もう勇者やめていいですか?10
オリジナルss 別視点。騎士団長は悲惨な光景を目の当たりにする。
カイゼルside 聖堂への森道
炎竜の相手をレン殿に任せ、私はノイス聖堂への道を走っていた。
森はそれほど広くはないので数十分も走れば聖堂が見えてくるはずだ。
カイゼル「まさかまた炎竜に出くわすとはな」
今まで伝説上の生き物と伝えられて来た竜をここ数日で2匹も出会うとは。レン殿がこの世界にきたことによってなんらかの運命が廻り始めたのだろうか。
そんなことを考えながら早々と森を駆け抜ける。森とはいってもちゃんと馬車が通れるように道は整備されているので迷うことはない。
聖堂方面から炎竜がやってきたとレン殿は言っていた、ノイス聖堂から連絡がこない理由が炎竜に襲われたからなのだとしたら納得がいく。
が、それではおかしな部分がある。まず、ノイス聖堂から連絡が取れなくなったのは数日前。その数日の間炎竜がずっと聖堂を襲っていたとも考えにくい。
レン殿によれば竜は同じ場所には長く滞在しないという。理由は常に餌場を求めているかららしい。同じ場所にいれば餌となる野生動物がいなくなってしまうからだとか。
それに餌となるものがないのに聖堂を襲うとも思えない。確かに人間は餌になるかもしれないが数日かけてまで襲うなんて非効率なことはしないだろう。
これらを推測するにこの事件は何か人為的な介入があるのではないかという結論に至った。もしかしたらレン殿は薄々気づいていたのかもしれない。
ーーーーーー
しばらく足を進めたところで目前に開けた場所が見えてきた。記憶にはそんなところはないはずなのだが...
と同時に焦げた臭いが鼻をかすめる。その開けた場所をみて驚愕した。
辺りの木々は焼き落ちており、見るも無惨な光景が広がっていた。そして地べたには黒く焼き焦げた何かが複数あった。
...考えたくはない、が。あれは...人だ。
その焼き焦げたものに近づき確認する。身につけてるのは鎧、その左胸元には王国の象徴とも呼ばれる紋章が刻まれていた。
カイゼル「...くそっ」
見間違えはしない、我が騎士団の一員達だ。炎竜との戦いで命を落としたんだ。
自分がもう少し早く来ていれば...なんてことを考えてしまう。炎竜は倒すのは無理かもしれないが、この者達を生かして帰すことは出来たかもしれない...そんなことを思うとやるせない気持ちになる。
戦場に踏み入れるのならば命を落とすことは承知の上だ。この者達もそうだっただろう。だが、やはり命を失う、失われるというのはあまりにも酷であるのは変わらない。
カイゼル「...せめて、安らかに眠ってくれ」
本当ならば今すぐ埋葬してやりたいのだが、聖堂のことも気にかかる。もしかしたら聖堂に生き残りがいるかもしれないからな。この任務が終わったら必ず埋葬しにこよう。
カイゼル「.....!!?」
突如背後に気配を感じ素早く身構える。すると草むらの中から音を立ててなにかが二匹出てきた。
「グルルルルル...」
「ガルルルルル...」
赤黒い身体にその体表に生えた毛皮、鋭い牙に鋭い爪。
「ブラッドウルフ...!?」
血に塗れた毛皮のような姿をしているのでそう呼ばれる。その赤黒い毛皮は過酷な寒冷地でも体温を一定に保つために進化したと言われている。
本来は北大陸に生息する危獣種なのだが、何故こんなところに。
誰かが北大陸から連れてきたとしか考えられない。
「グルルゥゥ!!」
内、1匹が有無を言わせず襲いかかってきた。獲物に一直線に近づき鋭い爪を振るう。
突然の行動だが焦る必要はない。本来ブラッドウルフは群を成すもの。1匹1匹は大した戦闘力はない。
ブラッドウルフの一撃を軽く避け、後ろに下がり剣を抜く。攻撃を避けられたのが不満だったのかこちらを睨みつけているかのように見える。
もう1匹もゆっくり近づきこちらの隙を伺っている。
カイゼル「悪いが...遊んでいる暇はない」
身体中の魔力を鎧に巡らせ、魔装具の能力を発動させる。全ての身体が強化された今ならブラッドウルフ程度の動きなら余裕で対応できる。
睨み合う中不意に視線をわざと逸らす。その瞬間、狼たちは同時に襲いかかってきた。
視線を逸らしたのはわざと、あえてそうすることで隙が出来たかのようにみせかけるためだ。
「グルルゥゥ!!」
「ガルルゥゥ!!」
左右からブラッドウルフが迫り来る。タイミングを合わせ、両方からくる攻撃を後方に下がり避けると、ブラッドウルフたちの爪は空を切り無防備な状態へとなった。
すかさず地面を踏み込み強化された腕力で素早い一振りを首元にめがけて浴びせる。大体の生き物は首が急所であるため首元を斬れば少なくとも気道を潰すことができ、もし逃してもやがて呼吸ができずに力尽きさせることができるからだ。
「グ...ルルゥゥ...」
1匹目は首を斬られて血がぼたぼたと垂れる。やがて力が入らなくなったのかばたりと倒れ込んだ。
「ガルルルルル...」
1匹がやられたことで警戒心が強まったのか、こちらの様子をずっと伺ったままだ。本能が危険だと悟ったのだろうか。
だが悪いな、今の私は...気が立っているんだ。
足靴の魔装具に魔力を多く込める。脚力が更に強化され一瞬でブラッドウルフに間合いを詰めた。
カイゼル「終わりだ」
「ガルル!?」
剣を横に振り払い首を斬りはらい、斬った勢いで鮮血が飛び散り若干の返り血を浴びた。
ブラッドウルフは声を上げることなく力尽きた。即死だ。
少々恨みを込めた一撃を与えてしまった。このものからしたら完全に八つ当たりだな。
いつもは冷静に気持ちを落ち着かせて戦うのだが、今回は...そうも言ってられなかった。なにせ仲間たちの哀れな死体を目の当たりにしたんだ、冷静でいられるはずがない。
カイゼル「ふぅー...」
だからといっていつまでもそうはしてられない。今はやるべきことをやらねば。
剣を鞘にしまい一呼吸置き気持ちを落ち着かせ、本来の目的に目を向ける。
まずはノイス聖堂を目指す。それからのことは終わってから考えるとしよう...同士の死を悲しむのも、この任務が終わってから。
再び足を動かし、私はノイス聖堂へと向かい始めた。
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森の中を走り続け、ようやく出口へとたどり着いた。目前には大草原が広がっており、その中に一際目立つ建物がある。
だが記憶にある建物ではなかった。その周辺は焼け野原になっており、その建物自体も半壊してた。
言わずもか、あれがノイス聖堂だ。
カイゼル「やはり炎竜に襲われたのか...」
再び聖堂へ向け走り出す。ここからでは中が見えない為生存者が確認できない。無事でいてくれればよいのだが。
草原の中をまっすぐ突き進む途中で道中にある大きな岩にもたれかかっている人物を見かけた。1人ではない、2、3...4人はいる。
白と青の施されたローブ、この人たちは...聖堂の神官たちだ。
ローブの所々が焼き焦げていたり、中には何かで切り裂かれたかのような傷を負ったりしている者もいた。
...見たところ、もう手遅れのようだ。
「う...うぅ...」
と思っていたが、辛うじて息はあるのか1人が唸り声にも満たない声を出す。
カイゼル「貴殿、無事なのか」
声をかけてみる。こちらに気づいたのか顔は動かさず視線をゆっくりこちらに向けた。
「...あなたは...?」
虫の息とでもいうような小声でなんとか反応した。私はその姿を見て自分の無力さに歯を軋ませたが、なんとかこらえ質問に答えた。
カイゼル「王国から来た騎士だ。一体何があったんだ」
「そ...うだ...聖堂に...ノルフ...様が...」
カイゼル「ノルフ...ノイスの大神官殿か」
「聖堂に...不気味な男が...」
カイゼル「不気味な男...?」
やはり、今回の事件は人が関わっていたのか?
「助けて...やってください...ノルフ様と...く...さま...を...」
カイゼル「お、おい!今なんと!?ノルフ殿と...誰だ!?」
神官の男はこれ以上言葉は発することなく、力尽きた。何かを言いかけていたのだが、聖堂にはまだ別の誰かがいるということなのか?
カイゼル「...貴殿たちも、安らかに眠れ」
その場を後にし、聖堂へ向かう。この事件、私が思ってる以上に厄介な事が起きているかもしれない。
ーーーーーー
聖堂に近づくにつれ焦げ臭いにおいと共に何か別な匂いがした。足元の草木も焼き焦げているだけでなくどこか違うものを感じた。
これは、焼かれた後とかではない。まるで腐敗したかのような状態。
...いや、今は目の前の問題を優先すべきだ。
聖堂の入り口へ着いた。入り口は多少崩れてはいるが、人が通るには十分のスペースはあるようだ。
入り口の奥の方を見ると何やら人影のようなものがあった。ノルフ殿だろうか...それとも例の不気味な男...
意を決して入り口へ移動する。ゆっくり近づき中を確認すると、目を見張った。
聖堂の中には3人の人物がいた。1人は黒髪の男。その青年に首を掴まれている神官のローブを着ている人物。
そしてその横で何やら見えない壁でもあるのだろうか。涙を流しながら必至に男の行動を制止させようとしている少女、だろうか。
異様な光景だ。だが理解した。この事件を起こした犯人は...あの男だ。
カイゼル「貴殿、その手をすぐに離せ!」
声を張り上げその男に呼びかける。すると男はこちらに首だけ動かしなにやらめんどくさそうな態度を取った。
「あぁー?おかしいなぁ?外には炎竜がいるはずなんだがぁ...やっぱ制御が上手くいかなかったかぁ?」
制御?なんのことかはわからないが独特な喋り方をする男だ。
ただ、私の言ったことを微塵も聞く気はないのはわかった。
カイゼル「聞こえなかったか?その手を離せと言っているんだ」
「うるせぇなぁ...こっちは忙しいんだよぉ」
男は左手をこちらに向け、魔法陣を展開させる。その魔法陣からは風の刃が現れこちらに放たれた。
カイゼル「...!!」
素早く剣を抜き魔力を込めてその風の刃を剣で両断し無力化した。
魔法を斬ったことに驚いたのか、男の表情が少し変わる。
カイゼル「次は無いぞ...その手を離せ」
最後の通告だと言わんばかりに殺気を込めた目で睨みつける。有無も言わずに魔法を使ってきたんだ、多少強引にでもしなければならないようだ。
「へぇぇ...ただの雑魚騎士じゃぁねぇのかぁ...なんか偉そうだしよぉ、もしかして団長かぁ?」
カイゼル「だったらなんだと言うんだ」
「フヒヒヒ!いいねぇ...リーネの騎士団長ぉ...元々潰すつもりだったからちょうどいいぜぇ」
ノルフ「ぐ...ぉぉぉ...」
少女「大神官さまぁ!!」
男は手に力を込め、神官の男...ノルフの首を絞め上げる。その横でフードを被った少女が声を荒げる。
そのまま絞め続けるのかと思いきや、急に手を離しこちらに体を向けた。
「こいつらを助けたいならぁ...助けてみろよぉ?」
カイゼル「...許さんぞ!」
脚力を強化し、一気に男との距離を詰める。相変わらず不気味に笑ったままだ。このまま剣を右肩にめがけて振るう。
だが、その剣は空を切り男には当たらなかった。
「フヒヒッ、危ねぇ危ねぇ」
男は風の魔法で飛び上がり、攻撃を躱した。魔法使というのは厄介なものだ。
「フヒッ、いいねぇ。だがこれはどぉかなぁ?」
男は再び魔法陣を出した。だがさっきとは違い無数の風の刃が出現する。
「今度は防ぎきれるかぁ?」
無数の風の刃が放たれ迫りくる。1つ1つ捌くのは普通の攻撃じゃ厳しいだろう。だが、私は仮にも騎士団長。その実力をみせてやる。
剣を腰の横に下ろし抜剣の構えを取り、腕と剣に魔力を込める。
カイゼル「抜剣術...瞬迅大一閃!」
大きく横に払った剣の一撃はその勢いで突風を生み、風の刃と共に対消滅した。前に使った瞬迅一閃とは違い、前者は斬るための一撃。そしてこの技は…破壊する一撃だ。
「なにぃ...!?すげぇなぁ、これもダメなのかぁ」
カイゼル「魔法に対しての手段も持ち合わせている。その程度の魔法では私は倒せん」
「ひゅぅー...かっこいいねぇ...かっこよすぎるぜぇ騎士団長さまよぉ」
魔法を防がれたというのにまったく意に返していないようだ。余程の余裕があるようだ、なにか隠している実力でもあるのか?
カイゼル「悪いが、貴殿と相手している場合ではないのでな、手荒になるが拘束させてもらおう」
「拘束ぅ?この俺をぉ?...フヒヒヒ!!」
カイゼル「なにがおかしい?」
「いやぁ...俺を捕まえられると思ってんならぁ...相当舐められてんなぁって思ってよぉ」
カイゼル「...なんだと?」
「あんたに俺を捕まえるのはぁ、無理だねぇ」
カイゼル「無理かどうか...今にわかる!」
さっきよりも脚力の強化をかけて足に力を入れる。こいつにゆっくり構ってやるほど私も優しくはない!
自分でも一瞬意識が飛んだかのような錯覚に陥るほどの速度を出し、その男に近いていく。
男は笑ったまま動かない。やはり自分の考えすぎだったのだろうか?とりあえず、この男の両腕を斬り落とし無力化させる!
カイゼル「...なっ...!!?」
だが…剣を振り下ろそうとした矢先に、体の全神経が硬直するかのように力が突然入らなくなった。
その勢いのまま地面を滑るように倒れ剣を落とす。一瞬なにが起きたか分からず思考が停止するが、すぐに自分が倒れたことを理解し体を起こそうとした。
が...体を起こすどころか、指先でさえピクリとも動かせなかった。
カイゼル「な...こ、れ...は...」
声もまともに出せない。一体どうなっているんだ?急に体が動かせなくなるなんて。
「フヒッ、フヒヒヒ!!!」
男は不気味に笑い、こちらを見下ろす。
「この俺がただ風の魔法をポンポン撃ってるだけだと思ったかぁ?残念だったなぁ」
カイゼル「な...に...?」
「あーそうそうぅ、せっかくだし俺の正体教えてやるよぉ」
男はしゃがみこみこちらを虫を見るかのように見る。
「四聖騎士様たちの4つの翼...小天使の一翼...」
四聖騎士...!?それってまさか...
ゼブラ「毒蛇のゼブラだぁ」
ーーーーーーーー
ーーー 四聖騎士
北大陸国エデバルトにある帝都グレシアの皇帝に仕える直属の4人の騎士。
このゼブラという男が言うに、その四聖騎士の部下かなにかなのだろう。
風の噂程度には聞いたことがあるが、各大陸でグレシアの兵を度々見かけることがあるという。なにやら戦争のために動いているだとか。
この東大陸にまで来るとは...この聖堂に来た目的はなんだ?
それに自分を毒蛇と...まさか体が動かないのは...毒!?
ゼブラ「その顔は気づいたぁって顔かぁ?そうだぜぇ。お前が動けないのは俺が出した毒のせいだぁ。麻痺毒...即効性の気体毒だがいつ効いてくるかハラハラしたぜぇ」
気体の毒...あの風魔法は毒を送り込むためでもあったのか。それを気付かずに吸って...なんてことだ。
ゼブラ「さっきの攻撃...もし1秒でも毒の回りが遅れていたら俺は死んでたかもなぁ??あぁたまんねぇ!こういうハラハラするシチュエーションはたまんねぇぜぇ!!」
カイゼル「...ぐ...ぅ...」
ゼブラ「フヒヒヒ...なんてなぁ。俺がやられるなんてぇ、ありえねぇけどな」
しかしおかしい、毒を使っていたのならばいつ仕込んだんだ。この男の服装を見るに、毒薬を隠し持てる場所なんてない。一体どうやって...
...まて、何も持っていないのなら...1つしか方法がないではないか。
その方法は...魔法だ。
魔法で毒をだした...そうか、これがレン殿の言っていた、型にはまらないまったく新しい魔法...固有魔法か!
ゼブラ「お前をわざわざ麻痺毒で動けなくしたのは1つ、お前を後でじっくりと毒で拷問するためだぁ...あのクソ神官のせいでフラストレーション溜まってるからよぉ、発散させてもらうぜぇ。安心しろぉ、用が済んだら跡形もなく...腐敗させてやるからよぉ!」
カイゼル「......っ!!」
まずい、このままだとまたノルフ殿への毒責めが始まる。見たところノルフ殿は限界もいいとこだ。これ以上あの姿を先程から泣き叫んでいる彼女に見せるわけにはいかない!
ゼブラ「フヒヒヒ...おい神官さまよぉ?まだ意識あるよなぁ?解毒しながら毒を流し込まれるのはもう懲り懲りだろぉ。いい加減この結界解けよぉ」
ノルフ「断ると...言っているだろう...貴様らに渡すくらいならば...命だって惜しくはない...!」
ゼブラ「あー...うぜぇ...うぜぇなぁこいつ...」
ノルフ「ぐっ、がはぁ...」
ゼブラがノルフの首を掴み締め上げる。手からは紫色をした液体みたいなのがあふれていて、それがノルフの首から流し込まれていた。
ゼブラ「もういいわお前ぇ、少しめんどくせぇけどぉ他の仲間呼んでこの結界破壊することにするわぁ。だからお前はぁ...死ね」
ノルフ「ぐぅう...がぁぁぁ...!!!」
少女「やめて...!!もう...もうやめてぇ...!!」
ぐっ、動け!動け私の体!目の前の人を救うこともできないようでは、王国騎士団長を名乗る資格などない!!
体の神経が麻痺しているだけだ。身体強化を限界まで高めて、無理やり全身を動かす!
全ての鎧に魔力を注ぎ込み全身の筋肉が膨れ上がる。火事場の馬鹿力というものだろうか、全身の穴という穴から汗が溢れ出し、体の中は激痛の悲鳴を上げ今にも気を失ってしまいそうだが、ギリギリで堪えてとなりに落ちている剣を拾う。
身体を起こし足に力を込める。これが最後の一歩だ。この一歩で仕留められなければ私はもう立ち上がることができないだろう。
奴はまだこちらには気づいていない。正真正銘これが最後のチャンスだ。
柄を力強く握り歯を食いしばる。最後の力を振り絞り、足に力を入れ思い切り男に飛びかかった。
ゼブラ「...あぁ?」
カイゼル「.......ッッッッ!!!!」
剣を振りかぶり、男に迫る。この際生き死になど言ってはられない。こいつを両断する覚悟で振るわせてもらう!
カイゼル「……ッッ!!?」
...だが、その刃は...届かなかった。
剣は振った、だがその刃はゼブラの首元で止まった。体が急に動かせなくなったのだ。
さっきの毒ではない...何かに縛られてるかのような感覚。
ゼブラ「フヒヒヒッッッッ!!まさかとは思ったが本当にくるとはぁ。備えておいて正解だったぜぇ...」
カイゼル「な...に...?」
ゼブラ「エアーバインド。設置型の風の拘束魔法だぁ。隠された魔法陣の上を通ると発動して相手を風の縄で拘束するんだぁ。団長さまならぁ、麻痺毒で動けなくしてもなんかしてくるんじゃないかと思ってなぁ?念のために設置しておいたんだぜぇ」
こいつ...!!ただの自信過剰ではない...!自分が有利に動くために仕組んでいた...!
全てこいつの...掌の上だったのか...
ゼブラ「これ以上邪魔されるのはうぜぇからぁ...」
ゼブラは鎧に手を向け魔法陣を展開させる。
ゼブラ「ウィンドインパクト」
カイゼル「がっ...!!?」
空気が爆発したかのように炸裂し、カイゼルの体が後方へ勢いよく飛ばされた。
聖堂の壁に叩きつけられ力無くそのままなだれ落ちる。
...ダメだ、もう指一本動かせやしない、体に力が入らない。ここまでか...
ゼブラ「フヒヒヒ...ここまですりゃ大丈夫だろぉ。さてとぉ、さっさとこの神官殺してぇ、仲間でも呼ぶかなぁ?」
男はノルフの首を掴もうと手を伸ばす。絶体絶命だ、このままではノルフ殿を死なせてしまう...!
だが、今の私にはどうすることもできない...情けない...王国騎士団長などという肩書きをもっていながら、人ひとり救えないなど...騎士失格だ。
だが、だがそれでもいい...私がどんなにみっともなくてもいい...!だから頼む...この状況を打破するなにかを...!!
少女「お願いします...誰か...誰でもいいですから...助けてっ...!!」
ローブを被った少女がこれ以上のない懇願を見せる。が、ゼブラの笑みはさらに歪みを増し、絶望の一言を添えた。
ゼブラ「フヒヒヒ!!誰も助からねぇよぉ!この俺がいる限りなぁ?フヒヒヒッッ!!」
ゼブラの笑い声が聖堂全体に響き渡る。その声は今この瞬間だけは、終焉を告げる呼び声に等しく聞こえた。助かるという希望の光が今、潰えようとしていた。
ーーー「随分楽しそうじゃないか」
そう...この声を聞くまでは。
ゼブラ「...あぁ?」
ゼブラがこれ以上ないくらいの不機嫌な声を出す。
聖堂の入り口に人影が見えた。視線だけをなんとか動かし、その姿を捉える。
首元付近まで伸びた白い髪は先端が黒く染まっていて、そして一見華奢そうな身体だが程よく鍛えられておりそして藍色の特徴的な瞳の色をしていた。
その姿を見た途端、私は今までの気持ちが嘘かのように安堵する。まだ会って日も浅いが、確信があった...この方なら大丈夫だと。
グレン「待たせたな、カイゼル」
それはまるで、闇夜を照らす希望の光のようだった。
前に書いてたものをss風に直して書きました。ほぼ思いつきです、ご了承ください
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