もう勇者やめていいですか?6
オリジナルss 一行は変わり果てた故郷へと辿り着く。
ーーー現在
馬車に揺られて1日が経ち、ようやく街の入り口が見えた。
入り口の門が開き、馬車を迎え入れる。しばらく街の中を走り、駐馬場へと着き、ようやく馬車から降りることができた。
ナル「ほぉぉぉ...すごい、すごいのだマスター!」
いち早く降りたナルが城下町を見るなり子どものようにはしゃぐ。だがそれには俺も同感だ。本当に昔いたリーネとは思えないほどの発展ぶりであり、俺の記憶にあるバルロッサよりも賑わっていた。
大通りでは屋台が数多く並んでおり、道ゆく人たちがその屋台で通貨と物品を売買していた。
グレン「すごいな、本当にここリーネ村だったのか?」
ここへ来る途中に大陸の地図を見させてもらったがリーネ村と同じ位置にここがあった。後500年経ってもあまり大陸の地形が変わっていないことにも驚いた。
カイゼル「喜んでいてくれてなによりだ。では私はイビルボアと炎竜の部位を市場の流通場へ持っていくので、その間街を色々見ていってはどうだろうか?」
グレン「それはありがたいが、手持ちがなくてな...」
カイゼル「心配しないでいい、手を出してくれ」
グレン「?」
手にギリギリ収まる程度のずっしり重い袋を渡される。中を見てみるとこの世界の通貨が入っていた。
グレン「え、いいのかよこれ」
カイゼルは軽く笑い、頷いた。
カイゼル「それはレン殿が倒したイビルボアと炎竜の素材の前査定分だ。もちろん正式に査定額が決まればその分をきっちり支払おう。」
グレン「...そうか、ならもらっとくわ」
カイゼル「そうするといい」
ここは変に断るより貰っておいた方が都合がいい。せっかくくれるっていうんだからな、もらえるもんはもらっておこう。
ちなみに通貨は「金貨」「大金貨」で統一されている。大金貨は金貨100枚分の価値がある。
ナル「ほぅ、それはお金なのか?ならマスター!わたしはあの店にあるお肉が食べたいのだ!それで買えるのであろう?」
グレン「ナルの頭の中には食欲しかないのか?」
ナル「な、なんじゃとー!?他には、あれなのだ...マスターが好きだぞ!」
涎を垂らして出店の方をチラチラ見ながら言われてもな。ナルの中では俺と肉の好きが同レベルらしい。なんだか少しムカついてきた。
カイゼル「後レン殿。夕刻に王城までご足労願いたい。」
グレン「ん、あぁ...調査に関わったから俺のこと報告しなきゃいけないとかか?」
カイゼル「話が早くて助かる。なに、恩人を無下にするようなことはしない、むしろ炎竜討伐を成し遂げてくれたんだ。それなりの報酬は期待してもいい」
グレン「だといいがな。ま、牢とかに閉じ込めるとかじゃなきゃなんでもいいがな。わかった、んじゃ夕刻に」
カイゼル「うむ、話は通しておくから着いたら王城門前の兵に私の名前を出してくれ。それでわかるようにはしておく、では」
サッと振り返り荷物の乗った馬車と共に流通場へと行ってしまった。彼も忙しいのだろう。
王城ね...めんどうなことにならなきゃいいが。
ナル「まーすーたー、お腹空いたのだー、にーくー、肉が食べたいのだーいだだだだ!!」
俺はこの食い意地がすごい神様の頰を無言でつねりあげた。
ナル「いいいっっったいのだ!!何をするのだマスター!!」
グレン「うっせ。ほら、なんか食いに行くぞ。」
ナル「ああ!?待つのだマスター!」
ナルを横目に大通りを歩いていく。王国の地図に目を通すとここは主に生活用品や食料などが売っている東通りで、西通りには武器や防具を売っている鍛冶場。旅をするため必需品などが売っているらしい。
昔のリーネでは考えられない。祭りでさえこんなに人はいなかったぞ。
「お?お嬢ちゃんたち可愛いね!これ一本どうだい!」
お嬢ちゃんたちって...ひょっとして俺も言われてる?
出店のバンダナを巻いたおっさんがナルに声をかける。その手には焼けた肉が串に刺さっていた。串焼きというやつだ。
ナル「ふっ、わたしを褒めてもお腹しかならないのだ。そしてありがたくいただくのだ!」
ナルは肉の串焼きを手に取り遠慮もなく齧り付く。よほど美味いのかまるで小動物のように口を小さくもぐもぐさせている。
ナル「うっっまいのだ!!これがマスターが言っていたちょーみりょーを使って焼いた肉なのか!?めっちゃうまいのだ!!」
グレン「はいはいわかったから串を手に持ったまま腕を振るな。おっさん、俺にも一本くれ」
「あいよぉ!金貨1枚ね」
お金を手渡し串焼きを手に取る。程よく焦げ付き、焼けた肉のいい匂いが食欲をそそる。
肉を一口運び、噛みちぎると口の中で肉の旨味と程よい塩加減が舌を撫でる。
正直言ってくそ美味い。冗談抜きで今まで食べてきた肉の中で一際美味い。おそらく調味料がこの肉のうまさを引き立てているのだろう。
グレン「これどんな調味料を使ってるんだ?塩だけじゃないよな?肉の臭みがまるでない。」
「香辛料と塩で漬け込んだだけだぜ?他の味付けはしてねぇよ」
グレン「な、ほんとにそれだけか?」
「おう、それだけだ」
おそらく豚肉なのだろうがいくら香辛料を使っても完全に臭みを取ることなど不可能なはず...いや、それほどまでに食の文化も成長したってことなのか。
まぁ、味に文句などないので別にいいか。
ナル「マスター!もっと店を回るのだ!わたしはまだまだ食べるのだ!」
正直最初だったら賛同しかねたが...
グレン「...よし、食えるだけ食ってやるか、ナル!」
ナル「おおー!マスターそのいきなのだ!」
俺とナルは片っ端から美味そうな食べ物にありつき始めた。
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ナル視点ver.
わたしは神の力によって造られた剣。人の世では神剣とよばれている。ひょんなことから人間になってしまった。
雷神剣 鳴神...それがわたしの名前。
だがマスター...グレンがわたしにあだ名つけてくれた。
ーーー ナル
それはとても捻りがなく単純で...けれど何故だかマスターっぽくてしっくりくる名付けだった。
グレン「このクレープってやつ、美味いな」
マスターがくれーぷというものを食べながら率直な感想をいう。中には茶色いくりーむと甘さ控えめのふるーつが入っている。なんでもこーひーを使った甘くないなまくりーむだそうだ。
ナル「ふん、そんな甘くないくりーむなど美味しくないのだ。こっちの方が美味しいのだ!あーむっ...んんー、あまうまいのだ!」
マスターのを少し食べて見たが苦すぎて無理だった。わたしのは白いなまくりーむになにやら赤いふるーつが乗った店員曰く、ヒトゴの実というみたいだ。
これがオススメ!といわれたのでとりあえずこれにした。
グレン「甘いの苦手なんだよ...ナルはまんま子ども舌だな」
ナル「な、なんじゃとー!わたしはマスターが生まれる前から剣だったのだぞ!あむあむ」
グレン「人間になったのつい最近じゃねぇか...てか食べるか喋るかどっちかにしろ」
マスターに怒られてしまった。だが不思議と嫌ではない。わたし自身もわかってはいるがどうやらわたしはマスターに構われるのが好きらしい。
わたしはマスターとの旅の思い出がない。人間になった時、まだ剣の頃、なんとなくマスターのとなりにいたことしか記憶にない。
だがこうして話せるようになって、もっとマスターのことを知りたいと思った。そしてわたしはずっとマスターのパートナーとして側にいたい。そう思った。
グレン「うん?どうしたナル。お腹いっぱいか?」
ナル「む?全然足りないのだ。はむはむ」
グレン「そうか」
マスターは細かいことに気づいてくれる。そんな優しいマスターを気に入っている。
だがそんなマスターをいじりたくなってしまうわたしがいた。
「ふふっ、そんなにわたしのくれーぷが食べたいのかー?仕方ないのだ、マスターにあーんしてやろう!」
マスターが優しい上での行動だ。断られるのはわかってはいるが構ってほしくてついやってしまう。我ながら子どもっぽいのは自覚してはいるがやめられない。
グレン「いらん」
ナル「な、なんじゃとぉー!!」
...断られるのはわかっているのだがそれでも少しぐらいいい反応してくれても、と思ってしまう。わがままと言われようが仕方あるまい。
くれーぷを食べ終わり、その後何軒か出店をまわり、色々食べてきた。ほっとさんど、魚介のすぅぷ、いものむしやきなど、どれもうまかった。
城下町中心の大広場にやってきて、食休みとして日光に当たりながらベンチでまったり過ごす。
グレン「だいぶ食べたな...」
ナル「わたしもお腹いっぱいなのだ...」
お腹がぽっこり膨らんでいる。人の食べ物は美味しいのでつい食べ過ぎてしまった。
グレン「ふぅー、とりあえず休憩っと。しばらく休んだら、次は西通りにでも行ってみるか」
西通り、確か鍛冶屋や旅の装備を整える場所だったかの。
グレン「なんか厄介ごとを押し付けられそうな気がするんだよな...勇者の勘がそういってる」
それにはわたしも同意見だ。マスターが強すぎて炎竜がどの程度の強さかわたしにはわからないが、あの偉い騎士が驚いていたのだから少なくとも普通の人間にとっては驚異なのだろう。
マスターの腕を見込んでなにやら利用するかもしれん。根拠はないが。
ナル「ふむ、わたしも早く神力を戻さなくてはな」
人間の姿でマスターといるのはとても楽しいが、戦いの時に邪魔になるのは正直言って嫌だ。最初に騎士たちと戦った時もわたしを人質取るつもりだったのはなんとなくわかった。
あの時はマスターが強すぎてその騎士たちは手も足も出なかったが、もしカイゼルとやらがわたしを本気で人質に取っていたら...?勝負は分からなかったかもしれない。
マスターと共にいるためには足手まといになるわけにはいかない。わたしは、ずっとマスターと一緒にいたいのだ。
するとわたしの頭の上にマスターの手が乗っかり、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
グレン「慌てなくていいさ、時間はあるんだしゆっくり探そうぜ」
ナル「...うむ」
わたしの内心を察されたのだろうか。どこまでもお人好しなマスターなのだ。
それになんだかマスターに撫でられると胸がキュッとなる...これはなんなのだろうか。
やがて撫で飽きたのか、マスターの手がわたしから離れる。
ナル「...ぁ」
グレン「ん?どうした?」
い、言えない。もっと撫でて欲しいなど。なんなのだこれは、マスターの事を考えれば考えるほどマスターのことが愛おしくなってくる。
ナル「な、なんでもないのだ!」
グレン「そうか?」
この鈍感め!と言いたいところだがマスターは人の色々な感情に気付きやすい。マスターももしかして薄々気づいているのではないか...それともわたしの見た目が子どもだから眼中にないのか。言ってて悲しくなってきたのだ。
ナル「ほ、ほれ!西通りにいくのだろう!早くいくのだ!」
グレン「えぇ、もう少し休んで...っておい」
問答無用でマスターを置いていく。はぁ、とため息をつきながらも後ろからついてきてくれた。
マスターの隣を歩く、それだけで幸せなのかもしれない。
ナル「ふふっ...」
これが人間の言う、"好き"という感情なのかもしれないな。
前に書いてたものをss風に直して書きました。ほぼ思いつきです、ご了承ください
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