もう勇者やめていいですか?35
オリジナルss 悪魔を倒すには神の力が必要だ
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南東の獣人の里から早数時間、リーネが滅びるという最悪の事態に陥る前になんとか間に合ったみたいだ。
…いや、実際には違うな。この場合は間に合ったと言うよりは、なんとか持ち堪えてくれたと言う方が正しいか。
グレン「……」
周りの景色を一望する。確かここはリーネの商業街の中心地…中央広場だったはず。それがなんと無残な、周りの建物は焼けたかのように崩れ去っていて地面も幾つも抉れ、ある箇所では地面が溶けたかのような所もあった。これだけでも相当な戦闘があったと考えられる。
グレン「っ……」
ただこれだけの被害を起こせる者がいるのに被害箇所がこの中央広場だけというのは、それは後ろのクレハとカイゼルが必死で抑えてくれた結果だろう。きっと2人が居なかったら、この街は当に滅びていたかもしれない。
……というか、まさかクレハがな…
炎竜に乗ってリーネに向かう途中で獣人の里にある祠で中断された話を再びナルに聞いてみたところ、なんとクレハはナルと同じ神剣だってことを知り驚いた。あんだけ聖堂で神官たちに守られる存在だ、普通じゃないと思ってはいたがその正体が神剣だったなんて…
そのことにも驚きだが、2つ目の神剣も人化しているとは思わなかった。案外残りの神剣もこのパターンから行くと人化しているのかもしれないな。
…まぁそれは追々考えることにしようか。今は、目の前の敵を片付けなくちゃな。
ロアの大槌の一撃で舞い上がった土埃から一つ影が見える。それはこっち側へと飛んできた。
ロア「…っ!と…」
小柄な体型とは裏腹に身の丈以上もある大槌を持ちながら、後ろへ飛んだ衝撃を緩和しながら地面を後退り俺の横へと並んだ。
グレン「どうだ?やれたか?」
ロアはこちらを一目見て、微妙そうな顔をした。それだけであまり芳しくないことはなんとなく伝わってきた。
ロア「ロアの攻撃は間違いなく直撃したです、大槌で潰した感覚もあったです、でも…」
グレン「……」
大槌の柄を強く握りしめ、土煙の先を見据える。
ロア「嫌な感じが、全然消えないです」
グレン「…そうか」
獣人族はいわば野生の塊。普通の人間より場の気配を敏感に感じ取ることが出来る、その獣人族のロアがこう言うんだ…おそらく敵はまだ生きている。
グレン「……!」
土煙の先から何やら熱い風が吹いてくる。そしてその風が土煙を吹き飛ばし、その中央には黒い炎が舞い上がっていた。
「グオァァァァァァァァ!!!!!」
中央には黒炎を纏った異形の生物がいた。
グレン「やっぱそうか…まさかとは思ったけど」
上空にいる時遠目から見てもしやとは思っていたけど、これは…この姿、この気配は間違いない。この俺が見間違うはずがない。
かつて俺たちを散々苦してきた数々の不幸の元凶…
グレン「…悪魔」
何故こんなところに悪魔がいるのかはわからない、500年前に全て滅したはずなのに…やはり生き残りがいたのか?でも魔王がいないのにどうやって生き残ったんだ…?
そんな考えと同時に憎悪の感情が滲み出てくる。もはやこれは条件反射だ、俺から大切な人たちを奪っていったやつらを目の前にして、殺意が抑えられるものか。
グレン「……ふぅ」
だが怒りに身を任せてる訳ではない、これまでの経験から闇雲に突っ込んでいって良かった試しはない。あくまで冷静に、敵を葬れるように行動する。結果的にそれが確実に敵を倒せる唯一の方法だ。
ロア「…ママ?」
ロアは俺の殺意を感じ取ったのか、心配そうに見つめてくる。一瞬で抑えたつもりなのだが、どうやらバレてしまったらしい。
グレン「大丈夫だ…ロア、あいつを倒すぞ」
ロア「…!!はいです!」
心配させぬようにと軽く頭を撫でてやる。そうするとこちらも不思議と少し気分が楽になった。
ナル『こらーー!!!イチャイチャするななのだーー!!!」
グレン「うるさっ!?急に大声出すなよナル!」
ロア「……?」
ロアが不思議そうな顔をしている。あーそうだ周りには剣化したナルの声は聞こえないんだったか…なんか独り言言ってるみたいで嫌だな。
ナル『わたしが黙ってればイチャつきおって!わたしにもっと構えなのだ!!』
グレン「イチャつくってなんだよ…別に普通だろ」
ナル『むー…後でわたしも撫でろなのだ』
グレン「はいはい」
なんか最初に会った頃よりわがままになってる気がするな…いやこんなもんだったか?
ロア「何言ってるかわからないですけど、ちび神がロアとママに嫉妬してるのはわかるです」
ナル『むきーーっ!!むかつくのだこいつーー!!こ、この…ちび!ちびうさぎ!!』
なんて語彙力の無さ、というか言葉も聞こえてないのに何故喧嘩できるのか。
ロア「ちび神が何言ってるか聞こえないですけど、見せつけるようにママに抱きついてやるです、ぎゅー」
グレン「あ、おい」
ロアが俺の腰に手を回し抱きついてきた。敵が目の前にいるのに自由すぎやしないか?
ナル『な、ななななな……!!!』
手に持っていた神剣が微かに震えたような気がした。
ナル『んんんこいつぅぅ!!!ぶちのめしてやるのだぁぁぁ!!!人化してぶちのめしてやるのだぁぁぁ!!のぉマスター!?よいよな?今すぐ人化してよいよなぁ!!?』
グレン「あのなぁ、今はそんなことしてる場合じゃ…」
「ぐ…グオァァァァァァァァ!!!!!!!」
「「『!!?』」」
流石に悠長にしすぎたのか、痺れを切らした悪魔が大声を上げ黒炎を増幅させた。
ロアもからかうのをやめ即座に抱きつくのをやめる。ここからは遊びではないことを感じとったのだろう。
グレン「切り替えろナル、あの悪魔を倒すぞ」
ナル『ぐぬぬ…まだまだ言いたいことはあるが…わかったのだ』
渋々ながら従い、悪魔へと向き直る。さて、どうしたもんか…
「グワァァァァァァァ!!!!」
グレン「!?」
悪魔が拳に纏った黒炎を球状にまとめ、炎弾を放ってきた。空気をも焦がすそれはこちらに一直線へと向かってくる。
普通の剣なら触れただけで溶けてなくなりそうな温度だな…だが今こちらに持っているのは魔王でさえも倒せる神の剣だ。
クレハ「カレン…!!」
身の危険を感じたのか、後ろにいるクレハが俺に呼びかけた。
グレン「…大丈夫」
後ろを振り向かずそう一言告げる。剣を握り、腰に構えて意識を集中させる。
全身の魔力の流れを操作し、身体強化を施していく。
グレン「龍剣体術…」
神剣に神力を纏い、その黒炎へと剣を振り上げる。
グレン「龍鱗流しッ!」
黒炎を斬るのではなく、巧みにいなし、そのままその黒炎は軌道を変えて飛んでいってしまった。
カイゼル「魔法をいなした…!?」
魔法を斬るのはカイゼルも自身で経験しているはずだろう、だが斬らずに反らすのは予想外だったみたいだ。
戦いは言わばどれだけ相手より消耗せずに戦い続けられるかが鍵になることが多い。同じ実力でもその実力を行使し続ける体力がなければ負けの一択しかないのだ。
避けられる攻撃は最小限の動きで避け、敵の攻撃を真面に受けることはせず威力を殺し反らす…それが俺が旅の中で身につけた戦い方だ。
「グゥ…グァァァァァァァ!!!!!」
それにこいつは…悪魔だ。悪魔相手に、俺が手加減するなんてことは…ありえない!
グレン「いくぞッ!!」
全身に身体強化の付加術を掛け、悪魔へと真っ向から近づく。さぁ真正面だ、どんな攻撃を仕掛けてくるのか…
「グゥゥ…!!!グァァァァァァァーーーー!!!!!!!!!」
グレン「っ…!?」
てっきりまた俺に向かって黒炎を放ってくると思いきや全力の雄叫びを上げ全身からものすごい勢いのある黒炎を吹き出した。
これでは近づけない。
グレン「というか、なんなんだこいつは…」
ものすごい魔力量をこの悪魔は持っている、比較するならそう…あの俺たちを散々苦しめた六魔クラスの魔力は持っている。だが魔力が膨大すぎるのか、はたまたそれ以外の要因が働いているのかこいつは自我が保てていないようだった。
それがわかる理由はこの悪魔はさっきから雄叫びを上げているばっかで人語を話さないことだ。悪魔は基本的に人型に近いほど、魔力が高いほど知能がそれに比例して高くなる。このクラスの魔力なら会話程度なら容易く出来るはず…
だがこいつにはそれがまったく感じられない。まるで血に飢えた獣のようだ。
何故そうなっているのかはわからないが、これは逆にチャンスだ。
相手が本能で動いているのならば、半端に知能があるより行動が読みやすい。これなら被害を最小限に抑えつつ安全に殺せるかもしれない。
だけど今はまだそれが出来ない、炎竜の証言を聞いて急にこっちに向かうことになったので神剣…ナルの力が制御できるかわからない。
俺の身体だからこそ操れてた神剣を今変わってしまったこの身体ではたして上手く扱えるかどうか…
時間が必要だ。
グレン「……」
ロア「……?」
ロアをちらりと見る。この子にこんなことを頼もうとするなんて、あまりにも酷なのだが、ここでまともに戦えるのはもうロアしかいない。後ろの2人は満身創痍もいいとこだ。頼ることは出来ない。
ロア「…ママは遠慮しすぎです」
グレン「……!」
俺が悩んでいるとロアはそう呟いた。まるで思考を読まれたかのように的確に指摘する。
ロア「まだやることがあるですね?ならロアが時間を稼ぐです!」
グレン「…まだなんも言ってないんだけどな」
ロア「なんとなくわかったです」
グレン「そうか、なら…頼む。すぐに終わらせる」
ロア「任せるです、なんなら倒しちゃうです!」
大槌をぶんぶん振り回し、悪魔へと構える。まだ10にも満たないその歳で、これほどまでに勇敢な者は見たことがない。
頼もしい限りだ。
グレン「ナル、神力を同調させるぞ」
ナル『ほい来た!やるのだ!』
精神統一をさせ、体内の神力を神剣に流し込む。それと同時に神剣の神核からまた神力をこちらに流し込ませ循環させる。
神力も魔力と同じくそれぞれ少しずつ違う。神核から放出される神力と自分の神力を同調…簡単に言えば混ざり合わせることで神剣と同じ神力を得ることができ最大限の力を発揮させることができる。
ロアもグリフィスとの戦闘の傷は完全に癒えてはいないはずだ、早く済ませなければ。
読んでいただきありがとうございます
アカメが斬るの続き読みたいです!