シンフォギア外伝
戦姫絶唱シンフォギアXVにて敵役であるミラアルクの過去を勝手に想像して書いてみました。本編において絶許宣言多かったミラアルクをどうにか悲劇のヒロインにしようとしたので重めの話となります。
一応、R指定しときます。
スロバキアに卒業旅行で行く事になった。
卒業旅行として高校最後の青春を目いっぱいに楽しんでやるぜ。
「やっぱり青の教会は外せないぜ」
内装も青、外装も青、ぜひ生で見てみたい。
友人はスロバキアと言えば城だと言ってきかないけれど、壊されて放置しているような建物だって多いのに何が面白いのかわからないぜ。けどまぁ、旅は計画を立てている時が一番楽しいって言うが、意見の衝突はできれば避けたいとろこだぜ。訪れてみれば意外と面白いのかもしれないし、どこかで折り合いを付けれればいいのだが。
そんな風に何週間も前から友人と怒ったり笑ったりしながら計画を立てて、当日。
「晴天快晴。雲一つない気持ちのいい空だぜ」
春が近いとは言えそれでも寒いのだが、外気温なんぞなんのそのだ。
おススメされたチェルバニー・カメン城は映画で見た事ある場所で、荘厳明媚だったが、デヴィーン城はナポレオンに攻め落とされた時のままらしいのだが、争いごとの跡地ってのは見てもつらいだけだぜ。
翌日の教会巡りをしていると宿屋の老父に勧められた博物館の近くに来ていた。
「ミクラーシュ刑務所には行ったかい?」
元刑務場を拷問道具の博物館として展示している、という言葉に友人は食いついており、自分は隣接する庭が美しいという話に興味が沸いた。
「せっかくだから寄って行こうぜ」
バスの時間にも余裕がある事だし、よい時間潰しになるだろう。
生々しい拷問道具が整然と並んでいるのが逆にホラーなんだぜ。あの梨みたいなのとかどこにどうするつもりなんだよ。
それらを嬉々と見ている友人に声を掛ける男がいた。
「これらを実際に使用してみませんか。生命や人権に配慮した形で。まぁ、ごっこ遊びのようなものとして楽しむ会があるのです」
「明らかに怪しいんだぜ」
という制止に対して男は有名人や権力者の名を列挙して、彼らが会員の健全なるクラブです。と名簿を覗かせる。
「どうせなら、会ってみますか。その方が安心でしょう?」
甘言である。
だが、そのようなクラブがある事自体は珍しい事ではないし、最悪すぐに逃げればいい。
何よりも興味津々の友人を放ってはおけないぜ。
「わかったぜ」
着くとそこはいわゆるSMクラブだった。
覆面や目隠しをした男女が鞭で打ったり打たれたり、三角木馬に跨った男が妙に上手な馬のマネをしていたりと結構刺激的な光景なんだぜ。
「最初は見て回る程度でよいでしょう。ただし、プレイの邪魔はしないよう気を付けてください」
男はテキトウな酒を持ってきて渡し、去ってしまう。
するとまともに服を着ている男が近寄ってきて口説き始める。
褒められて悪い気はしない。勧められるままに酒を飲み、気分がよくなって軽く鞭で人をぶってみた。
なんとも言えない高揚感が身を包む。服を捲ると赤く腫れているのが見えて罪悪感が沸いてくるのだが、相手の男が恍惚な表情をしているのを見ると罪の意識はなくなってしまう。
旅の思い出に少しばかりクレイジーな部分があってもいいんだぜ。
今度は自分が鞭で打たれる番。
軽い、革の叩く音がする。衝撃の後に火傷のような熱が一筋走る。けれど、酒のせいもあってか痛みが苦痛じゃない。かさぶたが取れそうな時に無理矢理はがすような身を寄せたくなる痛みだ。
「あっ」
思わず漏れた吐息がハメを外す最後の鍵だった。
縛られ、縛り、首を絞め、絞められ、乱暴に服を脱がされるがままに裸体を晒し、陰部を擦り合う。
肉体に与えられる刺激とは逆に陰部への刺激は優しく撫でるような甘いもの。
異物が体にねじ込まれる。熱くて固いものが体の中で前後する。
付けられた傷が快楽を後押しする。
「もっと……」
ほしいのは傷か、快楽か。
溺れるうちに気を失っていた。
夢の中で私は両親と楽しい食事をしていた。
暖かい食事をひっくり返すような衝撃を受けて目を覚ます。
「――」
声を出そうとして口が塞がれていると気づく。
布を噛まされている。手足も縛られているから目配せのみで周囲を確認すると、友人も同じような状況で眠っていた。
体が揺れる。
トラックの荷台に寝かされているようだ。
二度、三度と大きな揺れが続いてやっと現状を理解する。
「――ッ」
パニックになって叫んで、体を揺らして助けを求める。
物音に気付いたのか男が運転席から覗き込む。
「もう起きたのか。薬物耐性があるならパヴァリアにいい値段で買ってもらえるかもしれんな」
「――っ!!」
声にならない抗議の声を上げる。
「騒ぐなよ。いや、騒いでももう遅いが、あまりにうるさいと指の一本や二本は切り落とすぞ」
抑揚のない声が脅しじゃなくやると言ったら冗談抜きにやると暗に理解させる。
ここで焦ってはいけない。どうにかして逃げ出さなくては。
手足を縛るロープから抜け出せないかと試行錯誤してみるが緩みそうにない。
そうこうしているうちに目的地へ着いてしまったようだ。
エンジンを掛けたままに停車したトラックは運転者を交代してまた、走り出す。今度はゆっくりとした進みで揺れも少ない。音の反響が聞こえてくるのでどこかの建物に入ったのかもしれない。
少しして、トラックはエンジンを停めた。
荷台が開き、光が射し込む。複数人の影が見える。
「薬物耐性優良可能性が一人。これは伝承の化生再現に回すか」
「こっちは俺がもらう。ファウストローブの研究資材が足りないからな」
勝手な事を。
「――ッ!」
最後の足掻きだ。金的でもくらえッ。
身動きが取りづらい中でも肩を起点に一蹴りくらいはやってやれる。
だが、男であろう人影は身動ぎもしない。
「完全を求めて男の象徴切り落とした甲斐があったな」
「カリオストロには遠く及ばないがな」
軽く笑い合っている。
まるで荷物のように運び出された後の事は思い出したくもない。いや、思い出したくても何をされているのか説明する知識がない。奴らの実験は私の知っている現実とあまりにかけ離れていた。されるがままに与えられた力。怪力や飛行を可能とする外套を奴らはカイロプテラと呼んでいた。目もいじられ、化け物として、実験動物として私の体は改造されていく。
何が怪物だ。お前たちの方がよっぽど化け物じゃないか。
憎しみと怒り。
軽率な行動をとって快楽に溺れた挙句が今だ。かどわされたとは言え、後悔が強い。
何よりも友人が今、どこでどうなっているのか不安でしょうない。
だからこそ、何か行動をしないといけないと怒りに身を焼かれる。
だが、焦ってはいけない。奴らは組織だ。たとえこの力を使っても全開で使えばすぐに稀血が必要な状態になってしまって逃亡できなくなってしまう。
タイミングを計っていると、その時は意外にも早く来た。
長い髪をした褐色肌の女研究員が来た日は警備が緩いと気が付いた。組織に一人くらいは無能なのがいたって不思議には思わないぜ。
「稀血まで残していくなんて、間抜けにもほどがあるぜ」
本来は輸血方式で循環させるものだが、私は飲むだけで問題ない。そういう改造をされている。
「千載一遇! 大脱出のために大出血サービス! 全開で行くぜっ!」
友人がいるフロアだって把握済みだ。後はそこに向けて文字通りの突撃だぜ。
外套を纏って壁も床も人もすべて叩き伏せて直進する。
フロアにつくと友人が目に入る。
外見に変化はない。内側はわからないが細かいことを気にしてる時間はないんだぜ。他にも捕らわれたであろう少年少女たちもいたが、お構いなしだ。大切なのは一つだけなんだぜ。
「迎えに来たぜ」
彼女の目は怯えに満ちていた。
当たり前だ。自分の体を好き勝手に弄繰り回され、道具や実験動物と呼ばれ、今までの18年間のどんな不幸も霞むくらいに悲劇的な日々を送って、まともな精神でいられる方がおかしい。
「大丈夫。ちゃんと戻れるから」
日常に戻ったらまた旅をしよう。今度は安全な場所に行こう。刺激なんてチープなものだけでいいからまた、あの日のように怒ってケンカしても笑って仲直りできる場所に戻ろう。
「来ないで……」
「何を、言ってるんだぜ……」
実験室のマジックミラーに映る自分は、こうもりの翼を生やし、怪物の手足を持ち、体中に血と肉片を纏っていた。
「これが……」
私?
「化け物!!」
酒と快楽に溺れた時を思い出していた。
痛みが心地よく自分を否定する。否定する自分がそこにいる事を快楽が紛らわす。
罪も罰も、すべて傷が癒してくれる。
「『首輪』を使え」
どこか遠くからした声に続いて意識が刈り取られていく。
この手の血は、私のものだろうか。
若干の加筆修正。
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