ブラック鎮守府艦娘の乱
横須賀鎮守府で起きたクーデターに本土から離れた小さい泊地鎮守府が巻き込まれて行く話です。
駄文ですが完結出来るように頑張ろうと思います。
工廠や宿舎、鎮守府全体が炎に包まれていた。
目を覚ました時、既に鎮守府は原型を留めていなかった。
「...は?....何が..どうなっている...?」
座っていた椅子から立ち上がるも意識がおぼつかない、眼前の光景に脳の処理が追いつかない。
一体どうなっている?ただ分かることは、執務室の窓から見える光景は地獄以外の何物でもないということだった。
まずはここから脱出しなければならない。
冷静になろうと深呼吸をしようと試みたが、激しくむせた。煙が染みて目を細める。やたら暑い。火の手がそこまで来ているのではないだろうか?
焦ってドアを蹴り放つ。廊下がすぐそこまで激しく燃えていた。とても通れるとは思えない。
しかし外に出なければ、死んでしまう!
酸欠で意識が遠のき、本能が警告を出している。もう思考できる余裕が無い。廊下の窓を割って飛び降りた。
無抵抗にアスファルトに叩きつけられた。
重い鈍痛がじんわりと広がる。起き上がろうにも体が鉛の様に重い。
体の代わりに意識が少しづつ鮮明になってきた。
この状況は...取り敢えず秘書艦を呼ぶことが最優先...そうだ、艦娘はどこにいった?
周りを見渡す。宿舎も工廠も崩れ落ちている。巻き込まれた者はいないか?艦娘も、整備員も、誰一人見当たらない。
先に避難したのか?それか敵襲なら迎撃してる筈ではないか?
しかし、海を見ても敵影は目視できない。艦娘も視認できなかった。
なら...クーデターか?
そうだとしても、理由がわからないし、戦闘の形跡は全く見られない。おそらく、不自然だが火災か何かだろう。それしかあり得ない。艦娘達はすでに本土の避難所に避難しているということか。
どうにか身体を起こして、壁伝いにふらふら歩いてなんとか正門まで歩きついた。あとは避難所までいかないと。
「テイトク、どこに行くのですカ?」
...え?
振り返ると、三歩先くらいの距離に金剛が立っていた。
「金剛...金剛じゃないか!速く逃げろ、火災がひどい。建物の倒壊に巻き込まれるぞ!」
早口でまくしたてながら、手を取ろうとして、走り寄った。
あと一寸先、触れるほんの直前。空気を切る音がした。それに続いて、右腕の感覚が消失した。
ゴトッと落ちた音がした。
反射で確認する。右腕が肘から手首までの途中で無くなっていた。
「ーーーーーーーーーーーーーー!!!」
絶叫した。今までの経験したことの無い痛み。痛覚が表せる限界。
膝をつき、自分の腕を抱える。血は止まらずに
命の源を垂れ流している。
「全部...貴方が招いたことデース。」
「なんでッ...これはお前らがやったのかッ...?」
「貴方がこれまでシてきたワタシ達への扱いはこんなものでは無かったデスよね?」
提督は顔を上げた。目が合った彼女は俺が知っている金剛ではなかった。これまで深海淒艦を何度か鹵獲したことがあったが、彼らが纏っていたオーラと同じものが感じられた。
「なんで...なんでこんなことをした?俺には理由が全く見当がつかない...それにお前は今までの俺の知ってる金剛ではないだろう..?」
少し間が空いた。
「いや...貴方は...ワタシは何を......?」
金剛は眉を潜め、困惑した表情を見せた。
「金剛、お前がもしうちの金剛なら、何があったか話してくれ。理由なくこんなことをお前らが起こすとは思えない。敵の襲撃があったのか?それに他の艦娘はどこにいった?俺はさっきまで気を失っていたようだが心当たりはないか?もし...「少し黙ってクダサイ。」
彼女は遮って冷たい声で言った。
「もういいデース。考えるのが馬鹿らしくなって来まシタ。ここでさよならデス。」
おもむろに右手に握っていた刀を提督の首筋に当てた。
それから振りかぶって、提督の首を切り落とした。
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「うわおおぉおぉおぉおお!?」
飛び起きた。まだ部屋は暗い。時計を見やるとまだ4時だった。
「夢にしてはリアルすぎるだろ...マジで死んだかと思ったわ..」
汗で身体がべたべただった。
「今からもう一回寝るのもな...目が覚めちゃったし汗を流してくるか。」
寝室を出て、大浴場に向かう。汗に風が当たって寒い。まだ一月の始めである。
「新年からなんつー夢見せてくれんだよ..あれほんとは現実なんじゃないか?」
先程の夢の感想をぶつぶつ言いながら、脱衣所に入って服を脱ぎ、体を流して風呂に入った。
もちろん、他に人はいないのはちゃんと確認済みである。男子用の浴場を別に作りたいのだが、生憎予算が無いのと、そもそもこの鎮守府には俺含めて二人しかいないのでお互い時間をずらせばいいだろうという理由で却下されてしまったのだ。
「この広さで一人だと貸し切りみたいでより気持ちいいわ〜」
15分くらいゆったりとしていると、次第にうとうとしてきた。すると、何者かによって大浴場の引き戸がガララと開けられた。
「なんでこんな時間にあんたがいるのよ」
声の主はこの鎮守府唯一の艦娘、叢雲である。
身体にはタオルを巻いている。俺がいるのは分かっていたんだろう。
「脱衣所に服あったから分かってたろ」
「仕方ないじゃない、さっき変な夢見ちゃったせいで汗かいたから待ってるのめんどくさかったのよ。」
「奇遇だな、俺も夢見た。どんな夢見たんだ?」
「それは後で。取り敢えずアンタは私が身体洗ってる間にタオル巻いてきなさい。」
洗い場に行きながら叢雲は言うと、風呂椅子に腰を下ろして、湯をだして身体を流し始めた。
提督は脱衣所に一瞬戻って、タオルを下半身に巻いてまた風呂に向かった。
叢雲は身体を洗い終えると少し提督から距離をとって風呂に入った。
「なんだよその微妙な距離」
「なによ、文句でもあるの?」
5メートルくらい離れていた。
「いや、話しにくいじゃん」
「少し声張ればいいじゃない。アンタ男なんだからそれくらいしなさいよ。」
叢雲は少し照れているように見えた。
「水くせぇな。ここには俺とお前しかいないんだぜ?」
提督は立ち上がると歩いて隣に座った。彼女はそっぽを向いている。
「アンタは一応男だし....提督だし...私達別に...」
小声でごにょごにょ言っている。
「別に俺もお前もタオル巻いてるから心配しないで大丈夫だぞ?夏とか一緒に海で泳いだろ?あれと同じようなもんだ」
「そう言う問題じゃないのよ...」
叢雲は呆れた顔で言った。
「まあまあ、混浴ってことでノープロブレムだノープロブレム。それよりさっきの夢の話しようぜ」
それから夢についての話をしばらくして、その他は雑談をした、浴場内の時計が5時半を回ったころ、のぼせてきたので別々に身体をもう一度軽く流し、別々に服を着て脱衣所を後にした。驚いたのは、見た夢が全く同じだったことである。
提督が執務室に戻ると、叢雲が麦茶を淹れてくれた。
「もう6時よ。朝ご飯作るわ、どっちで食べる?」
「食堂行こうぜ。作るの手伝うわ。」
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食事を終えて執務室に戻り、茶を飲んでいると、
電話が鳴った。この鎮守府の電話がなるなんて滅多にない。提督は受話器を取った。
「大本営から通達ーーーーー本土の横須賀鎮守府でクーデターが起きた。横須賀所属の艦娘達は近くの鎮守府を次々に襲撃、二、三の鎮守府が既に被害を受けている。こちらも混乱していてまだ詳細は調査中である。今得られている他鎮守府からの情報によると、艦娘数隻がそちらに向かったそうだ。おそらく明日の夜に到着するであろう。何をしてくるか分からない。至急警戒を頼む、必要とあらば...迎撃してくれ。」
そう言ったあとに、こちらの質問の猶予を与えずに電話を切られた。
提督はゆっくりと受話器を置くと、珍しい電話の内容に興味を示している叢雲に向けて内容を伝えた。
「夢の内容とかが妙にタイムリーね...」
「いやいやそれどころじゃないって...こっちに向かってる艦娘どうするよ...迎撃って...こっちは実戦もまともにした事ないんだぞ?」
「演習で練度上げてるからどうにかなるわよ多分」
「まあそこはいいんだけど相手は一応艦娘だぜ?実弾使っていいのか?」
叢雲は顎に指を当てて考えながら言った。
「それは大丈夫じゃないかしら。謀反でしょ?私殆どの艦娘と面識ないし迷いなくいけるわよ!」
「そりゃ頼もしいな。」
「皮肉よ皮肉。アンタいつになったら建造すんのよ?おかげでこんな非常時なのに私しかいないじゃない!」
これは痛い指摘。今まで言われても有耶無耶にしてきた。何故かと言うと、この鎮守府はほぼお飾り状態なのと、資源や弾薬も定期的に輸送で届くので遠征も必要ない。まして敵もほぼ出ない海域なので叢雲だけで十分回る。艦娘が増えると、予算もかかるし。まあ実のところ、建造時の大本営への報告がめんどくさいっていうのが主な理由なのだが。けれど、そろそろ腰を上げて建造した方がいいかもしれない。
「そうだな...今日は作戦会議の前に建造しよう。戦力は多少ないとまずいし。なにより、お前も寂しかったろ?」
「ふん...問題はそこじゃないわよ...アンタがいるし...ていうかむしろライバルは増えない方が良いのよ...」
言うにつれて次第に声が小さくなって最後には蚊の鳴き声のようになっていた。
雑務をあらかた片付けた後、昼食を済まし、工廠へ向かった。それは執務室や宿舎がある本舎からは少し西に外れた場所にある。一日数回開発に来るくらいで、建造は一度しかしたことがない。
そこに入ると、コンクリートの床を歩き建造施設がある場所に向かう。そして妖精さん達に建造の旨を伝えた。
「ドレクライシザイツカウ?」
「使えるだけ使っていいわ。とっておきの娘をお願い。」
「ワカッタ--!!」
妖精さん達がバタバタ動きだした。
少し待たされてから、2時間40分かかると言われた。流石にずっとここで待つわけにはいかないので、一回執務室にもどることにした。
「2時間40分っていったい誰なんだ?お前の時はもっと時間短かったぞ。」
「建造時間表を大本営からもらってるはずよ。アンタ持ってないの?」
言われて提督机の中の資料を漁る、数分探して「艦娘建造時刻目安の一覧」なるものが出てきた。
それによると、どうやら祥鳳、又は瑞鳳が出るらしい。
「やったじゃない!空母よ空母!これで艦載機がやっと使えるわ!」
叢雲は嬉々として言った。
そういえば今まで開発した艦載機は全部お蔵入りだった。空母が来てくれれば、ようやくそれも活かせるようになる。
「よし。少し演習したら、新人に会いに行くとしよう。」
叢雲しか艦娘がいないので、演習は提督が相手になっている。過去に大本営に向かう機会があり、元帥に待たされた時に、廊下で他鎮守府からきた明石という工作艦と立ち話をしていたところ、何かの拍子でこの「人間でも海上を動ける機械」なるものをもらった。戻って使ってみたら
非常に優れもので、まるで艦娘のように海上を動く事ができた。ハイカットのブーツの様なディテールで、メンテ等は妖精さんに任せている。叢雲の相手になっていたおかげでなかなか鍛えられた。
駆逐艦ぐらいの動きなら出来ると自負があるくらいには。
演習を済ませて、新艦娘を迎えに工廠へ向かった。
「航空母艦、瑞鳳です!よろしくお願いします!」
現れたのは袴を着て、薄い桃色の髪をポニーテールで纏めた瑞鳳という艦娘だった。
「俺が提督だ、艦娘は秘書官の叢雲と君の二人と少ないがよろしく頼む。頼りにしてる。」
「叢雲よ。よろしく頼むわ。」
「おい...こいつ本当に空母なのか?お前と対して変わらないように見えるが...?」
叢雲に小声で耳打ちした。
「たしかに私は小柄な空母だけど...練度を上げれば正規空母並みに運用できますよ!!」
「うおっ...聞こえてたのか...悪い悪い」
「アンタどんな偏見もってんのよ...」
叢雲が呆れた顔で提督を見やる。
「なんかこう...もっとどっしりとな...」
「うぅ...確かに胸はおっきくないけど...これでも努力してるんですよぉ...」
瑞鳳はもじもじしながら消え入りそうな声で言った。
「いや...そういう問題じゃ...そういう問題かも」
「ちょっと」
「まあまあ。そんなことよりこの鎮守府を案内するぜ」
瑞鳳に鎮守府を案内した後、
三人で夕食を済ませ、明日の夜についての作戦会議を行った。
クーデターの事を伝えた時、瑞鳳はすごく驚いていた。無理もないだろう。
初の出撃が同士討ちなのは申し訳ないが、やられなければこちらがやられるのは事実。
大体の作戦の流れを確認し、ひと段落付け、茶を淹れた。
「提督も出撃って...普通しないですよね?」
「まぁ...人がいないからしょうがないんだ...俺だって好きで前線に立ちたいわけじゃないし」
「後ろでどうこういうだけのやつより何倍もマシよ」
「いや普通はそうあるべきなんじゃないか?」
茶を飲みつつ適当な雑談をしている時が一番幸せだ。こういう時間がいつまでも続けばと思う。
明日の作戦が済んだら市街地へ出かける約束をして、その日は就寝にした。
明日の作戦はほとんど初の実戦になる、しかも相手は味方、多少緊張感は持っていかないとな...
そんなことを考えながら、眠りについた。
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