1つ、復讐しなければいけない事が残っていた。それは──


「ねえ計佑くん。その好きって、『人として好感が持てる』とか『一時の気の迷い』とかそういう事だったりしない?」

「……ええっ!?」


 島で少年からぶつけられた答えをそのままお返しして、


「ああそれとも、まくらちゃんは引っ越しちゃったし、

近くにいる『手頃な相手』に乗り換えようかなぁとかそんな感じだったりとか?」

「……なぁ……っ!?」


 公園で聞かされた考えを、アレンジしてぶつけてみせて。

少年が愕然とした様子で硬直する姿を、ニマニマとして見下ろし続けていると、

やがて硬直が解けてきた少年は、またプルプルと震え始めた。

 けれどその震えはさっきまでとは違い、屈辱に耐えているせいだろう事は、容易に察する事が出来た。


──ふふふっ、今なら自分がどれだけ失礼なコト言ってたか、よーくわかるでしょお……!


 今自分がぶつけた言葉は、かつて計佑自身が口にしてみせた言葉だ。

自業自得なこの状況で、雪姫に対しては逆切れなんて出来ない性分の少年としては、

ただもう耐える事しか出来なくなっているのだろう。


 そうしてしばらくの間、久々のSの楽しみを漫喫していたのだけれど。

十分に満足がいったところで、今度は申し訳ない気持ちが沸き上がってきた。


──ちょっと調子に乗りすぎちゃったかな……こういうコト言われるつらさ、私はよく分かってたハズなのに……


 された事をそのままお返してしてあげる──そんなつもりだったのだけれど、

天然でしかなかった少年に対して、イヤミたらしかった自分はやりすぎだったたかもしれない。

随分待たされたという利子にしたって、流石に高利だったかも──そんな気もしてきた。

 けれど──


「……ごめんね、計佑くん。ちょっと意地悪すぎたね……でもね、私、今すごく嬉しいんだよ?」


 そう、今計佑が怒ってくれているだろう事が、とても嬉しかった。だって──


「──だって、計佑くんがあの時の私と同じようなコト、今思ってくれているって事は。

 ……もう計佑くんの気持ちは、私と同じなんだっていう、何よりの証拠なんだもの……」

「……あ……」


 手から少しだけ力を抜いて計佑の顔を撫で始めると、少年の身体から震えが消えていくのが見て取れた。


 雪姫からは加虐心が消えて、計佑からは緊張がとれて。そうして、お互いにいくらか落ちつけたところで、


「……ねえ計佑くん。昨日わたしに申し込んでくれたコト、もう一度言ってくれないかな……?」

「……え……」

「あっ、結婚とか婚約とかのコトじゃないからねっ? そんなんじゃなくて、もっと普通の……ね?

酔った勢いなんかじゃなくて、いつもの計佑くんから、もう一度ちゃんと言って欲しいの……」

「……っ……」


 少しだけ甘えた声で頼んでみせると、少年はまた緊張し始めて。

また顔も熱くなり始めてきたのが、指先からも伝わってきた。

 それでも無言のまま計佑の頬を撫で続けて、その瞬間をじっと待つ。


 やがて、ようやく──


「……っせ、先輩のコトが、女の子としてっ……すっ好きなので、お、俺と付き合ってください……っ」


 つかえながらも、ついに計佑が告白をしてきてくれた。


「~~~……っ……!!」


 息を呑んで、天を仰いで。それから、また計佑の姿を見下ろした。

 

 耳まで赤くしてプルプルと震えている、

この世界一可愛いと思える生き物を抱きしめたい欲求にもかられたけれど。


 今、真っ先にやりたいことは──



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 その告白から数秒後、ずっと計佑の顔に添えられていた手が、とうとう離れた。

 計佑としては、今の告白の余韻でまだまだ恥ずかしくて堪らなかったのだけれど、

ようやく、雪姫の顔を振り返る事を許されたのだという安堵もあって振り返った瞬間、

また両手で顔を挟み込まれた。


──といっても、先程までとは違い、

今度は雪姫の右手がこちらの左頬に、左手が右頬にきて……

そして次の瞬間には、雪姫の唇が──こちらの唇へと重ねられていた。


──…………え…………


 それが重ねられていた時間は決して長くはなかったのだけれど、

真っ白になっていた思考時間は、永遠にも感じられて。


 やがて唇を離した雪姫が放った一言は、


「今度は『事故』じゃないからねっ♪」


 涙を浮かべて、耳まで赤くしている雪姫のその笑顔は。

最高に可愛くて美しくて、計佑にとって一生忘れられない、特別な笑顔として脳裏に焼き付けられたのだった。



 < 終わり……? >







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<25・26話のあとがき、全体を振り返って。めちゃ長いのでお暇な方だけm(__)m>

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<25話の分のあとがき>


ホタルのことを思い出せない計佑。

えっと、つらすぎる記憶は封印とか~、または、涙と一緒に榮治の部分も流れさって~、

その時一緒に一部の記憶が昇華されちゃったとかそんな感じってことで……

イメージ元は、前にもちょろっと書いたかもですけど、原作版Gu-Guガンモです。


計佑のバイト先は特に考えてなくて……ヘロヘロに疲れてるんだから肉体系なのは確定なんだけど。

引越し屋とか、休みなしで10日もぶっ続けで働かせてくれたりするのかな?

ブラックなトコなんていくらでもあるんだろうけど、流石に高校生相手だと気を使いそうな……

……まあ、細かいことはm(__)m


まくらの父親の名前なんて原作でありましたっけね……

……まあそこは興味あるトコじゃないし、適当に名前つけてしまったかもm(__)m


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「で? そのコとの進展具合はどうなんだい?

……それでも、くーちゃ……んんっ、まあ、大方もう両思いで、ゴール直前ってトコなんだろう?」

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↑ 母が飲み込んだ言葉を一応補足しとくと、

「……それでも、くーちゃんが逃げ出そうとするくらいなんだから──」

ですね。まあこれを言い切っちゃうと、流石の計佑もまくらの気持ちに気づきかねないので、あんな形に……


僕、原作での由希子にはちょっと不満が残った口なんですよね。

二次元の母にしては鈍すぎではないかという気が……

最低でも、計佑かまくらのどちらかくらいの気持ちは気付いていて欲しかったなと。

という訳で、こちらではせめてまくらの気持ちくらいは察してる風にしてみました。


ふと思ったんですが、原作の雪姫は、まくらが引っ越すコトを知ってて映画に誘ったんでしょうか……?

まくらのことをどれくらい恋敵として認識してたのか、イマイチぴんと来ないんですよね。

まくらの勉強会で足ドンやりますが、あれは計佑の狼狽えぶりが面白くないだけの気もするし。

週を跨いでたせいで最初ちょっと誤解したんですけど、

あの足ドンって屋上のネコ騒ぎの直後なんですよね……それを引きずってたせいもあるぽいし。

実際、それ以外のとこではまくらと仲良くなってた訳だし。


僕の中では、雪姫は子供で素直な性格のせいで、

人の恋心とか察することはあまりできないキャラです。

ここの話の中でも、まくらの「つらい」発言みたいなのを、親恋しさとしか認識しません。

根が素直なので、基本的に言葉の裏とか読めないって感じですかね。

まくらがはっきり計佑に気持ちがないと言った以上、最後まで気付きません。


んで原作の話に戻ると、計佑のまくらへの気持ちには不安は持ってるけど、

まくらが計佑を好いてるとは思ってないからこそ、

あんな風にまくらと仲良くなれたんじゃないかと思うんですが……どうなんでしょう……


……ちょっと話が遠回りしましたが、

言いたかったのは、まくら引越しを知ってて

「まくらがいなくなる、チャーンス!!」

っていう黒思考の元、計佑を誘った可能性も一応あるのかなーと(-_-;)

……しかしそれだと、映画館で手をよけられた雪姫先輩のショックやいかに(T_T)


……まあ、僕の妄想雪姫ちゃんは黒雪姫ではなく白雪姫なんで、そんな腹黒思考はさせないんですけど(笑)

腹黒要素は、基本硝子ちゃんに押し付けです(`・ω・´)ゞ


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最初の一日二日は連絡をとっていたのだけれど、計佑が疲れきっている事は電話越しでもはっきりと理解できた。

そうなっては、流石に雪姫とてワガママは出来ない。

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↑前回ラストもそうでしたけど、

 ラブコメパートでは駄々っ子状態になってしまいますが、

 基本的にはちゃ~んと弁えている、とってもいいコの先輩なのです(≧∇≦)/


先輩が観た悪夢ですけど、これは勿論、前回ホタルが言ってた置き土産のせいですよ。

24でホタルが語った、とりようによっては……っていうヤツ。

これは、今の雪姫の恵まれた立場っていうか……

まあ、きっぱりフラれてしまった時の悲しみを味わえば、

今の立場の幸せを改めて噛み締められるだろう?とかそんなイメージで。

……21話のイタズラでも似たようなコトやってるんですけどね(汗)

まあ定番の、『落としてから上げる』ってヤツです。


最初は、原作での映画のシーンなんて、雪姫派としては絶対削除って思ってたんですけど!!

先輩が悲しいコトになってしまう映画鑑賞なんて、黒歴史にしてやる!

って決めてたんですけど!!

……でも、ホタルを使っての、原作世界と繋がってるパラレルワールド設定を思いついてから、

むしろ一度書いてみようって思えて。

こっちでも一度書いて見せることで、改めて今の雪姫たちの仲睦まじさが引き立つかなーって(^^)


……うん、それに。やっぱり原作の話をそのまま引き込んでおいてからの否定というのは、

自分にとっては原作へのリベンジっていうか、あの悔しさをきっちり払拭するのに有効だったかなぁと。


映画のあらすじですけど、これは『聲の形』って読み切り漫画のやつからです。

いくらか、勝手に想像で補完してみたりしましたけど……


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「ちょ、ちょっとって……全然そんな風に見えないよ? ホントに大丈夫?

きついんだったら、ムリに付き合ってくれなくていいからっ」

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↑しょっちゅう暴走するけど、いざという時にはちゃんと計佑の体調とか優先できる、優しい先輩///


24話辺りで、計佑と雪姫同時の心理描写にチャレンジしてみたけど、

結局ピンと来なかったので、今回はやっぱり、はっきりと切り替える方向にしてみました。

スパスパ切り替えまくるのも良くないのかもしんないですけど、

自分の場合はこのやり方のほうが、やっぱりいい気がするのでm(__)m


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「……なに、ぼうっとしてるの……?

……い、今は、ちゃんと私のコト見ててくれないとヤだよ……?」

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↑この辺は、島編、地下室でのタイマーが鳴る直前の雪姫の心情を思い出して、

同じようなパターンとして書いてみました。


いつかのアトガキでも書いたかもですけど、

原作でも、計佑と雪姫の『手』の触れ合い描写って、すごく印象的に描かれてましたよね(*´∀`*)

4話での、強引に引っ張りだされた時から始まり、旅行編での色々、……そして映画館でのアレ(T_T)

……コホン。まあそういう訳で、こちらの話でも、『手』をクローズアップした展開にしてみました。

そしてこのシーン、まったりのまま終わらせるか、最後に第三者入れてコメディ的に落とすかどうかは、

ちょっと悩んだんですけど。

……でもやっぱり、好みはラブコメなので。落とすコトにして、清掃員出してみました。


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「いいのっ。あんな悪魔みたいなコには、こんなんがお似合いだもん!!」

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↑ここんトコは、

「だって宿題だってまだ全然やってなかったのよっ!? そんなコに、こんなご褒美みたいなの不要です」

みたいなコトまで追加で言わせようかと思ったんだけど、

なんかそれだと陰口というか告げ口ぽくなる気がしたので、

基本先輩は持ち上げたい僕としては、やめる事にしました。


喫茶店と買い物のトコはダイジェストみたくなっちゃいましたね……

ここも詳しく書いてたらどんだけ長くなるか怖かったので(-_-;)

まあでも、僕だったら美味しく思える部分は入れたつもりなんで、それなりには満足してたりです。


このデートのトコで、

"計佑を下着売り場とかに連れ込もうとして、慌てる様を楽しむ先輩"

みたいなのも考えたんですけど、

ここではそういう先輩見せずにおいて、最後の最後で、

しばらく見せていなかった小悪魔モードを披露、ってした方が印象的かなぁと思って、やめる事にしました。


雪姫が、まくらの嫉妬について語る場面。

あれは一応、雪姫のコトに置き換えても通じるようにしたかったんだけど……できてますかね?

「同じ "彼女候補" って立場にいるハズなのに、向こうは優しくされて、こっちはちょっと扱いが雑──」とか。

いや、計佑としてはある意味最大に気を使ってるんだけどっ、雪姫相手には。

でもまあ、雪姫からしたら……アリスにばっかりベタベタさわってるようにしか思えないワケだから(^^ゞ


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1つの恩返しも出来ないままでお別れなんて、まくらにだって申し訳なさ過ぎて。

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↑まくらの勉強みてあげたりとかあったけど、あんなんは先輩にとっては数にも入らないのです(≧∇≦)/

まあ先輩にとっては、計佑との仲をとりもってくれた色々は、本当に大恩ってことで。


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「家で一人きりで寝るコトも多いとか、そんなのつらいに決まってるよ……!!

私だって、そんなのだったら寂しくて寂しくて耐えられないに決まってるよ……!!」

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↑フツーに一人暮らしこなしてる多くの女性から失笑されてしまうだろうセリフ(-_-;)

……んでも、ここの先輩はとことん弱虫なファンタジー娘なんでっ(`・ω・´)ゞ


電話のとこで、まくらがワザとからかって雪姫を慰めるトコロ。

あそこは、自分にしては上手いコトやれたような気がしてます。

22話での、計佑が「いつもニコニコして、周りだって元気にしてみせる──」

みたいなのを、ちゃんと具体的に書けたような気がするので……


雪姫とのデートで、雪姫を宥めるために口にした「早く仲直りしたいから──」

……なのに、結局引越し当日までほったらかしか、この計佑?(-_-;)

……う~ん。やっぱり実際に実行に移すのはなかなか難しいってコトで……

まくらも、多分計佑から逃げまわっていたハズなので……


ふと、まくら視点で最近の話を振り返ってみたんですけど……、

近頃はほったらかしにされてると思ってたところに、数年ぶりに試合観戦に来てくれると。

それに大張り切りしてみれば、シカトで迎えられ。

そして次の日には、自分だけのモノだったアクションもポッと出の(^^ゞ 小娘に奪われて。

更にその夜には、家族でもある自分にだって見せてくれないような大泣きを、人に見せているトコロを発見。

……これをもしまくら視点で描いてたら、計佑には殺意しかわかないかもですね……

何となく、ましろ色シンフォニーアニメ版の騒ぎみたいなイメージが思い浮かんだり……


原作の名シーンの一つ「卒業するよ」(雪姫派の僕には鳴シーン(T_T))ですが、

16話あたりの後書きで予告していた通り、ようやくここで使わせてもらいました。

……けど、その結果雪姫との電話と合わせて、

まくらがえらく健気で切ないコになってしまった気が……

こんなにいいコだと、計佑と雪姫が悪者ぽいかなあ……

二人共、結局最後までまくらの気もしらんと無神経なこと言い合ってた訳で……んむむ。

いや、まくらエンド見たければ原作コミック開けば済む話なんですが。

……でもあのラスト、

なんか秒速0.05メートルを思い出させるコトもあって、今ひとつハッピーエンドの気がしないんですよね(-_-;)

あの後、まくらが普通に心変わりしてしまうような気がしてしまったりでね……


……まあそれを利用して『原作』最終回からも雪姫エンド、

な話をサクッと書いてしまったりもしてしまったんですけど。

なんだかんだ言っても、どこまでも先輩のコトしか考えないのです(≧∇≦)/


ちなみに、その短編は今のトコ投稿する気ないんですけどね……

それ投稿しちゃうと、この長編と喰い合うっていうか、新しく見に来てくれる人がいた場合、

その短編から見始めちゃうとそれでもう気が済んじゃって、こちらの長編を読んでくれない(T_T)

という可能性が不安なものですから……(-_-;)

まあ他にも理由はあるんですけど、それら全部を語るのは流石にやめておくとして。


ともかくそんな感じなので、

ココを読んでくれている=『長編を、それもこのクソ長いアトガキまで読んでくれた人』

には隠す必要ない短編なので、

もし『あの酷い最終回からの、逆転先輩エンド』も読んでみたいって方いらっしゃいましたら、

メールなど頂けますでしょうか。

その方には、個別にお知らせさせて頂きますのでm(__)m


というワケで、ここまでにまくらエンドの可能性もちょろっとは臭わせてきましたが、

やっぱそんな風にはなりませんでした。

まあこの25話ラストからなら、まくらエンドに持ってっても

アニメCANVAS2やらアニメキミキスやらよりは自然だったとは思うんだけど……


ホタルは再会を誓って逝ったんだけれど、まくらは……完全な決別をしてみせましたね。

特に二人の対比とかを心がけた訳でもなかったんだけど……

ホタルの場合は、成仏っていうインパクトがあったからアレでも十分だったけど、

まくらのほうには他にインパクト持たせる要素が思いつかなかったんで、

勢い付けのためにもあんなんにしたって感じですかね……

……まあ、この完全拒絶から始まる計佑の葛藤があって、

ようやく最後には雪姫への気持ちに気付く訳だし、

まくらは最後まで計佑×雪姫のために頑張ってくれたってことでm(__)m


まくらは結局身を引いたみたいな形なんだけど……

大雑把な分類だと、まくらは『愛』で、雪姫が『恋』って感じをイメージしてます。

で、二次元作品でも大体の場合『愛』のが『恋』より上っぽく書かれてる気がするんですけど、

僕ぁこの手の、(相手の幸せを考えて)身を引いたりする……『愛』キャラってあんま好きじゃないんですよね。

『恋』キャラのが断然萌えます。

いや、なんでもかんでも我を通すようなワガママキャラとか、

『何が何でも奪いとってやる!!』みたいなトコまでいってるのは話が別なんですけど、

「あの人に相応しいのは、確かに彼女の方かもしれない……でも、でも!!

好き、好きなんだもの!! どうしても諦めきれない!!」

みたいな、強烈な一途性のが好みなんですよね。

だもんだから、こちらの話の先輩もそういう感じに。


原作じゃあ、まくらは自分の気持ち自覚すんのもかなり遅かったようですけど、

こっちのまくらはもう随分前から自覚はあった体ですね。

……ていうか、僕みたいなラブコメ脳としては、自覚もないクセに

第一話みたいなイタズラ出来るもんかね? とか思っちゃうのですけど(-_-;)


計佑クン恒例の『下げてから上げる』手口。

今回の硝子へのアレは、特にヒドイ……自分で泣かせておいてからの、ですからね……

これってヤクザとかの手口……?(;一_一)


計佑が、まくらへの恋心を封印してしまった理由、

『そんなの意識してしまうと上手く付き合えなくなるから』は、

僕の自覚範囲内だと、アリスソフトファンクラブ専用ソフト「only you」

から持ってきてるような……あれの幼馴染ヒロインが、なんかこんな感じの理由で

主人公と距離を置いてたような記憶があるんですけど。昔すぎてうろ覚え……


まくらの黒い考えに、硝子が不満を覚えるところ。

本来の硝子なら、まくらの気持ちを慮るトコかとも思うんですけど、

硝子にとっては、まくらは黒点1つすら見当たらないような太陽娘であって欲しかったイメージなので、

つい裏切られたような気持ちもあって納得いかない声を出しちゃった……とかそんなイメージ?


自分に都合の悪いトコロはしっかり録音カットの硝子サン(^^ゞ

まあちょっぴりヤバイとこまで言われかけてますけど、

『あの鈍感王ならこの程度は問題にならんでしょ』と判断してます。


あ、まくらが最後に、硝子へと計佑×雪姫のコト頼んでますけど、

これは結局、硝子の計佑への気持ちには気付かなかったからです。

この電話中に一瞬、まくらは硝子のコト疑ってますけど、

録音を一時中断した間に、硝子はすんごい勢いで、完・全・否定!! したイメージです。

きっと硝子のことだから、理路整然と、スゴイ早口で計佑の全てを否定してみせたコトでしょう。

……まあそこまでされたらそれはそれで怪しみそうなものですけど、

まくらも基本的には素直なコなイメージなので、まくし立てられたら『そ、そんなもんかな……』

って納得しちゃった体?


ラスト、廊下での先輩の立ち聞き。

ピンポイントで大事な場面に出くわしてしまうのは、修羅場ドラマのお約束ですよね!!!

これでちょっとは、

『まくらエンドに持ってくの!!?』

ってハラハラさせたかったトコなんですが……

今までの色々を思えば、やはりムリでしたかね……


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 <26話の分のあとがき>


雪姫が部室内の会話を聞き取る事が出来たのは、計佑たちが入り口傍で話し込んでいたから。

あと、一度はキレて帰りかけた計佑が、少しだけドアを開きかけてたとか?

んでもって、会話が聞こえるくらいなのに、雪姫の足音に計佑たち気づかなかったの?

という点に関しては、先輩は上品で足音なんかさせなかった(笑)

は流石に無理があるとしても、

廊下なんだから人が通るのは当たり前で気に留めてなかった、

まくらからの衝撃の告白に計佑は余裕がなかった、

硝子は気付いてたとしても、別に構わないしむしろ望むトコだった、

とかそんな感じでどうでしょうm(__)m


硝子はまくらのために諦め、

まくらは雪姫のために諦め、

でも雪姫は誰の為でも諦めないよ、引かないよw (≧∇≦)/


まあ、雪姫はアリスに遠慮して、アリスは硝子には怯えて……って輪っかにすると、

ある意味美しいのかもだけどー。絶対にそんなことにはしないッッ(#・∀・)

僕の好み的に、先輩が最強の一途っコでないといけないのです(≧∇≦)/


……ってあれ、一途という点ならホタルのがぶっちぎりじゃ? (;´∀`)

うう~ん……やっぱりあのコはジョーカーでしたね……


計佑に初めて告白した夜にも雪姫が考えていた "本当の優しさ" とかですけど、

雪姫はまくらや計佑のそれと比べて劣等感抱いてますが、

計佑やまくらの方だって雪姫の優しさには憧れを持ってて。

んーと、計佑のそれは、全く他意がないのは美点なんだけど、天然過ぎて、問題が起きたりする。

やりすぎちゃったりとか、あちこちの女に気を振りまいてるようなコトもしちゃったりで、

実際アリスやら硝子やらもひっかけちゃってるし(^_^;)

まくらは自然体で、でも計佑よりは考えてるんだけど、その分、実は相手を選んでいたりもして。

なので、基本的には皆に公平に、干渉しすぎない程度にバランスのとれたっていうか、

そんな風に優しく出来る雪姫に、まくら達だって憧れを持ってるとかそんなイメージ持ってました。


雪姫が部屋に引きこもってるトコで、

アリスが親と和解済みって感じのをさらっと示してみたつもりなんですけど、

なんかそういう "さらっとした" 表現とかにも憧れがあるんですよね……

素人って、ついついクドクドとしつこく書いちゃったりするコトあるでしょう、

まあ自分もご多分に漏れずそうなっちゃってたりとは思うのですけれど、

そうは思ってもどうしてもこう、"ココは詳しく書きたい!!" 

って欲求には逆らえないのですよね……(;一_一)

というワケで、さらりと表現してみせるプロのワザとかに憧れがあったりするのですけど、

計佑や雪姫には思い入れがありすぎて、それは僕には難しすぎる(-_-;)

なので、さほど関心のないアリスで、そういう "憧れのプロの仕事" の "真似事" をやってみたり……


いつか、カリナもちゃんと活躍させたいって言ってたと思うんですが、

今回ようやくちょっとは活かせたかなー? ……おバカ故に、って感じで(^^ゞ

最初は、ホントに何も考えない故の大雑把発言だけで終わるだろーって思ってたんですけど、

意外と上手く回せた気がしてます。

これまでの上辺友人ではない、雪姫の本物の親友にしてあげられたつもりではいるし、

何より暗~くどんよりしてたトコを、コメディにしてくれたりしたのが有難かった(^^)


カリナがわりと本気で雪姫を襲っちゃうトコ。

自分ではコメディのつもりだったんだけど……こ れ は(。・_・。)

なんかちょっとマジでヤバイ雰囲気になってるような……むむむ。

そしてカリナをガチレズにしちゃうと、せっかくちゃんと親友同士にしてやれたのに、

今後雪姫は、常にカリナに襲われるのではとビクビクになってしまいかねないな……んー。

……まいっか、勢い重視勢い重視(^^ゞ


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少なくとも、雪姫の方は計佑100パーセントなのだ。

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 ↑ここ、最初は"ノーマル100パー"って書いてたんですよね。

んでもこういう表現のほうが、僕好みの一途な感じでいいかなと(^^)


カリナの長所として、公平なトコを入れてみたつもり。

「雪姫泣かせたのはムカつくけど、一応前には功績あったしな」ってトコですね。

なんかこー、他作品とかで、過去の功績とか忘れて責めるような言動するキャラとかに

イラっときたことあったんで、ここのカリナにはそんなんさせませんでした。


そしてこれで、ほぼ全員に『計佑と雪姫が結ばれるための』存在意義を与えられたかな……?

 まくらは言うまでもないし、

 硝子がやって来た事も結局はいつも『雨降って地固まる』になってしまうという、裏目行為だったし。

前回のまくらの気持ち暴露だって、結局は雪姫への気持ちを自覚させる結果に繋がってますからね(^^ゞ

 アリスも、こやつの20話での暴露話があって、

計佑が雪姫の気持ちの強さをちゃんと理解して、本格的に雪姫との事を考えだしたし。

 カリナは、今回の通り、折れかけた雪姫の心を建て直して。

ただ、茂武市がちょっと弱いかなぁ……? 15のだけでは。

今回も一応世話をやいてるんだけど……ああでも、こいつが酒なんか飲ませたから

ヘタレ計佑でも一応告れたんだし、ってコトで……

 ジョーカーだったホタルの仕事は……まあいくつかの嫌がらせをしてきたりしたけれど、

それも全部雨降って地固まるになってるし、十分でしょう^^;

24話ラストでの出来事も、大きなポイントではありましたしね。

……てゆーか、このホタルによる『パラレルワールド』設定の上で書いてきた話なのだから、

ホタルがいなければそもそもこの話は成り立たないと言えなくもない?

……う~ん、そういう意味で考えたら1番大事なキャラだったのかも……?


原作では、雪姫との出会いがきっかけで計佑とまくらの関係が変わっていった形だったので、

こちらではまくらの存在があってこその、

計佑が雪姫への気持ちを自覚出来たって形にしてやりました(`・ω・´)ゞ

うん、複数の意味で二人の立ち位置を入れ替えてやったつもりです。

……原作では、結局先輩はピエロでしたからね……

……その復讐として、まくらをどこまでもダシにしてしまった形ですか(-_-;)


ミスリードっていえるほど立派なもんじゃないけど、一応そういうのを目指してみたつもりです。

冒頭の雪姫視点だけでは、まだ雪姫の勘違いって可能性が残されてはいたけど、

その後の計佑視点で、雪姫エンドは完全に潰れたかのように見せたくて。

まくらに乗り換えたかのように、一旦思わせたかったのですよね~。

ホラ、僕の話はいつだって『先輩を上げて落として振り回して』ですから^^;

ハッピーエンドの前に、先輩をかつてないくらいに落としておきたかった訳なのです。

そして出来れば、読んでる方をちょっとくらいはハラハラさせたかったワケなのですが……

……どうだったんでしょうかね……


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男が相手を選ぶのに、惚れるのに、そんなのは全然関係無いんだと、

お前の魅力は先輩にだって負けてなどいないんだと、今ならそう言ってやれるのに。

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↑ ここの頭、"男"ってのが自分なりの拘り。

"自分" ではなくて、"一般的な男達" って事なのです。

なんか雪姫よりまくらのが好きになっちゃったからこんなん言ってるように見せて、

実は兄貴な感情が主となってこんなん言ってるイメージなんですね。ここ、ひっかけのつもりでした……


他にも、


『目新しく見えてしまうせい "も" あるだろう雪姫にばかり』

ここだったら、『しまうせい "も"』ってのが僕なりのポイントだったり。

本命の理由は、やはり雪姫が一番心を占めていた事なのです。

でもそれを隠して、"みすりーど" とやらの為に誤魔化してみたつもりの箇所……


計佑が悔いてる主なものは、気付いてもやれなかった事について、

であって、決して付き合ってやらなかった事に対してではなかったり。


万一、計佑がまくらのほうを雪姫より強く思っていたなら、

雪姫も考えていた通り、遠距離だからって諦めたりはしなかったハズ。

そう、そこは原作同様にですね。

なのに、このシーンの計佑は、『もうまくらとの事は全て手遅れだ』と考えているワケで。


あと他にもちょろちょろあったりかもなんですけど、

ともかくそんな風に、ここの計佑の自省シーンでは、

『雪姫からまくらに乗り換えた!?』って思わせつつも、

実はやっぱり兄貴な感情のが強いんだよってのを、

"自分なりにはさりげなく" 表現してみた『つもり』……なんですけどね(-_-;)


22話での、雪姫の時よりまくらのほうにより強く妬いてたみたいなとこですが、

雪姫のは想像、まくらのは現実ということで……

加えて、雪姫妄想は男が言い寄ってくるパターンで、

まくらのは、まくらから他の男へ、という違いもありますよね。

……22話でこの言い訳を書かなかったのは、『もしかして、まくらのが大事なのか?』

という疑惑もちょっと持たせておきたかったからですけど、この程度の思惑バレバレでしたかね(-_-;)


アリスとの部室でのトコ、ホントはここでもミスリードみたいなん入れたかったんだけど。

でも最初に書こうとしたヤツだと、後との整合性が厳しくなったんでそこは断念(;一_一)

……した結果、ここにアリスとの語らいを入れた意味があんまなくなってしまった……orz

なくても全然困らない、ていうかテンポ的にはむしろジャマなようなモノになってしまった感が(T_T)

うーん……もうちっとこー、コメディ的に仕上げられたら、

このシーンにも意味はあったと、自分では納得いったハズなんですけど(-_-;)


ミスリードのために、卑怯にも時系列をバラバラに……(-_-;)

最初は、あそこまで極端なものじゃなくて、

図書室に行く前に茂武市との会話もある程度は入れようとは思ったんですけど……

……それだと、自分の技量ではミスリードもどきすら書けそうになかったので、

もう茂武市とのやり取りはごっそり後からバラすっていう逃げに入りましたorz


いつか予告した、『さらりと雪姫先輩と呼ばせる』を図書室のトコでやってみました。

一応、この突然の呼び方の変化で今の計佑は普通じゃないよって伏線を『自分では』サラリと

やってみた……つもり……


他にも一応、『計佑が悩み始めたのは、放課後間もなく』ってのを先に書いておいて、

なのに図書室に来た時には『もう最終下校時刻も近い』

という結構なタイムラグがあって、その間になんか色々あったんだよ……?

って感じのも自分では伏線的なイメージなんですけ、ど………(-_-;)


図書室での計佑×雪姫、

うーん、大まかな流れはこの小説書き始める前から妄想してたんだけど、

具体的に書いてみようとすると、ものっそ苦労しました……全然思うように書けなくてorz

自分でわかるダメだった理由は2つ、

1つはミスリードなんて分不相応なモン目指したせいで、

ここでは計佑視点を入れられなかったせいかと。

今まではしつこいくらいに心理描写してきたのに、ここにきていきなり計佑視点が激減しちゃったから……

もう1つは単に、酒の勢いでムニャムニャ……な思いつきがそもそもムリがあったということ(;一_一)

漠然と『こんなん観たかったなぁ』ってイメージの時はよかったんだけど、

いざ形にしようとしたらまあ、今になってムリがありすぎる事が気になってorz

もういっそ投げ出したくなったりもしたんですけどね(^_^;)



先輩の『飛び級なんて反則!!』ってのは恋愛ラボ7巻だかの真木ちゃんのセリフをパク……借りてきました^^;

あのコがすごい好みなんですよねー。

ヤンくんへの気持ちが、いつはっきりと恋心に変化するのかをスゴク楽しみにしております。


僕ぁ二日酔いの経験がないので、計佑の二日酔いの部分に関してはテキトーですm(__)m


あ、計佑の頭痛は二日酔いのせいですよ?

決して、キレた雪姫が殴ったりしたワケではないです(^_^;)

本編中でもしっかり明記したかったんですけどね……上手く挟めなかったorz


何故茂武市が酒なんて持っていたのか──うーん、女のコ絡みのなんかってコトで。

……実はカリナの為だったりとか?

茂武市とカリナがくっついたりすると、なんとなく少女漫画っぽいですね。

あっちもこっちもカップルとか少女漫画ぽいイメージ。

……まあホントに少女漫画なら、計佑ひとりがこんなにモテる訳ないんですけど。


見回り教師はカウンター奥を覗くような仕事熱心な人じゃなかったので、計佑は発見されませんでした。

一応、一度は本文に

(カウンター奥を覗くような仕事熱心な教師じゃなかった事で計佑は救われたのだけれど)

って入れてみようとしたんだけど、なんかテンポが悪くなってしまう気がしたんでやめにしました。


図書室直後の雪姫は怒り100パーなんだけど、その後どう考えていったかもちゃんと書ければ

萌えられそうなんだけどなー……

アリスが言ったところの変な先輩……鬼の形相だったり、赤くなったり、だらしない顔したり、

くねくねしたり、奇声あげたり、ジタバタしてみせたりとか?

今までのスタイルからしたら、雪姫視点でその辺も書くべきかなって気もするんですけどね~。

でもそれやると、計佑視点でのハラハラ感がなくなっちゃうと思って……うんん(;一_一)


15話で、まくらに嫌われたと思うと雪姫がいても気分はドン底……みたいなん書いてましたけど。

一応あの時との差はつけて、より計佑を落ち込ませてみたつもりです。

あん時の計佑は、まだ一応、ギリギリ普通でしたもんね。

まああの時は傍に雪姫がいて、今回では傍にまくらはいないというハンデがあったりなんだけど、

仮にまくらが傍にいても、本編同様完全にグダってたイメージです、ここの計佑は。

このまくらの時との違いは、本編中に計佑の口から語らせようとも一度はしてみたんですけどね……

なんか上手くはめ込めなくて断念(;一_一)


25の分のアトガキでいった通り、あえて避けていた先輩の小悪魔モードをラストでかましてみました。

んー、ちょっと意地悪になりすぎたような気もするんだけど。

でも僕にとっては、先輩の魅力を一言で言うとやっぱり「小悪魔デレ」なので、

最後にこういう先輩は入れたかったんですね。


さて、今回の26話を振り返ってみると……先輩視点のほうが計佑のより多くないかな……?

全26話の中でそんなのは初めて? にして最後になりますかね……?


原作ラストの計佑はあまりにもヘタレだから、こっちでは一応ちゃんと告白させたかったんですよね。

……まあ、酒での暴走とかだったりなんだけど……

でもやっぱり最後は先輩の逆襲にもしてやりたくて。

先輩は押せ押せなトコも可愛いよなーって思うんで(^^)


あと、20話で一度は書いた、僕の大好物でもある力関係の逆転も、

最終回ってコトでまた入れてみたり。(根っこでは、いつも計佑のがホントは上なんだけど)

この、酒の力を借りてのスーパー計佑くんタイムは、後日談でもまたちょろっと書いてみたくあったり。


14話辺りを仮最終回みたく考えてた部分があったんですけど、

あの島での "事故キス" は、

最初の構想(ラストに雪姫からキスさせる)ではすごく大きな意味がありました。

この同人話を実際に書き始める前には、

唇へのキス事故から、計佑は雪姫へと気持ちが大きく傾いていくってのを考えてて。

なので、それにリンクするような形で、今回ラストの "本当のキス" で締めようって、そう考えてたんですけど。

実際書いてみたら、もう島に着いた頃には計佑も雪姫にべた惚れ状態だったので、

なんかイマイチしっくり来ないリンクになっちゃいましたかね……


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<以下は、全体を振り返ってみてのあとがきです>


 原作ラストのトラウマを塗りつぶす為にこの小説始めてみた訳なんですが、

でもそれに関しては、もう結構前から僕の中では塗り替え終わってました。

 僕の場合、書くために随分時間を費やして、ずっと頭の中にはこの雪姫たちがいたせいか。

もはや原作より、こっちの話のが僕の場合、存在感が大きくなっちゃったんです。

……うん、もし仮に他の方が書いたパジャカノ雪姫の話を読んだとして、

それで癒せはしても、そっちのが原作より存在感上にくる事は多分なかったので、

やっぱり自分で書いてみることに大きな意味はありました。


キャラに関してですけど、

まず雪姫先輩、『原作よりファンタジーに』、これは目標以上に出来た気でいます。

雪姫先輩とのハッピーエンドと、

先輩にもっと萌えたいってのがまず最初にして最大の目標でしたからね、

これをやれたのはやはり嬉しい部分です。


計佑は、最初の目標では原作よりは鋭いキャラにしたかったんだけど……

……全然ムリでしたねぇ……鈍さに関しては原作より酷い(-_-;)

いやでも、パジャカノに限らず、

ラブコメ読んでる時には鈍感キャラの酷さとか確かに気になったりするんですけど。

でも書く立場になってみると、こればっかりはホント仕方ないってわかった気がしました……

中編とかならまだしも、それなりの長さにするのなら、

鋭い主人公でラフゴメなんてハードル高すぎです、やはり。

ただ鈍さは酷くなったかもだけれど、

人間性としては十二分に僕の好みにはしてやれた気がしてます。

第一話での、雪姫の顔もわかってない内から親切にしてやったりとか、

硝子のゲロ始末とかはやっぱり印象に残ってるかな……

特にゲロのほうは、結構レアな優しさとして書いてやれたんじゃなかろうかと。

アリス関連では強気キャラとしても書けたし、天然女ったらしなトコもたっぷり盛れたので、

全体的には計佑にも十分満足してます。


まくらは……うーん。最初の扱いがヒドすぎたかなぁ、とは今になっては思ってたり。

改変が一気に増えた15話以降から急に出番増えるような形になっちゃった気がしてんですけど、

登場人物の中で、ある意味一番ぶれさせちゃったような気もしてたり。

いいコだったハズなんだけど、なんかいいコすぎてひっかかったので、ヒステリー足していったり、

急遽暴力性も足したりと……何気に、原作との違いが一番ひっかかったままなのはこのコだったり(-_-;)


いや、一番改変酷いのは硝子なんですけどね……

でも硝子の改変は、ある意味先輩書く以上に楽しんでやれてましたからね。

やっぱり全員が只いいコでは、ドラマを派手にするのは厳しいとも思うし……

硝子好きな人には申し訳ないけれど、こうして振り返ってみても、

硝子の腹黒化は自分ではかなり気に入ってたりします。


アリスに関しても、対計佑、対雪姫ともに随分原作とは違う感じになっちゃいましたけど、

前にも何度かいってきた通り、

やっぱりいい改変に出来たんじゃないかなーって満足はしてます。

このコのお陰で、大好物のヤキモチ色々盛り込めましたしね。

……いやホント、ここ始める前には『こいついらんかな……(-_-;)』

なんて思っててホント申し訳ないm(__)m

今の僕ん中では、将来雪姫を脅かす一番の脅威はこのコになってます。

雪姫似の容姿とまくら似の性格といういいトコ取りで、先輩を泣かせるようなのを妄想してたり。


茂武市は……まあ15話ではちょっぴりカッコよくはしてやったつもりだけど、特に印象には残ってないな、やっぱり(笑)


カリナは……うん、今書いてやったばかりなせいか、茂武市よりは今のトコ印象には残ってます。

まあ原作以上に雪姫としっかり親友にしてやれたような気もするし、悪くはないんじゃないかなー……?


ホタルは……んー。世界観的には最重要人物に位置してるハズなんだけど。

なんだろなー……そんなに印象に残ってない(;´∀`)

そこそこ出番あったのに……

24話での別れのトコとか、結構頑張って書いたハズなんだけどなぁ……(・_・;)

なんでだろう……完全なお子様とか、クールキャラは好みじゃないせいなのか……


ふと気付いたんですが、

18話以降、殆ど毎話、先輩は泣いちゃってるんですよね……

22話除いて、ホント毎回、少なくともベソかいてる……なんというワンパターン!!

そして、僕の中でどんだけ先輩は泣き虫キャラとして確立されているのか……!! (^_^;)

うーん……まあ僕sの質なんで、弱っちいコのほうが好みなんですよね……


24-26話に関しては、

雪姫が泣くのも仕方ない展開だと思うのでこれはまだいいとしても……

20と23話、これはコメディ演出の一環だから、これもまだいいかな。

21話もあの流れなら一応は説得力あると思いたい……

そうすると18と19があれですね。……まあ、その程度の割合なら素人同人なら許される範疇……?(-_-;)


目指していたコトの1つに、テンポの良さっていうか、丁寧さ、みたいなのもあったんですよね。

動画を例えにして申し訳ないのですけど、一期のアニメ恋姫†無双(真じゃなくて)、

CGアニメのヒックとドラゴンとかが理想の1つなんですよね。

話は全然オーソドックスなのに、あの2つの作品は凄い面白くて。

特に恋姫~は、『美少女ゲのアニメなんて所詮低予算の片手間仕事で、ろくなもんがない』

……って思ってた僕にはちょっとしたカルチャーショックでした。

ああいうの見るまでは、面白い話ってのは大暮センセのかくような話とか、

コードギアスみたいな、とにかく二転三転するジェットコースターみたいなのが

一番おもしろいって思ってたんですけど、それ以来ちょっと考え方変わったんですよね。

そしてこの同人話においても、自分にはとても奇抜な話展開とか思いつける気がしなかったし、

やっぱりこう、目指すのであれば、丁寧な心理描写とかで面白くしたいと考えて。

それで、テンポとかも一応は意識した部分もあります。

……なんかダラダラ長くなった分際で言うのも滑稽かもですけど(;一_一)

本当に単調になったりはしないように、

コメディのトコにシリアス挟んだり、逆にシリアスなトコにコメディとかは、いくらかは考えた気がします。

22の計佑まくらでは、いきなりキレる計佑はさんだり、

雪姫アリスのトコでは、アリスのいきなりしんみりしたセリフはさんだり。

23でもラブコメ→シリアス→ラブコメとかになってると思うし、

24も一応そのつもりで。

25でも、一応そういうトコはある……ハズ……ラストなんか

完全シリアス一辺倒になるかと思ってたけど、たらし計佑挟んだりで多少はコメディいれられたし。


それと、改変が激しくなった後半から、より派手に、ドラマチックになるようにとしてみたつもりもあります。

15でのまくらとのケンカも派手にしたし、茂武市との会話も随分。

16では、まくらとの会話を派手にしてみたつもりでいるし。最後にいきなり消してみたりとか。

17は……まあ、ホタルとの説明会話ばっかりだから派手なドラマとかないけども、先輩の初嫉妬とかいれてみたり。

18では、まくらとの派手なじゃれあいを入れて、その後の、原作でもあった先輩のヤキモチを更に煽ってみた(≧∇≦)/

19は……くすぐり合戦? まあ未遂だけど……アリスの話を派手にしてみたつもり。

20は、まあ言うまでもなく色々とやってみました(≧∇≦)/

21も、20のノリで書きましたかねー。特に、『キライだ』メールは、いい起爆剤になった改変と思ってます(^_^;)

22は、計佑×雪姫はちょっぴりだけど、硝子と計佑のやり取りは色々と派手にしてみたつもりだし。

計佑×まくら、雪姫×アリスの会話も大分やらかしてやったつもり(^^)

23だと、意味もなく●ャンプを吹き飛ばしたりとか……まあそれはともかく、

ソフト観戦のとこで計佑×硝子を険悪にしてみたり。

24も、ある意味最大の派手な動きを。

25-26は、これまた言うまでもなく……?


この話を書くにあたって、おおまかに3つのパートを考えてました。

まず一番最初に妄想してたのは『計佑と雪姫のバカップルな日常』でした。

けど原作があんなラストなのに、いきなりそういうトコ妄想しても、なんか自分でもハマりきれない(-_-;)

んじゃあ、自分好みの二人の結ばれ方ってどんな感じ?

と二番目に考えたのが、25-26話という前後編で。

そしてそこまで妄想したら、

『じゃあもういっそ、1話から書きなおしていって、その自分好みの25,26話に繋げちゃおう』

というのが三番目で、正に逆から考えていって、始めてみた小説だったんです。

なので、当初の大まかな目標としては


1. 24話までを適当にいじくり回しながら小説にしてみる。

2. ラスト二話は大きく改変。

3. そして最後に、一番最初に妄想した雪姫と計佑のバカップルぶりを。


とあった訳なんですが、ようやく二つ目までを達成出来たというトコロなのです。


なので、後日談という感じで

計佑と雪姫のイチャイチャっぷりとか硝子との決着とかを

もうちょっと書いてみたいなあって気持ちはあるんですけど、

多分それには随分と時間かかると思うし、とりあえずはこれで最終回という事で。


この好き勝手に改変ばかりの話を、最後まで読んでくださってありがとうございましたm(__)m




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