もう勇者やめていいですか?22
オリジナルss 伝説の武器復元。そして新たなる問題。
勇者の祠前
グレン「よしナル、初めてくれ」
ナル「わかったのだ!」
ナルは祠の前に行きゆっくり深呼吸を始める。傍目から見るとただ深呼吸しているようにしか見えないが俺にははっきりとわかる。
少しずつ神力を取り込み身体中に巡らせている。
ロア「なにやってるですか?」
ロアが不思議そうに尋ねてきた。まぁロアにはなにしてるかわからないよな…
グレン「大事なことなんだ、もう少し待っててくれ」
ロア「別にロアは構わないです」
余程信頼してくれているのか事情は聞かずにすんなり受け入れてくれた。別にナルの正体を明かしてもいいんだが説明がややこしいので今は黙っておこう。
グレン「どうだナル?」
ナル「うーん…」
これはあんま芳しくないか?たしかに神力は溢れているがやはり聖堂などに比べるとどうしても神力量が少ない。
ナル「これは一日中かかるかもしれんのー」
グレン「そうか…なら今日はここで夜営だな」
ロア「里に戻らないですか?」
グレン「うん、ここでしか出来ないことだからな」
流石にロアには一晩中付き合ってもらうなんてことはできないのでここは一足先にロアには里に戻ってもらおうかな。
グレン「ロアは戻っていいぞ、終わったら俺たちも戻るから」
ロア「あ、えっと…」
ロアはもじもじとしてなんだか言いたそうにしていた。どうしたんだろうか。
グレン「どうした?」
ロア「その…ロアも一緒に…いたいです」
グレン「無理しなくていいんだぞ?」
ロア「してないです、ロアはママと一緒にいたいです」
グレン「ロアがいいならいいけど…」
グリフィスは討伐したし当分里周りは安全だと思うが…ロア自身がそう言っているのなら構わないか。
グレン「ならよろしくな」
ロア「はいです!」
ナル「ぶー…マスターと2人が良かったのだ」
ロア「絶対させないです」
ナル「なんじゃとー!?」
この2人は喧嘩しないと会話が出来ないのか?よく飽きもせずに続けられるなぁ…
そろそろ日も落ちそうだし、夜営の準備をするか。
グレン「ロア、焚き火用の枝集められるか?」
ロア「!!…まかせるです!!」
そう答えた途端嬉しそうに森の中へと飛び込み枝を探しにいってしまった。そんなに張り切らなくてもいいんだが…
さて寝床は…もちろんテントなんてものはない。寝るのなら地べたしかないな…1日寝ないでも俺は大丈夫だが。
適当な岩に背を預けるとしよう、うんいい感じだ。俺はそれでいいとしてロアにはどこに寝てもらおうか。
ロア「もってきたです!」
グレン「!?」
ロアがものの数分で大量の木の枝をかかえて持ってきた。すごく早いな、正直助かる。
グレン「ありがとう、ところでロアは地べたで寝るのは平気か?」
ロア「平気ですけど…えい」
枝を地面に置き座っていた俺の膝の上に頭を乗せてきた。
ロア「ママと一緒に寝るです」
グレン「俺を枕にするの間違いじゃないのか?」
ロア「ママもロアを抱き枕にしていいですよ?」
グレン「え、いや…遠慮しておく」
なんだか危ない絵図になりそうなのでそれはやめておこう。いや今の姿ならなにも問題はないはずだがこう、気持ち的にな。
ナル「わ…わたしもマスターと一緒に寝たいのだ!」
グレン「ナルはそこから動いちゃダメだからな?」
ナル「ぬおぉぉ…!!わかっておる…それはわかっているのだ…!!ぐぬぬ!!」
ナルがとんでもなく悔しそうな表情をしている最中ロアが見せつけるように頭を擦り付けてきた。
ロア「ふっ、今夜はママを独り占めです」
ナル「んんんわぬわぁぁぁぁぁぁ!!!むっっっかつくのだぁぁぁぁ!!」
ナルがキレすぎて心なしか神力が穢れそうな気がしてきた。これ以上怒らせると後々めんどくさくなりそうだ。
グレン「こら、あんまナルを挑発するようなことするな」
ロア「ご、ごめんなさい…」
注意を促すと素直に聞いてくれた。ここまで従順だと逆に心配になるな。
グレン「よしよし…日も暮れそうだし火を起こすか、ファイア」
集めた木の枝を纏めて、魔法で火をつける。ここら辺は夜が冷えるので焚き火は必須だ。
ナル「そっち行きたいのだ…」
グレン「帰ったら肉」
ナル「頑張るのだ!」
グレン「……」
もはや扱いを完全にマスターしてしまった。ナルは食欲に支配されているからな…それにしてもチョロすぎるが。
今夜は長くなりそうだな、この際今の獣人族のことでも聞いてみるか。
グレン「ロア、少し聞きたいことがあるんだがいいか?」
ロア「ママにならなんでも答えるです」
グレン「そうだな…じゃあ」
ーーーーー
まずはロアと最初に会った時…妙に人間を敵視していた。そのことについて聞くとしよう。
グレン「ロアは人間が嫌いなのか?」
ロア「…?どうしてですか?」
グレン「最初会った時俺を目の敵にしてたからちょっと気になってな」
ロア「うぐ、あの時はママに失礼なことしたです…」
なんかよくわからんが落ち込んでしまった。
グレン「別に気にしてない。で、どうなんだ?」
ロア「そうですね…正直嫌いです。人間はロアたちの先代に酷いことをしたです、あっママは大好きなのです」
グレン「ああうん、ありがとう?」
本当に懐かれてしまったな…別にいいんだけどね?
グレン「酷いことって、聞いても大丈夫か?」
ロア「はいです。主にされたのは迫害です、先代の獣人たちは山奥に残った者ともっと人里近くに住んでいた者がいたらしいです」
なるほど…俺の知っている獣人たちならそれはありえるかもしれないな。
ロア「でも、人間が開拓を進めるにつれてロアたちの先代を人間が邪魔だと感じたみたいです。人間が優先的に住むために、ロアたち先代はまたこの山奥に追いやられたらしいです」
グレン「そうか…」
これも悪魔が滅びて人口が増加した弊害か…
俺は外見の偏見など持たないが、人は自分とは違うもしくは得体の知れないものに対しては受け入れ難いと聞いたことがある。
それ故の迫害だろう。人類全員が同じ感性を持つことはない、獣人を疎ましく思う者だっているはずだ。
その疎ましく思う者たちに運悪く当たってしまったのか…そりゃ人間を嫌いになる理由も大いにわかる。
グレン「ロア自身は人間になにかされたことはあるのか?」
ロアぐらい強ければ並大抵のやつは相手にならない気はするが…そこんところはどうなんだろうか。
ロア「いいえ、人間はたまに見かける時はあるですけどいつも隠れてたです。ママにはすぐに見つかったですが」
あーそういえば最初は気配を消して近づいてきてたっけな。なるほど、あれなら見つからない可能性はあるな。
ロア「大抵は森の危獣種に襲われてみんな逃げてくです。あっでも1人だけ強いやついたの覚えてるです」
グレン「へー、どんなのだ?」
ロア「人間の顔なんて覚えてないです。でも強い気配だったのはハッキリと覚えてるです」
ロアにそこまで言われるほどか…興味あるな。
グレン「俺とどっちが強そうだった?」
ロア「あの人間とは戦ってないからわからないですけど…多分ママの方が強いです」
多分、か。即答じゃないところを考えると相当な実力者か?こんな森になんの用だったんだろうな。
グレン「そいつはいつ来たか覚えてるか?」
ロア「んー…ひと月前くらい、です。でもそいつは特になにもしないで帰ったですよ」
グレン「そうなのか…」
ここら辺は強力な危獣種が出るからその噂を聞きつけて腕試しにきただけの可能性があるな。あんま気にしなくて良さそうだ。
それにしても、獣人たちには良くしてもらった恩があるからな…迫害してきた連中には怒りが沸いてくる。
グレン「ごめんな…俺が謝って済む問題じゃないのはわかるんだけど…」
ロア「構わないです、おかげでママに会えたですから」
そう言って頭を擦り付けてきた。そんなこと言われてもこちらとしてはまったく気分が晴れない。
まぁ…俺がまた少しずつ獣人たちに恩を返していくとしようか。今はそれしかできそうにないからな。
それからロアとは夜が更けるまで他愛もない話をし、それからしばらくしてお互いに眠りについた。
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グレン「ん…ふわぁ…」
外が明るくなったのを感じあくびをしながら眠い目を擦る。
岩に寄りかかってたのにいつのまにか横になっていたみたいだ。倒れた身体を起こそうとするが、なにやら身体に重みを感じた。
ロア「ん……」
どうやらロアが抱きついて寝ているみたいだ。身体にぴったりくっついていてとても離れそうにない。
ナル「ぐー…もう食べられないのだ…うへへ…」
祠の方を見てみるとなんとも欲望なままな夢を見ているようなナルが寝言を呟いていた。祠に寄りかかり、だらしなく涎を垂らしそうになっている。こういうところがとても残念だ。
とにかく朝を迎えた、2人を起こすとしようか。
グレン「ロア起きろ、朝だぞー」
ロア「んー…」
身体を揺すりながら声をかけるが起きる気配がない。それに心なしか何故か嬉しそうな表情をしている気がする。
グレン「おーいロア?起きてくれ」
頭を撫でるも起きる気配はなし。その際に耳がぴくぴく動いていたので少し悪戯心を交えて触ることにした。
前から少し触ってみたいと思ってたんだ。
グレン「おー…意外にもふもふしてるな…」
触り心地はとても良かった。もふりがいがあってつい癖になりそうだ。
ロア「んっ…あ…っ…」
グレン「……」
うさ耳を触っているとロアが反射的に声を出してきた。これは…なにも悪いことをしていないはずなのにこれ以上やったらなんかまずい気がする。
ロア「むー…」
グレン「お、起きてたのか」
むくりと起き上がりなんだか俺のことをジト目で見てきた。こいつ…本当は最初から起きてたな…
ロア「……えっち」
グレン「へ!?」
ロアは自分の耳を触りながらそう呟いた。
そういえば動物の中には耳が性感帯のものもいるって…獣人族はもしかして…そうなのか?
グレン「違うんだロア、つい出来心で…」
ロア「…もっと触りたいですか?」
グレン「え?」
非常に魅力的な提案だがどうしたものか…いや深い意味はないぞ?ただ単純にあのもふ耳を楽しみたいだけであって…
ロア「ママ…やっぱりえっちです」
グレン「なんでだ!?」
どうやら獣人族にとって耳を触るのはタブーらしい。頭は撫でても大丈夫みたいなのに何故なんだ…
グレン「こほん…とにかくナルも起こすか」
誤魔化すように咳払いをしナルの元へと近づく。
ナル「んーむにゃむにゃ…」
グレン「いつまで寝てんだお前は」
ナル「んーぎぎぎうにゃー…!」
気持ちよく寝ているナルの頰を軽く引っ張ってやると少々不機嫌そうに目を覚ました。
ナル「なにするのだマスター!」
グレン「ちょっともふった罪悪感からな…」
ナル「意味わからないのだ…」
俺にもわからん。まぁそんなことはこの際いい。
グレン「それでナル、どうだ?」
どうだ?の意味はもちろん神核についてである。事と場合によってはもう一日ここにいるハメになるからな。
ナル「うむ、待つのだ」
ナルは立ち上がり昨日に続き深呼吸を始める。すると腕の刻印が淡く光り出した。
これは…俺が神剣の能力を使うときに出る光だ。ということは…
ナル「うむ…上手く機能したみたいなのだ」
グレン「そうか、良かった」
ロア「なんなのですか今の…」
後ろにいたロアがそう口にする。まぁそう来るよな。
剣化も試してみたいし、これ以上隠し通すのは無理かな…
グレン「ロア、これから起こることはどうか秘密にしてほしいんだけど…」
ロア「わかったです」
グレン「出来れば言いふらさないように…って即答かよ」
最後まで話を聞かない子だ。秘密にしてくれるならそれに越したことはないけど。
グレン「それじゃあ…ナル、いけるか?」
ロア「うむ!任せるのだ!」
再び腕の刻印が光り出し、その光がナルを包んだ。やがて身体が光の粒のようになり俺の掌へと集まる。
掌から伸びるように光の粒が形取り、見慣れた姿へと変える。
黒い刀身が現れ、その刀身にはナルの腕に刻まれていた刻印と同じものがあった。
これがナルの本来の姿…
雷の神剣 鳴雷<なるかみ>
俺を…"俺たち"を何度も助けてくれた悪魔を祓う神の武器…
ようやく目的を果たすことができ、安堵の息を漏らした。
ーーーーー
読んでいただきありがとうございます。
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