もう勇者やめていいですか?23
オリジナルss 獣人編、終了。
ロア「え…?」
その一部始終を見ていたロアがまるで夢を見ているかのように呆けており何度も瞬きを繰り返していた。
だが現実だと悟り、我に返る。
ロア「ど、どどどういうことですか!?」
グレン「少し落ち着け、1から説明してやるから」
ロア「は…はいです…」
ナルが実は魔を祓う神剣だということ、そのために神力を求めてこの地まできたこと…俺のことは伏せて全て話した。
ロアも最初は半信半疑で聞いていたが、目の前で剣化したナルを見ていたので納得せざるおえなかったみたいだ。
ロア「嘘みたいです…本当に神様なのですか?」
信じられないのも無理はないがこれが現実。嘘は一つもついていない。
ロア「あんな弱そうなのが…」
ナル『誰が弱そうなのだ!』
グレン「!?」
突如脳内にナルの声が響いた。
ロア「…??どうしたですか」
グレン「…あれ?」
ロアが不思議そうに見つめてくる。ロアには聞こえてないのか?
グレン「おいナル…どういうことだ」
ロア『どういうこととは?』
グレン「なんで剣化してるのに喋れるんだよ…」
剣が喋るなんて聞いたことないぞ。正確には喋っているというか、念話みたいなものだけど。
ナル『ふむ、それは剣化してる時はマスターの神力と繋がるからのー…なんかこう、不思議な力が働いているのだ!』
グレン「適当だな…」
えーっとナルの適当な発言を汲み取ると…つまり俺の体内の神力を通じて精神感応…要はテレパシーみたいなもので話している、という認識でいいのだろうか。
まぁ剣には口はないから必然的にそうなるのか、もし口が生えてきたら怖いしな。後個人的にそれは嫌だ。
グレン「ロア、一応聞くけどこの剣からなにか聞こえるか?」
ロア「聞こえない…です。何か喋ってるですか?」
ナル『む…マスターはわたしの!お主には渡さないのだ!ほれほれ!文句があるなら言い返してみるのだ!ぷぷー聞こえないから言い返せないのだ!わっはっはあー!!?マスター!?鞘にしまわないでほしいのだ!??』
少し鬱陶しかったので鞘にしまってやった。聞こえないからって好き勝手に言うんじゃない。
グレン「ナル、後でげんこつ」
ナル『なんでなのだぁ!?』
再び神剣を抜いて手に持つ。
剣化には成功した、次は元に戻してみようか。
グレン「ほら、早く人化しろ」
ナル『ぐっ、なんかマスター怖いのだ…』
ナルは渋々ながらも応じたのか神剣がまたもや淡い光へと包まれる。
光の粒子へと変換し、それが徐々に人の形へと変化する。そして光から見慣れた金髪の少女が現れた。
ナル「戻ったのだー!あいだっ!?」
人化しか直後に軽くナルの頭にげんこつをかました。
グレン「なにか言うことは?」
ナル「うぎ、な、なんのことかのー…?」
グレン「なにか、言うことは?」
ナル「す、すみませんでした…」
ロア「……???」
ロアに向かって謝罪をした。もちろんロアには剣化中に何を言っていたのか知らないのでなにがなんだかわからないという顔をしていた。
グレン「とにかく、俺たちは神剣の神核復活のためにここを訪れたんだ」
ロア「理解したです」
どうやら納得したらしい。理解が早くて助かるがこれでいいのだろうか…
さて、目的は達成したしどうしようか。このままリーネに戻るのも勿体ない気がするな…
適当に危獣種でも狩って金稼ぎしながら戻るのもありだな。
ナル「マスター」
グレン「ん?なんだ」
そんなことを考えていたらナルが袖を引っ張りながら声をかけてきた。さっき怒ったことにでも根にもっているのか?
ナル「いやなに、伝えるべきか迷ったのだがの…やっぱ言っておいた方がいいと思ったのだ」
グレン「…?」
なんだか勿体ぶるような言い方だ。大方予想はつくがもしかしてリーネ出発前のあの誤魔化した件か?
そんな大したことないと思っていたんだがいつにも増して真剣な表情のナルを見てとりあえず聞いてみることにした。
ナル「あの…クレハとかいう娘についてなのだが」
グレン「は?クレハ?」
なんでここでクレハが出てくるんだ…意味がわからない。
ナル「うむ、マスターがあやつを見て妙に驚いていたのでのー…知っている顔だったかの?」
グレン「……そうだな」
知っている、と言うか片時も忘れたことはない。ナルのやつそんなことを気にしていたのか?
グレン「死んだ幼馴染みに似てたんだよ、それだけだ」
ナル「ふーん…」
グレン「……」
もちろんそれだけのはずはないがこんなこと今更掘り返しても仕方ない。ナルも純粋な剣だった時はなんとなく俺と一緒だったことしか覚えていないみたいだし、記憶にないのだろう。
グレン「んで?言っておきたいことってそれだけか?」
だったら余計な心配だ。俺はもうあの時のことは受け入れている…受け入れざるおえないんだ。
ナル「うむ、ならあの娘に気をつけるのだマスター」
グレン「なにをだよ?」
こいつはなにをこんなにクレハを警戒しているんだ?まさかロアみたいにマスターはわたしのもの!とか言うんじゃあるまいな…
ナル「マスター、あの娘は…」
ロア「…!!誰か来るです!」
グレン「…!」
ナルの言葉を遮りロアがそう口にした。獣人族は耳がいい、嘘ではないだろう。
それにそう言われてから俺も気配を感じることができた。しかし…殺気はまるで感じられないが、敵ではないのか?
ロア「…この足音は、仲間なのです」
グレン「……」
肩透かしをくらった。そりゃそうか、ここまでこれるやつなんてそうはいないはずだし。
里長「レン様ー!大変ですぞ!」
ロア「里長なのです」
なんと来たのは里長だった。息が乱れていてなんだか相当慌ててる様子だ。
ロア「またなんかあったですか?」
里長「それが…また里に厄災が…!!」
グレン「は!?」
またなにかあったのか!?くそっこんな短期間に…最悪だ!
グレン「ナル、ロア。急いで戻るぞ!」
ロア「はいです!」
ナル「わかったのだ!」
ここから里まではそう遠くはない、全速力で行けば5分もかからないはずだ。
今獣人の里には戦える者がいないしなにより怪我人が多い…襲われたら今度こそ後がないぞ。
一行は不安と焦りを抱きながら獣人の里へと急いで戻り始めた。
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獣人の里
里長から再び里に厄災が訪れたと聞き、俺たちは一目散に里へと向かっていていた。
ロア「もうすぐです!」
グレン「まったく、今度はなにが起きているんだ…!」
つい先日大危獣種に襲われたばっかだってのに、過去に悪魔に襲われた件といいどれだけ運がないんだここの里は!
森の中を走り抜けていくとようやく里の入り口が見えてきた。
今見える限りではそれほど大事は起きていない気がするが、中はどんな状況なのだろうか。
ロア「みんな!無事ですか!」
仲間「お、おおロア…戻ったのか」
里の1人を見つけたが特に外傷はないらしい。というか里が襲われているはずなのに妙に冷静だ。どういうことだ?
ロア「敵はどこですか!」
仲間「敵…敵…なのかな、あれは」
ロア「え?」
獣人が広場の方へと指を向ける。そっちに目を向けると目を見張るほどの生物がいた。
「ひいぃ…なんでこんなところに…もうやめてくれぇ…!」
「イヤダカラ、オ前ラナンカ食ベネェッテ。コノ俺ヲ低能ナ動物ト一緒ニスンナ!」
グレン「あいつは…」
その姿にはとても見覚えがある。巨大体格で赤い鱗を身に纏い、大きな羽に鋭い爪…
紛れもなく、"炎竜"の姿だ。
ロア「このっ…しとめてやるです!」
グレン「ちょっと待てロア。なぁあんたひょっとして…前に会った炎竜か?」
炎竜「ンオッ?コノ聞キ覚エノアル声ハ!?」
攻撃しようとしたロアを止めそう呼びかけてみた。すると炎竜は俺の声に気づいたのか首をこちらに向けてきた。
炎竜「ヤッパリ!アノ時ノ人間ジャネェカ!」
グレン「やっぱりってことはあんた本当にあの時の炎竜かよ、なにしてんだこんなところで」
この炎竜は前に聖堂の森で魔石に洗脳されていた炎竜で間違いないらしい。なんでこんなところに…
炎竜「ソレハナ、ココラ辺ハ元々俺ノ縄張リダカラダ!」
グレン「へー…」
話を聞くと炎竜はこの辺一帯を双子の弟と一緒に縄張りとしていたそうだ。こっちの獣人の里には滅多に来ないらしいんだが森の荒れた後を見てここら辺まで飛んできたらしい。
気になって飛んで来たのはいいんだがタイミングが悪すぎたな、里人たちがすっかり怯えてしまっている。
グレン「最近グリフィスに襲われてな、みんな気が立っているんだ。察してくれ」
炎竜「グリフィスダー?」
まったくこのアホ炎竜は面倒ごとを増やしてくれる。このまま駆除してしまおうか?
グレン「みんな安心してくれ、この炎竜は俺の知り合いだ。まぁ仮になんかしようものなら俺が即始末してやるから落ち着いてくれ」
里人たちは炎竜が俺の知り合いだと知るとそれぞれ多少の安堵の表情を見せた。グリフィスを討伐した功績が響いているのかあっさり受け入れてくれたようだ。
ロア「炎竜を手懐けているなんて…流石ママです!」
一部拡大解釈している者もいるが気にしないことにしよう。
グレン「あんたが来た理由はわかったが…そんなに気になることか?」
炎竜「ソリャ気ニナルゼ!コンナコト初メテダカラナ!」
グレン「つーかグリフォンと竜族って敵対関係なはずだよな?よく同じ場所で生息してたな」
そう、俺の時代でもグリフォンと竜族は何故だか仲がとても悪い。それも互いに目が合ったら殺し合うほどに。
炎竜「ソレナンダガ、グリフィスガイタッテ本当カヨ?」
グレン「嘘言ってどうすんだ」
グリフィスなんて大物、そこらにぽんぽんいるわけないだろ。それこそ…待てよ?
グレン「その言い方だとあんたはグリフィスの存在を今まで知らなかったのか?」
炎竜「モウ数十年ココニイルガグリフィスナンテ見タコトネェナ、本当ニイタノカヨ?」
グレン「本当だよ、この里の惨状見てみろ。こんなことただのグリフォンに出来ると思うか?」
炎竜「ウウム…ソリャソウダナ…」
所々切り傷がある木々、風で吹き飛ばされたであろう建物の数々、とても普通のグリフォンでは出来ない芸当だ。
グレン「こっちの方こそ疑問だ、本当にグリフィスなんて見たことないのか?」
炎竜「ハッ愚問ダゼ、グリフィスナンテイタラ今頃俺ノ炎デ燃ヤシテヤッテルゼ!」
確かに炎竜の言う通りだな、わざわざ炎竜がグリフィスを見逃す理由がない。ここ数十年いなかったというのも考えるとやはりあのグリフィスは他所から来たと言うことなのか…?
でも目的がわからない、何のためにこんなところまできた?
里長「レン様、本当にこの炎竜襲ってこないでしょうか…?」
獣人たちが未だに警戒したような目つきで炎竜を見上げる。無理もない、大危獣種レベルが連続で来ているんだ。警戒するなというほうが無理な話だ。
グレン「神に誓って襲わないって約束するよ、こいつは俺に逆らえないしな」
炎竜「ア?ナンダト?コノ俺ガ本気出セバ人間ナンテ…」
グレン「なんか言ったか?」
炎竜「グヌッ…ナンデモナイ」
殺気を込めた目つきで見ると反論する気がなくなったのかこれ以上言い返してこなかった。俺の実力はノイス聖堂襲撃の時に少し見せてるから立ち向かえばどうなるかはわかっているんだろう。
さて、情報を纏めるためにもこいつには色々話してもらおうか。
この件にはなにか別なものの手が加わっている可能性がある。
どうにもこの世界に来てから、きな臭いことの連続だな。
ーーーーー
グレン「話をまとめようか。あんたは今までグリフィスを見たことがない、でもあんたが離れてる間に実際にグリフィスはここにいたんだ。単純に考えるならばあんたがいない間にグリフィスはここに来たってことだ」
炎竜「ソウダナ」
偶然といえばそこまでなのだがいくらなんでもタイミングが良すぎる。炎竜がいない期間ぴったしに現れるなんて。
グレン「ていうか今までどこにいたんだよ」
あの聖堂襲撃からは軽く1週間は経っている。ここが炎竜の縄張りならば帰っていないのはおかしい。
炎竜「アーソレナ、アノ時ノ近クノ森ノ奥デ身体ヲ休メテタンダヨ」
そういうことか…あの洗脳させる魔石は精神を消耗させるらしいからな。事実それのせいで1匹炎竜の理性が狂ってしまったしな。
グレン「…気合で帰れよバカ」
炎竜「ンダトォ!?ヤンノカ人間!」
グレン「黙れ」
炎竜「ハイ…」
こいつは一度シメた方がもっと従順になるんじゃないか?いちいち突っかかれるとつい手を出してしまいそうだ、グーで。
仮にこれが人の手によるものだとしよう、だがそれだと目的がわからない。
ここにグリフィスを呼んで、獣人を襲わせてなんの得がある?獣人の絶滅?そんなことをしてもとても利点があるとは思えない。
獣人の迫害…過激派が獣人を消そうと動いた…?それも違う、そういうやつらは直接手を下すはずだ。それに迫害してから結構時間が経っているみたいだし、今更やる意味がない。
…わからないな。やっぱりグリフィスが来たのは偶然なのか…?
炎竜「ソウイヤヨ」
色々考え込んでいる俺を余所に炎竜がぽつりと呟いた。
炎竜「森ノ奥ニイル時妙ナ気配ヲ感ジタンダヨナ…」
グレン「妙な気配?」
炎竜「アア、寝テタッテノニ一瞬身体ガ震エル気配ガシテヨ。ソノ一瞬ダケダッタカラ気ノセイカモシンネェケド」
グレン「……」
一瞬とはいえ炎竜が震えるほどの気配…?生物は感覚が鋭い者が多い。炎竜が感じた気配も決して気のせいではないはずだ。
グレン「その気配ってどこから感じたか覚えてるか?」
炎竜「ン?ソォダナ…アレダ、聖堂ニ近イ街ガアッタロ。ソッチノ方向カラシタゼ」
グレン「ノイス聖堂に近い街…リーネしかないな」
聖堂に近い村ならいくつかあるがわざわざ街と公言したということは…まずリーネで間違いなさそうだ。
グレン「気配を感じたのはいつだ?」
…悪い予感がする。どうにもその不安は拭えそうになさそうだ。
炎竜「アー…昨日ノ夜…ダッタカナ?ウン、夜ナハズダ!」
グレン「…まずいな」
炎竜の証言から最悪の想像をしてしまった。だが勇者としての勘が告げている、この勘は…良くも悪くも当たってしまう。
急いでリーネに戻らないといけない、そうしないと…最悪"リーネが滅びてしまう"。
グレン「ナル、今すぐリーネに戻るぞ」
ナル「どうしたのだ急に?」
グレン「悪い予感がするんだ、今すぐ行くぞ」
ロア「ま、待ってほしいです!」
ロアが俺の手を握り、引き止めてきた。
グレン「ごめんロア、時間がないんだ」
ロア「ロアも行くです」
グレン「え?」
あまりの突拍子もない言葉に一瞬固まる。だが言われたことを理解し、俺は首を横に振った。
グレン「ダメだここに残れ。第一ロアがついていく理由がないし…ロアの足に合わせて行く余裕はないからな?」
付加術をかけ続け全速力で戻るつもりだ。それにロアが追いつけるとはとても思えない。
早くて半日…エアークライムも駆使すればもっと早く着けるか?
ロア「で、でも…」
炎竜「ナンダ?アノ街ニ行クノカヨ?」
と炎竜が興味ありげに話へと入ってきた。こいつも感じた気配のことが気になるのだろうか。
…ん?そうだ、いいこと思い付いたぞ。
グレン「炎竜、一つ頼みがある」
炎竜「ア?ナンダヨ?」
グレン「リーネまで俺らを乗せてってくれ」
炎竜の飛行速度ならもっと早く着けるはずだ、なにより俺が魔力を無駄に消費して疲れなくていい。
炎竜「アァ!?フザケンナ!ナンデ俺ガ人間ナンカ…」
グレン「そうか…そういえば俺お金がなくてな…」
炎竜「ハ?」
グレン「炎竜の素材って、高く売れそうだよなぁ…?」
意地悪く微笑み剣の柄を見せつけるように手をかける。
炎竜「ヒィッ!?卑怯ダゾ!!」
グレン「頼みを聞いてくれればいいだけだ」
炎竜「グッ…ダカラ人間ハ嫌イナンダ!」
一応は納得してくれたみたいだ。話が通じてなによりだよ。
ロア「……」
なにやらロアの視線が痛い…そんなに着いて行きたいんだろうか。
ロア「むー……」
グレン「…はぁ、わかったよ」
ロア「〜〜〜!!」
承諾した途端満面の笑みへと表情を変える、正直気乗りはしないが…
グレン「とにかく出発しようか、時間が惜しい」
ナル「うむ!」
ロア「はいです!」
炎竜「ハァ、マジカヨ…」
軽い荷物を纏めて一同は炎竜の背中へと乗っていく。竜の鱗というのはやはりゴツゴツしているな。
おっとその前に…
グレン「ナルは炎竜が飛び上がったら剣化して鞘に入っとけ、飛ばされたくなかったらな」
ナル「そうするのだ…」
グレン「ロアには…これだ」
ロア「!!」
ロアにはひとつ、ある魔法をかける。
ロア「なにしたですか?」
グレン「エアアーマー、本来は防御用の風魔法なんだけど…炎竜の飛行速度に振り落とされないために空気抵抗を肩代りしてくれるんだ」
ロア「ありがと…です」
わがままを言ったことを気にしているのか少々内気気味に礼を述べてきた。
さて…なにも起きていないことを祈ってはいるがはたして…なにか起こっていたとしても、せめて間に合ってくれよ…!
炎竜と共に飛び立ち、一行は不安を抱えながら獣人の里を後にしリーネへと向かった。
読んでいただきありがとうございます。
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