ブラック鎮守府艦娘の乱 その3
およそ半年ぶりですが....よろしくお願いします。
「コンナカンジニナッタ‼︎」
「おお、どれどれ...流星改に烈風...大成功じゃないか!」
工廠でなけなしの資材を使い半ばギャンブルのような開発だったが、無事成功した。
「これで瑞鳳もちゃんと艦載機積めるな」
礼を言って工廠を出るとちょうどランニングしていた三人とばったり出くわした。
「提督さんじゃん!何してるの?」
「よう。ちょっと開発してたんだが瑞鳳、嬉しい報せだ」
提督は持っていた開発記録を瑞鳳に渡す。彼女は汗を拭いながら、受け取った物に目を通し始めた。
「流星に烈風...もしかしてこれって...!私に?」
「そうだ。この間は最低限の装備で防空させて悪かったな。これで多少はマシになるだろ」
「ありがとっ!提督!」
瑞鳳は一杯の喜びを表し、提督に飛びついた。
「うぉっ...そんなに喜んでくれるとはな」
提督は抱擁を受け止めて、彼女の頭を優しく撫でる。
「アンタ...そんな資材どこにあったのよ...」
「いやお前見てみろってこれ、俺の豪運に震えろ!」
提督は威勢よく応えた。
瑞鳳から報告書が渡されると、瑞鶴と叢雲はそれを確認した。
「こんな最低限で...凄いじゃん提督さん!」
「だろ?やっぱやってみるもんだよなぁ」
瑞鶴と裏腹に、叢雲は眉を潜めながら報告書から目を離した。彼女は一度目を閉じ、そして薄く冷たい表情で言った。
「今回は失敗しなかったから良いけど...今度からは勝手にやらないで私に言いなさいよ。ただでさえ余裕ないのわかってる?」
もし失敗していたらこの冷たさは凍りつくほどの極寒になったかもしれない。
「アッハイ...」
「叢雲ちゃん、提督の上司みたい...」
「毎回最後に帳尻合わしてるのは私なのよ?気をつけてよね」
冷たく見据えられ、提督は蛇に睨まれた蛙も同然だった。
「ハイ」
「くくくく、提督さん情けないねw」
先程の絶賛はどこ吹く風...寒いし悲しいしでそろそろ逃げよう...
「お前らも昼飯には戻ってくるだろ?食堂で作って待ってるわ」
彼女達と別れて執務室にもどると、電文が届いていた。提督は茶を呑みながら目を通す。用件は大体想像がついた。
「大本営直属の艦娘をそちらに向かわせる...ってマジかよ!?メンツも書いてあるじゃんか...えぇっと...駆逐艦、磯風、浦風、涼月、軽巡洋艦、阿武隈、戦艦、金剛、正規空母、大鳳。一部隊丸々来るのか...というかなにしに来るんだ?」
読み進めると、件の艦娘達がまだ近海にいるかもしれないので護衛として向かわせる、ということだった。
「まぁそうだよな...ってこれは...」
提督は補給は貴官の鎮守府で行えとの記述を見つけた。その文を何度も読み返す。つうっと背に汗がつたうのを感じた。
「あいつらには言っておかないとな」
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昼食を振る舞った後、執務室に来て欲しいと三人を集めた。ただでさえ1人用の部屋に皆がいる、まるで何かの秘密組織が密会でもしているかのようだ。提督は皆に椅子を勧めると、自分も腰を下ろした。
「悪いな、飯の後に」
「良いわよ。それ程大事な何かなんでしょ?」
「ご明察」
「まずは、わかってると思うが近々大本営で今回の件について会議があるそうだ」
「提督さんも行くんだよね?」
「もちろんだ。...んでここからが本題なんだがどうやら大本営から艦娘が来るらしいんだ。それも六人も...」
「なんでそんなに?」
最初に出たのは瑞鳳の安直な質問だった。
「護衛でしょ。こないだの奴らみたいなのが全国に散らばってるのよ多分」
「おそらく叢雲の言う通りなんだよこれが。大本営は何やってんだろうな?いつも不祥事は直ぐに揉み消すくせに」
「横須賀のみんなは精鋭だから手こずってるのかも」
「ほかの鎮守府の艦娘と結託してるとかもあるかもな...あ、瑞鶴はなんか知ってるか...ってそうだよな。前に聞いたか」
「ごめん。本当に見当がつかないの」
「まぁ練度が高いのはそうとしてこれだけ時間が経っても鎮圧されてないってことは他に何かしら理由があるのよね」
叢雲は足を組むと、人差し指を顎に当てた。
「そう考えるのが妥当だな。俺は他の鎮守府に協力者がいる説ってのを推すぜ」
「うーんと、それだとなんで協力するのかよくわからなくないですか?クーデターの原因は提督への恨みなんでしょ?その説が正しければその提督は他の鎮守府からも嫌われるほどの悪人ってことにならない?」
「それなんだが、そもそも俺は根本の原因も違うものだと思ってる。瑞鶴も言ってたが、どうしてクーデターを起こすのか一言もまともに知らされないなんておかしくないか?おそらく鎮守府を破壊したのもうちを襲いにきたのも他に理由あってのことだと思うんだ」
「確かにそれなら筋が通るけど、じゃあその理由ってなんなんだろう?」
「そこは結局わからないってことね」
「そうだな。果たして会議でどんなことが聞けるやら」
一度シンとなって、提督が咳払いした。
「話がそれたな。一応言っておくと、ここに来る艦娘は、磯風、浦風、涼月、阿武隈、金剛、大鳳、だそうだ。俺はさっき名簿で顔を見たがお前らも後で確認しておいてくれ。そんでこれが話の核なんだけど、そいつらの補給はうちの資源でやんなきゃいけないらしいんだ。果たして足りるんだろうか?」
「なんで疑問形なのよ。それをどうにかすんのがアンタの仕事じゃない」
ピシャリと返された提督はしばらく思案する様子を見せると、両手をポンと叩いた
「ぁ!良いこと思い付いたわ」
「こういうときにアンタがマトモなこと思い付いた試しがないわ」
「何おもいついたんですか?」
瑞鳳が無邪気に問う。
「まぁまぁ...その時にわかるさ」
提督はニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「なんか知らない方がよさそう...?」
その後は雑談で幕を引き、各々が午後の予定をこなした。
夕食も終わり消灯時間も近くなった夜、1人の艦娘が執務室の扉を叩く。そして提督はその艦娘を迎えた。
「来たよ?」
「おう遅くに悪いな。手早く済ませるよ」
「急がないでいいよ、まだ時間あるし」
「まぁ直ぐに終わる話だ...昼に言ったが、俺は大本営に行くことになる。その時秘書官が同行しなくちゃいけないんだが、瑞鶴、それをお前に頼みたい」
「えぇっ私!?叢雲じゃなくて?」
「今までは叢雲と行ってたんだが今回は何があるか分からない。ここを知り尽くしてる艦娘を置いておきたいんだ。それとお前も事の顛末が気になると思ったんだが...どうだ?」
「...うん。それはそうだね。私もわからないことだらけだし。それに提督さんに無理言ってここに入れてもらったから役に立ちたいし...了解!その任、私が受けるわ!」
「ありがとう。いつでも行けるように擬装は点検しといてくれ」
「りょうかい!」
瑞鶴は笑ってビシッと敬礼した。
提督もそれを見て微笑み、敬礼を返した。
「今夜はこれだけだ。おやすみ」
「提督さんもおやすみ!」
彼女は部屋を後にした。
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次の日は、来るであろう艦娘達が寝る部屋を整え、最低限鎮守府を掃除した。時刻は夜10時を周りそろそろ彼女らが来てもおかしくない時間だった。
「定期補給のやつら以外が来んのは初めてだな。しかも大本営の艦娘なんて」
「アンタ、少し緊張してるわね」
叢雲はクスりと笑う。
「そらそうよ。大本営直属となりゃあ、やっぱ下手こけないしな。お前は緊張してないのか?」
「緊張してもしょうがないわよ。私はやることをやるだけよ」
「その太さ、見習いたいね。近くにお前みたいなのがいるとこっちも少し気丈になれるってもんよ」
「大本営には、瑞鶴、瑞鳳どっちを連れてくの?」
「瑞鶴を連れてくことにした。あいつも関係者だしな。留守の間、ここを頼む」
「それが合理的ね。でも、私がいないで大丈夫?」
「そりゃクソ不安だけどあいつらもいるし弱い所は見せらんねぇよ。お前こそ俺と離れて大丈夫なのか?」
「あったりまえじゃない。アタシを誰だと思ってんのよ」
「そうだな。頼りにしてる」
「あんたもね。しっかりやんなさい」
「...思えば、ここ二、三日は今までになく濃かったな」
「そうね」
「お前とこうやって二人で話したの風呂入った時以来か?」
「そうね」
「瑞鶴と瑞鳳が加わって賑やかになったけど、前みたいに二人でのんびりやるのも良かったよな」
「そういうのは失って初めてわかるのよ」
「そうだな」
その後、二人とも暫く喋らなかった。年月を共に経てきた者同士の沈黙は暖かく心地良い。
提督は暇潰しに小説を読んでいたが次第に眠くなってきて、大きく欠伸をした。
「今何時だ?」
「10時半よ」
「そろそろ眠いし来てくんねぇかなぁ...」
その時、哨戒機に反応ありと内線が鳴った。
そして提督は待っていたとばかりに受話器に飛びついた。
「おう。どうだ?艦娘か?」
「ダイホンエイノカンムス、キタ‼︎」
「了解だ。ご苦労さん」
「来た?」
提督は椅子に掛かっていた軍服を手に取った。
「ああ、行くぞ」
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浜辺に出た二人は、艦娘達の到着を待っていた。
「全く見えねーんだけど、これちゃんと来てるんだよな?」
提督は暗闇の水平線に目を凝らす。
「そろそろ信号弾が上がるはずよ」
叢雲がそういうと、それが合図であったかのように離れた正面の海上に照明弾が上がった。
「花火みたいだな...寒いからはよ来て欲しいんだが...」
「いつもの格好じゃ冷えるわよ」
「お前のそのマフラー、ご一緒できない?」
「しょ...しょうがないわね、ホラ、入りなさい」
「あったけぇ...」
「ちょっ...近いわよ!もう少し離れなさいよ!」
叢雲は提督を押し出そうとする。
「痛い痛い...我慢しろって、これそんな長くないんだから...」
彼女は取り敢えず手を止めたが、ずっと不満気に目を逸らしていた。初心なのがかわいくて、たまらず提督は彼女の頭を撫でた。
「そういうとこはかわんないよなお前...お、そろそろ来るか」
少し見ない間に大分島に近づいた艦娘達は、陣形は乱さず、順番に浜辺に到着した。すかさず二人もそこに駆け寄った。提督達が最初に上陸した艦娘に話しかける頃には、全員が浜辺に集結していた。
「長い路をご苦労さん。ここの提督と秘書官の叢雲だ。少しの間だけどよろしくな」
手を差し出すと巫女服に身を包むその艦娘、金剛は快活にそれに応えた。名簿で見たのだが、どうやらルーツがイギリスらしく言わば帰国子女?のような感じらしい。
「私はこの護衛艦隊旗艦の金剛デース!二人とも、ヨロシクお願いシマース!」
すると金剛は、後ろにいた艦娘達に振り向いた。
「みんなも挨拶してクダサーイ」
最初に声をかけてきたのは、いささか胸部装甲の涼しそうな艦娘だった。
「えっと、、私は大鳳です。よろしくお願いします」
「ああ。よろしくな」
「あたしは阿武隈!よろしくね!...じゃなかった、お願いします!」
「よろしくな。別に無理して敬語使わなくていいぜ」
「防空駆逐艦、涼月。よろしくお願いいたします」
「おう」
「うちが浦風じゃ!短い間だけど、よろしくねぇ」
「広島弁か!初めて方言喋る女性と喋ったが、味があっていいな。よろしく」
「私が磯風だ。短い間だが、貴官を守らせてもらう」
「よろしくたのむ」
一通り自己紹介を終えた後、提督は皆に呼びかけ、叢雲に視線をやりながら言った。
「今日はもう遅いから、明日に色々調整しよう。叢雲がここを案内してくれる。寝る部屋も用意しておいたから、取り敢えず今夜はしっかり休んでくれ」
「「「「「「了解」」」」」」
叢雲が先立ち彼女らを擬装保管庫へ連れて行くのと逆方向に、提督は執務室へと足を向けた。我が家に着くと、張っていたものが緩み、提督はどっかりと腰を下ろした。
「ふぅ...言われなくてもわかる練度の高さだな。オーラが違うわオーラが。しかもあんな長距離を来たのにピンピンしてるしあいつら絶対ただもんじゃないわ」
大本営がこれほどの艦娘達をこちらへ寄越す理由...状況に余裕があるのかそれともこれから行く道が相当厳しく危険まみれなのか...
「前者を信じたいな」
提督は冬空に小さく光る月を見ながら小さく呟いた。口には出しつつも、何か拭えない漠然とした不安が彼の中にわだかまるのだった。
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