もう勇者やめていいですか?21
オリジナルss 過去の行いが今、繋がる。
獣人の里 ロアの家
ナル「むぅー…」
グレン「いつまで拗ねてんだよ」
ナル「……ぷいっ」
グレン「はぁ…」
どうやらご立腹のようだ。ロアのなにがそんなに気に食わないのだろうか。
ちなみにあまりにもナルが拗ねるのでロアには心苦しいが離れてもらった。
…とにかく、ここで本来の目的を果たすとしようか。
グレン「ロア、一つ聞いていいか?」
ロア「…?」
グレン「ここら辺に泉ってあるか?」
ロア「泉…ですか?」
グリフィスのせいでだいぶ遠回りになってしまったが、何度も言うが元々ここに来たのは神力補充のためである。
ロア「泉はわからないです、川ならあるですけど」
グレン「川か…」
うーん、川ではダメだな。流れがあるところでは魔素が入り込んでしまう。
里長に聞いてみた方がいいか。
グレン「じゃあ里長に聞いてくるか」
ロア「ロアもいくです」
グレン「もう平気なのか?」
ロア「大丈夫です」
立ち上がり、家の外へ出る。
外は昨日の被害もあってか辺りがボロボロで悲壮感漂うが、里の獣人たちは着々と復興を続けていた。
ロア「……」
ロアが悲しそうに視線を落とす。自分の住んでた里がこんな目にあったんだ、当然だろう。
グレン「ロアは頑張ったよ」
ロア「ほ…ほんとですか?」
グレン「ああ」
ロアの年齢にはツラい現実かもしれないが、生き残っただけでも御の字なんだ。気に病むことはない、むしろ死んでいった仲間たちの分まで強く生きてほしい。
「おやおや、救世主様お目覚めですかな?」
ロア「…!里長」
向かい側から年老いた獣人が歩いてきた。ロアの一言から里長だということがわかる。
グレン「救世主て…レンでいいよ」
里長「そうですか、ではレン様で。ロアも目覚めたか」
ロア「はいです、もうばっちりです」
里長「そうかそうか、よかった」
ロア「なにか手伝うですか?」
里長「いやよい、ロアはレン様と一緒にいなさい」
グレン「いや俺のことは…」
ロア「わかったです」
グレン「……」
一蹴されてしまった。ロアもロアでなんで即答するんだよ!
まぁいい、里長に聞きたいことを聞くとしようか。
グレン「なぁ、ここら辺に泉とかってないか?」
里長「泉ですかな?うーん…」
里長はしばらく考え込みうんうん唸ってはいたが思いつかなかったのだろうか、気まずそうに話を続ける。
里長「生憎と存じ上げませんな。申し訳ない」
グレン「あー…大丈夫だよ」
ここら辺に詳しそうな里長でも知らないとなるとここら辺には泉はないのか…川周辺を漁れば見つかるか?
…少し無謀だな。ここまで来たのに収穫無しか、まいったな。
里長「泉といえば、昔から穢れを払う力が集まると聞きますな」
唐突に里長がそんなこと言う。穢れを払う力…神力のことか。
そういう伝承が残っているのは前にリーネの資料館で見たのを覚えている。
里長「ここらに泉はありませぬが…1つ、似たような場所を知っております」
グレン「本当か!?」
里長「え、ええ」
少し食い気味になってしまった。貴重な手がかりかもしれないんだ、そこは許してくれ。
ロア「まさか…あそこですか?」
どうやらロアも知っているみたいだ。てことはわりと近いところにあるのか?
里長「そうだな…ロアよ、案内してあげなさい。この方なら大丈夫だろう」
ロア「ロアも大丈夫だと思うです。ママは悪い人間ではないです」
グレン「おいロア…」
里長「ママ…?」
ほら里長がいきなりのロアの発言に驚いてるじゃないか。人前でママ呼びはやめてくれ!
里長「こ、こほん…レン様はその…まだ十分若いですぞ?」
グレン「おいどういう意味だじじい」
里長「ひぇっ!?」
おっとつい殺気を込めてしまった。なにを勘違いしているのかわからないが俺はまだそんな年じゃない、あと男だ。
ロア「ママは強くてかっこいいからママなのです、年は関係ないです」
里長「あーそういうことか…ならばよし」
グレン「なんで納得してんだ!」
獣人たちの基準がわからない…強くてかっこいいなら母親になるのか?意味がわからん…
グレン「とにかく!その言ってた場所に連れて行ってくれ」
ロア「はいなのです、こっちです」
ナル「むー…」
ナルが未だに少し不機嫌気味だ。いつまで拗ねてるんだか…
グレン「ナル、いい加減に…」
するとナルのお腹辺りからものすごい音が聞こえた。
…言わずも、空腹時の音である。
ナル「お腹減ったのだ…」
グレン「…行く前に何か食べるか」
ナル「ぬ!わーい!ご飯なのだー!!」
ひょっとしてこいつ、お腹が空いてたからいつにも増して機嫌が悪かったのか?
人の心配を悉く無下にしやがって…ナルには野菜をたんまり食わせてやろう。
相棒として、一切の妥協を許さない俺であった。
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獣人の里で軽い食事済ませてロアの後ろをついていく形でとある場所まで案内してもらうことにした。
ロア「そこ、気をつけるです」
グレン「おう」
道中は所謂獣道で足場があまりよくなかった。だが、何度もここを通っているのか微妙な道はできているようだった。
敢えて道を整備していないのだろうか…他人には知られたくない風な言い草だったし、多分そうだろうな。
ナル「うへー、疲れたのだー…」
ロア「疲れたなら休むといいです。その時はママと2人でいくですけど」
ナル「はぁぁぁ??はぁぁぁ!??ぜっっんぜん疲れてないのだ!余裕なのだ!」
ロア「ふん、せいぜい頑張るです」
何故だかこの2人は相当仲が悪いみたいだ。でも憎悪とか負の雰囲気は感じないんだよな…本気で嫌ってるわけではないというか、わからんけど。
グレン「ロア、後どのくらいだ?」
ロア「もう少しで着くですよ、ママ」
グレン「そ、そうか。…なぁロア」
ロア「なんですか?」
ロアが目覚めた時なんだかんだ流してしまったがやはり気になるのでこの際聞いてみようか。
グレン「その、なんで俺を…ま、ママって呼ぶんだ?」
ママ呼びなんて慣れてるはずがなくつい気恥ずかしい気分になるが疑問を口にしてみた。
ロア「ママ呼びは、嫌ですか…?」
グレン「ぐ…」
やめろ!そんな涙ぐんだ目で見るんじゃない!つい許しちゃいそうになるだろ!
グレン「嫌…では、なくはないけど…理由が気になるんだよ」
ロア「ん…理由ですか…」
ロアは歩きながら少し考え込み、やがて纏まったのか話を始めた。
ロア「ロアはあの里で1番強い家系なのです」
グレン「ん?おう…」
いきなりなんだ?それと呼び方になんの関係が…
ロア「そしてロアのママ…本当のママは里で1番強かったです。もちろんロアなんて相手にもならないほどです」
グレン「へー…おっかなそうな母さんだな」
ロア「はいです、怒ると手がつけられないです。家一つはなくなるです」
本当におっかないな。今のロアでも手がつけられないか…相当強いみたいだな。
ん?でもあの里にはロア以外戦えそうな獣人はいなかったよな。
ロア「でもある日突然、ママは里を出て行ったです」
グレン「……」
出て行った、か。なんの理由があって出て行ったか知らないけど娘を置いていくなんて…ロアも寂しい思いをしてたんだな、こんな話させたのは少し酷だったか…?
ロア「もっと強くなるために旅でるわ!アハハ!とか言ってたです、正直イラっときたです」
グレン「……」
訂正、割と適当な母親だったみたいだ。
ロア「だからあんなのより絶対強くなって見返してやるって思ったです、でもロアはまだまだ弱かったです…」
うさ耳をしょんぼりさせ若干落ち込んでるみたいだ。グリフィス戦のことを思い出しているのだろうか。
てか母親をあんなのって…ロアから聞く限りだいぶ自由そうな人ではありそうだが。
ロア「そんな時にママと会ったです、ロアよりすごく強い…運命感じたです!」
ロアが振り向いて抱きついてきた。やたら抱き癖があるが甘えたがりなのだろうか。
ナル「ぬわぁぁ!?また抱きついてるのだ!?」
もはやお決まりのようにナルが叫ぶ。
ナル「ぐぬぬ!ならわたしも…ていっ!マスターの背中はわたしのなのだ!」
ロア「む、邪魔なのです」
ナル「お主が邪魔なのだ!」
前後から抱きつかれながらお互いに俺を挟んでギャーギャー言い合っている。なんでこうなった。
ロア「ママはロアの運命の人なのです。お前はあっちいけです」
ナル「ふふーん、昨日今日会った程度の小娘が、マスターとわたしは昔からずっと一緒だったのだ!あっちいくのはお主なのだ!」
ロア「むむむ…ママはどっちがいいですか?」
ナル「無論わたしなのだ!」
ロア「違うです、ロアなのです!」
ナル「わたし!」
ロア「ロアです!」
グレン「……」
なんだこれ…俺は一体どうすればいいんだ?というかいい加減にしないと怒るぞお前ら。
ナル「マスター!」
ロア「ママ!」
「どっち選ぶのだ!?」「どっち選ぶですか!?」
グレン「…だーもう!!!!!!うるせぇぇぇ!!!!!!!!」
ついに俺の堪忍袋が切れてしまった。
子どものお守りをする母親の気持ちを不本意ながらもほんの少し理解したような気がした。
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わけのわからない言い争いを半ば強制的に終わらせようやく目的地へとついた。
ロア「ここなのです…」
ロアは怒られたことに落ち込んでいるのか未だにしょんぼりしている。ちょっと罪悪感が…いやいや、あれはしょうがないことだろ。
グレン「はぁ…よしよし」
ロア「っ…ん…」
あんまり落ち込ませても悪い気がするので頭を軽く撫でてやった。するとロアは嬉しそうにして頭を自ら擦り付けてくる。
グレン「…はい終わり」
ロア「ぁ…」
手を離した途端名残惜しそうに見つめてくる。
だ、ダメだ…ここでまた甘やかすと一向に話が進まない、それだけはダメだ。
グレン「で?ここはどこなんだ」
ロア「あ、えっとですね…ここは先祖代々から管理している祠なのです」
グレン「祠?」
たしかに見てみるとここは開けた場所だ。小さな池を挟んだ先にその管理しているであろう祠も見えた。
ロア「こっちです」
グレン「おう…ん?」
祠に近づくにつれ魔素が薄くなるのがわかった。というか獣人の里にきてから妙に魔素が薄い気がしてた。これにはナルも気付いているらしく気になりながらもロアについていく。
ロア「これが祠なのです」
グレン「……!」
ナル「マスター、これって…」
グレン「ああ、間違いない」
ナル「……?」
この祠の前に立って初めてわかった。この祠からは…神力を感じる。だが精々祠から数メートルの小規模の範囲だ。
実際これに近づくまで神力を感じなかったからな。
ロア「どうしたですか?」
グレン「…なんでもないよ」
ロアが疑問に思うのも無理はない。何故なら神力は同じ力を持つものしか感じとることができないからだ。
それにしてもなぜここから神力を感じるんだ?
グレン「ロア、祠の中身って見ても大丈夫か?」
ロア「いいですよ、ママには特別です」
ロアが祠の戸に手をかけ開いた。中身はしっかりと清掃されており清潔に保たれていた。
そしてその中にあったのは…
グレン「……籠手?」
籠手だった。そう、防具によく使われるあの籠手だ。何故そんなものがここに…
ロア「これは普通の籠手じゃないのです。御先祖様が勇者様に頂いたと言われる品物なのです」
グレン「え!?」
勇者がくれた籠手!?御先祖様ってことは俺が前の世界で最初に出会った獣人たちか?
この500年の間に他に勇者と呼ばれるやつがいないのは確認済みだ。それはつまり俺しかこんなものをあげることしか出来ないということ…
籠手…そんなのあげたっけなー…それになんでこの籠手から神力が溢れてるのかも謎だ。確か初めてここに来た時…なにしたっけなー
記憶を遡り過去の旅を一つ一つ思い出していく。するとぼんやりと一つの記憶が浮かび上がる。
そう…そうだ思い出したぞ、籠手をあげた理由。
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前に獣人の里に来たとき、そこはとある上級悪魔に襲われていた。
ここら辺は魔素が濃く、よく悪魔が出現していた。だが獣人族は持ち前の戦闘センスでなんとか悪魔を撃退していたんだが…それも一時凌ぎにしかならず、日に日に消耗していっていた。
その時に俺がここに訪れて、神力を駆使しつつ悪魔を浄化したんだ。
でも魔素の多いここの地域ではいずれまた悪魔が生まれてしまう。そこで俺が取った行動が…この籠手だ。
この籠手にありったけの神力を注ぎ込み、里1つ分を守れるほどの神法…簡易的な結界をかけた。だがそれでも1年保てばいい方だ、もちろん獣人の里を訪れたのは今回を除けばその一回のみ。神力補充の機会などもちろんなかった。
グレン「……」
なら何故こうして今神力が溢れ維持できているのか、考えられる可能性は一つある。
この小さな祠が、擬似的な泉や聖堂へと変化したのだろう。ここは場所が開けていて自然豊かで日の辺りもいい。神力が集まる条件としてはぴったりだ。
それとこの清潔に保たれた祠。天使が建てた聖堂や大昔からあった泉などのものと同じく約500年かけて穢れを払うほどの力を持った…ざっとこんなところか。
偶然に偶然が重なって出来た奇跡みたいなものだ、なにか一つでも欠けていたらここはただの籠手が祀られている単なる祠にすぎなかっただろう。
だがその奇跡のおかけでなんとかなりそうだ。
グレン「…ありがとな、ロア」
ロア「なにがですか?」
グレン「いや、なんとなくな」
ロア「??」
ロアはわけがわからなそうに首を傾げる。そりゃそうだ、ロアには一切身に覚えがないのだから。
過去の行いが今に繋がる…偶然かもしれないが、それならそれでその偶然を有効活用させてもらうとしようか。
読んでいただきありがとうございます。
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