2020-01-02 12:19:37 更新

概要

これは前日譚であり、ひとつの物語の終わりでもある。


前書き

急にこんな設定だったら面白いなと思って書いた!前後の矛盾はもう、なんか、うん、暖かい目で見てよ!


「なんで──こうなったんだろうな」


舞鶴鎮守府の提督は疲れた様に笑いながら涙を流した。彼の目の前には様々な所から火の手が上がり、燃えている鎮守府が。


満月ではあったが、雲が出ているせいで朧にしか見えない夜。鎮守府が燃えている様は、さながら空に咲く絢爛な華のようにとても綺麗で。


「あ……ははっ、アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」


その様子を見ながら狂ったように泣き笑う彼に、声をかける艦娘は居なかった。


そう、あの燃える鎮守府の中で共に燃えているであろう彼女以外には、誰も、居ない。


彼女『たち』以外には。


あの中には取り残された艦娘が何人も居た。だが、今の彼の目に映るのは彼女ただ1人。


他の艦娘には興味を示さない。否、そうではなく、『示せない』


「なあ、なんでお前はあんなことしたんだ!?俺が一体お前に何をしたってんだ!?なぁ!おしえてくれよぉ!」


そう問いかける彼に返事が返ってくる訳もなく。周りには続々と憲兵が集まってくる。もう、時間だ。


座り込んでいた彼の周りに憲兵が来る。1人の若い憲兵、Aと言うが、Aが問うた。


「何でこんなことをした?」


「何で?あはは、なんでだろうな?」


自嘲気味に答えた彼にAは怒りを覚えている、ように見える。だが本当に分からない。


分からない、分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない


なぜ自分がこんなことをしたのか、こんなことをしなければならなかったのか。ただ、あの娘を焼かなければ、殺さなければ、その想いにずっと縛られていたのは確かだ。


だから──


「ああ、ひとつ言えるのは……あいつは燃やさなきゃいけねえってことだ……灰にしねえといけねえ」


「何でっ!何でそんなことが出来るんだっ!貴様は仮にも提督だろう!?何故っ!何故艦娘を燃やそうなどと──!」


昔の火サスに出てた刑事の様に熱いAに彼は氷のように冷えきった態度で答える。何も知らない、道徳だけの正義を騙る、愚か者の道化に。


「なあ、教えてくれ。なんで俺は孤独な状況を作られなければならないんだ?」


「は……?」


質問の意味が分からずAは苛立つ、自分が聞きたいことはそんなことでは──

そんなAの思いとは裏腹に彼の質問は続く。


「教えてくれよ、何で今まで仲が良かった提督たちは急に俺から離れていったんだ?」


「何で、仲が良かった俺の友達は急に俺から離れていったんだ?」


「何で、今まで共に頑張ってきたあいつらは急に俺から離れていったんだ?」


「そんなの──」


そんなの、お前が何かをしたからに決まって──。だが、次の言葉でその考えは打ち消された。


「何でっ!何でアイツらが離れていった時!慰めてくれたのが『いつも』アイツなんだ!?何でアイツだけ!俺の傍から離れようとしなかったんだ!?何であいつだけ!?他の奴らが俺から離れていったら『嬉しそう』だったんだよォ!?」


最初は言っている言葉の意味が分からなかった。だが彼の言葉の意味を理解した時、彼は加害者ではあるが同時に被害者でもあることをAは認識させられてしまった。


「何でだよ……何で、何が、ダメだったんだ?」


彼は縋るようにAに問う。何を間違えたのかと、どうしてこうなったのかと。だが、Aには分からない。当事者でないAには──いや、当事者であったとしても、分かりはしないのだろう──


「どうしてっ……どうしてぇ……。僕が、俺が、私が、何か……しましたか?神様……」


燃え落ちていく鎮守府を見ながら、彼はこれまでのことを思い出す。楽しかったことがあった、辛かったこともあったはずだ……けれど、何も、何も、思い出せない。そう『何も』思い出せない。


「は……?なんでなん……?」


そう呟いて、はっと気づく。何故自分は関西の方言で喋ったのだろう?今まで1度も喋ったことは無いのに。


「おかしなことになってはりますなぁ……どうしたんじゃろ?」


おかしい、何故喋る度に別の方言が出てくるんだ……!?自らに起こっている現象を理解出来ず、混乱するばかり。彼の様子がおかしいことに気づいたAが声をかける。


「おい、どうした?」


「どうしたんかが分からんのよ!何でうちは!儂は!あたいは!別の方言を喋っちょるん!?」


一人称がごちゃごちゃで、口調もおかしい。ただ事ではないと思ったAは先ず彼を落ち着かせようとする。


「お、おい!取り敢えず落ち着け!深呼吸だ!」


「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!?何でわっちがこんな目に遭わないといけないんじゃ!?」


必死になって落ち着かせようとするAだが、彼は聞く耳を持たない。どんどん呼吸も加速していく。


「いや……、いやや!うちの記憶を持っていかんとってよ!何でこの鎮守府の思い出が!子供の頃の思い出が!昔の記憶が!一切合切思い出せんの!?」


「何であいつとの思い出しかないん!?儂の!儂の思い出を返してくれ!あいつじゃない!あいつ以外の思い出を──!」


パニックが加速する。呼吸もどんどん荒くなっていく。過呼吸で意識が落ちかけた時、ふと、彼が何かに気がついた。


息が、止まる。意識が、覚醒する。気が付いてはいけなかったのに、気がついてしまった。鎮守府から出てきた娘を視認してしまった。有り得るはずがないのに、何故あいつが──


「な……んで……確実に……殺したのね……心肺……停止も……確認、して……仮死、状態やったら……いけん、から……油撒いて……直接……火ぃ、付けたんに……」


彼を見た娘は、ゆっくりとした動作で提督の元に行く。よく見ると所々に酷い火傷を負ってはいて、本来ならば歩くこともままならないだろうが、彼女は提督の元に進む。


彼女は、笑っていた。最愛の人が自分を見てくれているからか、それとも自分を想って傷をつけてくれたからか。他にも理由があるのかは、分からない。


「で、い゙……どぐ……!」


喉が焼けているのだろうか?彼女の声はくぐもって聞き取りづらい。それでも、彼女が好意を持って接しようとしているのは彼女の態度を、顔を見ても……分かる。あんなことをされても、彼女の『好意』は……いや『愛』は増していた。


何で生きてるかは問わない、彼女が妖精を持っていたかもしれないし、それ以外の方法かもしれない。


だが、彼女が『生きている』のが問題だ。


「おお!中から艦娘が出てきたぞ!」


「重症だ!早くドッグに!こちらに来てもらわなければ!」


憲兵は生きている人がいた事に大喜びしていたが、彼は怯えていた。あいつが、来る。あいつが──!


「あ、あぁァァァァァァァ!!!」


そう吠えてポケットに入れていた拳銃を構え、迷うことなく引き金を……


「な、何をするんだ!?その武器をよこしなさい!」


引くことは出来なかった。彼の周りにいた憲兵が邪魔をしたからだ。その頃、Aは彼女を迎えに行っていた。


彼女の元にたどり着いたAは、彼女を提督から引き離す方向で話をしようと考えていた。彼女と彼を合わせるのはあまりにも危険すぎるために。


「大丈夫か!」


「え゙え゙……だ、い゙じょ、ゔぶ……の゙どが……や゙ら゙……れ゙で、る゙げど」


酷い火傷を負っている、早く治療しなければ。命が危ういだろう、そして彼から引き離さなければ。


「分かった、こちらに来てくれ」


そう言って輸送用の車輌に乗せようと案内しようとした、その時、ザシュッと聞きなれない音がした。何が起こったか確認するために振り返ろうとした瞬間、自らの首が『ズレた』


「は……?」


何が起こったのかを理解した時にはもう遅い。彼の頭と身体は別たれていたのだから。意識が闇に落ちる前、彼女が何かを言っていた気がするが──


「お、おい。今Aが殺され……」


「そ、総員!あの艦娘を捕らえろ!」


Aが殺され動揺する憲兵たち、数人が捕縛するために突撃しに行く。彼女は意に介すること無く、提督の元へ向かおうとする。


「お、大人しくしろ!」


「抵抗すれば痛い目を見るぞ!」


取り囲む憲兵たちに、彼女は面倒くさそうに言う。その目は、まるで路傍の石を見るようだった。


「の゙い゙で、じゃま゙」


彼女は進もうとする、が、憲兵側はそうはいかない。仲間が殺された以上彼女を捕まえなければならない。


「残念だが、それは出来ない!」


「君には捕まってもらう!」


「ぞゔ、じゃあ゙、じん゙、で」


彼らに退く意思がないと感じ取った彼女は刀を抜き、斬り掛かる。本当に怪我しているのか、と疑うくらい俊敏な動作で。


1人は反応出来ずに両断、1人は何とか回避したものの脚を斬られた。1太刀で2人を戦闘不能にされたのだ。


「ざよ゙な゙ら゙」


そう言って彼女は憲兵たちを、次々に殺害していく。1人、また1人と、憲兵が死んでいく。彼女は弱っているはずなのに何故か捕まえられない。何故だ、アイツは死にかけだ、怪我の状態を見てもわかる。なのに何故!捕まえられない!


焦燥が襲う。早く捕まえなくてはいけない、憲兵の威信にかけ捕まえられなかったでは済まない。何よりここで逃げてしまえば死んで行った仲間たちに申し訳が立たない!


「……隊長、ひとつ、提案が」


1人の憲兵が隊長に提言する。確実に彼女を捕まえる方法を、1歩間違えれば自分たちが死にかねない最悪の方法を。


「どうした?」


「煙幕は」


「ある、かなり広範囲に広がるものがな」


憲兵は安心した。広範囲に拡がるならば、狙撃がバレにくい。いくらあの艦娘が強くても全てを防ぐのは不可能だ。


「あの提督を囮にしましょう」


「……そうだな」


あそこまで提督に執着しているなら、提督を狙えば絶対庇うという確信が憲兵にはあった。だが、失敗すれば、私たちは全員殺されるだろう。


「一旦引き、それぞれの配置につかせる。他のものにも伝えろ」


「了解」


憲兵達が何処かへ去っていった。もう、彼を守るものはいない。彼女が、近づいてくる。


怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い


「あ……あぁ……○○」


「で、い゙どぐ……」


彼女は提督の前にしゃがんで、抱き締めた。火傷した箇所が傷もうがそんなことはどうでもよかった。ただ、大好きな人が怯えていたから、恐れる必要は無いと伝える様に優しく、抱き締めた。


意味が、分からなかった。仮にも彼は彼女を殺そうとした。そして実行した。普通ならこんなことできるはずがない!どうして彼女には私に対する負の感情を持ってないんだ!?


「何で、殺意が無いんや……俺は……自分を……殺そうとしたんよ……?憎くは……殺したくは……ないんか……?」


「あ゙り゙ま゙ぜん゙、あ゙い゙じでま゙ずがら゙」


そう言ってあやす様に抱きしめる彼女。嗚呼、何故、どうして、こんなにも落ち着くのだろう。彼女は自分をここまで追い詰めた張本人で、殺したいほど怖かったはずなのに。


「教えてくれ……なんで私を、独りにしようとしたんだ。何で、俺になら何をされてんええんや」


疑問だった、何が彼女をここまで駆り立てたのか。何のためにここまでしたのか。複雑な理由があると思っていた、だが、その回答は至ってシンプルだった。


「わ゙だじ、だげ、を゙、あ゙い゙、じで、ぼじがっだ」


…………愛してほしい。ただそれだけのために、1人の愛が欲しいがために、ここまで──


「……!でい゙どぐ、ね゙ら゙わ゙れ゙で、ま゙ず」


彼女が憲兵たちの気配に気づき行動に移そうとした瞬間、煙幕が張られる、そして麻酔弾が四方から襲ってきた。彼女は提督を守るべく体を張って麻酔弾を受ける。が、到底防ぎきれる量でもなく提督にも当たってしまった。


意識が薄れ2人がその場に昏倒する、憲兵達は即座に2人を拘束し連行して行った。



───拘置所


「なぁ、憲兵……さんでええんよな?」


「ああ、どうした?」


「いやさ、なんで俺がここにいんのかなぁって思ってさ」


「記憶、戻らないのか?」


「全くもって戻る気配がありません、名前すらも分かんないって不便ですね〜」


「……そうか」


「にゃに?ニャンか知ってんのかにゃ?」


「いや、何も知らないよ」


「ふーん、んで、何時になったら出れるかわかる?」


「暫くしたら出れるさ、何でも、提督って職業になるらしいぞ」


「提督?なんなんそれ?」


「明日ぐらいに座学がある、それで学んでくれ」


「りょーかいっ!」




────病院


「今のは……夢?いえ……現実、ですね」


「あ、○○さん。おはようございます」


「看護師さん、おはようございます」


「今日の調子はどうですか?」


「今日の調子は良いです。あの、看護師さん」


「どうしたんですかー?」


「思い出したことが、あるんです」


「ほうほう、何を思い出したんですか?」


「私には、愛してる人が居るんです」


「へぇー!どんな人なんですか!?」


「何時も笑顔で、皆に慕われて、皆のことをよく考える人でした」


「上司なんですか?」


「ええ、多分、そうなんです」


「良い上司さんですね」


「そうなんです、だから……私はその愛を、愛を……?」


「ん?どうされたんですか?」


「あ、愛を……愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を!」


「え、ちょっ!?せ、せんせーい!○○さんが錯乱し始めましたー!」


「愛を、独り占めしようと、したんです」


「え……?」


「あの人の愛は私のモノ。他の人に渡るのが許せなかった」


「あの人には私しか映して欲しくなかった。他の子を映して欲しくなかった。だから──」


「だから、どう……したんですか?」


「私しか見えなくなるように、あの人の周りから人を消していったんです」


「な、なんで……」


「簡単でしょう?少し悪い噂を広めるだけで、あの人を慕っている人は居なくなったんです。時間はかかりましたが」


「酷い……」


「そうしたらあの人は!私に感情を向けてくれました!殺意を向けてくれました!私に傷をつけてくれました!一生消えない傷を!」


「ひっ……」


「そして、私もあの人の心に消えない傷を付けれました!一生心に残る傷を!これでもう私が忘れられることはありません!記憶は無くなっていたとしても、心の奥底では覚えているんです!」


「ふふ、うふふ!なんて素敵なことでしょう!私の愛したあの人が!この先ずっと私の悪夢に苛まれる!私のことを一生覚えておいてくれる!」


「うぁ……あ、貴女……人じゃないわ……」


「あら?今更ですか?私、『艦娘』ですよ?ああ、早く、会いたいですね……ねえ、提督──」




───○月✕日、拘置所に居たある人物がとある鎮守府に着任した。そこで彼はまた多くの艦娘を従え艦娘から慕われることになるのだが、それはまた別のお話。


後書き

このお話をどう捉えるかは君たち次第。
もしかしたら○○の話は書かれるかもしれない?

あ、1部おかしいところがあったから変えてるよ!

1/2:100PV越え!ありがとう!


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SS好きの名無しさんから
2021-01-16 03:08:50

ヘニョンさんから
2020-11-01 09:36:22

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SS好きの名無しさんから
2021-01-16 03:08:54

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