もう勇者やめていいですか?12
オリジナルss 毒蛇討伐。聖堂にいた少女の正体とは…?
ーーー ノイス聖堂内
ゼブラ「あぁぁぁ...なんなんだよクソがぁ...次から次へと邪魔者ばっか来やがってよぉ」
男は大層不機嫌なようだ。そんなことは知ったことではないが。
少女「...ぐすっ」
男の後ろを見てみると何やら淡く光る幕みたいのがフードを被った神官?を守っているみたいだ。よく見ると赤い髪が見える、しかも少女ときた。
それにあれは...風魔陣か?結界の超魔法、通常の結界とは違って魔力密度が非常に高く何人たりとも侵入を許さない防御壁。
俺でも少し気合を入れないと壊せない程だ。なるほど、だからとなりにいる神官は死にかけているんだな。
その神官は皮膚が酷く腫れ上がっており痛々しい程この上ない。毒の影響だろう、それでも死んでいないということはこの怪しい男が解毒かなにかをしたのか?拷問してたってわけか。
風魔陣は魔力が蔓延る限り解けることはない。この結界を解くには術者自身にしかできない、それでもいつかは魔力が霧散して解けてしまうのだが。そもそも風魔陣は大量の魔力を使うため保って1日が限度だろう。
大方あの神官が自分を殺してしまってはこの結界は解けないとかホラを吹いたのだろう、だがそのおかげでこうして間に合ったわけだが。
何故こいつがあの少女を狙っているのかはわからんが...敵なのは間違いないな。
ゼブラ「てめぇ...俺を目の前にしてぇ、どこみてんだぁ?」
グレン「ふん、外の炎竜からやばい奴だって聞いたからどんなもんかと思えば...大したことなさそうだな」
ゼブラ「なんだとぉ...?お前が炎竜を倒したのかぁ?」
グレン「そうだよ、残念だったな。額にあった魔法石もくり抜いてやった」
ポケットから炎竜に埋め込んであった魔法石を取り出し男の目の前で挑発するように手で粉々に砕いてやった。
ゼブラ「くっ...ぶっ殺してやるぅ...!」
男は手をかざし魔法陣を出した、が…ただそれより早く俺は男の懐へと入りこむ。
グレン「その前に、ここは狭いから外に行ってもらおうか」
ゼブラ「なっ...!いつのまにぃ...!ぐわぁぁ!!」
全身に付加術をかけ男の胸ぐらをつかみ崩壊している天井に向けて勢いよく投げ飛ばした。
ゼブラ「うわぁぁぁァァァ!!!?!?」
男は空を切りそのまま外へと飛んで行った。
投げ飛ばした理由はここじゃ巻き添えが起きるかもしれないこととナルに安全に入ってきてもらうこと。
後は...ちょっと喋り方がうざかったから。
ナル「ふむ、もう良さそうだなマスター」
ナルが聖堂の裏口からひょこっと顔を出した。
グレン「おう、大丈夫だ。よし、ナルはこの解毒薬をそこの神官とカイゼルに飲ませてやってくれ」
ナル「むぅ...マスター以外の人に奉仕したくはないのだが...」
グレン「まるで俺にいつも奉仕してるみたいな言い方してるがそんな記憶ないんだが?」
ナル「...てへっ☆ んぎゃ!?」
ナルの脳天へと軽くげんこつをする。どこにいてもお調子者だなこの神様は。
ナル「うぅ...げんこつされすぎてアホになるのだぁ...」
グレン「安心しろ、もうアホだ」
ナル「なんじゃとー!!?」
一応ヤバめな状況なのだがまったく緊張感がない。まぁあの程度の相手なら仕方ないか...
グレン「とりあえず頼んだぞナル」
ナル「ぐぬぬ、仕方ない...任せるのだ」
ナルに数本の解毒薬を持たせる。正直カイゼルならともかくあの神官には効くかはわからないが進行を遅らせることはできるだろう。
グレン「さて、俺は表に投げたあいつの相手でもしてくるか」
入ってきた入り口へと足を運び、入り口前の横に倒れているカイゼルに目を向ける。
カイゼル「...れ...どの...」
グレン「無理に喋らなくていい。後は俺に全部任せろ。あいつの魔法のことも知ってるから安心しろ」
カイゼル程の実力者ならさっきの男如き相手にはならないはずなんだが...やはり初見で毒に気付くのは無理だったか。
重症、というほどの怪我を負っているようには見えない。おそらく麻痺毒で動けなくしたのだろう。
グレン「任せとけ、あんなやつ秒で終わらせてやる」
カイゼルはなにも心配していなさそうな視線を送ってきた。まだ会って日は浅いが余程信頼してくれているのだろうか、炎竜を引きつける時も俺なら問題ないと言っていたしな。
ーーーーーー
入ってきたところから再び外に出る。広がる草原、もとは自然豊かな場所だったに違いないが今や焼き払われた後だ。なんとも無残な光景だな。
ゼブラ「絶対にぃ...絶対にあいつは殺すぅ!!くそがぁ...くそくそくそぉぉ!!」
聖堂の外に出た途端毒男が怒りを露わにして罵言を呟いていた。余程俺に投げ飛ばされたのが悔しかったのだろうか。
ゼブラ「...ッッ!!お前ぇ...!!」
俺の姿を見るなり殺気を隠そうともしない目で睨みつけてきた。こういうタイプは何度も目にしてきたが、大体は自分の力に過剰に自信があるプライドが高いやつだ。
固有魔法は魔法の極地...こいつは枠に嵌らない毒を生み出すという珍しい固有魔法を使うんだ、調子に乗ってしまっても仕方がないのかもしれない。
...だからと言ってそれで慢心していては一生三流のままだけどな。
ゼブラ「お前は、殺すぅ!この俺に無様な目にあわせたさせたことをぉ、お前の死をもって償わせてやるぅ!!」
グレン「威勢がいいな、でもあんたさっきの俺の早さに全くついてこれてなかったよな?」
ゼブラ「あれはぁ、油断してただけだぁ!」
グレン「そうか?ならもう一度試してみるか」
ゼブラ「ぐっ...クソがぁ...たかがこんな女にぃ...!!」
グレン「..........あ?」
俺のこめかみにピキッと血管が浮き出たような気がした。こいつ今なんていった?
ゼブラ「なんでこの俺がこんな弱そうな女にぃ...クソがクソがぁ...!!」
ピキピキッと更に血管が浮き出る感覚がした。こいつ今俺のこと女って言ったよな...??
ゼブラ「女如きに...女如きにぃ...!!」
プツンっと何かが切れる音がした。
グレン「俺は...」
ゼブラ「あぁ??なんか言ったか女...」
グレン「俺は女じゃねぇぇ!!!」
ゼブラ「ぶへぇ!!?」
気がつくと俺は毒男を殴り飛ばしていた。と同時に驚いた、なんせ無意識に殴っていたのだから。
グレン「はっ!やべ、つい...死んでないよな...?」
多分大丈夫なはずだ、無意識とはいえ普通の身体強化以上の力で殴ったりはしていない。
まぁ当たりどころが悪ければわからないが...
ゼブラ「ぐ、ぐふっ...ちくしょぉ...」
殴られて地に伏せていた男は死に迫るほどのダメージを負った様子はなかった。
ほっ...良かった。なんとか生きてるみたいだな、これで安心して捕まえることができる。
ゼブラ「お前ぇ...なんなんだよお前はぁ...!」
口元からポタポタと血を流しながら俺を睨みつけてくる。痛々しいな、やったの俺だけど。
グレン「何って言われてもな...旅人?」
ゼブラ「ふざけやがってぇ...」
真面目に答えたんだがな...どうやら冗談として受け取られてしまったらしい。
ゼブラ「もういい、遊びはやめだぁ。本気でお前を殺すぅ...!毒蛇のゼブラと呼ばれる力見せてやるぅ!!」
グレン「へぇ...?」
どうやらこいつの名前はゼブラというらしい。てか自分で毒蛇って...
グレン「!」
ゼブラは両手を突き出し魔法陣を展開させる。すると周りの空気がガラリと変わった。
ゼブラ「フヒヒヒ!!お前には俺の中で最高の毒を喰らわせてやるぅ!!」
色もついてない空気から徐々に紫色の帯びた毒ガス的なものが生成されていく。
まずい、完全に囲まれた。
ゼブラ「固有魔法 腐毒ぅ!」
毒ガスは地面をつたり足元の草々をまるで溶かすかのように腐らせていく。非常に強力な毒だ、触れればひとたまりもないだろう。
どうする?考える時間はない、空へ飛んで一旦逃げるか?
とりあえず毒でやられないように全身には魔力の膜を覆っている、あまり保たなそうではあるが。
ゼブラ「な...なっ...」
あれこれ考えてるとゼブラがなにやら驚いた顔をしていた。
ゼブラ「な...んで...」
グレン「...??」
ゼブラ「なんで毒が効いてねぇんだよぉ!!?」
...?なにを言ってるんだこいつは?
グレン「魔力の膜で侵入を防いでるんだよ、こんなのも知らないのか?」
ゼブラ「ふざけるなぁ!」
な、なにをこいつこんなに怒ってるんだ...毒を防ぐ手段としては有効な手段だと思うが。
ゼブラ「そんなので俺の毒が防げるかぁ!俺の毒は魔力さえも腐敗させるんだぞぉ...!」
グレン「は!?」
魔力さえも腐敗させる毒...!?そんなものが作れるだなんて、俺はこいつの力を見誤っていたのかもしれない。
...ん?待てよ、じゃあなんで俺効いてないんだ?
今一度身体を見回すと膜で覆っていた魔力が消えかかっていて身につけている衣服や剣が徐々に腐敗していっていた。こいつの言ってることは嘘ではないらしい。
だが、それでも俺の身体に異変は感じられなかった。
ゼブラ「何故だぁ...俺の毒が効かないはずがぁ...」
グレン「.....そうか」
なんとなく理由が分かった気がする、おそらく俺は毒に対する完全耐性がついたのだろう。しかしその耐性がどうやったついたのか、それは...
グレン「なぁ毒蛇さんよ」
ゼブラ「ヒィッ...な、なんだぁ...?」
毒が効いてない俺が恐ろしいのかどもりまくっている。が、気にせず話を進める。
グレン「あんたの毒は確かにすごい、魔力を腐敗させる毒を使うなんて確かに敵無しだろうな」
ゼブラ「何がいいたいぃ...」
グレン「いやー単純な話だ。あんた...この世でもっともヤバい毒って知ってるか...?」
ゼブラ「な...に...?」
俺は笑みを浮かべる。なにせその毒とも言われるものは人類を滅亡の危機にまで及ぼしたものなのだから。
グレン「それはな、悪魔の血だよ」
ゼブラ「あ...悪魔の血ぃ...?」
俺が言ったことが予想外だったんだろうか、さっきまでの怒りが僅かながら収まった気がする。
グレン「そうだ、悪魔の血は人間にとっては猛毒...一滴でも付けばその部分は侵食され身体の細胞はズタズタに破壊される。例外はあるけどな」
例外とは血が適合した魔族のことだ。まぁそうそういやしないんだけど。
ゼブラ「お前ぇ…魔族だっていうのかぁ?」
グレン「厳密には違うが…そこは重要じゃないだろ」
ゼブラ「はぁ…?」
この毒がこいつの奥の手だって言うのなら、この状況は相手にとってとてつもなくまずいものになるだろう。
勝ちを確信し、一歩踏み出す。ゼブラの顔に焦りが見えてきた。
グレン「この状況、わかっているのか?」
ゼブラ「な、なにを…」
また一歩踏み出す。焦りと緊張からか冷や汗が見える。
グレン「それはあんたの切り札なんだろ?それが有効打にならない今、どうなる?」
ゼブラ「ぐ、ぐぐ…」
更にまた一歩踏み出す。状況を理解したのか更に険しい表情になった。
グレン「あんたにやられた人たちの分を…全て込めてやる」
ゼブラ「ヒッ…!?」
指の関節を鳴らし不敵に笑みを浮かべた。この際どちらが悪役なのかという無粋なツッコミは無しだ。
グレン「覚悟しろよ、毒蛇」
ゼブラ「や、やめ…!!?アァァァァァァァァ!!!!!!!?!?!?」
ーーーーー
ーーーーー
ーーーーー
ノイス聖堂内
カイゼル「助かった…レン殿が来てくれなければどうなっていたか」
ナル「まったくなのだ。お主は弱すぎるのだ」
カイゼル「ぐっ、不甲斐ない…」
カイゼルは解毒薬を飲み麻痺毒の効果が薄まったようで本調子ではないが身体を動かせるようにはなっていた。
カイゼル「だがやはり気になるな、レン殿はまかせろと言っていたが毒をどう対処するつもりだ…」
ナル「ふん、マスターにそんなものは効かないのだ」
カイゼル「どういう意味だ?」
ナル「答える義務はないのだ」
カイゼル「ナル殿は勇者殿以外に冷たいのだな…」
ナル「当たり前なのだ!わたしはマスター以外の者にはなびかない!」
グレン「それは殊勝な心がけだな、ナル」
ナル「あ、マスター!」
崩れた入り口から入りなにやら俺の話をしてるだろう会話に口を挟んだ。
グレン「よう」
ナル「おつかれなのだー」
グレン「はいはい」
子犬みたいにすり寄ってくるナルの頭を適当に撫でつつカイゼルに目をやる。
カイゼル「も、もう終わったのか?」
グレン「おう、ほらこれ」
服ごと掴んでいたゼブラを手前に放り投げた。頰は赤く腫れており白目をむいて気絶している。痛々しいな、やったの俺だけど。...なんかデジャブだな。
カイゼル「……」
それを見て唖然としていてなにやら驚いているようだ。
カイゼル「ははっ…敵わんな」
彼は苦笑してそう呟いた。
カイゼル「レン殿に助けられてばかりだ」
グレン「そんなことないだろ、現にカイゼルがいち早くここに来てなかったらあそこの神官…女の子は死んでただろうしな」
カイゼル「!!そうだ、ノルフ殿…!」
ノルフ…あのおっさん神官の名前か?
おぼつかない足取りで歩いていき聖堂の奥に進んでいく。そこには毒に侵された神官と結界内に取り残された少女がいた。
少女「あの…!大神官さまが…!」
グレン「……」
フードで隠れて良くは見えないが声が少し掠れていて今まで泣きじゃくっていたのがわかった。しかしこんな子がなんでこんな聖堂に…
カイゼル「ノルフ殿…聞こえるか?」
カイゼルがその神官に呼びかけるが反応がほぼない。
グレン「ナル、その神官に薬は…」
ナル「飲ませた、のだが。…ふむ」
グレン「そうか…」
少女「大神官さまは…どうなったのですか?」
少女が弱く問いかけてきた。この声色…彼女自身も察しはついているのではないだろうか。
グレン「悪いけど...手遅れだったみたいだ…すまん」
少女「ぁ…ぁぁ」
少女は膝から崩れ落ち、また涙を流し始めた。
グレン「……今結界から出してやる」
どんなに力を持っていても、全てが救えるとは限らない。それは俺自身が1番感じることだ。
だが力がなければ、そもそも何も救えないのだ。この少女にはこの先、強く生きてほしい。
結界に魔力を込めると簡単に破壊することができた。やはりあの神官がハッタリで場を保たせたらしいな。とても上手くやった。
もしあの毒男にハッタリが通じず結界に手を出していたら…この少女はただではすまなかっただろう。
少女「うぅ…ぐすっ…」
グレン「…なぁ、名前なんて言うんだ?」
少女「ぁ…私…ですか?」
グレン「おう」
このまま気まずいのも嫌なのでまずは自己紹介してもらうことにした。我ながらナイスな選択だ。
少女「すみません…私、泣いてばかりで…」
グレン「それは気にしなくていい。大切な人だったんだろ…?」
少女「はい…」
大切な人が死んで、感情が揺れないわけがない。この俺も…その1人だから。
「…改めて、助けてくれてありがとうございます」
少女は立ち上がり礼を述べる。泣いていてばかりの印象だったが、感情の切り替えが凄まじい。いや、心を無理に押し殺しているのか?
そんなことを考えていたが、すぐにそんなものはどうでもよくなった。
これは...俺の運命を祝福すればいいのか、呪えばいいのか。
…嘘だろ?そんなことあるはずが…
少女はフードを外し、容姿が露わになる。
その姿はキレイな赤髪を長く伸ばし、更にその髪と同じく赤い瞳をしていた。歳は俺と然程変わらないだろうか。
が、肝心なのはそこじゃない。俺が目を見張った1番の理由は…
クレハ「私の名前は、クレハと言います。...よろしくお願いします」
グレン「ぁ………」
その少女は、かつての幼馴染み…ユリハに瓜二つの顔をしていた。
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前に書いてたものをss風に直して書きました。ほぼ思いつきです、ご了承ください
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