煙草と天使
とくになし
ふと思い浮かんだ作品です。
私は色々な本を読む。小説、学術書、新書、戦術本などジャンルを気にせず、本当に色々だ。別に本が好きというわけではないが、読んでいると知識が増え、自身の頭が良くなる感覚が気に入っている。
…まぁ、本当に頭が良くなっているかは別の話だが。いや、そうは言っても頭はそれなりにいい方だろう。なんといっても私は、倍率が凄まじく高いこの仕事、提督業に就いているのだから、それなりの頭脳は職が証明してくれているはずである。私はそれを誇りに思っている。
「ふぅ…」
私は自分で淹れたコーヒーの匂いが充満している執務室でため息をついた。手に持っているものはかの有名な作家、芥川龍之介が書いた作品の短編集である。3日かけて読んでいたそれをたった今、読み終えたのだ。ちなみに最後に読んだのは『煙草と悪魔』である。
「提督さん?休憩はもう終わりましたか?」
そう問いかけてくる彼女は今日の秘書艦である鹿島だ。
「うん、読書時間はね…ちょっと煙草休憩を…」
「提督さんっ!」
(仕方ないだろう、小説の題名が悪い。)
私は内心でそう言い訳しつつ、コーヒーの匂いからタバコの臭いのする部屋へと足を運ぶことにした。
この喫煙室の設置は意外と好評だった。私自身、タバコの吸う頻度は低いのだが、もちろん他に吸う艦娘や来賓の方がいる。本当は何処でも喫煙していいことにしたいと思っている。しかし、軍事施設ということで引火性のものも多く扱っており、もちろんここへ配属されている艦娘には非喫煙者も多い。そうなると喫煙者にくるものといえば、『苦情』というのは言う必要もあるまい。まぁ、そんなことは初めから分かりきっていたからこの喫煙室を増設したんだが…
「はぁ…このタバコ、あと何箱残ってんだ?」
私自身吸う頻度が低いと言ったが、元より私はタバコがあまり好きではない。では何故吸うか?理由は2つある。
1つ目は亡くなった父の影響だ。私がこの鎮守府に配属されて間もなく、父は亡くなった。葬式の後に彼の部屋を片付けていたらタバコがカートン単位で置かれていた。その時の私はつい魔が差して、物は試しだと吸うことにした。あまり美味しいものではない…それが私のタバコに対する考えだった。しかし私の尊敬する父はタバコを吸っていたのだ。吸えば私も父に近づけるだろうか、ただそう考えて私は今でもタバコを吸い続けている。
2つ目は単なるコミュニケーション手段だ。私も軍部の中堅幹部として働いている。そうなれば部下や上司、同期、さらには艦娘との付き合いもとても重要になってくる。何故だかはわからんが喫煙者というのは同じ喫煙者同士で、謎の親近感が湧いてくる。私はそれを利用してコミュニケーションを取るようにしているだ。
「ふぅ〜、戻るか…」
吸っていたタバコが短くなった。
(偶に吸いたいと思うことはあっても、大抵は吸った後に後悔するんだよなぁ…)
内心吸ったことを後悔しながら出入り口の扉を開いた。
「おっ!提督!タバコ休憩か?」
…驚いた。開けたら大きな胸…いや、天龍がそこにいた。
「おぉ、天龍…君も吸うのか?」
「あぁ、遠征前にちょっとな…」
「臭くなるから消臭スプレーかけて遠征いけよ?」
「わぁってるって!うっせぇなぁ…」
「わかってるかなぁ、本当に…」
天龍、彼女は少し、『タバコを吸っている自分』に陶酔しているように見える。だから敢えてタバコの匂いを付けたまま行くのではないかと少し心配してしまう。まぁ、ちゃんと喫煙室で吸うあたり、分別付いているのだなと安心する。
「じゃあ、私は執務室に戻るよ。遠征に行く前に出動報告を届けに来てくれ。」
「わかってるって…全くうちの提督さんは心配性だなぁ!」
「心配性だとわかってるならなるべく心配かけないようにしてくれ。」
多少、皮肉を込めて発言してみた。
「戻ったよ。」
「提督さんったら…もぅ…」
読書も含めて1時間近くの休憩ともなると、流石に鹿島も呆れているだろう。まぁ、今日の仕事は遠征前の出動報告を聞くことしか残っていないのだから支障はない。
「執務はもう終えているよ。鹿島、先にあがってもらっても構わない。」
「いいえっ!鹿島、提督さんがしっかり仕事してるか見張ってます!」
「…もう書類仕事は終えてるんだけどなぁ。」
彼女はどうやら私を監視するつもりのようだ。
「おい提督!遠征前の報告に来たぜ!」
「あら天龍さん、もう行かれるんですか??」
「あぁ、ガキどもが早く連れてけってうるさいからよ…ほらっ、遠征詳細ここに置いとくからな!」
「ん、受理した。気をつけて行けよ?」
「わぁってるって!本当にうちの提督は心配性だな!」
「天龍さん?提督さんは皆さんのことを想って…」
「わぁった!わぁったよ!気をつけていけばいいんだろ?」
「分かればいい。よし、鹿島、私は天龍たちを見送ってくる。」
「鹿島も付いていきます!」
天龍率いる4人構成の遠征部隊はついに見えなくなってしまった。どうでもいいが私は日が沈むちょっと前の、この時間帯の海がとても好きだ。
「提督さん?何黄昏てるんですか?」
「ん?この時間に海の前で黄昏るって、なんかカッコよくないか?」
「映画の見過ぎですよ。」
…あまり女子ウケは良くないらしい。
「提督さん?黄昏てないで執務室に戻りますよ?」
「…そうするか。」
大人しく戻ることにした。
「さて、今日は本格的にやることもなくなった。あとはもう自由時間だ。」
「提督さんって、休憩ばっかりしてるように見えて意外と仕事早いですよね。」
「ん〜、仕事配分を考えてやってるからな。さて、秘書艦勤めの労いも兼ねて…久々に間宮にでも行くか?」
「いいんですか?」
「あぁ。」
「なら喜んで♪」
-甘味処 間宮-
鹿島はともかく、私がここにくるのは相当久しぶりだ。
「あら、提督さんに鹿島さん、いらっしゃいませ!」
「やぁ、こんにちは。席、好きなところでいいかな?」
「こんにちは〜間宮さん。」
「はい、お好きな席でお待ちください。」
私はどの席に座るかと周りを見た。
…喫煙室、そういえばここにも喫煙室を設置したなと過去の行いを思い出す。
「…提督さん?お煙草、吸いたいんですか?」
「ん?いや、喫煙室なんて設置したなぁ〜って思い出してて。」
「吸いたいなら喫煙室でもいいですよ?鹿島に遠慮しないでください。」
「いや、さっき吸ったばかりだし今はいいよ。ほら、そこに座ろう。」
私はそう言い、窓際の席を指差した。
「ご注文承ります。」
「私は…わらび餅もらおうかな。飲み物は煎茶で。」
「ん〜…鹿島はほうじ茶アイスお願いします!」
「はぁ〜い、少々お待ちくださいね。」
「…飲み物は要らなかったのか?」
「えぇ、さっきコーヒー飲んだばかりですから。」
「淹れたの結構前じゃなかった?」
「提督さんの淹れたコーヒー、美味しいですから…少しでも長く味わっていたいんです…」
嬉しいことを言ってくれるぜ…
「…温かいうちに飲むほうが美味しい。飲みたければいつでも淹れてやるから、遠慮せずに言ってくれ。」
「えっ?よろしいんですか?」
「あぁ、勿論だ。」
「それにしても、本当に喫煙室でなくてよかったのですか?」
「あぁ、タバコなんてたまぁに吸うくらいんでいいんだ。さっき吸ったのは…小説の題名の所為だ。」
「…でも、吸うと依存しちゃうものでは?」
「まぁ、吸いたいと思うことはあるよ。その時は吸ってる。どのみち、今は吸いたい気分じゃない。」
「へぇ、でもあまり吸わないとは言ってもやっぱり身体に悪いですよ。」
「ん〜そうは言っても吸うのをやめようとは考えないな。まぁ、タバコに代わるものがあれば、やめるかもな。」
「なら、鹿島が提督さんのタバコになります…///」
鹿島がそう言ったすぐあと、注文したものが届いた。彼女の顔が真っ赤になっていたが、私は今は聞こえないふりをした。
こちらもpixivで投稿したものです。
このSSへのコメント