2020-04-29 20:00:06 更新

概要

pixivで一番評価が付いてたものです。


インプリンティング

生まれたばかりの個体が最初に見た動くものを親と認識するなど、一定の外部刺激が特定の行動パターンを誘導する現象。 by 生物学用語辞典





先週、私の所属している鎮守府の提督が汚職で憲兵に捕まった。何度も『バカな人』と思ってはいたが本物のバカだった。次の提督が着任するまで、元秘書艦であった私は次期提督の書類や、伝達事項についてまとめていた。

そろそろ次の提督に関する書類が届くかと思っていた時、それは届いてきた。


[20××年度 8月23日付にて貴鎮守府に以下の提督を配属とする。


○○ ΔΔ少佐 (別紙写真参考)

日本国海軍士官学校第23期生

専攻課程 特殊部隊中級指揮課程及び艦娘運用指揮課程


また、秘書艦については以前勤めていた者が引き継ぐものとする。


軍部省 日本国海軍庁総合人事部特務人材科


担当 ** *事務官]


(あら、23期生って2年前に卒業したばかりの子かしら…)

どうやら私が秘書艦をすることになるらしい。新卒の子となると今までと勝手が違うだろう。そう思いながら別紙の写真を見た。

(…あの人にとてもよく似てるわ。)

私が艦娘課程に入校する直前まで好きだった人にそっくりだ。

(この人に、あのバカのような指揮はさせないようにしないと…)

私はその気持ちでいっぱいでした。

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8月23日。俺が鎮守府の長になる日だ。内示されたのが2週間前、あっという間にこの日が来た。俺は何故かよくわからないうちに出世コースに乗っていた。本当によくわからない。特段成績がいいわけでもなく、何から何まで平凡。なのになぜか同期よりも階級は早く昇進し、なぜかこのポストが用意されていた。経験も知識もない半人前、いやもはや四分の一人前の俺にとって重大な役職に就くことは嬉しさより恐怖が勝る。

「あぁ…憂鬱だ。」

「憂鬱なんですか?」

運転手が俺の独り言に問いかけてくる。

「そりゃそうですよ。ついこの前までただの初級幹部だったのに、気付けば中級幹部。しかも異例…俺何もしてないのに…」

「私のような下士官からしたら、異例の出世なんて羨ましい限りですよ。」

「圧が違うでしょう…圧が…何でこんなになっちゃったんだ…」

「提督でしたっけ?」

「少佐と呼んでくれ…俺にはまだ提督なんて呼ばれる資格は…」

「少佐、ネガティブだといつか失敗しますよ。」

「そりゃそうだけれども…」

「ほら少佐、鎮守府、見えてきましたよ。ご覧ください。」

「あぁ、あそこか…」

レンガ調の古さを感じさせるが凛とした建物…今日からここが俺の職場らしい。

「はぁ…憂鬱だ…」

運転手に聞こえないよう俺は呟いた。


車から降り、運転手に礼を告げていると後ろから足音が聞こえて来た。

「おはようございます。時間通りの到着ですね。」

俺は目を見開いた。艦娘は皆美人揃いとは聞いていたが…いやはやここまでとは…

「お、おはようございます!本日付で当鎮守府に着任いたしました、〇〇 ΔΔ少佐です!」

「えぇ、存じておりますわ。他のみんなも待ってます。ほら、行きましょう。ついて来てください。」



着任してから数日したが、ここは本当に元ブラック職場だったのかと疑っている。暗い影が残っているわけでもないし、誰かが死んだという報告もなかった。

「ほら、提督、ここ間違えていますよ。」

「あ、ほんとだ。すいません。」

「いつもここ間違えているじゃないですか。バカめ、と言って差し上げますわ!」

高雄は案内役だけかと思っていたがどうやら俺の秘書艦兼教育係を務めるらしい。

「ご、ごめんって…そんなに怒らないでくださいよ…俺だって…」

「俺じゃなくて、僕か私と言いなさい!いいですか?貴方はここの長で責任者なんです!そんな人が俺だなんて!」

「わかりました!わかりましたよ…ぼ…わ…?私?だって座学でしか聞いてないようなことばかりですから…」

「ならば執務を通して学んでください!」

(いくら美人とはいえ、ここまで言われるとキツイな…俺っていうくらいいいじゃん…)

「ほら!集中してください!」



着任してから2ヶ月ほど経った今、僕は高雄のおかげで執務にもなれ、失敗は激減した。軍部省の偉い人からもお褒めの言葉をいただき、僕は嬉しい限りだ。一人称に関しては高雄に『やはり僕の方がしっくり来ます。僕にしてください。』と言われた。相変わらず僕を指導してくる。

「あらあら提督〜、仕事はもう終わったの?」

「あぁ、終えましたよ。」

「あら、本当に終えてたの?驚いたわ。」

「陸奥…僕のことをバカにしてるの?」

「そんなことないわよ。気を悪くしたかしら?」

「いや、そんなことないですけど…」

「ならよかったわ。」

「そういえば陸奥…長門は最近どうです?」

「どうって?」

「例えばほら…何か困ってたりしないかなって。」

「そうねぇ〜特に何も…そう言えばこの前、『私も珈琲をブラックで飲めるようになりたい』って…」

「ふふっ…面白いこと言いますね。」

長門、彼女はとても凛々しくて、それでいてとても美しい。気づけば僕は長門に惚れていた。

「あ、忘れてた。長門、今度パンケーキ食べに街に行きたいそうよ。」

「…パンケーキですか。」

「どうも車じゃないと行きにくい場所みたいで諦めてたわよ。」

「もし、もし僕が車を出すって言ったら?」

「喜ぶと思うわ。」

「そうですか…」

「連れて行ってあげるつもり?」

「まぁ、時間があれば。」

「あら、なら私も連れてってよね。」

「えぇ、もちろん。」

「あら提督、お仕事は終えたのですか?」

陸奥とお喋りをしていると高雄が執務室に戻ってきた。

「えぇ、もう終えていますよ。」

「今提督とデートのお話をしていたのよ。ね?提督?」

「いや、デートっていうほどじゃ…」

「…陸奥さん?さっき長門さんが陸奥さんのことを探してましたよ?」

「あらあら、何かしら。じゃあ提督、さっきの話、実現されるの楽しみにしてるわ。」

「えぇ、楽しみにしててください。」

そう言って陸奥は退室した。

「提督…」

「?」

「提督、デートって何の話ですか?」

「い、いや…長門がパンケーキを食べたいって聞いて…連れて行こうかなと…」

「なぜそんなことをする必要があるのですか?」

「部下の要望を叶えるのも、僕の仕事だろう?」

「でもそれはプライベートの話ですよね?なぜプライベートの要望と答える必要があるのか…」

「…」

「もしかして、長門さんのことが好きなのですか?」

「⁈」

見事に言い当てられた。

「顔にそう書いてあります…」

そう言って高雄は僕に近づいてくる。

「バカめっ!」

その声が聞こえた直後、左頬に激痛を感じた。どうやらビンタされたらしい。

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おかしい、私は提督を、彼を『私の好きだった人に似せて』、『私のことが好きになるよう』に教育したはずなのに…

私は問いかける。

「提督として白紙の貴方を育てたのは誰ですか?」

「…」

答えない。私は右頰をビンタした。

「誰ですか?」

「たっ…高雄…です…」

「聞こえません!」

私はもう一度ビンタした。

「高雄です!」

「本当にわかっていますか?」

「はい、わかっています…」

震える声が可愛い。

「なら何で目をそらすんですか?」

「高雄が…怖いから…です…」

怖い?この私が?

「…再教育が必要みたいですね。」

そこから私は数十分間、彼を殴る怒鳴るなどして『再教育』を行った。


「もし次、仕事以外の内容で私以外と話したら…もっと酷い『再教育』が待っていますからね。」

私はそう言って彼を私室へと連れ帰った。『教育』後の『ご褒美』を上げるために…




インプリンティング それは強烈な洗脳


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