命知らずのパープルヘイズ
もしパンナコッタ・フーゴがチームを離脱していなかったら
そんな第五部黄金の風を書き留めていきます
夕焼けが差し込む埠頭は反射した夕日が煌き、まるで絵画の様な光景を作り出す
その中に佇む青年、パンナコッタ・フーゴは驚愕に開いた口も塞がずに
まだボートの航行した波紋が残る海を眺める
遠方に小さく、その波紋の、大き過ぎる苦悩の元でもあるボートが征く
ナランチャは行ってしまった
小馬鹿にしていたナランチャは、僕が負け惜しみを叫んでいる間に
もう覚悟を決めていた
下唇が震え、両足は痙攣していた
力が入らなくなり立っているのが難儀だった
正気じゃあない!
トリッシュと僕達には、何の関係も無いじゃあないか
その為にこのヴェネツィアを、いやイタリア全体すら統治する組織を、ボスを
裏切るなんて・・・
狂っている
それだけは冷静さのかけらもないこの頭でも分かる
トリッシュのため?
ブチャラティの判断だ、きっとそれはこの上なく正しいものなんだろう
でも、実際にブチャラティはたった数分で瀕死の、いや
ジョルノが居なければ死んでいたんだぞ!
僕は・・・僕は・・・
「ブチャラティ・・・貴方が死んでいくところなんて・・・見たく、ないんだ!」
遂に立っているのは不可能だった
眺める様に受けていた講義で言っていたのと同じように重力に従い、落ちていく
身体が重い、痙攣が激しくなり滑った足は地に着き皮肉にもお陰で痙攣は止まった
勢い良く倒れていく身体を両手で咄嗟に支える
「グッ!」
地面から出ていた金属片が右手の平に刺さる
だが引き抜く気にも、ましていつもの様な怒りも湧いてこなかった
何もなかった、空っぽだった
目から希望が消え失せ、眼前の光景を諦観する事しか出来なかった
今はただ、ミスタが正しい道を照らした光に劣るとジョルノが語った太陽の光にすら背き
どうしようもない、抗い難い虚無感に身を任せることしか出来なかった
それでもなんとかその場を離れようと右手をゆっくり引き抜こうとするとある事に気づいた
「ここは・・・!」
会話の途中、ブチャラティがよろめいて
手をついたところじゃあなかったか?
でも引き抜いたその場所からは自分以外の血も、乾いたシミもなかった
でもブチャラティは確かにここに手をついた
そんな・・・!まさか!!
いや、ブチャラティは動いていた・・・
そんなはずは、ない!
でも、もし、それがただジョルノのスタンドに生かされているだけだったら・・・!
「ブチャラティは・・・もう・・・!」
声に出した時には走り出していた
彼等の行き先も知らないのに堤防を一心不乱に駆ける
その姿に秀才フーゴの面影はなかった
泳いでボートへ迫るナランチャ・ギルガとなんら相違無い瞳だった
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「フーゴの野郎は来なかったな・・・」
落ち着いた波風に揺られるボートの上、何処か寂しさを孕んだ声音でミスタが零す
陸からは幾分か距離が離れ、さっきまで見えていたフーゴも忽然と消えてしまった
ボスや親衛隊を恐れもう逃げたのかもしれない
来なかったと言いつつ陸を見続けるのは
敵の心配もまだないだろうにレーダーを出したままにしているのは
それに誰も気づかないフリをするのは
思考の根底が皆同じだったからに尽きる
「ま、判断は人それぞれだ」
冷たく切り捨てたと言うより、自分に言い聞かせる様にアバッキオが言う
アバッキオが仲間想いなのは、それ故に新入りは中々信用しないのは周知の事実だ
誰も、その言葉に反論なんてしなかった
『ーーーーーっっ!!』
遠くで轟音が反響していた
その音は海を征くボートの上にまで届き海原に小さく波紋を作り上げた
「なんだ〜今の音はよォ!」
「ボスの親衛隊かも知れん、・・・直ぐに出るぞ!」
全速力の三分の一も出していなかったボートの速力を上げる
ボートが速くなるのはフーゴとの別れをより確実な物にする事を意味していた
一番辛いのはブチャラティだろう、それをエンジンから一番近い
ナランチャは根拠は無いが深く理解していた
「・・・」
顔を伏せ、夕日に影を作っていたナランチャは少しの葛藤の後、押し黙ったままエンジンを動かした
『ーーっぁぁぁぁ!!』
今度は確実に、大きく、より正確に聞き取れた
「マズい!近づいて来ている!」
「エンジンの音でも嗅ぎつけて来てんのかァ敵はよォ〜」
「分からんが、ここでの戦闘は不利だ。取り敢えず、逃げる事を考えよう」
フーゴの事はもう忘れるしかない
振り向いていたら敵にやられる
それは新入りのジョルノでさえ理解している
「ナランチャ、レーダーに反応は無いか?」
悲痛を顔に浮かべながらもブチャラティ冷静に指揮を執っていく
「反応はな・・・いや!陸の方にでっけぇ息を吐いてる奴が一人いる!」
「「「「!!」」」」
「陸、ですって・・・ッ!?でも、あの周辺に僕達以外の気配は・・・!」
切迫詰まったように、ジョルノが話す
「ボスは用心深いヤツだ、何処かに自分の親衛隊を隠していた可能性はある」
それに反論する様に、アバッキオの声が続く
「何にせよ、その反応が敵と見ていいだろう。ナランチャ、今ソイツはどの辺りだ?」
「!近づいて来てる!真っ直ぐ、ここに!」
「なにぃ!?」
船上の皆が各々驚愕に打ちひしがれる中、またその爆音とも言うべき
耳をつんざく叫声は、姿も見えないのに響いて来た
「うばぁっしゃあぁぁあぁぁぁ!!!」
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一か八か、それこそ「正気じゃあ無い」策だ
確証もない、失敗すれば死ぬだけの一発勝負
ただ静かに目を閉じ、祈る
・・・ジョルノなら、もっといい策を思いつくだろうか
アバッキオの様に冷静にはなれない
ナランチャの様に素直にもなれない
ミスタの様に楽観的にもなれない
ブチャラティの様に正しくは、なれない
「うぶぅぁっしゃぁぁああ!!」
パープルヘイズが雷電の如き奇声を上げる
聞こえずとも、遥か上空の雲すら引き裂かんばかりの振動が伝わったのか
木々の鳥達が何処からと言わず一斉に飛び立つ
ただ一瞬、こっちに注目してくれればいい
もし叶わずとも、一目その姿を見れたならそれで良いッ!
憎悪を抱く程の雄叫びと共に、パープルヘイズの動きが不意に、止まる
かと思えば、朝礼で熱中症になった小学生の様に酷くフラフラと直立する
普段より幾らか悪い背筋が直っていた
二、三度落ち着き払った呼吸の末、永久にも感じるしじまが流れた
吹き抜ける風に勢いはなく、遠く、出力の上がったボートのエンジン音が微かに聞こえる
そんな埠頭の果て、フーゴは
もうそこにいなかった
一瞬
小さく木々を揺らしていた、その風が止んだ瞬間!
動き出したフーゴのパープルヘイズは、握り込んだ拳で三発、フーゴ自身を、力の限りを尽くし“ぶん殴った”!!
一発目は、こんな形で裏切ってしまった仲間達への謝罪
二発目は、ついていくと約束したのに踏み出せなかった自分への罰
三発目は、あの時!先に決断したナランチャの気高き精神への敬意を込めて!!
パープルヘイズの拳はフーゴの腕と、頰と、腹を抉った
勿論拳のカプセルが割れ、ウイルスが体を蝕み、そうでなくとも殴られた箇所の出血は酷かったが
最早、そんな事は頭に入って来なかった
高速で、空をフッ飛ぶフーゴにとっては!!
夕日を背景に、まるで射出された水上偵察機のように、フーゴは駆けた
海上のボートに追いつく程の、途轍も無いスピードで!
「そっ!し、て」
空中で声を出すと折れた肋骨のせいか口から出血した、
もしかしたら臓器が何処か潰れているのかもしれない
だが、そんな事は関係ない!
「これッがぁ」
ウイルスが全身に回るにはまだ時間がある!
死んでいなければそれで良い
ただ人目見れれば、それで・・・
「もう一度!みんなについて行きたいという僕のッ、思いだァーーッ!!!」
瞬間、パープルヘイズの拳がフーゴを貫き!
勢いのまま!フーゴは海面に叩き落とされた!
仲間達が乗る、ボートの行く道の先へ!
アニメ終わっちゃったよ、誰だよアニメと同時並行で話書くとか言ってた奴←
本当にすいませんでした。今から書きます、頑張ります。
To be continued
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